●エリューション 魔術において大切なことは、適切な動作を行なうことで因と果を律することである。 最たるは呪文であり、身振り手振りを含んだ動作もある。大掛かりなものになれば生贄を要する儀式まで。 ともあれ、動作がおおければ多いほど精密さが上がり効力も増す。単純な話だ。四音節の呪文よりも十音節の呪文の方が威力が高い。指を鳴らすだけの動作に比べれば、両手を使う動作の方が大量の魔力を操作できる。 『開け、西風の門――』 両手で魔方陣を開き、魔力を解放する。 『夜王の羽ばたき、烏の声――』 肩から生えた機械の腕が大仰に動き、その位置と角度で星の力を集め始める。 ならば。 複数の口を持ち複数の腕を得た魔術師がいたとしたら、どうなるのだろうか? 誰もが考え、そして誰もが呆れたその思考を、実現する術があるとしたら? 魔力が爆ぜる。 革醒者ですら圧倒される破壊の奔流。それが海上に響き渡った。 ●フィクサード 「テストスタートだ」 「『万華鏡』は間違いなく感知しているからな。リベリスタもいずれくるだろう」 「しかし『兇姫』様の研究は素晴らしいな。前回のに比べ、安定度が飛躍的に増した」 「うむ、ようやく実戦に耐えうるキマイラになりそうだ。まだ改善の余地はありそうだが」 「欲を言えば『枝』もほしかったところだな」 「ウルセー。じゃあテメーラ、アークとやりあってミロ」 ●リベリスタ 「正体不明のエリューションが砂浜で暴れている」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は集まったリベリスタたちに向けて淡々と説明を開始する。 「フェーズ不明。分類不明。過去にいくつか報告例があるけど、『万華鏡』では正体が捕らえきれないエリューション」 モニターに映し出されたのは、二足歩行する人間のように見えた。『ように見えた』だけであって、明らかに奇異な部分がそれにはある。背中から生えた四本の腕と、肩から下にかけて無数に存在する、口のような器官。 複雑怪奇な腕の動きと体中の口が意味不明な言語を発しているが、わかる人にはわかる。あれは、魔術だ。マグメイガスのそれとは系統の違う魔術。人の理を外れたエリューションの技。 「複数の口と腕を使って高火力の魔法を使ってくる。確信はないけど、ノーフェイスにEゴーレムの腕をつけたモノ。これは『キマイラ』とといってもいい存在」 キマイラ。ライオンの頭と山羊の胴体、そして毒蛇の尻尾を持つ架空の怪物。生物同士のの融合。これはつまり。 「おそらく人為的。それを証明する様に、近くに六道のフィクサードがいる。 こちらの戦いに積極的に手を出すわけではないから、相手にしなくていい」 戦場を一望できる船。そこに数名のフィクサードがいる。遠距離攻撃でも届かない距離から『キマイラ』の動きをチェックしていると言う。 「エリューションは人のいない砂浜で待つように高威力の魔法を放っている。これは推測だけど、リベリスタが攻めてくるのを待っている」 まるで見せ付けるように。『万華鏡』にわざと感知させ、リベリスタと勝負するために。 何故? と言う問いにイヴは首を横に振る。エリューションとそして六道の考えまでは、未来視ではわからない。 「このエリューションは戦いながら規模の大きな魔法の呪文を詠唱している。来るタイミングはわかっているから注意して」 『万華鏡』が映し出した三種類の映像。その映像と威力に、唾を飲むリベリスタ。まともに食らえば、一撃で倒れることもあるだろう。 「リベリスタが来ないと判断すれば、このエリューションがどういう行動にでるかわからない。下手をすれば人のいるところまで行って暴れるかもしれない。だからアークとしては無視はできない。 みんなならできると信じている。