● 男っつーのはよ、 いつだって一番を想い、焦がれ、目指すものなのさ。 だから俺は走る。走る。 俺が、一番になる為に。 俺はいつだって、フルスロットルだぜぇえええ! ――深夜の環状線。響く轟音。 時折、路面を燃やす様な高音と共に煙が上がる。 "爆走街道"と呼ばれた其処には、毎晩毎晩、命知らず達が集まるのだ。 そして、賭けるのだ。己が誇りと運命を。 そして、駆けるのだ。己が最速を、最強を証明する為に。 躍れや、野郎共。 誰が一番か、決めちまおうや。 アドレナリンをゴッリゴリにキメて、一緒にイこうぜ? 心配すんなよ、遅ぇ野郎共は俺が天辺迄連れていってやるから。一生俺のケツでも見つめてな。 ● 「よし、皆揃ったね。……皆は知ってるかな。 ある環状線周辺で、失踪事件が多発してるの」 ブリーフィングに集まるリベリスタ達に、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は尋ねた。 此処数日、噂になっている事件に、数人がこくりと頷く。 「……それで、原因と考えられるのは、この車」 画面が切り替わり、黒一色の車が投影される。 「街道周辺の暴走族を潰して回っているの。そして、この車にはドライバーが居ない」 爆音と共にカーブを曲がる車の映像が止まり、運転席がズームされていく。 リベリスタの誰かが、あっ、と声を漏らす。 イヴの言葉通り、車のハンドルを握る者は、誰も居なかった。 「車自体がエリューションなの。きっと運転手の念が作用したんだろうね。それと、これを見て」 再び映像は切り替わり、壁に激突したのだろうか、破損した車が写される。 既に半壊した車。しかし突如低いエンジン音と共に、黒い車を追い始めた。 「これが失踪事件の原因。……抜かされて、負けちゃった車は全部、この車を追い続けるの。 操縦者の中には、まだ生きてる人も居る。意識はないみたいなんだけど、助けられるかもしれないの」 難しいかもしれないけど。そう呟くと、イヴは映写機を操作し、続ける。 「それで、今回はこれを止めて欲しいの」 スクリーンに映し出されたのは、観客の居ない、一つのドーム。 広い空間の端と端で、二台の車が向かい合う。 リベリスタ達の悪い予感通り、爆音と共に互いに急加速。正面衝突し呆気なく大破した。 ――しかし、立ち上る火柱を貫いて、あの黒い車は現れる。 己が勝利を示す様に、ドームの外周を爆走するエリューション。 それから数秒後、ドームの扉を吹き飛ばして次の車が死の舞台へ入場した。 繰り返される惨劇に、言葉を失う一同。 ぷつりと映像を切ると、イヴは凛と唇を結んで。 「このままじゃ、今夜沢山の人が命を落とすことになるの。お願い。止めて」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ぐれん | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年05月20日(日)23:48 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● ――響く轟音。 心臓が唸り、昂る身体。 ピストンに熱い血潮が注がれ、爆散して消えていく。 心臓は回転数を跳ね上げて、身体の隅々までが嘶いてやがる。 あぁ、コレコレ。この感じが堪らなく気持ちいい。 さぁて、今夜も楽しく―― 「雑魚ばっか相手してさー、一等とかいっても恥ずかしいだろー!?」 間延びした男の声と共に、ドームの扉が吹き飛んだ。 派手なアピールと共に入場を果たしたのは、5つの光源と幾つかの人影。 光源の中心。アップハンドルに三段シートを携える単車に跨るのは、『大風呂敷』阿久津 甚内(BNE003567)。 