●暴発する弾丸 「で、どうするんだよ……?」 その男は、苛立たしげに呟いた。 雨が鬱陶しい、春のある曇りの日のことだった。 ひとけの無い裏路地に見える幾つの人影。雨は弱くはないのに、その人影達はいずれも傘も差さず合羽も着ないで、雨など意に介す様子もなく何かを話し合っている。 人影は全て体格のいい男性で、全員が武器と呼んでも差し支えないものをそれぞれ手に持っていた。 「どうするんだって聞いてるだろうが……」 声を一段低くして、彼はもう一度周囲に問いかけた。 手に持ったリボルバー拳銃の銃身を、雨粒が伝い落ちていく。 見るからに獰猛な雰囲気を持った男だった。 髪は安っぽい金色に染め上げられて、一見すればチンピラにしか見えないが、しかし、そんな言葉では表しきれない凶暴な空気を辺りに撒き散らしている。 まるで、餌を探している空腹の肉食獣のようだ。 「どうする、と言われてもな」 周りいる男の一人が返した。こちらは布にくるまれた長さ1m程の棒状のモノを握っている。 「俺達が命じられてるのは探りを入れることだ。それ以上のことをする必要はねぇだろ」 別の男が言う。こちらは大型のボウガンを背負っていた。 「あぁ? テメェら、そんなんでいいのかよ、やっと巡ってきた機会なんだぜ?」 男達の答えを聞き、金髪の男は不満げに片眉を上げた。 「鰐淵、おまえはただ暴れたいだけだろうが。言っておくが、今回のシゴトはこれまでとは違うんだぞ?」 また別の男が言う。その男は右手に布を巻いていた。手に付けた何かを、隠しているようにも見える。 「ケッ、クソつまんねぇ」 言うと、鰐淵と呼ばれた金髪の男はリボルバーの銃把をグッと握り締めて、一人でどこかへと歩き出そうとした。 「おい、どこに行く」 また別の男が言う。その男はスーツ姿で手に何も持っていなかった。ただし、スーツの下が一部膨らんでいる。どうやら、銃を忍ばせているようだ。 「どこって、シゴト場さ。俺達ァ、これからシゴトしなきゃなんねぇだろう?」 「……俺達のシゴトは探りだけだぞ。それ以上のことは――」 「だから、探りを入れるんだよ」 鰐淵が笑った。その顔に危険なモノを感じ取り、ボウガンを背負った男が問う。 「何を、するつもりだ?」 「殺すんだよ」 振り返った鰐淵が、獣のような笑みを深める。 「テキトーにその辺にいるヤツぶっ殺して、連中が来るのを待ってよぉ、とっ捕まえりゃあそれで終わりだ」 「おまえ……!」 「いいじゃねぇか。俺達ァ所詮、しがない鉄砲玉だぜ」 そして鰐淵は肩を揺らしながら「だったら」と続けて、 「中には、暴発する鉄砲玉だってあってもおかしくねぇよなぁ!」 「待て、鰐淵!」 駆け出した鰐淵を、残る四人が追う。 しかし、先んじて大通りへと出た鰐淵は四人が自分を抑え付ける前に、リボルバーの引き金を引いていた。 こうなってはもう後戻りが出来ない。残りの四人も腹を括って、鰐淵と同じ行動に出る。 そして、数多の悲鳴が、雨の降る街中にこだました。 ●男の名は 「男の名前は、鰐淵遼貴」 集められたリベリスタ達に、『リンク・カレイド』真白イヴ(ID:nBNE000001)はまずその名を告げた。 「フィクサードの男で、とある暴力団の構成員。無茶、無謀、無軌道な暴れん坊で、通り名は『暴発猟鬼』。単純に怖い人、で、いいと思う」 率直な感想を漏らすイヴに、リベリスタ達はまずは問う。 「その男が、何をするって言うんだ?」 「雨の降る夕刻、鰐淵は仲間のチンピラ達と一緒に大通りで人を殺すの。いっぱい殺すの。それを、カレイド・システムが予見した」 問いかけたリベリスタが驚きに声を失う。 単純に怖い人が引き起こす事件は、単純に怖いこと、ということか。 「それを止めればいいんだな?」 イヴがコクリと頷いた。しかし彼女は「でも……」と続けて、 「どうも、おかしい。フィクサードの事件は毎日起きてるけど、一度にこれだけ感知されたからには……何か事情がありそう。