でも勝てないと思ったら逃げて」 フォーチュナは運命を見る。そのイヴができると信じているのだ。その期待を受けて、リベリスタ達はブリーフィングルームを出た。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:どくどく | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年05月19日(土)00:12 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
● 事前の付与を終えたリベリスタ達は『キマイラ』をみる。 「三十メートル時点から作戦を開始できないかしら?」 と言う『重金属姫』雲野 杏(BNE000582)の提案は、作戦開始直前の急な提案だったため、一部の人間のみに連絡が届いた形になった。さすがに仕方ないか、と肩をすくめる杏。 「……リベリスタか」 『キマイラ』がリベリスタに視線を向ける。無数の口、複数の腕。人間ベースのエリューションなのに、人間とはかけ離れた姿である。 「こんな人体実験なんて許していいはずが無い……」 『大雪崩霧姫』 鈴宮・慧架(BNE000666)は『キマイラ』を作った六道の所業に怒りを感じていた。手甲を腕につけ、必ず解放すると気合を入れる。他のリベリスタ達も、それぞれの思いを込めて破界器を装備する。 潮風が吹いた。五月なのに冷たい風。その風が戦いの合図となった。 ● 「始まったか」 「アークのリベリスタ達のお手並みは意見だな」 洋上に浮かぶ船の上、六道のフィクサードたちがデータ収集の為に観察を始める。 そこに飛んでくる一羽の鳥。それは『運命狂』宵咲 氷璃(BNE002401)が魔術で支配した従者。五感をリンクさせ、船の動向を掴む為に飛ばしたもの。鳥は船の桟に羽根を安め、フィクサードたちを観察する。今のところ、それに気付かれた様子はない。 「戦闘中に崩れ落ちる率は減ったからな。これで費用対効果がトントンだ」 「手間がかかるとすればエリューション自体を捕獲することか」 「崩界が進んだ今、エリューションはたくさん発生する。多少乱獲しても問題あるまい」 「ダカラ、捕まえる側の立場になってミロ、テメーラ」 ● 「手を加えられたとはいえ、この強烈なまでの魔術。きっと一廉の魔術師だったのでしょうね……」 『不屈』神谷 要(BNE002861)はラージシールドを構えて『キマイラ』に疾駆する。スレンダーで華奢な体型だが、彼女はこのパーティの防御の要。戦場構築の為にブロックすると同時に、仲間を護るために砂の足場を踏みしめて盾を構える。その気概はまさに不屈。 「それでも護ってみせます」 「六道はこんなのを作って何をしようって言うんだ……?」 『ガントレット』設楽 悠里(BNE001610)は気を制御しながら砂場を走る。今までいろんな敵と戦ってきた。怖い敵。誇り高い敵。己の愛に準じた敵。だけどこいつは違う。なんていうか、不気味なのだ。 「なんなんだよ、こいつら……戦力にはなるかも知れないけどいつまでもこんなものを操れるとは思えない!」 悠里は軽く跳躍して横なぎに脚を払った。生まれる風の刃が『キマイラ』の肌を裂く。人工物。合成体。それを行なう精神性。全てが理解できない。 「キマイラ……」 源 カイ(BNE000446)はアークがつけた名称を反芻する。複数の獣を複合させた怪物。なるほど、性質の異なる個体の融合という点でこのエリューションにふさわしい名前だ。もちろん感心する気などない。 「今回も六道の思惑の上で踊らされるのは不愉快ですが、脅威である以上戦う他はありません」 砂場を走り、機械義手の右手首を外す。そこから現れた銃口を『キマイラ』の腕に向けて、弾丸を放った。