●司書降臨 「どういうことだ……これは」 と、男は呻く。 窓から月明かりの差し込む、閉館後の図書館。静寂の中、聞こえるのは男の漏らした小さな声だけ。声を押さえて話すのは、図書館でのマナーである。 男の目の前には、大量の本。古い物から新しい物まで、種類年代を問わず並べられた本の山。 男の名は(ビブリア)と言う。 黒い燕尾服に、モノクル、灰色の髪。年齢は30前後といった風体。白い手袋の嵌められた手で、恐る恐る、本棚から一冊の本を抜きだした。 どうやら、古いファンタジー小説のようだ。勇者と魔王の出てくる、そんな本。 パラパラとページをめくりながら、男は目を見開く。 「これは……。どうして? こんな貴重な本ばかりが揃っているのか……。ここは宝物庫か何かなのか? どういうことだ?」 ビブリアは、この世界の住人ではなかった。ただ偶然、この世界に迷い込んだだけの意世界人。所謂、アザ―バイドと呼ばれる存在だ。 彼のいた世界は本で溢れていた。本が何よりも価値を持つ、そんな世界。 そんな世界で、特に貴重と言われているものがある。 それは、遥か昔、どこか別の世界から持ち込まれたと言われる本だった。 ビブリアのいた世界の人間は、皆が司書を目指し、本を読み、本の勉強をする。それは、その貴重な本を読む為だ。限られた数の一級司書のみが、その本を読むことを許される。 しかし、どうだろう。 ビブリアが迷い込んだこの世界には、その貴重な本が山のようにあるのだ。 宝の山、というやつである。 「これは、守らねばならぬ。国宝級だ……。私が、司書である私が守らねば」 と、うわ言のように男は呟いた。 そして、ビブリアは図書館中から数冊の本を選び出した。 それらを、この図書館を守る為の護衛とする為に。 「さぁ、この場の書を司るのは私だ。本よ、私に従え……」 選び出された本は5冊。 魔王の出てくるファンタジー小説。 音楽家の伝記。 恐竜の図鑑。 未知の生物を題材にしたホラー小説。 勇敢な勇者が主人公の絵本。 「本は力なり……」 ●騒乱図書館。 「大きな公園の最奥にある、大きな図書館。そこに開いたディメンションホールから現れたアザ―バイドが、早速問題を起こした模様」 面倒な事、と『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)が小さく漏らす。 「アザ―バイド(ビブリア)は、本に宿っている想いをE・フォースにする力を持っている模様。彼自身に戦闘能力はないと思われるけど……」 と、モニターに神経質そうな男の顔が映し出される。 彼が、今回の事件を起こしたビブリアだろう。 「ビブリアは、E・フォース(魔王)と共に図書館正面に陣取っている」 E・フォース(魔王)と呼ばれたE・フォースは黒い霧のような身体と紅い目をした巨体で、図書館の入口を塞いでいる。口からは火を、左右の腕には雷と氷を纏っていた。 「それから、公園内には4体のE・フォースが放たれているわ」 まず映しだされたのは、公園中央にある噴水だった。噴水の前に白い髪の男がタクトを手に、ぼーっと立っている。身体が半透明なのは、男が人間ではないからだろう。 男の背後にある噴水では、水の中を無数の紫の触手が蠢いていた。 「E・フォース(音楽家)とE・フォース(ホラー)。歌でこちらの行動を妨げる音楽家と、遠距離攻撃を得意とするホラはこの場に留まって、動かない」 次に映しだされたのは、公園内にある芝生エリアだ。エリア内を、2体の恐竜が歩き回っている。大きな顎と長い尾、鋭い爪の肉食恐竜。 「E・ビーストのようだけど、E・フォース。一時的に姿を消す能力を備えているみたい」 芝生エリアが気に入っているみたいだから、基本的にこの場所から出ようとはしない、とイヴは言う。