● 陽気はうららか。 日の下で、少し火照った肌を風がさっと撫でていく。 まさに好天、行楽日和と呼ぶに相応しい時間が過ぎようとしている。 ――やつらさえいなければ。 ● 「ということで、みんなの仕事」 籐のバスケットをどん、と机の上に置いて、『リンク・カレイド』真白 イヴ(nBNE000001)のテンションは心なしかいつもより高い。 「各自、バスケットとビニールシートは貸与する。だからピクニック、してきて」 なにそれどういうこと。 「それはあたしが説明するのだわ!」 話は聞かせてもらったのだわ! とばかりにブリーフィングルームの扉を開けて――どうやらタイミングを図っていたらしい――『深謀浅慮』梅子・エインズワース(nBNE000013)が満面のドヤ顔を披露した。 「花粉がエリューション化するのだわ。ちょっと時期はずれな気もしなくもないけど!」 それで全て説明し終えた、といった表情を浮かべた梅子を見て、イヴが軽くため息をついた。 説明になってない、というツッコミをいれるより自分で説明するほうが早いと思ったらしい。 「概ね梅子の言ったとおりではあるのだけど」 「プラーム!!」 「概ね彼女の言ったとおりではあるのだけれど、花粉のエリューションが暴れるから対処して欲しい」 主張を受けて言い直してくれたイヴちゃんマジ天使。 「エリューションはかなり弱くて、リベリスタが深呼吸すれば、それだけでも退治できるくらい。 だけど、数が尋常じゃないし、一般人が吸い込んでしまったら、そこから爆発的な革醒も起きかねない」 それを、どうしろと。 「今言ったとおり。皆で深呼吸するなり、攻撃するなりしてくれたらそれでいい。 風が吹いても、誰かが近くにいる限り、エリューションたちは攻撃を優先して、移動しない」 それで花粉症になりでもしたらどうするんですか。 「大丈夫。検証した結果、一時的な発症はありうるかもしれないけど、リベリスタなら後遺症はない」 既に花粉症のリベリスタは? 「……頑張って」 うわあ。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ももんが | ||||
■難易度:VERY EASY | ■ イベントシナリオ | |||
■参加人数制限: なし | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年06月06日(水)23:09 |
||
|
||||
|
||||
| ||||
| ||||
|
● 「ピクニック、楽しみたかったのでっくしょん!」 緑の絨毯の上に黄色や赤やその他の彩りが広がる丘で、イーリスの盛大なクシャミが響く。 「お前が……お前のせいなのです、えぶっ! ぶしゅっ! ずびっ!!」 傍らに立ち、主人の窮地に困った顔を浮かべていたはいぱー馬です号の背にひらりと飛び乗ってクシャミをもうひとつ。その様子に、かつてイーリスのおねーやんと共に花粉退治に出向いた珍念、じゃなかった那由他がうふふと口元を抑える。 「あの時の彼女も素敵でした。うふふふ。あんなに涙流して……叶うならもう一度見てみたい光景です。 またエリューションの花粉来ないかなー。そうしたら、また彼女のお世話をして……うへへへ」 あ、トリップした。まあともかく、イシュター姉妹には少なくとも花粉症が二人いると。 「目、赤いのです! 喉、痛いのです! はなみず(ぶろっさむあくあ)とまらないのです! フェイト使うです、倒れていられないのです! 滅ぼすまで、全て滅ぼすまで……!」 ゆーしゃがやみおちした!? 那由他は妹御の方には興味が無いのかして女の子的にすごい状態なイーリスをスルー。 