●序 古事記より――。 高天原を追放された須佐之男命(すさなおのみこと)は、出雲国の肥河の上流の鳥髪(とりかみ)に降り立つ。 川上から箸が流れてきたので川を上ってみると、美しい娘を前にして老夫婦が泣いていた。 その夫婦は大山津見神の子の足名椎命と手名椎命であり、娘は櫛名田比売(くしなだひめ)といった。 夫婦には8人の娘がいたが、毎年、高志から八俣遠呂智(やまたのおろち)いう8つの頭と8本の尾を持ち、目はホオズキのように真っ赤で、背中には苔や木が生え、腹は血でただれ、8つの谷峰にまたがる巨大な怪物がやって来て娘を食べてしまう。 今年も八俣遠呂智の来る時期が近付き、このままでは最後に残った末娘の櫛名田比売も食べられてしまうので泣いているのだ。 須佐之男命は、櫛名田比売を妻としてもらいうけることを条件に、八俣遠呂智退治を請け負った。 まず、須佐之男命は櫛名田比売を隠すため、彼女を櫛に変えて自分の髪に挿した。 そして、足名椎命と手名椎命に、7回絞った強い酒(八塩折之酒)を醸し、垣を作って8つの門を作り、それぞれに醸した酒を満たした酒桶を置くように言った。 準備をして待っていると八俣遠呂智がやって来て、8つの頭をそれぞれの酒桶に突っ込んで酒を飲み出す。 八俣遠呂智が酔ってその場で寝てしまうと、須佐之男命は十拳剣を抜いてそれを切り刻んだ。 尾を切り刻んだとき剣の刃が欠け、剣で尾を裂いてみると大刀が出てきた。 これは不思議なものだと思い、天照御大神にこの大刀を献上した。 これが天叢雲剣(あめのむらくものつるぎ)、後の草那芸之大刀(くさなぎのたち)である。 八俣遠呂智を退治した須佐之男命は、櫛として髪に挿していた彼女を娘の姿に戻し、彼女と暮らす場所を求めて出雲の根之堅洲国にある須賀の地へ向かった。 そこで「八雲立つ 出雲八重垣 妻籠に 八重垣作る その八重垣を」と詠む……。 島根県雲南市――八本杉。 この地に八俣遠呂智の首を埋めたという伝承はあったものの、この地域は幾度も斐伊川の氾濫によって流されていて、首塚も杉自体も当時のものは残っていない。 切り刻まれた8つの首は、流された後に果たしてどうなったのだろうか? 歴史はその後について、何も語ってはいない。 人々には秘匿された神秘だけが、その真実を知っているのだ。 ●承前 鹿児島県――某診療所。 「はぁ、はぁ、はぁ………」 苦しそうな声を上げ、呻くようにベッドで苦しみ悶える子供。 医者は為すすべもなく、溜息を吐く。 もう何人目だろうと彼は子供たちを見ていた。 高熱を発し、身体に奇妙なウロコのような湿疹、足の麻痺による歩行困難。 この症例が続く患者は、この一週間で既に五人出ている。 まるで患者たちが、蛇にでも変身していくようだったのだ。 何れの子供たちも、これまで皮膚等には異常を持ったことはないまったくの健康体。 そして何より、患者は全て小学生たちばかりだった。 魚鱗癬(ぎょりんせん)等の彼が知りうる医学症例とは、明らかに症状も異なっている。 何か原因があるとは感じているのだが、この手の伝染病というのは見たことも聞いたこともない。 彼は方々に電話し、医学書をあるだけ読みあさり、対処療法はすべて試していた。 それでも症状は一向に回復せず、それどころか重篤へと進んでいっているのを止められずにいる。 「お手上げだ……くそっ!」 頭を抱えて机を拳で叩く医師。 患者である子供たちを大きな病院に搬送しようにも、この高熱と場所からではどうしようもなかった。 ここは人口も僅かな離島で、彼は島の唯一の医師だったのだ。 たまたま見つけた白い蛇に向けて次々と石を投げ、無残に殺される白蛇。 蛇の皮がぐにゃりと破れ、そこから霧の様な大蛇が姿を現す。 一応に腰を抜かして恐怖で固まる子供たち。 