●瀬戸澄枝の願い 「あのね。お外で走りたい! ベットから起きて、自由に走り回りたいの!」 ●リベリスタ 「フリーダムって言うのは環境からのエクソダスだ。元が窮屈な環境なら、普通の環境もフリーダムに見えるのさ」 オレは音楽だけで自由を満喫できるんだがね、と肩をすくめる『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)。集まったリベリスタ達に向き直り、『万華鏡』が掴んだ未来を話し出す。 「おまえ達に解決してほしいのは、窮屈な環境から自由を得て元気に走るレディのストーリーだ。そう聞くと夢があっていいだろう?」 「つまり、それほど夢のある話じゃないわけか」 「半分イエスで半分ノーだ。いや、イエス七割ノー三割かな。とにかく人の命が懸かっている」 伸暁の言葉と表情がふざけたものからフォーチュナのそれになる。違いがわかるようになったのは、付き合いの深さからか。 「瀬戸澄枝。病名はプライバシーの為伏せるが、難病にかかった少女だ。闘病生活を強いられていて、生活のほとんどを病室のベッドで過ごしている。そんな彼女にあるアーティファクトが送られた。 『魂のない少女』……そう呼ばれる人形型のアーティファクトだ」 モニターに映し出されるのは、大きさにすれば小学生低学年ほどの大きさの球体関節人形だ。顔に表情もなく、関節部位が球体で形成されている。大きさはともかく、市販のそれと区別がつくかといえば一目ではつき辛い。 「このアーティファクトは魂を人形に憑依させて動かすことができる。当人が同意すれば、人形に乗り移って動くことができるのさ。そのパワーやスピードはフェーズ2のエリューション並だ。革醒していない人間では止める術もない」 「で、その人形を回収するのが今回のお仕事か?」 「ノー。おまえ達に頼みたいのは、人形の破壊だ。 この人形、ちょっとタチが悪い。さっき魂を憑依させると言ったが、正確には憑依のたびに少しずつ魂を吸収している。三回憑依すれば魂は完全に人形に吸収されてしまうのさ。魂がなくなれば、肉体はアウトだ」 指先でバッテンを作って、結果を示す黒猫。 「で、ミズ・スミエはその三回目を行なってしまった。魂が完全に吸収される前に、人形を破壊すれば助かる可能性はある、とそういうわけさ。人形に痛覚はないから、どれだけ殴っても彼女にダメージはない。彼女は起きた時に怖い夢を見たと思うぐらいだろう。 人形はここの道路を走っている。追いかけるための車はアークが用意するが、一台だけだと手狭になる。可能ならもう少し乗り物がほしいところだな」 モニターの地図が拡大され、都市間を繋ぐ道路が赤く彩られる。人形はその道路を自動車並の速度で駆けているのだ。なるほど、追跡用に車は必要だろう。 「しかしまぁ、夢のない話だなぁ。プレゼントを渡したサンタクロースが実は悪人だとは」 「彼女にとってはナイトメアだが、眠り姫になるよりはマシだろう。 そして夢のない話がもう一つ。この人形を回収しようとしているフィクサード達がいる。そいつらへの対応も怠らないでくれ」 ●フィクサード 「夢のない話だねぇ。女の子を騙して誘拐するようなものじゃねーですか」 「ような、ではなく事実誘拐です。最も身代金の要求などは行なわないので人攫いと言ってもいいでしょう」 「はっきり言うねぇ。まぁ誘拐自体は他の人がやるから気分は楽だね」 「人形を弱らせて逃がさないようにし追い詰めるのも私たちの仕事です。それをお忘れなく」 「へーい。適度にやりましょうや、『車輪屋(ラウンドバイヤー)』」 「ターゲット捕捉。行きますよ『氷原狼(ツンドラウルフ)』」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年05月25日(金)23:57 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 高速で景色が流れる戦場にはリベリスタ、フィクサード、そして『魂のない人形』の三勢力。三すくみの戦いでは、初手の動きが重要になる。 均衡を崩した者に集中攻撃がかけられることも珍しくない。先に動いた方が、負ける。 緊張した面持ちで距離を保つ三者。 ――と言う展開なると思っていた『氷原狼』にとって、それはまさに青天の霹靂だった。 「ハイ! デートしようよ!」 『Trompe-l'œil』歪 ぐるぐ(BNE000001)は中型バイク『Ghost』を傾けて『車輪屋』の方に近づき、『氷原狼』の後ろに飛び乗ったのだ。飛び乗る寸前に幻想纏いにバイクを戻し、『氷原狼』の背中にしがみつく。 「ちょ、おま!」 「良かったですね『氷原狼』。このままツーリングと駆け込みますか?」 「この場合、オレとオマエとどっちが誘われたのか判断に悩みますけどねぃ」 「やーん。拗ねてるの?」 タンデムのためにバランスを取りながら、ぐるぐは前を走る捕獲部隊に気の糸を放つ。 「てめー。さては裏切ったなー!」 「リア充爆破しろー!」 捕獲部隊から予想外の反応が返ってきて「えー」と声を上げる『氷原狼』。ぐるぐはそんな様子を見て大笑いしていた。 「ごきげんよう、水原良。泥棒の次は少女誘拐?」 そんな『氷原狼』を見ながら、『運命狂』宵咲 氷璃(BNE002401)が語りかけてくる。会話の最中に指を動かし、魔術の為の印をきっていた。 「しがない下請け業ってヤツでございましてねぃ」 「そういえば、以前言ってたわね。『アークをやめてこっちにくれば』だったかしら?」 「答えは決まりましたかい?」 「ええ、お断りするわ。貴方こそ仕事も選べない下請け業なんて辞めたら如何?」 拒否の言葉と同時に氷璃は魔術を展開する。複合する魔法陣から放たれる石化の呪い。その光に照らされて、捕獲部隊の動きが鈍った。堕天落としと呼ばれる石化の魔術。 「いろいろあってお金は必要なんですぜぃ。ま、気が変わったらいつでも待ってますぜぃ」 そ、とばかりにそっけなく告げる氷璃。そのまま動きの鈍った捕獲部隊の押さえにバイクを走らせた。 「さー、ツーリングと行こっかー?」 『大風呂敷』阿久津 甚内(BNE003567)がバイクに乗って颯爽とやってくる。手にした矛を回転させて弓を引き絞るように背中の筋肉に力を込める。時を止まる程の集中。狙うはわずか一点。手に馴染んだ矛はその先端まで自らの延長だ。外すはずがない。そんな集中力を維持したまま、甚内は矛を投擲した。 「おわっ! 今のは効きましたぜぃ」 矛は『車輪屋』の進行を妨げるような軌跡で飛ぶ。その軌跡は『氷原狼』の気をひくことに成功した。気の糸で矛を回収しながら、甚内は笑う。 「あははは。HAPPYだなー色男ー! こんなモテちゃってさー! ……辛い?」 「ちょい辛いねぃ。このモテ期、分けてあげたいぐらいだぜぃ」 「よう、氷原狼。そっちが覚えてるか知らないけど、また会ったな」 甚内の反対側から挟み込むように『九番目は風の客人』クルト・ノイン(BNE003299)が迫る。ヘビーレガーズに氷を纏わせ、近づきながら脚を振るう。『氷原狼』もブレードナックルに氷を纏わせた。 「よく覚えてますぜぃ。やな動きをする男ってことはねぃ」 「あのときより腕を上げたぞ。さらにやな動きでお相手しよう」 クルトがバイクを傾け、重量と共に蹴りを繰り出す。その一撃を拳を打ち下ろすようなガードで反らす『氷原狼』。それを予想していたクルトが膝を曲げ、ロー&ハイキックへの連続蹴りで『車輪屋』と『氷原狼』の両方を攻める。対応が遅れた『氷原狼』はガードが間に合わず、冷気の蹴りを受けて、凍てついた。 「腕上げたな、アンタ。こりゃマジでいかなきゃきびしいねぃ」 「今日は楽しませてもらうぞ」 「こっちも忘れないでねー」 「ねえねえ。普段何してるのー?」 ふざけているように見えるが、ここまで囲まれてしまえば囲いの突破は難しい。捕獲部隊への援護に向かうには、時間がかかりそうだ。ふと『氷原狼』が人形の方に目をやれば、そちらに向かう彩歌と視線が合った。 「その、なんだろう。……こすいわ」 『レーテイア』彩歌・D・ヴェイル(BNE000877)から向けられるサングラス越しの視線は、軽蔑めいていた。然もありなん。やっていることは少女を騙して、そのまま拉致しようとしているのだ。神秘がらみとはいえ狡いといわれても仕方ない。 「走りたい子の足狙うとか本当はしたくないんだけどね……」 彩歌は気の糸を放ち、『魂のない少女』の脚を傷つける。