●もののけ 夜の水田には、カエルや虫たちの鳴き声が響き渡っているはずだった。 だが、その一帯の水田は……季節を間違えているのではと思えるほどに静まり返っている。 間違ってはいないのだ。水の張られた水田には植えられたばかりの苗が、それでも 青々と元気に伸び始めているのだから。 ただ、虫やカエルたちは……何かに脅えでもするかのように、息を潜めているのである。 そんな不気味な静けさが支配した水田の中で。 べちゃり、と……何かが動いた。 田を返せ。 田を、返せ。 泥まみれの人のような何かが、呻き声を上げながら。 水田の中を動き始める。 ●妖怪紀行 「『泥田坊』って妖怪ご存知ですか?」 マルガレーテ・マクスウェル(nBNE000216)の言葉に、リベリスタたちの幾人かは首を傾げ、幾人かは頷きつつも……やっぱり首を傾げた。 「あ、すみません。そういう感じのエリューションが出たみたいなんです」 マルガレーテはそう言って、詳しく説明し始める。 泥で出来た人間のような姿をしているが、指は3本ずつで目がひとつ。 田を返せと呻きながら、水田の中や周囲を歩きまわるのだそうである。 「田を失った人の恨みとか、田を大切にしない人を諌めるために現れると言われているみたいです」 他にも全国に色々な伝承があるらしい。 「今回出現したのはE・フォースですので、実際に思念や感情が具現化したものみたいですね」 もしかしたら伝承に残っている妖怪というのも、そんな風に出現したエリューションだったりするのかも知れない。 もちろん実際は分からないけれど。 「放っておくわけにはいきません、が……今回は場所が場所でして……」 エリューションが現れる水田の一帯は、もう田植えが終わっている。 つまり戦いになると苗がめちゃくちゃになってしまう……農家の人に申し訳ない。 そう考えた幾人かに向かって、そちらは大丈夫そうですとマルガレーテは説明した。 それに関しては水田の持ち主と交渉して、一帯の水田を一年レンタルしたらしい。 「一町歩、とか言ってたような……1ヘクタールにちょっと足りないくらい……ですかね?」 とにかく、その辺りの田んぼを借り切っちゃってるそうですので、ある程度は派手にやっちゃっても大丈夫みたいです。 水が張られた水田は、底が泥なので足場はやや悪くなる。 田と田を区切る畦畔(けいはん。『あぜ』とか『くろ』とも言う)とかは足場としては安定しているが、遠距離武器等でなければ活用は難しいかも知れない。 とにかくその辺りの水田にいれば、泥田坊の方からやってくるらしい。 「泥田坊の攻撃は、近くの相手を腕で殴る物理攻撃と、離れた相手に泥を飛ばす神秘攻撃の2種類です」 殴る攻撃は特別な効果はないが、威力の方は意外と高い。 泥を飛ばす攻撃は殴るよりも威力は弱いが、相手を泥塗れにすることで動きを全般的に鈍らせる効果があるらしい。 「あと……ダメージのある攻撃を受けると、衝撃で分裂するみたいなんです」 マルガレーテは困った顔で、そう説明した。 もちろんダメージを受けない訳ではない。 ダメージを受け、その後に千切れるなり吹き飛ぶなり、凍って砕けるなり焦げて乾燥し割れるなりして、2つに分裂する。 「耐久力の方も、それで半分ずつくらいになっていくみたいなんですが……」 元々かなりの耐久力を持っているらしいので、簡単に倒れるという事はなさそうだ。 数が増えると思わぬ苦戦をする可能性もある。 油断は禁物と言えるだろう。 「あと、今回は同行希望の子がいるんです」 少女の言葉に応じるように、皆の足元で真白な一頭のわんこが、クーンと鳴いた。 「ホーリーメイガスのシロ、と言います。未熟ですが、同行させてほしい……みたいに言ってたそうです」 動物会話のできるリベリスタさんが通訳してくれましたとマルガレーテは説明した。 会話等はスキルが無ければできないが、ある程度何となく、リベリスタたちの言動は察してくれる。 難しくて理解できなかった場合でも、とにかく危険な人に最優先で癒しの力を使ってくれることだろう。 「ですので、会話が出来なくとも何とかなると思います」 それでは、お気をつけて。 マルガレーテはそう言ってから、頑張ってねとシロの頭を撫でて。 リベリスタたちを見送った。