狙いは『キマイラ』の腕。腕を破壊すれば魔術行使の妨げになると思ったのだが、 「……効果はなさそうですね」 魔術行使の手段は複数ある。一つが壊れれば別の部位がバックアップに入るのだ。全ての口と腕を塞ぐには、さすがに時間がかかりすぎる。カイはそう結論付けた。 「ふぅん、魔術師が聞いて呆れるわね」 その様子を見ていた氷璃が呆れたように呪文を唱え続ける『キマイラ』を見た。本人の意思とは無関係に魔術を唱える存在。それはまさに壊れた蓄音機(ガラクタ)。ただ破壊だけを生み出す暴走する魔物。それがわからないなんて。 「マリア。貴方の技、使うわ」 白いワンピースの堕天使を思い出しながら、氷璃は魔方陣を展開する。言葉を、指先を、魔力の一つ一つに思いを込めて。魔術とはかくあるべき。あんな『雑』なガラクタとは違う。 繊細でそれでいて鋭く。指先をそっと向ければ、体の一部が石となり動きを拘束される『キマイラ』がいた。 「やるわね」 魔鍵を警戒して少し離れた位置にいる杏がタバコを咥えて氷璃の術に簡単の言葉を吐く。同じマグメイガスとして羨望と嫉妬の感情を向けながら、『"序曲"ギヨーム・テル』を構える。指先でリズムを取りながら、四種類の魔力を集め始めた。 「キマイラね……あの時も六道が観察していたわね」 かつての依頼を思い出す。あの時と似たシチュエーション。積極的にこちらに絡んでこない六道フィクサードと、奇妙なエリューション。今回も、まただ。そこまで考えて、思考を目の前のエリューションに向ける。四類の魔力が螺旋を描き、石となった魔術師に向かって一直線に飛ぶ。穿たれた魔力の渦に、のけぞるキマイラ。 「何かつながりがあるのかもね」 「全くだ。相変わらず、六道の連中は奇妙なものを作り続けているな」 『酔いどれ獣戦車』ディートリッヒ・ファーレンハイト(BNE002610)は剣を構えて、キマイラの元に近づいていく。大上段に剣を振り上げ、一気に振り下ろした。全身の筋肉を使った一撃に、その動きが鈍るキマイラ。 ディートリッヒはフィクサードの思惑が気にはなっていた。六道が何を考えているかまるでわからない。この戦闘もサーチされているのだろう。そのデータがどうなるか。考え始めればキリがない。だが、生粋の喧嘩屋である彼は、それら全てを受け止めて戦いを楽しむことにした。 「折角の招待状、無碍に断るつもりは無いぜ!」 「先ずはこの一手から」 『キマイラ』の動きを見ながら、『ナイトビジョン』秋月・瞳(BNE001876)が飛行の加護をリベリスタ達に付与する。瞳は火力は皆無だが、その支援能力でパーティをサポートする。自らを実験体にしてまで得た力。同じ実験体である『キマイラ』にどのような気持ちを抱いているのか。 (……今のところ、動きはない) 瞳の視覚と聴覚は鋭く、洋上の船まで感じることができる。それを駆使して時折六道たちの動くを調べていた。とはいえ、『キマイラ』から目を離すつもりはない。あくまでメインはエリューション退治。それを吐き違えるつもりはなかった。 「キマイラ……」 慧架は『キマイラ』の懐に入り、視線を通わせる。ノーフェイスとEゴーレムの融合体。確かにリベリスタとしてエリューションは滅ぼさねばならない。ノーフェイスを殺さなければならない。故に戦うことに躊躇はない。だけど、 「フィクサードに利用され、その命や存在意義まで歪められて――」 複数の腕があろうが、肉体の中心は一つ。肝心要はそれを見極め、崩すこと。慧架は流れるような動きで『キマイラ』の腕をとると、相手の動きを利用して投げ飛ばす。逆転する天地。 「せめて私達の手で解放させてあげたい」 地面に叩きつけられても呪文の詠唱が止まらない『キマイラ』を見て、悲しい瞳で慧架は告げた。