●だからあの階段とかをびょんびょんって下りて行くヤツだってば 割とどこにでもある、長い石の階段。 その真ん中辺りにオッサンが座っていた。 首にはネクタイ。黒縁眼鏡。そして傍らにはワンカップ酒。 「……はあ」 オッサンは海より深いため息をついた。 昨今各地の公園からブランコが撤去されて久しいからか、こういうオッサンの居場所はどんどんなくなって行く。 「子供のころは良かった。簡単な玩具で歓び、そしてはしゃいだ……」 ……などとぶつぶつ言ってると、階段の上の方から『しゃよんしゃりょん』という独特な音が聞こえてきた。 「そうそう、そんなふうな……ハッ!」 思わず振り向く。 彼の両目には、階段をみょんみょん下りて行くバネみたいな玩具が映った。 まだあったのか、あれ! オッサンは歓び勇んでびょんびょんへと駆け寄ろうとした……が、しかし。 「こ、これは……!」 なんとそのびょんびょんは、全長3mものE・ゴーレムだったのだ! オッサンはびょんびょんに巻き込まれ、長い長い階段を転げ落ちることになった。ぶっコロがされたのである。 ●あの……あれ、しまっておくとバネ絡まってどうやって取るのか分かんなくなって結局引っ張るんだけどびよーって針金伸びて使い物にならなくなっちゃうアレだよ! 「ふ、ふふ……ふへへっ……」 ひな人形でも飾る様な七段階段を、バネ状の玩具が下って行く。 ただそれだけの光景を、アイワ・ナビ子(nBNE000228)はニヤニヤしながら眺めていた。 かたときも目を離さずに喋り出す。 「むかしー、このびょんびょんがスゴイ好きでー、お小遣い溜めて買ったんですけどねー」 なんでも某所神社付近の参道にE・ゴーレムが出現したらしい。 巨大なバネのような形をしており、バク転のような動きで移動しながら相手を巻き込み、投げるなり潰すなり間に挟んで転げ落ちるなりと言う、単純な見た目からは想像もつかないようなテクニカル戦闘をこなすと言う。 「うちー、階段なくってー。おじいちゃんち行った時とかしか遊べなかったんですよー。でもね、駅の階段とかなら長いし使えるじゃないですかー。それで近所の駅に繰り出してびょんびょん遊びしたんですけどもー」 数は一体限りだが、意外と強いんだかなんなんだか、結構耐久力も高いんだそうだ。 「やり始めた途端通勤ラッシュがやってきてですねー、足元にバネがあると知らずに踏んだ人がすっ転んで後ろの人に当たってその人が更にぶつかってー……」 一般人が巻き込まれたらひとたまりもない。 コイツを皆の力で撃破してほしい! 「ダッシュで逃げましたよ……それはもう……ダッシュでね……へへ、へへへ……ごめんおいちゃん、ごめんよう……」 ナビ子は階段に寄りかかり、およよーと泣き始めた。 「あ、怪我人は奇跡的にいなかったみたいっす」 E・ゴーレムを倒せるのは君達だけだ。 頼んだぞ、リベリスタ達よ! |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:八重紅友禅 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 9人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年05月28日(月)23:03 |
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■メイン参加者 9人■ | |||||
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●ハイテク化が進む現代において決して忘れてはいけない素朴な心がこの依頼に詰まっていると思ったら大間違いだヤーイヤーイ! 「あのですね、折角だからアマゾン川さんでポチってきたんですよコレェ」 「本当、面白いですねっ! 両手の間を行ったり来たり……この誘惑が3mかあ、気を付けなければ!」 『極北からの識者』チャイカ・ユーリエヴナ・テレシコワ(BNE003669)が手と手の間でひたすらわしょんわしょんとバネ状の玩具を弄んでいた。 それをまじまじと見つめる『銀の腕』守堂 樹沙(BNE003755)。 