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もう一度、風を切って


 車と言うのは道路を走るものだ。
 アスファルトで舗装された道を颯爽と進む。
 勿論、土の地面だって良い。時には芝生の時もあるだろう。
 なのに俺達が今いるのは森の中、山道から少し外れた木々の間の小さな広場。
 タイヤに草木が絡み、フレームには錆が浮いている。周りに居る仲間達もそうだ。
 もう何年もこの場所にいるからだ。
 もう随分前にこの場所で、棄てられたのだから。
 分かっている。理解も出来る。もう随分と使われた末だ。
 納得だって出来る――したくはないが、することはできる。
 だが。それでも。
 諦める事だけはできない。
 もっと、もっとだ。
 もっと走りたい。まだ走りたい。
 あのハイウェイを、住宅街の間の細い道を、国道を、林道を、小路を。
 全ての道を自由に走り抜けたい。

 ――走りたい。
 いや、まだ走れる!
 そうだ、俺達はまだやれる。
 まだ走れる。まだ走れるんだ!
 諦めるものか。
 もう一度、ただもう一度、風を切って進むあの感触を。
 もう一度走るんだ。

 さあ――立ち上がろう。


「そして彼らは立ち上がってしまった。このまま放って置けば近隣の道路を走りはじめる」
 そうなってしまっては神秘の秘匿も何もあったものではない。だから、止めて来て。
 ブリーフィングの中、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)の淡々とした口調が、今回の依頼の目的と理由を不可分無くリベリスタ達に伝える。
「場所はとある郊外の山道脇の広場。
 かつてはちょっとした公園があったようだけど、閉鎖されて随分になる――古くなった車の、不法投棄の場所として目をつけられたみたい。そこには今、4台の車がある」
 そのうち3台がE・ゴーレム化した。もうすぐ残りの一台も革醒するだろう。
「仲間意識があるのかな。最後の1台が革醒するまでその場から動こうとはしない。
 ――もしかしたら、最初の1台の革醒からずっと、この日を待ってたのかも」
 だから4台が揃うまではE・ゴーレム達に逃亡の危険は無い
 逆に言えば、4台揃ってしまえば逃げられてしまう危険は高い。
 一度逃してしまえば、車ならではの機動力で捕まえるのが困難になるだろうことも予想に難くない。
「それに、最後に残ったのは大型トラック。サイズに比例するように単純に強力な固体になってしまう。正面からぶつかればそもそも勝機が薄いくらいに。だから何としても早期に決着を着けて」
 既に革醒した3台を倒せば、トラックが革醒する危険はない、とイヴは請け負う。
「時間は昼下がり。近くの山道には車が少ないし道からは離れてるから、気づかれることはないと思う」
 運命を見る天才少女の説明は訥々と続く。
 必要な事を伝えようと。どこか物悲しい車達の終焉を、世界の守り手たちに導かせるために。
「山の中だから足場は正直あまりよくない。何か対策しておいて」
 そして説明はE・ゴーレム達の詳細に移る。
 丁寧に、詳細に。
 それがフォーチュナの仕事だから、これが自分に出来ることだから、そう言わんばかりに。

 だが、リベリスタ達は聞いちゃいなかった。
「なあ、イヴ」
「なに」
 終始無言だったリベリスタ達の中から、ようやく言葉が発される。
 対するイヴの反応は冷静だ。
 彼女はリベリスタたちが、何かを訴えようとしていることに気が付いているのだろうか?
 いや、気付いているだろう。気付いた上で、それでも己のなすべき事を続けているのだ。この少女は。

「何でこの車達は人間の脚がニョッキリ生えてるんだ?」

「もちろん、走るため」
 廃車だからガソリンなんて残ってるわけ無いし。それじゃタイヤは動かないでしょ?
 なにを馬鹿な事を、と言わんばかりに淡々とイヴが答える。
「そう言う問題じゃないだろ!?」
「私に言われても困る」
 リベリスタのいっそ悲痛な叫びに、イヴの返答は端的かつ正しい。
「ともかく、彼らを放って置くわけにはいかない。
 近くの道路にしなやかな脚を持つ4台の車が自由自在に駆け回ることになる。絶対、防がなきゃ」
 神秘の秘匿のためもそうだけど、そんな絵面見たくない。心の底から。
「だから、お願い」
 天才フォーチュナであるイヴの説明は今日も冷静で、丁寧で、使命感を備え。

