●白と黒の抗争 オレンジ色のランプが薄暗い部屋をてらてらと照らしている。 白くて清潔感のある壁が、若いデザイナーが組んだであろうやや前衛的な構造で並んでいる。間にはガーリーな椅子やテーブルが置かれ、ハタチにも届かぬ少女達がどこか超然とした顔つきで座っていた。 タピオカドリンクに太いストローを刺し、スマートフォンに鈍器が如きストラップをじゃらじゃらとつけている。 見ようによっては現代的な少女の群であったが、彼女達は一様に顔を真白に塗りたくっていた。 『シロヌリ』と呼ばれ、昨今一部ガールズの間で流行っている奇抜系メイクである。 どの時代でも同じなのだろう。彼女達にはどこか一体感のような、連帯感のようなものが芽生えている。 少女達は豪快に足を組み、スマホを片手でいじりながら会話を交わしていた。 「昨日ジョージ店来た」 「マジッ? ね、あいつヤバくない!? 今時ギャル男とかヤバくない!?」 「ヤバい! 笑い堪えるので必死だったんだけど、アイツ何注文したと思う? タピオカといちごクレープとか言って!」 「キモイ! うははっキモイ!」 加速度的にテンションを上げ、白いテーブルをどかどかと叩く少女達。 が、そんな二人の表情がぴたりと固まった。 店の扉が開く。 ぎいこと揺れるウェスタンドア、ファミマ入店音が頭上で鳴った。 店内にいた全ての少女達が店の入り口へ振り返り、そして固まった。 ルーズソックスにミニスカート。 ソバージュにした髪。 片手からは宗教的理由でもあるのかという程ストラップが溢れていたが、根元にあるのはなんとPHSだった。ツーカーである。 だが最も注目されたのは、彼女の顔の黒さである。 サロンで焼き尽くした顔はメラニン色素を馬鹿にしているかのように真っ黒に染まり、奇妙に色がマッチした唇をゆがめた。 「何この真っ白オバケ、気持ち悪」 「ハァ!? あんたのがキモいんですけど!」 「マジ死んでほしいんですけど、この『ヤマンバ』!」 『シロヌリ』の少女達はガーリーな鞄からウージー(イスラエルの短機関銃)を抜き放ち、『ヤマンバ』の少女に向けて一斉にぶっ放した。 「ハッ……ちょべりば」 馬鹿にしたように呟くと、ヤマンバの少女が素早く壁沿いに走り出す。 壁に弾痕が走り複雑に跳弾。 ヤマンバ少女は何処からともなくミニミ(ベルギーの軽機関銃)をぶっこ抜くと片手で乱射。 その辺のテーブルをひっくり返して盾にすると、裏でモーゼルM88(ドイツ製ライフル。正しくはGew88)を取り出して片手で発射。更に歯で弾を吹き込んでリロード。テーブルから飛び出してミニミと一緒に乱射した。 シロヌリの少女たちが徐々に倒れていく中、目元にキツくラインを引いたシロヌリ少女がストローを吐き捨てた。 「ウザッ、時代遅れのくせにネバるとか超サイアク!」 「あと十年でそっちも同じこと言われるよ」 テーブルを乗り越えてグルカナイフを構えたシロヌリ少女が飛び掛ってくる。 ヤマンバ少女は銃を放り投げるとポケットからバタフライナイフ(両面折り畳み式ナイフ)を取り出し片手で展開。ナイフを頬すれすれの所で弾くと、そのまま店の外へと逃げ出した。 「逃げんの!? 超ヒキョーなんですけどっ!」 店の外に飛び出すシロヌリ達。 そして――。 ●イーストサイドストーリー 「大・虐・殺ッ!」 アイワ・ナビ子(nBNE000228)が奇妙なポーズで言い切った。 ポーズはともかく真面目モードである。 「なんでも、某所で若い女の子フィクサード達が小競り合いを起こしてるらしくって。このまま放って置けばどっちか潰れてくれて楽チンなんですけど、その間に周辺の一般人サンがどかどか流れ弾やら何やらで死ぬんですよねぇ……」 目を反らし、ちょいちょいと両手の指を絡める。 「知っちゃったからには放って置けないってゆーか、事前に何かできるならやった方がいいってゆーか……なんとかこう、上手い事納めてくれませんかねえ?」 