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:メロス | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年05月31日(木)23:35 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●妖怪伝奇 「泥田坊……伝説では放蕩息子を恨んだ死者が妖怪になって出てきた、なんていうのもあるようですね」 『戦士』水無瀬・佳恋(BNE003740)はそう説明してから、今回はそうではないようですがと付け加えた。 「どちらにせよ、農家の人の安全のためにも放置はできない相手、ですね」 まだ被害が出ていないのは幸いと言ってよいだろう。 「やれやれ……こういう妖怪もどきもいるのか」 百鬼夜行とやらもそのうちありえそうだなと『小さく大きな雷鳴』鳴神・冬織(BNE003709)は呟く。 「伝統の化物話には一家言あるが、ヤマの話にしてくれ。サトの話には疎い」 そう口にしたのは『地火明夷』鳳 天斗(BNE000789)だ。 「鬼もそうだが、日本の妖怪もエリューションだったりするのかね」 (そう考えるのはちと寂しいし面白くないな) 呟いた『侠気の盾』祭 義弘(BNE000763)は、まあそれはそれとしてと気持ちを切り替えた。 役目はきっちりとこなす。 「早く美味しいお米を作れる状態にしないといけないからな」 その言葉に『蜂蜜色の満月』日野原 M 祥子(BNE003389)も同意を示した。 「せっかく田植えがすんだ田んぼなのにね」 貸し切ったと言われても、踏み荒らすのは気が引ける。 (なるべく苗を傷つけないように気を付けよう) 「て言うか何の対策もしないで田んぼに足を突っ込むのは自殺行為よ」 間違いなく泥の中で動けなくなるわと、祥子は断言した。 (足を取られてバランス崩して頭から泥にダイブするようすが、フォーチュナじゃなくても簡単に予見できるわよ) 「だからあたしは水上歩行使うわ……田んぼでも使えるよね?」 そう言って、大丈夫なのを確認してから……祥子は戦いの前にとシロにカッパを着せてあげた。 「せっかくの白い毛が泥だらけになっちゃうからね」 そう言って頭を撫でれば、シロはお礼を言うようにワンと鳴いた。 ●水田の前で 「泥田坊……たしか田を奪われた百姓が成った泥の妖怪だったな」 古式ゆかしい日本妖怪だな。 「泥田坊って、そんな話があったのかー……禾那香は詳しいなぁ」 明神 禾那香(BNE003348)の説明に明神 火流真(BNE003346)は感心した様子で呟いた。 「確かに自分の土地奪われたら、化けて出たくもなるよな」 特に田んぼとか、生きてくためにも必要だろうし、と……納得した様子で何度か肯く。 「何の因果か現代に現れるというのも若干時代の錯誤を感じるが……」 いや、案外そういう人物も多いのかもしれないな。 「土地は今でも通じる財産の一つだ」 禾那香は浮かんだ疑問を、そんな風に自分の中で纏めて決着させる。 それから少し表情を変えると、火流真に向かって口にした。 「それはそうと、今回はシロも同行するのだ。無様なところは見せられないぞ、火流真?」 「分かってるよ、禾那香」 俺達もちっと成長したとこ、シロに見て貰おうぜ? 当然という表情で少年は頷いて、二人の足元でしっぽを振る真っ白わんこのリベリスタに視線を向けた。 「さあて、派手にドンパチと行こうか!」 「回復は私やシロに任せて思う存分暴れてこい」 元気よく宣言した火流真に、禾那香は出来る限りのフォローを約束する。 「殴れば殴るほど増えるとか、楽しみでしかたないですねぇ」 一方で、どこかのんびりとした雰囲気で口にしたのは『論理決闘者』阿野 弐升(BNE001158)だ。 (烈風陣でぶわっさーと。まあ、見極めが大事ですね) そんなこんなと呟いたり考え込んだりしていた青年は、思い出したように傍らのわんこリベリスタへと声をかけた。 「シロさんも、今回は宜しくお願いします。後でモフっていいですかね?」 頷くようにワフンと返事をしたシロにお礼を言うと、弐升はアクセスファンタズムから自らの武装を取り出した。 「論理決闘者にして群体筆頭、推して参ります」 ●泥田坊、あらわる 「回復役がいる方が皆、安心して戦えるからな」 後方で回復に専念してもらいたいと義弘が乞えば、シロは了解を示すように元気にワンと鳴いた。 