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【蜘蛛の糸】君に届けるヒーローソング~正義の敵~

●フィクサード尋問
 ――話す事なんてないぜ? 俺らのような金で雇われる傭兵は情報なんて持たないもんさ。
 考えてもみろ。捕まった時に情報があれば、拷問されるわ口封じされるわで良い事なんてないのさ。
 簡単に切り捨てれる。だから使われる。世の中ってそういうもんよ。

 ――はいはい、知ってる事はなんでも喋るさ。
 そうだな。雇い主は蜘蛛の仮面の野郎だ。薄気味悪い野郎で神出鬼没。
 俺らみたいなのを雇う傍ら、エリューションに覚醒したやつを見つけては唆すのさ……アーティファクトを使わせる為にな。
 理由? 知らねぇよ。金払いさえ良ければ関係ないね。まぁあいつ自身は有能な窓口ってやつだろうな。

 ――ん? なんだ知らなかったのか。あいつは企業勤めだよ。
 詳しくは知らねぇよ。俺が知ってるのは奴が『企業』と呼ばれる組織の営業だと言う事と、『ミスター・ナビゲーター』と名乗っている事。それから口癖が確か……


●ヒーローの賛歌
「また、届かなかったのか……」
 若きリベリスタ永田英人が駆けつけた時、現場にはすでに無しかなかった。
 鋭利な刃物で切り抜かれていたのは銀行のコンクリートの壁。そしてその先の鉄の金庫そのものだ。中にあったであろう札束は何も残っていない。
 アーティファクトを使われた事件だ。そんなことはわかっている。そしてこの犯人グループが、父の仇であることも……!
 ここも今までと同じで証拠は何も残ってはいないだろう。歯噛みして現場を離れる――駆けつけた人に犯人と思われたら堪らない。

 外に出て、英人は壁に拳を叩きつけた。コンクリートの壁をへこませたそれも、切り抜くには至らない。
 無力だ。必死に情報を集めたっていつも後手。挑むことも出来ず……そしてたとえ挑んだって、自分の力ではきっと勝てない。
 この腕はこんなにも弱い。どれだけ正義を望み悪を憎んだって、父の仇も取れない。涙が頬を伝り――
「悔しいですね。どんな崇高な心も悲しきかな、力の前には無力だ」
 途端響いた声に焦り飛び退く。気配も感じさせず近づいたそれは強者の証。
 油断なく構え英人は目の前の相手を観察した。ビジネススーツを思わせるその服は、しかし左右の肩と脇から生えるだらしなく垂れ下がった余分な袖でスーツとしては意味をなさない。いや、意味は男のつけた仮面で一目瞭然か。
 八つの目を持つ仮面に六本の腕。足を合わせれば八本のそれはまごうことなき蜘蛛のもの。何者だなどと言わない。間違いなくフィクサードだ。
 だが男は今にも飛びかかろうとする英人に対し余裕を崩さない。
「正義を望むヒーロー。悪を憎むヒーロー。君の強い心がもし力になったなら、ヒーローたる君に敵はいない」

 歌うように紡がれた声。差し出された手には何かが握られていた。
「これは君の力になるアーティファクト。君の望みを叶えてくれるよ」
 フィクサードの言葉だ。信用するな。差し出された物を受け取る。フィクサードの力を奪う為だ。蜘蛛の絵柄の刻まれたバングル。腕にはめる。力が――みなぎる。
 力が増幅される。勇気が沸く。無限を感じるエネルギー。これだ。この力があればきっと――
 恍惚の表情の英人に、仮面の男は笑みを向ける。もっとも仮面で表情が見えないが……その笑顔はきっと綺麗なものではなかったはずだ。
「正義が届かない不条理を嘆く可哀想なヒーロー。僕は――君を救い上げる糸を垂らしにきたのさ」


●正義の敵
「正義の味方を倒してキテ下サーイ」
 開口一番『廃テンション↑↑Girl』ロイヤー・東谷山(nBNE000227)はそんな発言をリベリスタに向けた。
 なんでだよという声を手で制し、まずは順番に説明しまショーとフォーチュナはウィンク一つ。
 これまでに蜘蛛を象ったアーティファクト事件は三度起こっている。
 その三度目の事件で捕らえた仮面の男の偽者……雇われフィクサードから得た情報。豊富とはいかないが蜘蛛の足を掴めた結果だ。
「コノ情報を元にゲットしたのが先ほどの話デース」
 永田英人がナビゲーターの次の獲物ということだろう。彼はフリーのリベリスタ。革醒して一年足らずの彼は、まだ経験も浅く実力者とはいえない。
「彼が革醒したのは、ポリスだった父が銀行強盗と対峙し殉職したのがきっかけデース。以来彼はこの強盗グループを追い続けていマース」
 結果は芳しくない。焦りを、無力感をナビゲーターにつけこまれた。彼は蜘蛛の糸に捕まってしまったのだ。

