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ラーメンと討伐

●とあるラーメン屋さんにて。
 店内に入り、注文を終えた所で、
「ねえこれさ、辛くない?」
 とか、店員さんに言っているらしい男の人の声が聞こえた。
「はい、激辛ラーメンですしね」
 答える店員さんの声は、何せうちの名物ですしね! みたいなノリで、めちゃくちゃにこやかで、けれど次の瞬間、
「激辛って言っても、辛すぎだよね」
 とか、何だったら確実に辛さにやられてんじゃないか、みたいに覇気のない男の人の声に、あれ、これはクレームじゃないの、みたいにちょっと、警戒したらしく、
「いやまあそういう商品なんで」
 と、注意深く、言った。
「でもこれ、辛いよね、腹立つくらい辛いよね」
「はーどうもありがとうございます」
「いや、ありがとうございます、じゃなくてさ。こんな辛いもん出してさ、喜んで食べる人なんて居ると思うの」
「いえまあ、ですんでメニューの注意書きにも、凄い辛いです、って書かせては頂いてるんですけど」
 って、だんだん何か、困惑を通り越して、若干キレ気味っていうか、何だったらアンタが頼んだんですよね、関係ないですよね、みたいになりだしてる店員さんに、悪質クレーマーとしか思えない男は、まだまだ「辛い」事について、憤っている。
 わー面倒臭い客だなー、あんな客にはなりたくないよなー、とか思いながら、チラッとその人物の顔を見てみたら、それがどう見ても間違いなく、アーク所属の変人フォーチュナ、仲島のような気がして、というか、見れば見る程あの無駄に美形な顔は、仲島に間違いなかった。
 愕然とした。
 わー絶対知り合いだとばれたくないどーしよー、っていうか、もう注文しちゃったのに店出られないどーしよー、っていうか、わーどーしよーって思ってたら、ドン、と目の前に「へいお待ち」とか、もー若干待ってなかったラーメン入りのどんぶりばちが置かれ、芝池は益々、追いつめられた。
 でもこれを全く食べないで店を出るというのも何だか申し訳ない気がして、とりあえず顔を伏せながら、立て掛けられている箸を取り、次は葱だ、と思ってテーブルに「ご自由にお入れ下さい」と置かれている、葱の容器を見た。
「あ、芝池君」
 遠く、仲島の声が聞こえる。
 葱の容器の中身が、ほぼ、空だった。
「ねえねえ、芝池君。聞いて聞いて、今さー、激辛ラーメンっていうのを食べてたらさー」
 って、別にまー辛さにやられてなくても、実は普段からこういう覇気のない物言いをする無駄に美形の男は、芝池の座るテーブル席に近づいて来て、どしん、と隣の席に座る。
「凄い辛くて、あんまり辛いから、思わず店員さんに八つ当たりしちゃった。いいよね」
 って、良くないですよね、であるとか、だいたい何で隣に座るんですか、であるとか、いつもなら確実に言ってそうな所だけれど、今の芝池は全然全くそれどころじゃなくて、もう視線は葱の容器に釘付けで、釘付けで、釘付けだった。
「葱がない」
「え?」
 と、仲島は、芝池の顔と、テーブルの葱の容器を見比べる。
「ああ、本当だ、ないね」
「ないね、じゃないですよね」
「え、だってないじゃない」
「いやいやいやいや」
 何言っちゃってんですか、みたいにちょっと失笑しながら、首を振った。「補充しとくべきでしょ」
「あーそういうことね」
「そういうことね、じゃないですよね、葱ないんですよ、腹立たないんですか」
「いや別に」
「ちが、え? 辛さとかくだらない事に怒ってましたよね」
「うん、くだらなくないけど、怒ってたね」
「これは腹立たないんですか」
「うん、別に」
 って言った顔を、ちょっと茫然として、見つめた。
「いやいや怒りましょうよ。ここで怒りましょうよ。何で葱ないんですか。ご自由にお入れ下さいって言っときながら、全然自由に入れられないですよ、空ですよ、どういうことなんですか、葱ないじゃないですか、葱ないじゃないですか!」