状況としては、冒頭で話した通りのことだ。 ただ、黒焼けの少女(通称『ヤマンバ』)の乱入前にカタを付ければ市街地での戦闘は起こらない。 つまり、あの『シロヌリ』集団の店(どうやら拠点らしい)に突入して彼女達を鎮圧させればいいのだ。 あとからすぐヤマンバ少女が来ることになるが、その辺の対応もお任せしたい。 「えーっとですね、シロヌリ少女のトコは大体10人くらいっす。細かいスペックは分からないんですけど、色々ごちゃまぜみたいっすね」 ぺらぺらとメモを捲ってから豪快に千切り、あなたへと手渡す。 「とゆーわけで、後はよろしくちゃんです!」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:八重紅友禅 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年06月01日(金)23:56 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●千葉フロム・ザ・アンダーグラウンド 近代化の進む千葉中心地、千葉市中央区のやや北東部。栄町と中央の間にはグレーゾーンが存在する。 そんな場所を交番職員のような服を着た男が歩いていれば、嫌でも周囲の視線がキツくるなるというものだ。 『俺は人のために死ねるか』犬吠埼 守(BNE003268)は指先であたまをぽりぽりと書いた。 「女子高生がUZIとはね、さすがマッドシティ松戸……いや、ここは違いましたっけ」 「いや、マッドシティには違いないよ。中央は少しはマシになったと思うけどね、この辺は近代化の波に追いやられて、寧ろ意地になってマッド化してるくらいだよ。さっき駐車場から出た時、すぐに客引きが寄って来たろ。ああいう場所なんだよ」 『機械仕掛けの戦乙女』クリスティナ・スタッカート・ワイズマン(BNE003507)はうんざりした顔で唇を突き出した。 「古い歓楽街ですか」 「公園はもっと酷いぞ。夜に行ってみな」 「やめときます……」 ともかく、と言って地図を取り出す『聖なる業火』聖火 むにに(BNE003816)。 この近辺は路の形が変に入り組んでいるので上から見た地図があまり役に立たない。と言うか、あえてそうしている節があるのが不気味だ。 「目的の店はこっちだな。ったく黒とか白とかどこめざしてんだか。化物目指すならスッピンにでもしてりゃいいだろ」 「ネタくさいよぉ……僕の初陣なのに……」 手をわなわなさせるターシャ・メルジーネ・ヴィルデフラウ(BNE003860)。 さまよう鎧が彼の肩を叩いた。『疾風怒濤フルメタルセイヴァー』鋼・剛毅(BNE003594)である。 「ネタ臭い人はUZIを乱射しない。しかし何だ……真っ白い奴等は倒さねばならない衝動に駆られるな。何の所為だ?」 「あっ、じゃあ白くしないほうがいいかなー」 もう殆ど顔を白塗り状態にしていた『犬娘咆哮中』尾上・芽衣(BNE000171)がふいっと振り返った。 歩きながらメイクをする器用さは認めるが、コレにおいては化粧中の顔が非常に怖い。 『シロヌリ』。 パンクファッションの延長にあった特殊なメイクが、奇抜さと威圧感を認められ、世に弾かれた少女達の拠り所となった……と見られている。 そう言う意味では『ヤマンバ』メイクも同じだ。時代の違いだ。 「スペインの宗教紛争さながらですね」 こきり、と首を鳴らす『Trapezohedron』蘭堂・かるた(BNE001675)。 「あれこれ言ってもおばさんの戯言と流されるでしょう。問答無用で参りましょうか」 手を二度三度握ると、ソードオフした機関砲のようなものが腕に装着された。 足を止める。 看板もない店に、ウェスタンドアの入り口。 そのすぐ横で、『Le blanc diable』恋宮寺 ゐろは(BNE003809)がべったりと地面に座っていた。 