●ブリーフィングルームにて 「銅像が走ってたの」 突如召集されたリベリスタたちを前に、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)はそう言い放った。 「えっと……意味がわからないんだけど……?」 いきなりの言葉に戸惑う一同。 勿論イヴに呼ばれたということは何かしら事件性のある未来が視えたということなのだろう。それにしても唐突な発言である。 「……ごめんなさい、言葉が足りなかったわ」 心なしか若干頬を染めたようにも見えるイヴは、こほんと咳払いをすると再び表情を無に戻してリベリスタ一同を見渡した。 「とある小学校にある、薪を背負った少年の銅像がエリューション化、その小学校の校庭を走り回っているのが視えたわ」 「何だかどっかで聞いたような話ね……」 イヴの言葉に思わず苦笑を零すリベリスタたち。 小学校というのはどの時代にも怪談話がつき物であるのは周知の事実。 しかしこう現実的に目の前に現れるとなると、何とも拍子抜けしてしまうものだ。 「でも、走ってるだけなの?」 リベリスタの一人がふと疑問を口にする。 エリューション化したと言っても即時対応が必要なものと比較的時間に余裕があるものとに分けられる。今回のは後者のようにも思えるが。 「今のままならまだ大丈夫。でも余り時間的に余裕があるわけではないわ。何故なら―――」 イヴはそこで言葉を止め、手元の端末を操作してモニターに映像を映し出す。 現れたのは二つの銅像。 一つは恐らく問題の薪を背負った少年の銅像。 もう一つは、やたらと筋骨隆々となり、至る所がピチピチにはち切れそうな姿の男が、薪を背負っている銅像。 「これは……?」 「少年の方が現在の銅像。隣にあるのが、約二週間後の銅像の姿。つまり」 「……成長、してる……?」 こくりと頷くイヴ。 「確かに害自体は他のエリューション化したものに比べて少ないかもしれないけど、これだけの速さで変化するとなると、フェーズ移行も早い可能性が高いの。だから余り余裕はないわ。まだ銅像が小さいうちに、仕留めて」 イヴの言葉にリベリスタたちは力強く頷きを返す。 同時に仲間たちともアイコンタクトで意志を確認すると、一同はブリーフィングルームを後に――― 「あ、あと一つ」 そこでイヴが思い出したように言葉を発する。 振り返る一同。 「この銅像、攻撃方法が少し変わってるの」 「変わって……?」 「えぇ。何故かこの銅像は蹴りを頻繁に使ってくるわ。そしてその蹴りを放つ際に必ずこう言うの―――キンジ・ローキック、って」 リベリスタたちがその場で若干のやる気をそがれたことは言うまでもない。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:鳴海 鏡一 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2011年04月21日(木)23:28 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●走る怪異 昼間は無邪気な小学生が走り回って遊んでいる校庭も、夜になれば何となく不気味さを醸し出すようになる。 実際は特に何も変わっていないはずなのに。 しかし今回だけはその不気味さは全く異質なものとして目の前に広がっていた。 そう、校庭を縦横無尽に走り回る一体の銅像によって。 「おうおう、走っておるのぅ♪」 にやりと笑みを浮かべて目の前に広がる光景を見つめるのはレイライン・エレアニック(BNE002137)。 麗しき見た目とは裏腹に老成された口調は、見るものに年齢を錯覚させるに十分なものである。 「昔学校に通っていた頃はそんな怪談のような話には加わることもできなんだのぅ……」 「そ、そんなのに加わらなくてもいいよぅ!」 昔は、としみじみ愚痴を零すレイラインに『蜥蜴の嫁』アナスタシア・カシミィル(BNE000102)は涙目で否定の意を示す。 「何故じゃ!? 今わらわたちは物語の登場人物になっておるのじゃぞ!」 「どうせならもっと可愛い物語が良かったよぅ……」 力一杯力説するレイラインの言葉は、アナスタシアには届かないようだ。 「うぅ、走る銅像なんて生きてる内に見るコトになるとは思ってなかったよぅ……普通にコワい!」 