「……だが英人の目的は強盗を捕まえることだろう? 最悪怒りで殺してしまったとしても――」
 彼を責められない。彼を倒す必要はないんじゃないか。リベリスタの言葉に、ロイヤーはまだ話がありマースと続ける。
「今まで押収したアーティファクト。どれもベリー強力な物デースが、致命的な欠陥が見つかっていマース」
 『ラビリンス・ラビリンス』――持ち主の心を望む世界に送ると言われるそれは、取り込まれた者の不安や悩みを具現化し入った者の精神を閉じ込め衰弱させる。段階が進めばより無差別に人を捕らえるようになる危険な力だ。
 『ソウル・リリース』――殺した相手をE・フォースに変えてストックするそれは、力を上回る数を取り込むと暴走し持ち主を殺す。その時、よりフェイズを高めたE・フォースが世に解き放たれることになる。
 『アンロック・コール』――人を操るリモコンであるそれは、少しずつ自身にも及ぶことがわかった。誰かの死を望む一種の気の迷いが、アーティファクトを通じて徐々に自分自身の強い望みとなっていく。
「欠陥はもう一つ。このアーティファクトのどれもが、使用にフェイトを消耗することがわかっていマース」
「……つまり」
 リベリスタの言葉に頷く。
「バングルを装着する英人は、常時その運命を消耗しているわけデース」

「となると、説得して大人しく外させるか、気絶させて奪うかだな」
「ノン。説得して外させるか、殺すかデース。後は難しいでしょうがバングルの破壊もありデースね」
 気絶を否定するロイヤーに何故と問えば。
「バングルの力は強力デース。これはポテンシャルを上げるだけではなく、その意思を増幅し運命を引き出すのデース」
 曰く、いくら倒しても彼の心が敗北を認めない限り、何度でも復活する。その運命が枯渇するまで。
 意思の増幅。
 強盗犯を見つけたいという願いが彼に千里を見通す力を与え。
 まだ戦えるという意思がどんな困難も振り払うだろう。
「彼が強盗犯に接触する前に、彼からバングルを外す必要がありマース」
 強盗犯とはち合わせる訳にはいかない理由がある。
「意思すら増幅させると言ったはずデース。犯人を見つけた時、彼の憎悪が膨れ上がる……見境なく手を付けられない程にデース」
 憎悪が膨れ上がった時、そこにいるのはもはや悪を憎むヒーローではない。全てを憎む復讐者の誕生だ。
「今すぐ向かえばちょうど彼がバングルを装着したところデース。強化された彼は強力なヒーロー。残念デースがナビゲイターをどうこうする余裕はないと思われマース」
 無力を嘆くヒーローは願いを叶える力を手にした。その説得は簡単ではないだろう。
「ヒーローだって迷いマース。Miss.Mr.リベリスタ。どうか本物のヒーローを見せてあげて下サーイ」


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:BRN-D  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年06月03日(日)23:48
●成功条件
 バングルの奪取または破壊。(永田英人の生死は依頼の成否に関わりません)

●失敗条件
 永田英人の逃亡。(ナビゲイターの逃亡は依頼の成否に関わりません)

●場所
 日の出前の銀行強盗の現場からやや離れた裏路地です。人通りはありませんがあまり時間をかけると現場に警察が到着してしまいます。戦えなくなってしまえば、英人は逃亡する可能性が高いでしょう。

●人物
 永田英人:警察官だった父の仇を願う正義感の強い青年です。高校卒業間近に父が殉職し、以後一人で犯人を探してきました。バングルによって憎悪と無力感、そして復讐の力を手に入れた喜びが増幅されています。力を奪おうとするリベリスタは妄信的に悪と判断するでしょう。
  簡単には心を開きませんが、元は優しく正義感の強い父に憧れる真面目な青年です。メタルフレームの覇界闘士です。強化によって中級スキルをひと通り使用します。

