●五月も半ばが過ぎたと言うに 「サクランボ食べたい。そうは思いませんか」 ――いきなり何だ。 鬼の件で一緒に仕事した某黒猫さんに毒されたか(まぁこの発言自体に彼らしさは全く無いのだけど)って勢いで謎の前振りをかます『転生ナルキッソス』成希筝子(nBNE000226)。 「いや、ほら、さくらんぼの時期じゃあないですか。で、そろそろまた忙しくなりそうな予感しますし、今の内に堪能したいなと思っただけですよ」 最初っからそう言えよ。 ●お出掛け準備しましょう 筝子によって配られた果樹園のパンフレット。 その果樹園は三高平市の高台に存在し、市内を一望出来る景観の良い場所となっている。 サクランボは基本的にもぎ取り食べ放題、つまり農園内で入場者が自由に取って食べる事が出来る。 また、果樹園にはパティスリーが隣接しており、其方では季節の果物、現在はサクランボを用いたスイーツが用意されているのだとか。 「そうそう、果樹園で取ったサクランボならお持ち帰りしても良いそうですよ」 友達、恋人、家族へのお土産にするのも良いだろう。 勿論、一緒にサクランボを楽しむも良し、だ。 「私がサクランボ食べたいって話ですけど」 あ、認めたぞ。 「それでも、どうせなら沢山の人と美味しいもの、楽しい時間を共有したいって思ったんです。世界は沢山の驚きと、ほんの少しの煌めきで出来ていると思うから」 かつて、今の自分に世界がどう映るか問われた時の、彼女の答え。 それは、今も変わっていないから。 「だから、もし興味を持って下さったなら。一緒に行きましょう」 誘い、穏やかに、笑む。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:西条智沙 | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年06月06日(水)23:14 |
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●風光る今日と言う日に 「サクランボを食べられる季節になったのですね」 赤みが掛かった橙の色を宿す実をたわわに下げる木々を見上げながら、浅倉 貴志がしみじみと呟く。 こうしてのんびり出来る時間はとても大切なものだ。ならば今日はその時間を純粋に楽しもうと思う。 パックに摘み取ったサクランボを詰めながら、その場でも一口。甘い中にも仄かに混じる酸味は旬の味。 今年も新鮮なサクランボが食べられることに感謝しつつ――貴志は、持ち帰り用のサクランボをどうするか、計画を立てていた。 砂糖漬けにしても良し。ホワイトラムに漬けて果実酒にするのも良いだろう。 またその近くでは、結城・宗一がぶらりと園内を散策していた。 道中、程良く熟れたサクランボを見つけ手にとっては、口に含み。 「……うむ、程よい甘みと酸味がうまいな」 咀嚼しながら、そう言えば茎を口の中で結べるなんて下が器用な奴もいるんだったな、なんて考えながら、ふと。 (こうして一人で散歩するのも久しぶりだな) 特別一人が楽しいという訳でも無いが、偶にはこんな日も悪くない。尤も、折角だから誰かと一緒に来たい所ではあるのだが。 ふと、思い至る。後でパティスリーに寄って、お土産のひとつふたつでも買って行こう。 帰りを待っているであろうあの人が、間違い無く喜ぶと思うから。 誰かにお土産を。そう考えた人物は他にもいる。 「今回家族で行けないのは残念ですが、またの機会に是非連れて来たいですね」 苦笑しながら、お留守番の妻と子供に思いを馳せる高木・京一。 一足先に、旬の味覚を味わって、表情を綻ばせては、家族へのお土産用も確保するべく、赤く熟れたサクランボをパックに詰めてゆく。 大切な、妻と息子と娘。その笑顔を思い浮かべ、更に笑みを深めて。 「家族で楽しみたいですからね」 甘酸っぱいサクランボの時期になった。だから存分に賞味する事としよう。 また、天風・亘も、パックに次々サクランボを詰めに掛かっていた。 (一つ採ってはお嬢様の為、もう一つ採ってはやっぱりお嬢様の為……) 執事見習いはお嬢様と仰ぐ黒き天使の為に、赤い宝石を集め続ける。 そのまま食べても、お菓子やジャムに使うのも美味しい赤い宝石。お嬢様は喜んでくれるだろうか。幸せそうな笑顔を見られるかも知れない。 「食べ方色々、お菓子を作る一人としても腕の見せ所です」 彼女を喜ばせたい。その一心で、頑張れる。 「そうだ、生産者の方にお話を伺ってみましょうか」 美味しい食べ方。それを習っておくのもひとつの手。 