「うん、芝池君ちょっと落ち着こうか」
「いや落ち着けないですよ、葱ないですよ」
「葱ないからってそんな怒る人初めて見たわ、大激怒じゃん、どんなけ葱好きなのよ」
「僕だって自分で激辛ラーメン頼んどいて、辛さに怒ってる人初めて見ましたよ」
「でも大激怒ではなかったよ」
「葱がないですよ。ご自由に入れて下さいって、葱がないんですよ」
「うん分かった。あれだよね、芝池君って、ケチなんだよね」
 って、完全に憤って落ち込んでる人に対して、思いっきりさらーっと言った顔を、暫し、見つめた。
「でも」
 と目を逸らしながら、「葱がないから……」と、そのことに対しては、絶対譲れない気がした。
「じゃあもう他のテーブルから持って来てあげるから、俺の話聞いて」
「いやです、だいたい他のテーブルから持ってくるとかそういう話じゃないんですよこれは。他のテーブルから持って来ちゃったら、そこに座った人がまた、同じような憤りに苦しむんですよ、そんなこと僕には」
「いや大丈夫だよ、そんなに葱に思い入れある人、そうそういないだろうし」
「閉店が近いから、多分これ、新しい葱は、切らないと思うんですよね」
「だから、他のテーブルから持って来たらいいじゃない。っていうかとにかく俺の話聞いて、ちょうど頼もうと思ってた仕事の話があるのよ。タイミング良いよね」
 って、だいたい仕事と言っても、厳密には芝池がやるべき仕事ではないし、ただの嫌がらせの押しつけの資料作成で、葱のショックもあり、今日はとても話が聞ける気がしなかった。なので、
「嫌です、葱のショックから立ち直れません」と、理由を述べ、却下を申し出る。
 とか、やっぱりいつもながら全く聞いてない仲島は、
「えっとね。お願いしたいのは敵討伐とアザーバイド送還依頼の資料でね」と、さっそく話を開始する。
 葱がないのに、絶対聞いてやるもんか、と芝池は、プンして話を聞き流していたのだけれど、
「敵は、フェーズ2のE・ゴーレムが3匹出現する。食品サンプルのラーメンが、E・ゴーレム化したものでね。どんぶりばちから、むっきむき系の手足が生えてるんだよね」
 とか言われたら思わず、このどんぶりばちから手足、と想像してしまった。
「場所は、食品サンプルの工場跡地でね。会社自体は倒産してしまって、人とかはいないんだけど、内部には未出荷の食品サンプルとか、まだいろいろと残ってるんだよね。その中に今回の敵も潜んでる、とそういうわけ」
「いや潜んでるって、むっきむきの手足があった時点でばればれですよね」
「うん、戦闘時になると、手足が生えてくるパターンでね」
「はーまたそういう都合のいー感じなんですね」
「で。アザーバイドは、見た感じ、ああこれが謎の中国人ですよね、というような風貌の、オジサン臭い生物が2体出現してね。彼らは、どんな食べ物も激辛になっちゃう粉を所持している」
「えー」
「これを何にでも振りかけて食べる、が彼らの流儀なんだけど、人がご飯を食べてたら、寄って来て振りかけようとするんだよね」
「わー凄い迷惑ですね、果てしないですね、あとやっぱり葱……」
「しかも、それを振りかけて尚、自分達と同じようにもぐもぐ美味しそうに食べてくれた奴は信用出来る、と思ってる節があるんで、それさえクリアー出来れば、わりと素直に言う事を聞いてくれるんだと思うのよね。もちろん、逆に力づくで送還したり、討伐してしまってもいいけど、意外とめちゃくちゃ強いんで、あんまりお勧めはできないかな」
「そうですか」
 小さく頷きながら、芝池は呟く。「葱ですか」
「うん今、葱の事は一切言ってないけどね」
「はい」
「え大丈夫なの」
「はい大丈夫じゃないと思います、これ食ったら、帰ります」
「うん何か良く分かんないけど気をつけて。まあ何だったらこの後、俺の家で口直しに」
「いえ、それは大丈夫です」
 そこだけははっきりと断っておいて、芝池は残り少なくなった葱をどんぶりばちに入れることにした。



