● 「嗚呼ホント、火って落ち着くよね、うん」 薄暗い部屋で、フードを被った男は呟く。 小さく弾ける音を立てて、男の掌に炎が灯った。 揺らめく光は、何処か儚さを纏いながら、部屋を明るく染めていく。 暗闇に揺れる炎に誘われ、集まる羽虫に男は笑顔を深め、 「御前もそう思うだろう」 その一言と共に、虫のひとつをぐしゃりと、握り潰した。 「一緒に踊ろうよ、楽しいよ。きっと……フヒッ」 呆気なく尽きる羽虫の命。男は、満面の笑みと共に拳を開いた。 潰した虫は粉々になって、はらはらと舞い落ちていく。 その欠片を例外なく、無情に、炎が焼き尽くす。 しかし炎は突如燃え上がり、男の表情を煌々と照らしだした。 ごうごうと空気を焦がしながら、炎は火柱へと変貌を遂げていく。 皺を多く刻んだ醜い表情が、歓喜に歪む。 嗚呼なんて、なんて、綺麗なんだろう。 恍惚とも取れる言葉を男が唱える最中、炎はその形を変えていった。 ぱちぱちと弾ける音に混ざって、猛々しい羽音が部屋に響き始める。 「不死鳥は、炎の中から、蘇る。……フヒッ、ボク今、上手いこと言ったよねぇ」 先程途切れたように見えた羽虫の命は、再び動き始めた。 小さな棘は、鋭い槍に。 小さな翅は、大きな翼に。 脆い身体は、堅い鎧に包まれて。 「ほら、新しいオトモダチだ、仲良くするんだよ、フヒヒッ」 炎をぐるりと囲む様に集まる"オトモダチ"達に、男は告げる。 これまでも同じことを繰り返してきたのだろう、幾つもの大きな羽音が、部屋に響いていた。 きちきちと、巨大な虫は牙を打ち鳴らし、新たな"オトモダチ"の生誕を祝う様に鳴き始めた。 釣られる様に、男は気味の悪い声で笑い始める。 その声は、余りに醜く、狂気に満ちていた。 ● 「うーん、やっぱり理解できない」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、アルコールランプの光を眺めながらぽつりと零す。 「あ、ごめん、なんでもないの」 ブリーフィングルームに集まるリベリスタ達に気付くと、イヴは火を消し、ファイルを手に取った。 手早く映写機を操作して、スクリーンに映像を投影する。 軽い動作音と共に映ったのは、顔面が皺だらけの、不気味な男の超アップ映像。 「うわ、気味悪っ」 リベリスタの誰かが零す。それにイヴは頷いて口を開いた。 「今回みんなに止めて欲しいのはこの男。主流七派のうちの一つ、『裏野部』に属するフィクサード。 名前は火牙照哉(かが てるや)。性格は見ての通り……個性的で、結構好戦的なところがあるみたい」 もっとも、裏野部に好戦的でない人がいるのかしら。とイヴは呟いて、次の映像に切り替える。 男が燃やした虫が、炎に包まれ復活する場面だ。 「彼が持つアーティファクトの影響で、こんな風に焼いたものをエリューション化して従える事が出来るの。 もっとも、彼は虫を好んで燃やしているのが、虫に対してのみ効力を発揮するからなのかも知れないけれど、断言はできないわ。 それと、この復活したエリューションについてなのだけど」 映写機の画面がぱちりと切り替わり、先程の虫が拡大されていく。 リベリスタの誰もが、ごくりと喉を鳴らし映像を注視していた。 「見ての通り、形状は蟷螂の様なものに統一されているわ、でも、もっと頑丈だし攻撃力もある。 鎌腕の部分は挟む形じゃなくて剣みたいに前に伸びているから、攻撃範囲に気を付けたほうがいいかも。 あと一番気を付けて欲しいのは、このエリューションは炎で回復したり復活するみたいなの」 ファイルをぱたりとと閉じて、イヴは顔を上げる。 「火牙照哉はエリューション達を連れて町に向かってる。このままじゃ間違いなく人が死ぬの。