●三高平の焼肉店にて。 これは絶対食べきれないんじゃないか。 と、テーブルに居る誰もが、薄々そんな予感を抱き始めていた。 その証拠に、ほらみろどんどん肉が焦げていく、焦げていく、むしろ、焦がしている。 とか、分かってても、じゃあお前食べろよ、とか言われても絶対無理なので、芝池は黙々と見ないフリ、っていうか、そこは大人な対応をすることにして、何とか自分の受け皿にある分だけは片づけようと、頑張っていた。 頑張ってはいるけれど、テーブル中に漂う、苦行感というか悲痛な空気感が、半端ない。 あんなに最初は楽しそうだったのに。あんなに最初は、楽しげにいろんなものを注文していたのに。 「いや絶対食えるって。いや俺、こう見えて凄い食うから!」とか調子に乗っていた友人は、今や見る影もなくて、もうどうしていいか分からないくらい切なく、沈黙に押しつぶされそうで、肉が上手く喉を通らない。 むしろ、逆流してきそーなんですけどどーしたら。 って、芝池は、チラ、と焼き肉店の食べ放題のチラシの下の方に書かれた、残された場合は罰金を頂きます、の文字を見る。 いやもうこれ罰金払った方がいいんじゃないかしら。世界中の飢えた人々には本当に心から土下座する思いで、罰金払った方がいいんじゃないかしら。 と、言いたいけど、何かまだ、「俺こう見えて凄い食うから!」を体現しようとして、頑張っている友人を見ると気の毒な気がして、言えない。 だったら頑張るしかないんだ、男が四人揃って、どうして肉如きに負けるんだ、どうしてあとこれっぽちの肉が食えないんだ! そうだ、頑張れ俺! とか、普段なら絶対思わないそんなエネルギッシュな事すら思わず考えてしまい、わー何か追い詰められ過ぎてキャラまで変わり始めてるどしーしよー。 って別にどーしよーもないので、惰性でそっと、肉を口に、運ぶ。 とか何かやってたら、芝池の携帯がぶるぶる、とポケットの中で震えた。 表示を確認すると、見た事もない数字の羅列で、でも何だろう、凄い嫌な予感がする。 でもまーとりあえず、この場から一瞬でも離れられるなら、肉を見ないで済むならば、と、軽い気持ちで通話ボタンを押し、席を離れた。 そしたら、 「はい、もしもし」 と応答した時点ですかさず、「今、焼き肉屋に居るでしょ」とか、言われた。 もー何かその声だけで、アーク所属の変人フォーチュナ、仲島だ、と分かって自分が、何か凄い残念な気がした。 「はー、居ますけど」 「今、誰かと一緒に居るよね」 「っていうか、何で番号知ってるんですか」 「あ、聞きたい?」 「いや、何か声が嬉しそうなんで、やっぱりいいです」 「一緒に居るのは、誰? 友達?」 「はー友達ですけど」 「帰らして」 「え?」 「だから、帰らして」 「いや無理です」 「何で」 「食べ放題で、食べきれてないからです」 現状をさっくり説明すると、暫し向こう側が沈黙した。 「いや、電話で沈黙とかやめて貰っていいですか」 「いや何か、馬鹿じゃないのって思ったけど、言ったら可哀想かな、と思って」 「馬鹿は認めるんで、切っていいですか」 「行ってあげようか?」 「何かそんな俺が行けばお得だよ感出して言ってますけど、絶対仲島さん、肉ガツガツ食べられないですよね」 「あら、意外と食うのよ、俺」 「いやもうその言い回しは、今は聞きたくないです」 「仕事の話があるのよ。敵の討伐とアーティファクトの回収お願いしたくて。その資料作りをね」 「えー今ですか」 「今聞いた方がいいよ。休憩にも、なるし」 「休憩……してももう食べられないと思うんですけど」 って、あの現状を思い出して泣きそうになって言ったら。 「ワー何それ追い詰められてる背中が凄い可愛いー」 って絶対思ってないですよね? みたいな棒読みの声が、すぐ近くで聞こえた。 え、なんで近く? とか顔をあげたら。 「来ちゃった」 とか、まさしく中嶋の無駄に美形の顔がある。「だからほら、他の人帰らせてよ」 「中嶋さん」 「うん何だろう芝池君」 「分かってらっしゃると思うんですけど、迷惑です」 とか言った顔をじーっと見たわりに、実は全然聞いてなかったらしい仲島は、 「えっとね。