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<六道紫杏>ゲル

●生死混ざりて
「生と死。光と闇。善と悪。相反するものであればあるほど、混ざり合うことはない。それ故に心引かれることは多いのだろう」
 錆色の男がいた。
 そこは何かの研究施設のようであった。多数の機材が並び、資料が無造作に投げられている。
 巨大なシリンダーのようなものが並んでおり、それはさながらSFの一場面のような光景である。
 それらの施設の中、錆色のシャツを着た男……六道の研究員、アイゼンヴォルフは独白する。
「その垣根を取り払い、先に生まれるものは何か。それを俺は追い求めなくてはならない。自らの理想の為に」
「中二病かよ」
 独白に思わずフィクサードの一人が本音を漏らす。が、アイゼンに視線を向けられ黙る。さすがに本人に面と向かって言う勇気はないらしい。
 そのようなフィクサードを気にする様子もなく、アイゼンは独白を続ける。
「ただ繋ぎ合わせただけでは所詮ただの切り貼り。生死を越えた存在であるはずもなく、ただのオブジェのようなものだった。ならば次にやることは? 丁寧に混ぜ合わせることだ」
「その結果がこれですかい?」
 別のフィクサードがその言葉に、眼前のシリンダーへと目を向ける。
 ――そこに存在するものは、さらなる異質であった。
 肉の塊。そうとしか表現出来そうもない。だが、肉だけではまだ足りぬ。
 肉を徹底的に溶解させ、液化したものをゼリーの如く固めた物体。そう表現するのが相応しい物体であった。
 シリンダー内に滞留するそのゲルはたまに蠢き、形を変える。触手のようなものが蠢き、再び肉に潜り込む。延々と繰り返されるその挙動に、フィクサードは眉を顰めて問うた。
「生体と死体。丁寧に融合させ、混ぜ合わせた結果がこれだ。研究としてははなはだ期待通りとはいかなかったが……まあ、データを取る分には構わん」
 アイゼンがつまらなそうに眼前の物体を見つめ、呟く。
 これでは決して生死を越えた存在とは言えない。不死性の高い能力があろうとも、それは不死ではないのだ。だが、使い道はないわけではない。
「俺はともかく、紫杏は必要なのだろう? 戦闘データが」
 上司である六道紫杏はより多くのデータを要求してくる。今回は特に戦闘力のデータが必要、ということだ。ならばこの物体はその役には立つだろう。
「投下箇所等は任せる。好きな場所にこいつを投げ込む段取りをしたまえ」
「了解っと」
 これは決して良品ではないが、もしかすれば自分にとって満足出来る物を見させてくれる可能性はあるだろう。アイゼンは期待する。
 生を得る為にもがき、死を乗り越えんとする人々を。回答のヒントとなるものを。

●ブリーフィングルーム
「無差別というのも困りものですよねえ」
 アークのブリーフィングルーム。『黒服』馳辺 四郎(nBNE000206)は訪れたリベリスタ達にそのように口を開いた。
「以前にもありましたが、六道の動きが活発化しているようですねえ。今回も様々な活動が見えるようですが……」
 そう言って四郎はリベリスタに資料を渡し、モニターに映像を映し出した。
 そこに写っているのはゲル状の肉塊。そして一人の人物。錆色のシャツを着た、痩身長身の男。
「彼は以前にも同じようなことを引き起こした六道の者。アイゼンヴォルフという名前である、ということは判明しています。
 そしてこちらの肉塊は今回彼らが持ち込んだエリューション。複数の因子が混ざり合っており、エリューションタイプがはっきりしません。恐らく彼らの研究の結果なのだろうと思われます」
 その不可思議な物体は蠢きながらじりじりと周りを飲み込んでいく。近づくものを喰らい、取り込む。そして増殖拡大していく。
「この郊外に放たれた肉塊はどうやら凄まじい再生力を持っているようです。刻もうとも焼こうとも、その先から直っていく。かなりの攻撃力で叩かないと堂々巡りになるかもしれません」
 無尽蔵の回復力。そしてたかい耐久性。鈍重ではあるが、油断の出来る相手ではない。
「今はまだ被害等は出ていませんが、放置していてはそれも避けられないでしょう。宜しくお願いしますよ」
 かくして再度、六道の企みは行使される。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年05月22日(火)23:23
●馳辺の資料
■フィールド:某街近郊

