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掌の上の踊り手


「ねぇママ、今日の晩御飯はー?」
「そうね、何が食べたい?」
 夕方の公園で、仲良く会話する親子。
「平和ですねぇ……」
 そんな親子の姿をベンチに腰掛け遠巻きに見ていた女が、小さく呟く。
 しかし彼女は知っている。
 世界の影では幾多のエリューションが蠢いている事を。

 ピリリ……ピリリ……!

 ふと、バッグから鳴り響く携帯の着信音。
『やぁ、澪。久方ぶりなのにあれですが、仕事の話ですよ』
「おや――フィクサード狩りに執心しているようでしたが、そちらはよろしいのですか?」
 始まった会話の端から『フィクサード狩り』の言葉が出たところからも、彼女が覚醒している事は容易にわかる。
『いやいや、アークの邪魔が入りましてね……逃げられてしまいましたよ』
「なるほど、それで私にお鉢が回ってきたという事ですか」
『ええ。優秀な部下であるアナタを遊ばせておくのは、やはりもったいないですから』
 その言葉に、澪の口元に嘲るような笑みが浮かんだ。

 電話の相手は『フィクサード狩り』が付け狙う仇敵の男。
 人を絶望に叩き込み、破滅させる事に悦楽を覚える男。
 この男にとっては、『優秀な部下』と言い放つ澪自身ですらも、その快楽を得るための道具でしかない。
 いずれは自身も、その手により破滅させられてしまうのだろう。

「わかりました。では、指示の通りに」
 会話を終えた澪は、ふと夕暮れの空を仰ぐ。
 彼女は、理解していた。
「エリューションも危険ですが、同じ人間がやはり一番の脅威……ですよね」
 ――と。
 姿の見えなくなった先ほどの親子のように平和に過ごす人々もいれば、その裏では悪事に手を染める者達もいる。
 澪はそんな悪人に様々な手を用い、破滅させる事を生業とするフィクサードだ。
 誰かを破滅させる。
 その点で『あの人』と彼女の道が交わったことがきっかけとなり、彼女は部下となった。

「あの人からの連絡かい?」
「ええ、今夜やりますよ。アークの妨害には気をつけるように……だそうです」
 缶ジュースを片手に話しかけてきた男と、その後ろに立つ2人の男は、彼女の仲間なのだろう。
「わかった。まぁ――何かあったら俺達がお前を守るさ」
「……ありがとうございます」
 そんな会話を男と交わした後、澪は静かにベンチを立つ。
「私は私の思う道を進むだけ。その道を進めるのなら、いくらでも彼の掌の上で踊りましょう」
 彼女は『あの人』も悪と呼べる存在であり、自分が踊らされている事も十分に承知している。
 それでも望む道を進むためならと、彼女はその掌で舞う道を選んでいた――。