今、アークの方でも調査をしている所なんだけど」 「事情……、か……」 「フィクサードの考えていることまでは、分からないけれど」 イヴの言葉にリベリスタ達も「まぁ、そうだけどな」と頷く。 相手が何を考えていようと、目の前にある事件は防がなければならない。 「戦場は多分、路地裏になるけれど、大通りが近いから注意してね。奥の方に、もっと閑散とした路地があるから、そこに誘い出せればいいかもしれない」 「相手の中で特に注意するべきは、その『暴発猟鬼』だけか」 「そう。鰐淵さえ叩けば、あとは、どうにかなると思う」 そしてリベリスタ達を送り出す前に、イヴは最後にこう告げる。 「敵は、単純に怖い人で、単純に悪い人。遠慮する必要はないわ」 「ああ、分かってる」 リベリスタ達は応え、現場に向かうべくイヴに背を向けた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:楽市 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年05月28日(土)01:46 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●挟撃 「待て、鰐淵!」 場面は、今まさに鰐淵遼貴が大通りへ出ようとしているところだった。 四人のフィクサード達が彼を追おうとする。 そこへ、「こらー!」という少女の声が割り込んできた。 「あぁ?」 鰐淵が動きを止めて振り向くと、そこにはこれ見よがしに大きな犬耳を持った少女がいた。『臆病ワンコ』金原・文(BNE000833)であった。 一見してビーストハーフと分かる彼女の姿を見て、鰐淵の顔に笑みが浮かぶ。 「現れやがったなぁ……」 「その銃、撃てるもんなら撃ってみろっ!」 真っ正面から殺気を受けて、やや上ずった声で言う文に、鰐淵は獰猛な笑みを深めた。 「上等だぁ、テメェからとっ捕まえてやるよ!」 鰐淵が、文目掛けて走り出す。それを見ていた他のフィクサード達が慌てて彼を追った。 「鰐淵、待てと言ってるだろう!」 同時刻、少し離れた場所では『Gimmick Knife』霧島 俊介(BNE000082)が、雲に覆われた暗い空を見上げて顔をしかめていた。 「雨か、嫌な感じだ……」 そんなことを呟いていると、懐の携帯電話がかすかに震えた。俊介は「来たな」と思い、そこにヘッドセットを繋げて電話に応じる。 一言二言、言葉を交わして、彼はその場にいる仲間達に告げた。 「あっちは動き出したみたいだ」 俊介に連絡を寄越したのは、文と同じ班に属する『箱庭のクローバー』月杜・とら(BNE002285)である。彼女の耳には、近づいてくる文の足音がはっきり聞こえていた。 「では、行きましょうか」 『弓引く者』桐月院・七海(BNE001250)が弓を握って、隠れていた物陰から立つ。 「待てや、ガキィ!」 文を追いかける鰐淵の前に、スッと曲がり角の向こうから現れたのは『不迷の白』八幡 雪(BNE002098)。その静かな戦意に満ちた視線が、鰐淵を射抜く。 「待つのは貴様らだ。世界の住人には、棲み分けというものがある」 「あぁ?」 七海ととらも一緒に出てきて、細い道に壁を作った。 「堅気の人を、的になんてさせませんよ」 言われた鰐淵は、自分が誘われたことに気付いた。後方では追いついてきたフィクサードの「単純なヤツめ」という呟きが聞こえてくる。 「……まぁ、いい。テメェらのガラを攫っちまえば済む話だ」 「ま、負けないんだから……!」 文がやや気圧され気味ながら、武器を構えた。 「数の上ではこちらに分があるが、従わないのならば仕方がないな」 フィクサードのデュランダルが、巻いていた布を外して長剣を雨に晒した。 「来ます!」 とらが言うが早いか、フィクサード達が駆け出した。 それに対し、四人は自分達からは前に出ずにその攻撃を受け止める。 「なんだぁ? そんなへっぴり腰で俺達を止めるつもりだったのかよ、あぁ!」 威嚇のつもりなのだろう。鰐淵が笑いながらリボルバーを空に向かって二発ぶっ放した。 