走る銅像にチラリと視線を送ってはガタガタと震えるアナスタシアの肩を、『捜翼の蜥蜴』司馬 鷲祐(BNE000288)は優しくぽんぽんと叩く。 「大丈夫だ……俺がついている」 「はふあっ!? こ、怖がってなんかないからねぃ!?」 「ん……」 明らかに強がっている自分の想い人に柔らかな笑みを送った鷲祐は、再び校庭の方へと視線を送る。 「学校の怪談……と言うには、妙に脱力するな……」 鷲祐の言葉にセシル・カーシュ(BNE000431)が静かに頷く。 「確かに拍子抜けだな。しかしアレが怪談ということは、此処ではこういうのはよくあることなのか?」 「よくあるかどうかはともかく、よく耳にするのは確かですわね」 セシルの問いに肩を竦めて答えたのは、うさ耳にメイド姿という見る人が見れば発狂して喜びそうな出で立ちの『アリスを護る白騎士』ミルフィ・リア・ラヴィット(BNE000132)。 ミルフィの言葉に「そうか」と短く答えたセシルは、小さい嘆息の後に再び視線を校庭へ。 「まぁどちらにせよエリューションならば倒す事に変わりはないが」 「そうですわね。ただでさえ気持ち悪いのにその上成長してマッチョになるなんて、余り見たくありませんわね」 どうやら走り回るマッチョ銅像はミルフィの美意識には反するようだ。 「成長するならこのまま見守ってたらお爺さんになるんじゃないかなー。そんな気がするなー」 『刃走り』功刀・六花(BNE001498)がのほほんと言う。 それを言っては、とセシルは内心で突っ込んだが、言葉には出さずにただ若干の苦笑を浮かべただけにとどめた。 その隣には座り込んだまま走る銅像に視線を送る一つの黒い影――『雷帝』アッシュ・ザ・ライトニング(BNE001789)。 「しっかしあいつは走る以外に能がねぇのかよ」 「キック、ある」 詰まらないと言わんばかりのアッシュに、『インフィ二ティビート』桔梗・エルム・十文字(BNE001542)がこくりと頷いて言った。 「そりゃ能じゃねぇだろ……」 溜息交じりのアッシュにかくりと首を傾げる桔梗。 「……格好、良いよ?」 「いやそうじゃなくてよ……まぁいいや」 言いながらアッシュは勢いをつけてその身を起こし、コキコキと関節を鳴らす。 「面倒くせぇからちゃっちゃと終わらせようぜ」 その言葉がそのまま作戦開始の合図となった。 ●走り比べ 最早何周など数える事すら出来ぬほどの校庭、数え切れない歩数のうちの一歩を銅像が踏みしめたその瞬間、黒い一陣の風が銅像の隣を駆け抜けた。 思わず顔を上げた銅像の前には、やる気のなさそうな顔で耳をほじるアッシュの姿。 「何だ、ここがてめぇのホームじゃねぇのか。同じトラックを飽きもせず死ぬほど回ってる割には……」 一旦言葉を切ったアッシュは、自分の知る限りで最も嫌味を込めた嘲笑を浮かべる。 「はっ、遅ぇな」 ギギッ、と不気味な音を立てる銅像。 「何だ? 怒るってことは図星か? かははっ、そーかそーか、それがてめぇの限界ってわけか!」 言いながら大きな笑い声を上げたアッシュは、その身をくるりと翻して自身の狐尻尾をふらりと振ると、肩越しに失望の眼差しを銅像にぶつけた。 「……つまんねぇ」 ギシギシギシッ! まるでそれが咆哮だと言わんばかりの音を上げた銅像。 次の瞬間にはその硬い脚で地を蹴り上げ、アッシュ向かって猛ダッシュをしていた。 「かははっ! そうじゃなくちゃなぁ!」 体当たりを避けながら嬉しそうに叫ぶアッシュ。 今回皆で考えた作戦は、レイライン・アナスタシア・アッシュの三人が銅像の気を引いて、その隙に他のメンバーが罠を仕掛けるというものだった。 そのために三人は銅像の前に姿を現したのだが―― 「何というか……悪童という言葉がこれ程似合うヤツもおらんじゃろうて」 「あたしには真似できないよぅ……」 時折「悔しかったら俺様に追いついてみなっ!」という罵声と共に銅像と戯れるアッシュを身ながら、レイラインとアナスタシアは思わず苦笑を浮かべた。 「あぁもスラスラと罵倒の言葉が出てくるとは……最近の若いモンはまったく」 「で、でもこれは作戦ですし、実際に銅像さんも引っ掛かってくれたよぅ?」 何だか急に愚痴りだしたレイライン。アナスタシアは思わずフォローを入れてみるが。 「あれは絶対地じゃ! わらわが少女じゃった頃は男はもっとこう寡黙で硬派なもんじゃった。それが何じゃ、気が付けば公衆の面前でいちゃいちゃする男までおるではないか!」 「はふん!?」 