「ということで、ついに『あの人』に辿り着く道が見えてきましたね」
 集まったリベリスタを見渡し、『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)はまず最初に結論を述べた。
 フィクサード狩りの高原征士郎は現在、姿を消してしまっている。だが手がかりが見つかれば再び道が絡み、鬼狩を回収できる可能性も高まるといえよう。
「人数では上回っているので、彼等を捕縛する事自体は、それほど難しくはないと思います。ですが……」
 相対するフィクサード達は4人。
 一応の手がかりを握っているのは澪だけらしく、彼女を殺害する事は手がかりを消す事を意味している。
 だがそれ以外に、少しだけ問題があった。
「澪と呼ばれるフィクサードは、仲間をとても大切にする傾向があるようなのです」
 和泉がいうこの場合の『仲間』とは、一緒に行動している3人の男だけでなく、『あの人』の事を指してもいるらしい。
 3人の仲間が彼女を守ると言う部分からも4人のフィクサードの結束は相当硬く、3人を殺害してしまえば、澪も殺害しなければならない状況になる可能性もある。
 加えて『あの人』も仲間であると考えているのだから、捕縛したとしても、情報を吐いて仲間を売るような事もしないだろう。
「そのため、敢えて捕縛しないと言う手もあるかもしれませんね」
 ともすれば、泳がせておいたほうが手がかりが増える可能性はある――と和泉は言った。
「今から急いで向かっても、彼女達を水際で叩くことは出来ません。そのため、彼等のアジトへの逃走ルートで遭遇する形での戦いとなります」
 逃走ルートも『あの人』が用意したものらしく、深夜という事もあり、その道中には人の目は全くない。
 逆に言えば人の目、気配がある方がおかしいと感じられる程の逃走ルートでもあり、幅広く展開してしまうと警戒させてしまう結果を生み出すかもしれない。
「迎え撃つ場所は、ここです。ここなら、存分に戦う事も出来るでしょう」
 そう言った和泉が地図を指差した先には、オフィス街から少し離れた場所にある小さな公園。
 昼間はオフィス街のサラリーマンなどが訪れたりするようだが、近くに人家もコンビニもないところから、この数年、夜は誰も居ない事で有名らしい。
 その薄気味悪さもあいまって人がより訪れなくなっているこの公園ならば、十分に戦闘できる広さもあるようだ。
「ひとつだけ、忘れないでください。フィクサード達は機械ではなく、人間です。その時の状況で、彼等も戦術や行動を変えてきます」
 最後に、和泉から注意の言葉が飛ぶ。
 フィクサード達の目的は、手に入れた金品を『あの人』の元へ運ぶ事であり、場合によっては逃げに徹する事も大いに考えられる。
 そしてアークへの注意を促している事から、逃走ルートは他にも2つ3つは存在すると思ったほうがいいだろう。
「なので逃がす場合も深追いはせず、彼等が金品を届けてしまう事だけを防いでください」
 捕縛するかしないかは、リベリスタ次第。
 しかし最低でも、彼等の得た金品を『あの人』の元へ届けさせないように奪う事。
 それが今回、リベリスタ達に与えられた仕事だ――。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:雪乃静流  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年05月31日(木)23:38
雪乃です。
何やら月一で現れる人になってしまいました。

今回のシナリオは『ターゲットはフィクサード』『血を求む鬼狩』の関係シナリオとなります。
直接的に『フィクサード狩り』と『あの人』には関わりませんが、結果が今後の展開に影響を及ぼします。

成功条件
金品をしまいこんだ2つのかばんのうち、最低1つを確保する事
フィクサードの生死は展開には関係しますが、成功条件には関係しません。

フィクサード詳細
更科・澪(スターサジタリー)
精密機械の称号を持っており、1¢シュートとハニーコムガトリングによる援護射撃を得意としています。
戦闘時は最後列で3人の仲間から守られる位置に立つようです。
千里眼、電子の妖精を所持しています。

志賀(クロスイージス)
不沈艦の称号を持ち、ブレイクフィアー及びクロスジハードによる援護、魔落の鉄槌による攻撃を行います。
かばん持ち。戦闘に入ると他の2人と共に前に出て、かばんは澪と彼等の間に2つとも置かれます。
澪の援護を第一に考えて動き、『あの人』とも1回は出会った事があるようです。
ESPを所持しています。

吉岡(クリミナルスタア)
デスペラードミスタの称号を持ち、無頼の拳で殴りまくります。状況次第では澪を守るため、暴れ大蛇を使い始めるようです。
集音装置、ブレイン・イン・ラヴァーを所持しています。(なお、脳内嫁は澪の模様)

