●とあるCDショップにて。 「好きなんすか」 と、レジに居る黒髪のお兄さんが、ぼそ、と会計の合間に、言った。 多分、それは今、芝池が差し出した古いグランジ系のロックバンドのCDに対してだったのだろうけれど、残念な事にこれは頼まれて買っているだけのCDで、聴いた事がない、どころか、多分この先も聞かないだろー予感のするものだった。 けれど、店員のお兄さんがわりと好みで、常々ちょっと仲良くなれたらいいなあ、とか思っていた所だったので、よしっていうか、きたっていうか、ここは絶対話を合わせておくべきところに思え、「あ、お好きなんですか?」と、はにかみながら問い返し、店員のお兄さんが「まあ」と、ぶっきらぼうに言った瞬間、すかさず、「僕もです」と、決めてみることにした。 そしたら、「そうすか」って、ちょっと唇の端持ち上げて笑う、みたいな、その感じがもー、わー何かいーなー、って絶対言えないけど、俄然テンション上がって、無意味にへらへらして、お釣り受け取って、あ、どうもどうも、みたいな、でれでれ感が満開になりかけた瞬間。 「嘘吐き」 って、後ろから、もーさっそく、言われた。 振り返ると、何かシラーっとした表情で、っていうかまー多分いつもの覇気のない無表情が、シラーっとした表情に見えただけなのだろうけれど、とにかく、アーク所属の変人フォーチュナ、そして無駄に美形のフォーチュナ仲島が立っていて、何か、焦った。 とか、もう構ってたら絶対面倒臭い事になる気がしたので、「どうもありがとうございます」と袋を受け取り、さっさとその場を離れようとしたら、ガッて腕掴まれて、「それ、俺が頼んだCDでしょ」 ってガン見してくる無表情の美形は、わりと、怖い。 「あーえーっとあのー、そうですねあのとりあえず、店を出ま」 「俺が頼んだCDで、その時君、全然興味ないって顔してたっていうか、実際、僕こういうの興味ないですけどねー、とか言ってたよね」 「え?」 「いやえじゃなくて」 「あ、そうだ。そうそう。そういえば、仕事の話があるんですよね。聞きますよー、どんどん聞きます、あのーあれですよね。何か、こう、討伐系の」 とか、喋りながらの勢いで何かどーにかならないかなーって歩き出してみるのだけれど、 「うん、誤魔化されないよ」 美形はもー、頑として、動かない。 芝池の腕を握ったまま、このまま何か彫刻とかになっちゃったらどーしよーって、そんなわけはないだろうけれど、思ってしまうくらい動かないので、何かもーすっかり、負けた。 「あのー仲島さん」 「うん」 「すいません嘘つきました」 「だよね」 「はい」 「だいたい、おかしいと思ったのよ」 「はい」 「CD買いに行くの面倒なら、僕が行ってあげますよ、なんて」 「……はい」 「いやそんな何か拗ねた顔しても駄目だよ」 「でも、気が変わったとかもあるかも知れないじゃないですか。聴いてみようかな、って思ったかもしれないじゃないですか」 「気が変わったんだ?」 「はい」 「じゃあこれから、俺の家に行って聞けばいいよ」 って言った顔を、あ、そうなっちゃうんですね、と、ちょっと見つめた。 「ですよねすいません、嘘つきました」 「うんじゃあとりあえず、仕事の話でもしながら行こうか。どんどん聞くって言ってくれてたし」 とか、訂正なんて絶対受付ませーんみたいに、ふらーと踵を返した仲島は、そのどちらかと言えば痩身の、覇気のない体つきからは想像できないくらいの力強さで、芝池の腕を引っ張り、歩き出す。 「そういえば一つ、至急に資料を作っておいて欲しい依頼があったんだよね。敵討伐とアーティファクト回収依頼の資料なんだけど」 そうですか、とか何か言いながら芝池は、腕を離そうと懸命にもがいてみるけれど、全然手が、離れない。 「敵は、フェーズ2のE・ゴーレムが4匹でね。