■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:しもだ  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年05月25日(金)23:33
■目的■
敵エリューションを全て討伐すること。
アザーバイドを送還すること。

■エネミーデータ■補足
E・ゴーレム「ラーメン」×3(フェーズ2)
食品サンプルのラーメンがE・ゴーレム化したもの。
手足付き。あと、お箸付き。
―攻撃行動―
箸付きの麺を伸ばし、鞭のように扱い攻撃してくる。
巻き付けて、拘束してきたりもするので注意が必要。
また、丼内部から、メンマやなるとを飛ばし攻撃してきたり、硬くなって身を守ったりもする。

■アザーバイド情報■補足
「謎の中国人風のオジサン」×2
見た感じ、ああこれが謎の中国人ですよね、というような風貌の、オジサン臭い生物が2体。
どんな食べ物も激辛になっちゃう粉を所持しており、これを何にでも振りかけて食べる、が彼らの流儀。
また、人がご飯を食べてたら、寄って来て振りかけようとする。若干迷惑。
これを振りかけて尚、自分達と同じようにもぐもぐ美味しそうに食べてくれた奴は信用出来る、と思っている節がある。
D・ホールは工場内部のその辺にある模様。

■場所情報■補足
食品サンプル工場跡地。
内部には、いろいろな未出荷の食品サンプルがまだ残っているらしい。
とりあえずだだっ広い。
使用していた会社は倒産してしまっているので、
監視カメラ、監視セキュリティなどは作動しておらず、電気も通っていない。

尚、その他、一般人等は、今回の依頼には出現しません。

■STより
お目に止めて頂き、幸いです。
とりあえず、わりとゆるーい依頼なので、自由なプレイングでいろいろと遊んで頂ければと思います。
皆様のご参加を、心よりお待ち申し上げております。


参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ナイトクリーク
星川・天乃(BNE000016)
デュランダル
雪白 桐(BNE000185)
デュランダル
兎登 都斗(BNE001673)
マグメイガス
セレア・アレイン(BNE003170)
ナイトクリーク
荒苦那・まお(BNE003202)
ダークナイト
ユーキ・R・ブランド(BNE003416)
ホーリーメイガス
石動 麻衣(BNE003692)
レイザータクト
朱鴉・詩人(BNE003814)