「へ、へびがみさま………」 この離島には、古くより蛇神信仰が伝承されている。 蛇は死と再生の神として崇められ、理不尽に殺す者には消えない呪いを与えるのだ。 霧の姿の蛇は、小学生らに何かを吐きかける。 そして、大気へと消えてしまった。 ●依頼 三高平市――アーク本部。 「これが病気の正体。アザーバイド『瘴気の蛇神』の仕業」 集まったリベリスタが映像に目を通したのを確認して、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は口を開いた。 その名の通り、身体全体が霧の様な瘴気に覆われた大蛇であり、その霧に毒された一般人はやがて身体が変質して蛇人間と化していくらしい。 カレイドシステムは、続けて高熱にうなされる小学生たちを映し出す。 「幸いフェイトを持った人間が蛇人間に変質することはないけど、それでも毒は毒だから気をつけて。 それにこの蛇神は島の地下洞窟で、蛇人間たちの集落を作ってるの。それが厄介」 蛇人間たちは二本の腕を持つ蛇といった外観で、足は退化して機能せず、下半身を這いずるようにして歩行する。 顔も人間だった時の名残はほぼ残らず、完全に蛇神の支配下へ置かれエリューションと化してしまう。 「子供たちも数日もすれば、新たな蛇人間の仲間入り。 そうなる前に洞窟へ潜入して、蛇人間たちと『瘴気の蛇神』を殲滅する。これが今回の依頼」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ADM | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 10人 | ■サポーター参加人数制限: 4人 |
■シナリオ終了日時 2012年06月01日(金)23:55 |
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■メイン参加者 10人■ | |||||
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■サポート参加者 4人■ | |||||
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●行軍 鹿児島県――とある離島。 本土から遠く離れた自然豊かな小島。 この島と本土は週一回の連絡船しか行き来する手段がなく、四方をエメラルドグリーンの海に囲まれ、100人規模の小さな集落が漁業を営みながら静かに暮らしている。 降り立った『大人な子供』リィン・インベルグ(BNE003115)は、その絶景の数々を飽きることなく眺めていた。 「島の規模的に綺麗なホテルは無さそうなのが残念だけれど。 このバカンス、折角だから堪能させて貰おう……」 観光気分なリィンに対し、エリス・トワイニング(BNE002382)が軽くその袖を引く。 「……診療所、行く」 「ああ、うん。勿論お仕事してからね」 幼児の無邪気な笑顔を向け、エリスに従い移動をはじめるリィン。 『BlackBlackFist』付喪モノマ(BNE001658)の要請に応じたアークの医療班を同行させていた為、彼等を先に診療所へ送り届けなくてはならない。 ――離島、中央の森。 明るい日差しが鬱蒼とした木々によって遮られ、森の中は大分薄暗い。 5月も終わろうとしているにも関わらず、ここは普段いる三高平との気温差が大分激しかった。 森の中は本土の生態系とは明らかに異なる小動物や昆虫が多数生息し、時折肌の露出の見られる相手へその牙を剥く事がある。 安全靴や懐中電灯を装備しているアルフォンソ・フェルナンテ(BNE003792)を始め、肌の露出を極力隠しているのはそうした森での行軍対策でもあった。 