何か、CDとケースがE・ゴーレム化したものらしくて、ケースがパカッと開いたかと思うと、銀色の記録媒体とかをビュンビュン飛ばして攻撃してくるみたいね。で、場所は某所にある洋館。元は広いお屋敷だったみたいだけど、今は半壊してて、残ってる部屋は四つしかない。つまり、廃墟だから、人が住んでたりする心配はないんだけど、古い建物だから、床に穴があいていたり、床が突然抜けたり、ドアが突然倒れて来たりするかも知れないんだよね。まあ、そのへんには注意して貰って」 「あ、そうですか。あとこれ絶対家とか行きたくないんですけど、どうしたら」 「で、アーティファクトね。今回は、ラジオなんだけど。聴いていると、残念な事を思い出したり、残念な気分になったりしてしまうような曲の流れるラジオ、略して残念ラジオが1個と、聴いていると、甘酸っぱい思い出を思い出したり、甘酸っぱい気分なったりしてしまうような曲の流れるラジオ、略して甘酸っぱいラジオ1個がこのお屋敷の何処かにあるはずなので、これを見つけだし、回収してきて欲しいわけ」 「はー回収」 「そう、回収。ただ、家の中には他にも幾つかラジオがあるみたいだから、どれがアーティファクトかは、聴いてみて確かめて貰えると、分かるかもね」 「っていうか聴いて分かりますかね」 「うんまあ、聴いてたら突然残念な気分になったり、甘酸っぱい気分になったりするわけだから」 「最初から残念な気分だったり、甘酸っぱい気分だったりしたら、駄目ですよね」 「うんでも最初から残念な気分だったり、甘酸っぱい気分だったりする状況っていうのが既に分からないよね」 「ですよね。あと、本当これ絶対家とか行きたくないんですけど、どうしたらいいんですかね」 途端に仲島は、聞こえてませーんみたいに、知らん顔をする。 芝池は泣きそうに途方に暮れながら、次に言うべき言葉を必死に考えてみることにした。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:しもだ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年05月29日(火)23:17 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● レポート用紙をダウンロードして、建物内の老朽具合について記入しようとした所で、ふとアルフォンソ・フェルナンテ(BNE003792)が顔を上げると、斜め前を歩く『シトラス・ヴァンピール』日野宮 ななせ(BNE001084)の姿が目に入った。 彼女は両手の拳を握りしめ、わくわく、うずうず、と、口にこそ出してないけれど、確実何かそんな動きをしているように、見えた。 でも、まー、それはそれとして、私はアークに提出するレポートを記入するのだとか思って、目を落とそうとするのだけれど、ななせの動きは本当にうずうずで、見ているこっちまでうずうずしてくるようなうずうずさで、うずうず選手権とかあったら絶対上位に食い込むかも知れない、いや下手したら一位かも知れない、とか何か思ってたら、レポート用紙に間違って「うずうず」とか一切関係ない言葉を書き掛けて、アルフォンソはハッとする。 とかやってたら、何かもー、うずうずし過ぎて黙っていられなくなったのか、「CDに初回特典に、そしてラジオ! アイテムとしては全部大好きで、うずうずしている日野宮ななせです、よろしくお願いします!」とか、彼女が力いっぱい言った。 「はいあのー、わかってます、他の何がわからなくてもそれだけは分かってます」 「しかしラジオと言っても奇妙なアーティファクトのラジオだぞ」 『小さく大きな雷鳴』鳴神・冬織(BNE003709)が、呆れたように口を挟む。 「全く、おかしなラジオがあったものだ。けれどまあ、仕事あらば仕方ないからな、回収はするが」 「そうそう、何か、あれなんだよね。初恋のような甘酸っぱい気分になれるとかなんだよね!」 