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【蜘蛛の糸】君に捧げるヒーローソング~悪の敵~

●フィクサード尋問
 ――話す事なんてないぜ? 俺らのような金で雇われる傭兵は情報なんて持たないもんさ。
 考えてもみろ。捕まった時に情報があれば、拷問されるわ口封じされるわで良い事なんてないのさ。
 簡単に切り捨てれる。だから使われる。世の中ってそういうもんよ。

 ――はいはい、知ってる事はなんでも喋るさ。
 そうだな。雇い主は蜘蛛の仮面の野郎だ。薄気味悪い野郎で神出鬼没。
 俺らみたいなのを雇う傍ら、エリューションに覚醒したやつを見つけては唆すのさ……アーティファクトを使わせる為にな。
 理由? 知らねぇよ。金払いさえ良ければ関係ないね。まぁあいつ自身は有能な窓口ってやつだろうな。

 ――ん? なんだ知らなかったのか。あいつは企業勤めだよ。
 詳しくは知らねぇよ。俺が知ってるのは奴が『企業』と呼ばれる組織の営業だと言う事と、『ミスター・ナビゲーター』と名乗っている事。それから口癖が確か……


●悪党の賛歌
「では商談を始めましょうか」
 その場を簡単に説明するならば、『悪党のアジト』となるだろう。倉庫を改造したそこは武器が入れられた木箱が無造作に積み上げられ、タバコと酒の匂いが充満する。
 テーブルにはばら撒かれた札束の山。下卑た男達の笑い声の中で、よく通る声を発したのはスーツ姿の男だ。もっとも、左右の肩と脇から生えるだらしなく垂れ下がった余分な袖のスーツを着ていてはビジネスマンには程遠い。八つの目を持つ仮面も含めてだ。
「おう! アンタの持ち込む武器にはいつも助かってるぜ! ホントアンタにゃ感謝してるよ!」
 長髪で貫禄のある男がこのグループのリーダーだろう。札束をかき集めケースに詰めると、それをスーツの男に渡す。
「確かに。それでは人数分のナイフ、お渡ししましたよ」
「早朝にはやるからよ。また朝アジトに来てくれ。残りを渡すよ」

 頷き、仮面の男は立ち去っていく。去っていくその姿を、部下が気味悪そうに眺めていた。
「そんな顔すんなって。へへ、それにしてもすごいナイフだぜ」
 言って男がナイフを壁に振る。すると、音もなくコンクリートの壁がバターのように裂けていった。
 こりゃあなんでもできる。神や悪魔にでもなった気分だ――大笑いがアジトに響く。
 彼らは気づいていない。ナイフを振るう自分達が、すでに人を離れていっていることを。


●悪の敵
「喜べ、単純じゃない悪党退治だよ」
 『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)はそんな発言をリベリスタに向けた。
 意味がわからんという声を手で制し、まずは順番に説明しようとフォーチュナはウィンク一つ。
 これまでに蜘蛛を象ったアーティファクト事件は三度起こっている。
 その三度目の事件で捕らえた仮面の男の偽者……雇われフィクサードから得た情報。豊富とはいかないが蜘蛛の足を掴めた結果だ。
「この情報を元に掴んだのがさっきの話さ」
 ナビゲーターの商談。『企業』というからには利益を求めているということか。得意先がこの程度の小物なら、『企業』も大したことはなさそうだが。
「単純じゃないと言ったろう? 話を戻そう。悪党達は強盗の常習グループ。大小と規模は変わるが、銀行を襲って人を殺したこともある」
 完全な悪党。その時は一般人である為アークで動くことはなかったが。
「だが今回やつらはアーティファクトのナイフを使い、気づかれずに大金を奪う。これは確定した未来だ」
 無理に運命を変えれば人に被害が出る。大人しく奪わせ、後をつけてアジトを襲いアーティファクトを回収してくれと伸暁。

