● 何かを得る為には、何かを捨てなくてはならない。 運命の『天秤』に載せられた二択。 その二択のなかで。 人は常に自分にとって、より重い運命を選んでゆく。 否、選ばざるを得ないのである。 「人は常に、運命の二択を迫られている」 其の少女――沙耶(さや)は、既に満身創痍の状態だった。 かつて自らの妹を傷つけた者達への復讐の為に殺人を繰り返し。 アークの監視を受ける身になった今も、唯一決して欠かす事のない毎日の出来事。 時村グループの有する病院の一つに今も入院中である妹、沙奈(さな)のお見舞いの帰り。 其処に現れた異形によって、沙耶は突然の襲撃を受けたのだ。 「天秤に載せられた二つの運命、選ぶ事が出来るのはその内只一つのみ」 何故か決して抵抗する事のない沙耶。 其の沙耶の頭を、地獄の番犬ケルベロスを彷彿とさせる三つの首を持った異形が掴み上げると、そのままコンクリートの壁に向けまるでゴミを投げ捨てるかの様に叩きつける。 「かはっ……」 骨が砕ける程の、凄まじい勢いで叩きつけられた衝撃でコンクリートに亀裂が生じ、ズルリと少女の身体が崩れ落ちる。 其れでも、沙耶は決して異形に対し反撃を行おうとはしない。 「サーベラス」 闇に声が響くと共にサーベラスと呼ばれた異形が動く。 決して抵抗しようとしない只嬲られるだけの沙耶に対し、私刑――リンチとでも言うべき一方的な蹂躙を行なっていく。 「選びたまえ、君の運命を。より重い運命を」 薄れゆく沙耶の意識の中に、深い重みを持った男の声が響き渡る。 夜よりも尚、深い闇によって容貌を覆い隠し其の顔色を伺う事は出来ない。 閉じかけの瞳に映るのは、闇の中で日が唯一輝き映える――天秤を象ったネックレス。 天秤が揺れ、男が言葉を続けていく。 「選びたまえ、君の命と……大切な人の命」 より君にとって強く、重い運命をと。 「そんなの、決まってるじゃない……」 沙耶が、心の中でごめんなさいと呟く。 きっと、報いを受ける時が来てしまったのだ。 妹の為とはいえ、人の命を奪ってしまったのだから。 覚悟はしていた。 唯一の心残りは、未だ目を覚ましていないたった一人の妹の今後。 彼女が目覚めた時、既に自分はもう此の世には居ない。 「辛い思いをさせてしまうわ、あの子に」 一筋の涙が沙耶の瞳から零れ落ち、地面を濡らす。 其れが、只妹の為だけに自分の命すら差し出した少女の、最後の言葉となった。 ● 「沙耶という少女が居るの」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)が集まったリベリスタ達へ説明を開始する。 沙耶という少女は以前フィクサード事件を起こした女子高生の事だ。 妹を意識不明の重傷に追いやった真木という男を始めとした不良グループに復讐を果たすべく凶行を繰り返した少女はしかし、最後の復讐を終える前にアークのリベリスタ達の手によって、考えを改め今はまだ目覚めない妹の為にアークの監視の下、日常生活を送っている。 妹が目覚めた時、きちんとお帰りを言える様に。 自分を止めてくれたリベリスタ達の為にも。 沙耶は二度と力を復讐の為に使わないと誓ったのだという。 「また何か事件を起こす様な風には聞こえないけど」 集まったリベリスタ達の誰かがイヴに問いかけた。 話を聞く限り、沙耶がまたフィクサード事件を起こすとは思えないのだ。 「ええ、貴方達には彼女を守って貰いたいの」 守って貰いたい。 イヴが、言葉を続けていく。 其れは『万華鏡』に映し出された極めて近い、未来の事。 彼女は正体不明のエリューションと思しき異形の手にかかり、その命を散らしてしまう。 「ノーフェイスを思わせる人間の身体に、E・ビーストに近い三首の頭部を持つ言うなれば、キマイラとでも呼ぶべき存在」 恐らくは人為的に創りだされたモノだとイヴが言う。 