恐竜は見るからに好戦的な顔をしていた。 「最後はE・フォース(勇者)。公園内を動き回っていて、いる場所は特定できない……。公園内で出会った人間に、問答無用で襲いかかってくるみたい」 こちらの事を、モンスターだとでも思っているのかも、と言う。 「司書自体は、5体のE・フォースを動かすので精一杯で何もできない。魔王がフェーズ2で残りは1。ビブリアを捕まえて、図書館内の事務室にあるディメンションホールから元の世界に返してきて」 それから、とイヴは注意点を述べる。 それは、ある意味最も面倒な注意点。 「夜が明けると、人通りが多くなる。そして、夜明けまであまり時間がないから、大急ぎで解決して欲しい。全員で1体ずつ相手にしていたら、間に合わないかも……」 できるだけ迅速に。 それが今回の最重要注意点。 「チームを分けた方が効率的かも」 そう言って、イヴはモニターを消した……。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:病み月 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年05月27日(日)00:08 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●真夜中の公園 朝の気配が近づいてくる。つい数刻前までは静まり返っていた公園に、虫の鳴き声が返ってくる。月は遠く、空はぼんやりと青みがかった色。朝の色だ。じきに日が昇る。そうすれば、月は消え、代わりに太陽が顔を出すだろう。 その頃になれば、この人気のない公園にも、人の気配が返ってくる筈だ。 この公園には、現在複数のE・フォースが徘徊している。何か問題が起こる前に、E・フォースを排除し、それを生み出したアザ―バイド(ビブリア)を元の世界に送還することが、今回の目的だ。 「時間が限られてるみてぇだからな。悠長にしてらんねぇわな」 公園内のどこかを徘徊するE・フォース(勇者)の捜索を切り上げ『断魔剣』御堂・霧也(BNE003822)が、興奮した面持ちでそう嘯いた。 事前準備として、彼ら園内の敵の場所を捜索していたのだ。しかし、唯一居場所を特定できていなかった勇者の姿は、結局見つけられなかった。 「まずは噴水広場ですね。急ぎましょう」 スーツ姿の男、文月 司(BNE003746)は暗視ゴーグルをつけて、視線を前へ。そこには、噴水の前で難しい顔をした白髪の男、E・フォース(音楽家)と、彼の背後に控える触手生物E・フォース(ホラー)の姿があった。 「アレも元は本なのでしょう? 本、ねぇ。わたしにはあまり縁がないものね……。ま、どうでもいいわ。幸い斬りごたえのある敵が多そうだし……」 楽しませてもらうわ、と弾かれたような勢いで走りだしたのは『深紅の眷狼』災原・闇紅(BNE003436)だ。小太刀の刃が怪しく光る。 『ぬ……』 災原の接近に気付いた音楽家が歌い出す。それに呼応するかのように、ホラーの触手が噴水から飛び出した。 「まるで子供達に聞かせる夢物語が現実になったかのようですね。とはいえ、これでは悪夢でしょうけど」 と、粘液を撒き散らす触手に眉をひそめて明神 暖之介(BNE003353)は、自身の影を具現化させ、その影と並んで、先行した災原を追っていく。 「巻き込まないように気をつけますが……。一応気を付けてくださいね」 音楽家の足元と、ホラーの触手の一部が突如出現した炎に包みこまれる。風見 七花(BNE003013)の放ったフレアバーストによるものだ。 しかし……。 「う、く……」 既に音楽家の歌によってスピードを激減させられていた災原は、ホラーの触手に絡め捕られ噴水に引き寄せられる。