「すー、はー。 こうやって深呼吸をすると、身体が少し軽くなったような、とても清々しい気分になりますね」 ちっちゃなエリューションたち、那由他の口の中へ、とつげきー! にんげんのからだのなかで、いちばんやわらかくてよわいのはからだのなかだもんね! ――彼らの誤算を正してやる必要は、特になく。 かくしてのどかな殲滅戦が、ここに始まったのである。 「いやー、本当なら家族と来れると一番なのですが、私以外はごく普通の人間ですからね」 いの一番に来て皆の分までレジャーシートを敷いて回った功労者、京一。 家族を誘えず残念そうな表情。次に来る時は家族と来たいなあ、なんて家族サービスを考えつつ。 絶対ただ花見だけしに来る人もいる、と踏んで、アークに事前申請したゴミ箱とゴミ袋も準備完了。 来た時よりも美しく。 いい人だ、めっちゃいい人だ。 他のリベリスタたちの中から、協力する気がある人をどれくらい見つけられるかが勝利の鍵だ。 その横で終は少し眉を顰めた。 「エリューション化してるだけに粉っぽい空気……。 でも、花粉症じゃないから耐えられないほどでも無かったり……。」 ええいその油断が来年再来年の花粉症を誘発するのだ! とはいえ今回のエリューション花粉たちは、取り込まれさえすればすぐに消えてしまうらしく、後々に影響が出ることはない、とのアーク研究開発室のお墨付きである。既に花粉症の人はともかくとして。 「ちょっと寝苦しい気がしなくもないけどお昼寝しよう……。おやすみー☆」 深呼吸に飽きた終はごろりと横になって、目を閉じた。 「ピクニックピクニック。素敵な行楽日和ですね、みんな仲良くピクニック。 ……って、やってられるかー!」 終とは対照的に、最初から布団持参の小路である。 「あたしは! 寝ていたいんです! もう動かねーですからね! 布団敷いて寝ますよ!」 色々すさんだ小学生である。ていうか小学生でジャージとか羨ましすぎる、なんて年中体操服に半ズボン丈な短パンかブルマだった世代がやっかんだりする。主に書いてる人とか。 「起こすなよ、絶対起こすなよ! でも夕方になったら起こしてくださいね」 夜眠れるのかそれは。 しかし寝ると決めてしまえば良い昼寝日和とも言えるのは、間違いなく。 思う存分おひさまを浴びて、小路は眠りにつくのである。寝る子よ育て。 「夏栖斗!コンビネーションだ!」 「んじゃま、連係して、炎と氷で一気に潰そうぜ!」 相棒コンビは年中問わず元気そうである。連携攻撃を呼びかけた快は、下敷きで髪をこすりはじめた。静電気に吸い寄せられ、集められる花粉たち! 「……ってお前何してんの?」 「これが俺のアッパーユアハートだ!」 「焔腕んんん!!!」 夏栖斗、集まってきた花粉(の中心にいる快)に向けて炎顎を叩きつける。 「あ、巻き込んじゃった! 悪い! 最近覚えたてで調子つかめなくってさ!」 ちなみに件の挑発技も業火の範囲攻撃も、ふたりとも準備してなかったりする。 「何をしてるのだ!」 雷音の声にも、批難より呆れの色が濃い。 「うちの愚兄が済まないのだ。夏栖斗、これが実戦だったらどうするのだ! 全くお前はいつも雑で無茶ばかりして、快! お前も相棒なら管理するのだっ!」 正座で雷音に怒られる二人である。何じゃれてるんですか。薄い本への材料提供ですか。 「何やってるのよ、二人とも。ま、雷音もその辺になさい?」 ティアリアが雷音をなだめながら、まだ静電気がぱちぱちしてる快に浄化の鎧を付与してみる。 「反撃で自滅してくれないかしら」 「……なんか、鼻とか胃の中がぱちぱちするんですけど」 体内で反撃してるらしい。 それを見ていた茅根が、僅かな間考えこむような表情を浮かべてから、いつもの笑顔に戻る。 