● そこに少女が二人いた。 どちらも同じ顔、どちらも同じ仕草、どちらも同じ声。 ただ違うのは彼女らが呼びあう時の呼称。 「ねえ、お姉ちゃん」 「なあに、妹」 互いに手を取り合って、傍に連れ添ってきた。 姉は妹を、妹は姉を深く愛していたしそれは周囲から見て取れた。 ただ、お互いに相手の事を何時しか遠ざけようとも考えた。 「お姉ちゃん」 「なあに、妹」 互いを互いだとは思いたくなかった。 姉は確かに妹と同じであることを望んだけれど、妹は他の誰かになりたかった。 ――じゃあ、なってみる? 妹に問いかけたのは小さな小さな妖精であった。 「どうすればなれるの?」 ――簡単だよ、さあ、目を閉じて。キスを1つしようか。 ● 「アザーバイドによって人ならざる者になった少女が一人」 まるで物語でも語るかのような口調で言う『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)の言葉。 紡ぐ御伽噺―― 双子の少女はずっと一緒だった。 妹が泣けば姉も泣き、姉が笑えば妹も笑う。二人で一つであった。 だが、何時からか妹は姉と違うものになりたかった。 そこに妖精の問いかけがあったのだという。 「私が貴女を変えてあげる、なんて魔法の言葉」 目を覚ませば確かに妹は姉とは違っていた。 ただ、自身がノーフェイスになっている――其れだけのこと。 「このアザーバイドは妖精の姿をしているけれど、そんなもの仮初」 妖精は何度もキスをするたびに無理やりその人間を覚醒させる事が出来る。 双子の妹である少女はフェイトを得ることができていない。 「ノーフェイスとアザーバイド。あまり戦力的には強くないと思う」 イヴはそこで言葉を止める。 ――ただ、強くないけれど、妹と共に居るのは双子の姉だ。 「妹が目の前で殺されて、受け入れる事が姉には出来るかどうか」 そこはあなた達の手腕にかかっている。イヴはそう真っ直ぐに集まった面々を見つめた。 「彼女はあなた達の言葉に耳を傾けると思う。簡単じゃないと思う」 あなた達が妹さんの言葉を、他のものになりたかった意味を伝えてあげて。 そうすればきっと、彼女は立ち直る事が出来る。 イヴは祈る様に言った。 ――ねえ、妹、幸せって何だと思う? それはね、お姉ちゃん、お姉ちゃんが笑ってくれることだと思う。 私とずっと一緒だと、お姉ちゃんは他の誰かを愛する事が出来ないでしょう? だから、違う誰かになりたいんだ。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:椿しいな | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年05月26日(土)23:18 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 別の誰かになれるなら、誰になろう。 「妖精さん……チェンジリング、とか」 チェンジリング――取り替え子。それは古い伝承。妖精が子供を連れ去って取り替えてしまう御伽噺。 「誰かを、誰でもなくすための業……かな」 そのキスで人を人で無くすだなんて、なんてむごい仕打ち。 『エアリアルガーデン』花咲 冬芽(BNE000265)は公園の入り口で一度足を止めて目を閉じた。 「フェイトから見放されて、当然だよね」 ――他人へ強要する姿は、正しくフェイトから見放されて当然。運命を与える天使ではない。 ただの、悪行を起こすアザーバイドだ。 「グッドエンドのない演劇の開幕ね」 冬芽の隣に立った『ヴァイオレット・クラウン』烏頭森・ハガル・エーデルワイス(BNE002939)は何処か詰まらなそうに呟く。 出来るなればグッドエンドがいい。ハッピーエンドとまでは行かなくとも。 「この悲運に満ちた姉妹へ安らぎと微笑を――」 運命のいたずら。このままでは永遠に憂うことになる少女達を解き放たねばならない。 歌う様に言った『「Sir」の称号を持つ美声紳士』セッツァー・D・ハリーハウゼン(BNE002276)はこれから討伐せねばならないノーフェイスの事を思い視線をさまよわせる。 ノーフェイスを処理する事は当たり前だ、その決意も揺らぐ事はない。 しかし、双子の姉妹が違えることになるのだ。