●嫌いな人達 春の終わりを感じさせる、熱気を含んだ風が吹く。 少女、鳴海しおりにとって、それはこの屋上でいつものように感じているもので、すっかりおなじみになっていた。 だから、空が曇り雨が降り出し、しおりの身体を濡らしても彼女は一切動じることはなかった。今まで何度もこういう状況に直面したことがあったからだ。 ある時は、自分で逃げこんだ屋上で。 ある時は、クラスメイトに閉じ込められた屋上で。 雨水がしおりの制服を濡らし、重くしていく。その度に、痣だらけの身体がギシギシと軋み、悲鳴をあげるようだった。しおりは痛みに顔をしかめるものの、声を漏らすことはしない。 厚い雲に覆われているが、普段ならここから綺麗な夕陽が見れる。それが楽しみで、しおりはこの屋上を自分の逃げ場所としたのだ。 校内で唯一安らげる、しおりの居場所。 しおりは、いじめにあっていた。 理由は分からない。ただ、気が付いた時には、クラスの女子生徒達から煙たがられ、悪戯され、そしてそれが暴力にとってかわっていた。 生来、気の弱いしおりは抵抗することもできず、逃げることでそれに耐えていた。 学校を休むことも考えた。けれど、一度休むと次に会った時、休んだ分まで纏めていじめられると分かってからは無理をしてでも学校に行くことにした。 けれど、今日は体調が悪い……。 雨に打たれた身体からは、体温が奪われていく……。 意識が朦朧としてくるのが分かる……。 辛い。 苦しい。 一度そう思い始めると、歯止めが効かなくなった。 朦朧とする頭の中でぐるぐると駆けまわる負の感情、恨み辛み。 しおりは、そのまま気を失って屋上の隅に倒れ込んだ。容赦なく彼女の身体を雨が濡らす。 そんなしおりを、誰かが見降ろしていた。 濡れた服と、暗い瞳、痣だらけの身体。 それは、しおりと同じ姿をした何か別の存在……。 もう一人のしおりは、気を失ったしおりの傍らに座り込む。 ガタガタと、雨音に混じって固い音。屋上のドアが空き、陰惨な落書きと、切り傷だらけの机が入ってきた。誰が運んできたわけでもない。机は一人でに、屋上にやって来たのだ。 それは、しおりの使っていた机。 クラスメイト達により、言葉の暴力を刻まれた机。 机は、雨からしおりを庇うように、彼女の上に移動する。 暗い目でそれを見届けると、もう一人のしおりは屋上の端に立つ。 「あぁ……なにもかも、なくなればいい。嫌いな人も、嫌いな教室も、嫌いな自分も、全部……」 そんな呟きが、雨に紛れて消えていく。 ●きらいな場所 「しおりの負の感情によって生み出されたE・フォースを討伐してきて欲しい」 モニターを切り替え、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)がそう言った。モニターに映ったのは、人気と明りの消えた学校の廊下だった。 「いじめを受けている女子中学生、鳴海しおりの負の感情は、長い時間をかけて屋上に染み付き、E・フォースとなった……。フェーズは2。しおりの目的は、嫌いなもの全てを無くすこと。彼女の所属していた2―Aクラスの机全部がE化しているみたい」 机が無ければ、教室で授業はできないものね……。 寂しそうに、イヴはそう言った。 「机は、校舎内を好き勝手に動き回っているわ。こいつらのフェーズは1で大した強さではないけれど、近くにある他の机の中に紛れ込んだり、他の机を動かす能力を持っているわ」 数が40と多いから、撃ち漏らさないように、とイヴは言う。 「それから屋上にはE・フォース(しおり)と、E・ゴーレム(しおりの机)、それから意識を失った本物のしおりがいる。本物のしおりは、しおりのE・フォースを倒すことで目覚める筈」 嫌なことから目を背けたままではいられない……。 無理やりにでも、しおりを起こしてきて、とイヴは呟いた。 「しおりの机は守ることに特化した能力、E・フォースしおりは攻撃に特化してる。見えない打撃と斬撃に注意して。それから、敵を校舎内のどこかに瞬間移動させる能力もあるみたい」 最後に、とイヴは大きなため息を吐いた。 「少しだけ、しおりの背中を押してくれると……嬉しい」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:病み月 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年05月19日(土)00:06 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●きらいな場所 分厚い雲と降り続ける雨。 