 工場の奥に階段があるのが、見えた。
 で、それが一体何処に続いてるのか良く分からなかったので、えー何処に続いてるんだろーとか思って、ユーキ・R・ブランド(BNE003416)は、じーっと階段の行く先を見定めながら、顔を上に向け、上に向け、上に向け。
 た、瞬間に何か、思いっきり天井に張り付いてる人の顔らしきものを、視界の隅に見つけた。
 顔近っ、っていうか、え、っていうか、だいたいそこに人の顔が張り付いてる事とかが、日常の中で余りなかったので、思考が一瞬、停止した。
「あ、こんにちはです」
 クルンとした紫の瞳の、それ以外の部分が、殆ど布で覆われている人の顔が、何かもー当たり前みたいに、平然とした感じで、挨拶してくる。
 とか、とりあえず何か咄嗟にどうしていいか分からなかったので、じーとかガン見して、向こうも全然負けずとガン見してきて、わー凄い見詰め合ってるーどーしよー。
 ってなりかけた瞬間。
「お二人は、何をされているんですか」
 いえ別にいーんですけどね、みたいな雪白 桐(BNE000185)の従容とした声が、背後から、聞こえた。
「はい」
 とか何か、天井を移動し始めた『もそもそ』荒苦那・まお(BNE003202)が、「頭上を横切ろうとしたら、思いっきりユーキさんに見つかって、しかも何か思いっきり顔が近かったので、まおはびっくりしました。ユーキ様の身長ってほんとーに高いのですね」と、状況を軽く説明する。
 とかいう姿を、じーっと無表情に見つめた桐は、
「あ凄い天井移動するのが上手なんですね」
 って言ってる顔が、もー無表情なので、本気で驚いてるのか実は全然興味がないのか、あんまり良く、分からない。
 そしたらまおが、
「はいまおはわりと天井なので慣れっこなのです、でも辛いだけなのは駄目なのです。美味しくて辛いのはまおも大好きです。でも一味唐辛子の粉だけをぺろっと舐めた時は、まおはフェイト使う寸前だったと思います」
 って、まだ誰も何も言ってないけど、よほど辛いのが無理なのか、辛いの無理って全面に押し出して訴え出して来て、そしたら、それまでは影薄ーく、ひっそりと仲間達の最後尾に居た『バトルアジテーター』朱鴉・詩人(BNE003814)が、「どんな食べ物も激辛にしてしまう粉ですよね……」とか何か独り言のように呟いて、しかも最後にふふふ、とかちょっと笑って、え、みたいな、仲間の視線を集めた。
 のだけれど、全く気付いてない彼は、「いやあ。激辛の粉だなんて既存の調味料を超えた神秘ですよね。ええ、ええ。たまらんです、たまらんです」とか、ふらふらと仲間の前へと躍り出て、「そんな激辛な神秘の粉を好みで持って確かめられる幸せ……! 存分に味あわせて頂きましょう!」
 って最終的にはテンション上がり過ぎて両手広げて、満面の笑みで、隣をガッ。
 って見たら、物凄いぼーっとした表情の『無軌道の戦鬼(ゼログラヴィティ』星川・天乃(BNE000016)の、何だろーこの変な生物ーみたいな目に、凄いガン見されていた。
 だけではなく突然、
「辛い物……嫌いじゃ、ない。けど、大好きってほどでも、ない。まあ、これも…忍耐の、修行。頑張って、食べよう」
 とか何か、あれ? 何かどっかのボタンでも押されてしまいましたか? みたいに、天乃が伏し目がちのロボットみたいに話出したので、
「え?」って完全にどうしていいか分からなくなって、そしたら今度はちょいちょい、と服の端を引っ張られ、振り返ってみたら、そこには凄い眠そうな目をした小学生。
 ではなくて、『偽りの天使』兎登 都斗(BNE001673)が立っていて、「ぼくは味噌ラーメンがたべたいな」って唐突に言われて、ラーメン食べるとか食べないとかの話は一切してなかった気がするので、「え?」って詩人は益々どうしていいか分からなくなった。
「じゃあ、あたしは醤油味のラーメンね」
 そこで更に注文かぶせるみたいな勢いで、『┌(┌^o^)┐の同類』セレア・アレイン(BNE003170)が言った。
 そして、「でもやっぱり、んー、ラーメンより焼きうどんの方がいいかなー」
 って完全に何か、これから何を食べに行くかを相談中、みたいな方向へ、会話をシフトさせてしまった。
 ところですかさず、『おとなこども』石動 麻衣(BNE003692)が、「いや、食べられないです」とか、深刻な表情で、セレアの腕を掴む。
「敵は食品サンプルのラーメンがE・ゴーレム化したものなんです。そのまま食べたら……流石に……」
 と、彼女は、それは思いきった勘違いをしていた。
「いやうん、え? それは食べないよ」
 とか全然聞いてない麻衣は、まだまだ切ない表情で、
「でももし万が一どうしても食べたい、と仰られるなら私は止めません。ただ……是非。是非にお気をつけ下さいまし!」
 と、最終的にぐッと、セレアの腕を掴み、応援する構えのようだった。
「いやえ? あれ? 食べないよ?」
「はい、というわけで、最早食べ物でも何でもない食品サンプルをセレアさんが食べる、と決まった所で、話を戻しましょうか」
「あれ? 雪白さん。食べないよ、あたし、食べないよ」
「とりあえず、私は暗視が利きますからね。先程から工場内を見渡してはいたんですが」
 とか、もー全然セレアの話聞いてませーんみたいに桐が、どんどん話を進める。「わりと小ざっぱりした工場ですし、敵はともかくアザーバイドの方は、人が動いてたら分かりそうなもんなんですが、引っ掛からないですね」
「あの階段の上が、怪しそうですよね」
 ユーキが始めに見ていた工場奥の階段を指さす。
 工場奥に見えている階段は、天井の中に吸い込まれるようにして途切れていた。
 ここからでは良くは見えないけれど、あれは、天井に取っ手とかがついていて、開くタイプなのかも知れない。ということは、上に何か部屋っぽいものとかがあるのかも知れない。
「奇妙な造りではありますが、あの上が屋上、もしくは屋根裏のような部屋に繋がっていた場合、そこにアザーバイドが隠れている可能性はありそうですがね」