此方はサクランボの樹の上。 「Zzz……」 日暮 小路が布団に包まって、寝てた。 ――数時間前に遡る。 小路は矢張り布団に包まって、寝てた。 あれである、小路は動きたくない系の小路である。 「あたしにさくらんぼをくれるひとはくれるといーです。布団敷いて寝ながら待ってるのです」 ――一時間経過。 「……誰もこねーですね、リベリスタ冷たいな本当に冷たい」 通りすがるリベリスタ達を恨めしげに一瞥した後、小路は思い付く。 「仕方ねーので木に登るのです。木の上ならば手も届きやすいでしょーし、取ったついでにさくらんぼくれる人もいるでしょー」 その結果がこれだよ! ●思い思いに手に手を取って 「サクランボあまーい♪」 楽しげに園内散策しつつサクランボを頬張る鴉魔・終。見ている方も幸せになるような笑顔だ。 「いっぱいとって帰ってサクランボのタルトとか作ろうかな~♪ でも、そのまま食べた方が美味しいかな~??」 贅沢な悩みにうーんと考え込む終。悩ましげだがそれすら何処か幸せそうだ。 が、ふと知った気配を感じて目を遣ると、其処には矢張り知った顔がいた。 「サクランボ狩りだ、ひゃっふー♪」 らんらんるーと、上機嫌な戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫。 が、次の瞬間急転直下。 「……ぼっちだけどな」 体育座りしながらサクランボをもしょもしょしていた。 「いいよ、わたしなんて……サクランボじゃなくて、葉っぱでも囓ってるよ……」 舞姫さんの瞳から光が消えようとした、その時だった。 「あ、いたいた! えへへ、戦場ヶ原先ぱーい!」 「えっ、あれ、京子さん!? 今日、来られないんじゃ……」 桜田 京子の思わぬ登場に、光の戻った双眸をぱちくりさせる舞姫。 「来る予定無かったんですけど、やっぱり来ちゃいました!」 舞姫の姿を探しつつ、甘酸っぱいサクランボを味見しては、沢山摘み取ったらお土産に出来るかななんて思案しながら。 「ほら、さ、沙織さんとかに……って例えばですよ!? 例えば! ちゃんと皆に持って帰りますとも! ……ってあれ? 戦場ヶ原先輩、泣いてます? もう、寂しがりやなんですからー」 「な、泣いてなんかないですよ! ぜんぜん、寂しくないですしー?」 そんな風に言いながらも、元気を取り戻した舞姫に京子は笑みを零して。 甘くて美味しいサクランボ。それだけでも嬉しいのに、一緒に食べると、すっごく美味しい。それがもっと嬉しくて。 「ね、おいしいですよね、京子さん♪」 そんな二人の姿に、満足げににっこりと笑った終は、しかし友達同士二人の時間、笑顔のままで踵を返す。 「麗しいでござる……」 朱鷺島・雷音から後光を幻視する程鬼蔭 虎鐵はKO寸前であった。 「こ、虎鐵、届かないから持ち上げるのだ」 「らららら雷音!? もももちろんあげるでござるよ!」 雷音は虎鐵に持ち上げて貰いながら、ただサクランボが偶然届かない位置にあるだけであって決して自身が小さい訳ではない事、念入りに主張しつつ、目的のサクランボを手中に収めたのであった。 宝石のように赤く煌めくそれに雷音は瞳を輝かせ、虎鐵に向き直る。 「虎鐵、味見だぞ? 持ち上げたお礼に渡すのだ」 「雷音! あーん!! 雷音!!!」 ふたつ連なったサクランボの片方ずつをそれぞれ食べる。絶妙な甘酸っぱさが口の中に広がる。 「植物共感を利用し美味しいと聞いたのだ、間違いはない」 樹に手を当て何かを感じ取っているらしい雷音の姿にも、虎鐵めろめろ。 「雷音の写真を撮りたいでござぁ……」 恍惚の中そんな事を呟く虎鐵の傍ら、雷音はふと思い出した。 (……あ、そういえばボクは飛べるのだった) ともあれ、帰ったら二人でチェリーパイを作ろう。 御厨・夏栖斗は、源兵島 こじりを伴ってサクランボ狩りに来ていた。 「どれか欲しいのとかある? 取るよ?」 太陽をあびてるやつのほうが美味しそうだよねーと、笑う彼の笑顔が眩しい。 此方も、ふたつ連なったサクランボの片方を夏栖斗が銜えて、片方をこじりに差し出して。 こじりが片方を口に含むのを見届けると、夏栖斗は自分の分を、茎ごと呑み込んだ。 少し酸っぱいけれど、甘くて美味しい。それは互いが隣にいるからだろうか。 「今のちょいエロくね? あ、そだ!」 何やら夏栖斗が口をもごもごさせる。ややあって吐き出されたそれは、サクランボの茎。但し器用に結び目が出来ていた。 「みてみて! 特技! さくらんぼの茎を結べる! すごくね?」 クールなこじりはふぅん、と一言返すだけだけど、それすら愛おしく。 