それから、ゴトゴトという物音。 一刻も早く、屋上へ向かおうと、八人の男女は頷きあってコンクリート製の校舎に足を踏み入れた。 目指すは屋上。苛めを苦にして心を閉ざしてしまった少女(しおり)を止めに行くのだ。 「いじめってのはなくならないもんだな」 近くに人がいないことを確認して、雪白 音羽(BNE000194)が昇降口の扉を開ける。校舎内を徘徊する机のE・ゴーレムを警戒しているのだ。 「ただの少女とはいえ、蓄積した負の感情はE・フォースにもなり得るか。哀れと言えば哀れだが、放置しておくには余りにも危険すぎる」 まずは討伐、背を押すのはその後でいい。と『アウィスラパクス』天城・櫻霞(BNE000469)が屋上に目を向けた。 そんな彼の横を寂しそうな顔をした少女、『鏡文字』日逆・エクリ(BNE003769)が通り過ぎていく。 「こんな日に一人で泣かないでよ」 唇を噛みしめ、校舎に入っていく。 校舎内は、暗く、不気味な雰囲気。先ほどまで鳴っていたゴトゴトという音も、今は鳴り止んでいる。 8人は『おっ♪おっ♪お~♪』ガッツリ・モウケール(BNE003224)を先頭にして廊下を進む。 「いじめカッコ悪いお。やめさせたいけど……」 自分に出来ることは限られている、と呟いてガッツリは壁にあったスイッチに手を伸ばし廊下の電灯を灯す。千里眼を使用して、敵の位置を探す。 今回、しおりのE・フォース以外にも複数のE・ゴーレムがいて、校舎内を徘徊しているのだ。 動く机、である。 「任務開始。さぁ、眠っているお姫様を起こしに行きましょうか」 スローンダガ―を手に『戦奏者』ミリィ・トムソン(BNE003772)が、そう言った。その瞬間、目の前の教室から数体の机がゴトゴトと音を鳴らしながら姿を現す。 それは、なんの変哲もないただの机。 元はしおりを苛めていた者たちの使っていた、ただの机だった。 ●きらいなもの 果たして、いかなる理由であろうか。 しおりを苛めていた者たちの机がE・ゴーレムと化したのは。 明日の朝、生徒達が登校してきた際、この机達は誰を襲うのだろう。無差別か……、或いは、元の持ち主か。もし後者だとしたら、机のE化もまたしおりによる復讐の一環に他ならない。 「こんな所で足止めされている場合ではないのですけどね。しおりさんに手を差し伸べるためにここに来たのですから。イジメ、ダメ、格好悪い」 『境界の戦女医』氷河・凛子(BNE003330)が展開した魔方陣から光の矢を放つ。闇を斬り裂いて飛んだそれは、現れた机のうち1体を廊下の壁に縫い付けた。 廊下に明りを灯したことにより可能となった先手必勝。 机達の進行が、一瞬止まる。その隙に『さくらふぶき』桜田 京子(BNE003066)が戦線に躍り出る。 「前衛職の人が居ないですからね」 だったら自分が、皆を守る武器になる。 目の前に並ぶ数体の机目がけ、蜂の襲撃にも似た勢いで弾丸の嵐を叩きん込んでいく。 やがて、桜田による攻撃が終わる。埃と火薬、木の焦げた匂いが廊下に充満した。目の前に転がるのは、ただの木材と化した机の欠片。 それを踏み越え、8人は上階を目指す。 2階に到着し、廊下の明りを付ける……。 「……おっお~」 明りを付けた瞬間、廊下に並ぶ机の群れが視界に映り、ガッツリの頬を汗が伝った。 更に……。 「上からも来たよ」 と、日逆が呟く。彼女の視線の先には、階段から転がるように落ちてくる机が2体。 ガツン、と大きな音。それが合図だったように、机たちが迫りくる。上下左右に暴れながらの突進。時折机同士がぶつかり木破を散らす。 「机が飛んでくるのって、心理的にちょっと怖いですね」 そう言って、ミリィが閃光弾を放つ。前方から迫りくる机達の動きが止まった。同じように、階段を降りてくる机に向かって日逆がフラッシュバンを放つ。 しかし……。 「止まらないお!」 ガッツリが叫ぶ。階段上部からこちら目がけて跳ねた机は、重力に引かれて落下してくる。机の落下地点にいた日逆は、慌てて翼をはためかせ後ろに下がる。 「……いらっしゃい」 日逆に代わり前に出たのは『名無し』氏名 姓(BNE002967)だ。