「詳しく原理を説明するとですね、重力を運動力に変換する際スプリングがしなることでバネの強度によっては半永久的に……」 「あ、説明長いなら先行ってますね!」 「わふっ!?」 慌てて振り向くと、樹沙と他の仲間たちはとっとと先に行っていた。 「ちょっと、置いてかないでくださーい!」 うわーんと言いながら追いかけてくるチャイカを背に、『断魔剣』御堂・霧也(BNE003822)は過去へ思いを馳せていた。 「アレな、ガキの頃に遊んだよ。無理に弄って壊したっけな。魔改造とかするもんじゃねえよほんと……」 「わかるよ。バネが伸びきって使い物にならなくなったなあ……」 深々と頷く『正義の味方を目指す者』祭雅・疾風(BNE001656)。 「あ、やっぱりあれ、誰でもあるんですね。箱をなくしちゃって、乱雑にしまっておくと必ず他のものと絡まって大変なことになったりしません?」 「ああ、あるある!」 ぱちんと手を叩く『ライトニング・フェミニーヌ』大御堂 彩花(BNE000609)。 びょんびょん(色々な大人事情からこう表記させて頂く)のあるあるネタで盛り上がる15~24歳層。 リアルに考えたら非常におかしな光景だが、こういうことがいつも起こるのがアークというモンである。 「あの商品名……スリンキーだったか? 類似品や何かが大量に出回ってワケが分からなくなっておるが」 『エア肉食系』レイライン・エレアニック(BNE002137)が顎を摩りながら首をかしげる。 「語源を調べたら『優雅で流れるように動く』的な意味らしいの。よう家の階段で遊んだ……懐かしいのう……」 「その外見(幼女)で『懐かしい』って言うと凄くシュールじゃない?」 「誰がロリババア(還暦)か?」 ニコニコ笑う『歩くような速さで』櫻木・珠姫(BNE003776)。 「あたしの家にもあったよ。ただ転がって行くだけなのになぜかやめられない止まらない、かっぱえびせん状態だったよね。ああいうのが本当の玩具って言うのかな」 「確かに……面白い遊具だな。よくぞ考え付いたものだ」 すっと目を閉じるリオン・リーベン(BNE003779)。 その横で『スレッシャー・ガール』東雲・まこと(BNE001895)がだぶついた袖をぱたぱたと振った。 「それがエリューションだっていうんだからな。ふざけたやつだ。とっととスクラップにしてしまおう」 そこでふと思う。 「金属体だけ残ってたら、売っ払えないかな」 ●単純な造形に騙されて戦闘力を見くびると大変痛い目に遭うぞという教訓は一切無い。 誰でも何となく知ってると思うので詳細な説明を省くが、巨大なびょんびょんが広い雑木林を縦横無尽に飛び回り時にはスピンジャンプやムーンサルトをトリックしまくる光景を、想像できるだろうか? 「な……何だろう、あれ……」 「『単純な見た目からは想像もつかないようなテクニカル戦闘をこなす』とは聞いていたが……うむ……」 揃ってこめかみを揉む珠姫とリオン。 「じゃあ、あたしがディフェンスやるから、リオンさんはオフェンスお願いできる?」 「いいだろう。お互い手間が省けると言うものだ」 D/Oドクトリンをドクドクする二人。 「状況確認、準備良し! びょんびょん型Eゴーレム制圧行動、開始!」 「……おや? 今スキルの描写をひどく投げやりに扱われた気がするのだが」 「気のせいじゃないかな!?」 「それと、アイワ氏はもっとちゃんとナビゲートするべきではないか? 地の文で説明しきっていたぞ?」 「地の文で説明されてたってことは、実はあの前後に説明をしっかりされてたってことじゃ?」 「ふむ、そうか……」 「って言うか、メタりまくりだね」 などと言いつつさっさとEびょんびょんから離れていく。 見た目はともかく、攻撃を食らったらひとたまりもないのが分かっているのだ。 入れ替わるように疾風が前へと出る。 「コミカルな見た目とは裏腹に、放って置けば被害が増大する一方だ。ここで食い止める――変身!」 微発光。そして両手にモーニングスターと銃を出現させた。 「思ったよりでかい。離れた所から射撃で牽制しよう」 「そう、だな」 まことがチェーンアンカーを頭上でぶんぶんと振り回した。 ビクッとする疾風。彼もモーニングスター使いではあるが、マジな錨をぶん回してる人は初めて見たかもしれない。 