離別から新しい希望を与えられればと、そう思う。 それが、リベリスタと言う奴だろう、と仲間たちへと視線を向けた。 「こんなことがきっかけじゃなくても、変われた可能性はあったでしょう」 ぐっと拳を固めた『Fuchsschwanz』ドーラ・F・ハルトマン(BNE003704)は誓う。 妖精を絶対に倒すと。仲良く過ごす姉妹の幸せを壊した事は何よりも許し難かった。 公園の土をじゃり、と踏みしめて『八咫烏』宇賀神・遥紀(BNE003750)は悲しげに視線を落とす。 「……また、俺の娘と同い年位の子に終わりを告げに行かなくては」 終わりを告げなければ、ならないのか―― 彼の悲しげな視線はあちらこちらへと動いた。世界の為?そんなことはない、ただのエゴだ。 出来れば悲しくない終焉をあげたい。願わくば平和であれと、綺麗事も言わない。 「さあ、行こうか」 リベリスタ達は足を踏み出した。 ● 双子の姉妹があるいているのを確認した『』スペード・オジェ・ルダノワ(BNE003654)はふわりとした足取りでそっと近づく。 双子の姉妹は手を繋ぎ、歩いていく――その後ろに居た妖精に対し、彼女は首を傾げた。 「妖精……さん?」 夢を見る少女の様な姿。まるで神秘にふれた事のない其の口調。 ――君は、なに? 「私、私ね……自分以外の誰かになりたいの」 その言葉に妖精がにんまりと笑う。嗚呼、なんて気色が悪い笑み。 スペードは其の表情を見つめ、伺う様に妖精へと言った。 「自分に自信を持つ事が出来ないから、他の誰かになれればきっと」 きっと、楽になれると思うの。 ね、あなたなら叶えてくれるのでしょう? その言葉に妖精は楽しそうに飛び回る。 ――さあ、キスをしよう? 妖精の言葉に、まるで恋する乙女の様に優しく笑った少女は言った。 特別なキスでしょう?なら二人っきりで。なるべく、人に見られない所で。 ね、キスをしましょう? 双子の姉妹からその背中が離れていく。 彼女の背を見守っていた『にゃるらとてっぷ』若菜・七海(BNE003689)は通信を通して聞こえてきたスペードの声にぎゅっと胸元に手を当てた。 姉ではない誰かになりたかった『ナニカ』――それは自分自身の様で。 誰かになりたいと、願うスペードの言葉が自身の昔の望みの様で。 「声を、顔を、姿かたちを、名前さえも変えて――」 結局誰にでもなれなかった自分。『私』でさえなくなった私。さあ、私はだあれ? 七海は高鳴った胸を抑え、隣で控えていた『昼ノ月』伊集院 真実(BNE003731)を見やる。 遠くなったスペードの背を見つめて、彼らは立ち上がり、双子の姉妹の前へと姿を現す。 「失礼。少しお時間よろしいですか?」 真実の言葉に不安げに顔を上げた双子の少女。手をぎゅっと繋ぎ合い、二人の世界への侵入者をじっと見つめる。 彼の背後では仮面をつけた七海がじっと二人を見つめている。妹――唯の顔や髪、仕草、声を観察する。 真実の言葉は双子の姉妹にとっては信じがたいものであった。エリューション、ノーフェイス。 まるでゲームの中の世界の様なお話し。由美の顔が冗談じゃない、と強張っていく。 「じゃあ、なに?殺しに来たの?私の妹を?」 「世界を壊す子にされちゃったんだ」 強結界を張り巡らせた遥紀が優しく由美へと言う。 別々になりたかった――そう言った唯の言葉を優しく優しく彼女へと説明する。 「重なり合えばお互いが大好きな二人が一人になってしまうから、唯ちゃんは別々を選んだんだろうね」 「でも、私は」 私は一つになりたかった。こんなにも大好きで、離れたくないあの子だから。 由美の目は鋭い。 「御伽噺の主人公みたいに人ならざる者に付け込まれちゃったんだ」 ごめんね、由美ちゃん、大好きな妹を護ってやれなくて。ごめんね。 優しい優しい言葉であった。 「ごめんね、俺を憎んでいい」 神秘に携わってきた彼だから言える言葉、これから彼女を、大事な妹を殺してしまう自分を憎んでも良い。それで楽になれるなら。 優しい言葉に少女は泣き出しそうな目を向ける。 「唯さん、抵抗しても大丈夫です。ただ、姉妹としての最後の時間を大切にして欲しくて、先にお話しさせていただきました」 真実の言葉に少女は――髪飾りをつけた少女が笑う。 「ねえ、お姉ちゃん。