その一撃で走行不能になるわけではないが、それでも多少脚を止めることができた。バイクを手足のように扱いながら、戦場を見回した。高い集中力と綿密な作戦。それが彩歌の最大の武器。『論理演算機甲「オルガノン」』と自分の神経をリンクさせ、臨戦態勢に入る。 「落ちないように気を付けてくださいね」 軽快な蹄音を響かせながら、『蛇巫の血統』三輪 大和(BNE002273)は馬を走らせる。後ろに乗っている『エンジェルナイト』セラフィーナ・ハーシェル(BNE003738)に声をかけながら、トラックに近づいた。 「さて。都合の良い夢を見せ、醒めぬ眠りへ誘う夢魔の退治と参りましょうか」 蛇を模した影を体に纏わりつかせてサポートさせながら、トラックのフィクサードに向けて糸を放つ。巻きついた糸はその動きを拘束する。フィクサードも負けじと糸を引っ張り大和とにらみ合った。 「瀬戸さんを連れ去らせはしません。あなたたちの悪事は、ここで止めさせてもらいます」 大和はフィクサードを睨みながら、決意を告げる。そして後ろに乗っていたセラフィーナがトラックに乗り込んだ。 「今日の私は、世界のためじゃなく人を守るためのリベリスタ!」 世界の為にノーフェイスを討伐しなければならない依頼と違い、今回の依頼は命を救うことができる。セラフィーナは『守る』ことのできる役割に喜び、そして気合を入れる。ギアを一段階上げて霊刀東雲を構える。 「いつも以上に頑張っていくよ!」 床をけり、コンテナの壁をけり、そして天井を蹴る。狭い空間内いっぱいを飛び回りながら、フィクサードを傷つけていく。煌く刀は姉が使っていた刀。姉の遺志を受け継ぐという意思を込めて刀は振るわれる。 「どうしたどうしたどうしたぁ!」 25トンのデコトラ『二代目龍虎丸』を操る『外道龍』遠野 御龍(BNE000865)は普段のとき特徴が変わっていた。御龍曰く、『鬼神モード』である。気楽な口調は消えて、暴力性が表に出た動きになる。デコトラ体当たりでデッドオアアライブとかそのぐらい暴力的。 トラックの荷台には運転席側に龍、助手席側に虎。後ろの観音扉には鳳凰が描かれており、上部には『御意見無用!』の文字が描かれている。御龍はアクセルを踏み、一気に加速した。 「……ところで我はどれに攻撃すればいいのじゃ?」 「え?」 具体的な攻撃目標を定めてなかった御龍は、思わず忘我してしまう。前に出て殴ることは意識していたが、自分より前には『魂のない人形』『氷原狼』『捕獲部隊』の三体の目標がある。どれにするかを迷っている隙に、 「撃ち落せーっ!」 「隙ありだぜぃ」 フィクサードの集中砲火を受けてしまう。呪いの弾丸と氷の矢を連続で食らい、運命を削って起き上がる御龍。 「遠野さん!」 「愉しいぞ、この感覚! まだまだ倒れぬ。愉しませて貰うぞ!」 傷口をなぞり、ハンドルを握り締める御龍。アクセルを踏み、トラックが暴走する。 カーチェイスバトルは、混戦めいてきた。 ● 「悪者は私達がやっつけてあげる! 澄枝ちゃんには手を出させない!」 トラック内でセラフィーナの闘武が奔る。抜けば光、振るえば血飛沫。光で幻惑しながら、トラック内のフィクサードを傷つけていく。 「さようなら。夢のない人たち」 トラックの間近から氷璃が四色の魔力を放つ。四色の魔力はそれぞれが異なる魔力で捕獲部隊を傷つけ、そして纏わりつくように力を奪っていく。バイクに乗り込む前に展開した魔方陣はまだ効果を保っている。このまま攻め続ければ、時間はかかるが捕獲部隊を脱落させるのに問題はなさそうだ。 最も、本番はそこではない。否、捕獲部隊の排除も確かに必要条件だが、大切なのは『魂のない少女』を破壊して瀬戸澄枝の魂を救うことなのだ。それまでにガス欠を起こしてしまえば、意味がない。 「蛇神様の力をここに」 大和が全身の力を解放し、捕獲部隊に不吉を告げる。重なった神秘の厄災が捕獲部隊のフィクサードをさらに苛んでいく。大和は蛇の瞳で『氷原狼』を見る。 温度差を感知して氷の拳士の技を見切ろうと思ったのだが、安易ではないという判断に落ち着く。攻撃を放棄して監察すればあるいはわかるかもしれないが、そんな余裕はない。 時折『車輪屋』の方から耳をつんざくほどのクラクションが響く。