隣を歩いていた『エアリアルガーデン』花咲 冬芽(BNE000265)がはしゃいだ声を出す。 かと思えば、胸に手を当てて、ちょっとうっとりとしたように「でも、初恋の甘酸っぱさなんて……どんな気分なんだろう」とか何か、続けた。 そんな仲間を何かちょっと見つめた冬織は、 「初恋に限定するのもいかがな物かと思うが」 と一応、そこは気にしておいて、それから、地面の方をちょっと、見つめる。 「ただ我は、そもそも甘酸っぱい気持ちというものになった事がないから……なれるかどうかは、分からない」 ポツネン。 と、している背中は、何だかとっても、小さく、切ない。 途端、ドーン! と、冬芽が、その小さな背中を叩いた。 「うん、大丈夫だよ! きっとなれるよ! 頑張って一緒に甘酸っぱくなろうよ! 大丈夫。絶対、冬織君だってなれるよ! 間違いないよ!」 って、別にそこはなれなくてもいいんじゃないか、励まし方間違ってんじゃないか、とアルフォンソは思ったのだけれど、とりあえずやる気のある人を止めてあげるのもあれなので、そこは黙っておくことにした。 「それにしても」 前の方で『ぴゅあわんこ』悠木 そあら(BNE000020)が辺りを見回しながら、言った。「思った以上に古い建物なのです」 そしたらその前を歩く、つまり、先頭を行く『獣の唄』双海 唯々(BNE002186)が、「あれですよね。廃墟って何かワクワクするですよね、何か出そうで」とか、皮肉っぽく微笑みながら、嫌味みたいに言ったのだけれど、尻尾が凄いぱったぱたしていて、あれはきっと内心、だいぶはしゃいでいるに違いなかった。 にも関わらず、 「甘酸っぱい気分になるラジオか……」 とか何か、確実遅れて話を戻して来た『羊系男子』綿谷 光介(BNE003658)が、「残念なラジオならすぐ分かりそうだけど、甘酸っぱい気分になってもちゃんと分かるかな……んー、甘酸っぱい思い出かぁ……」 とか何か、一人でいろいろ考え込みだして、きっと甘酸っぱい思い出について考えているのだろうけれど、全く思い当たらないのか、ふわふわ歩きながらずーっと考え込んでいて、 「ああ、そこ、足元危ないのです」 とか、振り返って行ったそあらの言葉にも全く気付かず、 「甘酸っぱい……いや、分かってるんだ。自分が同年代よりちょっぴり色恋沙汰に疎いなんてことは! でも悔しいから絶対、思い当たって見せる! 頑張れ! 僕!」 とか何か、全く意味のない根性を見せ、 「あの、そこ足元危ないですよ」 「うん床が抜けそうですよ」 って、そあらと唯々がちゃんともう一回言ってくれてるのに全然聞いてなくて、隣の『おとなこども』石動 麻衣(BNE003692)が更に、「あの、光介ちゃん?」ってとんとんしてもぼーっとしている彼は完全にトリップしているようだったので、じゃあもう好きな事言っちゃえーみたいに、唯々が「はい、床が抜けそうです、ドアも倒れてきそーです、あとあの扉の向こうに幽霊です!」 とか凄いいい加減な事言って、 「はい幽霊ですね! え! 幽霊!」 とか、麻衣が、ワンテンポ遅れて、真面目に驚いて、 「いや、ありました、甘酸っぱい思い出! ポンカン食べたときとか! え! 幽霊!」 って言った瞬間、光介の足元の板がバキッ! とか思いっきり抜け、小さな体が全力で床の中にズボッと、沈んだ。 あんまりの思いきった落ちっぷりに、あ、本気で落ちたんですね、みたいに、その場が何かシーンとする。 「だから、危ないと教えてあげたのです。大丈夫ですか?」 とことこ、と、呆れたような表情でよってきたそあらが、一切面白くないよ、みたいな口調で言った。 けど、思いっきり尻尾がぱったぱたしているあたり、これは。 「はいすいません、でも確実に喜んじゃってますよね」 「はい、全力で床下に落ちる人とか、あんまり見ないので」 って一切笑わず言ってるけど、完全にそあらは否定してない。 