落下してくる机に向けて手を伸ばす。放たれたのは、気で編まれた糸だった。氏名の意思に従ってしゅるると宙を走り、机を1つ縛り上げた。 残ったもう1体は、氏名の傍に落下する。幸い、その場に誰もいなかった為、怪我人はないようだ。 「邪魔だ、失せろ無機物風情が」 天城が机に向かって気糸を纏った腕を振り下ろす。正確に弱点を突いた一撃は、それだけで致命傷となって、机の動きを完全に停止させた。 氏名が縛り上げたもう一方には、ガッツリと氷河が攻撃を加え撃破する。背後から襲撃に備え、ガッツリはそのまま上階に意識を集中させた。 一方、進行方向で停止する机達に相対するのは雪白と桜田であった。 雪白の放った雷が瞬く。宙を駆け、次々と机を貫いていく。と、同時に桜田による一斉掃射。銃弾と雷が廊下を縦横無尽に駆け、埋め尽くした。 埃と煙が視界を悪くする。窓を開けて、外に逃がした。 視界が晴れると、廊下には焼け焦げた机が積み重なるように転がっているのが見てとれる。 「進むか。結界を張ってるとはいえ、あまり騒がしくするのもどうだろうな」 なんて、雪白が窓の外に目を向け呟いた。いつの間にか雨の勢いが強くなっている。 「今ので、17体撃破だお」 陣形を組み直しながら、ガッツリがそう言う。校舎内に散っている机は40体の筈なので、既に半数を撃破した事になる。 「この階には、もう敵はいないようですね?」 そう言ったのは氷河だ。教室の前を横切る際は、細心の注意を払う。 先ほどは階段付近で待ち伏せされたので、今度は階段を上がるのも慎重に。3階に上がる前に、ガッツリの千里眼でもって安全を確認する。 「こんな雨の中一人でいるのは可哀相だよね。早く行ってあげよう」 屋上に居る筈のしおりの身を案じたのか、桜田が急ぎ足で階段を駆け上がった。廊下の明りを付け、敵がいないのを確認する。 そのまま、他のメンバーに先行し前へ。 その瞬間。 「っ!? 教室だお!」 「う、きゃぁ!」 ガッツリが叫ぶが、一歩遅い。早って、前に出ていた桜田の身体が吹き飛ばされ、廊下を転がる。教室入口付近に隠れていた机に弾かれたのだ。廊下を転がり、危うく階段から落下しそうになった桜田の身体を、氏名の伸ばした気糸が絡め取る。 当たり所が悪かったのか、桜田は小さく呻き声を上げた。意識はあるようだが、動けないでいる。 「治療は私が。桜田さんをこちらへ」 と、氷河が駆ける。 「よろしく。護衛は任せて」 2人を守るように氏名が立つ。その近くではガッツリが周囲を警戒している。 「立ち塞がるなら切り開くまで」 気糸を伸ばし、戦闘の用意を整える天城だったが、しかし前には出ない。代わりにミリィと日逆が、閃光弾を放つ。フラッシュバンによる支援。桜田を弾き飛ばしたままの体勢で机の動きが止まる。 麻痺状態にある机へ向かって天城が駆けた。気糸を使っ正確な攻撃。突き刺すように、机の天版を抉る。 「まだ動くみたいだぜ」 と、雪白による追撃。魔力で作られた弾が机を貫く。真っ二つに天版が割れ、机は廊下に転がった。 「1体だけでしょうか?」 「どうだろう……。教室の中に隠れてたりしないわよね?」 ミリィと日逆が、恐る恐る教室内を覗きこむ。しかし、そこには何もなかった。 「……え?」 と、声が漏れる。 否、なにもないわけではない。教室にはいくつもの椅子が転がっている。教壇だってある。しかし、一切の机がなくなっていた。それは、ある種異様な光景。 「どうやらここが、しおりさんのクラスみたいですね」 桜田の治療を終えた氷河が、教室のプレートを見ながら言う。2-Aクラス。ここが、しおりの所属するクラスであり、今回相対することになったE・ゴーレムの出所。 しおりは、なにを思ってこのクラスに在籍していたのだろうか。 そのことを考えると、気が重くなりそうだった。 「手を、差し伸べましょう」 そう言って、氷河は歩き始める。 一刻も早く、屋上に辿り着くために。 ●きらいな人 思いのほか、時間がかかってしまった。 しおりのクラスの前を通過してから数十分。その間、何度も机たちの襲撃にあった。1体1体は大した脅威ではないものの、数で来られるとそれなりに手ごわい。 時に、机は愚直に突っ込んでくる。 時に、机は教室内に潜み隙を窺う。 時に、机は集団で暴れまわり当たるを幸いに破壊行為を繰り返す。 