 とかいうその間にも、天井に張り付くまおが、戦闘準備開始、とばかりに、テラーオブシャドウを発動した。
 途端にその小柄な体から、やもりを模った巨大な影が伸びていき、伸びていき、伸びて行き。
 手足の先には、中電灯とか振り回しながら、何かだらだらーっと、敵を探すセレアの姿がある。
「日本の食品サンプルって本当無駄に良くできてるの多いわよね……。でも、店によっては見本のほうが美味しそうだったりするのは何とかならないのかしらー」
 とかいうのを長身のユーキが、のそーとか見ていて、表情は全く変わらないのだけれど、というか、基本眼孔鋭いのでむすっとしてるよーに見えるのだけれど、とにかく、無表情に見ていて、でも段々、わりと何か苛々してきたらしく、
「類似の鉢に片っ端から遠距離攻撃を撃ち込んでいっては駄目しょうか」
 とか何か、言った。
「え?」
「まあ、確かにちょっとやり方は野蛮というか、罪もない他の食品サンプルを巻き込むのはアレですが」
 って言った長身の顔を暫く何か、じーとか見上げて、セレアは唐突に、くる、と積み上げられた食品サンプルの方へと向き直った。
 そしていきなり、魔曲・四重奏を発動する。
 とか、めちゃくちゃライトな感じで繰り出したにしては、ブワッ、と放出したド派手な四色の魔光の量はかなり本気で、商品サンプル達にバンバン、激しく、ぶつかる。ぶつかる。ぶつかる。
 果てに、何てことすんのよー! ガッシャーン。みたいに、E・ゴーレムラーメン達がわさわさ、と瓦礫の山から立ち上がって来た。
「はい、ゆーどー完了ー」
 って言ってるセレアの隣で、立ち上がった一匹が、長身のユーキをムンとか見上げて。
 目が合った瞬間、どうよ! みたいに何か、ちょっとイキった感じで、食品サンプルラーメンは、どーんと仁王立ち。
「いえ、鉢から手足が生えてるとかは別にどうでもいいですよ」
 じろ、と見下ろし、冷たーく言ったユーキは、次の瞬間にはダウンロードしたバスタードソードでその脚を薙ぎ払い、ずってーんってなったそこ目掛け、スケフィントンの娘を発動する。
「食品サンプルがE・ゴーレム化ですか。食べて貰えない事の怨みですかね。でも、怨んだって仕方無い事もあるんですよ」
 彼女の放出した漆黒の霧が、ラーメンの周りをゆらゆら漂い、次第に渦を巻き、その体を包み込んで行く。張り付くように、粘り気のある黒い霧は濃度を増して行く。
「あらゆる苦痛の黒い箱の中。それが貴方の怨みの代償です」

 とかいうそこから少し離れた所では、突然の敵の出現に、わたたたーってなってる麻衣が、必死にグリモアールのページをめくりつつ、「マジックアロー、マジックアロー」とか何か必死に呟いていて、でも目的のページが見つからないのか、むしろ焦り過ぎて通り越してしまったのか、また戻りつつ、まためくりつつ、ページガンガン繰ってて、とにかく、完全に、隙だらけだった。
 なのでもちろんラーメンはそこを攻撃しよーとしたのだけれど、「と、いうのを待ってました」とばかりに、リミットオフを発動した桐が、巨大な剣「まんぼう君」と共に突っ込んで来て、突っ込んで来たと思ったらもー、疾風居合い斬り! って、まんぼう君から、するどい真空刃が飛び出している。
 ズサアアっと地面を滑ってくる真空刃を、寸での所でかわしたラーメンは、反撃! とばかりに、びよーんと麺を伸ばして、桐の体をしっかりキャッチ!
 やったぜ、とったぜー! って絶対思ってそうなラーメンを、ふーんみたいに見つめた桐は、とりあえずまんぼう君をAFへと収納。
 した次の瞬間、くわっと目を剥き、ギガクラッシュを発動した。
 華奢な彼の体から、激しい雷気が発散する。一瞬、うわ、って相手の気が緩んだ隙に、自らの腕が斬られるのも構わず麺と身体の間にまんぼう君を再度ダウンロードして拘束をぶった斬り、ぶった斬ったかと思うともう走り出していて、電撃を纏う致命的な一撃を、敵の中へと叩き込む。
 どーん!
「た、たたた、助かりました、ありがとうございます!」
 魔術書片手にぱたぱた、と駆けよって来た麻衣は、無表情に血を滴らせている桐の腕をとり、天使の息を発動した。
 その手が震えているのは、敵の奇襲を受けたから、というよりは、桐の破天荒な戦い方がちょっと怖かったからなのだったけれど、そんな事は口が裂けても言えない。