 そしてリベリスタには拒否権と言う物が一切無かった。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:ももんが  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年05月30日(水)23:59
ももんがです。立ち上がっちゃったよ。
ニョキっと生えてスッと立ち上がっちゃったよ。

●E・ゴーレム
直立すると車の『高さ』2~3台分位の長さになります。
その脚で走り回ったり跳ねたり蹴り技を放ったりします。

・高級車
黒いポ○シェ的な車。一番最初に投棄されたらしく、土の汚れと劣化が激しいです。
そのため耐久力こそ一番低いものの、逞しい男性の脚から放たれる蹴り技は強力無比。

・スポーツカー
真っ赤なスポーツカー。つたの絡むその姿はいっそ妖艶。
しなやかかつ色っぽい女性の美脚が生えてる。ハイヒール着用。
鋭い蹴り技を得意とし、機動力と素早さはピカ一。

・ワゴン車
家族旅行に向いてそうな大所帯用の車。
だからなのか、生えてるのはスネ毛の濃い男性の脚。
マイホームパパの脚。具体的に言うと臭い。耐久力に秀でる重戦士型。

・大型トラック
運送用のトラクター。20ターン経過後に革醒します。
下駄を履いたゴツい脚。おやっさん的な。
高級車を越える攻撃力、スポーツカーを超える速度、ワゴン車を遥かに越える耐久力。
さらにはよほど古い型なのか、真っ黒な排気ガスでBS圧倒を付与してきます。
また、排気ガスが撒かれると視界不良となるため、遠距離攻撃の命中が減少します。

※この場合の20ターンは直行した場合の猶予時間です。
事前に付与スキルを使うなどの準備をした場合その分短くなります。

※トラックの革醒までに、2台を倒していた場合、車たちは逃走よりもリベリスタの排除を優先します。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
ホーリーメイガス
来栖・小夜香(BNE000038)
クロスイージス
内薙・智夫(BNE001581)
デュランダル
結城・宗一(BNE002873)
スターサジタリー
アイリ・クレンス(BNE003000)
ソードミラージュ
鎹・枢(BNE003508)
デュランダル
義桜 葛葉(BNE003637)
ホーリーメイガス
石動 麻衣(BNE003692)
覇界闘士
加賀見・水面(BNE003727)


 ぶる、と小さく身震いして、『クロスイージスに似た何か』内薙・智夫(BNE001581)は自分の肩を抱いた。
 車が近くまで入ってきているとはいえ、手入れのされなくなった山中に向かっているのだ。陽が当たればまだ暖かいのだろうが、生い茂った木々は地に陰を作り、少しじめりとした湿気を感じる。
「多分彼ら、戦闘に入る前は、大型トラックが覚醒するのを立った状態で待ってるよね。
 ……間違っても、ヤ○キー座りして覚醒を待ったりしてないよね」
 智夫の声は怯えているように聞こえなくもなかったが――結論としては、その懸念は杞憂だった。
 ワゴン車は威厳を持って胡坐をかいているし。
 スポーツカーはお淑やかにお姉さん座り。
 そして高級車に至ってはどこか哀愁を漂わせる三角座りだ。
「…………」
 なんかもう既に帰りたい。
「どういう因果か分かりませんが、脚が生えるなんて、流石にエリューションは何でもありですね」
 他の廃車がないかどうかをさっと確認して、『おとなこども』石動 麻衣(BNE003692)が呟く。もしこの場所がリサイクル業者の置き場かと考えれば、他にも車がある可能性はゼロではないと思われた。
 残念ながら、現実はもっと寂しいものだ――リサイクルされるわけでも、解体されるわけでもなく、純粋にただ廃棄の手間が面倒、もしくはそのためにかかる費用を惜しんで、誰かがこの場所に車を捨てていった。既に棄ててある車を見て、同じ考えの者がまた棄てた。その果ての覚醒である。
 この、ある種の不快感を催すエリューションたちに、『硝子色の幻想』アイリ・クレンス(BNE003000)は少しの皮肉を感じながら銀の刃を持った剣に手をかけた。
「足の生えた車とは、面妖であるな。しかし……まるで家族だ。全員揃わねば出発しないところも、な」
 孤児院、そして劇団。家族と呼べるものを失った自分が、この『家族』を討つという皮肉。

