● 舞台上で脈打つものをうっとりと見つめているのは一人の女。 まだ年若いと思われる女は結いあげた髪を揺らして口元に三日月を描いた。 「素敵、素敵だわ」 指先が客席の背もたれを辿る。 まるで何かを奏でる様に。 「素敵、ああ、素敵」 「何処が『ステキ』だっつーんですか、オバサン」 お姉さんよ、と女がその緑の瞳を釣りあげて、背後に立った人物へと振り返る。 背後に立っていた少年がご機嫌麗しゅうレディと小さく頭を下げた。 「で、なんすか、これ」 「ああ、これ?これはね、こ、れ、は色々マゼマゼした結果かしら」 マゼマゼ――生きた少女に何かしらを混ぜて混ぜて混ぜて、作り上げたのは何とも言えぬ異質な物体。 生きている事は分かる。ただ、其れと意思の疎通が困難であることは見て取れた。 何故こんなものが、と呟いた少年に応える様に芝居がかった口調で女は言った。 「紫杏ちゃんからのお願いなの。戦闘データが欲しいんだって」 女は笑う、嗤う。 お願いなら仕方ないでしょう?と愛おしげに舞台上を見上げた女は踵を返す。 さあ、ショーは始まりよ、とその背中は楽しげに語った。 舞台上で脈打つ何かはまるで何かを奏でる様に、ぴくり、と動いた。 その姿は人に近いがどこか違う。長く、床を這う黒い髪。 目や口と言った顔の器官はまだ発達しておらず、のっぺらぼうを連想させる。 足はなく丸く大きな肉塊が脈打っている。 所々に人としては必要ない鍵盤がついており脈打つたびに間抜けで可愛らしく音がする。 ポロン、ポロン。 まるで何かを奏でるかのように、舞台上で脈打つそれはじわりと床を血で染め上げた。 ● 「それはまるで楽器の様で、気持ちの悪い肉の塊でしかない」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は歌う様に呟いてモニターに形容しがたいものを映し出す。 「これはエリューション。名称をつけるなら――キマイラとでも言おうかしら」 人工的な研究によってさまざまなエリューション・タイプを追加して出来あがった『研究の結果』であろう。 人と言ってしまうには未発達な出来栄え。モノと言ってしまうには人工的な部分が足りない。 脈打つソレはどれにも分類されない。 「このキマイラとリベリスタが応戦することを望んでる人がいるわ」 「もしかして」 イヴが小さく頷く。 もうすでに数人のリベリスタ達が厄介なエリューションの対応に追われて任務へと出ていっている。 今回の案件もそれと同様、六道だ。 イヴがもう一枚写真を映し出す。郊外の寂れた劇場。 中規模程度だろうが広さは其れなり。その舞台上で脈打つ其れこそがキマイラだ。 「何をしているのか分からないけれど、作り出された気持ち悪いものは後に残しては嫌な運命を生み出すかもしれない」 まだ幼いフォーチュナーは其の目を伏せて哀しげに呟く。 「休息すら与えて遣れずごめんなさい。被害が出る前に、対応をお願いするわ」 ――それはまるで音を奏でるかのように。 ぽろん、ぽろん。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:椿しいな | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年05月16日(水)23:46 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 静まり返った中規模の劇場に小さく響いているのはピアノの音色。 何処か不規則になるソレはずりずりと引き摺る音に混ざりあい不協和音となっていた。 ぽろん、ぽろん。 作戦を確認しましょうと周囲を見回した『夜翔け鳩』犬束・うさぎ(BNE000189)は案内板を目の前に劇場の間取りを脳に叩き込んでいた。 