●送電塔の怪異 ――ねぇ、あの送電塔の噂を知っている? そんな切り口で語られはじめるのは、街で一番話題になっているという怪談話だ。 郊外にひっそりと建つ、何処にでもあるような鉄塔。 真夜中を過ぎると、その天辺に昏い人影が現れる。ゆらゆらと揺れながら鉄塔から地面を見下ろすソレを見つけたとしても、決してじっと見つめてはいけない。 何故なら、その人影と目があった瞬間――貴方は呪われてしまうからだ。 ●花と鉄塔と思いと 「なんて、怪談だとか幽霊の噂ってさ、伝播するのが妙に早いよね」 掌で薄紫色の花を弄び、『サウンドスケープ』 斑鳩・タスク(nBNE000232)は何気なしに呟いた。 アーク本部の一室。依頼の情報を聞く為に集ったリベリスタに、フォーチュナの少年が告げたのは、とある街で広まっている幽霊の噂。しかし幽霊とはいっても察しが付く通り、その正体はE・フォース。つまりはエリューションとなり半実体化した思念体のことだ。 「現場は郊外の何の変哲もない鉄塔。現れるE・フォースはヒトの形をした何かだ。顔もカタチもはっきりとはしていない。でも、俺が感じた限りでは……何だか空虚めいた念を持っているようだった」 それが出現するのは真夜中。 タスクは手にした花――千鳥草をリベリスタ達に示し、この花が一面に咲いている場所を目汁にすれば迷うことはないと告げる。 例のエリューションが現れる時刻にはほとんど人通りもなく、仕事や学校帰りの者がごく稀に通り掛かる程度だ。警戒に越したことはないが、人通りは気にしすぎなくても大丈夫だとタスクは語った。 アルファベットの『A』のような形をした送電塔は、人が入らぬように鉄柵で囲われている。 E・フォースはその頂上に存在しており、柵内に入ったものを敵と見做すようだ。 「鉄柵を乗り越えて、足を踏みれた瞬間に戦いは始まる。けれど気を付けて。地面からだと相手に攻撃は届かないから、ある程度は鉄塔の上に登る必要があるよ」 無論、地面に居れば向こうからの攻撃は届かないのだが、そのままでは埒が明かない。ゆえに皆は最低でも10メートル地点にある足場まで昇らなくてはいけない、とタスクは語った。 だが、その地点にも揺らめく思念体が待ち受けている。 四体の思念体は頂上のE・フォースと比べて力も弱いらしいが、油断は出来ない。まずはその四体を倒してから頂上に向かうのが定石だろう。 そしてタスクは「頑張って」という応援の言葉を送ると、ぽつりと零す。 「思念が何故あんな場所に居るのかは解らない。本当は鉄塔の下一面に咲いている花を眺めているだけなのかもしれないと、俺は思う。でも……放っておけばアレはいつか、人に仇成すモノになる」 だから、すべてを消し去って来て。 そう告げた少年はそこで説明を終え、リベリスタ達を見送った。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:犬塚ひなこ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年06月07日(木)23:06 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●幽かな影 夜風が地を駆け、淡い花々を踊らせる。 振り仰いだ空は昏く、浮かぶ月のひかりすら弱々しく感じられる。歩みを寄せる四角い柵の向こうを見上げれば、送電塔の尖鋭の天辺には噂通りの人影が見え、リベリスタ達は身構えた。 彼らは何を想い、この鉄塔より彼の地を見下ろすのだろう。 夜のしじまに己の思いを隠し、『不視刀』大吟醸 鬼崩(BNE001865)は掌の中の感触を思う。