●爪弾き者同士の円舞曲 その男には、既に理性などなかった。 それどころか、既に人間としての機能は殆ど失われ、わずかばかりのフェイトも全て奪い尽くされ、ノーフェイスと語る資格すら奪われていた。 虚ろな声を繰り返し、胸に空いた大穴はひゅうひゅうと音を立て、その断面は不気味に蠕動を続けている。 下半身の肉は絶えず泡立ち、悪臭をまき散らしながらもその肉片をぼとり、ぼとりと吐き出し続けている。 右腕はカマキリの如く大ぶりの鎌を持ち、左腕は棒のような――先端にスイッチの取り付けられた異形の機械が据え付けられていた。 既に人としての理性も吹き飛んだそれに、生前の面影があるとすれば顔と、右腕の鎌に引っかかった金属の輪っか、ぐらいか。 「Hey、そこの廃棄物野郎。俺様の縄張りまでご足労願ってコーエー様なんだけどよ、今夜この場所は俺の嫌がらせ指定席なんだ、帰っちゃくれねェか」 「……ぁ゛」 普通なら、そんなものには近づかない。近づく頃には肉片になっているに違いない。だが、その男だけは違った。 パンクファッションに身を包み、旧時代的な言い回しを好み、しかしその手に持っている籠の中では世界に仇成す悪意が所狭しと詰め込まれている。 男は『怪物』とは意思疎通が出来ないと判断するや否や、その手の籠を放り出して踵を返す。 「悪ィな廃棄物野郎。お前にはプレゼントをくれてやる。良い感じに気に入ってくれるぜ?」 「……ァ゛!」 怪物の鎌が籠を切り裂いたのと、そこから無数の毛虫らしきシルエットが飛び出したのはほぼ同時。鋼鉄の色彩に身を包んだ異形が、一斉にそれに飛びかかる。 「……いやはや、面倒な男の縄張りだったものですな」 そしてその、遥か遠く。たくわえた顎髭を愛でるように撫で下ろし、老人然とした男が呆れたようにつぶやいた。 「我々は寧ろ箱舟の狩人を誘う心算だったというのに、誘い出されたのは取るに足らぬ蟲男。それも逃げたとあっては……」 「まあ、まあ。ここで少し騒ぐのも計算づくでしょうよ、我々は。だとすれば、これはこれでいいデモンストレーションだ。何しろ彼らの目は広い。すぐにでも駆けつけるでしょう……まあ、私達が慌てることでもありますまいよ」 応じたのは、老成した言葉ながらも若々しい姿をした男だった。立場はそちらが上なのか、僅かに口ごもった後、初老の男は言葉を濁すに留まった。 「何、我々は安全ですとも。何よりあれを優先する限りは、ね……」 飛びかかる虫を振り払うように、狂ったように暴れる、人の姿を奪われた者。 その元々の名を――篠崎 飛鳥という。 ●暗室の未来予想図 「主流七派がひとつ『六道』の怪しい動きは、以前から何度か観測されています。今回のケースも、恐らくは以前同様、よくわからないエリューション、言い換えるなら『キマイラ』とでも呼ぶべきそれらの研究が目的なのでしょう」 資料を片手に、『無貌の予見士』月ヶ瀬 夜倉(nBNE000203)は淡々と続ける。 「それで、今回は更に状況が複雑です。このエリューションの素体となっている人間ですが。 以前、特殊なアーティファクトを用いて幾度か事件を引き起こした『雨業の衆』と呼ばれるフィクサード集団の生き残りだった人物、『篠崎 飛鳥』だと思われます。 彼らの組織に対する殲滅戦を最後に行方不明になっていたのですが、恐らくは六道に捕縛され、研究対象にされたのだろう、というのは明らかです……まあ、最早人としての理性も形も失って居ますから、今回の事件と彼の素性とは関わりのないことですが」 「ところで、あいつに籠を投げつけた男は何なんだ? パンクっぽいやつだったけど、革醒者か?」 「はい。彼の名前は『テラーナイト・コックローチ』。元製薬会社社員で、害虫駆除担当部署の人間です。逃げ足が早く、ジーニアスであること、害虫の類を扱い、エリューションとして小規模な事件を起こすフィクサード界隈での爪弾き者……程度の情報しかない、現状では警戒するほどではない相手です。 