●マッスルで尚且つ熱いと言う最強のコンボ 「やめろおおおおおお、ぶっとばすぞおおおおおお!」 「ダブルバイセェェェェェェェップス!」 円柱型カプセルの中でトゲトゲ髪の熱血男とガチムチパンツレスラーが暴れていた。共通点があるとすれば、彼等の服が白いということだけだ。 だが両手両足は固定され、ろくに身動きがとれない。 「ククク……吠えろ吠えろ。『ホワイトマン』なき今、貴様等はただの我儘フィクサードにすぎん。そんな連中を生かしておくメリットはない。どころかこれから有効活用してやろうと言うのだ。むしろ感謝して欲しいくらいだね!」 研究員風の男が何かのスイッチを押す。 機械からせり上がってくる筒状カプセル。中は液体で満たされており、ネジ状の何かが浮いていた。 「魔剣化アーティファクトの研究途上で産まれた簡易魔剣化ネジ。こいつと貴様等を混ぜて『キマイラ』にしたら……フフフ、どうなると思う?」 「そんなことは許さんぞ! 信念無き力など、熱さなき力など、俺はいらない!」 「サァァァァイドチェェェェェスト!」 「フン、それが我儘だと言うのだ。組織の為に、もしくは幹部のために動く。それがまっとうな『悪の組織』というものよ。さあて、これが終わったら早速効果測定だ、お前らの大好きな実験だぞぉーう!」 スイッチオン。 男二人のどこまでも暑苦しい悲鳴が、遠い世界の果てまで響いたと言う。 ●マッスル、ネジ、Gペン! マ・ネ・ジ――マネジ、マ・ネ・ジ! 「だづぁ~い……」 あつい、だるい、うざいを微妙にミックスしたマイルドな発音でアイワ・ナビ子(nBNE000228)は胸元をぱたぱたとやった。 「まだ五月だよ。梅雨来てないよ。なのに何この暑さ。馬鹿なの? 死ぬの?」 キャスターつきの椅子を三つほど並べ、足を延ばしてべたーっとよりかかるナビ子。 稼働するのをいいことに、足と腰をぐねんぐねんして遊んでいた。 「ただでさえ熱いのにさぁーあ、この期に及んでキマイラがあじゃべヴぁあ……」 ナビ子は話の途中でぐにょーんと溶けた。 そして元に戻らなかった。 かつて『プロトキマイラ』の台頭によって世界が微妙にイヤな感じになり、アーティファクトやらフィクサードやらを合成したようななんぞわからん化物が生み出されていた。 どうやらそいつは更なる進化を遂げ、普通に『キマイラ』と呼んで運用され始めているらしい。 その一環として、以前『ホワイトマン』が手掛けていた『人生の内で最も強力な状態を再現する』という寄生型アーティファクトの劣化コピー品、『一年以内で絶好調だった時を再現するかもしれない』という寄生もできない失敗作アーティファクトと、これまで魔剣作戦に関わっていたフィクサード達を合成しちゃおうという実験が進んでいた。 彼らは意思をはく奪され、微妙に能力の混ざったヘンテコキマイラと化してしまったのである。 彼は五名程度のフィクサードを引きつれ市街地へ繰り出そうとしている。 能力は『魔剣・マッスル』と『魔剣・Gペン』の合成能力。 「その名も……『魔剣・マッスルGペン』!」 いきなりキリッとした顔で言い切るナビ子。 そして再び溶けた。 このセリフだけ言っとけばいいかなと思ってるのかもしれない。 筋肉無き者、そして熱さ無き者を強制的に筋トレさせ、戦力を奪うどころか酷い筋肉痛に陥らせてしまうという驚異の能力だ。だが打ち破る方法はある。自らが既に屈強な筋肉を持ち、そして限りない熱さを備えていると証明すればよいのだ。要するに――。 「筋肉と熱さで張り合うのサッ!」 いきなりキリッと以下略。 そして再び以下略。 リベリスタ達は、良く考えたらこれすごい難題じゃないか? とか思いつつも現地へ向かうのだった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:八重紅友禅 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 9人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年05月31日(木)23:43 |
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■メイン参加者 9人■ | |||||
