●繁華街の裏で 「ちょっ、やめてよ!?」 「や、止めたいんだけど~っ!」 1人の青年の前で、二人の少女が踊る。 双子の姉妹が手にした刀剣を振るい、殺陣の如く終わらぬ戦闘を繰り広げていた。 望んでしていることではない、青白く体が光る少女は己の意志で動いていないのだ。 これでは傷つけるわけにもいかず、殺すなんて以ての外だろう。 「ふふふっ、さぁどうする? お嬢さん方」 若干体に老いを感じさせる男は、30歳前後だろうか。 彼女達の様子を愉快そうに眺めるだけだ。 「この卑怯者っ!」 「止めなさいよっ!」 二人に罵声を浴びせられ、それでも男は止めない。 何かを念じると、操られている少女の動きが変わる。 一気に追い詰める様と、刃の軌道は鋭く素早い。 「きゃっ!?」 己の片割れが見せる才能の片鱗に押され、もう1人の少女は圧倒されていく。 応戦というにはおこがましく、完全に防戦一方だ。 「隙あり!」 一瞬の硬直を逃さず、青年は拳銃の引き金を引いた。 放たれた弾丸は奇怪で鋭角、それは宙に紫の線を描く。 「しまった……!」 直撃、しかし怪我をした様子は無い。 何の意味があるのか? それは直ぐに知れた事。 紫の光は彼女を包むと、青白い光に変わったのだ。 「さぁて、これで二人とも俺のものだ。どう楽しもうか……」 殺陣の時間は終わり、今度はお遊戯。 手入れの届いた得物が滑り落ち、けたたましく地面を転がる。 「この外道、変態っ! アンタなんかそれがなけりゃ今すぐ叩きのめしてやるんだからっ!」 「そうよそうよっ! 物頼りの情けないDTめぇっ!」 一部のフレーズ……否、どう考えても最後のアルファベットが彼の心を容赦なく抉り、優越感は一気に怒りに染まった。 ふつふつと湧き上がる殺意にも似た憤りが、少女達にも伝わるだろう。 「別に隙なんぞ狙わなくたって、殆ど当てられたんだがな。遊ばれてることすら気付かないクソガキめ」 男は肩を振るわせつつ言葉を続けた。 「お前らが忌み嫌う相手に弄ばれるんだから、さぞ屈辱だろうなぁっ!」 吐き出された渾身の恨み、そして念じた事は少女達に可能な限りの辱めである。 「ぇ、なっ、嫌っ、な、何なの……っ!?」 「手が……っ、嫌、嫌だぁっ! やめなさいよ……っ!」 少女二人の脚が僅かに開き、ミニスカートの裾を自らの手でたくし上げていく。 勿論望んだことではない。全ては男の所為だ。 強引に恥を晒させ、プライドを叩き折る。それが彼の思う粛清というところか。 「「逆らって御免なさい、お詫びに私達の恥ずかしいところ沢山見てください♪」」 震える股座からレースの白いショーツと、薄いピンクのショーツが完全に露出していた。 声も、表情の自由すらも奪う。 唯一残された自由は、頬を伝う涙のみ。 「ふふっ……はははっ、はははっ!!」 至極愉快と高笑いを決め込む男、ぽたぽたと少女達の涙は零れるばかり。 ……そんな光景を偵察兵リベリスタ、EEはレンズ越しに捉える。 (「下衆が」) 彼がいるのは3人を見下ろせる建物の屋上。 本当は頭を撃ち抜きたいが、相手は一般人だ。 本部の連絡どおり、アーティファクトである銃だけを狙い、引き金を絞る。 鈍く乾いた銃声が響き、精密射撃は迷い無くアーティファクトを砕く筈だった。 「っと!?」 だが、男はリベリスタと変わらぬ身のこなしを見せ、弾丸を回避してしまう。 (「なっ!?」) 理由は分からない、だが外れた事に変わらない。 操られる恐怖に身を支配されつつ、EEは屋上の縁へ隠れる様に地面へ体を押し付ける。 『HE、俺が操られたら脇腹のポーチにあるグレネードを撃ち抜いてくれ。恐らくそれで動きが止まる』 彼の射撃技と爆発物の破壊力が合わされば、ほぼ一撃で行動不能に陥らせられる筈だ。 相方へ死に際の如く伝えるメッセージ、妹に顔向けできない事はしたくない。 だが。 「くそっ! 何処だ! 出て来いよっ!!」 男は喚くばかりでEEを操ろうとはしない。 遮蔽物に隠れただけでは弾丸を回避できないと睨んだが、どうやら必中の射撃に条件があるようだ。 『何故撃たないんだい?