● 鴉とは鳥類カラス科カラス属の鳥。 一般的なイメージでは「カラス」と括られがちだが、実際の所は広範な属を含んでいる。中には白い「カラス」も存在するのだ。 日本では都市部でしばしば見かけられ、ごみ収集場を荒らすなどの問題で知られている。 特筆すべきは知能の高さ。 ある程度の社会性を持つだけでなく、道具の使用すら可能である。さらには、人間の固体識別まで行う。 大型鳥類の一種であり、獰猛なものは大変に危険だ。 そんな生き物が、もしも神秘の力に目覚めたら……。 ● 5月のとある日、リベリスタ達はアークのブリーフィングルームに集められた。昼間に土砂降りに遭い、大変だったリベリスタ達に対して、『運命嫌いのフォーチュナ』高城・守生(nBNE000219)は事件の説明を始めた。 「今回あんたらにお願いしたいのは、とあるエリューションの討伐だ。と言っても、ただのエリューションじゃない。ちょっと厄介な奴だ」 守生が端末を操作すると、スクリーンに姿を見せるのは鴉……のように思えた。しかし、普通の鴉は機械のような装甲とネズミの頭を持っていない。普通の鴉の体は炎に包まれてはいない。 その姿に一部のリベリスタが納得の表情を見せる。 「以前にも出現したイレギュラーのエリューションだ。六道派が関わっているらしい奴らだな。こいつらが、夜中にハイウェイを走る暴走族の集団を襲うらしい」 以前にも現れた、複数のエリューションの特質を持つイレギュラーだ。六道派のフィクサードと関わりがあるらしく、以前出現した際には、戦場付近にフィクサードの姿が確認されている。『六道の兇姫』六道紫杏との関わりも囁かれている。 「このイレギュラーだが、『キマイラ』と呼称することになった。この多数の特徴の組み合わせは、人為的な追加工程の上に成り立つ『研究の結果』なんだろうからな」 六道派が『エリューション・キマイラ』でこれから何を行うか、それは分からない。だが、以前と比べて明らかに進化した『エリューション・キマイラ』の姿は、何かが進行していることを示している。 「それと、名称が決まったことにも意味はある。これ以降は、『良く分からないイレギュラーへの対応』ではなく、実体のある『エリューション・キマイラに関わる陰謀への対応』が行われるようになるわけだからな」 そこで、守生は再度端末を操作すると、周辺の地図を表示させる。今回の作戦を説明するためだ。 「この鴉型のキマイラは高架上の高速道路を走る暴走族を襲おうとしている。そこで、道路を一時的に封鎖した間に、やって来たキマイラを迎え撃ってもらう」 リベリスタの1人が、道の完全封鎖は出来ないのかと質問する。被害を無くすためなら、その方が確実だ。しかし、守生は首を横に振って答える。 「そうした工作を行うには時間が足りないみたいだ。出来たとしても、別の場所で同種の事件を起こすだけだろうしな。警察に暴走族を検挙させることも考えたが、逆に被害が大きくなる可能性が高い」 つまり、被害者を0にするためには、この場でキマイラを打ち倒さなくてはいけないということだ。たしかに、被害者となる連中は人に迷惑をかけるような連中だが、それでもエリューションに殺されて良い理由にはならない。 「キマイラの能力に関しては、資料を参考にしてくれ。それと例によって、付近には六道のフィクサードが潜伏して、状況を監視しているようだ。こいつらの関与が明らかになった以上、情報を得るために接触するのもアリだろう。もっとも、こいつらだって手ぶらで来ている訳じゃない。接触するなら十分に気をつけてくれ」 もちろん、必ずしも接触の必要があるわけではない。今までの六道派の傾向を見るに、作戦の確実な成功を期するなら、触れない方が賢明とも言える。 「説明はこんな所だ」 説明を終えた少年は、その鋭い瞳で睨むように、リベリスタ達に送り出しの声をかける。 「あんた達に任せる。無事に帰って来いよ」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:KSK | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2012年05月25日(金)23:50 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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● 車が走らない高速道路というものは、広々として見える。 