「あ、おばーちゃんファイトー」 「…………」 分かってはいたが。かるたは額に手を当てた。 ●bloomin feelingirl 変に薄暗い店内である。元々立てつけの悪いウェスタンドアが豪快に蹴り開けられ、蝶番ごと吹き飛んだ板が店内に飛ぶ。 シロヌリの一人が慌てて板をキャッチ。 「ナ……」 そしてふと足元を見る。 閃光弾だと気づいて、その場の全員は一斉に椅子から転げ落ちた。 フラッシュバン。 「ハァ!? ナニコレ!」 キーンとする耳。衝撃を逃がすように両耳を抑え口を開けるシロヌリ。 上目遣いに入り口をみやると、分厚い本を肩で担いだむににの姿があった。 「突入つったらコレだろ」 ピン、と人差し指を立てる。空中に浮かび上がる炎。 「テメェら全員こんがり真っ黒にしてやんよ」 「ハァ? 超ウザイんですけど!」 吼えるように叫んでバッグからウージーを引っこ抜く。倒れたテーブルを盾兼台にするとむににに照準。 ……と思ったその矢先。 がちん、と銃口と銃口が接触した。 機関銃同士の銃口である。違いがあるとすれば、軽機関銃と重機関砲。つまり弾のデカさである。 「ちょ、バカじゃ――!」 「Fear is often worse than the danger itself(案ずるより産むが易し)ですよ」 涼しい顔で言いのけると、かるたは銃身から紫電を発生。暴発とほぼ変わりない勢いで電撃を叩き込んだ。 鼻から血を吹いて仰け反るシロヌリ。自棄になって引っ張ったトリガーによって縦一筋に銃痕が奔る。 その左右を割るように剛毅と守が突入。 剛毅は辺りの椅子を踏み潰すと、鎧の各所から大量の暗黒瘴気を噴出した。 射撃を仕掛けようとしたシロヌリの一人が暴発を起こしてガチンと銃身を鳴らす。 「あ、ありえない」 「逃がしはしないぞナ……シロヌリ集団! フン、どうせなら蒸気を吹き出せるようにしておけばよかったぜ」 シロヌリの首にびしりと剣をつきつける剛毅。 一方では守が装甲服を装着。銃を構えたシロヌリ達に次々と.38スペシャル弾を叩き込む。手から銃が飛び、軽く回転しながら銃弾を乱射させた。 「君達は完全に包囲されている。武器を捨てて大人しく投降しなさい!」 「ハァ!? 四人で突っ込んで来て包囲ィ? ウケる!」 何人かのシロヌリがテーブルの上に飛び乗り、ウージーを乱射。そのまま飛び石のように移って接近すると。守と剛毅の額をそれぞれ蹴っ飛ばした。 思わずのけぞる守ると剛毅。 額に思い切り銃口を突きつけるシロヌリ達。 だがそんな二人の首に、暗黒瘴気が巻き付いた。 「ア゛ッ……!」 思わず己の首に手を伸ばす。 だが時既に遅し。クリスティナが指をちょいと引くだけでシロヌリ二人は仰向けに転倒した。 「いつのまに……」 「裏口……というか、非常口だな。モノだらけで使われてないからすぐに突入できた」 「そういうワケで、背中ががら空きだよぉ!」 芽衣がキッチンカウンターを飛び越え空中で前転。斬風脚を飛ばしながら着地した。 包囲しているというのは嘘じゃなかったのだ。 まだ無事なシロヌリがグルカナイフ片手に飛び掛ってくるが、明はそれをトンファーで受け流した。更に相手の腰へ膝蹴りを叩き込む。 そこへゐろはが猛烈にラリアット。 倒れる寸前に片足首を掴み上げてレッグスプリットをかける。更に嫌がって身体をよじる流れを利用してうつ伏せに押し倒すとSTFを仕掛けた。 所謂股裂きからの足首極めそして顔締めである。 もごもご言うシロヌリの口と鼻を手でふさぎ、これでもかと締め上げるゐろは。 「パイ投げられたみたいな顔しやがって!」 「あんたこそキモ……モガ……がほっ!」 それまで暫く集中していたターシャがチェイスカッターを発射。 シロヌリの腕や脇を容赦なく切って行く。 「この人達ほんとにフィクサード? 気が抜ける」 「そりゃあ大したタマだな。と言うか、フィクサードの定義間違ってるんじゃないのか?」 