● ぷくり、と。初めは水脹れの様に。 薄皮一枚向こう側。未だ柔らかな双葉が、水を含んでぶよぶよと、蠢いている。 剥がれた肉から滲んだ血が、膿が、溜まったその皮膜を、ぶつり、と。 食い破る様に出てきたそれは、不似合いな程愛らしく、その双葉を開く。 それを、皮切りに。ぶつぶつと。 顔を出す芽。芽。芽芽芽芽芽芽芽芽芽芽芽芽芽、――芽。 眼球と眼窩の間から口から喉から耳から髪と一緒に頬に植えつけた様に一斉に根付き芽吹くそれが、次々に葉を広げ、伸びていく。 滴り落ちる血膿。ぶちぶち、聞こえるのは筋と筋の隙間に潜り込んで行く白い根の侵攻。 柔らかなベッドの中心で、横たえられていた人間、否、『植木鉢』は、その身を苛む激痛に、狂った様にその全身を波打たせる。 声を出そうにも、その口が、喉さえも、もう既に全て噴出した芽に塞がれていた。 音が、動きが、段々と弱くなる。 広がるのは濃い血の匂い。或いは胸を悪くする腐敗臭。 余す所無く緑に染めた『植木鉢』の植物は、緩やかに育っていく。 そのすぐ傍ら。蕾が見え始めたそれを、慈しむ様に眺める少女は酷く満足げに頷いた。 「よし、出来そうね。……妖精さん、早く育って? きれいなおはなを咲かせてねっ♪」 『植木鉢』――否、恐らくは少年だったものはかくり、と、その動きを止めた。 日当たり良好。水分、養分共に十分。20度程度に保たれた温室で、華美に飾った魔女は、嬉しそうに笑う。 「――うん、とっても素敵ね!」 その足元で。 魔女の手から種を飲まされた次の『植木鉢』がびくびくと、声にならない悲鳴を上げた。 ● 「……『運命』、話すわ。聞いて頂戴」 吐き気を堪える様に。 唇を噛んだ『導唄』月隠・響希(nBNE000225)は、低い声で話を始めた。 「今回は、アーティファクトの奪還、そしてフィクサード討伐を行ってもらう。……こう言う言い方するもんじゃないけど、害悪過ぎるわ。殺して」 適当な色は影を潜め、冷ややかさと苛立ちに満ちた言葉が投げられる。 差し出されたのは一枚の地図。そして、草の塊のようなモノの写真。 「対象は黄泉ヶ辻所属フィクサード――『デンドロフィリー』結崎・愛芽。ジーニアス×スターサジタリー。 頭の可笑しさと実力は群を抜いてるわね。命中率と派手な立ち回りは相当なものよ。 通常のスターサジタリーの技と、彼女独自の技も持っているようだけど、詳細は不明。 加えて、彼女は粉薬の様なアーティファクトを所持してる。識別名『気狂いアイビー』、上位チャンネルの植物の種みたいな物。 それを対象に飲ませる、若しくは付着させると、脳を養分に急速に増殖、成長し、全身からその芽を吹き出させる。 当然、対象は芽吹いた死ぬんだけど……更に性質が悪いのは、このアーティファクト、花が咲いちゃうと対象をノーフェイスにするのよ。 因みに、一般人のみね。E能力者だった場合、フェイトに反応し成長は促進され、養分もフェイトになるわ」 其処まで話して、その瞳がちらりと、机の上の写真へと向けられた。 緑色の、草の様な何か。良く見ればそれは、ひとのかたちを、していないだろうか。 一気に重くなった空気を感じながら、フォーチュナは話を続ける。 「まぁ、あんたらの場合はそうそう死なないから大丈夫。フェイトは養分だけど、同時に天敵でもあるみたいでね。 吸い上げ花を咲かせた後は、逃げる様に抜け落ちるわ。……あ、因みにそれも、エリューション・ビーストね。 で、ええと、次。……現場には、既に、花が咲いちゃった……あの女曰く『妖精』と、成長途中の『植木鉢』が5体ずつ居る。 助ける事は不可能だからね。加えて、まだ無事な子供が、3、4人。全員幼い男の子。意識を失ってるけど、まだ種は植えられていないわ。 ……『妖精』は全員ノーフェイス。フェーズ1程度。癒しの花粉を放つ能力と、単純な突進系の攻撃を持ってる。 ただ、怖いのは……彼ら、その命と引換えに1度だけ、『気狂いアイビー』と同じ能力を持つ粉を放てるのよ」 愛芽が放つ粉に比べ、その命を賭した攻撃は非常に当たり易いのだ、と彼女は告げる。 