「とにかく手伝います、さあ、光介ちゃん、この手に掴まって下さいませ!」 とか麻衣が手を差しながら、何故か凄い笑っていて、「でも楽しそうで羨ましいです~」とか言った。 「いやすいません一切楽しくは」 「でも、本当に幽霊出るんですか!」 まだまだ、うずうず体制のななせが、唯々の所へと寄って来て、うずうず、うずうず、と拳でリズムを刻みながら、言う。 「いえ、何かトリップしてたみてーですから、イーちゃん思わず、適当な事言ってみたです」 「あ、なんだそうなんですね」 と、一瞬テンション下がりました、みたいにうずうず、の動きが止まった。 瞬間、 「でも、あの扉の向こうに何か、E・ゴーレム居たのは本当です」 とか、唯々が凄い冷静に、言った。 「え?」 と、光介は床から這い出ながら、思わず、いや本当ですって今一切、E・ゴーレムの話してなかったですよね、と確認したくなる。 そしたら、 「あ、それはきっと居ますね」 超直観を発動中のななせが、そっちなら分かる分かりますうんうん、みたいに頷いた。 「うん、それはきっと居るようなのです」 同じく超直観発動中のそあらが、冷静に、同意する。 ● って事で何かさらーっと、戦闘は始まってしまったようだった。 誰かがばーとか、ドアを開く。 その途端、後方から、そあらのいちごばくだんが飛んだ。 わーなんてポップでキュートないちごなのかしらーとか思って見てたら、着地した途端、どっかーんとか、本気の威力で、ただでさえ脆い室内を思いっきり吹き飛ばし、壁とか半壊してたけど煙の後にはもー全く見る影もなくなって、向こう側に見えるのは、庭。 って、すいませんいちごなめてました、とか、光介はちょっと茫然とする。 茫然とする。 いや、している場合ではなかった。ぎゅいーんって、煙の隙間から、何か鋭いもんが飛んで来て、わー銀色の円盤ー! とか、咄嗟の事にどうしていいか分からなくなってるそこへ飛び込んできたのは、巨大な鋼のハンマー「Feldwebel des Stahles」を、まるでバットのように構えたななせで、物凄い勢いでぎゅいんぎゅいん来る円盤を、がががががッきーん! 「ホームラーン♪」 って、遠くを見る彼女は確かに可愛いのだけれど、口調は凄い軽いのだけれど、今の一瞬は確実に何か、根性系のスポーツ漫画とか戦闘漫画とかで見そうな凄まじい系の絵に似ていた気がした。 けど、光介は見なかったことにした。 その間にも、敵がCD撃ち返されたんならこっち出します! みたいに、ストラップの攻撃を繰りだしていて、彼女はその小柄な体躯を活かし華麗に回避。 したかと思ったけれど、足の先が捕まって、うお、ってなって、くそーみたいにくるん、と回転して、頭のてっぺんのあほ毛も一緒に回転して、華麗に回避。 と思ったけど全然回避出来なくて、むしろ逆にどんどん巻かれて。 「わーいくらわたしでも、そんなにマニアックな趣味はありませーん!」 って、他の趣味は一体どんなんなんだろう。 と、ちょっと想像しかけて、光介はハッとして赤面し、「助けてくださーい!」とななせに振り返られ、「ななななななな、何もやましい事なんか考えてませんよ! 貴重な初回特典付きだからって、調子に乗らないでくださいよ!」 ってわりと支離滅裂な事を言って、むしろその支離滅裂さでやましさを暴露したも同じだったのだけれどとにかく、何か勢いでマジックアローを発動した。 巻き付いたストラップ部分目掛けて、魔法の矢を飛ばす。 その先端がストラップかすめちぎるや否や、くるーんと回転したななせが、メガクラッシュを発動する。全身のエネルギーが留まり輝くFeldwebel des Stahlesの先端で、思いっきりE・ゴーレムを叩き潰した。 とかいう間にも、エネミースキャンで敵の弱点や情報の解析を行っていたそあらが、 「うんうん。なるほど。