佐伯(インヤンマスター)
四神守護の称号を持ち、陰陽・氷雨と守護結界を駆使した戦いを得意としています。
機器遮断、ピッキングマンを所持しています。

戦場から逃走する可能性があるのは澪のみ。
志賀、吉岡、佐伯は澪を守り、逃がす事を第一に考えるため、倒れる時まで戦い抜きます。
加えて逃走ルートも他にいくつか存在するため、今回はわざと逃がしても澪の追跡は不可能となります。
毎度重ねて書きますが、戦闘スキルは戦闘フェイズに入ってから使用可能です。
雪乃式では、双方が互いを認識した時点で戦闘フェイズに突入します。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
マグメイガス
二階堂 杏子(BNE000447)
ソードミラージュ
上沢 翔太(BNE000943)
ソードミラージュ
リセリア・フォルン(BNE002511)
覇界闘士
焔 優希(BNE002561)
ダークナイト
一条・玄弥(BNE003422)
レイザータクト
ミリィ・トムソン(BNE003772)
レイザータクト
櫻木・珠姫(BNE003776)
ダークナイト
黄桜 魅零(BNE003845)

●闇にまぎれて
「もらうもんは……これくらいか?」
「あまり長居をして、騒ぎになるのも面倒です。早々に退散しましょうか」
 カバンにありったけの金品を詰め込み確認を取る志賀に、撤退を静かに告げる澪。
 フィクサード達は一旦の目的を果たしたらしく、後はさっさとアジトへ逃げるだけの状態となっていた。
「問題はアークの行動ってとこかね?」
 しかし吉岡がそう言うように、彼等には最大の障害となるだろうアークがどう動いてくるかが、最大の懸念材料である。
「そうですね。襲撃は十分予想出来ますから……警戒だけは怠らないように」
「だな。じゃあとっととズラかろう」
 その問いに澪がそう答えると、撤退の先導を買って出た佐伯が、逃げるべき通路へと真っ先に進んでいく。
 目の前のミッションを完璧に遂行する事。
 そのゴールまで、彼等は後一歩というところまで迫っているのだ。
『あなたの耳が頼りです♪』
「わかってるさ、澪……ふふふ」
 そんな折、最後尾にいた吉岡が妙な独り言を口にする。
「……はい?」
「気にするな、澪。振り返るな、見るな、スルーしろ」
 思わず振り返る澪ではあったが、志賀に背中を押されては吉岡と会話をする事もままならない。
 だがそれはそれで良かったのだろう。彼の会話している澪は『目の前の澪』ではなく、『脳内の澪』だったのだから――。

 一方、彼等の逃走ルートの途中に存在する公園では、リベリスタ達が彼等を迎え撃つべく態勢を整えようとしていた。
 吉岡の有する『集音装置』を警戒しているらしく、彼等の間に会話はない。
(コソコソとするのは好かないですし……。そもフィクサードも好かないので、手加減はしたくないのですが……)
 などと考える『白月抱き微睡む白猫』二階堂 杏子(BNE000447)ではあったが、今回ばかりはその手加減をする必要性が彼等にはあった。
(『あの人』の走狗、ね……。なんであれ、一刻も早く到る道筋を得る為に、利用させていただきます)
 その理由は、『蒼銀』リセリア・フォルン(BNE002511)の思いが全てを物語っていると言えるだろう。
 敵のフィクサードのリーダー、更級・澪を逃がし、泳がせる事で、本命に少しでも近づきたいという本音が、彼等にはあるのだ。
 とはいえ、その目的を遂行する事を重要視し過ぎて、本来しなければならない事をおろそかにするつもりも毛頭ない。
(可能であるのならば、鞄は二つ確保したいところ……、ですが)
 そんな思いを胸に『戦奏者』ミリィ・トムソン(BNE003772)がフィクサード達が来るであろう、公園の入り口側を注視したその時――。
(来たか)
 コツコツと近づいてくる足音を、『紅蓮の意思』焔 優希(BNE002561)は聞き逃しはしなかった。