そんな机たちを殲滅しながら、8人はやっとのことで屋上に辿り着いた。皆の顔に疲労の色が窺える。 「結局3体見つけられてねぇお。けど、屋上に辿り着いたお」 扉の向こうの様子を窺いながら、ガッツリが言う。指で丸を作ってOKのサイン。突入のタイミングを見計らう。 「行くぉ!」 と、叫んで扉を開ける。真っ先に飛び込んで行ったのは氏名だった。素早く床を蹴って、屋上を駆ける。 E・フォースしおりの視線が氏名に向く。その隙に、雪白も屋上に飛び込んだ。2人は立ち止まらず、屋上を動き回る。しおりの狙いを逸らす為だ。 「いっきますよー!」 屋上に入るなり、桜田が業火に包まれた矢を放つ。注意が氏名達の方に向いて隙だらけだったしおり目がけ、炎の矢が降り注ぐ。 しかし、矢はしおりに届かない。彼女の上に覆いかぶさるように現れたのは、傷だらけ、汚れだらけの机だった。降り注いだ炎の矢を、受け止め、弾き返す。 「いいから、風邪ひくまえにあたしたちに助けられなさい」 そう叫んで、日逆が閃光弾を放つ。しおりの前に立ち塞がった机が、それを阻む。一瞬怯んだ隙を付き、ミリィも同様にフラッシュバン。しおりが腕で目を覆って後退する。 「机は止まりました!」 「あぁ。悪いが一切手加減無しだ。覚悟はいいな」 ミリィが閃光弾を放つのと同時に前へ出ていた天城の攻撃。しおりを守るように立ち塞がる机へ向かって気糸に包まれた腕を振るう。 「ちっ、硬いな」 そう呟いた天城を、不可視の打撃が襲った。天城の身体が後方に飛ばされる。しおりの攻撃によるものだろう。それを受け止めたのは、雪白であった。 「おっと、あぶねぇ。大丈夫か?」 口の端から血を流す天城を、氷河に預け、雪白は前へ出る。 「ちょっと退いて!」 そんな雪白を呼びとめたのは桜田であった。机目がけ、無数の弾丸を放つ。銃弾の嵐だ。机は銃弾からしおりを庇い、跳ね返す。跳ね返された弾が桜田の身体を傷つけるが、そんなことお構いなしに弾丸を放ち続ける。 机が、少しづつ後退していった。 「守りが手薄だね」 銃弾を浴びる机の隙をついて、氏名が気糸を伸ばす。伸ばされた気糸は、宙を走り、しおりの身体に絡みついた。 「やめて……。構わないで」 ここに来て、しおりが言葉を発する。それは、しおり本体の想いを代弁したものだったろうか。悲しみと恨みに満ちたその声が、雨音の隙間を縫ってリベリスタ達の耳に届く。 しおりに巻きついていた糸が斬られた。不可視の刃によるものである。 先ほどまでしおりを庇っていた机は、現在雪白の攻撃を耐えるので精一杯だ日逆とミリィによる閃光弾も、机の動きを妨げるのに一役買っている。 それを見てとって、しおりは前に出る。しおりの手が、前に突き出された。先にいるのは、傷ついて蹲った桜田だ。自身の放った弾丸を跳ね返されて、ダメージを負っている。 「………邪魔するやつは、消えちゃえ」 しおりの手の平から放たれた不可視の波動。その攻撃を防ごうと、氏名が気糸を伸ばすが一歩遅い。 「避けるんだぉ!」 ガッツリが叫ぶ。しおり目がけスローインダガ―を投げるが間に合わない。 「行動が分かりやすいな。させると思うか?」 桜田の前に、治療を終えた天城が躍り出る。そのまま、地を蹴りしおりに迫った。マントを脱いで、しおりの視線を覆い隠そうとするが、間に合わない。 不可視の波動と、天城の身体が交差し、消えた。 瞬間移動、或いは消失マジックのようだ。一瞬にして天城の身がどこかに消える。 「桜田さんの治療をします。しおりを押さえて」 氷河が叫ぶ。と、同時に日逆が閃光弾を放つ。少しでもしおりの行動を阻害する為だ。 続けて、ミリィの放った閃光弾が机に当たって弾けた。 動きの止まった机に向けて、雪白が魔力の弾丸を叩きつける。同じように、氏名の気糸による一撃。机は咄嗟に移動し、しおりを庇う。 机の足が折れた。魔弾に弾かれ、雨の中を転がっていく。 「机、撃破だお」 そう言ったのは、ガッツリだ。ダガ―をしおりに向かって投げつけるが、不可視の打撃で弾かれる。 「………放っておいてよ」 と、小さな声が聞こえた。 それは、目を覚ましたしおり本体の声だ。E・フォースしおりが、しおり本体を背に庇う。 ガタガタと音をたてて、氷河の背後で屋上のドアが吹き飛んだ。現れたのは、3体の机。 「こんなタイミングでっ!」 咄嗟にミリィが閃光弾を放って、動きを止めにかかる。 