今から現場に到着しても、彼は逃走した直後です。置き土産として、毛虫のエリューションを数十匹ほど放っていったようですが」 夜倉の説明に、リベリスタの一人が心底嫌そうな表情を見せた。気持ちはわからないでもない。だが、結局は倒すしか無い。 「現在は、エリューション同士での戦闘に我々が介入、双方の殲滅を最優先課題とします。 六道が放ったエリューションですので、当然ながら六道側でも観察者が数名居るようですが……場所も不明ですし、何よりこちらから手を出す利益が限りなく少ないです。手出ししないほうが賢明かと」 言い知れぬ不気味さが背筋を這う感触に、リベリスタ達が覚えるのは、ただ不快感のみか。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:風見鶏 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2012年05月22日(火)23:27 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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●悪路まみれの信仰心 思えば。 かのサンプルの人生になぞ興味がなかった男にとって、とりたてて興味を惹かれたのはアークのリベリスタ達、その一部の激情にも似た反応であったことは想像に難くない。 若作りの研究員――ツッカーノ、と名乗る彼は「感情が生む戦力のブースト」という非生産的な推論に対して割と肯定的であり、また、そういう状況を作ることに対して好意的に受け止める。 故に、情報不足であったとはいえこのケースは思いの外好奇心を煽られる出来事であったことは否定できず。 アークにとっては不本意ながら。この戦闘は、『六道にとって非常に実りある』戦いであることは、否定出来ない。 「このような形で再会する事になるとは、流石に予想外でした」 眼前の――といっても、接敵にはやや距離を置く位置で機関砲を構え、『Trapezohedron』蘭堂・かるた(BNE001675)はぽつりと漏らした。 自分の甘さが生んだ因縁がこのような形で結ばれたのは、偏に世界の遠大な嫌がらせではないか、とすら思える。 世界に対して、正しい形での因縁の終わりを夢見ていた少女にとって、これは余りにも夢のない最期だ。 事実は小説より奇なり、世界は理想に対していつも厳しく。理解していただろうに、彼女は致命的なところで甘えてしまう。仕方なし、と割り切るか。 「……万華鏡に再び掛かる事を願っておりましたが、まさか、斯様な形でとは」 人の姿をした彼に対峙し、最後の一歩を踏み誤った。『宵歌い』ロマネ・エレギナ(BNE002717)が手にしたスコップは、彼のための墓穴を掘ることには最早、二度と使えないのだろう。 それ以外の何かを葬るためならば兎も角、人としての死を手向けられなくなった不運は、無念か否か。 幸いにして、アーティファクトだったものは懸念を覆し、既に機能しては居ないようだ。だが、それでも左腕のスイッチが不明瞭。肉腫に係わるのだろうか、とは感じるのだが……。 運命とは無慈悲なもので、因縁とは無常なもので、再会とは不可避なものだ。 だからこそ、人にとってはそれが最悪であっても仕方ないことはある。 「ま た テラーナイト・コックローチですか」 わなわなと身を震わせ、こみ上げる怒りの在り処に戸惑う『局地戦支援用狐巫女型ドジっ娘』神谷 小夜(BNE001462)をしかし、誰が咎められようか。 異世界の住人たる非常識な存在との戦闘を余儀なくされた要因に係わる事態になるとは思っても居なかったのだろうが、今回は状況が悪すぎる。