「わかいって良いですねえ。私はもう、あんなに元気よくは動けませんね。 ただまあ、私も年長者としての意地がありますので、 しっかり花粉症討伐を頑張らせて頂きましょうか。 はてしなく青いこの空の下、何故銃を撃ったり、剣を振ったりしてるのか。 しっているのは、周りの木々だけかもしれません。 ねえねえ、今どんな気持ちー?って普段なら聞くんですけど、 でも今は自分が、それしてる本人ですから、とても聞けません。 はやく討伐終わらせて、のんびり日光浴でもしたいですねー。 なんだか、精神的に飽きてきましたので、 いちぬけさせて頂きますね。皆さんはどうぞ引き続き討伐をお楽しみ下さい。 ……。 ちょっとした遊びでしたが、 ねんがんが叶って少し嬉しいです」 ※ねこ大好き! ● 【昼下がりの猫少女 エロチカ無双編】と書かれたボール紙が、レジャーシートの上にて鎮座。 「なんですか昼下がりの猫少女って! 猫じゃなくてチーターですからね!」 京子さん、つっこむとこはそこなのか。 「人類の命運、この一戦にあり! 微塵も残さず、世界から消し去ってみせるッ! へっくちゅんっ」 意外な舞姫の弱点。 ずび、と鼻をかみつつ舞姫は(何故か)台本を手に、京子に指示を出す。 「えーと、じゃー、京子さんは深呼吸でお願いします!」 (いたいけな猫少女が、目を潤ませてくしゃみの苦痛に耐える……くっはー、想像しただけできゅんときます! マニア受けはばっちりだよ! アレな趣味の人に超大人気だよ、京子さん!!) まいひめさん? 「深呼吸ですか? まったく戦場ヶ原先輩は……まあ、いいですけど……」 ぶちぶちと言いつつも、素直に深呼吸し――何も起きない。 猫、じゃなかったチーターはドヤ顔を浮かべ勝ち誇った。 「フフフ、残念でしたね、戦場ヶ原先輩! 私に花粉は効きません! 粉の中で深呼吸して私を酷い目に合わせようとしたその魂胆はみえみえです! あ、戦場ヶ原先輩、次はアナタが深呼吸する番です!」 「腐海の瘴気を深呼吸するなんて自殺行為は避けて、剣士らしく真っ向勝負!」 「ってスルーされた!?」 小脇差を構えて聞く耳どこ吹く風な舞姫に、京子の表情が漫画だったら「がびーん」とか書かれてそうなものに歪んで、「いいですけど、いいですけど」なんて言いながら撃ち放つオーバーキルなインドラの矢が多分その答えなのだろう。一方、ある意味よっぽどこっちのほうが猫系なんじゃないかと思われる舞姫は自己強化の上で連撃を繰り返す。 「ぜはー、ぜはー、くぅ、敵はなんという物量……って、おもいっきし息しちゃったよ!? へっくち! へっくち! ふええ、滅びろ花粉……、へっくちゅんっ!」 頑張れ、生きろ。くしゃみは意外とあっちこっちから聞こえてくる。 「え? 花粉症? はははやだなあ、認めなければ花粉症じゃないんですよ。 ちょっと風邪気味で鼻水が出るのと、夜更かしで目が赤いだけで、いたってふつーの私なのですともっくしょいちくしょおーい!!」 盛大なくしゃみがユウの主張を裏切りまくる。 それでも認めないから花粉症ではないのである、ということで彼女は以前教わった体幹トレーニングのおさらいをしてみた。良い天気、絶好のピクニック日和。これはきっと後のお弁当が美味しいに違いない。 「HAHAHA、春の陽気の中で食べるカレーは最高ですよな。 カレーですよカレー。好きですよな? いやいや分かってます、分かってますぞ。好きで好きでたまらないんですよな」 いつも通りのマント(?)がちょっと暑苦しさを誘う九十九、なんとカレー屋台を引いていた。 「私のカレーで皆さんが喜んでくれるなら、これ程の嬉しい事はないですぞ。 あ、福神漬はサービスです」 氷を入れた水槽には飲み物も漬けてある。