「公道での玩具遊びは大人がうるさいからな。さて、試し打ちをさせてもらうぞ」 疾風が射撃と斬風脚でEびょんびょんを牽制する横で、まことは豪快にアンカーを叩き込む。 ……まあその。 持っていた人のうち、試したことがある人なら分かると思うのだが、あのびょんびょんに糸だの針金だのを通したり、ネックレスのチェーンを巻きつけたりするとびっくりするくらい絡みつくもので、強引に引っ張ろうものなら針金が歪んで使い物になんなくなっちゃうものだ。 が。 「まさか千切らないよな?」 「いやまさか」 「そう――おぉっ!」 疾風の脇からまことが消えた。 より正確に言うなら、びょんびょんに引っ張られてすっ飛んで行った。 空中を軽く振り回され、樹木に激突しそうになった所でチャイカがキャッチ。『はうあっ』と言ってチャイカは後頭部をぶつけた。 その間にまことはアンカーを回収。 チャイカはたんこぶのできた頭をさすりながらまことを見下ろした。 「あのー、傷癒術持ってません?」 「持ってないが?」 「うう……どうしよう。チャイカさん、新感覚癒し系魔法少女と似た声してるくせに回復持ってないんですよね」 「それはそれで正しいのでは?」 他に回復持ってそうな人はーと言ってタブレットをぐりぐりするチャイカに、彩花がそっと近寄ってきた。 耐久力はあるから任せておけ、という意味である。 「さて、まずは私達で距離を詰めます。びょんびょんは存在意義的に階段を目指す筈です。まさか『大地は大局的にみれば巨大な階段と言える!』とかゆでたまご理論爆発させないでしょうし」 させそうで怖い、と思いつつも接近を図る彩花。 彼女に続いてレイラインも突撃をしかけた。 「まずは脆い所を狙って切りつけるぞよ!」 「はい、一緒に行きましょう! まさかバネの間に武器が挟まって吹っ飛ばされるなんてことはないでしょうし!」 「いちいちフラグを立てにかかるでな――はうお!?」 しゃわーん、とびょんびょんが下りてきた。 ただ下りてきたのではない。彩花とレイラインを上からすっぽり覆うようにして下りて来たのだ。 「きゃ!? 髪がっ、長い髪が思いっきり絡まって……痛たたたたっ!」 経験したことがある人ならきっとわかってくれる筈。 彩花の腰に届くロングヘアがびょんびょんに絡まり、壮絶に下方向へ引っ張った。 すわフラグ回収かと思いきや、レイラインがにやりと笑う。 「これも狙いの内よ。ここからソニックエッジで動きを止めてずっとわらわのター」 レイラインの剣がびょんびょんのバネに引っかかった。 フラグ回収である。 そして、びょんびょんが階段へと爆走した。 「ちょ、階段落ちる速度やばいやばい! これ転げ落ちるってレベルじゃにゃぎゃー!?」 「レイラインさん剣しまって剣!」 「尻尾がああああああ! にゃぎゃあああああ!」 二人の絶叫と共に階段を転げ落ちていくびょんびょん。 サッと右によける霧也。すれ違いざまにとりあえず暗黒を叩き込んでおいた。(レイライン達は巻き添えにしておいた) 「……おお、今気づいたけど、あのびょんびょんって大きすぎて階段がただの『斜面』なんだな」 うんうんと頷いた後、彩花たちを助けるべく階段を駆け下りて行った。 で、階段の下の方では何をやっていたかと言うと。 樹沙が。 「たとえこの身が闇に飲まれる日がこようとも!」 わしょんわしょんわしょん。 「それまではこの力を使わせて頂きます!」 わしょんわしょんわしょん。 「その無機質な身体で闇の力を感じなさい!」 わしょんわしょんわしょん。 「動くときにかならず金音が鳴るのがあなたの弱点です!」 わしょんわしょんわしょん。 「動きをよく見て音を聞いて、そうすればワタシも巻き込まれませんよ!」 わしょんわしょんわしょん。 「闇の力よ――」 わしょんわしょんわしょん。 ……と。 とてもまじめなことを言いながらEびょんびょんに暗黒やら魔閃光やらを撃ちこんでいた。ちなみに出番が遅めだったのはひたすら集中しまくっていたからである。 急いで階段を下りてきた珠姫は、その光景に目を伏せた。 「真面目にやればやるほどシュールになる呪い……か」 「なに、構造上伸ばしきったり捻じったりすればもとには戻るまい。