もはや戻す術はない。ならば、せめて。 『キマイラ』が吼える。影から生まれた犬の牙を、要が受け止める。その傷口から血を流しながら、まだ負けないと『キマイラ』を睨み返す。 魔力が奔流する。『キマイラ』の肉体の如く強く、禍々しく。 ● リベリスタの戦法は流動的だ。大呪文のタイミングを考慮し、それに合わせて陣形を変える。 「滑稽ね。魔術に使われる魔術師なんて――」 氷璃が魔力を練りながら、『キマイラ』に侮蔑の言葉を吐く。より正確には『キマイラ』であった元のノーフェイスに、だ。彼に魔術を使っている意識はもうないだろう。ただ呪文を唱えるだけの存在。魔術に使われる存在。 「せめて、人として生涯を終えて下さい」 カイは『UCW「アームガン」』を手に『キマイラ』を見た。もはや人としての理性はなく、狂ったように魔術を行なう存在。それが『人』であるかどうかは議論の余地がある。だが、カイはそれを『人』と称した。それがせめてもの優しさか。 「汝、血塗られた棺の中で羽根を奪われるだろう。地母神抱擁。――魔圏召還」 重力が圧し掛かりリベリスタ達の動きを制限する。しかしその前に、 「来るとわかっている攻撃を、わざわざ受けるつもりはありません」 要、カイ、慧架を残してリベリスタは一斉退避し、魔術の圏内から逃れる。杏は退避しながら魔術を放ち、『キマイラ』に傷を与えている。 「……くっ!」 全力で盾を構えて防御し、『キマイラ』の攻撃に耐える要。重力が動きを拘束し、要の防御力とスピードを奪う。 「ブレイクフィアーを……!」 カイは要の状態回復を待って行動するつもりだったが、全力防御に回った要にそんな余裕はない。仕方なく重力に縛られたまま破界器を構えなおす。 「やああ!」 重い体を動かして慧架が『キマイラ』を投げる。繊細な体の慧架だが、自分よりも巨体である『キマイラ』を投げるのに苦労はない。大切なのは姿勢を正して、しっかりと立つこと。正中線を延ばし立つ様は、まさに曲がらぬ彼女の意志の如く。 「一気に畳み掛けるよ!」 そこに飛んでくる悠里の風の刃と、氷璃と杏の黒き魔力弾。近接攻撃しか持たないディートリッヒは一気に走りこんで、そのあとで剣を振り下ろす。 要、カイ、慧架の受けたダメージを瞳が癒すも、その間に『キマイラ』の魔力が影に宿り、犬となった影が近くにいたリベリスタたちを傷つける。重力に捕われていた慧架を要が庇い、悠里とディートリッヒが鋭い牙で血を流す。 「研ぎ研ぎ研いで血の河に一つ。斬り斬り斬って針の山に二つ。鬼角発露。――魔剣召還」 『キマイラ』の手の中に生まれる一本の剣。それは防御役の要に振るわれた。庇っている要はこの攻撃を避けることができない。横一線に振るわれる魔剣の軌跡。それは彼女の体力を大きく奪う。 「まだ……です!」 膝をつきそうになるのを何とか堪え、要は次に来るであろう『キマイラ』の呪文に備える。他のリベリスタも作戦通りに退避の為に『キマイラ』から距離を置いた。 「――来ます!」 リベリスタ達は呪文の来る順番を知っている。まともに食らえば体力のない革醒者なら一撃で戦闘不能になるだろう一撃。複数の腕と複数の呪文。それが上位存在を降臨させた。 「普天の使いが下るとき、己の罪と鉢頭摩の花びらを数えよ。滅びかくなせ!――魔賢召還」 ――天が光った。 それが圧倒的なエネルギーを秘めた雷撃だと知れたのは『万華鏡』による事前情報ゆえ。その範囲外に出ていたリベリスタたちは、それでもその火力に冷や汗を流す。そして、 「……さすが、です」 要が稲妻の嵐の中、意識を失いそうになる。運命を犠牲にして意識を保つが、冷静な部分ではここに留まれば長くはないこともわかっていた。 しかし、引く気はない。盾を構えて、要はその意志を示す。 