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●筋肉疲労があったら立ち止まるな。逃げてもいい、立ち向かって壊れてもいい! 肉離れも起きるだろう、筋肉の衰えも、ホルモンバランスの乱れも起きるだろう、歪な体格を笑われるかもしれないし、泣くことしか許されぬことだってあるかもしれない。だが、それですべてが終わるわけじゃない……人生の最後、振り返ったその時、お前は胸を張れるのか!? 鍛えていたと、云えるのか!? 銀河、太陽系、地球、日本、関東地方、千葉県、某無駄に広いデパート駐車場の中心に、巨大な魔剣が突き刺さっていた。 Gペンにしては重々しく、ダンベルにしては鋭利なそれは、魔剣マッスルGペンと呼ばれていた。 それを片手で引き抜き、男は叫んだ。 「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!」 溢れるオーラと漲る筋肉。それは大気圏を越え遠い宇宙を確かに振動させた。 何故か? 簡単である。 そこに、戦う相手がいたからだ! 「天が呼ぶ、地が呼ぶ、人が呼ぶ! 悪を倒せと俺を呼ぶ! 俺は正義の配達便――」 キラリと青空に星が光った。 否、星ではない。 「オマエ達は確かにあたしたちの敵だった。だが、熱き血潮で、漲る肉体で語り合ったライバルだ! アタシはそう――」 天空より急降下する二つの影。 名を――! 「『愛の宅急便』安西 郷(BNE002360)!!」 「『宿曜師』九曜 計都(BNE003026)!!」 光の翼を大きく広げ、二人はマッスルGペン『ゴウ』へと突撃した。 「ソニィィィィィィィィック・メテオオオオオオオオアッ!」 三人が大地の直前で激突した。 周囲のアスファルトが剥がれ上がり激震する。 郷とローラーフット、計都の拳、そしてゴウの魔剣が火花を散らし合う。 眼鏡の奥で計都が炎を燃やした。 「マッスル、あたしのことが分からないのか? ならそれでもいい、所詮あたしたちは言葉で語り合えるほど器用な人間じゃない。拳をぶつけ合う関係に戻っただけだ」 「オオオオオオッ――ヒッィィィィィトマッスル!」 気合一閃。 和紙に墨汁を振りつけたようなオーラが走り、郷と計都を吹き飛ばした。 入れ違いに突撃する『ナイトオブファンタズマ』蓬莱 惟(BNE003468)。 彼の魔剣ペルセフォネとマッスルGペン。二つの魔剣が強烈にぶつかり合う。 「貴様等は何もわかっていない」 惟はゴウにではなく、そのずっと向うにいる誰かに向けて言った。 「ただ漫然と筋トレを下だけで健康的な筋肉がつくものか。ビルドアップされた美しい肉体は魅せるためのもの。成長期に過度な筋トレをすれば慎重も伸び悩むというものだ。見よ!」 剣を握った腕を屈強に隆起させる惟。 鍔迫り合いをしているにも関わらず上着を器用に脱ぎ捨てて見せた。 「これは筋肉がついていないわけではない。騎士が目指す肉体。性的趣向を捨て、戦うために鍛えられた筋肉だ。これで分からなければ、脱ぐことも辞さないぞ!」 「グ……ググ……ッ!」 ゴウの色を失った目が揺れる。 その一方。 「お、おい……大丈夫なのか? アレが戦ってるのを手伝えばいいって言われたんだが……」 「俺に聞くな! くううおっ、身体が勝手に筋トレを初めてしまう!」 妙に凸凹した六道フィクサード達が自分の事で手いっぱいですよって顔をしながら筋トレをしていた。 そんな彼等の間を高速でスパスパと駆け抜けていく影あり。 「マッスル……ネジ……Gペン……マーネージー、マネジ、マーネージ……」 『深紅の眷狼』災原・闇紅(BNE003436)である。 闇紅は小太刀を水平に構え、背後でフィクサード達がばたばたと倒れる音を聞いた。 「クロックアップ、からの……あたしの必殺技パートワン」 「おいそれ色々混ざってないか!?」 「見ろよヒュウ、こいつマッスルじゃないぜ! ねらい目だぜ!」 闇紅の周囲をフィクサード達がぐるりと取り囲んだ。 油断なく左右を見回す闇紅。 が、次の瞬間。 「聞えるぜ、望まずしてキマイラに変えられた男達の……魂の慟哭が! 筋肉の悲鳴が!」 途端にまき散らされるハニーコムガトリング。 思わぬ攻撃にばたばたと倒れ(そして腕立て伏せと腹筋を)はじめるフィクサード達。 「お、お前は……」 「影より現れし闇の拳士、シャドウブレイダー!」 