■環境
 人気の少ない街のはずれの地域です。
 通行人等が通ることは少ないです。

■勝利条件
 ゲルの撃破

■エネミーデータ
・ゲル(種別不明)
 ・全体が溶けた肉の塊のようなエリューションです。
 ・尋常ではない再生力を持っています。多少の傷ならあっさり回復してしまうでしょう。
 ・また、ゲル状のその肉体は物理攻撃に対して高い耐性を持っています。
 ・攻撃方法は下記。
  ・触手   物遠単 鈍化
  ・取り込み 物近単 防御無視 HP回復
  ・溶解液  神遠複 弱点、死毒

■備考
 このエリューションを六道の研究員『アイゼンヴォルフ』が遠方より監視しています。
 護衛のフィクサード複数名を連れており、特別な事でもおきない限りは干渉することはありません。ただ監視しています。
 手出しをしても特に意味はありません。放置するのが吉かと。

●マスターコメント
「全ての色を混ぜると黒くなりまする」
 生と死を混ぜ合わせた場合も黒く染まるのでしょうか。
 非常にしぶとく厄介な相手ですが、皆さん頑張ってくださいませ。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
クリミナルスタア
晦 烏(BNE002858)
ナイトクリーク
荒苦那・まお(BNE003202)
ダークナイト
一条・玄弥(BNE003422)
ダークナイト
熾喜多 葬識(BNE003492)
ホーリーメイガス
石動 麻衣(BNE003692)
デュランダル
水無瀬・佳恋(BNE003740)
クリミナルスタア
式乃谷・バッドコック・雅(BNE003754)
レイザータクト
水無瀬 流(BNE003780)

●軟化存在
「しかしいつまで続くんだろうねぇ……」
 路地に一団の足音が響く。『足らずの』晦 烏(BNE002858)が呟いた言葉は、此処最近における数々の事件に対しての感想であった。
 近頃フィクサードによる得体の知れない事件が多数おきている。それは全て国内のフィクサード七派のうち、探求の六道によって行われているものだった。
 今現在リベリスタが向かっている場所もまた、彼らの実験が行われているといわれる区画である。いや、今より行われると言うほうが正しいか。
「六道の皆さんも随分と研究熱心ですよね」
 その情熱をもう少し別の方向に向けて頂けたら、と『おとなこども』石動 麻衣(BNE003692)がぼやく。
 町に放たれんとするエリューション。それは六道による実験の成果。生死を混ぜ合わせ、全ての境界を取り払った後に残ったもの。それこそが……リベリスタの眼前に現われた物体であった。
「……前々から思ってたんだけど」
 その物体を目にした時、『下剋嬢』式乃谷・バッドコック・雅(BNE003754)がうんざりとしたように口を開いた。
「六道ってまともなヤツいないのかしら? ――これが研究成果とか、ちょっとセンスを疑うわよ」
 雅が文句を言いたくなる気持ちもわからないではない。何故なら眼前に存在するものは、真っ当な存在ではなかった。
「――これもキメラかねぇ」
 確かに最近の六道の動きにおいてキーとなる言葉がある。それはキマイラ。様々なものを混ぜ合わせた奇怪なエリューションのようだが……『√3』一条・玄弥(BNE003422)が怪訝そうにしたように、前の物体はその枠に収めるには難があった。
 ――その物体には、形というものがなかった。
 いや、形ではあるのだろう。だが、不規則に変形する粘質のモノを。流動的に、時に震えるそのゲルを。キマイラと言えるか、この場にいる誰もが確信は持てなかった。
「無差別に色々な相手を取り込むゲル、ですか……どう評していいのか悩みます」
「スライムみたいなものだよね? スライム倒すとかゲームの中だけだと思ったけど」
『戦士』水無瀬・佳恋(BNE003740)が戸惑うように感想を告げると、『殺人鬼』熾喜多 葬識(BNE003492)はおどけた拍子で答える。
「生と死を混ぜる……その結果がこれですか。うちにはただのエリューションにしか見えませんけど」
『空泳ぐ金魚』水無瀬 流(BNE003780)が身構える。相手の出自など些細な話である。例えどのようなモノであろうとも、これは倒さなくてはいけない。崩界を防ぎ、力無き一般人を護るためならば。
「てか、六道の連中さんあれだよなぁ? 廃棄処分の手間を押し付けてやがるよな、これ」
 烏が手にした古風な銃剣を構え、眼前のゲルへと突きつける。
「ま、ぐちょぬるに溺れて死ぬなんぞ勘弁したってやぁ、なぁ?」
 玄弥がニタリと下卑た笑いを浮かべつつ、ごきりと肩を慣らし、解す。例え相手の外見がどうであろうとも、やるべき事は変わらず。そして敵である以上、リベリスタは油断をしない。
「命をもぐもぐする時は」
 音もなく歩を進めた『もそもそ』荒苦那・まお(BNE003202)が、何かを呟く。
「その命で無駄にしないように生きましょう、って図書館でまおは読みました」
 彼女の得た知識、拾った道徳。それは生きることの意味であり、戦う事の意味ではない。
「だからまおは無駄にしないように、ゲル様に食べられるのを防ぐ為にきました」
 だが、リベリスタとして戦う今は、戦うことは生きる事。決して彼女の中において、この二つはイコールで結ばれた結果なのかもしれない。
 静かな殺気が多数向けられたゲルは、本能的に自らを護ろうと動き出した。のたり、のたりと。流動体たるその身体をわずかずつ動かしながら、外敵に備えようと震えだす。
(放置するのがいいとは言われても)
 その様子を前に、葬識は視線を送る。その先は、遥か遠くの彼らの元へ。
(深淵は覗きたくなるのが人情。六道は深淵を覗いている、だったらこちらも覗くのがニーチェの教えだよね?)
 ニーチェは哲学を語り、フロイトは心理を語る。ならばフィクサードは何を語る?
 視線の先のフィクサード……『錆色』の男、アイゼンヴォルフはただ、遠くより戦いを観る。
 一つのデータも逃さないように、と。それが果たして本来の意味でのデータかはわからないが。