なんということでしょう。 「ふいー、今日はカレー香る良い日になりそうですなー」 ユウのお腹がぐうと鳴った。 危うし、カレーの在庫とユウの体重。 「姉のルアとその彼氏とでピクニックって……。俺、必要なくね? 何で呼ばれたんだ?」 頑張れジース。超頑張れ。主にBNEを18禁にしないために。 続きを書いてみた日には多分書いてる人が闇の精霊さんに消されてしm――おっと脱線。 「初対面で殴りかかったし、その次は結婚式の真似事がアーク主催で有ったときだろ? 正直、気まずいんだけど……」 それはたしかに気まずかろう。 「恋人の弟なら、ボクにとっても弟のようなものだよね。 ボクは末っ子だから、弟が出来るなんて嬉しいなぁ」 しかしスケキヨは大人だった。将来的には義理の弟と書いて「おとうと」になるかも知れない相手に、抵抗感はないらしい。 「仲良しなのは良い事よねっ!」 気まずい感じで、ずるずる来ちゃった2人に仲良くして欲しい。そんな思いで誘ったのがルアである。 だがしかし、そのルアの明るい表情を見て、男二人は黙り込んだ。 弟は何も見ていないと言いたげな表情で目をそらし、彼氏は気のせいだ、と自分に言い聞かせる。 二人の様子に何かを察して、ルアは明るく続ける。 「あ、大丈夫! 彼氏と弟で妄想はしないわ……多分っ(腐」 ――効果音は原文ままであると、ここに断っておく。 (でも、仲を取り持つって具体的にどうすればいいのかな?) 展開的に別の意味にも聞こえそうだが、気まずさの緩和とかそういう意味である。多分。 悩んでいたあまりか、ルアの、スケキヨと繋いだ手に少し力が入る。 スケキヨはそんな恋人の髪を撫で、彼女の笑顔に微笑みを返し―― 「目の前でいちゃこらすんじゃねー。見てるこっちが恥ずかしい」 その様子にぷんすかしているジースである。 「おや。ジースくん、それはヤキモチかな? ルアくんには負けるけど、ボクはジースくんの事だって好きだし、仲良くなりたいと思ってるよ? 気軽にお兄さんと呼んでくれても! さあ!」 「誰がお義兄さんなんて呼ぶか!!」 喚くジースの背中に、どん、と衝撃が走る。 え、と思わず見やると、そこには、笑顔を浮かべたルアが、 「ジースもスケキヨさんとぎゅーすれば仲良くなれるに違いないわ!」 ある意味ヤンデレよりも酷かった。 「ぎゃー!! ルア! ……放せっ! スケキヨも何とか……って乗るんじゃねー!!」 弟ごと恋人に抱きつくルアを、さらに義弟(予定)ごと抱擁し返すスケキヨ。 「うんうん! ジースも喜んでるみたい! これできっと二人は仲良しね! よかったわ♪」 ルア、おねーちゃんパワー炸裂。 「春というか初夏の陽気というへきでしょうか」 ジョンさんが辛辣。まだ春って言えるかなって思ったの。 「花咲き乱れる丘に発生した花粉のエリューション化という事態。 一般人には悪影響があるというのであれば対処をしませんと」 この花粉が、胃の粘膜を爛れさせ、マスクをしなければ5分で肺を腐らせ、クシャミ、鼻水、目のかゆみを著しく引き起こし、最後には体内からの革醒を促すのです。一般人相手だと。 ステンレスのボトルからアイスティーを入れて、木陰で本を読みながら過ごすジョンに、業炎撃を振るうことで花粉を焼いていた貴志がおや、といった表情を浮かべた。その腰に、ステンレスの水筒が揺れる。 ――これもひとつの、同好の士というやつだろうか。 「花粉め、厄介な野郎だ……へぶし! だが俺は負けん、このガスマスクがある限り!」 すぽり。しゅこー、と音を立ててガスマスクの内側で気炎を吐くランディ。ニニギアがその様子に少し困った顔をしたのを見て、あれ、と首をかしげる。 