完全にとばっちりではあるがレイラインの目には、アナスタシアと鷲祐の姿が昔と比べるきっかけになってしまったのだろう。 「だいたい若返ったわらわの魅力に誰も気付かんとは、最近の男の目は一体どうなって――」 完全に昔話モードに入りだしたレイライン。これ以上は自分には荷が重いと悟ったアナスタシアは、思わず手元に転がっていた石を銅像目掛けて投げつけた。 苦し紛れの行動ではあったが、石は見事に命中、カコンと乾いた音をたてた。 ピタリと動きを止める銅像。 次の瞬間にはギギッと音を立ててアナスタシアの方へと顔を向けると、その身をくるりと反転させた。 「はふん!? ここここっち来たぁっ!!」 「――なのじゃ。そう、わらわの今の美貌を持ってすれば出来ぬことなど……って何でこっちに来とるのじゃ!? 慌てて逃げ出すアナスタシア。 一人延々と愚痴り続けていたレイラインも、いつの間にか向かってきた銅像を見て慌ててその場を後にする。 二人を目掛けて走ってきた銅像は、その片脚を大きく後ろに反らすと、ブンという風切音と共に薙ぎ払う。 間一髪脚をかわす二人。 同時に二人が元いた場所が大きくえぐれる。 どうやら威力だけはあるようだ。 蹴りの際に微かに、「キンジローキック」と聞こえたような聞こえなかったような気もしたが、余りに些細な問題すぎて二人の記憶からはあっさりと消え去った。 「はふぁっ! 蹴り方が気持ち悪いんだよぅ!」 「危ないのぅ!? 乙女の柔肌に傷がついたらどーするんじゃ!」 ぎゃぎゃと騒ぎながら何だかんだと銅像の気を引くアナスタシアと、それに巻き込まれつつ逃げるレイライン。 勿論二人は特に考えなしに逃げているため、大事なところはアッシュがまた罵声を浴びせて銅像の軌道修正をする。 不思議と個性が機能した瞬間であった。 ●穴掘り隊 三人が銅像の気を引いて校庭から離れたその頃、残りのメンバーがスコップを片手に校庭に穴を掘っていた。 作戦上ではこの落とし穴が銅像の動きを止める要となる。 そのため一行はより気合を入れて穴を掘っていた。そう、本来の計画以上に張り切って。 「ふぅ、こんなもんかなー」 校庭のど真ん中で息を吐いた六花が見下ろす先には、落ちた時点で見るからに簡単に上がれなさそうな深さの穴がぽっかりと口を開けていた。 その深さは夜の暗さも手伝って一瞬底なしかと思うほどである。勿論そんなに深くはないが。 「深すぎじゃないか……?」 穴を見た鷲祐が若干唖然としながら言う。 「そうか? 落とし穴の基本は狭く深くだと思ったんだが……それに俺らのよりもう一つ深いのがそこに」 答えたセシルの視線の先には、スコップ片手にブイサインをする桔梗の姿。 桔梗はセシルと六花の掘った穴のすぐ傍に、更に深い穴を掘っていた。 本人曰く、罠の基本は二段構えだから相手が逃げた先に更に罠が必要、ということだ。 その考えは鷲祐も同じだった。それが故に鷲祐も穴の横にもう一つ穴を掘っていたりしたのだ。 ただし鷲祐の穴は広く浅く、ではあったが。 「そちらこそ、数掘りすぎじゃないか?」 苦笑交じりに言うセシルに、鷲祐はふと後ろを振り返る。 そこには本当に縦横無尽に広がる落とし穴の数々。 「これだけ掘っておけば、どれか一つに落っこちるでしょう。下手な鉄砲も数撃ちゃ当たりますわ♪」 言いながらにこりと笑みを浮かべるミルフィ。 校庭の至る所に落とし穴がある、しかもその深さはわからない。 そんな危険な場所に変わり果てた校庭を見ながら、鷲祐はふと疑問に思う。 「囮してくれてる三人には事前に落とし穴の場所は伝えてあったよな?」 「大丈夫ー、教えてるよー。増やしてなければー」 鷲祐の疑問に六花が手をひらひらと振りながら答える。 と、そこで桔梗がかくりと首を傾げた。 「……増やしたら、ダメ、だった?」 桔梗の言葉に一行の背中をひやりとした汗が流れた。 と、そこに校庭から離れていた囮組の三人が、銅像を伴って校庭の傍を駆け抜けていく。 三人は合図はまだかとチラチラとこちらに視線を送ってきているようだ。 「……ま、何とかなるだろ」 この時のセシルの呟きに反論できる人は、この場には誰もいなかった―― ●いざ決着 銅像と共に無駄なデッドヒートを繰り広げていた三人の下に、罠を仕掛け終えた仲間から準備完了の連絡が入る。 後は銅像を罠に誘き寄せるだけ――誰ともなしに目配せをかわした三人は一様に頷く。 「おらおら、足りねえ足りっねェ、全っぜん駄目だァ! そんな程度でこの俺様と競えると思ってンのか!?」 