隣ではネットで劇場について調べてきた『のんびりや』イスタルテ・セイジ(BNE002937)が詳しい配置をうさぎへと助言している。 ぽろん―― その音と共に瞳を開いた『ミス・パーフェクト(大学1年)』立花・英美(BNE002207)は千里眼で探った劇場内の様子を背後に控えていた仲間たちへと伝える。 彼女の目にはもう一つ、緑色の瞳を楽しげに細めていた女を捉えた。遠く、離れた場所で見ている六道のフィクサード。 英美は口元に小さく笑みを浮かべて彼女らをその紫苑の瞳で射た。 「見たければ好きに見れば結構。自慢のおもちゃが、私達に敗れる様を」 ぽろん―― その音色は木霊する。耳朶に這う気色の悪い不協和音。 扉を開いた『ビートキャスター』桜咲・珠緒(BNE002928)は目の前に存在していたソレに目をやり、ギターをその白い手でしっかりと握りしめた。 「ただ旋律を奏でるだけのものを、うちは楽器と認めへんで」 目の前に居るソレは確かに鍵盤が付いている。ソレが――キマイラが動くたびにピアノ鍵盤が小さく可愛らしい音を立てた。 楽器、楽しみの器、人々に笑顔を与える器具であるそれはその音を耳にする人も演奏手も楽しめるという事が大切である。 舞台上にまるで演奏者の様に鎮座しているキマイラは人々を楽しめる事はない。 ああ、まるで何処か、悲しんでいるかのよう。 「劇場で踊る化け物と死体か」 まるでダンス・マカブルだ。 そう呟いた『Friedhof』シビリズ・ジークベルト(BNE003364)の鼓膜を叩くのは化け物と死体がダンスをする伴奏曲。 「あぁ、真に醜悪だ――消え失せるが良い」 彼は足を進める。 ぽろん―― 劇場の入り口の扉をくぐる。最初に目には言ったのは素敵だと六道のフィクサードがこぼしていたキマイラだ。 肉の塊。生きた少女に何かを混ぜ合わせた紛い物の生物。どう足掻いても素敵だとは言えない。 「人の命をなんだと思っている」 命を弄ぶなど許す事は出来ないと『red fang』レン・カークランド(BNE002194)はじっとキマイラを見つめた。 びくん、脈打つ肉塊から伸びあがるのは少女の体。 長く伸びた黒髪が舞台の床へとだらしなく垂らされている。 表情はない。目と口、すべての顔の器官は発達していないのだろう。 「……キマイラ……可哀想」 きゅ、とスカートの裾を握りしめた『臆病ワンコ』金原・文(BNE000833)は泣き出しそうに瞳を歪めた。 生きたままその身を弄られた少女。 哀れにも戦うことしかできない、哀れな少女に文は目を伏せた。 だが、憐れむだけでは仕方がない。 「救う方法は分かりませんので」 滅ぼすのみだ、イスタルテは決意を固める。ただ、滅ぼすことしかできないのは彼女にとって苦痛でしかないのだけど。 ● ずり、ずり―― 床を這うアンデッドに気付いたイスタルテは仲間たちへと小さな翼を与えた。 『偽りの天使』兎登 都斗(BNE001673)は身軽になった体でふわり、と浮き上がり一度キマイラの姿をその視界に収めた。 「なんでこんなゲテモノばかり作るかな」 研究の結果は研究者の心を映し出す鏡。彼らの理想を其処に生み出すからだ。 キマイラがゲテモノであるという事は研究した人間はゲテモノだらけということ。 「絶対に友達にはしたくないよね」 その言葉の後、小さな天使は其のまま後方位置に着いた。 きっとどこかで見ているであろうゲテモノとは関わり合いになりたくないと小さくつぶやきながら。 とん、と劇場の床から小さな天使の羽根で跳躍したうさぎはキマイラへと一気に接近する。 「貴女の最後の演奏を聞きに来ました」 キマイラのもとになった少女が演奏者であったとしたならば、その演奏を聞いてほしいと望んでいるかもしれない。 