私、新しい髪飾り買ったんだ」 ポシェットから取り出したのは彼女がつけているものと同じもの。 「きっと、気に入ってもらえると思って」 そう告げた彼女は由美へと手渡した後にそっとその手を離す。 優しい微笑み――だが、彼女の手は七海の仮面を殴り付けていた。 ● スペードは妖精と対面する。 「どうして妖精さんは、願いを叶えてくれるの?」 妖精の事情や願いがあるのかも、と少女は伺う。 ――さあ、生まれた時からお願いを叶える事がお仕事だったんだ。 笑った妖精に少女も微笑んだ。 優しい言葉、お願を叶えるお仕事。だが、この世界を壊す事は許せない。 誘う様に妖精は笑う。 ――キスをしよう。 妖精の体へとCortanaが突き刺さる。切っ先の欠けた優しい空色の少女の剣が妖精へと突き刺さっていた。 「ごめんね、妖精さん」 私は変わりたい。けれど、それは自分の力で変わって行かなくちゃダメなんだと思う。 少女は笑う。彼女の月夜を恋うように輝く黄色と青空の瞳が優しげに笑う。 まるで操り人形を操るかのように細い銀糸――Invisible hand of Godは影を操る。曲弦師である冬芽自身もまるで操り人形の様に踊り、妖精へと攻撃を子なった。 「愚行の報いから逃れれる事はできない……なんて」 踊れ踊れ、そのステップは可憐。彼女の見た鮮やかな記憶。其れを求め少女は踊る。 「リベリスタのなんと優しい心の持ち主の多さよ」 仲間たちの様子を見守っていたセッツァーは堪えず仲間たちへと己の魂を込めて歌う――声(うた)う。 心優しき仲間へ傷つける事は許さぬという様に。 背後でにやりと唇を歪めたのはエーデルワイスであった。 「この妖精は趣味じゃないなぁ」 彼女の琴線に触れない妖精の姿。ただの蛆虫みたいで気持ちが悪い。彼女はまるで悪役の様に楽しげに笑った。 ――ああ、さっさとミンチにしちゃいましょう? 狙いうったその攻撃は超直観により妖精の羽へとブチ当たる。 「あははっ、とっても無様で御似合いだね」 ひらり、と待った片羽根。無様な妖精、とくすくすと笑う笑う。 とどめをさしてやるとエーデルワイスが妖精を狙う――が、妖精に歩み寄ったドーラは優しく妖精へと微笑んだ。 「妖精さん、貴方の様な能力を持った仲間は他にもいるのですか?」 妖精はにやりと笑う。 ――さあてね? その言葉に彼女は逃れる暇も与えずに堪えず弾丸を与える。 「いるのであれば私がすべて倒してあげますね」 優しげな少女には似合わないその言葉。彼女の赤い瞳はまるで戦場の戦士の様に優しさの色を失くし、ひたすらに打ちぬく。 「ほら、次は何処かなー?足?それとも……頭?」 笑ったエーデルワイスは楽しげに打ちぬく。二人の少女から与えられるその攻撃にスペードは目を伏せた。 動かなくなった妖精をOerlikon cannonで打ち抜いたドーラはその面に笑みを浮かべることなく冷たく言い放った。 「貴方は自分のした行いを後悔しながら死んでくださいね」 エーデルワイスは笑う。 「ミンチにしてあげます、トドメはしっかりしますね。うふふふふふ」 セッツァーとスペードは其れを見届けてくるりと踵を返す。向かうは二人の少女のもとへ。 ● からん―― 仮面が落ちる。だが、仮面が落ちた後に少女は小さく息を飲んだ。まったく同じ顔をした女がいる。 「――こんばんは、馬鹿で、愚かな私」 にぃ、と笑った女に唯は驚き後ずさる。 「私の考えてる事は大体分かるよ?」 まるで歌う様に告げる少女。私も私と同じだよ、と彼女は嗤う。 「なにが、同じ、なの?」 「私はずっと『誰か』で、だから『誰か』意外になりたかった。そしたら自分も見失って『誰』にもなれなくなっちゃた」 嗚呼、嗚呼――馬鹿で愚かな『私』。 まるでそれは御伽噺を語るかのような口調。七海の言葉に唯はへたりこむ。 「こうなる前に出会えればよかったのに、こうなってもフェイトを得られれば良かったのに」 そうしたら私も一緒にいてあげれたのに―― 嗚呼、そうしたら教えてあげれたのに『誰』にもなれなかった『私』の事を。 少女は唯のあごを持ち上げてにやりと笑った。 「最後くらいは『私』になりなさい。姉でも、ナニカでもない、この『私』に」 そうすれば救われるでしょう? 彼女はそう言って離れる。其処へ真実の攻撃が唯の胸を打ち抜いた。 「由美さんはこちらへ……」 彼は由美をその背に隠し、打ちぬく。