「襲撃があるとするなら、ここが妥当だとは思うが……吉岡、何か聞こえないか?」
「いいや、聞こえないな」
 当のフィクサード達にとっても、この公園は警戒するべき場所ではあったらしい。
 しかし吉岡の集音装置にはかすかな呼吸音すら届くことはなく――というより、
『この作戦が成功したら、いっぱい褒めてあげますからね』
「ふふふ、もうゴールはすぐそこだな……」
 脳内嫁の澪が、それを邪魔している様子ですらあった。……人選ミスはなはだしい気もするが、気にしてはいけないのかもしれない。
「……やれやれ、ちゃんとやってくれよ」
「まぁ入り口から澪が見てくれれば、わかるだろ。違うか?」
 彼の様子にため息をつく志賀ではあったが、佐伯の言葉に『そうだな』と頷いた彼は、少しだけ澪の方へと視線を向ける。
「あ、はい。4人……奥のほうに人影が見えます」
 その澪の千里眼によって見えたのは、奥の方で伏せているリセリアやミリィといった、4人のリベリスタ達の姿。
 地に伏せて見えにくくしようとはしていたものの、注視されてしまえばそれも意味を成しはしない。
「やはり、か」
「下手に道を変えても、どうにかして追跡してくるだろうさ。押して通るしかない」
 それでも頷きあう吉岡と佐伯にとって、待ち伏せは想定内の範囲ではあったようだ。
 同時に、逃げ切るためにはある程度相手の足を止めなければならないことも、である。
「では行こうか。澪だけは守りきるぞ」
 志賀を先頭に、公園の中へと進もうとするフィクサード達。
 しかし彼等が周囲まで警戒する事を怠ったのは、完全なミスだと言うほかにないだろう。

●求めるモノは金か、手がかりか
「頃合ですね。行きましょう」
 フィクサード達が公園の中央へ差し掛かったのを確認すると、飛び出し志賀へと突っ込むリセリア。
「すでにバレてしまっているようですが……任務開始。さぁ、戦場を奏でましょう」
「悪事を放置はしておけん。阻止してくれる」
 そして彼女に続いたミリィと優希がそれぞれ吉岡と佐伯に向かって飛び出したところで、戦端は開かれた。
 ミリィの言う通り既に待ち伏せている事はバレてしまっていたが、確実に逃げ切るためにフィクサード達が迎え撃つ態勢を取ったのだから、問題はないに等しい。
「荷物ありじゃ受けきれないか? 澪、カバンを投げるぞ!」
「1人、動きが遅いですね。あっちの方へと投げてください、下がります!」
 唯一問題があったとするならば、『√3』一条・玄弥(BNE003422)がカバンを狙おうとしたがために出遅れ、かつ仲間の影に隠れるように動いた事か。
「わかった! ち、素早い攻撃だな!」
「お褒めの言葉をありがとう。でも、まだまだこれからですよ?」
 すんでのところで澪の指示の通りに玄弥から遠い位置へと無造作にカバンを投げた志賀の体に、リセリアの刺突が無数の傷を残していく。
(カバンが向こうへ……!)
 その一方で、投げられたカバンの落ちる先を目で追っていたミリィは、カバンの奪取が少しだけ難しくなった事を感じ取っていた。
 後ろへと投げていれば、公園の外に身を隠している『やる気のない男』上沢 翔太(BNE000943)や他の仲間達が、カバンを1つでも握る事は容易だっただろう。
(入り口から離れたか、だが……信じているぞ、翔太!)
 しかし玄弥の動きを警戒した澪の指示により、無造作に投げられたカバンは誰も居ない側面の側に、離れる形で落下してしまっている。
 それでも、翔太ならやってくれるはずだ。
 そんな思いを胸に優希が入り口側に目をやった時、残る4人も行動を開始した。