戦闘するには少々心もとないが、普段車が我が物顔で占領している場を独占できるのは気分が良い。 街灯が照らす中、冷たいアスファルトの上に10人のリベリスタ達がいた。 初夏とは言うが、夜の風はまだまだ冷たい。 「巨大な鴉とは、これまた厄介ですね……」 「鴉と言うのは、中々に賢い上、鳥類としては大型の部類です。敵に回すには実はかなり怖い生き物なんですよね」 エリューションの接近に警戒しながら呟く『空泳ぐ金魚』水無瀬・流(BNE003780)に、『子煩悩パパ』高木・京一(BNE003179)が答える。彼の言う通り、鴉とは鳥類の中でも進化した部類に属する、都会に住む猛禽とでも言うべき存在だ。 過去に巨大化したエリューションと戦った経験のある流は、厄介なことだと思った。顎に手を当てて考え事をする仕草はクールな印象を与えるが、中身は普通の女の子なのである。 「鴉さんはとても頭が良いので、あちこちで研究が進められているホットな動物なのです。でも、こんな魔改造をしていい理由にはなりません。確実に、潰しましょう」 『極北からの識者』チャイカ・ユーリエヴナ・テレシコワ(BNE003669)は愛用のタブレットPCを抱きしめるように持つ。その瞳からは六道の行いに対する怒りが伺える。 怒りの表情を浮かべるのは『閃拳』義桜・葛葉(BNE003637)も同様だ。両の拳を打ちつけ、戦意は十分である。 「とはいえ、どれだけ危険な相手であろうと俺達はリベリスタだ。六道の動向は気になるとは言え……先ずはこれらを撃破する。話は、それからだな」 その時、夜空から鴉の鳴き声が聞こえた。 葛葉の視線の先に見えるのは、2羽の鴉。しかし、大きさはかなりおかしい。距離を考えると、人間の大人程のサイズがあることになる。それも当然だ。神秘の世界にあって、通常の常識などは通用しない。まして、相手は神秘の常識からも埒外にいる相手なのだ。 「アレが最近よく聞くキマイラってヤツ……? まぁ……どうでも良いわ……興味ないしね。あたしは潰しあいさえ出来れば満足だしね……」 『深紅の眷狼』災原・闇紅(BNE003436)は興味なさげに空を見上げる。彼女にしてみれば、相手が何者であるかはさして重要ではない。詰まる所は、戦う相手がいる。それだけの話だ。そして、刀を抜いた瞬間、どことなく嬉しそうな表情に変わる。「今日のはどれくらい持つかしらね……」 「さぁ、みんな。相手は範囲攻撃が多い。散るぞ」 『てるてる坊主』焦燥院・フツ(BNE001054)の声に、道路の中に散開するリベリスタ達。敵が不可思議なエリューションを繰り出してくるのなら、こちらはそれを迎え撃つだけだ。念を込めて、キマイラを引き寄せるために自らの体を発光させる。 「ふむ、鼠の頭を生やした鴉のキマイラかぇ? 同じ六道で何処まで違う面か――ちと気になるのぅ」 『陰陽狂』宵咲・瑠琵(BNE000129)の頭に思い浮かぶのは、以前出会ったことのある六道のフィクサード。彼が扱っていたエリューションと、キマイラのパーツを構成するエリューションに類似点が多い。 そんな思索を打ち切ったのは、『ジェットガール』鎹・枢(BNE003508)の明るく元気な声だった。 今回の相手と空中戦が出来ると言うことでか、普段以上に元気いっぱいだ。 「空中戦! スピードアゲアゲで参りましょう!」 ● 空を飛ぶ、というのは戦闘において大きなアドバンテージになる。 純粋に相手の攻撃が届かない場所から攻撃が出来るのだ。銃が騎馬の時代を終わらせたのと理由は同じである。神秘の世界にあっては、戦いにおいて若干の不利を得るために未だに飛行は戦場における主流とはなっていない、幸いなことに。 しかし、このエリューションはそれを覆しかねない存在である。 「もっとも……その分切り刻めばいいだけだけどね」 闇紅の動きに迷いは無い。 キマイラ達が放つミサイルと炎。それを掻い潜り、むしろ爆風を追い風として機械に覆われたエリューションに斬撃を叩き込む。交錯したのは一瞬。しかし、舞い散る羽が一撃を与えたことを教えてくれる。 「カー! ……じゃなくて、いきますよー!」 注意を引けないかと鳴き真似をしていたしていた枢だったが、意味が無さそうだと悟り、狙撃戦に移行する。その表情が嬉しそうなのは隠しようもないし、隠すつもりも無い。 