お願いしたいのは敵討伐とアーティファクト回収依頼の資料でね」と、さっそく話を開始する。 「敵は、フェーズ2のE・ノーフェイスが4匹出現する。どういうわけか、黄色いヘルメットと黄色い全身タイツと黄色いマントの、名付けて黄色君が、4匹ね」 と、更に続けた。 「いや迷惑って言ったのに、聞いてないですよね」 「うん聞いてないね」 ってそんなはっきりと言われるとは思ってなかったので、ちょっと何か、あ、ってなった。 けど、どんどん仲島の説明は続いている。 「で、場所は某所にある倉庫内なんだけど。だいぶだだっ広い倉庫でね。一番奥には戦闘しやすそーなスペースがあるんだけど、途中には棚で出来た通路があってね。棚にはいろいろな荷物がまだ、未開封のまま陳列されてるんだよね。ちなみに棚の数は四つ」 「えーっと。荷物は、どういう物なんですか」 でもいつまでも、あ、ってなってるわけにもいかないっていうか、あっ、てなってても誰も助けてくれない予感がしたので、話に乗ることにした。 「さー。エロいDVDとかなんじゃいかなあ? まあ、開けてからのお楽しみだね。火気厳禁な物もあるかも知れないから、戦闘する時は気をつけて」 「開けてって、開けちゃっていいんですか」 「うん。使用していた会社は倒産しちゃってるんで、どうせ処分される物なんだよね。だから、監視カメラ、監視セキュリティなどは作動してない。でも、電気は通ってるから使用してくれて構わない」 「はー倒産しちゃったんですね、切ないですね」 「あと、アーティファクトなんだけどね。小瓶入りの液体で、体の何処かから、花が咲いちゃう液体っていうのなんだけど」 「は?」 「これが、荷物の何処かに紛れ込んでしまってるはずだから、見つけて回収してきて欲しいわけ。ただ、見た感じではやっぱり分かりにくいと思うから、試してみると確実かもね。何処からどんな花が咲くかは、咲いてからのお楽しみって、ことで」 「いや今マイルドに説明してますけど、花が咲くってどういう事ですか、っていうか一体何でそんな事になっちゃったんですか、っていうか、何でそういうことになったのって全然気にならないんですか」 「うんまー別に。何か、革醒しちゃったんだろうなって」 「え、全然気にならないんですか」 「あと、実は言ってなかったんだけど、あのテーブルの代金、もう払っちゃったんだよね。どうせ食べきれないだろーと思って罰金も。で、余った奴は持ち帰り用に包んで貰って、俺が持って帰るから。店長、知り合いだし」 「え、そうなんですか」 「うん、そうなの。どう俺って役に立つでしょ。だから他の奴、帰らせてよ」 って相変わらずの無の表情で言われた瞬間、何か反抗心が沸いてきた。 「いやまあそれは確かに有難いですけど。でもこれは、そんなお金とかの問題じゃないんですよ。何だったら男の意地の問題なんですよ、頑張ってる友人にそんな事言えないですよ」 って熱弁したけど、全く心打たれてないさらーっとした表情でこっちを見つめていた中嶋は、やがて、言った。 「うんその意気込みは、別のものに向けたらいいんじゃないかな」 あ、確かにその通りだ、と、誰より自分が思ってしまったので、もう何も言い返せない。 芝池はすごすごと踵を返した。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:しもだ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年05月20日(日)23:47 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 隣に居る『まだ本気を出す時じゃない』春津見・小梢(BNE000805)が、何かぼそぼそ言っているので、アルフォンソ・フェルナンテ(BNE003792)は、一体何を言ってるだろーとか思って、さりげなく近づき、耳を澄ませてみた。 瞬間、彼女は、 「ところで、しょくんって、何だろ」 とか、言った。 え? と思って小梢を見ると、彼女は何処かぼんやりとしたわりと「無」な表情で、「しょくん、私はカレーが大好きだ。しょくん、私はカレーが大好きだ。