「時間はあまりない様ですね」 先の診療所での様子を思い返して、アルフォンソが呟きながら安全靴に噛み付く昆虫を足で振り払う。 診療所の子供たちの様子を伺ってきたリベリスタたちは、子供たちの病状から事態が逼迫していると察していた。 自身の忍び装束をテープで補強し、肌の露出を隠して進む『影なる刃』黒部幸成(BNE002032)。 「せめて子供達だけは無事完治させねば」 同じ蛇の因子を持つ者として、幸成にとっても今回の事件は見過ごせない。 『奇術師』鈴木楽(BNE003657)は元々肌の露出のない格好をしている。 彼等マジシャンを織り成す奇術の種は、その中に仕込まれている事が多いからだ。 「子供達を笑顔にするのが私のお仕事ですから! ……とは言え、今回は自業自得ではあるようですけどね」 「ふむ」と楽の言葉に無表情に反応した『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)。 「程々の呪いならば子供の躾に良かったものを。 痛い目見れば嫌でも学ぶだろう、駄犬以下の知性でなければ」 相変わらずの口調で痛烈な皮肉を浴びせている。 楽とユーヌの言葉に『カレイドシステム』の映像を思い浮かべた『もそもそ』荒苦那・まお(BNE003202)。 「石は痛いですね。まおも知ってます」 見知らぬ他者に石を投げられる、そんな辛い過去が思わず彼女の頭の中に蘇っていた。 「でも病気も自分を失うのは、もっと痛いです。なので、蛇神様を退治します」 だからといって自身を失って蛇人間に。とまでは、流石に行き過ぎだと感じる。 大きなマスクと探検帽で素顔を隠すまおは、その背中に沢山の酒を用意して今回の依頼に対応しようとしていた。 『鋼鉄魔女』ゼルマ・フォン・ハルトマン(BNE002425)は森での行軍も翼の加護を受けられると踏んでか、軽装で離島に来ている。 「この国古来の大怪物『八俣遠呂智』の首の一つ、かも知れぬか……痛ッ!」 しかし森の移動中にまで楽がいちいち加護を使っていては、流石に蛇神と相対するまで彼の精神力は持つはずがない。 彼女はこの行軍中、延々と剥き出しの足元を襲う昆虫や小動物、草木との戦いを続けていた。 普段着で望んだ『第25話:あほ毛ロリ』宮部・香夏子(BNE003035)もそれは同じ。 「今回は既に犠牲が出てるのですね……いたたっ」 何かが彼女の足元を齧り付き、それを振り払う仕草を見せる。 まずはこの森の突破が、彼女たちにとって最初の難関の様だ。 『食堂の看板娘』衛守凪沙(BNE001545)は二人の噛まれた程度が酷くなる都度、救急箱を取り出して簡易に足の治療を続けている。 「昔話みたいにお酒で酔わせるってことができればいいんだけど。 あたしはそれより蛇人間が恐いよ」 足の治療を終えて出発を促す凪沙。今の所二人とも大掛かりな傷はこしらえずに済んでいた。 長袖ズボンで肌を露出せずに進む『薄明』東雲未明(BNE000340)が、時折治療で行軍が止まってしまう状況に溜息を漏らす。 「お話としては、成敗して宝と嫁御をゲットした時点で終わってるものね。 首切られた後の事なんて、考えもしなかったわ」 肩をすくめる未明に対し、『ナイトオブファンタズマ』蓬莱惟(BNE003468)は腕組みをして考え込む。 (多頭を持ち毒霧を吐くならギリシャ神話のヒュドラ。 翼を持つ蛇の神ならアステカ神話のケツァルコアトルが該当するが……) 伝承で該当するすべての多頭蛇を考えて見たところで、どうにもキリがない。 ヤマタノオロチだけではなく、世界中には多頭蛇の伝承はごまんと存在するのだ。 「相手が危険なアザーバイドであるというのなら、これは騎士の役目を果たすのみ」 決意するように惟は声を発し、森を進む。 