「いきますよ、暴走エリューションなど、許す道理はありません」 甚内の隣で、大型トラックのハンドルを握る『祈りに応じるもの』アラストール・ロード・ナイトオブライエン(BNE000024)は、凛と唇を結び、呟いた。 そして甚内を挟んで反対側に、恐ろしくド派手な"デコトラ"がエンジンを唸らせていた。 「さぁて、暴れさせてもらうよぉー!」 『外道龍』遠野 御龍(BNE000865)が駆る化物車はその名を『二代目龍虎丸』。 四神の龍、虎、鳳凰の巨大な塗装に加え、「御意見無用」の五文字を携える。まさに、外道。 ドーム内に、ぶるんぶるんと彼らの愛車の多重奏が響き渡る。さながら、暴走族の一団。 三台の標的の登場に、エリューションは更に爆音を高鳴らせ、挑戦を認める様にライトを点滅させる。 それに呼応するように、甚内はエンジンを更に煩く吹かして深呼吸。戦闘への意識を高めていく。そして。 「俺達ぁ、疾いぜ?」 一言と共に、三台はエリューションに向け突貫した。 「さて、僕達も行きましょうか」 三台が突貫するのに続き、『宵闇に紛れる狩人』仁科 孝平(BNE000933)は言葉と共に身体のギアを引き上げる。 僕の速さがどこまで通じるのか、挑戦してみますか。 心の中でそう彼は呟いて、限界の先を求め、フルスロットル。残像を生む程に加速して、御龍達を追った。 「あんな滅茶苦茶な未来、止めてみせる!」 自らを鼓舞する言葉と共に、駆ける仲間に翼を与えるのは『フェアリーライト』レイチェル・ウィン・スノウフィールド(BNE002411)。 暴走族だって、生きていてほしい。と意気込んで。 『水底乃蒼石』汐崎・沙希(BNE001579)と軽く目線を合わせ、思念による音の無い会話を交わし、深く頷く。 沙希は、レイチェルとの"会話"を終え、先に走るリベリスタ達を追う。 五月蝿い車が相手じゃ、苦しむ様を楽しむこともできない。興醒めもよいところね。 結んだ唇を震わせもせず、彼女はそう心の中で独り呟きながら、地を強く蹴り、駆けた。 「家から出るからそんなことになるんです。ざまー」 皆が駆けだす最中、『働きたくない』日暮 小路(BNE003778)はふわりと欠伸を零し、ひとつ伸びをする。 「とはいえ、放置するわけにもいかないらしーです。」 面倒くさいし、寝ていたいけど。と本音を飲み込み、道路標識を携え、前へ。 小路の態度とは異なり、その動作には一片の無駄もない。皮肉にも、リベリスタである以上働かなければならない故に身に付けたのだろうか。 「ボクのスピードで張り合えるかわからないけど、やらなきゃ!」 『ジェットガール』鎹・枢(BNE003508)はきりりと意気込みながら、自身の"打ち上げ"に備え、身体のギアを繰り上げる。 救える命がある。その一点に彼女は集中し、背中の翼を左右に広げる。 暖気運転は既に完了。いくよ、という意気込みと共に羽ばたいた彼女は、突如として姿を消した。 走り出す挑戦者の車に懸命に向かう小路の傍を、ぶわりと風が通り過ぎる。 鎹枢。彼女はこの場の誰よりも何よりも、圧倒的に速かった。 ●デスマッチ 「うわ、やっぱり意識ないんだ。これって居眠り運転に入るのかな?」 驚異的なまでの速度を以て、枢は敗者の車に並走し、中を覗き込む。 数度取っ手を引き、ドアが開かないのを確認すると、彼女はナイフを握り、風を裂く刃をドアの接合部へ叩き込んだ。 鈍い音を立てて扉は吹き飛び、侵入のチャンスが生まれる。 しかし、全速力を維持するのは難しく、速度を増していく車に枢は遅れを取った。 「仕事は面倒ですが、長引くのはもっと面倒ですーっ!」 枢が抜かされるのを確認すると、小路は大きく声を上げ、標識を全力で振るう。 放たれた真空の刃は幸運にも車の前輪に直撃し、車の動きを即座に奪った。 「運転手の人を連れ出さないとっ!」 