●アーティファクト
 『バングル・オブ・ブレイブ』:使用者の力と意思を増幅します。しかし代償は大きく、フェイトを失っていく他、自身の強すぎる意志に振り回されることになるでしょう。
  耐久に優れ、破壊するにはかなりの攻撃を集中させる必要があります。本人を倒す以上の苦労になります。傷つけば傷つくほど、支配力は弱まるようです。

●敵
 ミスター・ナビゲイター:蜘蛛のアーティファクト事件を起こす仮面の男。『企業』の営業ということですが、目的は不明です。彼はリベリスタが現れればすぐに撤退を開始します。
  彼自身は戦闘を望んではいないようですが、攻撃を仕掛ければ反撃を行うでしょう。その場合も隙を見て逃亡します。うまくすれば多少の情報は得られるでしょう。

●補足
 蜘蛛の糸シリーズとしては四作目。【】は今回から付きます。
 過去作品としては『ラビリンス・ラビリンス ~音をなくしたミノタウロス~』、『World is Mine ~無邪気な笑顔のプリンセス~』、『糸の境界線 ~地獄を抜けた先~』がシリーズになります。
 説得を行なっていても攻撃が予測されます。彼はすぐにでも邪魔者を蹴散らして復讐を果たしたいからです。
 行動結果が同時進行する『【蜘蛛の糸】君に捧げるヒーローソング~悪の敵~』と多少リンクします。
 それではご参加お待ちしております。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
覇界闘士
御厨・夏栖斗(BNE000004)
ソードミラージュ
葛葉・颯(BNE000843)
ソードミラージュ
富永・喜平(BNE000939)
クロスイージス
内薙・智夫(BNE001581)
ナイトクリーク
双海 唯々(BNE002186)
ナイトクリーク
佐々木・悠子(BNE002677)
クリミナルスタア
晦 烏(BNE002858)
クロスイージス
犬吠埼 守(BNE003268)

●ヒーローは勇気を手にする
「どうにも古い話を思い出すが」
 地獄に舞い降りた蜘蛛の糸。それは恩義でもなんでもない。
 ――奴さんは糸にぶら下がった者の観察が仕事と来たもんだ。
 悪趣味な事だわな――呟き、『足らずの』晦 烏(BNE002858)は煙草の火をもみ消した。
 烏の脳裏には、疑問に思い洗い直した事件の詳細が詰まっていて。
 ああ本当に――
 言葉は行き先を求めて宙に浮く。
 『イケメン覇界闘士』御厨・夏栖斗(BNE000004)は強い眼差しを英人に向けた。そこにあるのは――怒り、だろうか。
 ――僕も母さんをフィクサードに殺された。
 大切な人を失った喪失感。それがどれほど心を苛むか夏栖斗にはよくわかっている。
 『復讐は何も産まない』。そんな言葉は欺瞞に満ちたただの詭弁だということも。
 だから来た。届けに来たんだ。
 伝えるべき、言葉を。

 気づいたのは英人だ。
「――誰だ!」
 英人が叫ぶと、狭い路地裏に幾人かが飛び出す。
 名の知れた顔を見つけ、ナビゲーターがほうと息を吐いた。
「名高きアークのお出ましとは予想外。いや、商談に予測不能の出来事は付きものですがね」
 愉快げに漏らす男に、しかし英人は訝しげにリベリスタを見やる。
 フリーと言えど、リベリスタであるならアークの名を知らぬはずもない。
 それでも英人の瞳は明確に敵意を抱き――
 勇気のバングルは赤く輝く――怪しげに。


「永田さん、俺の話を聞いてください」
 言葉を吐くのは『俺は人のために死ねるか』犬吠埼 守(BNE003268) 。伝えたい言葉があった。それは、英人が自分とよく似た境遇だからこそ。
 だが言葉に反応して向けられた目に、守はぞっとする想いを抱いた。
 英人の瞳。危険なその輝きは赤。それは彼のつけるバングルと同じ色で怪しく輝いていた。
「……バングルに支配されているのでしょうか」
 念願の力を手にした彼には、後は復讐しかない。そう仕向けられてるとも言えるが、自分の前に立つなら敵でしかないのだ。
 ――この状態の彼に言葉が通じるのか?
「英人さんを助けたいね」
 横からの声に視線を向けた。
 傍らに立つ『クロスイージスに似た何か』内薙・智夫(BNE001581) が小さく笑いかける。それは柔らかく人を安心させる笑み。
「無力感や復讐心……気持ちがまぜこぜになってるみたいだから、落ち着いて貰う事が出来ればなんとかなるかもしれない」
 ああそうだ。その為に自分達は来たのだから。
 守は帽子を深くかぶり直し、智夫に頷いた。
「はい、助けましょう」
「うん、助けよう」
 言葉は決意の色を帯び。