「アーティファクトの回収が任務か。犯人はどうする」
「ノーフェイスは討伐する必要があるな」
 リベリスタの疑問を制し、伸暁はまだ話があると続ける。
「今まで押収したアーティファクト。どれもとても強力な物だが、致命的な欠陥が見つかっている」
 『ラビリンス・ラビリンス』――持ち主の心を望む世界に送ると言われるそれは、取り込まれた者の不安や悩みを具現化し入った者の精神を閉じ込め衰弱させる。段階が進めばより無差別に人を捕らえるようになる危険な力だ。
 『ソウル・リリース』――殺した相手をE・フォースに変えてストックするそれは、力を上回る数を取り込むと暴走し持ち主を殺す。その時、よりフェイズを高めたE・フォースが世に解き放たれることになる。
 『アンロック・コール』――人を操るリモコンであるそれは、少しずつ自身にも及ぶことがわかった。誰かの死を望む一種の気の迷いが、アーティファクトを通じて徐々に自分自身の強い望みとなっていく。
「欠陥はもう一つ。このアーティファクトのどれもが、使用にフェイトを消耗することがわかっている」
「……つまり」
 リベリスタの言葉に頷く。
「ナイフを装着した犯人達は、すでにノーフェイスと化しているんだ」

「単純じゃない、か。なるほどな。ナビゲイターにとってこいつらは客ではないわけだ」
「金目的ではないだろうな。金はついで。本来の目的は別だろう」
 それが何かはわからない。『企業』の正体も目的も。
「わかっていることは、ナビゲイターがアーティファクトをばら撒いていること。そして前回のように、それを回収しようとしていることだ」
 ならばそれを邪魔しよう。
 実力の程がわからない以上、ナビゲイターを相手するのは得策ではない。それでも、妨害くらいは出来るだろう。

「強盗犯はリーダーがフェイズ2、それ以外はフェイズ1だ。ただし10人いる。なにより、全員がアーティファクトを持っていることを忘れるなよ」
 彼らは本来体力が高いだけの弱いノーフェイス。しかし強力なナイフは彼らに凄まじい火力を与えている。
「こいつらに苦戦していればナビゲイターが到着してしまうだろう。数を減らす前に来てしまえば討伐は困難になるぞ」
 ナビゲイターの目的はナイフの回収。積極的に戦うつもりはないようだが、ナイフを奪わせない以上は攻撃を受けるだろう。
「ノーフェイスさえ全滅させればナビゲイターは諦める。ナビゲイターの相手は無理をせず、ノーフェイス討伐を優先してくれ」
 速攻と防衛。反する力を使いこなすのだ。
「戦い自体は単純なものさ。頼んだぜ、悪党を倒すヒーロー達」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:BRN-D  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年06月06日(水)00:10
●成功条件
 ノーフェイスの全滅。
 すべてのナイフの奪取または破壊。

●失敗条件
 ナイフの回収失敗。(ナビゲイターの逃亡は依頼の成否に関わりません)

●場所
 人の寄り付かない港の倉庫です。車で逃げる彼らの後をつけるのは難かしくないでしょう。犯人達以外に人はいません。時間がかかると途中でナビゲイターが到着します。
 入り口は一つで、窓はありますが封鎖されています。犯人は全員中にいます。

●アーティファクト
 『キレルナイフ』:どんなものにも威力を発揮するナイフです。物理防御を無視します。しかし代償は大きく、使用することでフェイトを失っていきます。エリューションではなかった犯人達はすでにノーフェイスとなっています。
  耐久に優れ、破壊するにはかなりの攻撃を集中させる必要があります。本人を倒す以上の苦労になります。

●敵
 犯人グループ:10名のノーフェイスです。リーダーはフェイズ2。部下はフェイズ1ですが、強力なナイフのアーティファクトを所持しています。破壊力だけなら一流のリベリスタ並でしょう。
  半分は木箱などに隠れており、遮蔽を利用しています。

 ミスター・ナビゲイター:蜘蛛のアーティファクト事件を起こす仮面の男。『企業』の営業ということですが、目的は不明です。彼は到着後すぐにナイフの回収をし撤退します。
  彼自身は戦闘を望んではいないようですが、ナイフ回収を阻止しようとすれば攻撃を行うでしょう。しかし犯人達が全滅すれば諦めて撤退します。うまくすれば多少の情報は得られるでしょう。
  能力は不明ですが、かなりの実力者であると予測されます。