 足――車たちは、見知らぬ気配にすっくと立ち上がる。スポーツカーは自分の足についた汚れを落とそうとしたのか、片足を上げてはもう片方の脛をこすり、うまく落とせずにおろおろとする。見かねたらしい高級車が、開いたドアを器用に使ってスポーツカーの足の泥をこそぎ落とそうとして、スポーツカーのドアに叩かれた。高級車は両方のドアをばたばたと激しく動かし、車体全体を、首をふるかのように左右に振り、しょげたような雰囲気で肩(?)を落とす。
「所謂、付喪神に似たものでしょうか。見た目は大変愉快で楽しいと思うのですが……」
「……いや、おい。走るって、何か間違えてるだろうそれ。車なら車らしくタイヤで走れよ」
 黒手袋の指を軽く曲げて口元に当て、考えこむような表情を浮かべた『赤烏』加賀見・水面(BNE003727)と、車たちのさまに脱力を隠し切れない『咆え猛る紅き牙』結城・宗一(BNE002873)の言葉は、言葉だけ並べればボケとツッコミのように聞こえなくもないが、実際のところは目にしたものへのコメントなのだから仕方ない。

「もう一度走りたい、か。走る為に生まれてきたんだもの、そう思うのは当たり前かもしれないわね」
 来栖・小夜香(BNE000038)は翼を広げながら、許してやれないのが残念だけど、と言葉を続けた。
「……必要とされなくなった物は捨てられ、そして使われなくなる、か。
 無価値と定められ、必要とされなくなった物に対して、人は残酷だ。
 そして、それは俺とて例外ではないのだろう――色々と、考えてはしまうが……これもまた任務だ」
『閃拳』義桜 葛葉(BNE003637)はその眼光に剣呑なものを混じらせながら、クローを構える。
「風を切るのは楽しい! その気持ち、とっても良くわかります」
 ぱたぱたびゅんびゅんと周囲を飛び回っていた『ジェットガール』鎹・枢(BNE003508)が、気合十分な声とともに、手をばたばたと上げ下げした。
「それじゃあボク達と一緒にもっと走りましょう!」
 スピードアゲアゲで行きますよ! と、己の速度を上げてまた飛び回り始めた枢に、土を落とすのを諦めたスポーツカーがドアをばたりと開閉してみせる。


「この身は、研ぎ澄まされた剣の如く。速く、鋭く、鮮やかに」
 アイリの声が、歌うように響く。件のトラックの覚醒まで時間もない。高級車の前に立ち塞がり、澱みない動作で剣を振りぬく。返す刀でもう一度切りつけようとしたのを、一歩下がることで切っ先を躱された。
「速く……もっと速く繰り出せるはずだ」
 わずかに滲む悔しさ。彼女の速度もなかなかのものではあるのだが、石や小枝、伸び放題の草に足を取られ、従来通りに動き回ることが少し、難しい。
 剣を構え直したアイリの頭上に、影が差した。
 背後に立つのは、美しくしなやかなフォームで、その美脚を天高く上げたスポーツカー。
「ふっ!」
 ――ずん。
 アイリはその踵落としを、咄嗟に転がるように飛び退くことで掠めるに留まらせた。だが避けきれなかった腕に響く痛み、そして柔らかいとはいえ深く抉られた地面が、その威力を物語る。
 だがそのアイリに、さらに高級車が畳み掛ける――遠くの相手を狙う手段のない車たちに、手近に来た敵を狙わない理由はない。空手の型を思わせるような前蹴りが、華奢な少女を蹴り飛ばした。