だからこれからも、歩くような速さで、夏栖斗はこじりの手を引いていく。 「次はあの木いこうぜ!」 櫻の名を冠する二人も、今日はサクランボ狩り。 「ふふっ、沢山採って帰りましょうね♪」 「はしゃぐのはいいが、踏み外してこけるなよ」 心から楽しげにはしゃいでいる様子の二階堂・櫻子に、天城・櫻霞はからかい混じりにくつくつと微かに笑む。 櫻霞がこういったイベントに参加するのは幼少の時分以来。昔を懐かしみながら、大好きな果物を満喫すべく意気揚々と軽い足取りで隣を歩く櫻子と共に歩む。 「コレを使ってお家で美味しいタルトを焼いて差し上げますぅ」 笑いかけ、籠を片手にサクランボに手を伸ばす櫻子。が、目当てのサクランボに僅か、手が届かない。本当にもう少しだし、綺麗に色付いていて美味しそうなのだが。 ふにゃ~、と気の抜けた声を漏らす櫻子。しかし、隣にいる恋人なら、自分よりも背が高い訳で。届くかも知れない訳で。 「えっと、その……あの、代わりに採ってもらってもいいですか?」 「……腕を捕まれたままだと取れないんだが」 それはそうだ。しかし折角のデート、櫻子は手を放してしまうのも惜しいようで。 櫻霞は暫く思案して――ふわりと、櫻子を抱え上げた。 「多少取り辛くても文句言うなよ」 驚き目を丸くする櫻子に微苦笑を向け、それでも櫻霞は思う。 (たまには恋人と二人でこういう場所に来るのも悪くないな) 「チェリー。呼ばれたような気が」 等とのたまう新田・快もサクランボ狩りに参加。この日はティアリア・フォン・シュッツヒェンが一緒。 「ふふ、いい天気ね。こういう日にサクランボ狩りを楽しめるのは嬉しいわね」 「どうせなら、美味しそうな実を狙って食べたいな」 日傘を差して優雅に歩くティアリアに頷いて、快は樹を見上げる。 今、つまり午前中の方が実が瑞々しく狙い目なのだとか。加えて日当たりの事を考えると、矢張り高い所に成っているものが良いように思う。 「あら、随分詳しいのね。調べてきたの?」 ティアリアがくすくすと笑む。そんな彼女に快が問う。 「脚立借りてこようか? それとも、肩車する?」 「折角だし肩車でお願いしようかしら ふふっ、変なところを触ったらダメよ?」 冗談を言って、笑い合う。 「はい、あーん♪」 摘み取ったサクランボひとつ、ティアリアは快に差し出す。 一通り楽しんだら、ベンチに腰掛け広口の瓶を取り出して。 ひとつは快に、ひとつはティアリアに。綺麗に洗ったサクランボ――ティアリア曰く、茎を取ると酒が濁ってしまうのだとか――と、氷砂糖と交互に瓶に詰めて。 最後にホワイトラムを注いで、酸味付けにレモンを加え、蓋をする。 「熟成が楽しみだわ。出来上がったら一緒に飲みましょう♪」 「飲めるようになるのは3ヶ月後くらいかな? 楽しみだね」 設楽 悠里とカルナ・ラレンティーナは、サクランボ狩りを楽しみつつも、一年前に思いを馳せていた。 「そういえば、カルナと会ってからもうちょっとで一年だね」 「ああ、もうそんなにもなるのですね」 当時は双方共にとても余裕等無かったが。だからこそこうして無事でいられたのはそれだけで喜ぶべき奇跡かも知れない。 「早いものだね。あの時はこんな関係になるなんて思いもしなかったよ」 そうですね、とカルナは微笑み返す。口にこそ出さないが、彼女も悠里という共に歩む者が出来た事に、感慨を覚えていた。 悠里がカルナの手を取り、握る。カルナも応えて、握り返した。 互いに籠める力は強い。互いに常に死地に赴くような戦いを続けているからこそ。 幸せを、繋ぎとめておく為に。 「悠里?」 「ん。何でもないよ。ただ、幸せだなーって思っただけ」 少し気恥ずかしくなって、悠里は手元の籠に目を落とした。中身は太陽の光を浴びて煌めく赤の甘い宝石が沢山。 「さ、十分取れたしそろそろ戻ろうか。帰ったらジャム作りに挑戦してみる?」 「ええ、そうですね。帰ったら一緒に作りましょう。それと、お土産を持って帰らないとうるさい子も居ますし、多めに頂いて帰りましょうか」 「あはは、そうだね。じゃあケーキでも買って帰ろうか!」 そしてこれからも、続く限りの幸せを、希う。 今日は、記念すべきプレインフェザー・オッフェンバッハ・ベルジュラックと富永・喜平の初デートの日でもあったりする。 (……好きって伝えてから、初めて二人で出かけんだよな……で、デートか) 改めて考えると矢張り気恥ずかしいものがある。加えて相手を意識する余り緊張気味のプレインフェザー。 一方の喜平はと言うと、やったらハイテンションだった。 