シュバッと風を切って現れたのは、独特なヘルメットをかぶった『影の継承者』斜堂・影継(BNE000955)であった。 「暫く被っていなかったこのヘルメット、Gペンの力に対抗するべく、今再び被らせてもらった! 熱き漢達の魂を踏みにじること許すまじ。殴り飛ばす!」 うおおおおおおおと叫びながらフィクサード達をボコボコにしていく影継。 「…………マーネージー」 闇紅は『もうあたし帰ってもいいかな?』という顔でそれを見つめていた。 さて。 「ぎゃあああああああああああああああああああああああああ!!」 真昼間のデパート駐車場で『百の獣』朱鷺島・雷音(BNE000003)の悲鳴が天高く木霊した。 左右入れ替わりながらひたすら反復横跳びをし続けるマッスル達の所為である。 というかデジャビューである。 「ボクだってボクだって変態な義父と兄に囲まれてむしろあのモノ担当だととか思わざるを得ないけど僕だってできるんだ筋肉はともかく熱血だってできる筈なんだっていうかもうやだ帰りたいなんでボクここにいるんだボク真面目ポジションなんだ帰りたい!」 などと意味不明な供述を続け、雷音は氷雨をばらばらまき散らした。 それを奇妙なジグザグ移動で回避するマッスル達。 「ハァーッハッハー! 止まってみるゼェー!」 「お前もマッスルしようぜ! プロテイン飲もうぜ!」 「うわあああああん! やだぁぁぁぁぁあ!」 マッスル達に両脇を掴まれて暴れる『Gloria』霧島 俊介(BNE000082)。 「まずはスクワットからだ! ハッハー!」 「やだぁぁぁ! 帰るううううううう!」 などと言いながらもひょっこひょっこスクワットさせられる俊介。 「うう……妬ましい……筋肉マンが妬ましい……」 歯を食いしばる。と言うか血涙が出てもおかしくないくらいギリギリいっていた。 「筋肉痛こじらせろ……筋破壊しろ……」 「おおっと、筋肉はそんなに悪い物じゃあないでゴザル!」 目の前で逆立ち腕立て伏せをする謎のマッスル。 彼が『(自称)正義の忍者』ジョニー・オートン(BNE003528)である。 「感じる、感じるでゴザル。筋肉の滾りを……そうかっ、Gペン回で物足りなかったのは筋肉でゴザった! つまりマッソォ! ニンジャをめざし早十数年、来る日も来る日も鍛錬を続けてきた拙者の情熱、そして筋肉! 紛れもなく拙者が拙者たる証! 呻れ拙者の筋肉よォォォォ!」 「こ、コイツはヤベェ!」 「なんてマッスルだ!」 「ナイスバールク!」 「………………」 既にもう帰りたい俊介。雷音は左上に出たSUN値ゲージがメリメリ減っている。味方の所為で減っている。 「ふんっ、外側の筋肉をつけるだけが鍛錬じゃないわ!」 見れば、『フレアドライブ』ミリー・ゴールド(BNE003737)がウェイトをつけてシャドウボクシングをしていた。 たかがシャドウとあなどるなかれ。全身の筋肉をバランスよくつけ、有酸素運動によって体力そのものを底上げできる運動なのだ。 「ミリー結構筋トレ好きなの。筋トレがどの程度のものか、身をもって味わってやろうじゃない! トニー・ジョーンズより熱く行くわよ!」 「ハッ! だったらついて来てもらおうじゃねえか。魔剣の力を再現した、この魔剣ブートキャンプによぉ!」 「ヒャーッハー!」 「まっそぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ……!」 勢いよく体操を始めるマッスル達。 その横には、壊れた蓄音機みたいな声を出しながら高速でスクワットする雷音がいた。 「雷音殿が既に堕ちてるでゴザル!?」 「人間としてヤバい目つきしてるぞ! 止めて、止めてあげて! 俺には無理だけど止めてあげてヨォ!」 そして、地獄の筋トレは始まったのだった。 ●筋トレに熱くなることは無駄なことだ。馬鹿なことだ。かけなくてもいい金をかけ、使わなくていい時間を削り、限りある人生を消費してまでやるべきことかと人は言うだろう。だが君が苦しい時、元気になりたい時、勝たねばならない時、君の力は何処から沸く。溢れるパワーは何処から来る。君が今やっていることは、本当に無駄なことか!? 「く……あたしは……ここまでだわ……」 地面に頬をつけ、闇紅は悔しげに呻いた。 「かーらーのー?」 「……まっそぅ」 くいっと背中を反らしてエビぞりする闇紅。 