仕事には違いない。 だが、それにかこつけてピクニックに来た、はずだった。しまったガスマスクではムードがない。 「……う、うん、ごめん」 素直に外すランディである。 ニニギアは少し笑って、はい、とマスクを差し出した。 「マスクは多めに持ってきたわ。柔らかいティッシュも持ってきたー」 彼女自身はどうやら、まったくもって平気な様子である。 「私ね、もういっそ、吸いこむより花粉を食べてみるのです。 口で吸いこんで、やっつけろ喰らいつくせー! なのです」 平気すぎてとんでもない発想してきた大食淑女。すう、はあ、と大きく深呼吸はしてみたものの。 「……花粉ではおなかは膨れないわ」 食べてやるー、という思いが胃を刺激していたからだろうか。 ニニギアのお腹が、くうと鳴った。 ● お昼時、誰かのお腹がぐうとなったのが響いてか、それぞれが自分のお弁当を広げ始めた。 そんな中で。 「ピクニック最高ですぅ! しんせんな空気をいっぱいすいこんで……へぷちゅ! へぷちゅ!」 くしゃみを連発したマリルは、なかなか手ごわい相手なのですぅ、と唸ってからくしゃみをもう一つした。 「それはそうと、ピクニックといえばおべんとうですぅ! 決してかんじんなおべんとうをわすれてきたわけではないですけれど。 みんなのところにいっておすそ分けしてもらうですぅ」 ぐうぅ、と鳴るお腹。本当に忘れてきたのか、それともまだまだ腹ペコ食べ盛りなのか。 良い匂いのする方に引き寄せられてみれば、テトラたちがわりと茶色多めなお弁当を広げていた。 「おー。マリルなのだ! どうしたのだ?」 「ごはんをおすそ分けするといいのですぅ! とりあえずいちごはゆうせん的に分けてやるといいですぅ」 なんか偉そうだ。 「……いいけど、今日は美楼が作ってきたから、中華風だ」 リトラがそう言いながら、エビチリの入ったタッパーを見せる。 「果物は……酢豚の中のパイナップルくらいアル」 使った食材を思い返しながら、美楼が頷く。つまりいちごはない。 がーん、と言う効果音が頭上に浮かぶそうなマリル。 「皆で食べると美味しいのだ。マリルも一緒に食べるのだ!」 「大丈夫、量だけならいっぱい作ってきたアル!」 「酢豚、食べるか?」 三人とも精一杯励ましている、らしい。 雷音お手製サンドイッチが広げられる。カツサンド、ベーコンレタストマト、定番の卵ハム。 「デザート代わりのフルーツサンドもたくさん用意したのだ。口にあうと、良いのだが」 「……残念ながら手作りではないけど。その分素材には出し惜しみしていないわ」 ティアリアも、雷音の手作りの味には勝てないでしょうけどね、なんて言いながらサンドイッチを並べた。 「サーモンは勿論パンズからして次元が違うね。お目が高いなぁ」 「たまにはこういうのもいいね! 綺麗どころとピクニック! ……あ、らいよんのサンドイッチは美味いからな! 快、心して食えよ」 スモークサーモンのサンドをティアリアのバスケットからもらった快が唸り、夏栖斗は血の繋がらない妹の料理をストレートに褒める。 「なにそれ、美味しそうなのだわ!」 梅子、ポップアップ。 正確には、さっきからうろうろ飛び回っては人のお弁当を狙っていたのだが、そこを指摘しても「なんのこと?」と明後日を見ながら知らばっくれるので追求に意味は無い。隠せてないという意味で。 「おう、梅子も食べる?」 夏栖斗がひょいと一切れカツサンドを梅子に渡すと、がぶりと一口。 「うん、ソース味と肉の旨味を噛み締めたところに辛子マヨが一味添えて、もっと食べたくなる味だわ!」 「ちょ、それ俺が言いたかったのに!」 感想を先に言われた快が、さっきとは別の意味合いで唸る。 