 英人は言葉を待たない。
 バングルが一際大きく輝き、拳に業炎が纏わりつく。
 穿たれた拳は同じく素手によって逸らされる。
 対峙する夏栖斗は飄々と笑いかけた。
「ごきげん麗しゅう、君の正義を止めに来た」


●ヒーローは勇気に操られる
 智夫の張る強結界が現場を押し包んだ。
 警察が駆けつけてくるのを、多少なりと遅らせることが出来るだろう。
「永田君な、君を止めに来たと言ったら信じては貰えるかい?」
 烏は両手を挙げ敵意の無い事を示す。
 返事はない。代わりに鋭い蹴りから生じる衝撃波が烏の身体を打った。
 全力で防御に徹するも、体勢は崩れ激しく流れる血が一撃の重さを物語っていた。
 (やれ、バングルの力はこれほど強力か)
 これに耐えながらの説得は楽ではない。まして言葉が届いてるかすらわからないなら尚更に。
 その傷に符を貼り付け、智夫が癒しを与える。この場において、仲間を護るのは智夫の力だ。
「強盗グループが憎いのは判るよ。だけど、お父さんは仇討ちを望んでいるのかなぁ?」
 睨みつける英人に、智夫は構わず言葉を紡ぐ。
「憎しみに囚われたままで道具に頼って仇を討った事を、喜んでくれるのかな?」
「君の復讐心は本物なの? そのバングルを手にした瞬間殺意が深くならなかったか?」
 智夫の言葉に夏栖斗が続ける。
 彼の『復讐』は強いられている。
 それがわかるから、夏栖斗は言葉をまくし立てた。
「――黙れ!」
 言葉は一瞬英人の瞳を揺るがせ……すぐに赤く輝かせる。叫びとともに舞う業炎が前衛に立つ夏栖斗と守の身体を焼き焦がした。
 夏栖斗が歯を食いしばる。周到に張り巡らされた蜘蛛の糸。自らの意志と勘違いした操り人形。
 そんな理不尽は許せない。
 ――蜘蛛の糸なんかぶった切ってやる!


「予定は崩れましたが……これはこれで興味深い。モニターの役目は十分に果たせるでしょう」
 それではこれで――踵を返したその背に、ナビゲーターを上回る速度で襲いかかる影が一つ。
「貴様は一体何が目的カネ!」
 全速で駆け抜け爪を振りかざす『葛葉・楓』葛葉・颯(BNE000843)の一撃は、垂れ下がった袖口から放たれた気糸の牽制によって妨げられる。
「何、と言われてもね。色々ですよ。一つの案件に複数の意味を持たせてこそ、利益も膨らむものです」
 嘲りを含んだ声音も意に介さず、颯は幾度も斬りかかる。遠目に英人の姿を見やり。
 (……彼の心はとても嫌いではナイカラ助けたい)
 故に。ナビゲーターを食い止める。
「運命を喰わせて、人を破滅させるようなアーティファクトをばらまくなんて、絶対許さぬのだョ」
「葛葉颯さん。貴女には一度営業を妨害されたことがありましたねぇ」
 くすくすと。嘲る男を一瞥し、颯は過去を振り返る。
 アーティファクト『ソウルリリース』の件で、楓は結果的にナビゲーターを妨害したことになる。
 その現場にはこの男はいなかったはずだが、なるほどモニターというからにはすべて確認済みということだろう。
 後はこの男がどの位の技量か、計りたい所――!