其の証拠にこのエリューションの近くには六道に所属するフィクサードが居るのだ。 「独立した思考を持つこの三首のキマイラは、かなりの強敵」 三つの頭部は其々、得意な攻撃手段も異なるのだという。 例えば、右の頭は物理的な攻撃を得意とする。 左の頭は、逆に神秘による攻撃手段が得意なのだ。 そして、一番厄介なのが中央に位置する頭部だ。 「真ん中の頭は、其々右と左の頭の特殊能力によって守られていて厄介」 右の頭が健在ならば物理的な攻撃に対し無敵の防御力を誇り。 左の頭が健在ならば神秘的な攻撃にもまた、無敵の防御力を持つ。 つまり、左右の頭部を破壊しない限り中央の頭部にはダメージが殆ど通る事がない。 「更に、三つの首全てが健在の時この中央の頭は一定のチャージを経て強烈な全体攻撃を放ってくるの」 其の威力は凄まじく一度喰らえば只では済まないと言う。 「最後に、沙耶がどうして殺されたのかだけど」 このエリューションの近くに居たフィクサードが沙耶にある二択を迫ったからとイヴが言った。 「まるで天秤。自分の命と、妹――沙奈と言うのだけど彼女の命」 天秤に載せられた二つの命でより重い方を選ぶのだと。 そう、迫られた沙耶は自分の命よりも妹の命を選んだ。 「天秤のネックレスを首に下げたこのフィクサードは、便座上『天秤の男』とでも呼ぶ。 本当ならこの男も捕まえて色々と聞き出したい所だけど……」 天秤の男はキマイラの相手をしながら捕まえられる様な男とは到底思えないとイヴが言う。 「とにかく、今はキマイラを倒して沙耶を助ける事だけを考えて。 病院の方へは別のリベリスタ達が向かう手はずになっているし」 若干の焦りを含めながらイヴは最後にそう言って、リベリスタ達を送り出したのだった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ゆうきひろ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2012年05月21日(月)22:36 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
■サポート参加者 2人■ | |||||
|
|
● 夕刻、太陽が沈み星々が輝き始める空の下。 「人生は大切な何かを守る為に、何かを犠牲にしなくてはならない事だらけで御座います」 其れは誰もが理解している事、『鏡花水月』晴峰 志乃(BNE003612)の言葉に仲間達が頷く。 「ですが……その選択肢を誰かが与えるなんて間違っています」 二人とも守ってみせると、自分の力は其の為にあると志乃が言った。 「二者択一、ね」 大切な者の命をちらつかせ選択を迫る等脅迫だと。 二者択一じゃないでしょ、とそう言うのは『淋しがり屋の三月兎』神薙・綾兎(BNE000964)だ。 その瞳に宿るのは、脅迫者への静かな怒り。 そして其れは彼の隣に居る『幸せの青い鳥』天風・亘(BNE001105)も同じ。 心はあくまでクールにあるべきと理解しながらも、自身の中に煮え滾る感情を亘は隠すつもりはない。 「絶対に、こんな天秤許せない!」 六道は人を一体何だと思っているのと『おじさま好きな少女』アリステア・ショーゼット(BNE000313)が言う。 アリステアが思うのは、残される事になるかも知れない沙耶の妹の事。 自身もまた「妹」であり、もしも同じ事になったとしたら壊れるだろうと彼女は思うのだ。 『私は所謂ロクデナシだけど』 仲間達の頭の中に、直接ハイテレパスで話しかけるのは『水底乃蒼石』汐崎・沙希(BNE001579)。 『あの姉妹の悲劇は観たくないー、自分でも判らないけど何故かそう思えるの』 「生きる為に命を奪うのでしたら、分かります……ですが」 自らの研究、娯楽の為に命を弄ぶなんて信じられないと『手足が一緒に前に出る』ミミ・レリエン(BNE002800)が呟いた。 