お願い、止めて」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ぐれん | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年06月02日(土)23:43 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「嗚呼、本当にいい月だな」 夜の街を、火牙照哉は歩いていた。 この先で待つパーティの会場へ、照哉は真っ直ぐに向かう。 今夜は、どれほど増やせるだろうか。楽しい楽しいダンスパーティの御相手を。 全部ぶっ壊して、燃やして、奪う。それが最高に気持ち良いんだ。 楽しげに鼻歌を奏でながら、上機嫌に通りを進む。 不自然に綺麗に掃除が行き渡った通りも、彼らの目には留まりもしなかった。 ● 「不死鳥の……名を持つ、アーティファクト……」 建物の陰、不意打ちに向く位置でそう呟くと、エリス・トワイニング(BNE002382)は魔力を練り上げ、鋭い矢を放つ。 放たれた矢は風を切って飛び、照哉の周辺を飛び回っていた虫の一匹を消し飛ばす。 彼女はあくまで癒し手。だが神秘を操るその力自体はその対極、破壊者たる魔術師と同等のものであった。 「斜堂流、斜堂影継! その炎が本当に不死鳥級か、確かめさせて貰う!」 エリスの矢の着弾と同時に飛び出したのは、『影の継承者』斜堂・影継(BNE000955)。 唸る剣と煌めく拳銃を手に、真っ直ぐに照哉と虫たちの群れに突貫する。 後ろには頼れる癒し手がいる。多勢の相手を前に、影継は臆することなどなかった。 「いい年して火遊びか、こいつはきつめにお灸を据えてやらないとね」 先陣を切る影継に続くのは、『九番目は風の客人』クルト・ノイン(BNE003299)。 携えた片眼鏡を妖しく光らせ、無駄の無い動きで風のように駆ける。 「みんな、頑張ろうね!」 『フェアリーライト』レイチェル・ウィン・スノウフィールド(BNE002411)は鼓舞する様に明るく言って、先を掛ける皆に小さな翼を授ける。 「それじゃあ、あたいもいくですー」 何処か間延びした声。金の髪を揺らしアゼル ランカード(BNE001806)は気合を入れる。 頑張って、戦線を維持すること。一人でも多く、ひとつでも多く傷を減らすこと。それが今回の役割。 真っ直ぐと戦場を見据え、アゼルは地を蹴った。 動き出す覚醒者達を前に、照哉と虫達も陣形を整える。 町の中心の"餌"を血祭りに上げる前に、少しくらい遊んでやるか。 気味の悪い笑顔と共に、照哉は足元に巨大な魔法陣を展開する。 その最中、ぎちぎちと関節を震わせ、鋭利な腕部を構えるエリューション。 蟷螂の鎌であった其処は、『万華鏡』の予測通り剣の様に伸び、殺傷能力に特化したものとなっていた。 こんなものが町へ到達すれば、惨劇が待っているのは想像に容易い。 二人の姿を確認すると、『鋼脚のマスケティア』ミュゼーヌ・三条寺(BNE000589)は携えた長銃に弾薬を込め、振り翳した。 狙うは、前方に展開する敵の布陣。ミュゼーヌはきりりと目元を尖らせ、言い放つ。 「大きいだけの羽虫風情が……蜂の大群で屠ってあげる!」 言葉と共に彼女が放つは銃弾の嵐。蜂の大群が押し寄せる様にエリューションの群れを飲み込み、その全てに弾痕を刻み込んだ。 「……一般人の被害者はださせない」 ミュゼーヌの銃撃の嵐に怯む敵影に、『出来損ないの魔術師』シザンサス・スノウ・カレード(BNE003812)は一気に駆け寄り、小さく零す。 リベリスタとしての訓練を終え、初めての実戦任務。加えて相手は格上。 手に浮かぶ汗もそのままに、ナイフをぎりりと握って。 「絶対に、ねっ!」 引き上げた身体のギア、自身の力を込めて正面の虫へ振り下ろした。 ● 相手は思考力の低い虫。力加減も恐怖も迷いもなく、彼らの腕部の『剣』を振るう。 