何しろ、彼が些細な相手に見える程度には、篠崎は異質なのだから。 「攻撃したらけもしにたかられちゃうかなぁ? 夜倉お兄さんはどう思う?」 そんな状況を目の当たりにしても、『白詰草の花冠』月杜・とら(BNE002285)のあり方は変わらなかった。ここに居ないフォーチュナの名を呼び、一拍置いて軽く笑う様子を見るに、通常の「会話」というわけではないようだ。俗に言う脳内会話を神秘方面に発達させた技能だが、この戦いをも余興として見る向きが強いのか、或いは……。 「師は言っていた。力なき正義と悪が栄えたためしはないと」 師から譲り受けた太刀を正眼に構え、『Voice of Grace』ネロス・アーヴァイン(BNE002611)は視線の先の惨状に対し、抑えの利かない苛立ちを胸にしていた。 当然といえば当然、なのだろうか。生きていながら死んでいる。運命を失った世界にとっての『ノイズ』だとしても、元は同じ革醒者だったと考えればその怒りは尤もだ。 彼の、六道に対する怒りは今を持って最大まで引き上げられた。何れ滅すべき敵として。 「えらく前衛的な姿だな、現代芸術はよく判らないが」 兄に近しいものを見る目で、常以上に憤るネロスを見、その視線の先を見て、『普通の少女』ユーヌ・プロメース(BNE001086)は溜息を付く。現代芸術とは斯くもゴミと芸術の隔てを取り払うものだったのか、などと。 彼らを知らずとも彼の末路を見た以上、躊躇なく甲斐なく倒す以外、選択肢はありはしない。 「嘗て、神の贄と人命を弄んだ者が狂気の供物となるか」 因果応報と言えば容易いが、許せないのは変わらない。『八咫烏』宇賀神・遥紀(BNE003750)の怒りは、或いは我が子や近しいものを見るものと似ているのかもしれない。 感情は、重く。それだけ強く作用するのだろう。 「せめて、その命を速やかに絶つことが救済かも知れません」 己のエゴであっても、意思と関係なく歪められた願いは早急に断つべきだと、『おとなこども』石動 麻衣(BNE003692)は静かに語る。 救えない命は、当たり前のように転がっているのだと考えれば遣る瀬無く、救うために倒すことが出来る事実があることを誇る。複雑な心境だが、それでもやるしかないのが現実だ。 「その末路は、究極的には――私達の末路でもあるんだよね」 運命を失えば異形と化す、その可能性を『エアリアルガーデン』花咲 冬芽(BNE000265)は詩的な言葉に変えつつも、正しく理解しているといえるだろう。 末路がどうあれ、篠崎の末路は決してそのすべてが他人ごとではない。故に、その未来と彼としての現実を少女は否定し、破壊する。 写し身たる影を呼ぶ姿に、気の衒いはない。ただ、倒すことだけを考え、得物を握る。 ひゅうひゅうと空洞が音を立てる。 ざわりと世界がざわめく。 あるのは最低な最期だと知りながら、世界は残酷に時を刻む。 「――分かってないね、彼らは。蟲に集られた位であの『道具』がくたばるものか。待ちの姿勢を貫くなら、相応の覚悟もあるのだろうね?」 ふぅ、とツッカーノが溜息を漏らす。軽く指先を中空に向け、何事か呟いた時点で篠崎の身体が跳ね上がる。 愉快だ。誇りある革醒者がくだらぬ道具に成り下がる過程というのは実に愉快だ。だからこそ、道具は道具らしく扱わねばならない。 蟲など後でも構わない。彼らが見たいのは、激情に心揺らすリベリスタ達の叫喚なのだから。 ●Praying like playing 「ゴミがゴミを撒き散らすな」 リベリスタ達へ向き直った篠崎の身体から零れ落ちたバブルへと照準を合わせ、ユーヌは陰陽の儀を以って破壊を試みる。 元より壊れることを規定されたバブルは呆気無く弾けるが、しかしその爆発は思いの外大きい。あれを接近状態で破壊するのはかなりのリスクが伴うだろうということは、彼女成らず理解できた。 