 踵に付いた泥を払うスポーツカーの前に、智夫が立った。
「皆が高級車を倒すまで、そちらに向かわないようにブロックするよ!」
 前衛の多い編成ではあるものの、ああも集中して狙われては、たまらない。
 鴉に変じさせた式符を放とうとして、穴の縁――踵落としの――に足が滑り、バランスを崩した。
 山中、人の入らない、忘れ去られたような場所。履き慣れた靴に湿った土は、些か柔らかすぎたのだ。
 転けそうになった先でとっさに手を伸ばし、地面に倒れ込むことは防げたものの。
 手をついた先は、すべすべーの、ヒールを履いた足で。
 なんか、ちょっと赤くなって「やんv」って感じで膝曲げたんですけどこの脚。
 智夫は思わず飛び退く。なんか理不尽だ、この脚。
「なんていうかホラ、ガソリンが無くても不思議なパワーでエンジンが動きそうじゃない、普通!」
 かつてそんなバイクと戦った? それはそれで!
 宗一は高級車へと歩み寄りながら肉体の限界を外し、葛葉はワゴン車の前に立ちはだかった。
「さて……お前の相手はこの俺だ。
 ……俺が倒れるか、それともそちらが俺を突破するか……試してみるとしよう……!」
 ワゴン車は他の二台に比べるとのんびりした動き――それでも車相応だが――で、破壊的なほどの闘気を漲らせた葛葉を見下ろすと、そのままぐらりと倒れこむかのように、頭突き(?)を食らわせた。
「脚……」
 傍から見ればお辞儀のように見えなくもなかったが、がつんと響いた音は紛れもなく、車体から響いたもの。必ずしも足を使って攻撃してくるわけではないのか、と水面は眉を顰める。
「其方、お任せしますね」
 水面が真空の刃を高級車へと蹴りつけながらかけた言葉に、葛葉は軽く頭を振って答える。
 麻衣が周囲の魔力を次々に集めて取り込み始めるのを見て、小夜香は人払いの結界を展開する。
 人が来るとは思いにくくとも、念を入れておくに越したことはないはずだ。


 枢は走る。使っているのは足ではなく羽だが、こうして風を感じることは彼女にとって、文字通り地に足をつけるよりも落ち着くことなのだ。
「以前はどんな方を乗せていたんですか? いろんな場所に行ったんですか?」
 語りかけながら、高級車へとナイフを向ける。脛へと幾度も突き立てるつもりが、少し欲をかきすぎた。接近しすぎることを警戒しつつ相手の脛を狙うのは、さすがに少しばかり難易度が高い。
「さあ、踊ってもらうぞ!」
 飛び回る枢に警戒したかさらに一歩下がった高級車に、今度はアイリの剣が食いついた。連続で切りつける剣の動きに足の自由を持って行かれたのか、がくりと膝をつく高級車。もう一太刀浴びせようとしたアイリだったが、その体に、今度は少し破れかぶれな前蹴りが。
 不運にも、高級車がすぐに痺れから立ち直ったのだ。
 青いドレスが泥の中に倒れ伏し――すぐに片膝を立て、立ち上がった。
「まだ舞台より下りる気はないのでな!」
 運命を燃やして立ち続けるアイリに、智夫が清らかなる存在へとその治療を呼びかける。
(ハイヒールを履いてるから、跳ねたりしない筈っ)
 その予測の正誤はともかく――少なくとも、自分を無視することはできないように、じっと見据える。
 スポーツカーは高級車が気になるのか、妙に苛立った風情で智夫へとヒールキックを見舞った。

 葛葉は、ワゴン車を牽制する。他の二台が気になるのか、時折足が葛葉を抜き去ろうとするのだが、それをわずかな動きで押しとどめているのだ。だが――なんと厄介な足だろうか。
「移動事態が、その足で行われているというなら……先ずはその足から狙わせて貰う……!」
 クローを鋭く振るうことで生じる真空刃。それを高級車の足へと向けて放ったが、狙いの通りに当てるのは――不可能ではないが、痛打を与えられるとは言いにくい。
 現に、脛を切られた高級車はぴょんぴょんと、ちょうど弁慶の泣き所を打ち付けた人間のような反応を見せているが、逆に言えばその程度の余裕はあるということ。
(……通常の使用に切り替えるか)
 そう考えた葛葉の視界の端で、ワゴン車が再び頭突きをしようとボンネットを振り下ろしてきた。
「その朽ちかけのボディでどこまで耐えられるか、な!」
 高級車の注意が逸れた隙を見て、宗一が生死も問わぬ一撃を放つ。バスタードソードは黒いボディを大きくへこませ、無視できないと感じたのか、高級車はそのボンネットを宗一に向ける。
 そこに、がごり、と音が響いた。
「別に恨みがあるわけではないのですが――君達を走らせてやるわけには行きません」
 水面の斬風脚が直撃したのだ。これでそれなりの数の死線を潜ってきてはいるのだが、アークに来てから日も浅く、今はまだ少し不慣れだと言わざるを得ず、遠距離からの攻撃に徹している。
 元から傷んでいた車体はさらに削られ、叩かれ、もう傍目にはスクラップとそう違わない。足以外。
 麻衣の呼びかけがアイリの、まだ残っている怪我を癒していく。小夜香がその様子にひとつ頷いて、周囲のマナを集め始めた。今すぐに聖神に呼びかける必要までは、なさそうだ。
 横目でちらりと見れば、トラックはうんともすんとも言わないまま、苔むした車体を晒している。
 ――まだ猶予はある。だが、革醒は時間の問題だった。