●流動戦禍
 戦線において誰よりも早く動いたのは烏であった。古式の銃から放たれる火砲は今この場にいる者の中で誰よりも機先を征する一撃である。
 並を越す射程より放たれた銃撃は魔力を帯び、ゲルへと叩きつけられる。纏った魔力はゲルの軟体を溶かし、崩していく。
「しかし……こいつはある種のターキーショットだな」
 烏がそう呟くのも無理はない。彼は訓練された射手である。並を凌ぐその射程は、ゲルの危険性をまったく烏に届かせはしない。
 痛みを感じるのかはわからないが、自らの体を削られるというのは、心地よいものではないのだろう。ゲルが脈動し、不遜な攻撃者を食おうと移動を始める。
 そこへリベリスタ達が次々と群がり始める。烏の射程外からの攻撃は重要なダメージソースである。ここでむざむざ射程を詰めさせる理由は存在しない。
「分散包囲を! そんな塊、ボコボコにしちゃってください!」
 流の声が響き、リベリスタは陣形を組み替える。よい最適な、守りの陣形へと。
「鈍重な相手とはいえ、油断するわけにはいきませんね……」
 佳恋が呟き、手にした『白鳥乃羽々』を強く握る。指令は討伐であり、破壊ではない。油断することなく手早く、確実に始末する事で初めて成し遂げたことになるのだ。
 渾身の力を込めて振り回されたその刃が斬撃と衝撃を伴ってゲルを打ち据える。粘質の身体がざっくりと切り裂かれ、衝撃はゲルを押し、遠ざける。
 だが、その切り裂かれた粘質は再び癒合し、手応えとしてはなんとも言えぬ様子を見せた。
 やはり事前に予見されていたように、このゲル状の生体は物理的な攻撃には高い耐性を持っているのだ。
「なによ、本当にすぐ戻るのね。元はなんだったのかしらね、気持ちワリィ」
 その様子に顔を顰めつつ、雅が銃弾を次々と放つ。神秘の力を秘めた射撃達は、物理的な攻撃よりも確実にゲルへとダメージを与えていく。
 だが、そのダメージもゲルは瞬く間に塞いでいく。高い再生力を誇るそのゲルは、生死を混ぜた故の性質か、それとも研究の成果なのか。
「さて、今日も仕事熱心な殺人鬼ちゃんががんばりますよっ……って、ん?」
 そこへ飛び込んだのは葬識。巨大な鋏のような、特異な形状をした愛用の得物『逸脱者のススメ』を手中に弄びながらゲルへと飛び掛った彼であったが……その表情が戸惑いに包まれる。
 彼の手中には、こういった手合いへ対応するだけの技術がある。傷を塞ぎ、永遠とも思える生命力を見せる相手。それを封殺するに値する技が。
 だが、それが紡げない。確かに自らの持つはずの技術であるのに、今はまるですっぽりと抜け落ちたかのようにそれを行使することが出来ないのだ。
「危ない、一旦下がって――!」
 戸惑いを滲ませた、ただならぬ様子に麻衣が咄嗟に退避指示を飛ばしたその時……
 無抵抗に脈動するだけだったゲルが、爆発するかのように動き出した。