「六道も手当たり次第にやっている感じがしますね」 そんな様子をぞっとしない想いで眺める『子煩悩パパ』高木・京一(BNE003179)が結界を敷き、守りを固めるが、彼の相手の有様は見るに堪えぬと感じるのは同じ。あんな末路には、なりたくはないものだ。 「魔法矢でハートを狙い撃ち☆と思ったけど、穴ぽこが……あ゛っー!」 突如として奇声を上げながら攻撃へと動いたとらの様子は、傍目にも決して見目佳いものではないが、しかしその指先を離れた魔力の矢は、空を切ることなく相手を貫く。 彼女の中では忙しなく会話が続いているというのは、誰ぞ知る。 「長々と時間を取って、戦闘データを提供する必要もありませんからね」 相手へと踏み込み、かるたは至近距離で機関砲のトリガーを絞る。圧倒的密度で放たれた銃弾の驟雨は彼の胴を強かに打ち据え、確実にその動きを鈍らせていく。 「今はお前らよりも、自分の腹の“虫”を収める方に手を焼きそうだ」 ネロスの刃が、怒りと勢いに任せて振りぬかれ、飛鳥の左腕を切り裂いていく。硬い感触が刃越しに触れるが、そんなものを気にしていられるほど彼は冷静ではない。 今は、一分一秒速くこの相手を撃破したいと願っている。感情的に、本能のままに。 「テラーナイト(略)も酷いですが、人をここまで改造しちゃう、というのも、別の意味で……やっぱり酷いですね」 小夜が練り上げた魔力の矢は、僅かに軌道を逸れて確実な打撃には至らない。飛鳥の髪を僅かに削り、頬に一筋の傷跡を与える程度のそれは、決して軽いものではないことを思わせた。 「……異界より導かれし理、怨敵を貫け!」 遥紀もまた、魔力を練り上げ、飛鳥へ向けて叩きつける。回復の手が多い以上、攻め手を欠かすのは愚手と言える。であれば、出来るうちに攻撃の手を休めないことが自分に出来る貢献であることを彼はよく知っていた。 「その醜い姿から、貴方の名前を奪いに来たよ」 歌うように、冬芽は大鎌を携えて、飛鳥の頭部を狙う。だが、それに応じるように、というよりは――一拍速く、飛鳥の鎌が薙ぎ払われた。 頭部へ伸びた黒いオーラは掠め、踏み込んでいたリベリスタ達はほぼ全員がその乱舞を強かに受け止めた。或いは怒りで、或いは戦略で、或いは不意打ちに近い形で守りを捨てて立ち向かったその勇姿は、血を振りまき狂気を受け止める状況として跳ね返る。尤も、織り込み済みの出来事が彼らの戦意を削ぐわけもなし。 麻衣が、狙いすましたように歌声を紡いで彼らの傷を癒していく。完治には些か足りないだろうが、それをカバーするのが仲間だろう。彼らは何れも運命に踏み込むほどにその傷は深くない。倒すには、未だ手は十二分にあると言えた。 「……分からない以上は危険というものです。猶予をあげましょう、篠崎飛鳥」 ロマネの声が、底冷えのするトーンで響く。本当なら一秒でも速く銃弾を浴びせたい衝動を、しかし彼女は制御する。 左腕の機構が理解できないなら、危険であることと何の違いがあるというのだ。であれば、切り離す以外の選択肢などそこにはない。 * 「いや、いいものですな。感情的な革醒者の戦いというだけで心を打つものがある。よくもまあ――そんな中でも冷静でいられるというもので」 くつくつと、低い笑いが誰に聞かせるでもなく、誰に聞かれるでもなく、響く。余裕高き声は、即ち戦況への余裕か。 * ユーヌの呪印が飛鳥を縛り上げ、ネロスの刃が鋭く薙いで行く。行動を封じてしまえば、それだけで既に勝敗の天秤を傾けたに等しい。ことユーヌ自身がそれに特化している以上、この状況は必然だった。 だが、必然の一言で終わらせられない偶然は、この戦場には余りに多すぎる。 「……っ!」 力任せに砲身を振り回し、かるたは飛鳥を近傍の樹木へ向け吹き飛ばす。焦りの混じった声は、相当数の攻め手を打ち込んだ証左でもある。 鴉を打ち込んだ京一に照準をあわせ、前進しようとするのは良い。