●補足
 蜘蛛の糸シリーズとしては四作目。【】は今回から付きます。
 過去作品としては『ラビリンス・ラビリンス ~音をなくしたミノタウロス~』、『World is Mine ~無邪気な笑顔のプリンセス~』、『糸の境界線 ~地獄を抜けた先~』がシリーズになります。
 犯人達はノーフェイスになっていますので討伐が必要です。
 行動結果が同時進行する『【蜘蛛の糸】君に届けるヒーローソング~正義の敵~』と多少リンクします。
 それではご参加お待ちしております。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
クロスイージス
御剣・カーラ・慧美(BNE001056)
プロアデプト
柚木 キリエ(BNE002649)
スターサジタリー
ブレス・ダブルクロス(BNE003169)
インヤンマスター
高木・京一(BNE003179)
★MVP
インヤンマスター
小雪・綺沙羅(BNE003284)
クリミナルスタア
禍原 福松(BNE003517)
スターサジタリー
ドーラ・F・ハルトマン(BNE003704)
レイザータクト
ミリィ・トムソン(BNE003772)

●悪党は力を手にする
 大金を積まれた車内に馬鹿笑いが響き渡る。
「なんて楽な仕事だ! こりゃあナイフ様々だぜ!」
 彼らは気づかない。自分達を尾行する車の存在に――


 少し距離を置き強盗犯を追跡する4WDの車内で――
 (オレもクリミナルスタアなんぞやってる関係上、強盗やらを強く責められる立場ではない)
 助手席に座る『糾える縄』禍原 福松(BNE003517)が思考に耽っていた。
 けれど。奪い、殺す、根っからの悪党連中。福松と彼らは大きく違う。
 ――人の理を外れるならば相応の覚悟をして貰う。知らぬ存ぜぬで逃げおおせると思うなよ。
 そうして彼は、タバコの代わりに棒つきのキャンディーを取り出し、咥えた。
「ミスターナビゲーターは一体どういう意図で、こういう事件を引き起こすのでしょう」
 呟きは独りごちたもの。『子煩悩パパ』高木・京一(BNE003179)もまた思案に耽る。
 彼の目的は何なのか。今回の任務は犯人グループの討伐とナイフの回収、蜘蛛の糸を掴むことは必要な任務ではない。
 それでも――ナイフの回収によって何らかの事態がわかるかもしれない。ならばやれるだけのことはやるべきだ。

 助手席の福松、後部座席の京一を見やって、4WDを運転する『さすらいの遊び人』ブレス・ダブルクロス(BNE003169)は深い溜息を吐いた。
 日頃から女の子好きを公言している。多少若すぎる感もあるが、今回も可愛い女の子はいっぱいいた。
 ――じゃあなんで、俺の車には男ばっかり詰まってるんだ?
 車を出すと決まった時、ブレスは女の子に密着するというささやかな楽しみを抱いたものだったが……夢は散々にぶち壊された。酷い話だ。
 もっとも全員が男というわけではない。4人ずつに別れた時点で一人は女の子が乗るのだ。ブレスがバックミラーを確認したそこには――
 ちょっと弱弱しい印象の、長い髪を下ろしうつむく眼鏡の女性。一瞬目があって、女性は更にうつむいてしまった。
 バックミラーから目線を外す。心に疑問は抱いたままに。
 ――誰だっけ?


 港の倉庫。いわゆる悪党のアジト。強盗グループはすでに中でくつろいでいるだろう。
 中の感情を読み取り、『K2』小雪・綺沙羅(BNE003284)はその数を確認する。10人ちょうど、ナビゲーターはまだいない。
 仲間に合図しながら綺沙羅は考える。
 ――金が目的では無いらしいし、企業の目的は何なのか。
 アーティファクトをばら撒き、フェイトを失わせ……フェイトを収集する為の物?
 ありえない話じゃない。神秘界隈でフェイトを必要としない人間はいないのだから。
 ――そんなことが可能なら、だけど。

 勢い良く倉庫の扉が開けられた。薄暗い内部を強く照らしたのは入り口に向けて設置された4WDのヘッドライト。もう一人のドライバーであった『不機嫌な振り子時計』柚木 キリエ(BNE002649)の提案だ。
 突入したキリエが素早く視線を巡らせる。見える範囲に5人。多くが慌てふためく中、素早く遮蔽に隠れた長髪がリーダーか。後の連中は……
「左奥に二人、右奥に一人。右手前の荷物の陰の二人はこっちに回り込もうとしてる」
 的確に綺沙羅が犯人達の感情を読み取り報告する。それに頷き、キリエはダガーを構え抑揚なく告げた。
「こんにちは、アークです」
 反応を見る。怪訝な様子で怒号を上げる男達に、キリエは小さく眉を動かした。
 (……神秘世界の住民じゃない?)
 神秘に精通する者ならまずその名を知っているだろう。とすると、彼らはナイフによって一般人から直接ノーフェイス化したことになる。
 どういうことか。ナビゲーターはエリューションとして覚醒した者を獲物としているはずだ。
 ――ならば。
「彼らは獲物ですらないということか」
 息を吐く。企業。連想するのは死の商人。
 さてその目的は――呟きは、自身が放つ風を切り振り回される気糸に呑み込まれた。