相変わらずの罵声で銅像の気を引くアッシュ。 既に銅像もアッシュのことを完全に敵とみなしているようで、すぐさまアッシュ目掛けて猛ダッシュをかける。 しかし勿論それは計算済み。 アッシュは目的の場所を瞬時に視認すると、そこを目指して一気に加速をかける。 目的地のすぐ近くにはアナスタシアと鷲祐の姿。 アッシュはちらりと二人に視線を送ると、そのまま二人の前を駆け抜け、こんもりと土が盛られた場所を目印に思い切り跳躍。 聞いていた落とし穴を華麗に飛び越え、反対側に着地。すぐさま反転するために地を蹴ろうとして――地面がないことに気付いた。 「は?」 思わず出た間抜けな声と共に、アッシュは一行の前から姿を消した 一方の銅像、アッシュの跳躍を見て何かを感じ取ったのか、その場で慌てて踏みとどまろうと脚に目一杯の力を込める。 しかし勿論それを許すはずもなく。 すぐ傍で待機していた鷲祐とアナスタシアがその身を躍らせ、銅像の背後に回りこむ。 「アナスタシア……っ!」 「う、うぅ。やっぱりコワいから、早く視界から消えてー!」 掛け声と共に二人の蹴りが銅像に炸裂。 たたらを踏んだ銅像は、何歩か進んだ後に見事に穴に落下。 同時に残った面々がここぞとばかりに躍り出る。 穴に落ちて身動きの取れない銅像は、後はもうやられるがままであった。 まるで某童話に出てくる亀と子供たちが如く蹴り飛ばされていく銅像。 「これは……アレか、いわゆるリン――」 「いやですわ、集団攻撃ですわよ♪」 「言い方変えただけのよーな気がするなー」 「こ、怖がらせてくれたお礼なんだよぅ!」 「蜥蜴脚も結構痛いぞ」 「……見上げても、無駄。見えない」 「最近の若いモンはそんなものをスカートの下に履いておるのか!」 「おい! 俺様は聞いてないぞ!?」 それぞれが思い思いの言葉を吐き出しながら攻撃を繰り出していく。 リベリスタの集中攻撃に、たかが銅像のエリューション一匹が耐えれるはずもなく、その姿はあっという間にボロボロになっていき―― 「てめぇのせいでヒデェ目にあったぜ……覚悟は出来てンだろぉなァ!?」 どこからともなく――いや正確には皆わかっているのだがそこはあえて彼の名誉のために伏せておこう――現れたアッシュ、持てる限りの脚力を込めて加速、勢いのままに跳躍。そのまま銅像に焦点をあわせると一気に降下を開始。 「宣・告・死・刑! ライトニング・ジャッジメントオォォォォ!」 怒号の数瞬後、爆砕音が夜の校庭に響き渡った。 ●終始末 銅像を見事破壊した一行は、その足で校庭の後片付けに入っていた。 確実に仕留めるためとはいえ、かなりの数の穴を掘ってしまっていたため、それを埋めない限りは第二第三のア――いや、犠牲者が出ると考えたのだ。 「しかし随分とまた掘ったもんじゃのぅ」 「言われて見れば、少しやりすぎたかもしれませんねー」 苦笑を浮かべながら土を戻すレイラインの言葉に、思わず苦笑する六花。 急ピッチの作業だったとはいえ掘った穴の数が多かったために戻すのにはそれなりに時間がかかり、気が付けばぼんやりと空が明るくなり始めていた。 「はふん……もう朝だねぃ」 「疲れたなら少し休むか……?」 溜息を吐いたアナスタシアに、鷲祐が優しく声をかける。 彼女は一瞬考える素振りをみせた後、「少しだけ」と微笑んで鷲祐の肩に頭を乗せた。 その横ではぐったりとした様子で自分の掘った穴を埋める桔梗の姿。 「辛い……深く、掘り過ぎた……はっ!? 罠はその解除にこそ労力を要するって、こういう意味だったんだ、うん」 「いえ、それはきっと違うと思いますわよ……」 一人納得する桔梗に、ミルフィはぼそりと突っ込みを入れた。 何にせよ予想以上にこの罠の後始末のほうが体力を持っていかれたようである。 皆から少し離れたところ、そこで同じように穴を埋める一つの影。 「ったく、何で俺様がこんな目に……」 ブツブツと文句を零しながら作業をするその影は勿論アッシュ。 彼の身に一体何があったのか、それはこの事件に関わった皆が以後あえて口にする事はなかったが、帰還した面々が皆胸に抱く一つの想いがあった。 気合は適度にいれよう。空回りしないよーに。 ~Fin~ |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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