そろそろ台地の洞窟入口に差し掛かろうという頃。思いもよらない事態が待ち受けていた。 足を噛まれ続けていたゼルマと香夏子の体調が、思わしくなくなってきたのだ。 何らかの病原体を運ぶ小動物に足を噛まれていたのかもしれない。 今すぐに行動不能になる程ではないにせよ、時間がかかればそれなりに危険な状態にもなり得る。 嫌が応でも急がなくてはならなくなったリベリスタたちだが、行軍は再三の停止を続けて遅れに遅れ、既に赤い夕日が台地を照らしている。 『戦姫』戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)が洞窟の中を懐中電灯で確認した。 「おそらく、目的地に着く頃には夜になってると思います」 一旦戻ることも考えたが、夜の森の行軍は厄介な上、夜行性の生き物が活発になる中を歩くのは危険だという認識で一致する。 間もなく楽が翼の加護を一向に授け、洞窟への早期潜入を決断した。 ●瘴気 ――離島、地下洞窟内。 洞窟は急勾配の上、ロッククライミングの様にして昇り降りしないと移動できない箇所があり、もし飛んで移動ができなかったら相当厄介な場所だっただろう。 翼の力で一行は列を成し、悠々と下に降り立つことができている。 辺りは真っ暗闇だが、懐中電灯で照らすと天井一面に鍾乳石が連なる神秘的な光景。 洒落た登山着に身を包んでいたリィンは、闇夜を見通す瞳を駆使して物見遊山な気分になっている。 「へえ、見事な景色だね。出来れば後でじっくり鑑賞したいけれど……叶うかなあ?」 調子を崩している二人を見る限り、それは難しいかもしれないと彼は感じていたからだ。 目的地の集落へと静かに接近していくリベリスタたち。 だがランプを持って先頭を移動していた幸成は、前方から熱源をもった相手が此方の様子を窺っているのに気づいた。 集落の急襲を考えていた一行だったが、彼の持っていた光源によって既に気づかれてしまったようだ。 「……しまったで御座る」 洞窟が夜でほぼ完全な暗闇になっていた為、光があればそれがより一層目立ってしまう。 近づいてきたリベリスタたちを迎撃するのは、蛇の外観に手足の生えた蛇人間たち六人。 足は退化して二股の尻尾のような状態となり、それを器用に這いずるように引きずって進む。 何れも手には原始的な木槍を装備し、暗視か熱感知できているのか光源は持っていない。 その奥に、瘴気の霧が覆う大蛇が控えていた。 未明はバスタードソードを抜き、一向に合図を送る。 「仕方ないわね。一気に行きましょう」 その声と共に蛇人間を先に対処すべくユーヌ、凪沙、香夏子、惟、舞姫、モノマが一斉に駆け出す。 幸成はまおと共に蛇神の下へと迂回して移動を始めていた。 ゼルマ、リィン、楽、エリス、アルフォンソは全体を見通せる後衛に自身を配置し、その間にリベリスタは各自の力の強化に努めている。 先手を取ったユーヌは印を素早く組むと呪力を解放した。 「さて。冬眠するかは知らないが、蛇らしく鈍れば楽なんだがな……」 魔力の氷雨が辺りを覆うと、ユーヌの読み通り次々と蛇人間の動きが鈍り出す。 寒冷期に冬眠する変温動物の因子がそうさせるのだろうか。しかし、奥の瘴気の大蛇には影響がなかったようだ。 舞姫はトップギアに入れたスピードを更に加速させ、黒曜を抜き放つと蛇人間とすれ違い様に音速の連撃を刻み込む。 その背後から追撃するように蹴撃を繰り出す凪沙。 「もう人間には戻れないんだよね……」 例え元人間であっても、エリューションと化した今ではどうすることもできない。思うことは倒れゆく蛇人間への憐憫の情。 幸成は大きく迂回して『瘴気の蛇神』のブロックに回ると、全身の気糸を大蛇へと投げかける。 しかしそれ等は何れも瘴気に阻まれて途中で失速し、命中させることは出来なかった。 