明神が気糸を伸ばし、触手を捕らえるが間に合わない。明神の身体ごと、触手は災原を引っ張っていく。 「ううん……。ビブリアさんは悪い人じゃないと思うんですけど」 放っておくわけにはいかないですし、と『勇者を目指す少女』真雁 光(BNE002532)が、災原の治療に当たる。災原の身体を淡い光が包みこみ、不調を癒す。 「まぁ、やることは一つ。ぶった斬りに行くよー、アンタレス!」 黒いハルバートを振り回し『世紀末ハルバードマスター』小崎・岬(BNE002119)が触手に飛びかかる。落下の勢いに任せて、地面ごと叩き斬る。 触手から解放された災原が飛び出した。隣に明神と御堂も並ぶ。 音楽家が、状態以上を引き起こす歌を歌おうと口を開くが、文月の援護射撃に阻まれ、上手く歌えない。血の代わりに、霧のようなものを吹きだしながら、音楽家が後退する。 「任務を開始する」 ホラーと音楽家の注意が他の者に向いている間に、音楽家に接近していた『T-34』ウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680)の武器が煌めいた。闇の中に、一筋の光の線を残し、音楽家を切り裂く。 『う……く』 半身を霧状にして、消えゆく音楽家。ウラジミールの攻撃が致命傷となったのだ。それでも、これで最後とばかりに声を張り上げ歌を歌う。 「う……。厄介ですね」 明神の動きが鈍る。唇を噛みしめ、影を伸ばした。影が音楽家を切り裂く。音楽家の姿が闇に溶けて消えた。 と、同時に明神目がけ触手が伸びる。 「こっちよ……」 素早い動きで、明神に駆け寄った災原の斬撃。触手を切り裂いた。緑の体液が飛び散る。それを浴びた災原の身体に激痛が走った。 「これは……毒?」 「下がりな。こっちは任せろ!」 御堂が斬馬刀を振り下ろす。闇を纏った一撃が、触手を切り刻んだ。残りの触手も、他の仲間達によって次々と打ち消されていく。 最後の一本が無くなった瞬間、ホラーは闇に溶けて消えた。 「よっしゃ!」 御堂が拳を握って、突き上げる。 『………』 そんな御堂に向かって、月明りを反射させながら何者かが駆け寄った。 大ぶりな剣を構え、それは御堂に斬りかかる。斬馬刀と剣がぶつかり火花が散った。謎の人影目がけ、文月が弾丸を放つ。 人影は後ろに跳び下がって、それを避けた。 白銀の鎧と、紅いマント、大ぶりな剣に、激情を秘めた瞳。 「勇者さんのお出ましだねー」 小崎が、頬に汗を浮かべそう呟いた。 ●激闘に次ぐ激闘 『………』 「おりゃ、っと!」 無言で斬りかかってくる勇者と、御堂が斬り結ぶ。その隙に、ウラジミール、真雁、小崎、文月の四人は芝生エリア向かって駆けていく。タイムリミットは夜明けまでだ。その為には、時間を無駄に使うわけにはいかない。 地面を蹴って、災原が飛び上がる。それを確認して御堂は後ろに下がった。勇者の視線が災原に注がれる。剣を構え、上空の災原目がけ斬りつける。 しかし……。 「残念。こっちはハズレね……」 斬られた筈の災原の姿が、掻き消える。残像だったようだ。相手の行動を先読みして、咄嗟に空中で身を捻って、勇者の死角に着地。背後からの斬撃で、勇者を弾く。 一度は地に伏した勇者だが、すぐに起きあがった。斬りつけられた傷が塞がっている。 無言で駆ける勇者。先ほどよりも素早いように感じる。剣を振り回し、災原に迫る。 「何時何処から襲撃を受けても対応できるよう、常に注意をしておかないと」 剣を振りかぶった体勢のまま、勇者の動きが止まる。いつの間にか、勇者の体中に気糸が巻きついていた。気糸の先には、明神の姿。風見による治療が終わり戦線に復帰したのだ。 