通りがかりのサラリーマンに足を抑えて貰いつつ、闇紅はほぼ無意識で背筋運動を繰り返していた。 「闇紅……前半のセリフだけだったらすごく友情パワーとか沸きそうだったのに……」 隣で同じようにひょこっとエビぞりになる俊介。 「だって、もう屈辱的すぎて……あたしもう、がんばりたくない……」 「あきらめんなよ! もっと熱くなれよ!」 「大丈夫できるできるやれるやれる気持ちの問題だ頑張れ頑張れ大丈夫皆だって頑張ってるんだから!」 「あ、暑苦しい……」 デパートの従業員が総出で駐車場に円陣を組み、一糸乱れぬ動きで筋肉体操を踊るという、この世の終わりみたいな光景を想像して欲しい。 それが今だ。 闇紅は心の底から『なんでこの依頼入っちゃったんだろう』と思った。 「ふふ……所詮あたしはやられやく……やられまっそぅ……」 「なんで諦めるのそこでぇ!」 「暑苦しい……っ」 ある意味で蹂躙される闇紅。 その様子を横目に見て、俊介の中で何かが燃えた。 「くっ、俺は……俺は……俺だって漢なんだ! 筋肉くらいある!」 うおーと言って起き上がり、足元のおばあちゃんを若干丁寧にどけると、俊介は上着を脱ぎ捨てて立ち上がった。 老人会のおじいちゃんおばあちゃんがゲートボールクラブ片手に一糸乱れぬダンベル体操をしている様を想像して欲しい。 それが今だ。 「だ……だづぁ~い」 一瞬にして溶けそうになる。だが我慢だ。 「こうなったら見せてやる。アーク最強回復師の筋肉を! 神攻五百越えの力を!」 両腕を振り上げる。ただそれだけで俊介の服が全て破り捨てられた。神秘だからだ。 だが大事な部分だけは布が残ってびみょに隠れた。神秘だからだ! 後光がさし、強烈な光に筋トレ中のフィクサード達が目を覆った。神気閃光だからだ! 「ふはははは! どうだこの素晴らしい筋肉! といっても逆光で見えま――」 神気閃光終了。 筋トレ中だったデパート従業員の皆さんと老人会の皆さんが一斉に注目した。 「…………」 「…………」 「……いやん!」 俊介は血を吹いて倒れた。 「しゅんすけぇー!」 駆け寄ってくる雷音。 手を握られ、俊介は照れ笑いを浮かべた。 「俺の婚約者に……愛していると、伝えて……」 震える手。 雷音は深く頷き……。 「まっそぅ」 「あ、駄目だこの子」 俊介は自主的に力尽きた。 さて、なんやかんやでいつの間にか邪魔なフィクサード軍団が居なくなったデパート駐車場。 巨大な円陣を組むようにして筋肉体操を踊る住民たちを背景に、ジョニーとミリーはゴウへと挑みかかっていた。 「筋肉痛を乗り越えてこそ更なる筋肉がつく! 見よ、この鍛え上げたニンジャマッソゥを! キマイラだか何だか知らぬが半端ものの筋肉に拙者は負けぬゥ!」 風をぶち抜いて繰り出されるジョニーパンチ。ゴウはそれに真っ向から拳で対抗した。 めぎりと砕ける両者の拳。 しかし屈強な筋肉によって支えられた拳は一つのカタパルトと化し、二人の背後に衝撃波を生み出す。 「そんな見かけばっかのコブつけたって、本当の強さは得られないのだわ!」 頭上から強襲するミリー。空中で後ろに三回転、前に五回転。かくして繰り出された踵落としはゴウの頭部に炸裂した。 「グオオッ!」 ミリーは着地後もジョニーと共に前後から絶え間ない蹴りと殴りのコンボをつなげまくった。 「たゆまぬ鍛錬と流した汗。柔軟な身体と燃える心! 戦うため、守る為、勝つための肉体よ! そう、あんんたみたいなのを殴り飛ばすためのね!」 よろめくゴウ。ジョニーとミリーは同時に拳を構えた。 「「トレーニング!」」 ダブルアッパーが炸裂。 ゴウはきりもみしながら空中へと飛び上がる。 そこで待っていたのは影継だった。 「俺達はお互いに、一番ふさわしい挨拶を交わした。魂と肉体のぶつかり合い、俺達にはそれで十分だ……そうだろう!」 影継の繰り出したブレードがマッスルGペンに止められる。空中であるにも関わらず鍔迫り合いが発生していた。 互いにきりもみし、もつれ合いながら落下。 影継の服はほぼパージされ、海パンくらいしか残っていない。 「思い出せ、アンタ達の魂を! 俺が倒したいのは、たとえ道を誤っていようと、情熱に己を焦がす男達だ!」 「グ、ウオオオオオオオ!」 クロスカウンターが炸裂。二人は同時によろめいた。 後方から突撃してくる惟。 そして、もう一度言った。 「貴様等は何もわかっていない」 剣戟。 交差した二人の魔剣が盛大な金属音を響かせる。 