 付き合えませんよ――攻撃を流し、場を離れようとした男は、迫りくる地を蹴る音に目をやった。
 否。地ではない。壁だ。重力を無視して、狭い路地に並ぶ者達の文字通り『横』を駆け抜け、『獣の唄』双海 唯々(BNE002186) が男の背後を取る。
「正義も悪も際限なく破滅に導く蜘蛛の輩よ。イーちゃんはアンタに破滅を届けに来たのですよ? 遠慮はいらねーしそもそも強制だから返させもしねーですが」
 その言い回しにどこか嬉しそうに笑い、男が答える。
「いいですね貴女。営業向きですよ」
 うちにスカウトしたいところですとオーバーな仕草を取る男に。
「情報くれたら考えてやるですよ」
「ははっ! 実にいい」
 唯々は油断なく目の前の男に当たる。
 ――気ぃ抜いて相手していいヤツじゃねーのは確かだと思うですからね。
 敵なら叩き潰せばいい。けれど、今は情報も何もかも足りなさすぎる。
 搾り取れるだけ搾り取る。次に繋げる為にも。
「ですが一つ訂正を」
 本人の癖なのであろう演技かかった動きで、男は言葉を吐いた。
「破滅に導いてなどいませんよ。強制などしていない。選んだのは彼ら自身でしょう」
「そう仕向けたのは、あなたでしょうナビゲーター!」
 対のカタールが銀閃を描く。鋭い振りはけれど空を薙ぎ、着地した男が見やれば、そこに立つのは『熱血クールビューティー』佐々木・悠子(BNE002677) だ。
「迷って、悔しくて、無力を感じて……垂れ下がった糸を掴んでしまった」
 腹が立つ。クールで知的な雰囲気を纏う彼女は、その内に悪を憎む熱血を秘めていて。
「正直者が馬鹿を見る。信じるものが掬われる。勝てば官軍、正義なんて、どこにでもある」
 腹が立つ。少年にじゃない。正義を信じる少年の心を、弄ぶどうしようもない悪に!
「例え誰が許しても、認めても、私は絶対に許さない!」
 再び振るわれる剣閃に、男は楽しげに笑っていた。


 幾度目かの衝撃に耐えられず、烏が膝をつく。慌てて駆け寄る智夫を手で制し、彼は運命を燃やし立ち上がった。
 撃たれても。倒れても。やると決めたからにはやる。それが仁義。
「自慢の親父さんで立派な警官だったんだろ」
 痛みに構わず言葉を投げかける。
 父親の事を尋ねるのは、復讐に逸る心を妄執から一時的にでも己を取り戻させる為。
「その親父さんがな、永田君と同じ立場だったらどうしてたと思う? 今の永田君を見てどう思うだろうな」
 切り替わる瞳の色は、支配と葛藤の証拠か。尊敬する父の話は、大きな動揺を与えている。
「俺もね、君と似た境遇なんです」
 守が言葉を重ねる。
「でも、一つだけ違う所がある。俺は独りじゃない」
 独りで考え、独りで動き、独りで戦う。
 それでは良くない。
 目的の為に手段を選ばなくなったり、手段が目的と化してしまったり……
「孤独な戦いは独善に陥り易いのです。事実、今の君はそうなりかけている。仇を討てれば何をしても良いと……」
 沈黙は戸惑いか。揺らぐ心は隠せていない。
「そう思う事に疑問を感じなくなっているのではありませんか? そんな君を見たら、お父さんはどう思うでしょうか」
 その瞳が、表情がまるで泣いているようで……だからこそ、切り替わった赤の瞳に映る憎悪が際立ち――
「黙れぇー!」
 怒りの叫びが、電撃を伴い周囲を巻き込んだ。


●幕間~蜘蛛の糸~
 気合の声を上げ、ナビゲーターを挟んだ両側から、全く同じ速度で唯々と悠子の気糸が迫る。
 それを左右の肩袖から放つ気糸で流し、男が応戦する。
 その動きをしかと見やり、颯はその観察眼で力量を読み取っていた。
 (残像、気糸の牽制、距離感を掴メヌ衣装……攻撃を避けることに特化したスタイルだネ)
 その回避は高い。幾度かの攻撃を終えて未だ被弾なし。恐らく、颯が一度集中を交えてもまだ分が悪い。
 反面一撃は重くない。神秘の気糸で確実に削ってくるが、それは精度の高さ故の威力だ。
 ――技術特化のプロアデプトで間違いないようダネ。
「観察されるのは好みじゃないですねぇ」
 向けた言葉は颯にだけではない。悠子もまた、男の一挙一動をつぶさに観察していた。
 ――何をしてくるかわからない。何らかのアーティファクトを持ってきているかもしれない。
 妙な動きを察知しようと見据える悠子に、男は笑い出した。
「フェイトを失うあんなモノ、つけるような愚かなことするはずないじゃないですか」
 嘲る笑い。瞬間、怒りを爆発させ悠子が斬りかかった。
 それをかわし、男は防御が疎かになった悠子に狙いを定め……
 表情に驚きを浮かべながら、なんとか二撃目を防ぐ。
 剣閃はフェイント。本命は気糸による絡めとり。悠子は確かに怒りを燃やしながらも――
「怒りと冷静さが両立する。なるほど、油断ならない方のようだ」
 悪を憎む正義の心。私情は挟まず徹する精神。それは決して相反しない、悠子の力だ。
「ここで止めます!」
 呟き、ヒーローは立ち向かう。