 一方その頃、まおは、絡まっていた。
 というか、まおの出したギャロッププレの気糸と、ラーメンの繰り出す麺の攻撃とが、何かもう、ある意味息がぴったりなのか、やたら絡まって絡まって絡まって絡まって、どんどん絡まって、もう絡まっていた。
「うわわわ、糸と麺がとっても絡まってますよ」
 とか、嬉しがってるのか慌ててるのか、良く分からない声で言ったまおは、でもまだまだ、そっちからくるならこうだします、こうしてくるなら、こう返しますって完全に何かあやとりの要領で、絡まってる奴はどんどん芸術作品みたいになりつつあって、でも、段々収拾がつかないことになりつつあった。
「これいつ終わらせたらいいですかまお。段々心配になってきましたよ」
 とかいうそこへ、すかさず飛び込んできたのは天乃で、クローの爪で麺なのか気糸なのか良く分からない固まりをばっさばっさぶった斬りつつ敵へと近づいていくと、
「……爆ぜろ」
 ハイアンドロウを発動した。
 ぴょん、と軽やかに彼女が後方へと飛ぶ。
 瞬間、彼女の植えつけた死の爆弾が破裂し、敵の身体が粉々に弾け飛ぶ。
 で、その破片が雨のように降り注ぐ中を、ささささ、とか移動しているのは詩人で、彼はアザーバイドがいると思しき階段を目指し、とにかくそこだけを目指し、戦闘にも参加せず移動していたのだけれど、どういうわけか、ふくろはぎの所から血を流していて、つまりは怪我していて、一体何をどうしたら戦闘せずにそんな所を怪我出来るのかとか、後ろから見てた都斗でも、全然全く分からなかった。
「っていうか、戦闘に全く参加してないのにダメージ受けてるとか、何でなの」
 あんまりにも分からないので、思わず、呟く。
「いやあ。移動してたら何か当たっちゃったんですね、きっとね」
 ははは、って、何が嬉しいのか分からないけれど、彼はとにかく、嬉しそうだった。
「もしかしてドM……」
「え?」
「いやうん。じゃあ、ボクがちゃんと癒してあげるから。安心して」
「あ、本当? 安心しますありがとう!」
 って油断し切った表情で言った顔が何か、ちょっと苛っとしたので、間違って攻撃してしまってやろーかしら、とか一瞬腹黒く思ったのだけれど、もちろん実際にはそんなことはせず、都斗は、ちゃんとその傷を、癒してあげることにした。