「拘束とかじゃそれは止められない。……嫌なら、さっさと倒しちゃったほうがいいでしょうね。 『植木鉢』の方は時間経過に合わせてどんどん『妖精』に変わるわ。影に隠してあるみたいだから、狙うのは難しいかもしれないわね。 ……これ位かしら。残りの情報は、こっちを見て頂戴。……嫌な依頼だけど、成功を祈ってる」 いってらっしゃい。見送るフォーチュナの表情は、一度も晴れなかった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:麻子 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年05月21日(月)22:34 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「あらお客さま? わたしのお庭にようこそ♪」 たった今完成させたのだろう。びくびくと痙攣する子供の首を掴んで。 少女と言うには禍々し過ぎる女は、出迎えの挨拶を告げた。 「とっても素敵なお花だね♪ 私にも一輪くださいな!」 くすくす。言外に皮肉を含めて。酷く楽しげに笑い声を返したのは『ヴァイオレット・クラウン』烏頭森・ハガル・エーデルワイス(BNE002939)。 友達になれたかも、なんて呟いて、けれど嗚呼駄目だ、と首を振る。 「あっ、今の私はリベリスタでした! こんな悪行は許しちゃ駄目ね」 さっさとぶっ殺しちゃいましょう。すぅ、と笑みが深くなる。 そんな彼女を見返して。桃色の魔女は緩々、首を傾ける。 「ああ、リベリスタなの? ……そっか、邪魔しに来たのね」 折角素敵なおうちで、かわいいみんなと過ごせるって思ってたのに。 表情は貼り付けたような笑みのまま。『植木鉢』を放り投げた愛芽の手が、ポシェットから黒光りする銃身を引き抜く。 一呼吸。集中と共に得たのは、どんな動きすらその目に捉える驚異的な動体視力。 準備は万端。そう言わんばかりに微笑む彼女はしかし、次の瞬間己の肩口を貫いた弾丸に、その瞳を大きく見開く事となった。 「そこまで堕ちる方法をご教授願いたいものだが、そんな猶予は無い様だな」 実にいい趣味だ。そう皮肉る『八咫烏』雑賀 龍治(BNE002797)が、煙燻る火縄銃を構えた侭、女を見遣る。 右目が疼く。しかしそれも瑣末な事、片目であろうと一度その瞳に捉えれば決して外さぬ男の弾丸は、愛芽の集中力を容易く削ぎ落として見せた。 まぁ、と。女の瞳が驚愕の色に染まるのを目の端に捉えて、龍治はその目を細める。 恐らくは自分と同じ型の相手。興味がないと言えば嘘になる。 寧ろ、その力を存分に堪能してやろう。思考を巡らせる間も止まらぬ手が、手早く次の射撃の用意を整える。 「花は良い。素材が何であれ咲く花に罪は無い」 温室の入口。龍治に続いて其処に立ち入って居た『原罪の蛇』イスカリオテ・ディ・カリオストロ(BNE001224)は、穏やかに微笑み、その声を響かせた。 綺麗なものは綺麗だ。それが、背徳の花であるなら、尚更。 極限まで集中を高めた脳が、酷く冷静に愛芽を、そして蠢く妖精達を仕留めるプランを組み立てていく。 そんな彼をじっと見詰めた愛芽は、笑みを深めて首を傾けた。 「あら。セイギノミカタにも、そんなこという人がいるのね?」 とっても面白いわ。そう笑う彼女の横から。草木の塊に成り果てた『妖精』達が、主人を護らんと戦闘行動を始めていた。 ふわり、2匹の妖精から漂う花粉が愛芽の傷を癒し、勢い良く突っ込んでくる他が、『無何有』ジョン・ドー(BNE002836)を、『忠義の瞳』アルバート・ディーツェル(BNE003460)を、跳ね飛ばす。 もう一匹。その身の事など顧みない突進を真っ向から受け止めたのは、『鉄腕ガキ大将』鯨塚 モヨタ(BNE000872)。 「悪趣味なガーデニングはここでおしまいにしてやるぜ!」 悪い足場を軽減するのは、用意してきた安全靴。 