水田近くにいたリベリスタたちが泥田坊を確認したのは、そのすぐ後の事である。 どこからともなくという言葉がぴったりという感じで、人のような形をした泥という外見のエリューションは姿を現した。 リベリスタたちは直ちにそれぞれの行動に移る。 天斗は囮となるべく前進しながら、身体のギアを切り換えることで全身の反応速度を上昇させた。 弐升は集中によって脳の伝達処理速度を向上させる。 冬織はエリューションの動きに意識を集中させ、義弘と祥子は全身を防御のオーラで覆う事で防御態勢を整えた。 対象的に佳恋が全身に巡らせたのは、攻撃の力を増す破壊のオーラだ。 禾那香は翼の加護を使用する事で皆の背に小さな翼を与え、限定的な飛行能力をもたらした。 「これで足場の不利はないはずだ。たたき落とされないように気をつけてくれ」 足場の悪さもそうだが、田植えの終わった水田を荒さないようにという配慮もある。 加えてそれぞれが可能な範囲で保険を用意していた。 火流真は自身の攻撃力を高めるために詠唱によって体内の魔力を活性化させる。 シロも体内の魔力を活性化させ循環させる事で回復の体勢を整えた。 一方で泥田坊はリベリスタたちへと近付きながら、泥のような何かを飛ばすことで天斗を攻撃する。 ギアを切り換えていたのが幸いし、天斗は直撃を避ける事に成功した。 負傷はしたものの、傷は決して重くはない。 (高く飛ばん、慣れん事は失敗のもとだ) そのまま彼は翼を利用して低空飛行を行いながら泥田坊へと近づいた。 (きくかどうかは知らんけど、百姓の神経逆撫でするか) 田舎育ちなので、心苦しいと言えば心苦しいが……これも任務。 天斗はエリューションを引き付ける為にと、煽るように口を開いた。 曰く。 「後継者が欲しけりゃ、合理化して収益をあげろ! 補助金に頼るな!」 「先祖代々土地が大事か? それはGHQにもらった土地だろうが。お前らは先祖代々水呑百姓だろうが。下らん縄張り意識は捨てろド阿呆!!」 他、様々。 田舎育ちだけあってというか何というか、結構容赦ない。 言葉の意味が通じたのかまでは分からない。が……とにかく彼は、囮としての役目を果たす事には成功した。 泥田坊は彼の方へギョロリとした目を向け、殴りかかってきたのである。 ●まず、一体 狙いを定めた冬織は詠唱によって魔方陣を展開すると、魔力の弾を作り上げた。 集中によって精度を高めたマジックミサイルが泥田坊を直撃し、攻撃を受けたエリューションは泥をまき散らすようにして2体に分裂する。 その分裂した一方へと弐升が距離を詰めた。 「考えなしに攻撃をすると、物量で押し潰されますからね」 序盤は積極的には攻撃せず、最も体力の多い分裂体を防御を固めながらブロックしようというのが彼の戦法だ。 もう一方へは義弘がメイスを振り被り、神聖な力を篭めた一撃を叩きつける。 攻撃を受けた泥田坊は、ダメージを受けつつも更に分裂する。 これで、合計3体。 (泥に脚をすくわれて転んだ、などということがないように) 佳恋は足元が水面に付かないようにと注意して低空飛行しながら、敵の動きに集中していた。 禾那香もマナサイクルによって回復態勢を整え、祥子は後衛達を守れるように位置を取りながら敵の動きを注視する。 最初にどこまで小さくすれば倒せるか実験しようというのが今回の作戦だ。 皆が地道に攻撃し、更にエリューションを分裂させていく。 シロは皆を見回してから、天斗に癒しの力を向けた。 数を増した泥田坊たちは天斗や弐升、義弘へと襲いかかり、天斗と弐升は全力防御で耐え忍ぶ。 「あまり増やしすぎると泥田坊、ではなく泥沼になりますからね……」 「にしても、分裂するとか面倒なヤツ、だぜっ!」 佳恋は白の長剣へとエネルギーを集中させ斬撃を放ち、火流真は高めた魔力で作りだしたマジックミサイルを発射する。 直撃を受けた1体が、分裂せずにそのまま飛び散って消滅した。 一体を倒せた事で、エリューションの耐久力については大凡の目安がついたと言える。 ただ、どれがどの泥田坊なのか判別は難しかった。 分裂しても小さくなったり等がなかった為である。 弐升が対している泥田坊の1体が最初に分裂した片割れなのは間違いないが、それ以外は戦う内に混ざり合ってしまったのだ。 