「……そういうもの?」 目を反らすターシャ。 「まあいい。とにかく逃がすな。外は大規模商業施設がごろごろある! 被害をここで抑え、食い止めるぞ!」 シロヌリのフィクサード10人を簡単に制圧できた……と言えば嘘になる。 それほど経験豊かなメンバーではなかったし、単純な頭数で負けていた。 なので必然的に、狭い室内で入り乱れての乱闘に発展したのだった。 「ねえねえ君達なんでわざわざ不健康そうな色に塗るの。ボクわかんない」 「ザッけんなクソガキ!」 チェイスカッターを紙一重で避けるシロヌリ。真空刃が壁に突き刺さって消え、代わりにシロヌリの銃がターシャの口に突き込まれた。 トリガーを目いっぱいに引きながら壁に向かって突撃するシロヌリ。 喉と後頭部が無くなるかのような感覚を最後にターシャの意識がブラックアウト。 壁に背中から叩きつけられ、ずるずると落ちた。 「ぬくぬく生きてる連中にアタシらが分かるかよ!」 ターシャの口から真っ赤にべとついた銃口を引き抜く。直後、彼女の側頭部に強烈な蹴りが叩き込まれた。芽衣の高脚蹴りである。 目をぐるんと上に向け、昏倒するシロヌリ。 それを見た別のシロヌリ達が壁を駆けのぼらん勢いでジャンプ。芽衣に思い切り斬りかかる。 咄嗟にトンファーで防御にかかる芽衣だが、撫でるように棍上を滑ったグルカナイフが芽衣の手首から肩にかけてをばっくりと切り裂いた。 勢い余って地面を転がりテーブルや椅子に突っ込むシロヌリ。 吹き出る血を片手で抑え、芽衣はその背に斬風脚を叩き込んだ。 「まだまだ、たたかうぞー……負けたらもっと、大変なことが……」 息が荒い。 呼吸を整えようと息を大きく吸った所で、額にバスンと穴が開いた。 仰向けに転倒する芽衣。 彼女を撃ったシロヌリは、口にグルカナイフの背を咥え、両手にウージーを持って思い切り乱射した。 弾幕の中を二人がかりで突っ込んで行くクリスティナとかるた。 両腕に装着した武器を顔の前でクロスし、いくつかの弾を弾きながらダッシュ。倒れた椅子を蹴っ飛ばしながら至近距離まで接近すると、クローと砲身を二人同時に叩き込んだ。 ぼぐゃん、と鼻の骨が砕ける音がしてシロヌリは転倒。その勢いのまま地面に後頭部を叩きつけトドメを刺した。 二人のシロヌリが辺りの椅子を投げて飛ばしてくる。反射的に振り払うと、ほぼ同時に鉛弾を目いっぱい叩き込まれた。 巨大な見えないハンマーにでもなぐられたかのようにのけ反るクリスティナとかるた。 クリスティナの方はこらえきれずに転倒。かるたは片足で踏みとどまった。 その横を駆け抜ける剛毅。 「セイヴァーチャージ、ブラックバースト!」 腰から抜いた剣を暗黒に染め、シロヌリを逆袈裟斬りにする。 血を噴き上げて上を向くシロヌリ。 その後頭部。髪の毛を鷲掴みにするむにに。 「黒焦げになんな。そうすりゃ奴等の仲間入りだ」 フレアバーストを発動。髪と顔を焼きながら地面に引き倒した。 「まじウザい! 何、アンタらアタシらに何か恨みあんのッ!?」 両肩からストラップをじゃらじゃらと吊り下げ、シロヌリがウージーを乱れ撃ちしてくる。 ライオットシールドを構えた守がその中をまっすぐ突撃。大量の弾を弾きながらシロヌリを直接体当たりで押し倒すと、仰向けの額に銃を一発。撃鉄押してもう一発。 漸くシロヌリが大人しくなった……その時。 「ちょっとオジサンなにしてんの」 ●Second Heaven トカレフTT-33の銃口が守の額に当てられていた。 マガジンの底には宗教的理由でもあるのかというほどジャラジャラとしたストラップがぶら下がっている。 交差するように突き出されるニューナンブM60。 「ミニミにGew88という所までは良かったんですが、『ソレ』はいけませんね……」 「シングルアクションでしょ。こっちのが早いよ」 「関係ないでしょう、アーティファクトですよ?」 