●融和生策
 ――一瞬のうちに、その粘質の物体は形状を変えた。
 その肉体は細く長く伸び、振り回される。鞭状の肉体は相手を叩き伏せ、引き込もうと激しく脈動する。元のぼってりとした存在からは想像も出来ないほどにその動きは早く、嵐のように吹き荒れる。
 長く、激しく振るわれる触手が隊列の前後を問わず、襲い掛かる。
「っ……!」
「させません……!」
 肉薄する佳恋が打たれ、後方より支援する麻衣へも襲い掛かる。麻衣への攻撃は流が立ち塞がり阻止するが、その一撃は深く傷を刻んでいく。
 また、より肉薄していた葬識の方はさらに厳しい状況に追い込まれていた。
「――ああ。これはちょっと洒落になってないんじゃない?」
 引きつった笑みを浮かべた葬式はゲルに絡め取られていた。密着した粘体が癒合しようと肉を侵食し、溶かしていく。
 表皮をあっさりと抜け、肉を抉りとる。肉は間もなく粘体と同じモノとなり、さらに深く抉りこんでいく。染み出す血液も逃がさず、ゲルは貪欲に吸い上げていこうとする。
「ちょっとしんどいからさあ。ほら、離れて!」
 葬識の手中より闇の光が放たれ、纏わりつくゲルへと叩きつけられた。閃光は粘体を焼き溶かし、肉体の拘束を振り解く。
「ほら、手を出して!」
 肉を大幅に溶かし奪われ足元のままならぬ葬識へと雅が手を伸ばし、強引に後ろへと引き摺り下げる。通常では見られない傷は相応に深く、異様な光景を生み出していた。
「しっかりして下さいませ! まだアレを仕留めてはいません!」
「わかってるって!」
 即座にその傷を麻衣が塞ぐ。紡ぐ旋律が葬識のみならず、戦線において戦う仲間達の傷を癒し、立ち直らせていく。
 一方葬識の下がった前線を、後ろよりアシストしていた玄弥が補うように前出し、押さえに掛かる。
 ただ抑えに出たわけではない。この戦いを制する切り札は、彼が持っているのだから。
「おいおい、汚のぅなっちまってよぉ。これ以上面倒になる前に始末しちまうかぃ!」
 欲望の如く鈍く輝く『金色夜叉』。それを玄弥は身につけた腕を思い切りゲルの中へと抉り込み……ぐちゅり、と捻った。
 同時に瘴気が傷内へと叩き込まれ、ゲルの持つ胡乱な生命力が爪と共に抜き取られる。叩き込まれたその瘴気はゲルの内部へと浸潤し――その存在へ、異常を生み出した。
 ぽっかりと空いた傷が塞がらない。奪命の一撃は、わずかばかりの生命力を奪うと同時にゲルより圧倒的再生力を奪い去ったのだ。
「ほれ、今やでぇ。せっかくのお膳立て、無駄にしてくれんなぁよ!」
 ニヤリと歪に玄弥が笑う。凄まじい再生力故に厄介であったゲル。だがそれが欠如すれば、柔らかいだけの存在である。
「――かげやもりさん」
 すかさず飛び込んだのは、まお。生み出した影は独特な爬虫類の形へと転じ、まおの動きに合わせ躍動する。
 ぐにょり、とまおがゲルの上に立つ。彼女にとってあらゆる場所は足場である。節足動物の如き奇怪な動きではあるが、それ故に人ならざるかのような立ち回りを彼女に許していた。
「えいやー」
 気合とは程遠い、淡々たる掛け声。それと同時に、ゆらりと手が絡めとるかのような動きを行った。
 ――ずぶり、と何かを切り取る音がする。まおの手の動きに合わせ、その音は響く。
 両の手の狭間に存在するのは、一本の黒線であった。それが動きと共に舞い、ゲルを刻み、切り取っていく。
 通常ならば切り取った先から再び癒合し、一つのゲルとなっていたはずである。だが、瘴気に蝕まれたその存在は再生を許されない。切り離された部位は溶け、地面へと染み込んで行く。蘇ることもなく。
 ゲルが振動し、自らに張り付いた異物を自らの中に取り込もうと脈動する。まおの立っていた足元がずぶり、と沈みこみ始める。まおはその気配を敏感に足元に感じ、即座に飛びのいた。
 飛びのいた場に、次々と射撃が叩き込まれる。攻撃の速度は速くとも、ゲルそのものの動きが早いわけではない。リベリスタ達の正確な攻撃はむざむざと外しはしないのだ。
「ハハ、こうなればフルボッコってやつだな」
「ああ気持ち悪い気持ち悪い。さっさとくたばってよね」
 烏が、雅が、次々と銃弾を叩き込む。二人の銃弾が魔力と共に肉へと突き刺さり、粘体を溶解させる。
「さて、きっちりお返ししておかないとね!」
 葬識の刃に暗黒が纏わりつく。濃密なソレは魂すらも焼き尽くす漆黒となり、練り上げられ。さきほどの意趣返しとばかりにゲルへと叩きつけられた。
 漆黒がに包まれ、のた打ち回る粘体。苦し紛れに強い酸を持った液体をばら撒き、少しでも道連れにしようと暴れまわる。
 骨まで喰らいこむ強酸ではあるが、それは即座に麻衣や流が放つ淡い光に洗い流され。脈動し再び再生しようと肉を紡げば玄弥が再度、瘴気を打ち込む。
 重ね重ね、攻撃は叩き込まれ。ゲルは徐々にそのサイズを小さくして行き……
「――これで終わりです」
 佳恋の白刃が極限まで縮んだゲルを両断し。――その粘体は全て地面へと溶け、染み込んで消えた。