「戦線復帰です」 と、風見が光弾を放つ。動きを止められた勇者は、それを避けることも叶わない。光弾が直撃し、勇者が地に伏せった。 『……』 体中に火傷を負いながらも、勇者は剣を杖に、立ち上がる。膝に力が入らないのか、細かく震えているのが見てとれる。それでも、勇者は倒れない。瞳に激情を燃やし、リベリスタ達を睨みつける。まるで自分達が悪役になったように錯覚する。 それはあながち間違いではないのだろう。勇者や音楽家、ホラーを生み出したビブリアにとって、彼らは自分を排除しに来た悪役だ。 ビブリアはビブリアで、自身の正義を実行しているだけなのである。その点において、ビブリアとリベリスタ達は同じと言える。 そんな彼らの脳裏に、公園へ来る前に真雁の言葉が過ぎる。 『本から作られた偽物には負けられないです』 と、彼女はそう言ったのだ。 「あたし達は生きてる、本物。アンタは本から作られた偽物よ」 それなりに楽しめたけど、と災原は小太刀を振るう。勇者は、素手で小太刀を受け止め、剣を手放した。空いた拳を災原の胴に叩き込む。弾き飛ばされる災原を受け止めたのは、風見だ。 勢いを殺しきれず、一緒に地面を転がっていく。 「しぶとい奴ですね」 入れ替わるように、明神が前へ。彼の影も追随する。宙を幾本もの気糸が走る。勇者を絡め、地面に倒した。そこに影が襲いかかる。しかし、勇者は剣を付き上げることで明神の影を消し去った。 勇者が立ち上がる。剣を振りかぶって、力を溜める。 勇者目がけ走り寄る御堂を迎え撃つためだ。横薙ぎに振るわれた斬馬刀と、縦に振り下ろされる剣が交差する。 武器を振りきった状態で、2人の動きが止まる。御堂の額から血が吹きだした。 そして……。 『……』 悔しそうに唇を噛みしめた勇者の姿が、闇の中に崩れて消えた。 「あ、っぶねぇ……」 荒い息を吐いて御堂がその場に座り込む。御堂の勝利を確認し、明神がAFをつかってウラジミールに連絡をとる。 「勇者は討伐しましたが、そちらはどうですか?」 ザザ、とノイズの後、ウラジミールの声が聞こえる。 「面倒なことになった。恐竜が身を隠したまま、出てこない。時間がない。先に図書館へ向かってくれ」 ウラジミールは、周囲に警戒を配りながらそう言った。ふと空を見上げると、先ほどよりも明るくなっているように感じる。 先制攻撃で、2匹いるうちの片方には深手を負わせることに成功したが、すぐに見失ってしまったのだ。姿を消す能力によるものである。 朝までもう時間が無い。 現在疲弊して動けないでいるらしいビブリアの体力が戻れば、新たなE・フォースを作られる可能性も高い。 「そうなる前に、なんとかせんとな」 口ひげを撫でながら、ウラジミールはそう呟いた。 その時、彼の足元を何かが駆け抜ける。腿の裏側に、激痛が走った。暗闇の中で目を凝らせば、芝生に小さな足跡が付いている。E・フォース(恐竜)のものだ。 「見つけたぞ! 足元に気をつけろ!」 「移動を封じます」 ウラジミールの指さした方向へ、文月が銃弾を放つ。恐竜にあたったのだろう、悲鳴のような鳴き声が響く。隠れていても無意味だと判断したのか、恐竜の姿が現れた。 「おっと、逃がさないのですよ!」 恐竜の前に、真雁が回りこんで道を塞いだ。剣を構え、降り下ろす。そんな真雁の背後から、姿の見えない何かが飛びかかって、真雁を地面に押し倒した。 「っ!?」 声にならない悲鳴を上げる真雁。背中を圧迫され、声が出せない。真雁の背中を押さえつける何者かを、ウラジミールの長い脚が蹴り飛ばした。 姿を現したのは、もう1体の恐竜だ。いくらか傷を負っている所をみると、先制攻撃でダメージを与えた方の恐竜だろう。 大口を空けて飛びかかってくる。