紫電爆ぜる身の丈程の剣を振り上げて、返しとばかりに叩き込んで見せた。 ばちり、走った雷撃は地に受け流される。けれどそれでも重い一撃だったのだろう。攻撃を受けた妖精が、よろめく様に膝をついた。 その後ろで。自身の隣に立つ龍治を気遣いながら、『セール・ティラユール』草臥 木蓮(BNE002229)は射手としての集中を高めていた。 大事な恋人は、傷を負っている。失った右目は痛まないだろうか。何か、不便が無いだろうか。 代わる事は出来なくとも、誓ったのだから。そう心中で囁いて。戦況を見極める様に、その瞳は前に向き直った。 仲間達とは反対側。地をすり抜け静かに室内へと入った『Dr.Tricks』オーウェン・ロザイク(BNE000638)は次の瞬間、かち合った桃色の視線に息を呑んだ。 側面の壁を背にして。全てのリベリスタを見渡す事を可能な位置に動いた女が、笑う。 「此処、硝子張りなのに見えてないとでも思ったの?」 一人だけ消えたんだもの、可笑しいと思った! 女の腕が、上がる。 狭いこの箱庭全てが、彼女の領域なのだ。見えるならば、逃れる場所など存在しない。 引かれたトリガー。直後、オーウェンを含む全てのリベリスタは等しく、降り注いだ炎の矢にその身を削られる事となった。 ぶすぶすと煙が上がる。満足げに笑う女を尻目に、即座に体勢を立て直した龍治の火縄銃が火を噴いた。 軽やかな身のこなしで、ばら撒いたのは敵を薙ぎ払う光の弾丸。 障害物さえ容易く巻き込むそれが、辛うじて見えていた2体の植木鉢さえ捉え、二度と立ち上がる事無い屍へと変えて見せる。 「ああ、わかったわ! あなたが、箱舟の『八咫烏』なのね。会えるなんて思わなかった!」 その正確無比な射撃の腕を、存分に振るって見せて。そう笑う女の後ろで、辛うじて攻撃に耐えたオーウェンは素早く、意識を失っている子供の救助へ向かう。 障害物の処理は既に済んだ。ならばと物置に続く戸を開け、手早く2人の子供を中へと放り込む。 こうしてやっても、彼らが助かるかは分からない。けれど、オーウェンはそれに、特に何かを感じる事はなかった。 「……若しも死が訪れるのならば。それは運が悪かったと言う事に他ならない」 呟く言葉と共に、脳裏を過ぎるのは幼き日に過ごしたスラムの光景。 人の生き死に等、所詮は運だ。感傷も悲観も交えぬその瞳が、残る子供達を見据え、そっと吐息を漏らす。 この子供達を救う事もまた、作戦だからこそ。敵の様子を伺いながら、オーウェンは救助を続ける。 「貴女様の相手は私めでございます。暫し、お付き合い願います」 まさに慇懃無礼。冷ややかな眼差しを向け一礼して見せたアルバートが放つのは、相手を蝕み捕らえる気糸の網。 ぴしり、動きの止まる身体に、女の眉が寄る。その様子を見遣りながら、執事は深く、溜息を漏らした。 年端も行かぬ少年達で園芸とは、実にいい趣味をしている事だ。 皮肉たっぷりに内心で毒づきながら、フォーチュナが浮かべていた嫌悪の意味を理解したアルバートはダガーを構え、相手の様子を観察する。 仕留めるのは妖精から。その作戦は、リベリスタの中で確りと共通の物になっていた。 モヨタの破邪の閃光が、蝕む炎の呪いを打ち払う。 ジョンの全身から伸びる気糸が、その弱点を執拗に嬲る。イスカリオテの閃光が妖精を焼き払えば、エーデルワイスの振るう腕から神速の射撃がばら撒かれた。 弱った敵は木蓮が集中的に狙っていく。 しかし、1体の妖精を倒し、後もう1体、十分に弱らせる事に成功したリベリスタが安堵する間も無く、激戦は、続いていく。 ● 繰り広げられた激しい戦いはしかし、明らかに短期決戦の様相を見せていた。 回復の手段が無いリベリスタにとっての脅威は、愛芽自身、そして、時間だったのだ。 強化を施した力を振るい、出来る限り多くを巻き込み潰す事で回復や増殖を防ぐ。 長期戦が可能な状況ならば最も有効であっただろう策は、癒し手を欠く彼らにとっては致命的とも言える状況を生み出す事となっていた。 