「まずは澪さんを止めるよ」
「うん、できるだけのことを全力で、だね!」
 入り口側に姿を現し、後ろへ下がろうとする澪へと駆けるのは櫻木・珠姫(BNE003776)と、『骸』黄桜 魅零(BNE003845)の2人だ。
「伏兵!? なんてこった!」
 思わぬ方向からの敵の増援に、思わず佐伯の顔に焦りの色が浮かぶ。
「4人で待ち伏せると思いましたか? こちらも、策は練っているのですよ」
 リセリアのその言葉に『やられた』と公園外を警戒しなかった事を嘆くフィクサード達だが、実際は少しだけ彼等にも幸運は働いていた。
 そのまま後ろにカバンを投げていれば、前後から挟まれてしまう形になってしまっていただろう。玄弥の動きを察知し、横へとカバンを投げて陣形を変えた事で、前後から挟まれる形を回避できたのだ。
「左右からの形になって、まだ助かった方か?」
「ごきげんよう、私と一緒に素敵なダンスを如何……?」
 それに気付いた志賀目掛け、動くと同時に四色の魔光を織り成した杏子が、彼の動きを止めにかかる。
「良い話だが、俺達は澪が一番なのさ……!」
 放たれた魔光に撃ち抜かれながらも、リセリアを叩きのめそうと大上段から攻撃を振り下ろした吉岡の姿から、動きを止める事はかなわなかったようだ。
 それでも彼の傷が蓄積している事に、変わりはない。
(後はこの隙に……っか!)
 そして仲間達が敵の目をひきつけ、注意を逸らした隙を狙い、珠姫や魅零とは違った角度からカバンの方へと一気に距離を詰める翔太。
「別方向からも……!」
 迫り来る珠姫と魅零に的を絞るか、別方向で妙な動きを見せる翔太を撃つか。
 澪はこの時、リベリスタ達の狙いをまだ把握出来ずにいた。
「くけけっ、狙わせてもらうでぇ……!」
 加えて、遠方からじわじわと迫り来る玄弥にも注意を払わなければならない。
(左右から挟もうとしているのでしょうか……ならば!)
 考えを張り巡らせた澪が出した結論は、カバンの方へと下がりながら玄弥を射抜く事。
「うひひっ、怖い怖い~。死ぬ~」
 狙いを定め、かつ強力で正確な射撃を放った澪に対し、玄弥は傷を負いながらも引く気配はなく、
「くそ、狙いは澪か!?」
「邪魔だ、澪が助けられない!」
 志賀も佐伯も澪の援護に向かおうとするものの、リベリスタ達とてそう簡単に通してくれる事はなかった。
「激しい攻撃も、防ぐ手段を持てば少しは耐え切れるんですよ?」
 降り注ぐ氷の雨を堪え凌いだミリィの言葉にはっと周囲を志賀が見渡せば、どのリベリスタもミリィと似たような防御態勢を取り、隙が少なくなっている様子が見て取れる。
 否、この防御態勢はミリィに感化されたものではない。
「さぁ、ここからが本番だよ」
「あいつの仕業か……中々にいい連携をするな、アーク!」
 件のディフェンサードクトリンを発動した珠姫に、しっかりとした連帯感を感じる志賀。
 そして翔太が次に取った行動で、フィクサード達はリベリスタの狙いが澪ではない事を知る事となる。
「リセリア頼んだ! 玄弥は取るんじゃねぇぞ」
 走りこんできた翔太が手に取ったカバンが、彼の手から離れて再び宙を舞った。
「任されました、後はお願いします!」
 絶対に落とさないという確固たる意思を胸にカバンをしっかりとキャッチしたリセリアが、そのまま後方――公園の外へと向けて走る。
「ち、狙いはカバンか!」
 ここに来てようやくリベリスタの狙いを知った志賀は、攻撃するわけでもなく澪に迫る玄弥の真意に気付いたようだ。
 リセリアの離脱によりフリーとなった彼はそのまま玄弥へと襲い掛かり、
「絶対に、渡さないって決めたから!!」
「後はそのカバンをもらえば、良いだけだよ!」
 同時にカバンの確保に向かった澪に対しても、魅零と珠姫の苛烈な攻撃が飛ぶ。
「そちらも任務を達成するために必死……ということですね。でも……やらせません!」