翼を羽ばたかせると、弾幕が荒れ狂う中に身を躍らせる。 炎の弾丸をかわすと、ミサイルが迫ってくる。 マントで防ぐが、ミサイルの爆風が身を焼く。 理想ほど上手くは決まらないが、これでこそ憧れていた空中戦だ。 そして、ミサイルを打ち出してきた鴉に肉薄する。空中戦用のミサイルを持っているのは羨ましいが、そこはそれ。 手に持っていたナイフを一閃させる。 「よし!」 手ごたえを感じた。この調子で頑張ろう。 空の上で楽しそうにしている枢と対照的に、チャイカは冷静なものだ。 「日本の高速道路は耐久性も高く理想的な環境なのです」 冷静に戦場を分析すると、彼我の距離を測り、自分のポジショニングを行う。 そして、集中から気糸を放つ。気糸は縦横無尽に空を駆け巡り、キマイラ達を貫いていった。 (思っていたよりも戦場に余裕があって助かったぜ) 戦場を眺めてフツが心の中で呟く。お陰で敵の猛攻に晒される仲間はかろうじて少ない。もう1つの作戦は当てが外れてしまったようだ。しかし、傷ついた仲間がいるのなら、彼の仕事はいくらでも沸いてくるものだ。 詠唱と共に流れる調べが仲間達の傷を癒していく。 「助かるぜ。それじゃあ、俺は纏めて薙ぎ払うだけかね、いつもの如く」 「何時までも、空に居られると思うなよ? 降りてこないなら、落とすまでの話だ」 『断魔剣』御堂・霧也(BNE003822)が構える斬馬刀に生命力を込め、葛葉はクローを大きく構える。2人が空のキマイラ達に向かって振り抜く。すると、暗黒の瘴気が刃となって襲い掛かる。 「ふむ、さすがに今度は攻撃された位では降りてこぬか。向こうも学んでおるようじゃの」 「それにしても、六道の方々は巨大な生物が好きなのでしょうか?」 相手の戦い方を分析する瑠琵と、ふと益体も無いことを考えてしまう流。 以前同種のキマイラが現れた際には、リベリスタが射撃攻撃を持つ様子を見て降りてきた。飛行することの利点が無いからだ。しかし、今回のものは空を飛べる利点を最大限に生かし、降りる様子は無い。中々に強力なエリューションになっている。もし、これがさらに強化されたら……そんな不安がリベリスタ達の胸をよぎる。 その不安を打ち消すために、戦いの準備を行う2人。切り札を出すのは今じゃない。 「やはり、空を飛行する相手は戦い辛いものです。とはいえ、これだけの人数であればこそ為せる戦いもあります」 仲間を激励しながら式神を飛ばして反撃を行う京一。 向かってくる式神に苛立たしげな様子を見せるキマイラ。 その時、キマイラの視界に光る何かが映る。 そして、眠っていたもう1つの本能が目を覚ました。 ● 「「カァァァァァッ!」」 一際大きな鳴き声を上げると、キマイラ達は地上に見つけた輝くものに向かって急降下を始める。 戦いが始まった当初は、制御していたのだろう。しかし、戦闘中の興奮等で抑えきれなくなったのだろう。元々、理性が感じられるデザインでもない。 「カラスっぽいから、光物に弱いだろとは思っていたが、上手く行ったみたいだな」 「フツの御来光は何か御利益ありそうじゃのぅ」 ふざけてなむなむとフツに拝んでみせる瑠琵。 フツは会心の笑みを向けて返す。 それに応じて、瑠琵は向かってきたキマイラ達への反撃を開始した。 「散々攻撃してくれた礼をたっぷりと返してやらねばのぅ」 現れた影人が機械を纏うキマイラへの攻撃を行う。そこに続けて、アルフォンソ・フェルナンテ(BNE003792)の投げる神秘の閃光弾が光を放つ。隙が生じるキマイラ。 そこへ鋭い踏み込みで、葛葉が距離を詰める。 「装甲が厚い様だが……」 コォォォと呼吸を行うと、葛葉の中で練られる頸の気。 それを連打で叩き込む。 「この衝撃は、どのような壁であろうと容易く打ち砕く!」 たしかに、キマイラの装甲は硬かった。しかし、さすがに内部からの破壊を防げるようには作られていない。破壊の気が体内を駆け巡り、肉が弾け飛ぶ。 「ギャァァァァァァァァァス!!」 悲鳴を上げるキマイラ。 そこに上空から死神が降り立った。 「あの暑苦しいのを抑える予定だったんだけどね……邪魔だしこのまま終わらせてもらうわ……覚悟なさい!」 急降下で迫る闇紅の刃が幾度も閃く。 そして、刃が鞘に納められた時、キマイラは動きを止めていた。 これで残すは炎を纏うキマイラだけだ。リベリスタ達の負傷も決して浅くは無い。しかし、今までの戦いでキマイラも傷ついている。