「傍にキュートな女性、そして世界平和なんぞ考えなくていい時間。ビバ! ホリデー!! 素晴らしきかな人生!!」 彼女と一緒の時間が過ごせるだけで満足。 とは言え良い所を見せようとはしているらしく、真剣な面持ちでサクランボを吟味し始める喜平。 「熟成、赤み、大きさ等々、紅玉の園から至高の一房を探すのだよ」 尤も、その辺りは別に詳しい訳では無く、喜平のフィーリング任せなのだが。 とは言え、プレインフェザーもひとつ摘み取っては口に含むと、目を丸くした。 「サクランボはマジで美味い。ほら、富永も、口」 良いから開けろ、と。きょとんとする喜平に、以前のお返しだと言う。 連なった実の片方を、今度はプレインフェザーが、喜平へ。もうひとつを、自分の口へ。 「なんか、同じの一緒に食べてるみたいだな」 少しだけ頬を紅潮させる彼女に、喜平はニッと嬉しそうに笑って。 「最高に美味い」 感想は唯ひとつ、それだけ。だからこそ、ストレートに伝わる。 プレンフェザーは戸惑いつつも、ぽつりぽつりと言葉を紡ぐ。 「……こんな事すんの、あんたにだけだぜ。だから、もっと色々、一緒に……出来たら、イイな」 それはきっと、これからの物語。 (まだ照れるけど、一緒に居られるとやっぱり嬉しいし、幸せ) 「虫は居ないと思うッスけど、すっとするッスね」 「少しすっとしますが、念の為です」 氷河・凛子の持参した虫除けスプレーを浴びるのはリル・リトル・リトル。 スプレーを済ませたら、いざ、サクランボ狩りへ! 「さくらんぼは、たしか色鮮やかで軸が緑のがいいんスよ。バナナと違って斑点のあるやつは避けるッス。これとか、どうッスかね?」 「リルさんはこういうのは詳しいのですね……あら、美味しいです」 アドバイスを聞きながら、摘んで貰ったサクランボを口に運べば、凜子が微笑む。 「こっちはどうッスか?」 「んっ、これは酸っぱいです」 今度はちょっと眉を顰めて苦笑する。凛子の表情がころころと変わってゆくのが、リルには楽しい。 「ほっぺもさくらんぼみたいッス」 ちょっとした悪戯心で、頬をふにふに。 「……ええ、まあ」 流石に少し照れるのか、困ったようにはにかむ凛子。 ふと見れば、既に日も高い。 「そろそろ昼食にしましょうか」 そう言ってベンチに腰掛けた凛子が差し出したのは、紅茶の入った魔法瓶と、フルーツサンドのバスケット。 「苺や桃を使ったものです。フルーツづくめになりますが良ければ」 「無問題ッスよ。頂くッス!」 そして今日の日の思い出は――籠一杯のサクランボ。 「食べ頃は2日後くらいッスね。冷やしておくといいんスよ」 「ふふ、後日また一緒に頂きましょうね」 「佐藤錦の、ふっくらした実が鈴なりの木の下で戦闘開始なのです」 研ぎ澄まされた美味しいものへの勘をフル活用。そんなニニギア・ドオレについてきたのはランディ・益母。気合の入った恋人の姿に僅かに笑みを見せる。 と、ニニギアがターゲット確認! が、ちょっと届かない様子。かと言って羽ばたくには枝が少々邪魔だ。 「そしたら俺が乗せてやるから……よっ、と」 ランディがニニギアを肩車。彼の頭にぎゅっと掴まりハント開始! 赤く熟した実の数々を、自分と、ランディの口へ。 「ん、これなら美味しいモンも作れそうだな、楽しみにしときな」 「ふふ。あ、重くない?」 頭を撫でられながら、問われれば、ランディは少し考えて。 「そうだな、普段食べてる量よりは軽いんじゃないか?」 撫で撫で後ちょっぷ。 「って痛て、重いって言ってねーだろ!」 それは兎も角、サクランボ狩り再開。 「あまーい。味が濃くておいしいね」 幸せそうなニニギアは、本当に嬉しそうに声を上げる。 「あんまり取りすぎるなよー? 木が裸になったら可哀想だろ?」 「私たちが目をつけた木は、実がすっからかんになるです」 「帰ったらたっぷりパイとタルト作ってやるからさ、そんなに焦るなって」 「あ、こっちは酸味が強めだから、持って帰って、パイやタルトにしたらきっとおいしいよね、ね」 はしゃぐニニギアが満足した頃を見計らって下ろしてやると、今度はランディが彼女の頭を撫でる。 それから肩を抱いて、帰ったら一緒にお菓子作りだと、笑い合う。 ●酸いも甘いも噛み分けて 「さあ、持ってきなさい。アイス、ゼリー、パイ。色々あるけれど、どれもこれもそれぞれの美味しさがあるんだから」 甘いものは別腹とは言うけれど、その全部を通常の腹に収めて見せようと、覚悟完了済の雪村・有紗。 濃い味のアメリカンチェリーと整った味のさくらんぼでは随分趣きが違う。 そして調理方法によっても味わいは変わる。