「そろそろお暇させていただきますよ」
 男の余裕を崩さない声音に。
「タダでイーちゃんを抜けると思ったら大間違いですよ」
 唯々が対のナイフを向け牽制する。
「抜きたきゃせめて何か置いてくがイイです。痛いの以外歓迎ですよ?」
「本当に営業向きですよ貴女は。では、サービスだ」
 男のスーツ、その余分な袖が不意に四方に広がる。両の手と合わせて6つ、全てから打ち出される気糸の網。
 それは蜘蛛の糸。蜘蛛の巣状と化した逃げ場のない攻撃が全方へと吐き出された!
 男を相手する三人の身体を網が捕らえる。
「見た目の割には威力は……?」
 唯々の言葉は最後まで吐き出されなかった。異変はすぐに。身体が重く、思うように動かせない。
「力が抜けるでしょう? もう僕は止められない」
 嘲る笑いを残して、男はついと横を駆け抜ける。
「赤い光が、見えました」
 その後ろ姿に、悠子が言葉を吐く。
 彼女の超直観が、瞬間記憶が見逃さなかった。派手に動いた時スーツの胸元から覗かせた、その奥の光を。
「……目ざといですね。正解ですよ」
 言って胸元を開ける。埋め込まれた赤い石。
「能力強化のアーティファクトです。フェイトは消耗しませんよ」
 笑って男は去っていく。言葉の意味に気づいた、悠子の叫びに答えることもなく。
「じゃあ……フェイトを奪う効果は、わざと作られたものだと言うの!?」
 影は何も答えない。


●君に届けるヒーローソング
「――っ、倒れるわけには、いかないよ」
 回復に尽力していた智夫が、衝撃波を受けて膝をつく。それでも倒れないという意思が運命を燃やして。
 このタイミングで、烏が散弾銃二四式・改を取り出す。言葉は通じている。心は揺らいでいる。それでも聞き入れないのは、あのバングルの支配力であることはもう疑いようがない。
 ――イバラの道間違い無しだがね――
 それでも。
「諦めちまうのは勿体無い」
 バングルが精神を支配するのなら。その支配力を弱める!
 銃を構え狙いを定める……その横を駆け抜けた、一陣の風。
 瞬く間に距離を詰め、驚く英人の眼前で。
「力と自分に溺れるよっぱらいさん。酷い顔してるよ」
 『終極粉砕機構』富永・喜平(BNE000939)はこの時までずっと集中を重ね温存していた。
 説得を任せて。足止めを任せて。
 狙っていたのはただこの一打。
 ――復讐そのものは肯定するよ。本人が確固たる意思を持ち、後の事まで考えてるならね。
「君に復讐なんて精緻な行い無理だろ」
 言葉に銃声が重なる。零距離で撃ち放たれた愛銃スーサイダルエコーは的確に、執拗にバングルを撃ちぬいた。
 絶叫が裏路地に響く。絶叫は英人のものでありながら、なぜかバングルが放ったものであるとすら思えた。

 恐るべき一撃が恐るべき勢いで決まった。
 頑丈なバングルに亀裂が入る。砕けぬまでも、その支配力が弱まったのは誰の目にも明らかだった。
 不安な面持ちで瞳を動かす英人に、ずいと、正面に立ったのは夏栖斗。
「……運命を捧げて、仇を取ってそれで満足なんて馬鹿馬鹿しいんだよ!」
 怒りは悔しさでもあり、信じる気持ちでもあった。
「大きな力の前には無力? わかったような気になってあっさり諦めてんのがムカつくんだよ!」
 足掻いてみろ、足掻いて辿りつけ。
 絶対に、言葉は通じるはずだと信じているから。