あのCDめっちゃ、レアなのです、プレミアもんなのです」 とか、スキャンしてくれたはいいけれど、あんまり戦闘には役立ちそうにない情報をお伝えしてくれた。 だけではなく、何かわりとどうよ、みたいな、やったった感満載などや顔で、隣を振り返った。 「あ、はい」 目が合った麻衣は、とりあえず何か、頷いておくことにした。 「だったら、あの初回特典回収したいですねー。案外レアなストラップかもしれねーですよ」 両手にナイフを構えた唯々が、嬉しげに言いながら、飛び込んで行く。 和服の裾をはためかせながら、まるで踊るかのように、軽やかなステップ、ステップ、パキッと脆い床を踏み抜き掛けて、おっと、と後方にステップ。 のついでに、ダンシングリッパーを発動し、仰け反った反動ー! みたいに、ナイフを振りおろし、敵がそれをガッとストラップで受け止めると、「お、それよこすです」って、反対の手で握って、引いて、押して、引いて、押して、ステップ、ステップ、ステップ。 の横から、ナイフで横っ腹、ズサっ、とやって、でもストラップだけは離さないよ、絶対! みたいなゴーレムと何かごちゃごちゃやって、ごちゃごちゃやって、ごちゃごちゃやって。 「イーちゃんごめんなさい、ウザくなってきたです」 呟いた彼女の体がカッと光を帯び、次の瞬間には彼女の顔の横に、オーラで作られた禍々しい爆弾がふわふわと。 浮いていたかと思ったら彼女が後方に飛んだ。爆弾が急降下で、E・ゴーレムにぶつかり、ドーン! 「あ無事そうな初回特典……は、なさそうですね」 とかいうその頃、少し離れた場所では、ぶわーっと大きなクマの影が、暴れていた。 腰元に飾られた「Ghede」という名のクマのぬいぐるみから、テラーオブシャドウの影響で伸びた黒い影は、敵を撹乱するように動き、冬芽の攻撃を援護する。空間をゆらゆらと過り、現れては消え、消えては現れるゲーテの影に、え、何処なの、何処からくるの、何処からくるの。みたいにわったわたしているE・ゴーレムに向け、冬芽は、「Invisible hand of God」の攻撃を繰りだす。 蜘蛛の糸のように細く強く加工されたそれは、まるで、見えざる神の誘導のように、今、幾重にも絡まり敵の動きを封じて行く。 「何せ初回特典って、結局開けないまま放置しちゃってかさばってっちゃうんだよねぇ」 巧みに糸を操りながら、冬芽はそんな感想を漏らす。「でもそんな初回特典も武器として再利用。エコだね」 「いや、エコでは」 って、チェイスカッター発動中のアルフォンソは、思わず、指摘する。 間にも、その手からは誘導性の真空刃が発生し、CDを切り刻み、手足を落とした。 途端にどくどくと溢れだす血に、CDから血が流れてるのも変な眺めだな、とか、ぼんやり思う。 「じゃあそろそろお疲れさんっ♪」 軽やかに言った冬芽が、ふわ、と飛行し、ハイアンドロウを発動した。 上空から、彼女の鮮やかなピンク色の髪と同じ、原色の継接ぎ眩しい爆弾を投げつけ、敵を粉々に砕く。 その頃、残った一体と対峙する冬織の背後では、麻衣が、援護のマジックアローを発動していた。 と思ったら、それよりかなり立派なそあらのマジックアローの矢が、ゴオオオッって、追撃とばかりにE・ゴーレムを叩き。 と思ったら、詠唱を終えた冬織が、魔曲・四重奏を発動し、更に追い打ちをかけ。 ツインテを風圧になびかせながら、黄金色に輝くレイピア「雷神の細突剣」を掲げると、その先から四色に輝く魔光が飛び出し、受け身すら取れない敵へと次々にぶつかって行く。 「終わりだな」 トドメを指した。 ● そして光介は、残念な気分になっていた。 ラジオから聞こえてくる音を聞いていると、つい先日買い食いしたたこ焼き8個の内、3個にたこが入ってなかった、とかいうプチな不幸を思い出し、胸が締め付けられるような思いに駆られる。 