共通しているのは素材の味を生かす事でより優れた味になる事。 だから、それをしっかり味わおうと思う。 自然に感謝し、調理してくれる人々に感謝し。 (こうして食べられることに感謝をしながらね) それは当たり前に感じられる事だけど、その実とても有難い事だから。 一つ一つしっかり味わって、舌が冷えたら紅茶で整えて。ひたすら食べ続けよう。 「まずは一通り全てのスイーツを頂こう。やはり一番手はチェリーパイだろうか」 此方も全制覇にやる気を見せるアルトリア・ロード・バルトロメイ。 パイの、甘みと酸味の調和を楽しみながら、次はタルト。此方も彼女の口に合ったようで、食べるスピードは緩まない。 そんな中、スイーツによってはアメリカンチェリーで作られているものがある事にも気付く。メニュー表に書いてあるようだ。 中にはサクランボ、アメリカンチェリーを選べるものもあって、では食べ比べてみようかと、更に意気込む。 (日本のサクランボも美味だが、アメリカンチェリーもまた美味いからな) それぞれに違う美味しさがあって、それを食べ分けるのも楽しい事だから。 食べる事を、精一杯楽しもう。 (どれも美味くて目移りするな。次々と入ってしまうな) 「目覚めてからというもの、境遇や体のせいで仕事に就けず、路頭に迷うところを已む無く宿敵であるアークに身分を隠し保護される道を選んだが……」 パンフレットを握り締め、身を震わせながら呟くシェリー・D・モーガン。 「来てそうそう、このようなイベントがあるとは、良いところだなアーク!」 ぐっと握り拳。同時にぐうと、腹の虫。 そして店内に漂うスイーツの香りに、不敵に笑む。 「ふん、匂ってきおる、妾を挑発するスイーツどもの香気が、余すことなく喰らい尽くしてくれるわ」 魔王のようなセリフを口走りつつ、矢張り狙うは全制覇! 「一週間分は食い貯めねばな。なに、妾の胃は伸縮自在だ」 まずは運ばれてきたタルトを素手で掴むと思いっ切り豪快に頬張った。 その手捌きは疾風迅雷、獅子奮迅! 「終宴まで妾は食べるのをやめない!」 「いっそのことパティスリーの今日のお勧めというものがございましたら、そちらにしましょう」 メニュー表と睨めっこしたが決め切れなかった小鳥遊・茉莉は、お勧めならば味の方も大丈夫だろうと踏んで、そのように注文した。 そもそもお勧めというものは、大抵特に決まっていないお客を誘導するために用意されているもの。 (新鮮な果肉をそのまま楽しむのもいいですが、こうして他のものと合わせてスイーツにするパティスリーのセンスと努力。どんなものか今から楽しみです) さあ、何が出て来るだろう? 想像を巡らせ、待つのもまた楽しい。 待つ事暫し、運ばれてきたのはアメリカンチェリーのミルフィーユ。と言ってもパイ生地でアメリカンチェリーと生クリームを挟んだものだ。 その味を確かめるべく、茉莉はフォークを手に取った。 (人生は時には甘く、時には辛く。そんな波のあるものですが、たまには自分へのご褒美を) 日々アークから寄せられた依頼を熟す。痛い目に遭う事も、辛い思いをする事も、少なくない。 だからこそこうして、心を潤す時間は必要だと、思うのだ。 そんな彼が頼んだのも、今日のお勧め。アメリカンチェリーのミルフィーユが運ばれてくる。 その甘味を優雅に楽しみ、食後にフレーバーティーの味と香気を楽しむ。 明日への活力を補充して、次の仕事も頑張ろう。 元より小食なジョン・ドーが、食べ放題より此方を選んだのは道理であっただろう。 「フレーバーティーが楽しめるということなので、それは是非いただきたいですね」 それから少し考えて、一緒にパイを注文する。 待つ間、考える。フレーバーティーの味はどう調節するか。パイの甘味次第ではある。 パイの甘さが控えめで、砂糖を入れるにしても、香気を削ぐわないように、少なめに。 そんな事を考えるだけでも、待つ時間はどんどん過ぎてゆく。 やがて運ばれてくるフレーバーティーの香りに、ジョンは少しだけ表情を和らげた。 (女の子はいつも甘いものを求めているのですよ) うきうきと入店する石動 麻衣の出立と無邪気な挙動は、あどけない少女のよう。 「どれにするか迷いますね。新鮮さを生かしたものなら何でも良いですが……」 メニュー表を暫しじいっと見つめて、クレープなんて良いですねと、軽く手を叩く。 一緒に頼むフレーバーティーは、香りを最大限に楽しむ為に砂糖は入れない心算だ。 そしてやがて目の前に置かれたそれに笑顔を零した後、しっかりと目の前に両手を合わせた。 