「そこにいらっしゃるのは丘に咲き誇る花にも負けない美しさ。 アークが誇る可憐な乙女プラム嬢ではないですか」 「その、あたしのことを良くわかってる発言は!」 がばっ! と振り向いた梅子の先には、丁寧な礼をしてみせる亘の姿があった。 「初めまして天風亘と申します。 実はお弁当を作りすぎてしまいまして……宜しければ少し如何でしょうか?」 「いいのっ!?」 「もちろんです。執事修行で培った技術の結晶。 定番の卵焼きからたこさんウィンナー、オーソドックス型フルお弁当セットでございます」 覗きこんで、タコ! タコ!! と大喜びではしゃぐ梅子の横で、マリルもそのお弁当を覗きこむ。 「いちごは!?」 なかった。 バスケットを、いつになく真剣(に、見えなくもない)表情でユーヌが開く。 飲み物を入れた袋を抱えた竜一が、その中を覗きこんで、おお、と口にした。 「サンドイッチか」 「口に合うかは知らないがな?」 淡々として見えるユーヌだが、これでこのサンドイッチ、気合が入っている。 朝起きてから種類作るのは面倒だから、とのことだが、本当にそれだけならば「どれか一つぐらいは口に合うはず。ダメだったらコンビニにでも行くしかないが、まぁ、不味いもの食わせるよりマシだろう」なんて思考には至らないだろう。恋人に美味いもの食わせたい。その思いこそが心尽くし。 「ほら、あ~ん」 卵サンドはユーヌの手ずから、竜一の口の中へ。 「あーん、ふむ! はむはむ、うむ! うまい!」 ツバメのヒナを想像して欲しい。だいたいそんな感じで次をねだる竜一。 「別にがっつかなくても逃げはしない。合わなかったら無理しなくても良いぞ?」 ツナサンドを味わいながら、竜一は嬉しそうに笑う。 「ユーヌたんは器用だなあ、いいお嫁さんになるよね! 俺の!」 「うん、美味しいなら良かった」 首尾よく木陰を確保したニニギアの横に腰をおろし、ランディはバスケットを開けた。 「うわぁ、このおにぎりもしかしてー!」 「今回は鮭、高菜、明太子、からあげを入れたビッグな爆弾おにぎりだ!」 ニニギアの歓声も当然。おにぎりには二人の顔っぽく海苔が貼り付けてあった。 言うなればこれはキャラ弁ならぬキャラおにぎり! それだけではなく、小さいおにぎりと玉子焼きに漬物まで用意されている。 「すごーい! おいしそう、いただきまーす!」 ひとしきり感心の声を上げて、ランディ(おにぎり)にがぶーってかじりつくニニギアさん。 「ご飯粒付いてるぞ」 少し苦笑を浮かべたランディのそれはキスの口実か、それとも本当についていたのか。 おにぎりを飲み込んだニニギアは、ぐいぐいとランディの袖を引っ張る。 「ニニどうした? わっとと」 膝に赤毛の頭を載せて、緑の瞳が微笑む。 「少しごろんとして休んだら?」 「……膝枕か、うん、こうやって二人で日向ぼっこ出来るのもいいもんだ。 ずっと二人で大事な時間、作っていけるといいな」 「うん」 食べる量からしたら羨ましすぎる細指が、赤毛を梳く。 (息つく間もない厳しい戦いの合い間のこんな時間が、私の宝物) 「やたらクシャミ出るんだけど、これ攻撃されてる証? 地味ねぇ……ぇっくし」 未明のくしゃみを聞きながら、オーウェンは花粉にむけて息を吹きかけてみる。 その息に乗って飛ばされた花粉たちはわたわたと姿勢を崩した後、再突撃に移行した。 「……ダメか」 片目を閉じ、術手袋で魔法壁を張れないものかと弄り回したが、結局は殴るしかないという結論に落ち着いた。結局のところ、地道な作業が必要だからこそ、人数を派遣するかたちにしたのだろう。 昼からも腰を据えて作業を続けるためにもと、バスケットを開き、サンドイッチを出して未明に渡す。 