彩歌以外のリベリスタはその音に三半規管を狂わされるが、 「くそぅ。やっぱり対策はしてあるか」 広範囲に広がるが故に命中精度は甘く、そしてリベリスタも『万華鏡』で予知してある事項に関してはシードなどで補強して対策をとる。御龍が少し復活に時間がかかったが、それでもわずかに足を止めたに過ぎない。 「姉さんの記憶が、私を守ってくれた……」 セラフィーナは自らが受け継いだ記憶が、音の災難から守ってくれたのを感じていた。一瞬瞑目し、そして刀を振るう。 「くそっ! あの護衛役にたたねぇ!」 捕獲部隊は護衛の『氷原狼』が囲まれて動けないと判断したのか、自らに群がるリベリスタを攻撃し始める。トラック内にいるセラフィーナを捕獲ネットを放って捕らえると、そのままトラックから放り投げた。 「きゃん!」 「大丈夫……あたっ!?」 捕獲部隊をブロックする為に前に出ていた彩歌がそれを拾うが、背後からの衝撃に驚き、集中力が途切れる。何事と後ろを振り返れば『魂のない少女』が彩歌に殴りかかってきたのだ。 (あ……! 最初に攻撃したから、私を敵だと思ってるのか!) 彩歌は己の失態に気付く。そして捕獲部隊からすれば僥倖である。人形が邪魔なリベリスタを殴ってくれる。ましてやこの距離なら捕獲が可能なのだ。この機会を逃す手はない。一気呵成に人形を攻めて、捕獲して離脱すればこちらの勝ちだ。 「おい! こっちのリベリスタ達を攻撃しろ!」 「いや、言うけどこっちも大変なんですぜぃ!」 『氷原狼』はクルトと甚内の攻撃を受けながら、叫び返す。アームブレイドに氷の刃を宿らせてクルトに斬りかかりながら、バイクをターンさせて後輪で甚内を襲う。 「アンタとはいずれ普通の足場で戦ってみたいね」 バイクでの追撃戦ではなく、純粋な格闘を。20年間培った格闘家の精神は強敵との戦いを喜び、そして望んでいる。氷の足技を繰り出しながら、笑みを浮かべた。 「その時は一撃で凍りつかせてやりますぜぃ」 「よそ見してる余裕は、ないよー!」 バイクの重量を盾でいなしながら、甚内が矛を構える。盾でアームブレイドを払い、その流れで矛を振るう。クルトと挟み撃ちにしてタイミングを合わせながら、時に強く時に素早く矛を繰り出し続けた。 「ゴメンだけど僕ちん達の相手してねー? ……ずぅっと!」 甚内が矛先で傷つければ、そこから生命力を吸い取っていく。『氷原狼』の攻撃は冷たく鋭い。回復のいないこの構成でその攻撃に耐え、相手を足止めする最適の方法だ。口惜しいが『氷原狼』はそれに付き合わざるを得まい。 「いいねぃ。後悔させねぇぜ!」 「まぁ、倒さないと囲みを突破できませんから仕方ないのですが」 「バイヤーちゃん、超KOOL!」 親指を立てるぐるぐ。彼女は格闘戦に巻き込まれたり、高いGで振り回されたりと結構ボロボロである。そんなぐるぐに『車輪屋』が問いかけた。 「時によろしいのですか、歪様? フィクサード側の我々とこのような接触。裏切りとは言いませんが、内通の疑いをかけられても仕方ないと思いますが」 「敵か好きかは別じゃない?」 ニコニコと笑顔を浮かべ、ぐるぐは答える。 「わー、オレっちモテモテだね」 「それはそれとして呪氷矢見せれ。ラーニングするし」 「あれ? もしかしてオレのモテ要因てその辺だけ?」 「逆に聞くけど、なんか警戒してない? こんなにオープンに接してるのに」 「アンタ豪快絶頂拳覚えたって聞いたぜぃ。あの天道とガチ殴り合いして生きてるとかマジありえねぇ!」 「うわー、結構ヘタレ」 「だからこっちの援護しろー!」 捕獲部隊が必死になって叫ぶ。リベリスタ達の猛攻に晒され、ほうほうの体で耐えていた。 「……くぅ!」 『魂のない少女』の攻撃を受けていた彩歌の体力が尽きる。途切れそうになる意識を運命を削って留め、バイクを立て直しながら神経とリンクした術手甲から糸を放つ。 「チェックメイト。これで終わりよ」 その一撃が、捕獲部隊の最後のフィクサードを貫いて、戦闘不能にした。トラックは作戦続行不可能を察し、アクセル全開で逃亡に走る。 「たいしたもんだ。こっちも引き時かね」 『氷原狼』達も戦線を離脱すべく速度を増した。クルトと甚内に傷つけられたダメージを確認しながら場を離れようとする。 