「さて、いただきます」 楽しみにしていた甘味を口に運ぶ時は胸躍るもの。彼女とて例外ではなく、期待に胸高鳴らせながら、口を開いた。 ●仲良き事は美しきかな そのテーブルの前に並ぶはこの店の一通りのスイーツ。注文したのは何とモニカ・アウステルハム・大御堂。 正面には鈴宮・慧架がいて、フレーバーティーに相性の良い紅茶等選別したり、フレーバーの配合比率を調整したりしていた。 慧架は紅茶喫茶店の店長。モニカが彼女と共に此処を訪れたのも、紅茶の請けに良さそうだからという事。 「ダージリンのファーストフラッシュですか」 「ええ、透明感のある香りですし甘いスイーツとは相性がいいと思います」 そうして彼女が直々に配合した紅茶と共にスイーツを賞味。 「はい、モニカさん、あーん」 慧架からスプーンに掬ったアイスを差し出され、モニカが食む。 「そうだ、他の人にも振舞っちゃいましょう」 持参したポットに紅茶を詰めて、楽しげに慧架は立ち上がる。 その慧架の姿を、モニカは見送りながら、呟いた。 「チェリーを変な意味で捉えているDTは放っておいて、今日はまったり過ごしましょう」 ――誰とは言うまい。 何時もよりオシャレに気合を入れて。 ちょっとだけ、薄く口紅をさして。 レイチェル・ガーネットは、片想い中の彼――翡翠 夜鷹と初デート。 柔らかな日差しが注ぐテラスでふたり、向かい合って座る。 パフェを口に運ぶレイチェルを、夜鷹はフレーバーティーを飲みつつ見つめてくるものだから、少し気恥ずかしくなり、問う。 「夜鷹さんは何か食べないんですか?」 「レイの食べている姿が可愛いから、眺めているだけでもお腹いっぱいになってしまうね」 夜鷹の言葉に照れながら、そっけなく返事を返しても、彼は矢張り楽しそう。 「せっかくですし、おひとつどうぞ」 パフェに乗ったサクランボ、ひとつ茎を抓んで差し出す。 「おや、くれるのかい?」 あーんと口を開けて、頬張る夜鷹はゆっくりと咀嚼しながら、不意に切り出す。 「そういえば、レイはさくらんぼの枝を上手く結べるかな?」 「……夜鷹さんはどうなんですか?」 反撃のつもりの問い返しに、けれど夜鷹は笑みを深めるだけ。 意味深な微笑みと未だ終らぬ咀嚼に、レイチェルの視線は夜鷹の唇へ。 自分のを想像を悟ってしまったレイチェルは、顔が火になったような錯覚を覚える。それすら、彼の思惑通りだろうか。 「ふふふ、さあ、どうかな?」 悪戯っぽく出された夜鷹の舌の上には結び目の出来たサクランボの茎。 「……してみるかい?」 「……からかわないで、ください」 精一杯、そっぽを向いて強がるレイチェルの頭を、優しく夜鷹が撫でる。 「ふふ、冗談だよ」 「パイにタルト、アイスにクレープ、ロールケーキ……今から食べられるのですね!」 期待に声のトーンを若干上げるミリィ・トムソン。今日は焦燥院 フツの誘いでチャイカ・ユーリエヴナ・テレシコワと三人でスイーツ三昧を楽しむ事になっているのだ! 「折角だから、色々あるスイーツの中で、オススメなのがいいネ」 フツが唸れば、ミリィのチョイスで手始めにロールケーキを注文する事に。 運ばれてきたそれは仄かな甘い香りと絶妙な焼き加減で、三人共自然と笑みを零した、のだが。 次の瞬間、何故かチャイカの席の前で立ち上がってるノートパソコン。 「チェリー、和名で言うとサクランボや桜桃と呼ばれていますね。その名の通りサクラの亜種で、種としてはむしろこちらの方がメジャーなんですよ」 自作の図や資料をふんだんに盛り込んだパワーポイントを用い、サクランボについての薀蓄を語り始めるチャイカ。 天才少女と称されるチャイカにとってこの程度は朝飯前。話も面白く興味深い、のだが。 「桜桃は自分だけでは受粉出来ず他品種と交配し……」 (全然食べてないじゃねーか!) (……フツさん、お願いします) ミリィはフツに合図。フツも心得たとばかりに、ミリィが切り分けそっと手渡してきたロールケーキを手にスタンバイ。 「ちなみに日本では山形県が物凄く突出した生産量を……わふっ!?」 チャイカの口の中にロールケーキ一口、イン。 「話は後にして、まずは食ってみろよ。すげえウマイぜ!」 「こんな時くらいスイーツを楽しまないとスイーツの神様に怒られます、きっと」 そんな二人に、しかしチャイカは怒るでもなく苦笑して。 「もー、仕方ないですねー。それじゃあ私もいただきますっ!」 「おう! そうだ、独りで寂しそうな人がいたら誘ってみるか!」 皆で和気藹々、楽しい食べ放題の始まりだ! ●絆紡がれる時 「体重計との相談は既に済んでいますので大丈夫。食べ過ぎなければ大丈夫。