大型の体も相まって、相当の攻撃範囲を誇るエリューション。互いを切り裂いても痛覚のない彼らには関係なく、血を血で洗う大乱戦となった。 影継が放つ弾丸の雨に追い打ちを掛ける様に、クルトが駆ける速度に乗って、脚に装着した武具へ雷を纏わせる。 いくよ、という掛け声と共に、周辺の虫達へ舞の如く連撃を叩き込む。 彼らの攻撃の衝撃に揺らぐもの、弱点の腹部を抉られ怯むもの。乱戦の中で隙の大きな個体を見極めると、『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)はその眼前に現れる。 携えた剣を引き抜いて、ゆらりと振り上げて。一閃。 「で、火牙照哉殿、こんなものを連れて、街中に何をしに行く気だ?」 振り下ろした剣で両断したエリューションを指差して、照哉へと視線を投げるアラストール。 彼女の目線に歯を縛り、一歩後ずさる照哉。 続いて不意に響く、風斬り音。 高い金属音を立てて、照哉の手首に装着された『不死鳥の火』に深い傷が刻み込まれる。 乱戦の最中、ミュゼーヌの的確な射撃が叩き込まれたのだ。破壊には至らないまでも、照哉を更に追い込んでいく。 焦りを掻き立てられる照哉とは裏腹に、主君を傷つけられた虫達は羽を強く震わせ、牙を打ち鳴らし始めた。 彼らは、怒っていたのだ。 陣形の内側に食い込んだリベリスタに襲い掛かるエリューション達。 鋭い剣爪で、大きく薙ぎ払う。その一閃が裂いたのは空虚。アラストールはするりと攻撃をかいくぐり、反撃の体制を整える。 単体の力は大きくない。『万華鏡』の予見は正しく、戦線は幾分覚醒者達の優勢と見られた。しかしそれは、各個撃破が成り立った時の話だ。 剣を振り上げるアラストールの背に、別の虫が切りかかったのだ。 「後ろ、危ないですーっ!」 間一髪、戦線の外からのアゼルの掛け声に、再び振るわれた爪は掠めるに留まる。が、その奥より更にもう一体のエリューションが飛び掛かる。 ぐしゃり。 生々しい音を立てて、アラストールの眼前でその虫は上空に跳ね上げられる。 振るわれたのは、クルトの拳。堅牢な敵の甲殻の内側へ、気を練り込んで叩き込む妙義。 大地に叩き付けられる敵"だったもの"を鼻で笑うと、何処か芝居染みた台詞を紡ぐ。 「随分と醜悪で脆い不死鳥だね。この程度なら何度甦らせようが、叩き潰せるよ」 見下す様な視線で、クルトは照哉を見据える。 ――厄介な代物を持ってるのは解ってる。それを最大限生かさせないためにも。 相手の心理を的確に捉えた彼の言葉に、照哉は容易く逆上する。 醜いといったな、この美しい不死鳥達を。 「フヒッ……知ってるかい、ゲヘナってさぁ、永遠の滅びの谷の事なんだってさ」 言葉の節々に憎しみを込めて、照哉は言葉と共に掌を翳す。 急速に収束する魔力、体現するは"Gehenna"の炎。強力で無慈悲な、地獄の火炎。 ごうごうと空気を焦がすそれを、更に燃え上がらせる。 「ずっとずーっと踊ろうよ。特等席、用意してあげるから、さぁっ!」 気味の悪い笑みと共に照哉は獄炎を放ち、虫達もろとも覚醒者達を焼き焦がした。 闇夜を煌々と照らす、狂気の炎。その威力は、想像を絶するものだった。 「が、はっ……」 身を芯まで焦がされ、エリューション達と肉薄していたリベリスタ達は膝をつく。 それに反して、火炎を受けた虫達は歓喜に羽を震わせ、その動きを活性化させる。 既に事切れた虫の幾らかが、再び立ち上がり、蠢き始める。 「ほぉら、そいつからやってしまえ!」 再び、照哉の掛け声に反応する様に、複数の蟷螂がその剣を影継に突き立て、辺りを血飛沫が舞う。 傍に居たクルトを庇い、既にダメージを負っていた影継の身体は力なく地に伏せた。 視界を満たす光景に、こみ上げる幸福感に照哉は高笑いを始めた。 なんだリベリスタ共。言葉だけで実力が伴っていないじゃないか。 