「とにかくあいつらはわたしらの飯を食わなかったアルよ! だから、相手にしたくなくて、隠れてたアルよ!」
 とか、天井裏から出て来たアザーバイドは、やたら早口な感じで言いながら、とにかくそこら中にある料理に赤い粉を振りまくっていた。
 それを詩人がきらきらした瞳で見つめ、というかむしろ、きらきらとした瞳かつ満面の笑みを浮かべながら見つめ、だんだん鼻息を荒くし、何かわかんないけど、ハアハア喘ぎ出し、ぷりーず、ぷりーず、このショートケーキをもっと赤くしてぷりーず。とか何か、震える声で歌い出し、多分何か食べる前から壊れていた。
 とかいうのを、うわーみたいにセレアが眺めていると、どん、と目の前に何かが置かれた。
 ハッこれはE・ゴーレム!
 ではなくて、そこらに落ちていた食品サンプルのようだ。
「え?」
 と顔を上げた先には、桐の無表情。
「はい、どうぞ」
「え?」
「まあ、本当にお召し上がりになられるんですか! 頑張って下さいませ! セレアちゃん!」
「うん石動さん、食べないから」
 とか言ってたら、ふーん、みたいに見下ろしてくる桐が、徐に何か、調理器具やら調味料やらを無言で取り出し、何かを作り始めた。
 暫くして、明らかに辛そうな、というか、いや絶対これ下手したら死にますよね? みたいな麻婆豆腐が、置かれた。
「では、こちらを、どうぞ」
「うんいや、では、で、どうしてこういうことになるのか全く」
「大丈夫です、ありえないぐらいハバネロが入っています」
「いや大丈夫の使い方がおかしいよね?」
「少なくとも、食べ物ですから」
 って言ってる傍からオジサンが寄って来て、ただでさえ辛そうな麻婆豆腐に、激辛の赤い粉をぱーらぱら。
「どうもありがとうございます」
 丁寧に一礼した桐が、ぱくっと一口。驚く事にその表情は変わらない。「ええ、美味しいですね」
「いや絶対嘘だ!」
「食べてみればいいですよ。美味しいですし」
「じゃあ……」
 って口に入れた。
 瞬間。
 痛い。どころの騒ぎではなく、何かもう、何も言えないッ!
 って、どーんと、ひっくり返った。それから、泣きだした。
「嘘つき、嘘つき、嘘つきーっ!」
「いえ本当、美味しいですよ。もしかしたら私がそれなりに辛味には強い方だからかもしれないですけど」
 って、それなりに辛味に強いとかそういう次元の問題ではなかった。
 その証拠に見ろ。
「ふおおおおお!!!」
 とか、ショートケーキのクリームを口の端につけた詩人が、「ただの味覚だけでこの身を焼きつくされるこの感覚……! これが私の求めていた衝撃っ。あふッ」って完全にトリップしておかしくなっちゃっているし、あっちでは天乃が、すっごい量の汗を垂らしながらでも無表情に日の丸弁当を食べてるし、こっちでは都斗が。
「あは、あはは……美味しいね。辛いの美味しいね。本当に美味しい……涙と鼻水が出るくらい」
 とか、凄い爽やかに泣きながら、コンビニで買ってきたらしいざるそばを食べているし、まおに至っては。
 まおに至っては……あれ? 普通だ。
 元は白かったであろう白い飯を真っ赤に染めながら、けれど無言でばくばく食ってる。
 大丈夫な人も居るんだな。とセレアは思った。
 瞬間、白目をむいてまおが倒れた。
「でもアザーバイト様の喜ぶところが見たいのでまおは食べ続けなければたとえお口も燃えてしまってもごちそうさまって言えないだからまおは止まれないというかあああついのが体の中でドクドクでもう考えることもピリピリでだめですとまってはだめですとまらないやめちゃだめですやめめめ」
「いやいやあかんあかんあかん! もうやめていいですよ! まおさん、しっかりして!」

「と、いうわけで」
 異常な汗を滴らせながら、天乃がのそーと立ち上がり、アザーバイドに言った。
「残念、だけど…この世界は強く、ない。このまま、貴方達が留まれば、それだけで壊れてしまうほど、脆い。そうなればこの…素晴らしい、味達も消えて、しまう。どうか、帰ってはもらえない、かな?」
「はい、いろんな意味でお願いします」
 ユーキも仲間達を見つめながら、頭を下げる。

 そうしてアザーバイドは、リベリスタ達の頑張りで、わりと素直に帰って行ってくれた。
 それを見送ると、
「穴を壊すまでがお仕事です、という事で一つ」
 ユーキと麻衣は顔を見合わせると、しっかりとブレイクゲートでD・ホールを破壊しておくことにした。



■シナリオ結果■
成功
■あとがき■

そういうわけで。
結果は成功でございます。皆様ご苦労様でございました。

当シナリオにご参加頂いた皆様には、誠に感謝です。
また機会がありましたら、ご参加、お待ちしております。