もう覚悟を決めたから大丈夫」 呪文のように繰り返す村上 真琴。今月は何とか色々我慢していた。依頼やら何やらで運動もしているし、これからも戦いは続くのだ。大丈夫だ問題無い。 とは思うものの矢張り一品に抑えておこう、と心に決めて。 「あ」 視界に入ってきたのは、筝子。手元を見ればチェリータルト。 真琴もタルトをオーダー。その後は長く感じられる、待ち時間。けれど、だからこそ、味わって食べようと、そう思う。 そして運ばれてきたチェリータルトは口に運べば待った甲斐あって、とても美味しく感じられた。 フレーバーティーはタルトの甘みをそのままに、砂糖を入れずに口に含んだ。 美味しいものを食べられるこの時間を、楽しもう。 「筝子も一緒に食べよう! うひょー! はい、あーん!」 結城 竜一に差し出されたタルト一口を、筝子は苦笑しつつ頂いていた。 「美味しいですね」 「ん! 俺もタルト大好き! ……あ、緑にロゼたんもいるのか」 「お、りゅーいっちゃんじゃん」 「その節は兄共々お世話になりました」 元裏野部の宇宙緑と、その義妹のロゼ・リュミエルがいた。 「よしよし、ロゼたんも一緒に食べようね! はい、あーん!」 「有難う。頂きます」 ロゼも差し出されたタルト一口、ぱくり。彼女の背後にやたらいい笑顔で立ってる緑。 「楽しそうだねえ?」 「あ、男は一人で寂しく食ってな!」 火花散ってる――と思いきや、唐突に竜一がものっそい勢いで起立した。 「とかいっても、結局、緑はロゼたんに構ってもらえるんだろうなあああああああ!」 ごろごろし出した竜一に緑がけらけら笑う。 「いや、ここは、縁にあれだな。お兄ちゃんっぷりで対抗すべきだな。よし、筝子たんを甘やかしたり可愛がったりして挑もう」 何か隣にいた筝子を捕まえて思いっ切り過保護兄と化し始めた。 相変わらず緑は笑ってるし、ロゼは茫然としているし、筝子は適当にあしらっていたのだが、この時三人の思いは奇跡的に一致していた。 ――他にやってやるべき相手がいるだろう、と。 「お言葉に甘えて、お邪魔しますね」 筝子、そして緑とロゼを誘ったのは、エリス・トワイニングだった。 是非一緒に、と。 「エリスは……アイスを……頼む」 甘味の調整。そして口の中に広がる甘味と香り。是非ともそれを楽しみたいと思っていた。 「じゃあ、私もそれで」 決めかねていたらしいロゼもエリスに倣う。緑はクレープを頼んでいた。 「……今の暮らし……慣れた……?」 エリスの問いに、緑とロゼは、それが己に向けられたものと気付き、目を丸くする。が、まず緑がにこりと笑った。 「俺は元がアレだからどーしても監視付だけどねえ。こーゆーイベントもあるし、楽しいよ」 「そうですね、兄さんも私自身も、良くして頂いていると思います」 「……良かった。緑さん……頑張って……ね」 その調子なら、緑の監視もきっと近い内に解けるから。 「ありがと」 にこり、緑が笑う。ロゼも、釣られて微かに笑う。 「エリスさんは、優しいですね」 筝子の言葉に、三人の心に少し近付けたような気がした。 「やぁ、しばらくぶりだね」 独りでフレーバーティーを手に休憩していた筝子は、その声の主を認めて微笑んだ。 「クルトさん」 「同席させて貰っても良いかな?」 「ええ、どうぞ」 彼女と向かい合う形で座るクルト・ノインの手にもまた、フレーバーティー。パイも頼んだようだが、其方は紅茶請けといった感じだ。 紅茶好きとしては矢張り見逃してはおけないのだろう。最低二杯は飲むつもりだと、穏やかな笑みと共にそう言った。 「髪を切ったと聞いてはいたけど、結構印象変ったね」 腰辺りまであった髪は、今は首の半ば辺り。前髪も片目を隠してしまっていたけど、それもすっきりさせたよう。 「あぁ、今のも、似合ってると思うよ」 「有難うございます」 筝子は良く笑うようになったと思う。あの時手を差し伸べられて良かったと、クルトはしみじみと回顧した。 「随分とアークと三高平に慣れたみたいで、たまにオペレーターの仕事を手伝ってると小耳に挟んだよ。最近聞いた話だとアザーバイドが同時に現れた時に手伝っていたとか……」 「!!!」 何気無い言葉に筝子は紅茶を吹き出しかけ、寸での所で堪えたものの噎せた。 「だ、大丈夫かい?」 「な、何とか……」 全然大丈夫じゃあなさそうだけど、との一言は藪蛇な気がして、言えなかった。 「さくらんぼスイーツ! パティシエの腕が生きてやがるぜ!」 スイーツの数々に、宝物を見つけた子供のようにはしゃぐ桜小路・静。 