「外道が人外に堕ちるたー面白ぇ皮肉じゃねぇか。遠慮なく殺らせて貰うぜ」
 ついで突入したブレスが汎用機関銃Crimson roarを抜き放つ。
 積み上げられた木箱と前に立つ犯人達が邪魔をし、後列の敵は狙いづらい。
 だがそれがどうした。機関銃の乱射はそれを物ともせず、後列を含んだ見える敵を撃ちぬいていった。
 乱戦上等。幾つもの戦場を渡り歩いた彼にはこの程度の状況は幾度も経験済なのだ。
「さあ全員蜂の巣にすっぜ!」


 ――悪人善人区別なくアーティファクトを手渡すナビゲーター。
 垂らす糸は救いではなく、破滅への片道切符。
 企業の全てを把握することは叶わない。それでも。
「企みだけはこの手で阻止して見せましょう」
 それがきっと、次へと続く一手になる。『戦奏者』ミリィ・トムソン(BNE003772)は入り口に陣取り全体を見渡した。
 情報を整理し今やるべき一手を模索する。それらの積み重ねが、最善を生み出すのだから。
「任務開始。さぁ、戦場を奏でましょう」
 それは誰かの為に。


●悪党は力に踊る
「来るぞっ!」
 ミリィと共に入り口を封鎖して銃撃を開始していた福松。その観察眼が敵の呼吸を見逃さなかった。
 正面の5人。左奥から2人。隠れたリーダーとミリィの閃光弾で動きを止めた2人を除く、全ての敵が一気に飛び出した。
「――っ、数が多い」
 前方を支えるのはキリエとブレス。二人では到底抑え切れない。
「私も抑えます!」
 事態に備え中衛に位置していた京一が飛び出す。それでも半数が奥へと抜けていった。
 (……ここは離れられん)
 今はいない、けれど確実に来るだろうナビゲーター。それを抑える為に、福松は入り口を離れるわけにはいかなかった。
「ちっ、ならすぐ終わらせる」
 一呼吸、神速の抜き撃ちが的確に男達の腕を撃ちぬいていった。

 後衛に流れる敵を悔しげに見やり、京一は棒を構えた。
 それでも、この位置は意味がある。突入前に仲間達へ翼の支援は届けている。
 戦場の中心で。全てを見渡して指揮を取る。言葉が、動作が、味方を癒し、支え、押す力だ。
 木箱からの不意打ちはすでに考慮し伝えてある。後は物量の問題。それだけは、個々のリベリスタを信頼するしかない。
「やるべきことを!」
 ナイフの一撃を素早くかわし、京一は癒しの力を紡いでいった。


「負けません!」
 決意の叫びと共に『Fuchsschwanz』ドーラ・F・ハルトマン(BNE003704)は試作型重火器Oerlikon cannonを構える。
 星の光が散らばり、迫る敵を射抜いていった。
「ナイフの回収、ノーフェイスの撃破。それだけはやりきってみせます!」
 ナイフの一撃を受け、それでも決意は衰えず。

 後衛に迫る新手。振りかざしたナイフは――
「お待たせしました! スーパーサトミだだ今参上!」
 突入前に内部を探っていた眼鏡の女性の姿はいつの間にか見えず、このタイミングでマントを翻したヒーロー『スーパーサトミ』御剣・カーラ・慧美(BNE001056)が颯爽と登場する。
「今回も一筋縄ではいかなそうです。でも平和を乱すものはこのスーパーサトミが許しません!」
 新手に張り付き、スーパーサトミぱんちを繰り出していく。どこかぽかんとしたまま、殴られた男は応戦を始めた。