「……一緒に踊ればたのしい?」 燻る黒い煙と、照哉の笑い声を、レイチェルの翼がばさりと振り払う。 迷惑千万。楽しいどころか、向こうの世界に渡らせて貰うわけにはいかない。 煙が掻き消えた先。フィクサードの視界に入ったのは、三人の、影。 「踊るなら、他人を巻き込まないで静かに踊っててよ!」 このままこいつをみすみす通せば、沢山の人が被害に合う。止めよう、止めなくちゃ。 三人の影の中心で、翼を広げたレイチェルは蒼い瞳に力を込める。 「もしかして……友達がいない……寂しい……人?」 その傍らで、照哉を見据えてエリスは零す。 電波を受信する必要もなく解る。こいつ、ぼっちだ。 それでも、寂しいからといってこの所業は許されない。 「残念ながらあたいは、少なくとも火事の炎を見てすばらしいなんて思わないのですよー」 困った様な笑みと共に、アゼルは呟いた。 焚火の様な優しい炎、キャンプの時の暖かな炎。そんな炎はあたいは嫌いじゃない。 だからこそ、こんな身勝手な炎に、赤茶けたこんな炎に、人々の明日を焼かれることを許してはならない。 ――突如、炎の荒々しい朱に混ざって、溢れ出る優しい淡い光。 三人が体現するのは、癒しの神の温かい息吹。生命を救う、聖なる風。 「そ、そいつらをとめろっ!」 良し悪しはあれど、彼も一端の魔術師。癒しの力の効能を、知らない筈もない。 そして今、収束していく覚者達の癒しの風が、戦況を思わしくない方へ傾けるのも理解していた。 「待てよカマキリ野郎、……御前の相手は俺だぜェ!!」 照哉の声に応え、癒し手達に向け羽ばたく虫の達の背に、影継の声が響く。 既に一度、確かに力尽きた彼の体は、彼が差し出した運命によって再び動き始めていた。 俺たちは、こいつらのおかげで戦ってられるんだ。邪魔すんなよ、コラ。 爪が染まるほどに柄を握りしめて、唸る剣を振り上げる。 小さく止める呼吸、強く込める力。大地を震わせる程の衝撃と共に、影継はエリューションを葬った。 「それでは、残った貴方の相手は、私が致しましょう」 「虫は嫌いです、がそんなことは言ってられないわね」 影継に続いて、剣を振り上げたアラストール、ナイフを携えたシザンサスが続く。 同じく彼女らも、差し出した運命によって自らの身体を駆り立てていた。 妖しくナイフから伸びる幻影。シザンサスの作り出すそれは、露出した虫の腹部を鋭い斬撃で切り裂く。 更に、追い打ちを掛ける様に、アラストールの全力の一撃が叩き込まれ、目標は両断された。 それと同時に、リベリスタ達の傷痕が見る見るうちに癒えていく。 三人の癒し手。それぞれが放つ神の息吹に、戦況は優勢に一転した。 ● 「Das ärgerlich Bastard、動きは止めさせてもらうよ」 癒し手の動きに集中していたためか、孤立した照哉を見逃すことなくクルトは駆けて出しいた。 その動きに反応する虫を置き去りにして、照哉の眼前まで駆けると、その速度に任せて拳を降り抜き、鈍い音を立てて照哉を数メートルの先まで吹き飛ばした。 「ぐ、うっ……」 力なくクルトを見上げる照哉。身体に走る激痛と痺れに、反撃を許されなかった。 「お前らぁあああ!! しっつこいんだよぉ!」 思い通りにいかない戦況、興はとっくに、尽きていた。 照哉は痛む身体で強引に立ち上がり、半ば狂ったような叫びと共に、クルトへ掌を翳す。 術者の身体から滴る血液が形を変え、呪いを編み上げた黒鎖へと変化していく。 照哉が奏でたのは、地獄の火炎でなく、万物を呪い殺す葬操曲。 異界の因果を、魔の術式をその身に刻んだ魔術師に、改めての詠唱など、必要なかった。 至近距離で術を受けたクルトは成す術もなく呪術の濁流に呑まれる。そのまま付近の影継へ迫る黒鎖の濁流。 エリューションとの戦闘に集中していた影継。渾身の一撃の後の流れ弾。