沙耶がアークに助けられたのは、こんな最期を遂げさせる為じゃない筈だ。 絶対に食い止めますとミミが決意を胸に秘め、言った。 「確か六道の研究者は天秤の男と言ったか……。何か思惑が有るのか気紛れなのかは知らないが」 漸く日常への一歩を踏み出し始めた姉妹に悲劇の運命は辿らせないと。 必ず守ってみせると『系譜を継ぐ者』ハーケイン・ハーデンベルグ(BNE003488)が言う。 「俺は彼女がどういう罪を犯してきたか直接は知らない」 其れでも、彼女は罪を背負って生きる道を選んだのだろうと『侠気の盾』祭 義弘(BNE000763)が静かに言った。 罪を背負い生きると、その決意を踏み躙り妹を盾に死を選ばせるなど到底許せるものではない。 義弘の言葉に『デモンスリンガー』劉・星龍(BNE002481)や『K2』小雪・綺沙羅(BNE003284)を始めとした仲間達が強く頷いた。 ● 「人は常に、運命の二択を迫られている。選びたまえ、君の運命を」 暗い路地裏に、深く透き通る様な声が響き渡る。 ビルの上から研究員達と共に、路地裏を見下ろす男の首元には天秤のネックレス。 彼の視線の先に居るのは、黒翼のフライエンジェ――沙耶。 彼女の前には三首のキマイラ『サーベラス』が佇んでいた。 「選べだなんて」 沙耶が、息も絶え絶えに言葉を絞り出す。 自分の命と妹の、沙奈の命が天秤にかけられているとすれば。 どちらを選ぶか等、既に決まっていると答えを出そうとした正に其の時。 「駄目だッ!」 亘の叫び声に思わず沙耶が振り返る。 其処に居たのは、駆けつけたリベリスタ達。 「また会ったな、助けに来たぞ」 「みたいね、案外早い再会だったわ。でも、駄目よ……だって」 ハーケインが、沙耶に声を掛ける。 其の言葉に首を横に振り、苦笑した様に返す沙耶の顔は何処か優れない。 「俺には良く分からないけれど……君がいなくなれば、君の大切な人は悲しむんじゃない?」 恐らくは妹の事を考えているのだろうか、其の心中を察した綾兎が沙耶に言う。 「妹さんが大事なら、何があっても生き抜いて!」 大事なおねえちゃんがいなくなったら妹さんが悲しむとアリステアもまた、言葉を掛ける。 「嬢ちゃんがどういう罪を犯して来たか、俺は知らないがな。少なくとも」 いけ好かない奴の言う通りにする必要なんて無いと義弘が言う。 「沙耶さんが選ぼうとした答えは、本当に沙耶さん自身が出したものですか?」 志乃の言葉に、図星を突かれた様に沙耶が俯く。 「無理矢理死を選ばせる事自体が間違いなんです……。諦めないで」 ミミが自身が出そうとした答えに戸惑う沙耶に優しく言った。 『私達の仲間が、貴方の妹を助けに行ってるわ』 突然頭の中に直接聞こえてきた声に、沙耶が少し驚いた様な表情に変わる。 「お節介な人達ね。貴方達は本当に」 沙耶が、ふらふらと立ち上がりリベリスタ達に向けて微笑む。 傾きかけた天秤が、元へと戻っていく。 「アークのリベリスタ達か。上手く釣れたようで何よりだ」 路地裏に、天秤の男の声が響く。 其の声を聞いたリベリスタ達が即座に沙耶を庇う様に前に出て周囲を警戒する。 「沙耶さんに二度と触れるな。その理不尽な作り物の天秤と運命。キマイラと一緒に今ここでぶっ潰してあげますよ!」 亘が、巻き起こる激情の一切を隠さずに空に向かって言い放つ。 「結構な事だ。出来るのなら、やってみるといい」 天秤の男が、軽く指を鳴らすと共にサーベラスが臨戦態勢を取る。 「機会が有れば奴とはまた相対するだろう、先ずは眼前の脅威を払おう」 声が聞こえる以上、この近くの何処かに天秤の男が居る事自体は間違いない。 だが先ずは眼前の脅威、サーベラスと戦う事が先決と判断したハーケインに仲間達が頷く。 「この場は私たちが何とかするから! 妹さんも絶対に大丈夫だからね!」 「だから、最期まであがきなよ。