「やはり先に瘴気を取り去らなくては駄目で御座るか」 逡巡する幸成と大蛇の後方から、まおは背負った酒を次々と大蛇に投げつけた。 「お酒に弱かったらいいなってまおは思います」 かつての故事通りであれば、ヤマタノオロチは酒に目がなかったらしい。 そう伝え聞いたまおが試したのは、直接周囲に酒をバラ撒くという手段だった。 大蛇とその周囲一面にアルコールの匂いが充満する。 効果は多少あったのか、僅かに霧が揺らいだように感じた。しかし、大きく変化した訳ではない。 舞姫とは距離を置いて蛇人間に接敵したモノマが、無骨な黒い金属の手甲で蛇人間たちを薙ぎ払って業炎を巻き起こす。 モノマと重ねるようにしてゼルマとエリスはそれぞれ魔力の矢を放ち、蛇人間の止めにかかった。 ゼルマは自身と『瘴気の蛇神』の間に鍾乳石を挟むことで、その視界に入るのを防いでいる。 「ヌシらの身は妾が癒してやる。存分に奮うが良いぞ」 今のところ動くにあたって戦闘に差し障りはない様だ。少しばかり安堵しながらゼルマは戦線を見守っていた。 隣に立つアルフォンソは認識を戦場全体に広げ、驚異的なまでの視野の広さを確保する。 残る蛇人間はあと4体。同じく香夏子にも体調不良の影響はまだなさそうだ。 「香夏子クライマックスですよ!」 全身から放つ気糸を蛇人間へと纏わり付かせ、一気に締め上げにかかった。 動きの鈍った蛇人間の動きがそのまま固まる様に止まる。 フリーとなっている蛇人間たちに、未明と彼女の残像が同時に襲来した。 「これだけ姿が変わってちゃ、家に帰せるかも分からないわね」 高速で残像を作って同時に切り裂く剣舞により、大きく傷つく蛇人間たち。 リィンは蛇人間を無視して『瘴気の蛇神』へと強弓を引き絞った。 「ふふ、じっくり苛めてあげるよ」 彼の魔力と意志を凝固して作り出した呪いの矢。それが自在に動いて大蛇を撃とうとする。 しかし蛇神の周囲を覆う瘴気がそれを許さず、矢は僅かに軌道を変えられてしまう。 惟は残った端にいる蛇人間をブロックした。 「鍾乳石が邪魔だが、端の方が複数に射線が通りやすいだろう」 その手を交差させ、暗黒の瘴気を前方へと放ち複数の蛇人間を巻き込んでいく。 反撃に転じる蛇人間たちだったが、ユーヌが氷雨で先制した為に動きが鈍っていてまともに命中させられない。 『瘴気の蛇神』は自身の瘴気を目前に現れた幸成へと大きく放つ。 吸い込んだ猛毒はその体内で活性化し、彼の身体を一気に汚染していった。 だが幸成はその場の鍾乳石を足場にしっかりと踏みとどまり、大蛇をブロックしたまま動こうとはしない。 「皆に瘴気をばらまかれるよりも、被害は自分のみに抑えるのが最善なれば……!」 不退転の覚悟。自身で招いたミスは、此処で取り返すとばかりに彼は大蛇への進行を一人食い止める。 直ぐ様楽から神々しい光が放たれ、幸成に解毒の力を分け与えようとする。 「払えないか試してみようかと……」 楽は光を強めて同時に瘴気にも注いでいった。 すると幸成の周囲の霧が一瞬フワッと軽くなり、霧が少しずつ晴れていく。 「行けますね、どうやら中和できるようです」 仮面の下の口元を綻ばせ、彼は『瘴気の蛇神』に視線を向けた。 ●帰還 ユーヌは楽の光が有効だったのを見切り、再度印を組み直す。 「頭まで退化すると悲惨だな? 悪ガキの方がまだ動きが良い」 先程の氷雨と同じぐらいの温度を感じる言葉を蛇人間に浴びせ、更に神々しい光を幸成と大蛇、そして彼等にも同時に放った。 その光が瘴気を更に消し去り、徐々に翼を持つ白い大蛇の姿が露になっていく。 「あと少しだな」 蛇人間たちは光によって特に変わる様子はなく、やはり完全にエリューション化した存在は倒すしか選択肢がない様だ。 舞姫の連撃が俄然勢いを増し、蛇人間をまた一人地に堕としていた。 