その隙に、もう1体は姿を消そうとするが……。 「そうはさせないよー」 邪悪な見た目のハルバートを横に一閃。真空の刃が恐竜を切り裂いた。恐竜の出現に気付き、駆けよって来た小崎によるものだ。恐竜の首から血が噴き出す。しかし、動きは止まらない。爪を振りあげ、牙を剥き、恐竜は小崎に襲い掛かる。 攻撃直後の隙を突かれた小崎は、恐竜の攻撃を受けて地面を転がる。服が裂け、血が溢れた。しかし、恐竜もまら重症のようだ。フラフラとしている所に、文月の放った弾丸を受け、消え去った。小崎が肩を押さえ起きあがる。 「1体撃破―」 残りは1体。ウラジミールが腕を振り下ろした。恐竜の身体が地面に叩きつけられ、跳ねる上がる。すでに満身創痍。 「やれ、真雁!」 振り下ろされた真雁の剣が、恐竜の首をはねる。 「さぁ、図書館に向かうのですよ!」 魔王と戦うのは、勇者の使命だと言わんばかりの気迫。 一行は、急ぎ足で芝生広場を後にした。 ●決戦、魔王 『よくぞここまで辿り着いたな』 なんて、ゲームのラスボスみたいなことを口走ったのは、黒い霧の塊。E・フォース(魔王)であった。そんな魔王の傍では、異界の司書ビブリアが、地面に膝をついて荒い息を吐いている。 「貴様ら、なにをしにきた。なにが目的だ?」 意識が朦朧としているのか、半ば白目を剥きながらも、ビブリアが訊ねる。 「て、敵意があるわけではないのです。ただ、ここはあなたがいていい世界では、って……わっ」 悲鳴を上げたのは風見だった。彼女の足元に、魔王の吐き出した炎が迫る。咄嗟に回避するものの、完全には避け切れず足首に火傷を負う。 「魔王対勇者ってか……。俺はそんな柄じゃねえが」 今現在ここにはいない、勇者を目指す少女のことを思い出して、御堂が呟く。斬馬刀を構え、駆けだした。身に纏った黒いオーラを収束させ、魔王へと放つ。 更にそこへ、風見の放った光弾もそれに加わり、魔王へと襲いかかった。 魔王が腕を振りあげる。雷を纏い、闇の中で瞬いた。2人の放った技と、魔王の腕がぶつかり、大気を揺らす。空気が渦を巻き、吹き飛ばされそうだ。 風が暴れ、朽ち木や落ち葉が宙を舞う。その中を、災原と明神が駆け抜ける。御堂の影が地面を離れて起きあがった。 『ぬ? 妙な技を……』 「動きを止めさせてもらいます」 風を縫って、糸が走る。降り下ろした状態の、魔王の腕に巻きついた。魔王は力任せに腕を持ち上げた。氷の爪が伸び、明神を襲う。明神の影が、爪に貫かれ消えた。 「以外と早いわね」 災原の姿が二重にぶれる。地面に突き刺さった魔王の腕を駆け上がり、肩へ到達する。小太刀を一閃、魔王を斬りつけようとするが、それより先に、魔王の口から炎が溢れる。高速で放たれた斬撃が魔王の顔に傷を付ける。と、同時に炎の勢いに押され、災原が地面に落ちた。 魔王の腕が迫る。そんな災原の前に斬馬刀を構えた御堂が割り込んだ。雷を纏った腕を受け止める。その間に、火傷を負った災原を、風見が回収。庇うように明神が2人の前に立つ。 「おおらぁ!!」 斬馬刀を、力任せに叩きつける。魔王は腕で、それを受け止めた。 魔王の腕を斬りつけた斬馬刀と、腕の間で火花が弾け、雷がスパークする。暗闇を切り裂くような閃光。痛みわけ……では、終わらなかった。地面に膝を付く御堂と、肩腕を失った魔王。魔王の腕が霧になって消える。 宙を駆ける気糸が魔王の首へ伸びる。炎を吐いて、それを阻んだ。明神の身体が炎に包まれそうになる。後方に下がってそれを回避。 入れ違いに飛び出したのは、治療を終えたばかりの災原だ。彼女の進路を開くように放たれた、風見の光弾が、魔王の腕を弾く。氷の爪が地面に刺さった。小太刀を薙ぎ払うように振るう。多重に重なって見える斬撃が、魔王の首元を切り裂いた。 