最初は分裂した一方をひたすら攻撃していったので間違いもなかったが、改めて残りをとなると見分けが付かなかった。 後衛の者はある程度までは分かるが、絶対とも言い切れない。 それでもやるべき事は決まり切っている。 リベリスタたちはそのまま、攻撃を続行した。 ●嵐の如く 禾那香が詠唱によって福音を響かせシロが癒しの微風を生みだすが、泥田坊たちの数は多く、一体一体の攻撃力も高い。 だが、ある程度敵の数が増えたという事は耐久力も適度に減少した個体が増加しているという事でもある。 弐升は前衛たちに警告しつつ、巻き込まないように注意して論理決闘専用チェーンソーを高速で旋回させた。 生み出された烈風が周囲の泥田坊に襲いかかる。 強力で回避も行い難い嵐のような攻撃は本来以上の破壊力をもたらし、4体の泥田坊を巻き込んだ。 2体が倒れ、2体が分裂したので数の方は変わらない。 それでも大きなダメージを与えたのは確かだし、直撃を受けたエリューションはその衝撃で動きを麻痺させていた。 「食い千切るこの瞬間ほど、愉しいものはないですよねぇ」 クハハッ、バラバラだ。塵は塵に、泥は泥にってね。 ぼうっとした表情のまま口にして、弐升はそのまま魔改造を施したチェーンソーを振り回す。 義弘は力を篭めた十字の光で泥田坊を挑発し、弐升の近くへとエリューションを誘導していた。 移動の際も、泥田坊の攻撃から少しでも仲間を守れるようにと考えて立ち位置を取る。 (こちらの狙いを阻害されてはいけないからな) 知性は高そうには見えないが、用心に越した事はない。 一方で、近付いて腕を振り回す泥田坊たちの強力な攻撃に天斗は耐え切れなくなり、義弘の後方へと移動していく。 (またの名をヘタレ戦法、女の子を盾にするのは気が引ける) 「死なない程度に頑張ってくれ。 後で一杯おごるから」 深い傷を負いながらも軽口を叩く天斗へと、シロが癒しの風を送る。 敵の数が増加したのを確認した佳恋は、一時的に防御態勢を取って手近な1体の進路を妨害するように立ち塞がった。 「何とか耐えてみますから、数減らしをお願いします……!」 少しでも自分の方に引きつけておくように。回避より防御を重視して。 彼女はエリューションの攻撃を耐え続けていく。 ●総力を挙げて ある程度までの癒しを受けると、天斗は耐久力の低そうな1体に目星を付け前進した。 判別できている自信はないが、気持ちで小さいと思える泥田坊へ。 距離を詰め、そのまま速度をあげ……残像が発生するほどの高速状態から、目標と、周囲の泥田坊たちへと攻撃を仕掛ける。 (頭わやなるぞ!) 直撃は避けられたものの消耗していたらしい1体を撃破し、続いた弐升の戦鬼烈風陣で敵の数は6体となった。 「どれくらい削れるかは判りませんが、全力で叩きます!」 佳恋はエリューションの動きをよく見てから闘気を篭めた剣を一閃し、畦畔を狙って吹き飛ばす。 エリューションは確実に消耗していく。 だが、油断はできなかった。 数が多いため、禾那香とシロが懸命に癒しても追い付かないのだ。 皆の負傷は蓄積していく。 泥田坊の一撃を受けた弐升は運命の加護で耐え忍び、加護による回復や無限機関の生産によって生み出されたエネルギーを使って、更に烈風陣を放った。 敵の数が8体を越えたのを確認した冬織も、拡散する雷でエリューションを攻撃する。 2体が消滅し、5体が分裂する。 それに向かって、更に。 祥子は泥田坊たちの動きを充分に見定めたあとで、厳然たる意志の籠められた聖なる光を周囲に放った。 それでも、泥田坊たちは数を増やしながらリベリスタたちへと襲いかかる。 天斗は逆境に自分を奮い立たせ、強力な攻撃力を維持する弐升を庇うように戦い続けたものの……ついに力尽き、畦畔へと墜落するように倒れ込んだ。 佳恋も運命を手繰り寄せ、エリューションの強力な打撃を堪え戦い続ける。 更に放たれた弐升の嵐のような攻撃を受けて……最初に分裂した側の泥田坊たちは、消滅した。 ●想いの強さで超えるもの これで半分といえばそこまでだが、此処まで倒せたというのも事実である。 どの程度の時間が掛かるか、耐久力を持つのかが推測できるというのは大きな利点だ。 だが、前半と状況が異なるのも事実だった。 既に天斗が戦線離脱し、幾人かが深い傷を負っている。 状況は厳しかった。だが、やるしかない。 (まあ、無茶をしなければいけないのであれば喜んで無茶しましょう) 「無茶は楽しんでやるものですから、ね」 弐升はこれまでの戦いを基に敵の動きを計算し、精度の高い攻撃を加えていく。 「泥だろうがなんだろうが、被ってやるさ。俺は盾なんだ。受け止め流すのが仕事なんだ」 (集中が切れたら一気に押し込まれると思え、俺) 義弘は弐升の攻撃に巻き込まれないように注意しつつ根気よく戦い、確実に敵を潰していく。 それでも、前線で支え切れずに増えた泥田坊たちは後衛たちにも近付いていった。 祥子は後衛たちを庇う事に専念したが、それでも完全には止め切れない。 「舐めんなよ、一匹くらい止めてやる!」 守りを抜けた一体の前へと立ち塞がるように、火流真は低空で位置を取った。 「禾那香とシロの方には行かせねぇ!」 叫ぶ少年に向かって泥田坊が手を振りかぶる。 「雷神の怒りだ……触れてタダで済むと思うな! 砕け散れ!!」 冬織は先刻の敵の様子を確認し、更にダメージを与えた状態で再び拡散する雷を解放した。 「私がいる間におめおめと怪我人だと出させてなるものか」 禾那香は唯、ひたすら。詠唱で清らかな存在へと呼びかけ続け、響き渡る福音で仲間たちを癒していく。 戦いは乱戦状態となった。 前衛たちと祥子はそれぞれで複数のエリューションと対峙し足止めしようとしたものの、すべてを防ぐ事は不可能だった。 だが、ここまで負傷せず力を温存できていた後衛たちも……攻撃を堪え、すべての力を費やすようにして戦い続けた。 無理矢理に身体を動かして冬織が雷を荒れ狂わせる。 「アイツ……とシロの前で、カッコ悪いとこは見せられねーよな……!」 運命を手繰り寄せた火流真は、そう呟きながら、ちらりと『アイツ』の方へと視線を向ける。 「癒し手が真っ先に倒れるような悪手を打つわけには行くまい」 運命の加護を受け攻撃を耐え抜いた禾那香は、休むことなく癒しの力を周囲へともたらし続けた。 そして、永遠のように感じられる短い時間……先程までの戦いと、ほぼ同じくらいの時が経過し…… 水田から、戦いの音が……消えた。 万全には程遠い状態で、それでも……泥田坊の消え失せた水田には。 8人のリベリスタたちが存在していた。 ●春から、夏へ 「それにしても泥だらけ、ですね。小さい頃に泥遊びしたのを思い出します」 疲れ切った顔に、それでも何処か……懐かしむような表情を浮かべて佳恋が呟く。 (しかしこれは風呂なんかも、どこかで調達しないといけない状態になるんじゃないか?) 「まあ、どこかで借りられたらそれでもいいがな」 一仕事終えたという様子で義弘も口にした。 「皆お疲れ様。何とかなったな」 「お疲れさん。いやー、しんどかったぜ」 「火流真もお疲れ様。頑張ったな」 「あ、あー、禾那香もな、お疲れさん。怪我、ねーよな?」 火流真の言葉に頷いてから、禾那香は二人を心配そうに見上げるシロに視線を向けた。 「シロもお疲れだ。泥だらけになってしまったな。ちゃんと体を洗うのだぞ?」 「確かに泥だらけだなぁ……」 禾那香の言葉に頷いて、火流真もシロを見てしみじみ呟く。 「なんだったら一緒にお風呂で行くか?」 (なに、風呂? 禾那香と風呂とか羨まs……げふんげふん) 「お風呂は嫌い? そうか、困ったな……ん? どうした火流真?」 「!? べ、別に何でもねーよっ」 そんな火流真を見て禾那香と一緒に首を傾げたシロに、弐升も話しかけた。 「シロさん、汚れているならお風呂はいらないと駄目ですよ」 その後、モフらせてくださいな? その言葉に、シロはワンと元気に答えてから……祥子の方へと歩いていく。 祥子は戦いが終わった後、出来るだけ苗を治していった。 痛みで体はうまく動かないし、本職という訳でもないけれど……元通り、にはほど遠いけれど。 それでも、できるだけ。 (この田んぼは誰か手入れしてくれるのかな) 「誰か管理してくれる人がいて、すこしでもお米ができたら秋にみんなで収穫したいね?」 そう呟けば、元気な声が応えて。 日常を取り戻した水田には、虫やカエルたちの鳴き声が…… 元気に、響き始めていた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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