8個の内、1つならばまだ「まあ、あるよね」とか思えるけど、3つも入っていないとなると、この確立の高さというか、2個の壁は高く、思いっきり一緒に買った友達の8個には8個ちゃんとタコが存在していた、どころか、2個にタコが2個ずつ入ってたりもして、何なのそのタコ。どういうことなの、そのタコ。何でなの、そのタコー! って、タコ如きで絶叫するわけにもいかず、いかないけれど、やっぱり、タコ……。 とか、そう言う事はわりとあって、だいたい、本を買えば、だいたい乱丁で、自販機からはわりとお釣りを返して貰えず、コピーをしたら、きちんとサイズを合しているにも関わらず、どういうわけか大抵用紙の大きさを認識して貰えない。 マジックを使おうとしたら、どういうわけか先端が一緒に抜けるし、瓶の蓋を開けようとムキになったはいいけど良く見たら張り付いてるし、席を変わろうとしたら老人には逆切れされた。 残念には、いとまがない。残念選手権があったら、きっと上位に食い込むに違いない。 でも全然嬉しくない。むしろ残念だ。 「あ、駄目だ。何か、ちょっと泣けて来た」 とかいう隣では、ななせが、小さな赤いトランジスタを発見し、耳を傾け、「どうして私の武器は巨大なハンマーだったんでしょうか。潰しちゃったじゃないですか、初回特典……」 とか何か、光介と同じようなどよーんとした顔で呟いていて、更にその隣では冬織が、少女のようにしくしくと泣いていた。 かと思ったら、くわっ! と目を剥き、「小さいとか言うではない! ひんにうとか、言うではない!」とか何か怒りだし、でも誰も言ってなかった。 「なるほど、これがラジオの効果ですか」 とか、レポートを取るアルフォンソは、実のところ耳栓で、全く音が聞こえていないので、光景だけ見てるとわりと何か異様でしかなかったのだけれど、それはきっと言ってあげてはいけない気がした。 けれどそんな彼も、残念な思いでに浸っている仲間達を見ている自らの表情こそが、あー……って、残念な顔になっている事には、気付いていない。 でも唯々は、見ているので、知っている。 ただ、教えてはあげない。 うひ。って一切表情には出てないけれど、尻尾をぱたぱたさせてほくそ笑んでいる、そんな彼女の背後では。 体育座りで赤らめた頬を押さえたそあらが、もふもふの尻尾を、時折、いやん、とか、ばったばたさせている。 「このラジオ、聴いているとさおりんとのきゅんきゅんする思い出が蘇るのです。さおりんとおでいとで、いちごをあーんって。はぅン……恥ずかしい」 かと思えば、音を聞いてないアルフォンソには何がどう転んだのか一切分からないのだけれど、地べたをごろんごろんして、手足をばたんばたんし出して、その隣では冬芽が、 「初めてあの人に出遭った時のことを何だか思い出しちゃうな。初めて出遭ったえりゅーしょん。でもあれは、初恋というより憧憬、もしくは原風景……恋とはちょっと違うよね。なのに何だろう、このそわそわした照れ臭さ。もしかして、恋? これで私も、恋する乙女の仲間入り?」 いやん。 くねくね。むしろ、ふるふる。 ってゆーのを見てるアルフォンソの顔は、益々あー……って、残念な事になっていく。 前を、 「というわけで、こちらが残念ラジオで、こちらが甘酸っぱいラジオですね」 とか何か言いながら麻衣が、当初のそあらの指示に従い、「残念!」とか、「甘酸っぱい!」とか書いた付箋を、ぺたぺた、と該当のラジオに貼り付けて行った。 のだけれど、付箋が、完全に逆だった。 「……………」 いや、多分、逆のはずだった。 でももしかしたら、そうなのかも知れない、と思うと、益々あー……とアルフォンソは、何だか残念な気分になったのだった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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