 カバンを持ち帰る任務と、カバンを奪う任務。
 敵味方という立場ではあるものの、己が使命を全うしようとする2人の姿勢に全力で応えようと、カバンを背に澪も構え向き直る。
「待て、澪。残る1つを持って、ここは引け!」
「で、でも、皆を置いては!」
 そんな彼女に対して志賀が投げたのは、逃走を促す言葉だった。
 仲間を大切にする澪にとって、その提案は当然飲めるはずのない要求であり、彼女が拒否の姿勢をとるのは当然と言えるだろう。
「目的はカバンを持ち帰ることだぜ!」
「俺達も後で追いつく、行ってくれ」
 だが自分達の目的を吉岡に指摘され、かつ佐伯にそう言われては、流石の澪も頷かざるをえない。
(上手くいきそうですね……)
 志賀に対して織り込んだ四色の魔力を放ち続ける杏子がそう感じるように、リベリスタ達にとってはフィクサードの一連のやり取りは願ってもない動きでもある。
 このまま澪を逃がすことが出来れば、目論見どおりに『あの人』へと近づく手がかりとなるはずだ。
「銭の入った鞄よこせやぁ。おぃ!」
 そうした状況の中でも、玄弥は執拗に澪が手にしたカバンを狙い、追いすがっていく。
(このままカバンが取れれば、良いけど……)
 一方で澪を攻め立てていた魅零は、2人がカバンを取り合う様子と、囲まれている3人のフィクサードを交互に見やり、その足を止めてしまっていた。
 この時、全員で玄弥を援護したならば、澪の手にしたカバンを奪う事も出来ていたかもしれない。
(コレが奪われれば、私も引かずに戦えますが――)
 しかし結果としては、援護に行かない方が正解ではあった。
 カバンを2つ奪われてしまえば、澪には引く理由がなくなってしまうのである。
 澪を逃がす事と、カバンを2つ奪う事。この2つは相反するため、両方の達成を考えるならば、それを考えた戦術を立てる必要があったのだ。
「行かせるかよ……!」
「金への執着で他人に負けたらお終いやでぇ、おぃ!」
 必死にカバンを奪おうとする玄弥は、志賀に叩きのめされようとも引く姿勢は見せず――、
「後は任せました……後で絶対、落ち合いましょうね!」
 追いすがる彼の存在を放置すれば逃げ切れないと判断した澪の引き際の一撃に、ついに倒れてしまう。
「さぁ、後は……」
「俺達も逃げるだけだが、難しいな」
 澪の撤退を目の当たりにした吉岡と佐伯は背中合わせに立ち、そんな言葉を交わした。
 これまでの戦闘でも傷を負っている現状、逃げ切る事が難しい事を、彼等はちゃんと理解しているのだ。
「だが、どうにかして時間を稼げ……澪が逃げる時間を……!」
「張り巡らされた蜘蛛の巣へようこそ、歓迎いたしますわ……♪」
 そんな2人に指示を飛ばした志賀に対し、絡みつくのは杏子が放ったトラップネストの糸。
(あぁ、こりゃ無理だねぇ……)
 志賀の動きが止まる様子を目にした吉岡は、どうやら完全な敗北を悟ったらしい。
「まずは1人、か?」
「いや……2人だ」
 その吉岡にほぼ同時に攻撃を仕掛け、倒した優希と翔太の視線の先では、
「痛くても、地面に這いつくばっても、噛みついてでも!」
「目の前の仕事を、しっかりこなすだけだよ」
 佐伯が幾度も降らせる氷雨によろめき倒れかけながらも必死に喰らいつく魅零と、最後の役目を果たさんと果敢に攻める珠姫の姿。
「満身創痍はお互い様か。……いい気迫だ」
 翔太の言葉の通りに倒れる佐伯は、魅零の気迫に賛辞を送り、意識を沈ませていった。
「……ここまでだな」
 2人の倒された現実を前に、志賀の目は攻撃を仕掛けようとするミリィではなく、澪の逃げた先へと視線を向ける。
 澪はどこまで逃げただろうか。足はそれなりに止めたはずだ。
「チェックメイトです」
 迫り来るミリィのスローイングダガーが突き刺さる刹那、彼は彼女を逃がしきれた事に満足そうな表情すら浮かべていた――。