「これで先ず我慢してくれ」 そう言いながら、カセットコンロをセットし始めたオーウェンの周りに、梅子が飛び込んできた。 「肉! お肉焼くの!? お肉!! あたしも食べるのだわー!」 「ニクなのだ! 焼肉なのだ!」 よく見れば、梅子だけでなくテトラもキラキラした目で覗き込んでいる。 ――二人だけのピクニックならともかく、匂いの強いものは、さすがに人を呼んでしまうようである。 「オーウェン? どうしたの?」 「……なんでもない」 「あたしもお弁当持って来たわ。さっぱり系のが多めだけど、コレ真夏になってからのが良かったかしら。 てうか料理の手本がうちの婆ちゃんだから、基本爺婆向けっぽくなるんだけど、どう?」 少し心配そうな表情で未明が差し出してきた弁当箱には、山菜おこわのお握りに、筍のピリ辛煮、茄子の煮浸し、青じそ入の豆腐バーグ。 「ふむ。……口移しでどうかね?」 「ぃっくし。あ、ごめん。 ……良い雰囲気になりそうな所でクシャミとか有り得ないんだけど。邪魔すんじゃないわよ、もう」 くしゃみの八つ当たり的に、お箸で繰り出される残影剣。 午前は川で水遊びをしていたリルと凛子だったが、昼には丘の方へと戻り、お弁当を広げていた。 「今回はおにぎり、卵焼き、焼き鮭、キュウリの酢の物とほうれん草のバター炒めですね」 「リルのは、食べやすいようにサンドイッチ。凛子さんと一緒に食べるように多めに作ったッスよ」 おかずを交換したりした結果、サンドイッチを口にして、凛子は微笑む。 「なんだか、学生時代のようですね」 「学生……凛子さんてどんな感じだったんスかね」 リルの疑問に、ふふ、と笑ってみせる凛子。 ● 昼下がり、シエルの目線はずっと下を向いている。 「そんな直ぐにみつかるものでないから幸運の象徴なのでしょうね」 ふぅ、とため息をついたシエルの視界に、ボーダーの靴下を履いた足が侵入してきた。 「何か探しもの?」 イヴが、首を傾げてシエルの目線の先を伺っていた。 「ええ、よつばのクローバーを。 幸いにして此処は広いですし……」 見つけたら、届けたい先があるのだとシエルは言う。 「ん。わかった」 イヴはひとつ頷くと、その場にしゃがみこむ。 「どうされました?」 「私も探す。一人より二人の方が、すぐ見つかるかも……あ、あった」 「イヴ様……それは五つ葉に見えますが」 「……あら?」 その様子を、怪我でもしたのだろうかと注視していた麻衣が、救急箱を幻想纏に直しながら笑う。 楽しいピクニックでは救急箱など、出番がないのが一番である。 研究室に引きこもりがちな麻衣は、ひとつ大きな深呼吸をした。 「んんー……っと。たまには、外でのお仕事もいいものですね」 樹の幹に背中を預けて膝の上にM・Tabletを置いたチャイカが両手を上げて伸びをし――その腕が何かに当たり、振り仰いだ。 「おや、すいません。起こしてしまいましたか」 アルフォンソはさっきまで眠っていたチャイカに一礼する。サングラスの奥の目が笑みを浮かべ、チャイカはその視線の先――自分の頬――に伝った、涎の後を慌てて拭いた。 「日本の四季を感じにきました。 春には花見という、花を見て楽しみ、酒食をして楽しむという行事をするそうですね。 日本には数多くの種類の桜があるそうですが、これは有名な品種なのでしょうか?」 アルフォンソの見上げる葉桜を、チャイカはざっと見上げて見た。 「ソメイヨシノ……ですね。一番多い品種です」 接木でしか増やせない品種である。ナイトメア・ダウン後に、誰かがここに植えたのだろう。 おそらくは、人の営みがこの地に回復することを願って。 風がざあ、と葉桜を揺らした。 風に舞った桜の葉を仁太の目が睨めつけ、その葉もろともに射抜かれる、花粉。 