でもほんっとしょくんって何なんだろ」 ってまた、多分さっきもそこに引っ掛かったんだろーな、みたいに、やっぱりそこに引っ掛かり、 「でも仕事なので、カレー食べてもお金は貰います。カレー食べても仕事は仕事なので、給料は貰うんですカレー。いや、しょくん。っていうか、ックション。っていうか、ックションカレー」 って何かもー最終的には何だか良く分からない事になった。 のだけれど、わりと気に入ったのか、「うん」とか一人で納得している彼女に、「そんなにカレーが好きなのですか」と、アルフォンソは話しかけてみる。 そしたら、わりとぼーっと振り返った彼女は、暫くアルフォンソをじーとか見て、やがて、言った。 「うんもうむしろ何だったら私がカレーですよね」 でも、言ってる事がもー完全に成立していない気がした。 にも関わらずそこで、『第25話:あほ毛ロリ』宮部・香夏子(BNE003035)が、「いえ、違いますよ」と、成立してない所を強引に成立させてきたので、驚いた。 しかも、「違うんです。今回はもう、全てがカレーなんです。全てがカレーなんです」 って何で二回言ったかも分からないのだけれど、いかにも今、良い事言いました的な若干のどや顔でかぶせてきて、でも全てがカレーってどういうことか、良く良く考えてみたら、っていうか、良く良く考えてみても、全く理解できなかった。 そしたら突然、背後から、「なるほど、そういうことですか」と、今の言葉の何処に納得すべき点があったのか全く分からないのだけれど、誰かが納得して、一体誰だ、と振り返ったら。 えアザーバイド? ではなくて、『怪人Q』百舌鳥 九十九(BNE001407)だった。 「ふむ、私がこの依頼で何をすれば良いのか。今のくだりではっきりと分かりましたぞ。みなまで語って頂かなくて結構。ええ、ええ、大船に乗ったつもりで安心して下さい。さしあたっては、大きめの鍋を一つ二つ用意しまして……」 そして、明らか悪い奴ですよね? 怖い系の人なんですよね? みたいなビジュアルで、物凄く丁寧に、何らかの作戦らしいことを、述べ始めた。 でも、何を言っても、完全にそのビジュアルに全部持ってかれてるっていうか、全然言葉が頭に入ってこない。 どうしていいか分からないくらいに入ってこない。どうしよう。ビジュアルやばい。言葉が全然頭に入ってこない。何なんだあの仮面。何なんだ、この奇抜な格好。何なんだ、その中華なべ。何なんだその、中華なべ。 とかいうくだりからは、少し離れた所で、 「んーまあ、食物を粗末にする奴とかは確かに個人的に殺意を覚えるが……あえて疑問をあげさせてもらうと……敵が出す液体は……食いものとして認識していいのか?」 とか、どうしてもそこ凄い引っ掛かってるんですけど、みたいに、『スレッシャー・ガール』東雲・まこと(BNE001895)が、カレーに盛り上がっている愉快な仲間達をじーとか腕を組みながら見つめていて、「敵が出してくる液体を、食いものとして認識して、いいのか? 俺はそれを許せるのか」 って、若干何か、小じんまりとした迷宮に一人、迷いこみだした。 とかいう、その隣では。 「それにしても黄色君って、一体何を考えてそんな黄色いのかしらねえ」 とか何か、『┌(┌^o^)┐の同類』セレア・アレイン(BNE003170)が呟いていて、そしたら何かぴゅってオレンジ色の何かが前を横切り、え、出た? エリューション出た? って、一瞬本気で武器を構えかけたのだけど、良く考えたら敵はイエローで、オレンジ色の小さいこれは違う。 あと何でもいいけど、オレンジ色がちょっと、眩しい。 「イエローといえばカレー、カレーといえばイエロー!」 着用している合羽らしきものをしゃっかしゃかいわせながら、ぴょんぴょんと元気に飛び跳ねているそれは、『シトラス・ヴァンピール』日野宮 ななせ(BNE001084)だった。 「ダメージを防げるのかどうかは解りませんが、とりあえずお洋服が汚れないように、オレンジ色のカッパを着て来ました日野宮ななせです! 宜しくお願いします!」 「や、やばい、目がチカチカする」 「それから今回は、カレー依頼ということですから、ごはんも持ってきました!」 