そこにある一輪の花は淡く、吹き抜ける風を受けて揺れた。 思えば、千鳥草の咲く自然の中に鉄塔が建つという光景は、どこか不釣り合いな気がする。まるで、神秘が一般の日常を蝕んでいるような――。『ライトニング・フェミニーヌ』大御堂 彩花(BNE000609)は、ふと浮かんだ思いを胸に、頭上を見上げた。 「本当に、鉄塔の上から下の何をみてるんでしょうねー?」 素直な疑問を口にしたアゼル ランカード(BNE001806)は首を傾げ、仲間達に翼の加護を授ける。 魔力によって、ふわりと浮かぶことのできる感覚を確かめながら、アゼルは目の前の鉄柵を乗り越えるべく、地を蹴った。行きましょう、と告げられた言葉に頷き、『孤独嬢』プレインフェザー・オッフェンバッハ・ベルジュラック(BNE003341)も続く。 「幽霊は高いところに上る、か……どこかで聞いた事あんな」 何でだったっけ、と過ぎった思いもあるが今は戦いに気を向けることが先決。 そして仲間達が地に降り立ったとき、それまで花咲く大地に向けられていたE・フォース達の意識がこちらに向いた。雰囲気が粟立ったことを感じた『red fang』レン・カークランド(BNE002194)は、『微睡みの眠り姫』氷雨・那雪(BNE000463)と視線を交わし合う。 「人に害為す前に、止めて……解放してあげないと、ね」 小さく呟いた那雪は、六花が刻まれた水晶刃のナイフの柄を握り締めた。 「お前達が何を思うかは知らないが、少なくとも俺たちはここを荒らしにきたのではない」 それだけは分かって欲しい、とレンが言葉を掛けても、靄のような思念体からの反応は見られない。 『虚実之車輪(おっぱいてんし)』シルフィア・イアリティッケ・カレード(BNE001082)は揺らめくその姿を見据えながら神経を研ぎ澄まし、視線の先に見える影に狙いを定めた。 「目的も分からずただ見ているだけ、というのは不気味ね」 そして、風になびいた髪をかきあげたシルフィアが魔力を解き放つ。一瞬のうちに頭上の鉄塔に広がった魔炎、その機と同時に『24時間機動戦士』逆瀬川・慎也(BNE001618)が大きく跳躍した。 細い鉄の足場を蹴り、宙を駆けるように身を躍らせる。 「さて、気合いいれないとな、うん!」 夜に独り彷徨うことのある慎也にとって、あの靄のヒトには親近感を覚えるほど。我ながら暗いとは思うがそれも致し方ない。そして、敵に一瞬で肉薄した慎也は鎖付きの鉄球を振りあげた。 ●虚空への問い その瞬間、全身の膂力を使って放たれた慎也の一撃が思念を穿つ。 だが、空虚にこちらを見遣るだけの対象は不気味に揺れ続けていた。そこから動かぬまま、何を思うのだろうか。ふとした疑問を抱えながら、仲間に続いた彩花も疾風の如く鉄塔に駆け上がる。 「往きます!」 雷撃を纏った白い牙の籠手を掲げ、見舞われた武舞が次々と思念を巻き込んでゆく。 しかしそんな中にあっても、揺らぐそれらの狙いは花咲く地面に立つ者達に向けられた。空虚めいた視線は呪を乗せ、その力で那雪を傷付けんとして動く。 (「小さい影……女性……いや、子供……か?」) カタチすらはっきりしていない影を見上げ、那雪は襲い来る衝撃に耐えた。鈍い痛みを押し殺し、気糸を解き放った彼女は目を凝らしてみたが、思念達の正体は判断出来ぬまま。その攻撃が複数の対象に広がった最中、レンは赤の擬月を周囲に出現させた。 先程の言葉通り、地に咲く千鳥草を荒らしたくはない。 踏み締める地面にちらと視線を向けながらも、レンの気持ちは真っ直ぐに虚ろな思念に向いている。 「今となっては分からないが、もしかして、この花はお前が手入れをしていたのだろうか」 遥か高み、ぽかりと開いた目でこちらを見下ろす霞の影。