自分と大切な人、両方守れるようにさ」 綾兎とアリステアが其々、沙耶に声を掛ける。 その言葉に、今度は強い意思と共に沙耶が首を縦に振った。 「それじゃあ、そろそろ待たせっぱなしも悪いからな」 『必ず、勝ちましょう』 義弘や沙希達が各々の武器を手にサーベラスに構えを取る。 「沙耶さんは私が一度、安全な場所まで送り届けます。沙耶さんも、それでいいですか?」 「ええ……多分、此処にいても邪魔になるだけだから」 頷いた沙耶を志乃が其の場から連れ出すと共に、戦いが幕を開けた。 ● 最速全開、トップスピードで亘が銀の短刀『Aura』を手に駆ける。 彼が繰り出すは光の飛沫が飛び散る程の速度で繰り出される華麗なる一撃。 其の一撃はまるで頬を撫でる風の様に穏やかに、されど恐るべき切れ味と共にサーベラスの左頭部を切り裂こうとする。 が、命中しようとしたその瞬間。 独立した思考を持つ、右側の頭部が庇うように首が伸び、亘の攻撃に切り刻まれていく。 「このッ! 邪魔をするなッ!」 其の感触は、まるでダイヤモンドに刃を立てたかの様な手応えの殆ど無い感触。 其々の攻撃に対し高い耐性を持つ頭部が庇い合い、支援し合う。 「厄介な相手だけど……負ける訳には行かないからね」 もう、大切な人を喪って悲しむ人を見たくないと心の中でそう言いながら、 綾兎が深紅を帯びたナイフ『Imitation judgement』と柊の花と葉を彷彿とさせる短剣『柊還』を手にサーベラスに迫る。 圧倒的な速度と共に、残像が生まれサーベラスの三つの首全てに切り掛かる。 「ん、やっぱり真ん中は硬いね」 全ての頭部を同時に切り刻む綾兎。 左頭部に今度は攻撃が通ったが、物理攻撃に耐性を持つ右頭部や中央の頭部の手応えは殆ど感じられない。 少しずつでも通っているであろう右側はともかく、 中央の頭部が左右の頭部を破壊しなくては攻撃が通らないというのはどうやら本当らしい。 簡単には行きそうにない、そう直感し構えを取り直す二人の眼の前で、中央の頭部の双眸が黄金の輝きに染まり始める。 其れは、三首の全てが健在の時放たれる、絶対威力を誇る攻撃の準備動作。 「始まったか、皆気をつけろ!」 直感的に、フォーチュナが警告していた攻撃であると義弘が理解し仲間達に呼びかける。 「あれを撃たれたら危険だよ!」 アリステアが自身もまた、自らの体内に宿る魔力を充填しながら大口を開く中央の頭部を睨みつける。 そんなリベリスタ達を嘲笑うかの様に、今度は左の頭部が全てを凍てつかせる様な強烈な波動を放つ。 其の一撃は辛くも躱した綾兎を除く、残りのリベリスタ達全員へ等しく襲いかかっていく。 「嬢ちゃん、危ない」 眼前に迫る冷気にアリステアの身体が包まれようとした其の瞬間。 冷静に、尚且つ素早く前に飛び出た義弘が、『侠気の鉄』を使ってアリステアを庇う。 「俺は盾だからな。不条理や脅威から仲間を守るのが仕事だ」 心配げに自分を見たアリステアにそう、軽く微笑しながら義弘が言ってみせる。 「私は寒さには強い方ですから……このくらいの寒さなら」 其の中で、冷気に対して耐性を持つミミが直様、仲間達を氷の力から救い出すべく神々しい光を放つ。 光そのものの熱量が、仲間達の身体に纏わりついていた氷を融かし鈍っていた身体を元通りにしていく。 「貴様の相手は俺だ」 暗黒の魔力を秘めたS字型の鍔を持つ刀剣『Katzbalger』を携え、ハーケインが左頭部へと斬りかかる。 其の一撃は、ハーケイン自身の身体をも蝕みながら、相手の精神ごと斬り裂いた。 「続きますよ」 更に続く様に今度は神秘攻撃に耐性の低い右頭部へ向け星龍が呪いの弾丸を放ち、見事に命中させる。 『回復最優先よ』 沙希の清らかな詠唱によってもたらされた福音が、仲間達の傷ついた身体を瞬く間に癒していく。 唯でさえ、後少しすれば今はチャージに入っている中央の頭部から強力な一撃が放たれるのだ。 