●得られたモノ
「お仕事完了、ですわね……」
 パタリと魔術書を閉じ、杏子が静かに言う。
 得られた戦果は捕らえた志賀達3人のフィクサードと、彼等の持っていた2つのカバンのうちの1つ。
「予定通りに澪は逃がしたが、もう1つのカバンは惜しかったな」
 歯噛みする翔太の表情は、澪を泳がせるように仕向けられた喜びと、2つ目のカバンを奪えなかった事の悔しさによって、複雑だった。
 ほとんど個人プレーに近いものではあったが、それでもカバンを強引に狙いにいった玄弥を少しでも援護できていれば、もしかしたら2つ目を手に入れる事も出来ていたかもしれない。
「まぁ、仕方ないだろう」
「そうですよ。最低限の目的だけは、果たせたんですし……良しとしましょう」
 しかし2つ目を入手すれば、澪を捕縛しなければならない結果になっていただろう。
 労う優希とリセリアの言葉に『そうだな』と返したその時、翔太の目にカバンの中を改めようとする玄弥の姿が映る。
「開けるな」
「そのままにしておけ、返すんだから」
 深手を負っている相手だとしても、必要があると判断したのだろうか。
 警告代わりだと言わんばかりに蹴りを入れた優希と、拳を叩き込んだ翔太からは、明らかに怒りのオーラが浮かんでいた。
「中が減ってるか、調べようとしただけやんか……」
「その中にどれだけ入っているかなんて、俺達は知らないだろう?」
 慌てて弁解する玄弥ではあったが、そう言われてしまえば返す言葉もない。
「後はこのカバンを返すだけだね」
 半分しか取り返す事は出来なかったが、それでもカバンを返しに行こうと告げる珠姫に、玄弥以外の誰もが頷いて答える。
 当の玄弥はというと、
「あの方ってのの情報を吐けや、おい!」
 今度は捕縛した志賀達を痛めつけ、情報を聞き出そうとしていた。
 ここで仲間意識の薄いフィクサードならば、確かに知りうる限りの情報を聞き出す事は出来ただろう。
 しかし――。
「澪を逃がして、正解だったな……捕まれば、こういう目に遭わせるところ、だった」
「それに、志賀が吐くわけもない……ぜ? 澪を売る事に、繋がりかねないからな……」
 彼等……この場合は『あの人』に会った事のある志賀から話を聞きだすためには、暴力は逆効果でしかなかった。
 佐伯の言葉に志賀が頷き口をつぐむように、その話をする事は結果的に澪を売る事と同義だったのである。
(別のアプローチをするべきでしたね……)
 とミリィがその様子に歯噛みするものの、後の祭。
 本部へ戻ればリーディングなどを駆使して聞き出す事も出来るが、それによって情報を得るよりは、澪が次の行動を起こす方が早いかもしれない。
(どうして踊らされていても平気な顔するの? 教えてよ、貴女は強い人のはずだよ? また会おうね、次は、貴女を助けたい)
 そんな思いを胸に、澪が姿を消した道の先をじっと眺める魅零。
 再び彼女と相対した時、リベリスタ達は少しでも『あの人』へと近づく事が出来るのだろうか――。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
お疲れ様でした。
澪を泳がせるという作戦のもと、よくまとまったなというのが第一印象でした。
カバン奪取から撤収までの流れ。
および庇う状況には陥りませんでしたが、奪取者の援護などまでしっかりと作戦が組み立てられていたと感じています。

次に登場するのは『あの人』か、姿を消した高原か。
ご縁がございましたら、またの参加をお待ちしております。

なお、澪の捕縛とカバン2個の確保の両達成を狙う場合、撤退しながら追撃を倒すくらいの作戦が必要でした。