そこにレンの言葉は届かないだろうが、浮かんだ思いを口にせずにはいられなかった。 刹那、不吉を告げながら迸る月の力が思念の一体を完全に滅した。 そこへ、空いた射線を掻い潜って駆けたのは鬼崩だ。軽々と身を翻し、思念達を素通り彼女は天辺の影の元に向かう。皆様には申し訳ないのですが、と胸中で思いながらも、鉄塔の足場を蹴り上げた鬼崩はひといきに距離を詰めた。 「こんばんは。此処で何をさ ているのですか?」 そして彼女は消え入りそうな声で語り掛ける。しかし、そこに答えは返って来ない。 「このお花、好 なんですか?」 しかし鬼崩は怯まず、掌の中に忍ばせていた千鳥草の花を差し出した。その瞬間、揺らめくソレは何かを感じたかのように動く。――だが。 「鬼崩さん、危ないです!」 異変を感じ取ったアゼルが声をあげた刹那、打ち込まれた漆黒の霧光が鬼崩を包み込み、体力を大きく奪い取った。呪縛の力が彼女を取り込み、その身体が一瞬で倒れ込む。 しかし未だ間に合うかもしれない、と癒しを施そうとしたアゼルだが、はたと気付く。 「いけない、届きません。ここからじゃ駄目ですー」 塔の頂上にいる彼女へと力を届けるには、距離がわずかに足りない。その事に焦りを感じたアゼルだったが、何もしない訳にはいかない。代わりに中間地点で戦うシルフィアの傷を癒そうと掌を掲げ、彼は詠唱をはじめた。 仲間の危機を知りながらも、慎也は目の前の敵を倒すことに集中する。 「こうなったら、さっさと片付けてしまうしかないよな!」 奥歯を噛み締め、十字の光を描いた慎也の一撃が敵を打つ。眩い光が思念を包み、その身が消えかけるかのようにざわめいた。敵が弱っていることに気付いた慎也は、ここが攻めどころだと感じた。 今だ、と呼び掛けた彼の声に応え、プレインフェザーが動く。 標的を見据える緑の双眸の奥には未だ気に掛かる思いがあった。だが、静かに首を振った彼女は気糸を思念達へと解き放つ。一直線に伸びる軌跡は弱り掛けていた標的を捉え、その存在を無に還した。 これで、この場の思念は後二体。 身を貫いた攻撃の痛みもあったが、シルフィアは気を取り直して雷撃を紡ぐ。 「纏めて吹き飛ばしてあげるわ。唸れ雷鳴!」 もしそこに呪いがあるとしても、すべてを消し去ってしまえば良い。解き放たれた力は鎖のように連なり、激しい雷の軌跡となって拡散した。 ●天と地の距離 鉄塔の天辺、受けた衝撃を和らげるように鬼崩は息を吐く。 運命を引き寄せ、立ち上がった彼女は衝撃で散ってしまった花を手にしたまま、再び問う。 「此処に、大事な約束などがあるので ょうか?」 しかし影は答えない。否、応えられるはずがない。ぽっかりと空いた目は鬼崩をじっと見つめ、そして――虚無の瞳は彼女の意識ごと、すべてを飲み込むように力を迸らせた。 次の瞬間、はっと顔をあげた彩花が見たのは力を失って倒れゆく鬼崩の姿だった。 意識の途切れた彼女の身体は均衡を崩し、鉄塔から見る間に落下してゆく。 せめて自分が受け止めようと彩花が手を伸ばしたが、既に遅い。腕が虚空を掴む中、仲間の身は大地に咲く千鳥草の上に力なく伏した。 「何て無茶を……!」 彩花は唇を噛み締めると、意識をすぐさま思念の方に向ける。この間も、相手はこちらを狙って揺らめいているのだ。これ以上誰かが、自分が倒れるわけにはいかない。彩花は敵との距離を一気に詰め、雪崩の如き連撃を打ち込んだ。 引き倒された思念がカタチを失い、消える。 だが、そこへ最後に残された小さな影が揺らぎ、地上のレンに狙いを定めた。放たれる視線はまとわりつくようにして、見る間に少年の身を蝕む。 