「やっぱ切られるとこたえるな。くそっ、さっさと死ねや!」
 プロテクターを無視する一撃はブレスの体力を容赦無く奪う。更に、幾度の射撃を受けてもまだ敵は倒れていない。
 本来、フェイズ1のノーフェイスに出来る事はたかが知れている。彼らの場合、それは耐久力だ。持ち堪えることに特化した身体は、確かに面倒ではあるが、それだけだ。
 だがここにアーティファクトが絡む。本来弱いはずの一撃は、軽いナイフの性能もあって鋭い精度の神秘となる。
 数の多さも相成って厄介なのだ。
「数を減らすまで釘付けにするよ」
 綺沙羅の放った閃光弾が再び陰に打ち込まれ、敵の増援を防いでいた。
 ミリィは綺沙羅の指示で連携を取り、必要ならば閃光弾を放ち、そうでない時は味方を補佐し動きを共有する。
 攻め、あるいは守り、流れを作る。この乱戦でミリィは戦場を奏でている。

「いかに頑丈だろうと、ここは関係ない」
 福松の射撃が。
「……捉えたよ」
 キリエの気糸が。
 ナイフを持つ手首を強く叩き、三人がついに取り落とした。
「このまま押し切りましょう!」
 ドーラが元気よく叫び、戦場に激しい銃撃を注がせた。
 彼女の銃撃に一人、二人と敵が倒れる。状況は押し始めた。けれど――


 スーパーサトミちょっぷを放っていた慧美。彼女が新手の音を聞きつける。
「横から来てます!」
 姿を隠していたリーダーが、一気に距離を詰め後列へと走りだした。前衛は誰も手が空いていない。
 リーダーは一直線にドーラへとナイフを振りかざした。


●悪党は力に身を滅ぼす
「ドーラさん!」
 京一が急ぎ癒しの力を飛ばす。
 ナイフの一撃は重く、各所での味方の被害は激しい。回復手は息つく暇もない状態だ。
 綺沙羅もまたそれを支援し、ドーラの身体に急ぎ癒しの符を貼りつけた。
 それでも。
「――ぁ」
 慎重に状況を見据え、集中を重ねた一撃は深くドーラの身体に突き刺さり。
「……負け、なぃ」
 呟きが途切れ、ドーラの意識は闇に沈んだ。


「悪いが時間をかける訳にはいかねぇんでな、無茶するぜ!」
 戦線が広がりすぎた状況を打破する策。
 ブレスは木箱に飛び乗り、高い位置から掃討を始める。
 隠れている敵をも巻き込み、全ての的に等しく銃弾を叩き込んだ。

 一方で必要になるのがナイフの回収だ。
 入り口に立つミリィや福松では届かず、敵のリーダーを食い止めに向かったキリエには出来ず。
 危険な戦場を駆け抜けナイフを集めるのは綺沙羅。
 吹き飛んだナイフの位置を見極め効率良く集めていく。
 いつ来るかわからぬ敵に備えて。
 ――ナビゲーターの回収は絶対に阻む。
 攻撃を避けて。綺沙羅は走る。


「後何人だ!」
「5人です!」
 福松の叫びにミリィが答える。
 慧美と京一が1人ずつ抑え、ブレスが2人、キリエがリーダーを抑える。
 すでに乱戦となり、閃光弾の使用は難しい。
 だが度重なる全体への掃射に敵は一様に傷ついている。
 決着は恐らく一気に決まる。その一手に近づくべく、福松は愛銃オーバーナイト・ミリオネアを構え――
「来る!」
 綺沙羅の叫び。何がとは問わない。福松とミリィが入り口へと武器を向けた。
「違う、そっちじゃない」
 感情を読み取って。否定の言葉にミリィは奥の窓へと目をやるが――
「最初に聞いた……ミスター・ナビゲーターは神出鬼没だよ!」
 指さした先はただの壁。だが福松は躊躇なく走った。
 その先で――
 壁から蜘蛛の腕が生え。
 物質を透過し、ナビゲーターは現れた。