「また遊ぼーね!」 「バイバーイ。まったねーん」 「余裕だねぃ、アンタら! じゃあ一応言っとくぜ、覚えてろー!」 リベリスタは『氷原狼』深追いせずに『魂のない少女』の方に向き直る。実際、余力はあるが『氷原狼』を押さえながらというのは無理がある。 彩歌を護るために前衛職が『魂のない少女』ブロックに入り、アーティファクト破壊の為に打撃を加えていく。 「ごめんね。もう夢から覚める時間なんだ」 セラフィーナが優しく語り掛けて、刃を振るう。楽しかった外を走る時間は終わり。辛い現実に戻すのはすこし罪悪感を感じていた。 「心地よかった夢はここで終わり。きっと目覚めた後は辛い現実が待っていることでしょう」 糸を人形に巻きつけながら大和が語りかける。 「ですが、この夢で貴女が感じた風をどうか忘れないで。それは貴女がこれからを生きていく時の目標にもなると思いますから」 この風を感じるために生きてほしい。現実と戦ってほしい。厳しく、そして優しい言葉。 「さぁ。楽しかった夢も、そろそろ覚める時間だ」 クルトが氷の蹴りを放ち、その動きを封じる。その後ろに控えるぐるぐの為に。 「暗雲の夢を豪快に晴らせ。この拳はその為にある! アクセル・ブースターフル出力!」 『大体こんな感じだったよなー』という半ばフィーリングで拳に力を溜め込むぐるぐ。 「ハイ、レディ。おはようの時間だよ。起きたらまた遊ぼうね。 目覚ましロケット豪快絶頂拳!」 豪快で絶頂するハイパー革命パンチが放たれた。同時にぐるぐを襲う激しい衝撃。本家本元はここまで酷い反動じゃないんだろうなぁ、と思いながらぐるぐは意識を手放す。 そして『魂のない少女』は、その一撃で崩れ落ちる。瀬戸澄枝の魂は解放され、彼女は夢から解放される―― ● 「なんにせよ、夢で済むならそれに越した事はないわ」 彩歌は傷の手当てをしながら、アークに報告を行なう。重傷を受けた人の為に医療班をよこしてくれ、と追加した。 「今更だけど、バイク数台にトラックに馬。中々シュールな集団だね俺たち」 クルトが出発前にはいえなかったことを口にした。確かに都市間の道路を走るには些か奇異と言わざるを得ない集団である。 「ぐるぐさんの搬送先は瀬戸澄枝ちゃんと同じ病室で頼むます」 がくっと倒れるぐるぐ。折角救った娘だ。一目見て見たいという思いがある。 「疾るって気持ち良いよねー。その事だけを覚えてて欲しいもんだよ」 甚内は目を細めて今日のことがいい思い出になるように願う。元暴走族として走る喜びがどれほどのものかを知っている。その喜びを忘れないでいてほしい。 氷璃はポケットに手を当てて遠くを見ていた。そこにいつも挿してある銀の万年筆。それを白鴉の使い魔にして飛ばした先に意識をむける―― 「また失敗かー」 「災難でしたね、『氷原狼』」 「アークに妨害され、挙句雇い主に裏切りを疑われるなんて。あー、もう信用は金で買えないんですよぅ」 「ならここまでやらなくても良かったのでは?」 『車輪屋』の言葉に『氷原狼』は肩をすくめて後ろを見た。 リベリスタと通じていたと疑った捕獲部隊のフィクサードが、裏切りの代償とばかりに銃撃戦を仕掛けてきて……反撃を受けて氷付けになり、横転していた。 「しょうがないでしょう。黙って殺されるわけにもいかないんだから」 「しかし問題です。これで仕事の口が減りました」 「わかってますよぅ。さてどうしたものか……おろ? なにこれ?」 「歪様が去り際に入れたカードですね。連絡先が書いてあります」 「デートに誘えってことですかねぃ」 何かを思いついたように仮面の下で微笑む『氷原狼』。 その視線が白鴉のほうに向けられる。指先に集まる冷気。矢を引き絞るような動きで呪いをこめた氷の矢を生み出し、解き放った。 ブツッ―― ――その後、アークは氷付けになり横転したトラックから逃亡したフィクサードを捕らえ、これを連行する。 しかし氷の闘士とバイクのEゴーレムの姿は、最後まで見つけることができなかった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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