奴は……』 HEも不思議でたまらない、EEは暫し考え、一つの答えを導く。 『HE、俺が狙撃する時だが、奴の視線は完全にあの二人に行ってたか?』 『あぁ、クズらしい顔をしてみてたよ』 喚き声の中、一人納得するとEEは通信を続ける。 『HQ、それにHE。恐らく奴の銃は視認しなければ、必中の射撃を当てられない。逆に言えば見つかれば最後だ、間違いなく当てられる』 完全無敵のアイテムではないが、このままでは埒が明かない。 二人は静かに男の動向を探り続ける。 「くそっ、出てこないなら……! いいか! 出てくるんじゃないぞ! 出てきたらこいつ等を殺すからな!」 男の叫びと共に、少女二人は互いの首筋へ刃を押し付けあう。 弄ばれ、命を摘み取られそうな恐怖に二人の手はカタカタと震えていた。 『……HQ、あの二人を助けるのが先決だ。こんな事の為にリベリスタを失うわけには行かない。レイヴンで上空から追いかけてくれ、捕捉さえしてくれれば、俺達が居場所を突き止める』 本部が無慈悲な決断を下す前にEEは打開案を提示する。 上も同じ考えに至ったらしく、彼の要求を受け止め、準備が進む。 男は少女達を盾にする様に撤退を開始、未だに死の恐怖に去らされる二人は覚束無い足取りで男に連行されるのであった。 ●独裁者 「未来が見えても偶然ばかりは、どうにもならないものね……」 小さく溜息をこぼす『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、スクリーンの映像を閉じる。 「あの二人は本来あそこにいる予定は無かったの。ただ偶然、あそこでエリューションが沸いて、偶然彼女達が立ち寄って倒したら、あんなものを持った人がいたって事」 その後、偵察兵二人の働きで二人の少女の救出は完了済み。 だが恩を仇で返すとは酷いものだ、リベリスタ達の雰囲気は少々ピリピリしていた。 「状況を説明するわね。彼は前田 浩二、そこら辺にありふれた一般人よ。そして、彼が偶然手に入れたアーティファクトがディクタトールという銃よ」 ディクタトール、それはラテン語で独裁官を指す言葉だ。 随分と皮肉な名前である。 「銃自体には意思があって、自身が壊されない様、居心地のいい人間の場所で留まろうとするわ。彼みたいに女性に対して、何かの執念があったりすると丁度いいみたい」 さて、ここからが本題だ。 口酸っぱく言葉を続けるが、相手は一般人である。 殺して奪うは余りにも道徳に反するだろう。 相手があれだけ外道な手段を取るのであれば、それも一つの手かと思うだろうが、組織としては容認できるものではない。 「追跡してくれたリベリスタが情報を沢山持ち帰ってくれたわ、映像にもあった通り見つかったらアウト。だけど……彼が楽しんでいる間に横から掠め取ればどうにかなるかもしれないわ」 狙撃が失敗したのは、破壊という銃にとって死に繋がるものだったからこそ、最大限の回避が発生した。 だが奪うのであれば別だ。例え離れても、奪った相手が居心地いい場所ならそれでいいのだから。 「作戦は囮と奪取の二つの班で行ってもらうわ、囮は彼に好き勝手させたり、煽って意識を惹きつける事、両方出来れば最高だわ。奪取はじりじりと彼に近づいて、隙を見て奪う。でも素早さ任せとか、上空から近づくだけとかだと駄目よ、気取られるから」 例えるならば『ダルマさんが転んだ』だと呟くイヴ。 「役割分担は任せるわね」 キツイ灸を据えてやろうと、リベリスタ達は準備に取り掛かるのであった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:常陸岐路 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年06月04日(月)23:38 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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