「いやうん分かったから、ぴょんぴょんするの、ちょっと」 とかやってたら、 「でも、香夏子もこのお仕事のために、おニューのお皿持って来たのですよー!」 って、普段確実眠そーで、わりとぼんやり系の香夏子が、対抗意識的な物を燃やしたのかそこに乱入してきて、何か全然分からないけど、わーいわーい、って俄然テンション上がってぴょんぴょん飛び跳ねて、ハイタッチで互いを讃え合い出し、そしたら何か、更にそこへ、それまで全く興味を示してなかった、かどうかすら分からない感じで、ぼーっとしてた、『鯱』縁 乖離(BNE003795)までもが、「カレー♪ カレー♪」とか何か、あれ? デッサン狂ってない? 遠近感おかしくない? みたいな、体よりだいぶごっつい剣をぶわ、とか振り上げ飛び跳ね出し、小さい三人、内一人眩しい、とかいう彼女たちの儀式的な小躍りは微笑ましい。 わけはなくて、迷惑な事、この上なかった。 「で、いつまでやるの」 小梢が別にいーんだけどさ、みたいに言った。 瞬間。 はい、飽きました。みたいに、スパッと表情を変えた乖離が、突然、でっかい剣を引き摺りながら、ふわーっと歩き出した。 え、あれ? 夢遊病? みたいに、一同がちょっと心配して見守る中、くる、と振り返った乖離が。 「何か、今、黄色の出た系~」 全く出た感じのしないふわっとさで、言う。 ● 「カレー出たー! 出たカレー!」 途端にまず香夏子が、全力で前へと出だした。 棚の隙間を縫うように走るノーフェイス「黄色君」を、普段は眠そうな目をギンギン、ランランにしながら、追いかけ、追いかけ、追いかけ、追いかけ。 ハイスピードの威力で、というより、どうやら、カレーが食べたい、その欲望が果てしない。 とかいう間にも、ショットガンを構えた九十九が、向かいの棚の隙間から、1$シュートで黄色君の周囲を的確に狙い、撃ち抜いていく。 二体の黄色君は、黄色い長靴の足をわったわたさせながら、もうこれこっちにしか走れないんで、走ります! と、どんどん倉庫の奥へと向かい。 そうして、戦闘し易そうな倉庫の奥へと追い込むぞーってすんぽー。 かどうかは知ったこっちゃないすわーみたいに、香夏子の後から、ダブルシールドを構えた小梢が更に黄色君を追いかけていく。 だって、せっかくのカレーなんだもん。でもまーカレーじゃなくてもアークからお給料貰っている以上、お仕事はしないといけないよね。あらやだ私って偉い、だから今すぐ。 「カレー食わせろー」 って、相手には全く伝わらない、驚異の思考の三段跳びを見せた小梢は、その勢いで、むーん! とか、パーフェクトガードを発動させ、辿りついた倉庫奥。 「カレーはよ! カレーはよ!」 先に相手を追いつめていた香夏子が、体から得体の知れない熱をむんむん発散させながら、叫んでいる。 「はよせな! はよせな! カレーはよせなー!」 そして若干もう何か、変な恍惚状態に入った臭い彼女が、ぱーっと両手を広げた瞬間、全身からピューっって何か変な気糸らしきものが放出した。 「いやん、カレープレイで出ちゃっいましたギャロッププレイ」 ぽッ。と若干頬を赤らめ、もじもじとした彼女は、AFをそっと取り出した。 「だって香夏子。このお仕事のために、おニューのお皿持って来たのですよ」 そのままもじもじしながら、AFの操作画面をポチポチと操作し、皿を選びダウンロード。 しようとしてる間に、隙あーり! みたいに、別の黄色君が手を翳し、今まさに彼女の待ち望むカレーを! 「わー香夏子ちゃん、あぶなーい、かきーん」 ってそこへ、確実やる気なさそーな覇気ない声を上げながら飛び込んで来たのは小梢で、ダブルシールドを構えカレーを受け止め。 「わー盾がカレーくさーいやったー!」 あんまり良く分からない喜び方をした。 「わあ! 今のはだいぶナイスカレーですー!」 「おーナイスカレー!」 みたいな何か、カレー部です的な掛け声で小梢を讃えた香夏子は、 「私にも、カレーはよです!」 改めてぐっと皿を構え。 ああ……! いよいよですか! いよいよですね! 香夏子わくわくのカレータイムが来たのですね! ドピュッー! 「わふぅーン! ナイスカレー!」 ……いやいや。 