スリップ音を奏でながら停止する車に、枢は追いつくと手早く中に侵入し、運転手のシートベルトを外していく。 流石、小路先輩。と親指を立てて見せる余裕も見せつつ、枢は挑戦者の一人目の救助を完了させた。 甚内達が向かった先では、壮絶な戦いが繰り広げられていた。 アラストールのトラックはエリューションの突撃を受け既に煙を上げていた。 「…む、やはり、マスタードライブ位は習得しておくべきでしたか」 悔しげにぴくりと眉を寄せ、車を乗り捨てるアラストール。 その脇を、御龍の駆る龍虎丸とエリューションが互いにぶつかりながら過ぎていく。 「トラックに煽られているようじゃあ、まだまだ三流だねぃ」 互いに後輪駆動車。ボディを削りあいながらドリフトを決め、命を賭けたデスマッチを繰り広げる。 ハンドルを切るたび、アクセルを踏みつける度に身体は昂り、脳内麻薬に口元が緩む。 龍虎丸そのものも、魂を得た様にエンジンを唸らせ、吠え、漆黒の車と肉薄する。 しかし、御龍が再びドリフトの体制に入りブレーキを踏んだ瞬間、龍虎丸を突如炎の波が襲う。 エリューションのブレーキ熱は空気を焦がす程に高温となり、火炎として吐き出されたのだ。 全力の運転に加えての火炎攻撃。龍虎丸は過度な熱量に襲われ、危険な状態に陥った。 黒い車は龍虎丸に標的を定めたのか、追い打ちを掛けんと速度を上げ引き返してきている。 「――さーおいでよ、テッペン"キメ"ちゃおうぜ?」 それを遮る様に、御龍の元へ向かう車のタイヤに向け、機を窺っていた甚内は矛を振るい投げつけた。 鈍い金属音を立てて、前輪に直撃する矛。破壊には至らなかったが、勝負の邪魔をされた車は目標を即座に甚内へと変える。 「ヒョーウ! 言うだけあって疾いよねー!?」 なんて。という甚内の悪戯な笑みと共に、漆黒の車を孝平の疾風の刃が襲う。 自身の元来の速度に加え、引き上げた身体のギア。そして彼の全力が練り上げ一撃は、続けざまに車のボディを抉っていく。 余りの衝撃に揺らぎ、車は速度に乗ったままスタンドを揺るがせる程に強く壁に衝突した。 龍虎丸を停め、舌打ちと共に御龍は愛車を後にする。"こいつ"を汚した罪は重い。 アラストール、御龍、甚内の三人はそれぞれに武器を構え、壁にめり込む車へと歩を進める。 エリューションは未だ低いエンジン音を響かせながら、壁からめりめりと軋む音を立て脱出した。 「遊びは終わりだ化物。大人しく切り裂かれろ」 先程とは一転、極めて冷酷な口調で、御龍は呟いた。 その言葉に呼応するよう、黒い車は再び加速し、突撃を始める。 目標が大型とはいえ、急な方向転換は無い。 互いに声を掛け合いながら、車の突進を避ける三人。 「熱……っ!」 攻撃を避け反撃体制に入る彼らを、エリューションが減速すると同時に、熱の波が襲う。 炎に身体を焼かれ、攻撃の度に消耗を余儀なくされるリベリスタ達。 しかしその傷を、火傷を、沙希とレイチェルが的確に癒していく。 その二人を邪魔と感じたのか、単なる本能か。黒い車は後衛の癒し手目掛け速度を上げた。 「あ、あぶなっ……!」 不意の出来事にレイチェルは突進を躱しきれず、吹き飛ばされる。 寸での処で突進を避けた沙希も、エリューションの放つ火炎に見舞われた。安全靴を身に付けていなければ、直撃だっただろう。 ――次の瞬間、新たな挑戦者がドームへ入場してくる。 不運なことに、その挑戦者が入場した入口はエリューションが暴れる位置に至極近かった。 挑戦者の車は真っ直ぐに黒い影を目指した。 突進の延長上に立っていた甚内、御龍、アラストールの三人は挑戦者の車に気付くのが遅れ、後方からの直撃を受けてしまった。 「がはっ……」 甚内のバイクは無残にも壁へ叩き付けられ、彼自身も相当のダメージを負っていた。 ぼたりと、頭部から出血し視界が歪む。 