引くわけには行かない。 「カァァァァァッ!」 キマイラが大きく鳴くと、その体を一際大きな炎が包む。 そこから自身の身を焼くことも厭わず放たれる炎は、リベリスタ達を圧倒する。 「地上に降ろしてもようやく対等ですか……しかし……」 全身を燃やしながら京一が立ち上がる。愛する妻子の下に帰るためにも、こんな所で倒れるわけには行かないのだ。まだ、マイホームのローンだって残っている。 その思いは運命を引き寄せ、京一を立ち上がらせる。 素早く印を結ぶ京一。 現れた呪印がキマイラの体を捕縛する。悲鳴を上げて、拘束から逃れようとするキマイラだが、いかに力を込めようともびくともしない。 「今です、皆さん!」 「飛んでいる子の事なら良く知っているのです。あくまで神秘が絡まない範囲なら、ですが」 動けないキマイラに向かって、何本もの気糸が一斉に突き刺さる。事前にチャイカが準備していたものだ。 キマイラはエリューションやアーティファクトの特質を備えている。そして、おそらく炎のキマイラはアーティファクトの力で、エレメントの能力を呼び出したものだ。それならば、本体を叩く方が有効なはず。 「大事な役割の方を守るのも、うちの仕事ですから。そのための盾なんですっ。ほらっ、貴方達の好きな光物ですよ、っと!」 後ろに仲間を庇いながら、閃光弾を投げる流。 その光はキマイラを覆っていた炎を吹き飛ばした。 「熱いのは気合と根性で我慢! いきますよ、メラメラカラス!」 地面スレスレの低空飛行で、キマイラとの距離を縮める枢。 キマイラはカウンター気味に嘴を突き出して反撃しようとする。 しかしその瞬間、枢の体がふわりと宙に浮く。 キマイラの目に映ったのは、月を背にした枢の姿。 そして、振り下ろされるナイフの軌跡だった。 ● 「そっかぁ、こいつらこれがあったか」 悔しそうな表情を浮かべるフツ。 目の前にはドロドロに溶けてしまったキマイラ達の死体があった。 戦闘後、キマイラ達の調査をしようとした所、その死体がこのように変貌してしまったのである。 せめて機械部分だけは溶けないでいてくれることを期待したのだが、これはメタルフレームのボディのような体の一部。外付けのパーツではなかったようだ。 「仕方ありません、フィクサードを探しに行った皆さんの吉報を待ちましょう」 フツの肩を叩くと、アークへの連絡を取る京一。なんにせよ、事件は解決したのだ。 ひとまずは処理しないと様々な問題が出てしまう。 これに懲りて六道派が活動を止めてくれればいいのだが、そうも行かないのだろう。 思わずため息をついてしまった。 一方その頃、フィクサードを捜索に行ったリベリスタ達は、近くのビルでフィクサードと対峙していた。瑠琵が怪しい気配を感じたのだ。向かってみると、現場から離れようとするフィクサード達がいたのだ。 「宵咲瑠琵か……さすが、悪道虚無のエリューションに打ち勝っているだけのことはある……」 「残念じゃが、奴とは別口のようじゃな。エンブレムをつけておらん段階で察してはおったが」 少々小競り合いが起こったものの、この場を離れたいフィクサードと消耗したリベリスタだ。全うな戦いになるはずもない。 「被験体集めには失敗したが、キマイラのデータは取れた。紫杏様への報告には十分だ、この場は撤退するぞ」 「紫杏……? それが貴方達のボスですか? 何を企んでいるのです? キマイラで戦争でもするのですか?」 流の言葉には答えずに逃げ出すフィクサード。 その背に向かって、流は力強く宣言する。 「……どんなことだろうと、必ずアークが阻止します。覚えておいてください」 葛葉は気付いていた。リベリスタが現れた段階で、キマイラを捨ててフィクサード達に逃げ出す余裕はあったはず。「被験体集め」とやらだけが目的だったのなら、それで良かったのだ。 しかし、その上でもフィクサード達はここにいた。おそらくはリベリスタ達の強さを測るために。 何のためにリベリスタの強さが知りたいのかは分からない。この事件が終わっていないことだけは確かだ。だが、しかし。 「お前達の企みは、俺達が阻止する……これから、ずっとな」 葛葉はそっと拳を月に向かって掲げた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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