 宗一のデッドオアアライブが、ついに高級車のフレームを砕いた。
 断末魔のように、今まで動くことのなかったエンジンが空ぶかしされる音が響く。タイヤは回らず、地面にどうと倒れこんだ高級車の足はもう、動かない。
「ま、大体俺は高級車は好きじゃない」
 どうせ乗るならスポーツカーだな。そう呟いて、今度はスポーツカーの方を挑戦的に見やった。
 そのスポーツカーはと言えば、内股で怯えた仕草を見せる。その動きに滲む感情は困惑か、驚きか。
「こう、色々な意味で目のやり場に困る気がするんです」
 妙な色気があるようにも見える脚に、水面が小さく溜息を吐く。

 潤沢な癒し、多くの者が自分の強化を準備する手堅い戦略。御蔭か今の所、運命の恩寵を使ったのはアイリのみ。その彼女の振るう片手半剣の切っ先は、今度はスポーツカーに向けられる。
「びゅーん!」
 枢は駆け抜けざまに脚を切りつけ、ワゴン車の前に立ち続ける葛葉もまた、疾風居合斬りの標的をスポーツカーへと変更する。水面の斬風脚がスポーツカーを掠める。朽ちかけてもなお美しい、赤いボディーに巨大な十円傷が増えていく。
 ワゴン車の頭突きが葛葉を打ち据え、鴉によって怒りを植え付けられたスポーツカーの回し蹴りが、智夫の腹を薙ぐ。だが、痛打になりかねないそれらも麻衣と小夜香の手によってすぐ癒され、リベリスタ達の戦線を守る。
 リベリスタ達の作戦は、通常であれば必勝と言えるほどの布陣を完成させつつあった。
 だが、時間に限りのある中では、果たしてその戦法が完全に正しいと言い切れただろうか。

「その靴、走りにくくないですか?」
 枢に、スポーツカーは余裕を示そうとしたのか軽くポーズを決めようとして、わずかに傾ぐ。
 素早さに任せた機動力で、よけきって見せることさえもあったスポーツカーだった。だが高級車ほど耐久に難があったわけでこそなくとも、ワゴン車ほど丈夫だったわけでもない――痩せ我慢だ。
 アイリのソニックエッジが赤い車体を更に刻むが、まだ倒れぬとばかりにスポーツカーはヒールを土に食い込ませた。このままだと、自分が倒れるのも時間の問題だと理解したのか、スポーツカーは膝を曲げ、高く飛び上がった。そして錐揉み回転からの美しいまでの跳び蹴りに、智雄がキラキラと光をまといながらふっとんだ(※イメージ映像)。
 だが、ナイチンゲールは立ち上がる。
「気持ちは判るよ。誰だって、棄てられて、忘れられて、消えちゃう、なんていうのは嫌だもんね」
 馬鹿な、あの渾身の一撃を!? とばかりに動揺したスポーツカーを、横合いから葛葉の疾風居合斬りが刻みつけた。よろめいた車体はブレーキランプを5回点滅させ、倒れて静かに動かなくなる。
 いや待て、誰へのサインだ今の。