「……ちょべりば」 あからさまに苦い顔をする少女。 黒焼き顔にソバージュヘア。ルーズソックスにミニスカート。いわゆる『ヤマンバ』ファッションをした少女は、辺りを見回す。 シロヌリは殆ど倒れるか死ぬかしていた。 飽きずに一人をフェイスロックしていたゐろはが、軽くシロヌリの首を極めてから立ち上がる。 何かするのかと思ったが、無言でそのまま裏手のキッチンへとごそごそ入って行った。余談だが、店員らしき人間は既に逃げている。 つかつかと前へ出るかるた。 「ここの組織は壊滅しました。関係は存じませんが、戦闘行為は不要です」 「この人数で壊滅? そんなワケないでしょ」 「…………」 『シロヌリ』はここ以外にも大量に存在しているのか、と剛毅は無言で考えた。 会話には関わらない。 むににもまた、彼の横でイライラと腕組みしている。 銃をデコッキングしながらゆっくりと、丁寧に語りかける守。装甲服も解除した。銃の時点で察してはいたが、交番務めのような恰好にヤマンバ少女はぎょっとした。 「敵対する気はありません。『抗争』にも興味はありません。一般への被害が出るならどこへでも飛んでいきますが」 「…………チッ」 ヤマンバ少女もトカレフを顔の高さまで引いてデコッキング。マガジンを出して見せる。アーティファクトにおいては無意味だが、銃でこういう動作をすることに深い意味があるのだ。 『戦う気はありませんよ』という最も具体的な動作である。 そうしていると、戦闘不能になっていたクリスティナたちがよろよろと身体を起こした。 流石にターシャは怪我が酷くて起き上がりづらかったようだが。 「ふう……どう、フェリシダ行く?」 「アドアーズなら」 「あそこはチョットなあ……」 ギャルギャルしくてなあ、と呟くクリスティナにヤマンバ少女はつまらなそうに眼をそむけた。 すると。 「ねー、何か飲むー」 がらがらとキッチンからグラス類を持ち出したゐろはが、勝手にミルクティーを作って持ってきていた。 ちなみにインスタントである。とんだ店だ、とキッチンを覗いていた芽衣は思った。 ヤマンバ少女の方を振り返って、こっちのコスプレもしてみようか? などと思う。 ゐろははマイペースにその辺のテーブルを持ち上げると、椅子を二つ程立て、片方に座る。割れた皿やグラスが地面に散乱していたが、もはや気にするそぶりもなかった。ついでに言えば壁は弾痕だらけである。 「チェリオある?」 「無いって、ムリ」 「じゃあテキトーでいい」 椅子をずりずりと引き摺って、微妙な距離を開けて座るゐろはとヤマンバ少女。 「ゐろは」 「ノエル」 「外人?」 「違う、乃恵留でノエル。正直ウザいんだけどコレ」 「まじ? キラキラネームじゃん」 「死ぬし。四十歳になっても名乗れんのかっての」 「っていうかどこ住みー?」 「轟」 「ハッ、田舎!」 「大学しかないし。ゼッタイ行かないしあんなの」 「いーじゃん大学」 「国大とかウザ過ぎ」 どことなく入り難い空気を醸しつつ、ゐろはとヤマンバ少女(ノエルと言うらしい)がぺちゃくちゃとダラけた会話を続けている。 漸く目を覚ましたターシャが酷い目にあったと言って喉を摩った。 「あ、ヤマンバさんだ。女の子のお化粧について聞きたいんだけどー」 「やめとけ。死ぬぞ(別の意味で)」 身を乗り出そうとするターシャの襟首をひっつかむむにに。 「……任務は終了。解散としよう」 それまで置物のようにじっとしていた剛毅が重量のある足音を響かせながら店を出て行った。 空を見上げる。 コンクリートとアスベストに塗れた街並みから、小さく空が覗いている。 今日も町は静かだ。 剛毅は鎧の奥で瞑目して、ゆっくりと歩き出した。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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