「くっ……だが、俺まで倒れるわけにはいかない」 衝撃に目が眩みそうにもなったレンだが、何とか耐えて見せた。その様子を察したアゼルは意識を失った鬼崩を庇うように立ったまま、更なる癒しの詠唱を紡いでゆく。 「大丈夫、怪我しても癒しますよー」 次は届かないなんてことがないよう、絶対。間延びした口調の中に癒し手としての思いを込め、アゼルは聖神の癒しの力を解放した。広がる息吹はレン達の身をやさしく回復してゆく。 「――那雪、頼む」 「わかったわ、レンさん。こんなときでも……良い所、みせないとね」 友人で戦友である少年の声に応え、那雪は意識を同調させるべく集中した。そして、彼女から受け取った力を内に宿したレンは掌に道化のカードを作り出し、最後の思念に投擲する。 そこにある思いは読み取れない。だが、何も無いからこそ消えた方が良いものもあるのだろう。 破滅の予告は影を滅する力となって迸り、残るは天辺に君臨する霞の人影のみになった。 戦局と運命は、こちらに巡ってきている。 そう感じたシルフィアは地面を蹴り上げ、鉄塔の上を目指べく翔けた。スカートがひらりと翻り、中間点に辿り着いた彼女の胸元も着地の衝撃によって揺れる。 「さあ、決着をつけましょう。いつまでも其処に居られては困るの」 見上げた先に告げ、魔曲を奏ではじめたシルフィアに続いて地上にいたリベリスタ達も次々と鉄塔の上に駆けあがってゆく。 見据えた標的は尚も空虚な雰囲気を漂わせたまま、天辺に在り続けていた。 そして慎也は到着した仲間達と入れ替わるようにして更なる上を目指す。足場を飛び越え、細い鉄棒の合間を潜り、距離を詰めた慎也は真っ直ぐに霞の影を見つめて口を開いた。 「……そこがどれだけ大切な場所か、俺は知らないけどさ。でもそんな大切な場所を、誰かの悲しい思い出の場所にはしたくないだろ? 俺なら、絶対に嫌だよ」 大切なのだろうと感じ取れるからこそ、この場所が死で彩られることなどあってはならない。 慎也は己の腕に力を込め、全力の一撃を霞に打ち込む。代わりに虚無の瞳が自分を飲み込まんとして光るが、慎也はその衝撃すら受け止めようと心に決めていた。 そんな中、気糸の罠を展開させたプレインフェザーはふと思い出す。 浮かんだのは、先程から考えていた“何故に幽霊が高い所に昇るのか”という一説だ。 「それは、もっともっと高い所――《天国》へ上る為。……そんな話もあんだっけ」 相手は幽霊などではないのかもしれない。だが、そう考えるとあのような高みに居る理由にも納得がいく。本当のことは分からないが、もし、そうなのだとしたら。 「あたしが天に送ってやるよ。その存在ごと、全部」 プレインフェザーが呟きを口にした刹那、気糸が影の力を大きく奪い取った。 終幕は間もなく訪れる。そう感じ取ったリベリスタ達は、最後に向けての意志を胸に抱いた。 ●夜の風花 時は深く巡り、攻防は幾度も巡る。 しかし、この状況ならば押し切れるはずだと信じ、アゼルは癒しの力で仲間を支え続けた。 「もしかして何か、ここに思い入れか大事なものがあるのですかー?」 アゼルもまた、空虚な影に向けて問いを投げ掛けてみる。答えは期待できないと知っていたが、声をかける度にその揺らぎが違う色を見せていくような気がしたのだ。 聖神の息吹が夜の合間を駆け、彩花の背を押すようにして癒しを与える。 白爪を胸の前に掲げ、彩花は氷の魔力をその身に宿らせた。その瞬間、凍て付く冷気が周囲の空気ごと凍りつかせるように迸る。真正面から打ち込まれた一撃に敵が傾ぎ、その身が見る間に凍りついてゆく。 「今が好機です。お願いします!」 彩花が呼び掛ければ、シルフィアが大きく頷き返した。 