もはや自我を失ったキマイラが其れを望んでいるとは限らないけれど。 しかし、うさぎに出来るのはただの化け物と化した一人の少女の演奏を聞くことだけだった。 さあ、存分に奏でよう。さあ、存分に愛でよう、その音色を。 自身の役目を確かめる様に宣言した文は足元から彼女の従者となる影を呼びだす。 彼女を援護する意思ある影は彼女へつき従う。小さな子犬の背に宿った翼がふわりと揺れた。 パラパラ漫画の様な世界。 コマ送りになったその世界はまるで出来の悪いアニメーション。 英美はアンデッドへと走り寄る。彼女は父への想いをこめて弓を握りしめる。 何よりも素早く打ちぬき解決する。其れこそが完璧であれと口癖にした父にも認められるであろう力。 全身に光り輝く守りを得たシビリズは背負った翼でキマイラへと近づく。 近くで見つめた化け物は紛れもない少女。蠢くキマイラから奏でられたのは小さな調べ。 ――ポロン。 「鍵盤の音が非常に耳障りだ」 ああ、奏でるべきは幸せであればよい。 回復手である珠緒はすべての出入り口を頭へと叩き込んでいる。 目の前で弓を構え、アンデッド達を見つめている一人の少女の背を見つめる。 大事な友人――全員を守りたい気持ちはある。だが、彼女の短い腕では叶わぬかもしれない。それならば、大事なルームメイトだけでも。 「うちは脆いし、攻撃もたいしたことでけん」 それでも、誰かを支える事は出来る筈。その力を持ってこの場所に立っている。 楽器を愛するギター奏者の決意は固い。 劇場内に昇るは疑似的な血色の月。其れはまるで鍵盤をその身に持つ彼女から流れる液体の様な色。 彼の全身のエネルギーは解き放たれる。 床を張っていたアンデッドがその血色の月の不吉を身に受けのたうち回る。 ――ああ、彼女は何を想い、何を歌っていたのだろう。 「赤い液体は、涙なのか」 それは予測できない。レンは魔道書を開く。泣いているのであればその涙を止めて遣ろう。 このままでは苦しいだろうから、どうか此処で眠らせて遣ろう。 肉塊が蠢いた。 ぐちゃ、ぐちゃと気色の悪い音を鳴らし、その白い腕でうさぎの身を殴りつける。 その攻撃を辛うじて避けたうさぎは其のまま体を反転させ死の刻印をキマイラへと刻む。 美しいその身のこなしはキマイラが奏でる不協和音には似合わない。 床を張っていたアンデッドがその瞳から毒々しい色のビームを繰り出し英美の身を劇場の椅子へと吹き飛ばす。 「っ……」 ずん、と鈍い音がし、其の身が吹き飛ばされた事を認識した彼女は弓を握りしめ直ぐに体制を立て直す。 座席を足場にし仲間全員を視認できる場所に立ったイスタルテは聖なる光でアンデッドを焼き払う。 のたうち回ったアンデッドに傍に居たもう一人が優しく歌う歌う。 それが癒しであると認識した都斗は小さくため息をついた。 「あばれたいなー」 今は天使のお仕事をしている、と小さな都斗はその意思を固める。 キマイラのもとになった少女もアンデッドもゲテモノの手駒になるなんて可哀想。 早いこと倒したい、倒すためには天使のお仕事ではなく死神のお仕事をはじめなければならない。 だが、まだ時機ではない。 アンデットを倒すまでは小さな天使で居なければならないのだ。 都斗の視界に靡く金の糸が入る。ふわりとゆれたポニーテール。 「炎の花よ!戦場に盛大に咲き乱れよ!」 散れ、散れ。 業火を纏ったその矢がアンデッド達に雨の様に降り注ぐ。赤い赤い炎の雨。 背後で降り注ぐ炎の熱さを背に感じたシビリズは上空から神聖な力を込めた鉄槌をキマイラへと下す。 だが、キマイラは嫌だとその身を捩るだけに終わった。 耳朶を擽るのは静かなる水の様な詠唱であった。気色の悪いピアノの音色をかき消す様なその言霊により珠緒の周りに魔法陣を展開する。 