●生死境界
「出来合えのモノを切り貼り故に望む結果が出てないんだろうがなぁ」
 烏が心底呆れたような声を出す。
 リベリスタの眼前にあるのは、ぱちぱちと音を立てる炎であった。
 大地に全て溶けてしまったゲルではあるが、何があるかはわからない。玄弥が念のため放った火を前に、リベリスタは思考する。
 サンプルとしての回収は期待出来そうにはなかった。彼らの研究成果から、計画の本質に喰らい込むにはまだまだ困難が立ち塞がるであろうことは容易に想像出来る。
「今度はもう少しマシなもんを持ってきな、ってね」
 雅がフィクサード達がいるだろうと思われる方向を睨み付け、悪態をつく。
 生と死を混ぜ合わせたモノ、それが今回のフィクサードであるアイゼンヴォルフが望むものだという。だが、その結果がこの奇妙な粘液だというならば。その研究にはどれほどの成果があるというのだろうか。
「生と死のないまぜのキマイラだなんて中途半端で気持ち悪いなぁ」
 葬識がぼやく。死は全ての生き物に訪れる安らぎともいう。ならば、不老不死は安らがず。美しくもなく、醜悪なものなのだろうか。
 そのような事を考えつつ、何気なく目線を向けた先……その千里眼は監視するフィクサードを目に捉え。
 ――ぞくり、と背筋に悪寒が走った。
 監視するフィクサード。錆色の男は、哂っていた。その目は研究物ではない。はっきりと向いていたのだ。研究物を撃破したリベリスタのほうへと。

「――運命に寵愛され、生死も越え。立ち上がり、世界の敵を始末するリベリスタか」
 遠く離れたビルの上。リベリスタを監視していたフィクサード……『錆色の』アイゼンヴォルフは哂う。その様子を怪訝そうに見る、周りのフィクサード達など眼中にないかのように。一人、哂う。
 彼の興味は移りつつあったのだ。生死を越えるもの、その可能性に。
 例え倒れても倒れても乗り越えようと立ち上がるリベリスタ。運命に愛された彼らもまた、生死を越えた者のようではないか。
 彼の求める答えの選択肢が、また一つ増えた。
「――帰るぞ。次の研究物を作るとしよう。次は、そうだな――より紫杏好みのものにしてやろう。あいつの要求と俺の利害、ようやく同じベクトルに向くかもしれんな」
 紫杏の求めたものは、強きキマイラ。『錆色』が今求めようと決めたモノは、強きリベリスタ。
 二つの生死がぶつかり合った先にあるもの。それに期待し……アイゼンは、楽しげに哂う。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 お客様、忘れ物ですよ。
 っ[奪命剣]