万全を期するに越した事はない。 「すみません! おまたせしました」 沙耶を安全な場所へと送り届け、戦場へ戻ってきた志乃が其のままリボルバーと毒針を構え、左頭部を狙い撃つ。 毒針と銃弾が左頭部に命中し、ダメージを蓄積させ、追い打ちを掛ける様に綺沙羅が無数の符を放つ。 放たれた符は鳥の群れとなり鳥葬するが如く左頭部を圧倒していく。 「今度は庇う暇は与えない」 更に、今度は庇う隙すら与えまいと二度連続で亘が瀟洒なる刺突を繰り出す。 「出来ればこのまま、とっとと集中攻撃で一つ落としておきたいな」 先程同様に残像と共に、左右の首を切り刻みながら綾兎が言う。 切り刻みながら彼が目にしたのは黄金から今度は赤く変化した中央の双眸。 危険信号だろうか、まるで信号機の様だとリベリスタ達が思う。 其れを見たハーケインが沙希を。 義弘が念を推し待機したアリステアを庇うべく、各々の立ち位置を整え直す。 其の陣形を崩すべく先程は左頭部を庇っていた右頭部が大きく口を開き、地獄の業火を思わせる火炎を放射する。 「防御した其の上から、削り切る気か」 沙希に向けて放たれた火炎を、ハーケインが其の身を呈して庇う。 燃え盛る業火は彼の身体を焼き払わんとするが一撃でそのまま倒れる様なハーケインではない。 「今、傷を癒すからね!」 更に続けざまに再び、左頭部から冷気の波動が放たれるも待機していたアリステアの聖神の息吹。 「……何度やったって同じ事」 『仲間は誰一人倒れさせはしません』 其れに加えてミミのブレイクフィアーや沙希の天使の歌が仲間達の傷を癒していく。 「この一撃で、左側がやられてくれれば言うこと無しですが」 リボルバーと毒針を志乃が左頭部に向け放つ。 が、今度は其の攻撃も、辛くも外れダメージを与えるには至らない。 そして、遂にその瞬間はやってきた。 「来るぞ! 全員奴の一撃に備えろ!」 義弘がアリステアを庇う様に前に立ち、誰よりも早く仲間達に声を掛ける。 既にサーベラスが最強最大の攻撃――トライバニッシャーを放つ為の準備期間は終わっている。 見れば左頭部は後少し攻撃を加えれば倒せるかも知れない程度の体力に見えるが。 「欲を出して、そのあと纏めてやられたら話にならない」 苦虫を噛み締めるような顔でハーケインが呟いた。 「先ずは耐えて、そのあと今度は一気に畳み掛けましょう!」 亘の提案に、仲間達が強く頷いた。 幸いリベリスタ達に、回復の担い手は多い。 『こんな時ですが』 沙希がAFを手に、ハイテレパスで仲間に呼び掛ける。 『向こうは無事終わったようです、沙耶さんの妹も無事』 どうやら別働隊は上手くいった様だ。 その言葉を聞いたリベリスタ達の表情がより一層力に溢れたものへと変わる。 「……こっちも、負けてられませんね」 「ああ、妹に無事沙耶さんが会う為にもね」 微笑を浮かべ、防御の構えを取りながらミミと綾兎が言う。 ● トライバニッシャー。 マグマの中に居るかのような獄炎と、氷河期の到来を思わせる絶対零度。 相反する二つの力が互いに作用しあい、一切の回復すら許さず全てを消滅させる程の力が周囲一帯に放たれる。 遠くの方からでもはっきりと分かる程の爆発と、轟音。 回避する暇等一切与えず、防御の上から全てを打ち崩す程の必殺の一撃がリベリスタ達を襲う。 激しい粉塵が巻き起こり、煙が晴れた時立っていたのは庇われ、難を逃れたアリステアと沙希の二人だけ。 最早、攻撃手を失ったリベリスタ達に戦う力は殆ど存在せず敗北は必至かと思われた其の時。 敗北に傾き始めた天秤の運命が、逆に傾き始める。 「まだだ、まだ終わりじゃない……最期まで何度だって立ち上がり続けてやる」 フラフラの身体のまま、義弘が立ち上がる。 「此処で倒れたら、莫迦みたいじゃない。俺はもう誰も悲しませたくないんだってば!」 「彼女達は信じてるんだ……また二人で笑顔で笑い合える日が絶対に来るんだって!」 