雨音が激しくなければ、銃声は大通りにまで届いていたかもしれない。 「くっ!」 しばしの戦闘行為ののち、七海が低い呻きを残して後方に下がる。 彼だけではない。四人は戦闘らしい戦闘もしないうちに、皆が後退を始めていた。 「オイオイオイオイ、どこに逃げるつもりだてめぇ!」 「鰐淵、ちょっと待て。おかしいぞ!」 覇界闘士がこの状況に疑問を抱いたが、鰐淵は止まらなかった。 「うるせぇ、あんな連中だったら俺一人でも充分だ!」 「……馬鹿か! どんどんと路地の奥の方に誘われてることに気付いてないのか?」 「――実際、馬鹿なんじゃないの?」 辛辣な一言は、フィクサード達の後方から聞こえてきた。 「こうまで単純だと、呆れるしかないわね。本当、考える事も無しに馬鹿みたい」 心底見下している物言いで、『通りすがりの女子大生』レナーテ・イーゲル・廻間(BNE001523)が鰐淵を見て一つため息をついた。 「他の連中はそうでもないようじゃが、鰐淵とやらは実に単細胞じゃのう」 続いて出てきた『煉獄夜叉』神狩・陣兵衛(BNE002153)もそう言って、鰐淵に冷笑を向ける。 さらに『羽ばたき続ける翼』神崎 隼人(BNE000545)がそれに続いて、最後に俊介が表に出て告げた。 「おい、鰐淵遼貴さんよ、オマエ友達いねーだろ? というわけで、壊れ物処理に来たぜ!」 「……挟まれたか」 前方の文達と、後方の俊介達を交互に見て、スターサジタリーが苦い顔をする。 「ハメやがったなぁ……!」 鰐淵の顔つきが、これでもかと言うほどの憤怒に歪んでいた。もはや理性のカケラも見えないその様子に、レナーテがまたため息を一つ。 「キレやすい人って、本当に話にならないわね。面倒くさい」 「話すまでもねぇ! テメェら、バラしてやんよぉ!」 その一言に本当にキレた鰐淵が、大きく吼えて駆け出した。 ●暴発阻止 「殺してどうするんだ、あの馬鹿め!」 銃を抜いたマグメイガスが、鰐淵の方へと駆けようとする。 「こちらはこちらで、相手を務めて貰うか!」 そこに短槍を振るって雪が切り込んでくる。 彼女の鋭い連撃を前に、マグメイガスは前に出ることが出来ずその場に縫い止められた。 「チッ、ならば――」 舌打ちをしてボウガンを構えようとしていたスターサジタリーの腹部に、放たれた光弾が着弾する。衝撃に息を詰まらせ、スターサジタリーはその場に膝を突いた。 「ぐ、ごほっ……! 貴様ら!」 光弾は、七海がそのヘビーボウで撃ったものだった。 「ならばこちらから破る!」 デュランダルが後方に身を翻して長剣を振り上げた。それを、陣兵衛が斬馬刀で受ける。 「剣の使い手同士、仲良く刃を交えようではないか!」 覇界闘士の方には、隼人が向かっていた。五人のフィクサードは思うように動くことが出来ず、それがまた鰐淵にさらなる怒りを募らせた。 「テメェらぁぁぁ!」 「喚けばそれでいいと思っているの? 安いわね」 そこにレナーテの罵倒。それは鰐淵が彼女を狙うのに充分なきっかけだった。 「なら、テメェから殺してやるよ!」 鰐淵がリボルバーの銃口を彼女に向ける。無論、レナーテとてその場に突っ立っているワケではない。彼女は両腕のシールドをかざし、鰐淵と相対した。 「……そのまま、そのまま~」 両者の対峙をドキドキしながら見つめつつ、文が己の影を立ち上がらせて静かに意識を尖らせ始める。 文の行動に気付いた俊介が、鰐淵の意識が彼女に向かないよう、声を上げて囮になった。 「そっちばかり見てるなよ!」 俊介の描いた魔法陣が魔力の矢を形成して、鰐淵の脇腹を撃ち抜いた。 「ぐう……、このクソ共がよぉぉぉぉ!」 荒々しく咆哮する鰐淵を、しかし、他のフィクサード達は冷ややかな目で見ている。 「どこを見ておる!」 隙を見つけて攻めようとする陣兵衛だが、デュランダルはその一閃を長剣で難なくいなし、退いて間合いを取った。その動きに、陣兵衛は感じ取る。 ――個々の技量ならばあちらが上か。 「その程度の腕で、俺達を捕らえるつもりか?」 