時折混じる範囲攻撃に巻き込まれるのみの愛芽の傷は、生き残った妖精によって容易く塞がれる程度のもの。 一度アルバートの力で拘束が叶ったものの、このメンバーの中では恐らく最も素早い彼女は、既にその拘束から抜け出ていた。 「ふふ、わたしを捕まえるには、まだ足りないんじゃない?」 即座に引かれるトリガー。雨霰の如く降り注ぐ業火の矢。灼熱が、頬を、髪を、舐める様に焼いていく。 この一撃の恐ろしさは、単純な威力のみではない。 ほぼ確定と言って間違いではない確立でその身に纏わりつく炎が、その命を削らんとしてくるのだ。 その上、戦闘最中に行われた強化さえも、リベリスタにとっては寧ろ裏目に出ていた。 早期決着を目指すべき状況で、初手から攻撃に移る事が出来たのは龍治にエーデルワイス、事前に己が力を開放したモヨタの3人。 先手必勝。全員が迅速なフィクサード以外の始末を狙えば、結果はまた違ったかもしれない。 しかし、それすらも既にもしもの話。完全な劣勢に追い込まれたリベリスタは、きつく歯噛みした。 続く生き残った妖精の突進に、遂に耐え切れなかったジョンが倒れ伏しかける。 がりがり、削るのは己が運命。 「これ以上の惨劇は阻止しませんと……」 ふらふら、辛うじて踏み止まった彼のモノクル越しの瞳が、妖精を、そして、立ち上がってしまった1体を除いて全て処分した植木鉢を見詰める。 デンドロフィリー。まさにその名が相応しい女によって苗床にされた少年達。哀れだが、非情の心で命を断たねばならない。 だから、まだ。此処で倒れる訳には行かないのだ。 愛芽の後ろ。子供全てを物置に放り込み終えていたオーウェンが、片目を伏せて集中を高める。 状況は、芳しくない。起死回生が出来るとするならば、『アレ』しか無いだろう。 幸いにも、既に妖精のダメージは著しい。ならば。 「今だ神父よ、焼き払え!」 「散り逝く花は美しい。けれど、散らず腐敗する花は?」 妖精譚を語るには、あまりに育ち過ぎだ。 魔術師の声に応える様に。盟主――イスカリオテの周囲に、流砂が舞い上がる。 帯びるは灼熱。全てを巻き込み焼き尽くすそれが、敵を等しく包み込んだ。 「――せめて散る花の美しさを御見せ致しましょう」 そんな言葉が消える頃には。地に咲いた花は燃え尽き、残る妖精は、たった2体まで減っていた。 火炎に弱い。その言葉通り、生き残った妖精も、己が身を苛む消えぬ炎に身悶えする様に見える。 押し切れるか。その確立の低さに微かに眉を寄せながら、それでも諦める事無く、リベリスタの猛攻は続いていく。 ● 劣勢は、転じない。 幾度目かの矢で、既にオーウェンが、ジョンが、その身を地に横たえていた。 妖精はもう居ない。しかし、死ぬ間際残した種子の呪いは、今度こそ等しく全員を蝕んでいた。 「いてっ……オイラ男だし、お花飾られて喜ぶシュミなんてないぜ!」 ぶちぶちと。己が皮膚を、筋を傷付ける事も厭わずに、花咲く前のそれを引きずり出したのはモヨタ。 多量の血液が、滴り落ちる。しかし、運命をほぼ吸わせなかったその行いは、少なからず仲間の心を奮い立たせる。 「ふふっ、まだがんばるの? ……今度はどうかしら!」 ショットガンが火を噴く。既に殆どが満身創痍。射撃を続ける龍治さえ、既に限界を感じていた。 降り注ぐ火炎に、覚悟を決め目を伏せる。 しかし。 「……愛芽、こっちを見ろ」 やらせない。何度だって庇って見せる。その身を躊躇い無く龍治の前に投げ出して、木蓮は力無く、その身を地面へと横たえる。 既に、運命は燃やしていた。けれどそれでも躊躇わなかったのは、誓ったからだ。 失った右目の代わりに。自分が、彼の右目になる。必ず護る。必要な時に、彼が戦えぬ事が無いように。 意識を失いながらも酷く満足げな笑みを浮かべた木蓮に、女は静かに、その瞳を細めた。 「愛、って奴? ……いいわね、そんなかわいい女の子に大事にされてるなんて、しあわせものなのね」 ぜんぶぶちこわしてやりたいわ。