追い打ちを掛ける様に、エリューションも再びエンジンを唸らせ、加速する。 "エリューションが、突っ込んで来ます" 脳内に響く沙希の声に御龍達はなんとか回避行動を行い二撃目の直撃を避けることが出来た。 沙希は間髪を入れず、長い髪を揺らし聖なる歌を奏で、味方の傷を癒していく。 癒し手の補助を受けて、リベリスタ達は陣形を整え始めていた。 ●"止まれ"ったら止まれ 一方で、枢と小路はようやく二台目の挑戦者の車へ追いついた。 「もう一台っ、頑張りましょう先輩!」 「仕方ねーです……動きたくないのに!」 ぜぇぜぇと肩で息をする小路を置いて、枢は再び駆ける。 一台目と同じ要領で、扉付近に激しい斬撃を加える。 更に追い打ちと言わんばかりに、小路は渾身の一撃を見舞う。 頑張って働いた彼女に天が味方したのか。真空の刃はまたしても目標の前輪を吹き飛ばし、行動不能に追い込む。 停止した車。これならいける。と枢は迷いなく、迅速に車へと駆け寄った。 吹き飛んだドアから、中へ。しかし―― ププーッ 車が停止した衝撃で、運転手は前のめりにぐだりと倒れ、クラクションをけたたましく鳴らしてしまった。 その音に反応したのか、甚内達の攻撃を振り払って、エリューションは加速し、真っ直ぐに向かって来る。 アラストールは標的を逸らそうと十字の光を放つ。しかし、黒い車はその直撃をもろともせず動けない車の元へと向かう。 更に、孝平の真空の刃が車のタイヤを抉り取る。それでも車は止められなかった。 これまでか、と目を閉じる枢。しかし、突如見覚えのある三角が車との間を阻む。 ――華奢な体を駆り立てて、小路が立ち塞がっていた。 「交通ルールは守るもの! この道とまれーっ!」 どんっ、 鈍い音を立てて、小路の小さな体は宙に舞い、地面に叩き付けられる。 小豆色の体操服が、赤黒く、染まっていく。 車は、枢の眼前で止まっていた。小路が地に突き立てた"止まれ"の標識が、文字通りエリューションの突撃を止めていたのだ。 「残念です。僕も貴方も、疾さの世界に魅了され、高みを目指す存在であるのに」 ふわりと、柔らかな風と共に孝平は車のボンネット上へ現れる。 先に行きますよ、僕は。更なる高みへ。 彼はそう胸中で零し、剣へ手を掛ける。 「お前には、早さは在っても、力、技、理想、理念、信念――――何よりも心が足りない」 怒る心も無いのか。御前には何も、感じないな。 黒いマントを翻し駆け寄ったアラストールが、自身の剣を振り上げ、呟く。 「酷くやってくれたな、勘定だ。持って行け」 龍虎丸をやられた怒りと、自身の狂気をのせて。 立ち上がった御龍が月龍丸を同じく振り上げ、ぎりりと柄を強く握って。 振り下ろされる三撃に、黒いボディは抉れ、心臓たるエンジンは動きを止めた。 愚かな走り屋の爆走は、最後は余りに呆気なく、刹那に、終わりを告げた。 「まー……、伝説の一夜だったよ、コレ」 ささやかな鎮魂の為だろうか。甚内は煙草に火をつけ、車の傍へと投げ捨てる。 「……もう、働きたくない」 ぐったりと身体を伏せていた小路は、沙希に癒しの歌と共に助け起こされながら苦しげに言う。やっぱ、明日から頑張ればよかった。 「ほんと、男ってバカね」 救出に成功した暴走族の為に救急車を手配し終え、レイチェルは呟く。 「あぁいや、男の子がみんなそういうわけじゃないけど!」 振り返る甚内と孝平に、彼女は弁解をして、それから誤魔化すように。 「それじゃあ、帰ろっか!」 ――今は静かな『爆走街道』を、ド派手な装飾のトラックが走る。 どうか帰りは、安全運転で。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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