「やれ、やはりこちらもこんな状態ですか」
 男は苦笑する。その身に傷はないが、多少の疲れは見えていた。
「ばんぐるの方はともかく、こちらにはこだわる理由がない。さっさと回収して御暇させていただきますよ」
 だらしなく垂れ下がった袖が途端に動き糸を吐く。
 手近な者に放たれた気糸に福松が、ミリィが強く打たれ足を鈍らせるが――
「ほぅ?」
 気糸を断ち切ったのはブレス。
「みえみえだぜ。わかってれば避けれるさ」
 ナビゲーターが出入り口以外から出てくる事も、四肢以外からの糸吐きの可能性も思慮に入れていた。
 不意を突かれなければ、そこに集中していれば初撃をかわすのは難しくない。
「待ってろよ。すぐ相手してやるからな!」
 連続する銃撃が2人の敵を打ち倒した。

 転がったナイフ。
 動きを鈍らせたリベリスタでは間に合わない。
 嘲り笑いを浮かべ、回収狙いで放たれた気糸。それはナイフの代わりに肌を打つ結果となった。
 痛みに耐え、それでも決死の覚悟で飛び出し阻止したのは綺沙羅。
「――渡さないよナビゲーター」
 絶対に渡さない。その強い意思。
「……小雪綺沙羅さん。一度、私の営業を邪魔して下さいましたね」
 笑い混じりの声に綺沙羅はキッと一瞥する。
 『ラビリンス・ラビリンス』……わずか5歳の少女を閉じ込め衰弱させた事件。
 それも、フェイトを消費してたなら当然か。
「抜け目のなさ。その覚悟。気の強さもいい。いいですね貴女。先の狼少女といい、うちに欲しい人材ですよ。心から」
 綺沙羅はそれには答えない。代わりに違う言葉を吐く。
「商売は信用第一でしょ。客に使用リスクくらい説明すべきなんじゃない?」
 ――というより、あいつらが商品だったのかな。
 探る言葉に、ナビゲーターは心底可笑しいとばかりに笑い。
「よしてくださいよ。この程度の連中僕らの客ではありませんし……ましてこんなゴミが商品であるはずがない」


 ナイフの一撃がキリエの身体を裂く。ふらつく足を支えた代償は運命の消耗。
「一体どうなってんだナビゲーター! こいつらは!」
「……君達は利用されたんだよ。可哀想にね」
 リーダーの問いに抑揚なく。
「騙されたっていい加減気付けば? あいつと取引したからアンタ達は命を狙われる事になったんだよ」
 キリエの言葉に綺沙羅が重ねる。
 男の歯噛みに――
「貴方方は本命であるバングルに対する、ただの当て馬だったんですがね。結果的には良いモニターになった。感謝していますよ」
 もう死んでいいですよ。蜘蛛の男は言外にそう告げていた。


●君に捧げるヒーローソング
 気づけばリーダー以外の敵が倒れていた。
「戦闘員ごときにこのスーパーサトミが倒せると思ったのですか!」
 かなりぼろぼろの身体もなんのその。慧美の気力は衰えてはいない。
「当て馬、ですか。ナイフを渡したのは破滅しようとお構いなしに、敵であらせる為ですか」
 行動の意図を図っていた京一が言葉を吐く。一般人であった犯人達は、フェイトを求めるアーティファクトの力で強制的にエリューションと化した。初めからフェイトがない以上、それがノーフェイスとなるのは必然だ。
「フェイトがないのにナイフが力を発揮したのは」
 キリエの疑問に。
「フェイトを失う代わりに力を発揮する、というのは思い込みですよ」
「フェイトの消耗は独立した効果……いや、そちらこそメインということか」
 ――先のリベリスタにはすでに気づかれましたからね。男は笑って肯定した。


「フェイトを奪うのが目的? 企業はこのような事を繰り返して、一体何を成そうというのですか!」
 ミリィの叫びに、「それは企業秘密ですよ」と嘲る。
「本当はね。そんなもの回収なんてどうでもいいんですよ。再利用出来れば楽だというだけだ」
 ナイフを抱えた綺沙羅を楽しげに見やり。
「僕らは貴方方の敵じゃない。アークの皆さんとも、仲良く出来るはずですよ」
 オーバーなアクションで、いつでも受け入れますよと笑っていた。

「ナビゲーター!」
「悪の親玉、逃がしはしませんよ! スーパーサトミパワージャスティススマッシュ!」
 立ち去ろうとするナビゲーターに、怒りの咆哮を上げてリーダーが掴みかかる。同時に慧美もまた巨大な鉄槌を掲げ跳びかかり――
「勇気と無謀の差くらい、理解すべきですよ」
 神秘の……蜘蛛の糸が動き出す。執拗に周到に張り巡らされた蜘蛛の巣状のそれが、瞬間降り注ぐ。
 悲鳴は上がらない。全身を激しく打つ気糸の前に慧美の身体が地に沈む。その前で。
 一言音のない声を残して、ノーフェイスは絶命した。