今まさに英美を殴りつけようとしたアンデッドの横っ面へとばちっと嫌な音を立てて魔力弾がぶち当たった。 ――だぁぁん 突如に鍵盤が奏でたのは荒々しい音。キマイラの下半身が大げさに蠢いて肉片をあたりへとまき散らす。 目の前に居たアンデッドの体に隠れるようにしゃがみこんだレンはその肉片を避ける。 間近でその肉片を受けたうさぎと文の衣類は赤黒い血で汚れた。 死の刻印を刻みつけた文はその攻撃を受けてじんわりと浮かんだ涙を堪える。 弱虫の少女が出来る事はただ、蠢いているだけの彼女を受け止めること。 赤い月はひたすらに昇っている。 アンデッド達の其の身を苦しめ、月は爛々と輝いている。 その月の下、座席の背もたれを渡り歩いて全体を見ている天使はまたもアンデッドへとその慈悲を与えた。 アンデッドは劇場の椅子へと其の身を預けて息絶える。 小さな天使が歌ったのは癒しの歌。傷ついた仲間たちの其の身を癒す。 しかし都斗の心に浮かんでいるのは暴れたいというその気持ち。 癒しを受けたうさぎはもう一度キマイラに接近し、死の刻印を刻む。 小さく何かを伝えようとする音色に耳を傾ける。 聞いてあげる、何もかも。其れが望みだというのならば。 文の攻撃はあまり有効だを与えられていなかった。舞台端に下がった彼女はじっとキマイラを見つめる。 「ごめんね……っ!」 集中を高める彼女の瞳に浮かんだのは罪悪の涙か。 必ず倒すという気持ちなのだ。姿を変えられたのがただの少女であれど、倒すことしかできない。 嗚呼、なんて哀しいのだろう。 ずる、と身近に聞こえた音にレンと英美は身構える。 アンデッドが英美の視界を覆った――彼女の目の前には其のアンデッドのみの錯覚が起る。 殴りつけられたんだと気づくのには少し掛った。 全体的に後衛位置に居たアンデッド組であったが数が多いためにすべてを把握しきれていなかった。 多数いた回復係はいずれにしても仲間たちを見つめている。 床を這って近づいていたモノには気付けずにいたのだろう。失念していたのは数のあるアンデッド全員をその視界に納めること。 二体のアンデッドの腕が英美の腹を殴りつける。 弓を握りしめた彼女は其のまま目の前のアンデッドに対し炎の花を散らす。 「殺された一般人ですよね」 彼女の心に響く虚しい音は今は届かない。ただ目の前の死人に対しての怒りが彼女の心を支配していた。 その様子に振り向いたシビリズであったが彼の殲滅対象は目の前の不快な音の持ち主。 不愉快きわまるその身に槍を叩きこむ。 「その音、本当に本当に耳障りだ」 背後の様子が気になる、だが仲間を信じている。 その信頼にこたえるかのように歌ったのは珠緒であった。彼女の目はルームメイトへと向いている。 「うちには歌があるんよ!」 負けるもんか、頑張れ、そう伝える様なその歌声は何処か可愛らしい。 彼女には世界を変える力はないかもしれない――有りえないとでも思っている。 「歪んだ旋律に、意地張って立ち向かう位は出来るんや!」 だから、頑張ろう、ね? その歌声に応える様に三人のアンデッドを目の前にしていたレンは赤い月で不吉を告げる。 六道のフィクサード―― 「データであろうとなんであろうと、持っていくが良い」 彼は思う。戦闘データ?そんなものを当てにしているやつに負けやしない。 魔道書は語る。手をかざし、開かれていくページから感じる魔力。彼の左腕でブレスレットが揺れた。 イスタルテは英美の様子に気づき、彼女へと神々しい光を与える。 「大丈夫ですか?」 頷いた英美の心に響く。無意味で哀れな音の羅列。 ――ぽろん、ぽろん。 ああ、こんなにも哀れな音なのに。きっと奏者の心には響いていない。 ● 無慈悲に昇った赤き月からまるで炎が降り注ぐようで。 英美が放った炎の花が慈悲なくアンデッドたちに降り注ぐ。 