こいつもそうしてやったら終わるのではないだ――」 悠然と歩いて来て、さあ味方にインスタントチャージしようかと構えたリオンを、Eびょんびょんが横からかっさらって行った。 バネの間に巧妙に挟み込み、空中で軽く二回転してから空へと放り投げた。 「り、リオンさーん!? 何あの投げ技!?」 「ふふ、見ましたか……あれが進化したびょんびょんの動き」 悪の黒幕みたいなセリフを吐きながらタブレットを翳すチャイカ。背面のカメラでびょんびょん(そして大空を舞うリオンやレイライン達)を撮影していた。 「こんな珍事はそうそう起きないですからねえ。大変貴重な映像なのです」 「……あの、思ったんですけど」 再度集中しながらそそそっと下がってくる樹沙。 「その映像、どう見ても変なCGですよ」 「はうあ!?」 Eびょんびょんの造形がシンプルすぎることもあって、たしかに一昔前のアートCGみたいな映像になっていた。 「無事か、皆!」 絶句するチャイカを追い越して、簡易飛行で飛び込んでくる疾風。 彼はモーニングスターを器用に振り回し、Eびょんびょんの側面だけをぼかすか殴りつけた。 Eびょんびょんもやっぱ基本は針金なのか、真ん中の部分が徐々に疲労し、なんだか目に見えて動きが鈍くなっていった。 「ハッ……このまま真ん中で折れたら分裂するんじゃね?」 「え、まさか!? しないですよね!? そんなプラナリアみたいな!」 「リオンさん起きてー! しんじゃだめー!」 「何事も……適したサイズがあるということ……か」 チャイカや樹沙、珠姫やリオンが若干緊張感を削いでいく中、漸く霧也が到着。 「おーい、生きてるかー?」 「よごれちゃった……ぼろぼろに……」 彩花が、何か背徳的なことをし終わったみたいな感じで地面に倒れ込んでいた。具体的にどうとは言わないが。 「ひどい、誰がこんなことを」 「少なくともこの『不吉』状態はあなたのせいですよ?」 ゆらりと立ち上がる彩花。 「本当に、どうしてくれるんですか。ここまで長いと髪の手入れって大変なんですよ。馬油で丁寧に髪をすきながら洗って強度をひたすら強めたり、朝爆発しないようにお団子状にネットで丸めて寝たり……」 「おまえ、バブル時代みたいなことしてたんだな」 「一応社長令嬢なので……ではなくっ!」 ぐっと拳を握りしめる彩香。 「髪は女の命。代償は支払って頂きます! まことさん!」 「ああ……最初からこうすれば良かったのかもな」 階段に腰掛け、もうそろそろ帰りたいなって顔をしつつ呪印封縛するまこと。 Eびょんびょんはその場にびったんと倒れて毛虫の如くもがいた。 「うおおっ、こうしてみるとひたすらにキモい!」 「昔こんな玩具あったなああ……」 レイラインと霧也がここぞとばかりに近づいて行って、微妙に逆方向へ捻じったり引き伸ばしたり途中で反転させて先端同士を絡めちゃったりと好き放題に弄り回した。 さらに氷を間に詰め込んだり電流を流して金属疲労を起こしたりとやっぱり好き放題甚振り続けた。 「玩具に巻き込まれてやられるなんてどこのギャグ漫画じゃ! これでトドメにしてくれるわー!」 スプリング同士が絡まってにっちもさっちも行かなくなったところへ剣で滅多打ちにするレイライン。 考えようによってはかなり残虐な方法で、Eびょんびょんはついにぺしゃんこになったのだった。 この後、動画をどう編集してもヘンテコCGにしか見えないとチャイカが落ち込んだり、彼女からかりたびょんびょんを階段で遊ばせまくって樹沙が時間を忘れたり、彩花とレイラインが霧也を階段から放り投げたり、疾風がどこまでも真面目に戦っていた自分をかえりみたり、鉄くず拾いで小銭を稼ごうと思ったらEびょんびょんが通常サイズに戻っててまことが世にも悲しい顔をしたり、うごかなくなったリオンを珠姫が指でつついたり、まあ色々あった。 Eびょんびょんは無事に退治され、起こる筈だった惨劇(オッサンびょんびょん巻き込まれ事件)も未然に防がれたのだろう。 なべて世は、こともなし。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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