回避行動に移ることも許されず、諦めた様影継は悔しげに舌打ちを零す。しかし。 「跪きなさい……地獄の炎に叩き落としてあげるから」 戦場を大きく横切って反対側。数十メートル離れた位置で、ミュゼーヌは呟く。 照準を合わせ、撃鉄を引いて、一つ息を吸い、固く止める。 落ちる硬貨をも打ち抜く射撃。動き回る手首に比べ、脳天なんて『大きすぎる目標』に、外れなど有り得ない。 彼女が引いた引き金と同時に、影継の眼前で黒鎖はその形を崩す。 「いぃいい、痛い、痛いっ」 眉間に一発。どくりと流れる血液に照哉は膝をつき、憎しみに顔を歪める。 また、あいつか。 遠くから何度も何度も何度も。 ぎりりと歯を縛り、立ち上がる照哉。 その最中にも、リベリスタ達は癒し手の加護を受け、次々に虫達を駆逐していく。 「燃やしてやるよ、全部、全部っ!」 翳した掌をミュゼーヌへ向け、照哉は激しい感情の嵐を魔力へと変えていく。 突如、照哉の足元に数々の魔法陣が展開し始め、異界の因果を、より強くこの世へ体現する扉となる。 更に増幅していく魔力、彼は、魔法陣の召喚と共に、地獄の炎をも練り上げる。 リベリスタ達が対応するよりも早く、照哉は憎悪を乗せた獄炎を、ミュゼーヌへと放つ。 着弾点から広がる朱。ミュゼーヌのみならず周辺に待機した癒し手達までも、一瞬にして焼け焦げていく。 けれど、彼女も運命を擲って。 「踊るなら一人で踊ってよ、火遊びなら、自分一人でやって!」 痛々しく焦げた翼をもう一度広げて。レイチェルは再び体現する。癒しの神の息吹を。 「だから言ったですー、そういう炎、嫌いだって」 此処で、倒れるわけにはいかない。保ってみせる、この戦線を。誰一人の明日だって、焼滅させたりはしない。 アゼルも、レイチェルに続き癒しの風を届ける。自分たちを信じる仲間の許へ。 「いくぜ……てめェを俺が斬り砕くっ!」 「さてそろそろ、俺も働かないとね」 「さぁ、終わりにしましょう、火牙照哉殿」 「私も、未だやれるわ」 膝をついた体勢からゆらりと、アラストールが、影継が、シザンサスが、そして運命を燃やしクルトが立ち上がる。そして同時に力強く、地を蹴り駆ける。 想像を超える消耗戦、此処で決まらなければ、おそらく勝ちは無いだろう。その場の誰もが、理解していた。 わらわらと集まる虫達、主君は、やらせない。 しかし、リベリスタ達の狙いは照哉自身ではない。 予想通り照哉を守る様に立ちはだかる虫達を、引きはがす様に刃を振るう。 クルトの蹴りが、壁となる複数のエリューションを捉え、纏う雷撃で黒く焦がして。 アラストールの剣撃が、正面の大型の虫を吹き飛ばして。 ジザンサスの幻影が、残る一体を切り裂いて。 影継の一撃が、最後の虫を左右に断って。 「火を操っても……自分の心は……温められないよ?」 開けた視界、崩れ落ちる虫達の先で、エリスが魔力を練り上げて呟く。 その言葉にはっとする照哉の胸元を、断罪の矢が唸りを上げて貫いた。 ――やっと静まり返った真夜中の街道。 「初依頼でこれだと…私ももっと強くならないとね、自分が情け無いわ」 所々焼け焦げた服。煤だらけの銀髪をぽんぽんと払いながら、シザンサスはぽつりと零した。 「火事の芽は摘んでおくのですよー」 アゼルが一人、消火器で残った炎を処理していく。 「アンタ、強かったぜ」 エリューションの体液で汚れた剣を拭って、影継は告げた。 魔具を残していては危険だと、照哉の手首を調べる影継。 しかし、其処に『不死鳥の炎』の姿は無かった。 灰となって消えたのか、はたまた―― その答えは、誰も知らない。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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