残っていたアンデッドは五人。 どれも疲労の色が見えるものの回復のスキルを所有しているため、まだ這いずりまわっている。 仲間たちへと癒しを与えた珠緒が残っているアンデッドを見回す。 「あそこやで!」 その声に頷いたレンは血色の月で不吉を告げる。 回復を行いあっているアンデッド達だがそれは間に合わない。 聖なる光でアンデッド達を滅ぼす天使は舞台上を仰ぎ見る。 「生きた少女と混ぜたものですか」 気分が良くない話だ、と小さく呟いた。 「英美っち!最後の一人やで!」 「任せてください!」 ルームメイトの声を聞いて其のまま降り注がせたのは浄化の炎。 這いつくばっていたアンデッドが手を上空に伸ばしてぱたり、と下ろす。 舞台上で蠢くキマイラが奏でた音色は悲しみ。波動を其の身に受けたシビリズは直ぐに体制を立て直し槍を握りしめる。 「本当に耳障りだ」 ――直ぐにその鍵盤を壊してやろう。 その勢いで彼は跳躍する、叩きつけた其の攻撃にキマイラがふらりと揺れる。 とん、と飛び上がった都斗が嬉しそうに笑った。 「死神のお仕事に移るよ」 やけに楽しそうに笑った死神は其の手に握りしめた大鎌に集中したエネルギーで一閃。 道化のカードが破滅を告げて笑う。 「わたしが、あなたを受け止めるから……っ!」 そう告げて死の刻印を刻みつけた文によってキマイラの体を毒が蝕んだ。 痛みにのたうち回る様に其の体を揺らせるキマイラにうさぎが死の刻印を重ねて刻みつける。 「悲しきかな」 精密に鍵盤を打ちぬく。鳴る音は虚無。 ――ああ、心のこもらない音は響かない。 出来る事ならば心のあった頃の音色を響かせてほしかった。 キマイラがまき散らした肉片により其の体を毒が蝕む。 直ぐ様にそれを認識したイスタルテのブレイクフィアーによって回復された。 「滅びろ害虫ッ!」 叫んだシビリズは己の槍で強く叩きつける。 「あばれたいなあ」 笑った死神の強い一撃にふらついたキマイラへうさぎが叩きこんだメルティーキッス。 最後に飛んできたのは笑う道化師だっただろうか。 「もう眠っていいぞ」 おやすみ、とそう告げる。 キマイラは其のまま溶けて、消えた。何も残さず、ただ、跡形もなく。 ポロン―― 小さな音色を最後に響かせて。 ● まるで泣いているかのような音色であった。 レンはそう思う。 「埋葬、したいんですが」 そっと声を上げたイスタルテに同意見です、とうさぎは頷く。 辺りに散らばったアンデッド達を見つめていた都斗はつまらなそうに呟いた。 「あぁぁぁ、まだあばれたりないのに」 俯いたままの文は顔を上げ、悲しげにその瞳を潤ませる。 可哀想、キマイラとなった少女を思っての言葉だ。 「わたしは……あなたたちを絶対、許さないっ!」 その言葉を向ける相手はいない、静かな劇場に響き渡る言葉。 その言葉に顔を上げた英美が虚空へと弓を向ける。 だがしかし、千里眼で見つめたその先に目当ての人はいなかった。 彼女は小さくため息をつく、咲かせた炎の花は浄化の炎。 自我のないキマイラ――元となった少女の心に花が届いていればとそう願って。 「ほな、埋葬手伝おか」 「そうですね」 にこりと微笑んだ珠緒の後を彼女は追う。 静まり返った劇場でシビリズは瞳を伏せる。 化け物のピアノソロは止み、ダンスは終った。 女が遠くで笑っている。 「嗚呼、素敵。素敵ね」 見つめていた女が手にしたのは目の前で行われた 「紫杏ちゃんに褒めてもらわなくっちゃ」 女はその場を後にする。 残ったのは哀しき音色。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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