相手も力量差を看破したらしく、微塵の隙も見せずに問いかけてきた。 「……確かに、腕はそちらが上のようじゃが、ならばなぜもっと本気にならぬ?」 腕はあちらが上。しかし本気ではない。そのくらいは見抜ける陣兵衛であった。 「…………」 デュランダルはもうそれ以上喋る気はないのか、無言で切っ先を上げるだけだった。 「せぇい!」 「ぐっ!」 発生した熱が、雨粒を蒸気に変える。隼人が覇界闘士の業炎撃を喰らって転んだ。 「隼人!」 しかし、すかさず俊介が癒しの風を呼び出し、彼を癒す。 「鬱陶しいぞ、おまえらぁ!」 動きを阻まれ、苛立ちを募らせていたマグメイガスがそこで雷撃を呼び出した。 「うあぁ!」 「くぅっ!」 雷撃は路地全体に荒れ狂い、リベリスタ達を残らず薙ぎ払った。チチ、という放電音が、幾度か瞬いてやがて止む。 「皆さん、頑張って……、ください!」 とらの呼び出した清らかなる福音が、リベリスタ達から痛みを取り除いていった。 さすがにフィクサード側も悟る。個々の力量では上回っていても、連携という面では、自分達はこの相手に遠く及んでいない、と。 何せ、最も力量の高い者が、最も連携を乱しているのだから。 「ハッハハァ、近づけば俺には攻撃出来ないと思ったかよぉ!」 鰐淵は目を見開いてレナーテを睨め付ける。 その眼光が、彼女の脊髄にドスンと響いた。 ――ただ睨まれただけじゃ、ない!? 驚きに仰け反るレナーテだが、すでに鰐淵は眼前にまで迫っていた。今の眼光が自分達が使っているスキルと同質のものであるなら、全く未知のスキルであった。 「ヘッヘッヘェ、その高ェ鼻っ柱、ぶっ潰してやるよ!」 鰐淵が握り込んだ拳をレナーテに叩き付けようとする。 「えーい!」 そこで、文が叫んだ。 雷撃を受けても崩さなかった集中をここで解き放ち、形成した気念の糸は狙いから寸分違わず、鰐淵の首に巻き付いて締めた。 「ぐぅッッ、テ、メ……!」 首を絞められ、大きく仰け反る鰐淵が、その血走った目を周りのフィクサード達に向けて大声で喚き散らした。 「な、に見てやがる! 早く……、助けろよ!」 「勝手なことを……!」 思わず、スターサジタリーが毒づいた。 「……あの人、見捨てちゃえばどうですか?」 相対する七海に言われ、スターサジタリーは雨に張り付く前髪を掻き分けて苦笑した。 「悪くない提案だ。が、見捨てるのも筋違いだからな!」 スターサジタリーが七海にボウガンを向ける。戦いは、まだ終わってはいない。 だが拘束された鰐淵の方は、すでに終わりが見えかけていた。 「貴様の牙、ここで折らせて貰う!」 デュランダルを離れ、陣兵衛が繰り出すメガクラッシュに体勢を崩された鰐淵へ、リベリスタからの攻撃が集中する。 俊介ととらのマジックアローをまともに受け、軋む身体に声も出せず喘いだところに、さらに雪が幻惑めいた流れから鋭い一撃を叩き付けた。 「がぁ、ああ! ぁぁあ!」 傷口から血が激しく噴いた。しかし尚も鰐淵は倒れない。 「……まだ立つか。その力、心根さえ歪んでいなければ優れた物となるものを」 どこか口惜しげに、雪は言う。 しかし、鰐淵の忍耐も所詮は独力。最後はレナーテのヘビースマッシュが、崩れかけていた彼をようやく沈黙させた。 「ヤナ手応え……。だから、人を殴るのは好きじゃないのよ」 仕方がないと思いつつも、やはり馴染めずにレナーテはそう呟いた。 ●日常へ 鰐淵が倒れた。 それは、リベリスタ側とフィクサード側の共通見解であった。 しかし鰐淵遼貴も、ただのエリューションではない、フェイトを得た存在なのである。 「てめぇらぁぁぁぁあああ!」 全身を血と雨水と泥にまみれさせ、鰐淵が凄まじい形相で馬の全員を睨んだ。 「そんな、コイツ、まだ……!」 リベリスタ達の意識が、一斉に鰐淵に向く。 「今だ!」 叫んだのは覇界闘士。 彼は目の前に立つ隼人を殴り飛ばすと、仲間達に向かって指示を下した。 「退くぞ! 分が悪すぎる!」 「いいのか?」 「構わん! あんな狂犬は放っておけ!」 