彼に対して近接手が多い以上はブロックとして十二分で、一分の隙なく押し通る理由がない。 一撃一撃が慮外に大きいのはいい。それを見越して回復が異常なほどに厚いのだ。余程の失態を演じなければ、負傷する謂れはない。 だが、最大の問題は「肉腫」の存在だ。 麻衣が、十分な回復を背景に肉腫を狙い魔力を叩きつける。だが、爆発した位置が厳しい。冬芽の至近で炸裂したそれは、毒こそ散らさずとも確実にその体力を奪い、その驚異から意識を縛る。危険と言うには余りに不意打ち。 「これも策のうちだというなら、何とも苛立たしい話ですね六道……!」 左腕へと弾丸を放ちながら、ロマネは苛立たしげに声を張る。彼女の尽力で、既にスイッチ周辺の機械部は露出が激しくなっている。ここまで破壊されて通常の動作ができるかは甚だ疑問だが、そこまで計算した一撃である以上、問題は起き得ない。 「身も心も捧げつくした生き方が、報われなかったのねぇ……」 同情するようなとらの声が、息吹を呼んで強く癒しと魔払いを成し遂げる。軽やかな声で応じた彼女は、きっと思考を声にして。 「……名知らぬ大いなる者よ、汝に希う。吾が朋の穢れを祓い尊き命脈を慈しみ給え」 遥紀の歌は、静かな祝詞として癒しを運ぶ。十全な勝機、事足りた癒しの密度は確実に、彼らに余裕を与えているといって良い。 肉腫の爆発による被害が、辛うじて最低限に抑えられたのは――最早、幸運と呼ぶほかはない。 「ア――あ゛」 彼らにとって目前に垂らされた勝利という糧が、篠崎にとってこれ以上ない最悪の毒で。 身を蝕む蟲の感触も、リベリスタ達の強い声も――過去に聞いた耳障りな女の声もよく響く。 シニタクハナイ。ケレド死ヌ。 奪エレバ良カッタノニ、奪ワレテ。 ああ、嗚呼。 こんなにも世界は僕に残酷なんだなと。 吹き飛んだ左腕が音を立てて壊れ、湧き上がる肉腫が一際強く炸裂し――。 「私は、引鉄を退く右手さえ無事なら、あとはどうでもいいのですよ」 かるたが、爆炎をひいて銃口を掲げる。 「せめて人であったものとして、哀れな贄よ。ここで、終わらせます」 同情でも怒りでもない。淡々と告げられたロマネの言葉は、嘗て誰かが自身を殺すために握らされた銃口を、飛鳥であった誰かを殺すために引き絞られる。 「俺はお前たちを決して許さない。聞こえているなら、覚えておけ、この言葉を!」 妹同然のユーヌの為に、その身を焦がし魂を捧げ全力を以って怒りを叩きつける。ネロスの刃は、人として飛鳥を倒すべく掲げられ。 「怨んで良いさ、そんな重いモノは全て置いて逝け」 遥紀が目を伏せ、静かに宣言する。 悪夢のような造形は、その肉を食む哀れな蟲を巻き込んで千々に乱れて消えていく。 転がり落ちた腕輪は、ロマネの足元へと転がって、僅かに欠けた。 ●Pray for fortune 「でも、因果応報ってやつなのかな? 六道もいつかそうなるかしら?」 ねぇ、夜倉お兄さんはどう思う? と、陽気に笑うとらはしかし、その言葉のトーンに反して冷め切った感想を持っていたことは想像に難くない。 奪うだけの哀れな信徒は、最期に自身を見失いただの空虚と成り果てた。奪い続け得続ける六道も、何れそうあるように願うことは同じ事だ。 「蟲使いの方が偶然居合わせたのも運命、なのでしょうね」 礼のひとつも必要か、と首を傾げたロマネに、小夜は必死に否定する。自らにトラウマじみた経験を積ませた男を賛美するなどとんでもない! と。 斯くして、リベリスタ達の夜は幕を引く。 だが、その前に。 * 『――さァ、どうでしょうな。答える義務は無いでしょう』 * そんな返答を聞いた者が、居るかもしれないというだけの、つまらない、幕引き。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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