地面に着地した災原目がけ、雷を纏った腕が叩きつけられる。 「く……」 先のダメージが抜けていないのだろう。災原が地面に膝を付く。咄嗟に回避行動をとろうとするが、遅い。明神が助けようと気糸を伸ばすが間に合わない。 「すまない。遅くなった」 目を閉じた災原の耳に、落ち着いた男性の声が届く。 魔王の腕を受け止めたのは、軍服を着込んだ男性、ウラジミールだった。身体全体で腕を受け止め、災原を庇う。 「おせぇぞ」 と、御堂が憎まれ口を叩く。 魔王が腕を引く。それに合わせて、駆ける影が一つ。茶色い髪を振り乱し、黒いハルバードを肩に担いだ少女の姿。 「こんだけ大きければ、痺れてようが当ててみせるぜ―」 雷を纏った腕に恐れを抱くこともなく、小崎はハルバードを振りあげ、重力に引かれるまま、勢いをつけて魔王に向かって叩きこんだ。 『ぬうぅぅう!!』 魔王の唸り声。小崎の攻撃によって、大きく仰け反る。無防備になった頭部へ弾丸が撃ち込まれた。放ったのは文月だ。残った方手で弾を弾く。魔王が炎を吐きだした。炎はうねる様に地面を這って、文月を包み込む。 「うあぁああ!?」 悲鳴が上がる。炎に巻かれた文月が地面に倒れこんだ。魔王が笑う。赤い舌が、牙の間から覗いた。 しかし……。 「そろそろ終わりにしましょうよ」 明神の伸ばした気糸が巻きつき、腕を拘束する。方腕は失った。もう方腕は拘束された。口を開き、炎を吐きだそうとするが……。 「やっぱり魔王にトドメを刺すのは勇者の必殺技じゃなきゃですよ!」 アクロバティックな動作と共に、剣を担いだ真雁が駆ける。地面を蹴って、飛び上がる。空中で数回転の後、剣を大上段に振りかぶって、重力に逆らわず落下。ガラ空きになった魔王の頭部へ、気合いと想いを込めて、一撃必殺の剣技を放つ。 「はぁぁぁぁぁぁぁぁあっ!!」 気合い一閃。魔王の頭部から胴までを真っ二つに切り裂いた。声にならない悲鳴を上げて、魔王の姿は溶けて消える。 真王の消えた図書館前には、満身創痍のリベリスタ達と、茫然自失としているビブリアだけが取り残された……。 ●司書、送還 「ここはあなたの世界じゃないんですよ。早急にお帰りください」 「…………すまない。惜しいが、そういうことなら仕方ない。迷惑をかけたな」 申しわけなさそうにそう言って、ビブリアは頭を下げる。風見による事情の説明とお説教により、ビブリアはある程度この世界のことを理解したらしい。 そんなビブリアに、風見と真雁からそれぞれの私物の本が手渡される。それを受け取って、ビブリアの顔に笑みが広がった。 「これも持っていくといい。閣下の著書だ。ここにはちゃんと管理人がいる。君が心配する必要はない」 それだけ言い残し、ウラジミールは踵を返す。 明神、文月、小崎もそれぞれビブリアに別れを告げる。ビブリアは、名残惜しそうにディメンションホールの中へと消えていった。 図書館を守るために暴走した司書は、こうしてこの世界を去っていったのだ。 散々暴れ回った割には、あっさりした別れである。数体のE・フォースを発生させたことで、大分消耗していたというのもある。 「んじゃ、消すぜ」 と、御堂がゲート破壊する。それを見届け、災原が気だるそうに手を振った。 「お疲れ様、後は適当に解散でいいわよね?」 ふらふらした足取りで、災原は図書館を出ていく。 これにて、一件落着。図書館に朝日が差し込む。夜が明けたのだ。 朝の空気を体いっぱいに感じながら、リベリスタ達は図書館を後にする……。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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