とか、無数の小さな銛のついた格闘銃器バレットハープーンを手に、また別の黄色君を追い込んでる途中だったまことは、そんな喜んで小躍りして回転までしちゃってる仲間の姿を見つめ、愕然とする。 いやいや、その液体、本当にカレーなのか。っていうかそもそも、食いものなのか? 本当に食うのか、食いものなのか、それでいいのか! って考えてる内に興奮しかけて、いかんいかん、とまことは、ハッとする。 ペースを乱されるな。あれはあれでいいんだ。俺は俺の敵をやっつけるんだ。よし、集中集中。 って、集中しようとすればするほど、思考はどういうわけか、どんどんまた、散乱し。 しかし考えても見れば哀れな連中だ。革醒してしまった挙句に見についた能力がカレーっぽい液体を出す能力だなんて。 その上、そんなクソチンケな能力に引っ張られ、全身黄色になんてしてしまって。 しかも、黄色君などというやっつけくさいコードネームをつけられて、何て、何てあわ。 うんま、どうでもいいよな! って、最終的には面倒臭くなって、呪印封縛を発動した。黄色君の体の周囲に、幾重にも展開していく、束縛の呪印。 そこへズサーっとマントをはためかせながら現れたのは。 あれ? アザーバイド? ではなくて九十九で、その背後の足元にガンッって中華鍋を落とすと、「くっくっく、これぞ我が秘策」とか、不敵過ぎるくらい不敵に、笑った。 「これで奴らめの飛ばすカレーを避ければ、それが鍋に入るって寸法よ。私の回避力あればこそ出来る作戦ですな。さあ、来い、黄色い怪人め!」 そして無駄にマントをブワァサッ。 けれど次の瞬間、 「黄色い怪人だと! 貴様こそ怪人みたいな見た目をして、何を言うんだ! カレーなどやるか! これを喰ら」 とか、黄色君が言ってはいけないことを言った。 ごごごご、と静かに、怒りなのか悲しさなのか、良く分からないオーラが九十九を包む。 「見た目は」ぼそ、と呟くように言った彼は次の瞬間、カッ! と顔を上げた。 ドーン! 仮面のインパクトがドーン! 「関係ないわこのやろー! どんな人間だってカレーを食べる権利はあるんだ! ごちゃごちゃ言ってないでとっとと、たっぷりカレーを出してしまえ。出し切ってしまえ! 後で美味しく頂いてくれるわ!」 ガオー! って完全にもうやっぱり、悪い奴ですよね? 怪人なんですよね? みたいに、両手を振り上げた九十九に対し、すっかりわー! 怖い怖い怖い! ってへっぴり腰になった黄色君が手を翳し、どぴゅ、とカレーを。 放った時にはもうそこに、九十九はいない。 「ばーかばーか。ざまーみろ。貴様のカレーは私の中華鍋の中だ」 とかいうその少し離れた所では。 「なにそれ! レーザー! かぁっくいいねー! いいなー! 倒したらもういらないだろうから貰ってもいいよね?」 ってすっかり楽しげに覚醒しちゃった乖離が、自分の体よりでっかい剣をがっつんがっつん振り回し、黄色君をびびらせていた。 「わーい、ぶらっくじゃーっく!」 って、小さな子供がヒーローごっこしてるみたいな雰囲気の彼女から、かなり本気な黒いオーラがビューン! と伸びて、棚にあるものをがったがた弾き飛ばして、黄色君の脇腹を思いっきり、突き刺した。 瞬間、体内から血液らしき液体がブチャッと飛び出す。 「はははは、おもしろーい、ばいばーい」 「いやだ笑っているよ……」 「笑ってますね……」 それで思わず、セレアとアルフォンソが顔を見合わせていたら、そこに彼女の攻撃の影響で棚からバサッと落ちてきた箱の中身が、ぴょーんとか、飛んできた。 あ、小瓶。とアルフォンソが思ってたら、それがガツン、とセレアの頭を直撃し、蓋が外れ、びちゃって顔にかかった中身の液体を、ぺろりした。 「ん? 何これ、ネパール風のマトンカレー味?」 って最早、どんな味か、咄嗟には想像つかないコメントを言った彼女の胸の辺りから、突然、ポンっと。 「え」 っていうか、乳首ですよね、これ、乳首から花咲いてますよね! みたいに一瞬愕然とした彼女は、暫しそれを見つめ、それから、同じ表情のままアルフォンソを、見た。 「いえ、こちらを見られても」 「何これ、アーティファクトだったの」 「そのようですが」 「何でこんな所から咲いてるのー!」 