微かに含まれた苛立ちにも、そして、倒れた木蓮の姿にも、龍治は表情1つ動かさなかった。 此処で冷静さを失う事は、彼女の決意を踏み躙るも同然。 抱いた感情は全て集中に変えて。 構え直した彼が放った光弾が、残った妖精全てを草の塊へ変えた。 当初に比べて、愛芽は明らかに苛立っている。 それを感じ取って、イスカリオテは目を細めた。 然り、真理等と言う物は狂わなくては辿り着けない。ならば、その狂気は、自分の狂気を凌駕し得るのか。 探求には持って来いだ。細めた瞳が、女の抱く狂気を覗く。思考を。思考を。分析し分解し理解し投影する。 その為だけに狂気の種子でも、そして、立ち上がる為にも運命を削りこの機を待っていた神父へと。 「ねぇ神父さん。わたしの狂気なんて、覗いてる暇あるの?」 甘く見ないでね。投げ掛けられたのは、冷たい嘲笑。深く、息が吸い込まれる。 直後。響き渡ったのは、凄まじい絶叫。 精神を削るだけではない。聞いた者の身を固めるそれは、高い命中を持つ彼女と最高に相性の良い一撃だった。 身体が動かない。動く事の出来たのは唯一この状況を癒すことの出来るモヨタと、エーデルワイス。 けれど、削られすぎた精神力は、破邪の閃光さえ呼び出す事が叶わない。 「自分たちの欲望で人の命をもてあそぶような奴はだいっきらいなんだよ!!」 悔しげに、歯噛みし、せめてとその剣を振るうモヨタを援護する様に、エーデルワイスが放つのは、断罪の魔弾。 「私の為に血の華を咲かせてね♪ うふふ……きっと綺麗なお花が咲くんじゃないかなぁ」 己が傷を力に変えるそれが、容赦なく華奢な女の体を打ち抜く。 微かに漏れた呻き声。しかし、それでも彼女は膝を折らない。手数が足りない。 そして。 「もう飽きちゃった、……静かに暮らしたいから、これでおしまいにしてね」 もう何度目か。ショットガンのトリガーが、引かれた。 炎が止んだ後。 立っていたのは何とか耐え凌いだモヨタのみに、見えた。 しかし。 「――挺身に応える為にも、」 こんな所で倒れている訳には行かない。もう一人。耐え切ったのは龍治。 その横で、エーデルワイスが、アルバートが、やはり運命を糧にその意識を引き摺り戻していた。 まだ4人。4人居るのだ。倒せるかもしれない。けれど、このまま戦闘を続けるのはあまりに無謀だ。 「……撤退致しましょう。これ以上の被害が出れば、それすら危うくなる」 冷静に。呟いたアルバートの言葉には、苦渋が滲んでいた。 それぞれが、素早く手近の仲間を背負い上げる。 視線を交わす。駆け出した彼らに追い縋らんと、ショットガンの銃口が向けられる。 「だめよ、わたしの妖精さんを壊したんだから、あなた達も――」 ぱん、と。言葉を遮ったのは、耳慣れた射撃音。続いて、ショットガンが手から転げ落ちる。 正確無比。見事に手を撃ち抜いた火縄銃を構えた龍治を見遣って、女は初めて笑みを崩し、冷ややかな瞳を彼へと向けた。 「……あのねぇ。どれだけ優れた腕を持とうと、使えなかったら宝の持ち腐れなのよ?」 同じモノを極めるからこそ。 龍治に向けられる言葉は、狂気よりも苛立ちが濃かった。 「それで最初からわたしだけを狙えば良かったのに」 あなたはわたしの天敵なんだから。 避ける事など許さぬ精密射撃。それは、自分にとって何より恐ろしいと眼を細めて呟く女。 此処で撃ち抜けば勝てるだろうか。可能性は有るかもしれない。けれど、それは恐らく、己が命と引換えだ。 躊躇わず背を向ける。鮮血滴る傷口を押さえる女はそれを追わない。否。既に、追う体力すらないのだろう。 悔しさを噛み締め駆け抜けるリベリスタ達の背を見詰めながら。 ――次はどんなおともだちをつくろうかしら! 狂った温室に生きる魔女は酷く楽しげに、笑みを浮かべていた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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