「こっちは任せるお」 桜田と氷河を背に庇い、ガッツリがダガ―を構えた。彼女一人では荷が重いと判断したのか、雪白もそちらに移動しながら、雷を放つ。 「私に構わないでよ」 と、虚ろな瞳でしおりが言う。E・フォースしおりが、手を突き出し、日逆に狙いを付ける。 「嫌いなもの全部消してたら独りぼっちよ」 と、日逆が呟いた。E・フォースしおりの動きが止まる。 「鳴海さん、猫好き? この季節、ぽこぽこ子猫が生まれて騒がしいったらないよね? でも、全力で生きてるって考えたら、好感が持てるというか、いいかなって気になる」 そう言いながら、一歩づつしおりに近づく日逆。そんな彼女をミリィは心配そうに見つめていた。 「全員に苛められてるわけじゃないんだろう? 立ち向かえとは言わないがな」 3体の机を相手にしながら、雪白が吠えた。雷に貫かれ、机は動きを止める。 「あちきに出来ることはすくねぇしお。けど、結構簡単な事で世界は変わるとおもうけども……」 机の攻撃を受け、床に転がったままガッツリがそう言った。額から血を流しつつも、笑みを浮かべてしおりを見つめる。 「群れないと卑怯な事が出来ない奴らより、1人で耐える君の方が強いと思うよ」 そう言う氏名は、困ったように笑っていた。 「だって……誰も……そんなこと」 震えながら、しおりが後ずさる。E・フォースしおりが、本体を庇って前へ。 しかし……。 「私らで話を聞いてあげるくらいは出来るよ」 いつの間にか、E・フォースしおりの身体は氏名の気糸で縛りあげられていて、動けない。 そして……。 「隙だらけだな。いつまで卑屈になっているつもりだ? 遠慮なくやらせてもらうぞ」 翼の加護によって得た翼で、屋上に上がってきた天城が拘束されたE・フォースしおりの胸を、気糸を纏った手刀で貫いた。 しおりの身体がビクンと跳ねる。E・フォースしおりは、雨の中に溶けて消えた。 「誰か大人に、助けてって言ってみたの?」 「だ、だって……」 日逆の言葉に圧倒されたように、しおりが後ろに下がる。屋上のフェンスに背中が当った。 「誰も、助けて……あっ!?」 雨水で足を滑らせ、しおりの身体がフェンスを乗り越える。 目を見開き、手を伸ばす……。 「助けて……!」 しおりは、声の限りそう叫んだ。 ●少しだけ……。 真っ先に駆けだしたのは氷河だった。他のメンバーもそれに続く。しおりの身体がフェンスを乗り越えた。手を伸ばす。しおりが、助けを求めるように。 同様に、氷河の手もしおりに向かって差し出された。雨で濡れたしおりの手を、しかし氷河はガッシと掴んで話さない。 「あなたはあなたのままでいい。だから、蕾のまま枯れないで……。腐らず胸を張り咲き誇りなさい」 暖かい笑みを浮かべて、氷河がそう言った。それは、しおりが求めて止まなかった救いの手、救いの言葉。たった一言、たった一人でもしおりの味方をしていれば、こんな事は起こらなかったかもしれないのに……。それだけの事がままならない。 「がんばれ、女の子」 「助けにきたお人好しがこれだけいるんだ。お前は一人じゃない」 なんて、表情を変えずにそれだけ言って、天城がしおりを引き上げる。 「友達になろう!」 屋上の床に膝を付いたしおりに向かって、桜田がそっと手を差し出した……。 「さて、後片づけが大変そうだね」 全て終わって、氏名がそう呟いた。 「このままでいいお。しおりの机は、校長室に運んでおくぉ」 そう言ったのは、ガッツリだ。何事もなかったように片づけられるのでは、しおりが報われない。 そんなしおりは、氷河、桜田、日逆、ミリィの4人と話をしている。少しだけ、しおりの表情から影が落ちたように感じる。 「でも、いじめはなくならねぇんだろうな」 「背中は押した。後は本人次第だろう」 雪白と天城は、そう言って屋上を降りる。 「後は、あの4人に任せとけばいいかな」 年齢も近いし、氷河は先生だし……。 そう呟いて、氏名もその場を後にした。 あちこちに戦闘の傷痕が残る校舎を見て、氏名は思う。 これを機に、しおりにとって嫌な日常が少しでも変わるといい。 そう願わずには、いられない……。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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