って絶叫した彼女の隣から、お、隙だらけの人見っけ! みたいに黄色君が突っ込んで来たのが見えたので、アルフォンソはすかさず、フラッシュバンを発動した。 神秘の閃光弾がパアアンと破裂し、目も眩むような閃光を放つ。 「こんな所から花咲いて、もうお嫁行けねえじゃんこのやろー!」 ひるんだ敵に、くわっと牙をむき出しにしたセレアが突っ込んだ。ガブっと噛みつき、ヒット。そして、アウェイ。と、そこへ背後から、巨大なハンマーFeldwebel des Stahlesを構えたななせが突っ込んで来て。 突っ込んで来て。はいいけど、頭のてっぺん、アホ毛の先から、ピヨーンとお花が咲いている。 あ、これ、彼女も舐めちゃったんだな。 とか思ってるアルフォンソの目の前を凄い勢いで通過していき、そのお花さんの可愛らしさからは到底想像できないような激しい攻撃を、ハンマーから繰り出す。 ガッツーンと、叩き潰すように押し込むと、ぶっ飛んだ黄色君に尚もトドメの、メガクラッシュ!! くる、と振り向いた凛々しい顔に、「あの、あ、頭からお花が」 って、一応アルフォンソは教えておいてあげることにした。 「え?」 ことん、と小首を傾げたななせは、自分の頭のてっぺんをさわさわし。 「あはははははー。本当だー! アホ毛の先に、お花が咲きましたー♪」 途端に満面の笑みを浮かべ、ふわふわ、と微笑む。でも隣で息絶えているノーフェイスらしき物体が、とっても、シュールだ。 とか何かやってたら、「わー見て見て、この人すっごいねー」って乖離が、凄いほのぼのと、DVD片手に寄って来た。 「持ってかえろーかなあ。おたからおたから♪」 でもその服は、完全に人、殺ってきました、みたいに、カレーっていうか血で汚れていて、アルフォンソは言葉を失う。 「ところで、目当ての小瓶は、さっきそこに落ちてたから、回収しておいたぞ」 とか何か言いながら、小瓶を振りつつ現れたまことが、乖離の服、ではなく、手元をちょっと、ガン見した。「うむ。ついでにこういう金目の物も貰っておくか。AVも然るべきところに売れば小遣い程度にはなるしな」 そして別の箱を漁ろうと、後ろを振り返る。 そんな彼女の邪魔そうなくらい長い尻尾からは、ポンと可愛らしいお花が。 そのことに彼女は気付いているのか、無言で箱を漁っている横顔からは、判断できない。 そこへ。 「辛いです! 香夏子、鼻、辛いです! カレー食べ過ぎて鼻が何か、相当辛いです!」 げほげほ、と激しくむせる声が響いた。 奥ではまだ、香夏子と小梢が戦闘中、というか、カレー中だったらしい。 「というわけでカレーも堪能しましたしそろそろ終わりにしましょう! バットムーンフォークロアぶっぱの時間ですー」 と思ったら、禍々しい気配と共に、ド派手な赤い月が倉庫の奥に浮かび上がり、やがて消え、倉庫内が一瞬、シーンとして、どうやら、終わったらしかった。 「いやあ、本当今日のはナイスカレーでしたね」 「うんナイスカレー」 サムズアップ。 とか、部活終わり、みたいな清々しさすら浮かべた二人が、暫くして仲間達の元へ戻って来た。 集団の中にはいつの間にか、九十九の姿もある。 「ところで。出てくるカレーは個体別に辛さ、味わい、具材等の違いはあったんですかね?」 アルフォンソは、すっかりカレーを堪能してきたらしい、カレー臭い彼女達を見比べ、言った。 「香夏子、カレー堪能に夢中になり過ぎて、細かい事は余り良く覚えていません」 「あ、そうですか」 「で、アーティファクトの回収は終わったんですかね」 小梢が、むしろ終わってなくてももー全然やる気ないですーみたいに、花の咲いた仲間達を眺めながら、言う。 「みたいです」 カレー鍋を抱え、耳から耳毛、ではなくて、花を咲かせた九十九が、さくっと、言った。 「じゃあもう解散ってことで、いいですよね。私、早く帰って、カレー食べたいので」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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