「ちと時間が押したか……」
「――チッ」
 弱点を狙った一撃を放った宗一が、最初に状況に気が付いた。視線を追った水面が舌打ちする。
 それはリベリスタたちがワゴン車を狙い始めて、少ししてから。
「でーっかーい! 今日は峠を越えるんですか? 荷物宅配ですか?」
 枢が思わず歓声に近い声を上げる。
 その威容、迫力、他の3台とは桁が違うと思い知らせる存在感。
 下駄をカカッとならし、大地を踏みしめるのは、そう、革醒を果したトラックだ。
「あの車体を支えるんだからさぞかし脚力は強いんだろうな……気をつけないとやばいか」
 宗一が苦々しく呟き――そして、その予見は当たっていた。残念な事に。
「まずは数を減らしましょう!」
 ワゴン車の傷の度合いは、瀕死とまでは言いにくいかもしれなかったが、無傷ではない。
 周囲の状況を把握したトラックは、憤怒にか肌を赤黒く染め、まずは排気ガスを周囲に散布する。
 戦線は一気に惨状と化した。
 長引く戦闘に、気力の回復手段を持たない者たちは息切れを起こしていたのだ。
「面白い見た目ですけど、近くに寄ると思ったより気持ち悪いというか怖いというかですね」
 気力切れは、ゴーグルでしっかりと目を覆った枢と、唸る水面の2人が特に顕著だ。
 智夫はリベリスタたちを、襲うプレッシャーから解放したが、これを長く続けることはできそうにない。
 ガスマスクで顔を覆った葛葉は、自分の気力をあと土砕掌数発程度だと把握し、眉間に皺を寄せる。回復手たる小夜香、麻衣の二人の表情には、まだ余裕がある。逃げようとしない車たちを相手に、勝てる可能性はまだ潰えていない――覚悟ならば出来ている。
「──全てこの拳にて、対応するのみ!」
 掌底を叩き込んだワゴン車がぐらりとバランスを崩しかけ、またも頭突きを葛葉に叩き込む。
「本日は何処へお出かけですか?山にピクニックですか?」
 ナイフを振り立て、枢はワゴン車に話しかける。
 彼女とて本当は相手が喋れない事くらい分かってる、それでも話しかけずにはいられない。
 車だって夢はみるのだと、少女は最後まで我を通す。
 ちらちらと飛び回る彼女をトラックが蹴り飛ばし――その威力と打ち所の悪さに、枢は地に落ちた。

 果敢なリベリスタ達の攻撃はワゴン車を傷つけ、やがてそれも地に伏せた。
 地面の土を激しく跳ね飛ばしながらの戦いは、文字通りの泥仕合。
「私は力不足ではありますが、かといって無駄に倒れる訳には行きません」
 直接的な攻撃に切り替えていた水面もまた、下駄に強く踏まれ、それでも運命を削って立つことを選ぶ――無謀と勇敢は別物、生きた兵こそが戦場では最も有用である、と。

 戦況は悪いの一言。
 ただ、潤沢な癒しの力だけが、戦線を維持させていた。



 パーーーーッ!

 甲高く、それでいて野太くも聞こえる盛大なクラクション。
 それが大型トラックの断末魔だった。
 もし彼らが、言葉を話せたならこう呻いただろう。『お前等、ゾンビか……?』と。
 循環させたマナによりあくまでも回復の手を休めない2人がいる限り、リベリスタ達に平穏は訪れな――違った、敗北は訪れないのだ。
 かくして、何よりも過酷で辛い、だが実質消化試合な泥仕合は、終わりを告げた。
 汚れを厭わない者はその場にへたり込み、そうでない者も、少しでも綺麗な場所を探して腰を下ろす。
 完全なスクラップと化したE・ゴーレムたちの回収は、アークのスタッフが行うという。その前に、と、小夜香がそれぞれの車から、部品を少しずつ取出して、上空へと羽ばたいた。
「思ってたのとは違うだろうけど、最期に少しぐらい風を感じさせてあげたいの」
 人目につかないよう、結界は維持したまま飛び回る小夜香を、葛葉が目を細めて見上げる。
 水面もそれを見上げ――目を閉じ、祈る。
(モノにも天国というものがあるのなら、そこで思う存分走れる事をお祈り申し上げます)
 ……脚ではなくタイヤで走れますように、と。

<了>

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
お待たせしました、成功です。お疲れ様でした。
回復が潤沢だったために、覚醒はしたもののトラックには驚くほど苦戦せず……。
おのれ、リベリスタ。