蛇神の正体が見え始めたことで、香夏子は好機と見て自身が締め上げる蛇人間の気糸を解く。 「香夏子ちょっとだけ本気に切り替えです!」 彼女は全身のエネルギーを解き放ち、呪力で擬似的な『赤い月』を生み出す。 蛇人間たちへと降り注ぐ不吉の光に耐え切れなくなった所を、モノマの氷の拳が後追いを駆けて更に一匹が沈む。 エリスの回復だけで仲間の傷がある程度まで補えたのを確認し、ゼルマは再度魔力の矢を残った蛇人間へと放った。 「瘴気があれば攻撃を受けぬ、か」 『瘴気の蛇神』へちらりと視線を向け、仲間の攻撃がその瘴気に阻まれているのを確認していた。 「いったいどういう仕組じゃ? 興味が尽きぬわ」 そこへアルフォンソの誘導性の真空刃が重なり、大きく蛇人間のダメージが伸し掛る。 止めとばかりに凪沙は飛び上がり、蛇人間を蹴りで地面に叩き付けた。 「あと一人!」 気糸を伸ばして大蛇の動きを止めようと試みるまお。 「まおも瘴気と戦います、だから……」 瘴気に弾かれても、彼女が諦めることはない。 「……お医者様も、ベッドで戦ってる皆様も、あきらめないで欲しいです」 必ず、血清を持って帰る。 子供たちを必ず元通りにさせるという意志だけは曲げるつもりはない。 リィンも諦めることなく、その弓で蛇神を狙い続けていた。 「他の人の搦め手が少しでも早く効く様にね」 呪いの矢を放ちながら、彼もまた仲間たちが瘴気を完全に晴らすことを信じて待つ。 蛇人間への対処もあと一人だけとなっていた。 未明がその場から跳躍し、天井の鍾乳石を蹴って角度を付け、残った蛇人間の背後から斬り込む。 「惟! 片付けるわよ!」 名前を呼ばれた惟が手にするは、禍々しい黒光を込めた冥界の女王を名付けし片手剣。 「名前のみではあるが……確実に、冥界へ送るとしよう」 正面から告死の呪いを深く刻みつけ、最後の蛇人間は双方からの刺突によって地に倒れた。 楽は更に光を大蛇へと照らし、神々しい力を持って霧をすべて消し去っていく。 「さぁ、決着を付けましょう!」 『瘴気の蛇神』は自身の瘴気が消え去ったことに驚愕し、新たな瘴気を生み出して幸成へと繰り返し注ぐ。 強烈な毒気に再度侵され、例え自身の生命力を使い果たそうとも。 運命を手繰り寄せて身体を張って、その場から大蛇を離さない幸成。 「……自分を恨んで逝くがよいで御座る」 更なる瘴気もユーヌの光の前に消え失せ、一気呵成に飛び込んでくるリベリスタたち。 モノマが手にしていたのは『八塩折之酒』。 「冥土の土産だ!遠慮なく飲みやがれっ!」 瘴気を創ろうとする大蛇の口へと正面から突っ込み、伝承の模して創られた秘酒を注ぎ込む。 体内に入れた途端に瘴気の発生が止まり、蛇神は小刻みに震え出した。 そこをリベリスタたちの止まらぬ連携が襲う。 未明が、凪沙が、ゼルマが、香夏子が、リィンが、まおが、惟が、舞姫が、モノマが、エリスが、アルフォンソが。 そして反撃しようにも、ユーヌと楽が神々しい光を放ち続け、幸成が大蛇の身体を抑えて離さない――。 八方塞がりの『瘴気の蛇神』が完全に絶命するまで、彼等の攻撃は決して止むことはなかった。 ――離島、診療所。 リベリスタたちから医療班にペットボトルに確保した血清が渡り、無事に子供たちの病は快方へと向かう。 仕事も終わりバカンス気分に浸りたい一行だったが、翌朝には森で病原体を移されたらしいゼルマと香夏子が高熱を発症。 結果、全員直ちにアーク本部へ帰還して検査と治療を受ける羽目になったのだった……。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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