もう誰にもなれない哀れな少女に、死にゆく運命を諭しながら。 苦しみ地面でのたうち回るその姿を見つめ、大粒の涙を流す由美の目をそっと塞いだ遥紀は彼女へと語りかける。 「本当に辛いね、ごめんね、ごめんね由美ちゃん」 俺を憎んでいいからね。彼は由美を護ると、彼女の傍にずっと立っている。 由美はただ、泣いた。 「ねえ、唯、なんで、なんで?」 「私はただ、由美に幸せになってほしかった、貴女が笑っているのが幸せだった」 「傍に居てくれるだけでよかったのに」 「貴女が誰かを愛してほしかった」 ――私じゃ幸せにしてはあげれないから。 そう叫ぶ唯の姿を其の目にとめた冬芽は祈る様に言う。 「唯さんの思いの丈を、由美さんにぶつけて」 そうして、想いを伝えて。その思いを伝えてあげなくちゃきっと暗いままだから。 唯の打撃で攻撃を負った仲間をセッツァーが絶えず癒す。 「わが魂の声よ、響き渡れっ」 彼の魂が震える。悲運を憂う心優しき少女たちの為に。 膝を撃ち抜いたエーデルワイスは唯に微笑んで、彼女へと告げた。 「最期は綺麗な顔できえなよ。お姉さんにみとられながら笑顔でね」 「ねえ、泣いてるでしょ?」 七海は手を伸ばす。 彼女は泣きながら唯の頬へ触れた。 ――それじゃあ、ばいばい。 彼女へと剣が振りおろされた。 ● 倒れた少女のもとへと駆け寄り由美はへたりこむ。 彼女の元へと近づいて、スペードは周囲の遊具を見つめてから、小さく笑った。 「きっと、妹さんはお姉さんの事を大切に思うからこそ、自分以外の誰かを愛してほしかった」 ――そうではありませんか? 彼女の言葉に由美はどうして、と問う。 「優しい子だったんですね――貴女がほかの誰かを愛して、幸せになる事を望んでいたんですね」 真実の言葉に由美は泣いた。 最初から彼女は自分ではなかった。例え姿は一緒でも、仕草は一緒でも、性格はどこか違っていた。 優しくて、優しくて、幸せにしてあげたかったのこっちだったのに。 「妹さんを大切に思うのならばこそ、立ち上がり、前を向いて」 ね、と手を差し伸べた少女は優しく笑った。 ふわり、とドレスの裾は揺れる。 「新たな自分の幸せを見つけることで、その想いにこたえてあげるべきではないでしょうか?」 少女は立ち上がりリベリスタ達を見つめる。 背中をぽんと叩いたエーデルワイスが悪戯っ子の様に笑う。 「妹ちゃんの望みは貴女が幸せになる事。お姉さんでしょ!妹ちゃんのたった一つの望み位叶えて見せなさいな!」 「由美さんはさ、これからたくさん幸せを語って行こうよ」 冬芽が少女へと笑いかけた。 「世界って大きくって貴女の苦悩はちっぽけなものだよ。でもね、唯さんを救ってあげる方法があるの」 「それは?」 「うん、それはね」 冬芽はそっと彼女へと耳打ちする。 ――貴女が幸せを語って笑うこと。唯さんの大好きなお姉さんでいてあげること。 それはきっと彼女の望んだ世界だから。 誰かになれなかった彼女と彼女になりたかった彼女。 「貴女の幸せを謳歌して欲しいな」 これは私のお願いだよ、と冬芽は笑う。 一人離れた位置に居たセッツァーが歌う様に呟いた。 ああ、願わくば次の輪廻では優しき少女たちに安らぎと微笑を。 傍にいた遥紀は由美の頭を撫でて優しく優しく彼女へと笑った。 「明日目を覚ましたら、新しい君として歩きだす日々が始まる」 ――でも覚えていてね。 繋いだ思いはずっと傍にあるから。永い時の果て、何時かまた会えるから。 ドーラは恨まれるのではないか、と其の胸に湧きでた不安のまま、由美へと謝罪を述べようとした。 だが、伸ばした指先を下ろす。 きっと、大丈夫、と隣に立っていたスペードは静かに笑った。 「唯さんの想いを届けてあげたかったんです」 綺麗な髪飾りですね、と少女は微笑んだ。 きっと其れが彼女への手向けになる。 「私、幸せになれるのかな」 「それは自分が見つけるんですよ。さあ、前を向いて?」 誰かになりたかった。ただ、それだけだった。 誰かになるんではなく貴女が前を向いて。 さあ、進もうか。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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