「アンタは今何をしようとしてるです。テメーが破滅する姿を見るのが親父の望みだとでも言うつもりですか?」
「力を正しい事に使って欲しい。憎しみに囚われないで欲しい。お父さんなら、そう言うんじゃないかな?」
 唯々が、智夫が言葉を合わせる。
「あなたはきっと、今日この日の為に生きてきて、敵が奪われれば自分を許せなくなるでしょう。それを分かって、私はあなたを止めます」
 気持ちがわかるとは言わない。間違ってるとは言わない。悠子はただ、想いを綴る。
「正義感を弄ぶ悪党に利用されて、多くの人を今のあなたと同じ……いえ、それ以上に辛い気持ちにさせるわけにはいかないから」

「貴方の正義は正しい。それでもそんな物に頼るのは間違っていると思うのだョ」
 颯は伝える。正しいものが歪むのは辛いから。
「力がない悔しさは分かる、だからといって、何を投げ打っていい訳じゃないことを分かってるはずダ」
 そんなものに頼るのが君の望みなのかと。
 英人が一歩下がる。わかってしまう、けれどわかりたくない。もう無力を感じたくない。退こうとする身体は――
「逃げるな! 僕たちは、君の正義の敵じゃない!」
 夏栖斗が掴む。
「そんなガラクタなんか捨てて僕らを頼れよ!」


「そうじゃない。ただ独善を加速させているだけです。心を力にすると言うのは、そう言う事じゃない!」
 守が強い眼差しを向ける。
「仲間と共にあれば、皆で考えれば独りの誤りも正す事が出来ます。それこそが、心を力にすると言う事だと俺は信じます!」
 最後の武器は、いつだって知恵と勇気。それを守は知っているから。
「その糸を伝っても、君の望む高みには届きません。君のお父さんが居る所には、きっと続いていないはずです!」
 彷徨う目線が烏へと向けられて。
 ――親父さんの仇を取りたいのは痛いほど伝わってくる。
 だがな、憎しみの為に力を振るうのはやめにしねぇか。
 その持てる力を弱きものを守る為に使っちゃくれねぇかな。
 ――親父さんのようによ。
「お前さんが、親父さんが愛した正義ってのはそんなもんなのかよ、目を覚ましやがれ!」

 ごとりと。バングルは音を立て地に落ちる。
 そして――緊張の糸が切れた英人は気を失った。


「うん、身体に異常はない。眠ってるだけだ」
 夏栖斗はほっと息を吐き身体を担ぐ。バングルに吸われた運命が、彼の元に戻るように願いながら。
 ナビゲーターが逃げ去った先に目を向け、喜平が肩を竦める。
「いいよ、逃げろ逃げろ。しかしな、顧客にだけリスクを背負わせる様な遣り方じゃ先はないよ」
 逃げる前提で物事を組み立てる奴、其処に誇りも志も無ければ単なる三下だ。

「英人さんがいつも後手っていうのが気になるんだよね。ナビゲーター……あいつが全部裏で糸を引いてたって事じゃないかな」
「そうだよ」
 疑惑を口にした智夫に、煙草を咥え事も無げに答えたのは烏。驚く智夫に――
「事前に調べたさ。父親が殺された事件の直前に、怪しげなスーツ男が犯人達と接触してたってな」
 その時からの付き合い。目的を考えれば、英人はその頃からの獲物であったのか。教えていれば、バングルが彼を復讐者にしてしまっていただろう。

「結局アイツの目的はなんだってーんですかね」
 唯々の言葉に、神妙な顔の颯と悠子が得た情報を整理していく。
 その後ろで。眠る英人を覗きこみ、守は微笑んだ。
「アークへようこそ」

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
このような顛末と相成りました。

皆さん素晴らしい説得です。
分担としても自分の担当をしっかりと定め、それぞれに力が入っていたと思います。

攻撃をせず説得に向かうことは、相手へ意思を伝えるのに非常に有効なのは確かです。
けれど今回の場合、強力なアーティファクトに支配されています。
もし最後まで攻撃をしない方針でしたら、時間切れか戦力不足の敗北になっていたでしょう。

情報収集もだいぶ出来ていたと思います。
次回再び遭遇することがあれば、ナビゲーターの能力からEX技など、わかっていることが増えていることでしょう。

それではご参加ありがとうございました。