絶望なんて要らない、幸せをもう奪わせはしないと綾兎と亘もまた立ち上がる。 「此処で倒れて、皆さんのご迷惑になるわけにはいきません……」 「ああ、簡単に倒されては格好もつかないからな」 「私達が死ねば、私達を信じて任せてくれた沙耶さんの心に傷が残るんです」 ミミ、ハーケイン、志乃もまた各々の想いと共に立ち上がっていく。 「だから私達は戦う、何度倒れても」 「後味の悪い話には、したくないし」 星龍と綺沙羅が最期に立ち上がり、一度は倒れたリベリスタ達全員が運命を変えるべくサーベラスに立ちはだかる。 「皆、今動けるようにするから!」 直様アリステアが高位存在の意思を以って詠唱した聖神の息吹で仲間達の傷を癒しに掛かる。 具現化された癒しの息吹は、仲間達の動きを阻害していた炎や氷を打ち消し戦う力を取り戻させていく。 『庇って貰った分のお返しをします』 更に、沙希が天使の歌によって更なる癒しの力を仲間達に等しく分け与えた。 そうして戦う力を取り戻したリベリスタ達がサーベラスに対し怒涛の猛攻を仕掛けていく。 「これ以上幸せを取り戻そうとしてる二人の、ジャマをするなぁぁぁ!!」 「生み出された君に罪はないけれど……人を害するものは、狩られる運命。可哀想だけれど、ここまでだよ」 亘と綾兎が、左右から同時に左頭部に攻撃を仕掛ける。 互いに神速とも言うべき速度を以って、サーベラスを翻弄しながら加えられた連続攻撃に左頭部が粉砕される。 左の頭部を失った瞬間、中央の頭部の左半分もまた強固だった表皮が弾け飛ぶ。 頭部の一つを失った怒りに我を忘れたのか。 中央の頭部が雄叫びを上げノーフェイスの腕を使い力任せに眼の前にいた亘に殴りかかる。 更に右頭部もまた、火炎放射を綾兎に放つも、其の両方を難なく二人に躱される。 「確かお前は、こういうのに弱いんだったな」 義弘と星龍が、右頭部に狙いを定め其々ジャスティスキャノンとカースブリットを放つ。 物理攻撃に対してこそ無類の防御力を誇っていた右頭部はしかし、放たれた二つの攻撃に対する耐性は低い。 強い力の込められた十字の光が刻まれると、其処を狙い穿つ様に今度は呪いの弾丸が華麗に撃ちぬいて行く。 『癒し手が攻撃する事もーある』 続けざまに放たれた攻撃に右頭部が満身創痍になった所に駄目推しに沙希がマジックアローを放つ。 魔力の矢が大口を貫き、右頭部もまた弾け飛び消滅し中央の頭部が筋繊維が顕となった見窄らしい姿に変貌する。 「残るは中央のみ、此処で決めましょう!」 志乃の言葉にハーケインとミミ、綺沙羅が顔を合わせ強く頷き、駆ける。 ミミの鋭く尖った牙が、サーベラスの首元に突き刺さり血を吸い尽さんとし、 続くハーケインが暗黒の魔力を宿した剣でノーフェイスの身体ごとサーベラスを斬り裂き。 最期に志乃が放ったリボルバーの弾丸と毒針、其れに綺沙羅の鳥の群れが合わさりサーベラスを蹂躙する。 リベリスタ達の総攻撃の前に最早為す術をなくしたサーベラスはそのまま倒れ伏し、蕩け蒸発していった。 ● 「病院、戻るんでしょ? なら、付き合うよ」 戦いを終え、沙耶の元へ合流したリベリスタ達。 また襲われたら大変だし……と綾兎が沙耶に声をかける。 本音としては妹の無事な所を見た沙耶の姿を見たいが素直に出す事は照れくさい。 「病院が気になるならお前も来るか?」 「向こうも無事終わっている。其処までは俺達が護衛しよう」 ハーケインや義弘もそう、声を掛ける。 元々状況確認の為に病院へ向かうのだからそのついでと仲間達も協力を惜しまない。 静かに手を差し伸べるリベリスタ達に。 「お節介な人達だわ、本当の本当に……有難う」 そう言葉を返す沙耶の表情は、明るい希望に満ちた笑顔だった。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|