「魔剣を担う人の意思を奪った」 惟が今まで戦ってきた魔剣使いは全て、どうしようもなくアホな者ばかりだったが、皆何かの情熱にあふれていた。 野望があり、欲望があり、夢があった。 そしてそれは、惟にもあった。 少し前に、気づいたのだ。 B面を裏返さずにカセットテープを再生した、あの日に。 「『惟と魔剣』を舐めないことだ。今まで吸ってきた生命は、並ではないぞ」 漆黒開放。剣を中心に溢れだした闇が、ゴウの全身を貫いた。 苦し紛れに繰り出された拳が惟の腹に命中。歯を食いしばって身体を折る惟。 「グ、グオオアアアアアアア!」 「いいぜ惟、あとは任せろ!」 郷がスケート足を起動してダッシュ。ゴウへとローリングソバットを繰り出した。 「その筋肉、ボディビルだな! だが機能的な体の動かし方を身に着けなければ宝の持ち腐れ。運送屋の筋肉はまさに機能美。冷蔵庫だって軽々持ち上げてみせるぜ!」 高速かつ連続で繰り出される空中スピンキック。ゴウはそれを両腕でなんとか防ぐ。 互いに一歩も譲らぬ攻防。そんな中、郷の耳にこんな声が聞こえた。 「尺が足りない! あ、違った、伏せろォ!」 ゴウから飛び退き反射的に地面にぺたんと伏せる郷。その頭上を大量の鴉が通過した。 いや違う。 「おおおお燃え上がれあたしのフェイトォォォォォォ!」 それは、鴉の式符を大量に纏って突撃する計都の姿であった。 両手でがしりと受け止めるゴウ。しかし強すぎる力が働いたか、ゴウの踵はずりずりとアスファルトを削った。 「思い出せ、オマエたちは悪の組織に従うだけの兵器か! ともよ、ネジの呪縛など解き放て! さあポーズを決めるんだ!」 「ポ、ポーズ……ウオオオオオ!」 「フッ、言葉は通じないか。なら……筋肉(きょうつうげんご)で語るまで!」 STYLE CHANGE!! 計都の首から下が屈強なマッスルへと変化した。 もやしっ子が抱く理想の筋肉。その顕現である。 「轟け、筋肉の門(ゲートオブマッスル)!」 繰り出された拳は、どこも打ってはいない。 両拳は天空へと突き上げられ両足は地面へと突き立てられていた。 「ダブル――」 「バイ――」 「マッソオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオウ!!」 竜巻が起こった。 否、激しいオーラが竜巻となり、天へと伸びたのである。 ゴウの掲げていたマッスルGペンは灰となって散り、最後に残った一個のネジが地面に転がった。 そしてそれすらも真っ二つに割れ、ただのネジとなる。 「く……っ!」 がくりと膝をつくゴウ。 しかしその目には、確かな魂が宿っていたと言う。 ●熱き筋肉よ、さらば。 「量産型魔剣化ネジは寄生能力を持たない。ゆえに死体を稼働させることはできないし、死なせることもできなかった」 「だが『所有者の一番強い願いを自力で叶えさせる』と言うネジ本来の機能は生きていたでゴザル」 「彼等の願いを成就させてやることによってネジは機能限界を迎えて自己崩壊を起こした……」 「二人の継ぎ目になっていたネジが消えたことによって、融合が解けた……ということか」 「そう、なるのかもしれない。あくまでネジを継ぎ目に使っていた今回だけの荒業だったのだろう。いや、奇跡と言うべきか……」 影継、ジョニー、惟、郷、計都がこれでもかってくらいの説明口調で夕日を見上げていた。 背後には、ぴくぴくと痙攣する俊介、闇紅、そしてなぜかミリー。 「や、やりすぎたわ……つい……」 「もう帰る……絶対帰る……」 「あたしも……」 そんな彼等をよそに、すくっと立ち上がる雷音。 夕日を見上げ、ハイライトの消えた目で言った。 「筋肉体操はいやだああああああああボクは雷音百獣の王なのだイヤンマスターでもインヤンフライでも『たいおん!』でもないのだ超笑顔でおっぱいとか叫んでないのだ誤字なんかもうしないのだぜったいしななななななななななな」 「うわっ、雷音が壊れてるぅー!」 「まっそおおおおおおおおおおおおおおおう!」 壊れた蓄音機みたいに絶叫する雷音の声が、どこまでも響き渡った。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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