「……うむ、視界にさくらんぼを使ったスイーツなどが大量だな」 彼の隣で腕を組み、考え込むのは新城・拓真だ。どれが良いだろうか、と静に視線を送る。 「ダークビターと摘みたてチェリーのバニラアイス添えはどうだろ? 飽きずに食えると思うぜ♪」 「……では、それを頂くとするか。済まんな、任せてしまって」 そして席に向かう途中、二人は筝子の姿を見つけて、彼女の下へ。今は残りのタルトを消費しているようだ。 「……随分と美味しそうに食べているな、こんにちは」 「新城さん、桜小路さん。こんにちは」 「この季節のさくらんぼってほんと美味いよな、成希さんはどんなものが好き?」 「そうですね、今食べてるようなものもですけど、シンプルにゼリーで包んだりなのも良いですね」 「今度、静の作る物も食べてみると良い、あれは美味しいぞ」 「今日のスイーツを参考に、オレも腕を振るっちゃうぜ」 「わあ、楽しみです!」 こうして笑って話が出来るのが、楽しい。その気持ちは、確かに伝染する。 「最近は、中々滅多に食べられないからな。こういった時に、他人を巻き込んでおけば保証されるだろう?」 「こういう気分転換もいいよなあ、また一緒に来ようぜ!」 三人、顔を見合わせて、微笑んだ。 「んで、氷璃。本当はさおりんと来たかったのじゃろう?」 「本当はね。でもまあ、良いわ」 それはまた別の機会に。楽しみは今は取っておく。今日は今日で楽しもう。 そう、今日は宵咲 瑠琵と宵咲 氷璃の二人でパティスリーを訪れていた。 「ところでパティスリーってよく聞くのじゃが、どんな意味かぇ?」 「pâtisserie、フランス語でお菓子の総称――元々は粉類を生地にしてオーブンで焼くもの、甘いものやデザートの分野を指す言葉よ。今ではお菓子作りの技術全般を指す言葉でお菓子屋さんそのものを表す言葉でもあるわ」 とか言ってたら半分以上聞き流してるっぽい瑠琵が自分の分のタルトに手を伸ばしてくるので、氷璃は無言で叩き落としておいた。 「で、結局、お菓子やお菓子屋さんと言う意味で良いのかぇ?」 「まぁ、理解が早くて助かるわ」 大まかに伝われば十分だと思っていたがこうもあっさり纏めて下さったので呆れながら溜息を吐く氷璃。瑠琵は、異文化なら尚更言葉なんて意味さえ通じれば良いのだと、笑った。 取り敢えず説明で喉が乾いた氷璃がフレーバーティーで唇を湿らせている一方、瑠琵は氷璃のタルトに手を伸ばした辺りで判るように、既に自分のタルトを平らげてしまったようで。 「んーむ、ちと物足りぬ。次はパイかクレープか……筝子はどう思う」 「私ですか?」 近くでタルトの残りの一つを胃に収めたと思しき筝子の姿に、瑠琵が声を掛けた。 「濃厚なものの後ですからクレープ……かな?」 「ふむ」 クレープを待つ間――瑠琵は筝子にこんな質問を。 「青いのとは如何言う関係なのじゃ?」 「どういう、と言う程の関係でもありませんが……素敵な人だとは思いますよ」 お、意外に好印象? 「色んな意味で」 ――前言撤回。どういう意味だ。 「うーん、美味しいですねー」 口に含んだアイスをしっかりと味わいながら、山田 茅根はその目を細めた。 特に大好きなアイス。あの冷たくて甘い味を知ったら病み付きになると言うものだ。つくづくあれは良いと思う。 「……あ。緑さん、ロゼさん」 最近アークに参入した義兄妹の噂は、彼女の耳にも届く所となっていた。 「や。はじめまして、だよねー?」 「はい、どうもこんにちは、私は山田茅根です。茅根さんですよ」 食べます? と先程採ってきたと言うサクランボを、二人に手渡す。フライエンジェの面目躍如だ。 「美味しくて良いですよねー」 「そうですね、偶には良いものです」 お堅そうなロゼだが、今日は自分なりにリラックスしているようだ。 「そうそう、こんな話を知っていますか? さくらんぼの茎を舌で結べる人は、キスが上手いらしいですよ?」 「そう、なのですか」 この手の話には縁遠いのか、ロゼが難しそうな顔をする傍ら、緑が挙手。 「俺出来るよー」 「え!」 「ロゼさんも試してみるのも面白いのではないでしょうか」 言われるままに挑戦するも、上手く出来ない。 「あはは、ロゼにはまだ早いね」 「納得いかない……」 そんな二人の姿に、茅根は微笑んで。 「歓迎いたしますよ、縁さんロゼさん。お二人が素敵な日々を送られるよう願っていますね」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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