「ほう、見事なもんだな」 伸暁がその葉を拾い上げ、感嘆の声を投げかけた。 仁太はその賞賛に軽く笑って首を振り、すぐに真剣な表情を浮かべた。 「最近依頼で失敗が多いんで特訓に来たぜよ。 いつまでもヘタれとったらこの銃の持ち主にはふさわしくはないけんな。 あいつにも怒られるぜよ」 そしてもう一度、今度は花粉のうち一体(一粒?)を狙う。 「落ちる1$硬貨さえ撃ち抜く精密射撃……すら役不足や。 舞い踊る花粉一粒一粒を正確に打ち抜くぐらいの正確さがいる。 落ち着いてよく敵を見るんや、敵のしたいことを考えてそこから動きを読んで……射ち抜くぜよ!」 ばしゅ、と撃ちだされた巨銃の弾は、しかし狙った花粉をかすめもせずに別の花粉たちを弾き散らす。 「視界が霞もうとも続ける、疲れなんぞに負けんぜよ、限界を超えてこそ見える境地がありゅ……ふぇ、ぐしょい! は、鼻ぐぁ! ムズムズするぜよ! っくしょい! 涙も止まらへん!」 「……そりゃ標的(ターゲット)も風とランデブーするわけだ」 「さっきから視界がにじんで何も見えん! ぐしょい! くっそ花粉共め目に物見せちゃる。へっくしゅん! 食らえ、心眼でたらめ撃ち!」 「んー、っ。ぽかぽか陽気、気持ちいいね~」 「ん……いい天気だな。ちと花粉が邪魔だが」 大きく深呼吸しながら言う霧香に、宗一がひとつ頷いて同意を示す。 「ちょっと鼻がむずむずする気もするけど……まあ仕方無いね」 そう言うと霧香は丘の上にごろーん、と横になり、昼下がりの陽気を堪能する。 「は~、あったかい。気持ちいいなぁ……」 その隣に腰を下ろして、宗一も暖かな日差しを受ける。 「風が気持ち良いよな。……ん?」 返事がないことに気がついて、霧香を見下ろせば、規則正しい呼吸が聞こえてきた。 「……なんだ、寝たのか。やれやれ。しっかり安心しきって」 気持ちよさそうに眠る霧香の頭を、宗一は無意識のうちに撫でていた。 (ぽかぽか、ふわふわ。なんだか、安心するような感じがする……) 霧香はすっかり、まどろみの向こう側。 「ま、最近慌しいからな。休める時に休まないと」 耳に届く、自分とは比べ物にならないくらい低い声。 (すぐ傍に、あの人が居る……) 傍に。 そのことに思い至って、霧香の意識は急浮上した。 「ん、起きたか、おはよう」 「……あ、れ。寝ちゃってたかな。 宗一君ごめん、ね……って、わわ、な、な、撫でられ……っ!?」 「……あ、すまない。余りに気持ちよさそうに寝てたからつい……」 自分の掌を見下ろし、自分がしていたことを把握した宗一だったが、霧香はもう真っ赤である。 「や、やだ、恥ずかしいよ……っ」 嫌がられたのかと霧香の顔を覗き込む宗一に、しかし霧香は、照れた顔を浮かべた。 「……でも、ちょっと嬉しいな……なんて。……また、来ようね。宗一君っ」 「また機会があったら一緒に来ような」 宗一も、頷きを返す。 ● 夕焼けが近くなった頃、最後の一体の花粉を倒すと同時に力尽きたイーリスが膝から崩れ落ちた。 「もう、うごけないのです……」 ゆーしゃの意地にかけて前のめりに倒れこんだ彼女を、はいぱー馬です号が心配気に見下ろす。 健気な馬の背に、カルナスと三郎太がイーリスを抱え上げ、乗せてあげた。 葉桜の下、皆が花粉退治をしていた間、のんびりぼんやりと転寝をしていたエリスが、ふと目を覚ます。 「今日は……場所を……貸してくれて……ありがとう」 桜の幹に軽く触れて、感謝を述べる。 京一とシエルがゴミを拾い集めているのが見える。 桜の木は、たださわさわと風に揺れていた。 <了> |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|