 落ちたナイフが音を立てるより早く、福松の射撃がナイフを遠くに弾き飛ばした。
 苦笑し、じりじりと退くナビゲーター。
 ブレスと福松が視線を交わす。ナビゲーターと一戦交えるか否かだ。
 すでに先ほど攻撃を受けた身。強敵だが決して届かぬ相手ではないとわかる。
 やるか――視線の交差は一瞬。
 二人は武器を下げ追わない意思を見せた。
 勝てない相手ではない。だがそれは万全な状態ならだ。
 ドーラと慧美が倒れ、運命を消耗したキリエを始め、生命精神共全員疲弊は激しい。安全な勝利が見込めない以上、追うは蛮勇だ。
 それを見たナビゲーターが小さく笑む。
「きっと僕らは仲良くできますよ。企業の理念は、きっと貴方方の望みを叶える力になる」
 愉快げに笑いを響かせて――男は走り去っていった。


「回収は阻止しました。まずは良しとしましょう」
 負傷者を抱え京一が言う。頷き、ミリィがナイフを拾う。
「いつか全てを把握する為にも、その一歩になったはずです」
「悪党は悪党に利用され身を滅ぼす」
 因果応報。キリエは呟やきながら、それではフェアじゃないと続ける。
「それなら企業にも返るべき。だからこそ世の中はフェアというもの」

 どこかの――研究所のような場所。競って作られているのはアーティファクトか。
 まだ足りない。もっともっと……
 能力者を探せ。エリューションを……
 福松は息を吐きサイレントメモリーを解除した。場所や企業の特定には繋がらないだろう。
「貸して」
 福松はそちらを見やり、黙って綺沙羅にナイフを差し出した。深く息をつき集中する。

 綺沙はコレを知っている。
 どこで覗いたか。
 そんなのは関係ない。
 綺沙は、この深淵を知っている――


 ――コノ世界ハ人ノ物。
 人ナラザル者ナド在リ得テハナラナイ。
 自ラヲ鍛エ、文化ヲ広ゲ、世界ヲ作ッタハ人ノ手ダ。
 神秘ナド知ラヌ。超常ナド許サヌ。人ノ努力ノ届カヌ高ミノ存在ナド認メヌ。
 ――私ハ化物ヲ許サナイ。

 身を震わせる。
 見えた。けれど。見えたのは。
 深く深く深淵より深い――
 絶望にも似た憎悪の瞳。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
以上のような顛末となりました。

入り口も、窓も、フェイクだ(キリッ)
神出鬼没の四文字で読み取れとか酷い話だよねー……はともかく。

敵の数。危険なアーティファクト。フェイズ1とは言え耐久に優れていると言われていたそれらへの対応はやや甘く、後衛が傷つく場面が多かったです。
この状態でナビゲーターにナイフを奪われていた場合、取り返す為の戦闘になれば重傷者が続出したでしょう。

様々な対応でそれらを阻止した小雪・綺沙羅さんにMVPを贈らせて頂きます。
スキルを最大限生かし有利に導いた力。プレイングには今回成功するために必要な事項がはっきり書かれ、心情行動面のバランスの良さも光っておりました。
狭いエリアでの乱戦は状況柄ナイフ回収が出来ない事も多く、神出鬼没のナビゲーターへの対応が一手遅れれば失敗もあったでしょう。
あの場、あの位置、あの行動。それらのしっかりしたプレイングが成功に大きく貢献したという評価です。

【蜘蛛の糸】はこれで序章の終わりということになります。
これから長く続く予定ですので、どうぞよろしくお願いいたします。
ご参加ありがとうございました。


つっこみ①
 我ながら「ナビゲーター」なのか「ナビゲイター」なのかと思ってはいました。
 でもアレだ。「イノベイター」は違くね!?
 (正解はナビゲーターです。OPに誤字多くて大変申し訳ございませんでした)

つっこみ②
 「インスタントチャージでの回復を雪白さんか尾奈江さんにお願いします。」
 ……9人目、10人目がいるだと……?