「ええ、終わらせてしまいましょう」 そして彼女は魔術式を組み上げ、身動きの取れぬ相手に向けて旋律を紡ぐ。四色の魔力となって襲い掛かる光は次々と敵を貫き、霞がかった身体が薄くなりはじめた。 そこにレンの放つカードが舞い、慎也の振り上げた鉄球による一撃が敵を穿つ。プレインフェザーも最後の一撃であろう気糸を迸らせ、敵を更に弱らせてゆく。 ――それでも尚、『彼』は何を思って地を見つめ続けているのか。 那雪は深淵に潜む何かを見つけようと目を凝らした。しかし、そこから視得たものは無かった。那雪は眼鏡の奥の瞳を緩めると首を振り、気糸を解き放つ。 巡らされた罠は幾重もの線となり、黒い影を更に縛り付けた。 「……さようなら、ね」 那雪が幽かな呟きを落とした刹那、世界に留まる力を失った影は本当の霞のように消え去った。 一瞬の静寂の後、吹き抜ける風が地上の花を揺らし、草葉がさやさやと揺れる音が耳に届く。そうして、辺りに訪れたのはまるで、それまでの出来事が夢か幻だったかのような夜のしじまだった。 風の音と花の香りを感じ、鬼崩はふっと意識を取り戻した。 辺りの気配が静かなことから戦いが終わったことを感じ、彼女は何も視得ぬ瞳を空に向けた。身体中に痛みが走ったが、穏やかな風は不思議と心地好い。けれど何処か悲しくも思え、鬼崩は幽霊と呼ばれた影達の『来世』をそっと想った。 「折角ですし、千鳥草を少し眺めていきましょうか?」 「そうね、こうしてゆっくりできる時間もなかなかないもの」 彩花が仲間達に提案すると、同意したシルフィアは地に咲く千鳥草を数本、摘み取った。薄紫のふんわりとした花は愛らしく、その手の中で淡い色を宿している。 やがて、リベリスタ達は誰からともなく鉄塔の上に登り、眼下に広がる景色を見下ろした。 霞の人が見ていたであろう場所には、たくさんの花が咲いている。 「千鳥草が明かりで薄く輝いてみてきれいなのですよー」 アゼルが感じたままの感想を口にすると、仲間達も鉄塔からの眺めに感嘆を零す。 「いーいきもちだなぁ……気にいるのも、何かわかるな」 慎也が夜の空気を胸いっぱい吸い込むと、かすかな花の香が感じられた。 けれど、たった独りで佇み、訪れる者を拒んだ存在は一体どんな気持ちでここにいたのだろう。考えても答えが出るはずもなく慎也は最後に一度だけ、ゆっくりと息を吐いた。 那雪は摘んだ花に視線を落とし、消滅した意志の在り処を思う。 「ずっと一人は、淋しいし……満たされない想いを抱え続けるのは、きっと、辛いから……」 途切れ途切れに、ゆっくりと紡がれる那雪の言の葉に耳を傾けたレンもまた、そっと頷く。 見下ろした景色はあまりにも綺麗で、時間を忘れそうになる。だからこそ彼の存在も生というものを越えても尚、この鉄塔に居続けたのかもしれない。 「昇華しただろうか。いや、解放されたと思いたいな」 この千鳥草のように、と那雪の言葉を継ぐようにしてレンも呟きを落とす。 仲間達が言葉にした思いを聞き、プレインフェザーは緩やかに首を振る。彼女にとっては最早、あの存在が何を思っていたかなど興味は無い。けれど、何もかもが消え去ってしまった場所はどうしてこんなに、と思うほどの穏やかさに満ちていた。 ――静かで、綺麗。 まるでこれは《生きる》ことと、まるきり正反対だ。 プレインフェザーの思いは言葉にされることなく、昏く深い残夜の中に解け消えてゆく。 鉄色の錆びた塔の下。夜を駆け抜ける風は来た時と変わらず、咲き誇る花を揺らがせていた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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