「分かった!」 スターサジタリーがそこで激しい弾幕で張って、こちらを攪乱してくる。 「おのれ……!」 弾幕が晴れたとき、すでに四人の姿はなかった。 「クッソ、待てよ!」 俊介が奥歯を軋ませ、敵を追いかけようとする。だが鰐淵は、四人が逃げた方向とは全くの別方向に走り出していた。そちらには、大通りがある。 「殺す、殺してやる。……ぶっ殺してやる!」 「まさか、一般人を……!? 何考えてるんですか!」 それに気付いて、文が耳をピーンと立てた。すでに鰐淵は大通りへと向かっている。 「鰐淵の方を追いかけましょう!」 七海の言葉に皆が頷き、リベリスタ達は鰐淵を追った。 「ナメ、やがって……。ナメやが、って……!」 うわごとのように呟きながら、鰐淵は大通りが見える道の前までやってくる。 「させるかぁ!」 だがその背中に、俊介のマジックアローが突き刺さった。 「ぐ、が……!」 鰐淵の身体が雨の道に転がった。しかし、彼は諦めていない。 執念に燃える瞳を大通りに向け、震える銃口をそちらへかざそうとした。 「ヘ、ヘヘヘ……、死。ね……!」 「やらせないって、言ってるのよ!」 鰐淵が引き金を引こうとした、まさにその瞬間、レナーテが両手を広げて射線を遮る。 一度、二度、三度、四度と、銃口より閃火が瞬いた。 そのたびにレナーテの身体が小刻みに震え、銃創から噴き出した血が辺りに散った。 だが―― 「こんな……、のでぇ!」 穿たれた傷口より銃弾がぽろりと落ちて、傷が少しずつ埋まっていく。それは彼女が世界より借り受けた自己治癒の力であった。 「小、娘ェ……!」 鰐淵がもう一度、引き金に指をかける。だが、その掌を短剣が上から串刺しにした。 「その暴力……、ここで断つ!」 雪だった。 追いついてきたとらが、「もう、無茶して!」と、レナーテに駆け寄る。 「ウ、ガアアアァァァァァァァァァァァァ!」 轟く咆吼。鰐淵は道路に縫い止められた手を無理矢理引っ張って、骨と肉がバリバリと裂ける感触に意識を焼かれながら、短刀の戒めから逃れた。 「こやつ、まだ抗うか……!」 鰐淵の常軌を逸したしぶとさに、陣兵衛も面食らう。 「オオオオアアアアアアアアア!」 もはや言葉にならない奇声を発しながら、鰐淵はまた逃げようとする。大通りからは遠ざかったものの、放っておけるものでもない。 「あっちには、確か川が……。逃がすな!」 周辺の地図を頭に叩き込んでいた雪が言った。七海が、弓を構える。 「クッ、こ、殺してやる、殺して……!」 「鰐淵ィ!」 橋の上に差し掛かったところで、俊介の叫び声。鰐淵が振り返り、彼を睨もうとする。 「そこっ!」 だが、そこで七海が撃った矢が、鰐淵の左胸に突き立った。 血が、ブバッと噴き出し、鰐淵の動きが止まる。 「……ケケ、ケ」 全身を血に濡らし、彼は笑う。凄絶な笑みだった。 「てめぇら全員、必ず、殺して……、や――」 最後まで言う前に、その身体は増水し激流と化している川へと落ちていった。 「しまった!」 リベリスタ達は橋の上へと走るが、しかし濁った激流の中から鰐淵を見つけることは、ついに出来なかった。 「逃がして、しまいましたか……?」 「手応えはありましたけど……」 不安げに問う文に、七海はやはり不安を残す表情で呟いた。 「情報を得ることは叶わなかったが、事件は防げたのじゃ。よしとしようではないか」 「ああ、みんなも無事でよかったぜ!」 皆の不安を払おうとする陣兵衛の言葉に、俊介も笑って頷いた。 「ああ、そうだな。では、我々も早々に立ち去ろう。それで、この場に日常が戻る」 雪の言葉を最後にして、リベリスタ達は自らの居場所へと戻っていった。 それは誰も知らない、世界の裏側での戦いの一幕。 しかし確かに、人々の日常は、守られたのだ。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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