「今すぐ回復を」 瞳が回復の奇跡を行使する為に歩を進めた時に、フィクサードたちの船で動きがあったのに気付く。 氷璃もそれを察し、使い魔を通じて船の様子を伺った。 ● 「魔賢を使用しても『ダウン現象』の兆候はなし。完璧だな」 「『テレジア』も問題ない。このまま戦闘を続けられそうだ」 「とはいえ、このまま殴られれば次の魔賢までもちそうにないな。せめてもう一回分はデータを取りたいところだが。……本当にあれで大丈夫なのか?」 「ケケッ。目には目ヲ、ダゼ」 ● 来るとわかっている大振りのハンマーを待ち続けている道理はない。危険な攻撃が来る際には退避するというリベリスタの戦い方は、この『キマイラ』を相手するには正しい動きだ。 一旦攻撃範囲から離脱して、また接近する。ヒットアンドアウェイを繰り返し戦えば、勝利は確実だ。 だがそれは、相手が動かないことが前提だ。 雷光が収まったとき、要の傍には『キマイラ』はいない。 そこから十メートル後ろ。魔賢から退避する為に下がったリベリスタからは三十メートル以上離れた場所に立っていた。 「あ……!」 「十メートル後ろに移動してから、魔賢召還をつかったのか!」 「え? でも今から全力で近づけば……あっ!?」 「ああ。接近したタイミングで魔圏が来る」 魔賢の二十秒後に魔圏が来る。そして移動だけで二十秒を費やしてしまうのだ。リベリスタ達は大呪文の直撃を避けるように綿密に作戦を練ってきた。その作戦が崩壊したのだ。 どうすれば修正すればいいのか、戦闘中に作戦を思考する余裕などない。 『キマイラ』から魔力の鍵が飛び、要とそして回復の為に近づいた瞳を穿つ。瞳は運と呼ばれる不可視の何かが逃げていくのを感じながら、膝をついた。運命を使いその場に残るが、それがわずかな抵抗であることは彼女自身理解していた。 『キマイラ』を囲んで足止めするためにもう一人ブロッカーがいたら。なんらかの手段で『キマイラ』を一箇所に固定できていれば。 ほぞを噛むリベリスタ達。策が思いつかない以上は、破れかぶれでも攻撃を続けるしかない。六道の悪逆非道を許す理由などないのだから。 「そうだ。立ち止まってる余裕なんてない! がんばってくれた要ちゃんの為にも!」 手甲に稲妻を宿し、悠里が砂を蹴る。次は僕が『キマイラ』の攻撃を受ける、と覚悟を決めて前に進む。 (『ダウン現象』……『テレジア』……多分『キマイラ』に関する単語。そしてそれはデータを積み重ねて解決していること……?) 氷璃は先ほどの六道の会話を思い出しながら思案に耽る。最も情報不足もあり、思考はそこで止まった。思考を切り替えて魔力を解き放つ。放たれた魔力は『キマイラ』の腕に絡みつき、黒の魔力がゆっくりと侵食していく。 四度目の魔圏召還が放たれる。重力と言う手が要を押し、地に伏した。唯一の回復役である瞳もその一撃で、地面に倒れる。 「こうなれば全力で攻めるだけだ!」 ディートリッヒは『Naglering』を構えて、『キマイラ』に切りかかる。多少の傷なら再生能力ですぐに癒えてしまうが、『キマイラ』の火力は多少どころではない。それでも他のリベリスタよりは倒れにくいのだが。 「あんな非道な実験に巻き込まれて……せめて安らかに眠らせてあげたい」 慧架は魔圏による重力の負荷を受けながら『キマイラ』に手を伸ばす。投げ飛ばす為に掴んだ腕は、突き放される。 「不味いわね……。攻め切れないわ」 距離を置いて戦況を見ることのできる杏は、冷静に戦況を把握できていた。最もそれが諦めに繋がるわけではない。止まることなく魔力を研ぎ澄まし、螺旋を描くように鋭く飛ばす。 魔剣が振るわれ、ディートリッヒが胸に一閃を受けて倒れそうになる。 「倒れても何度でも立ち上がってこそ男ってもんだぜ!」 その心意気で戦場に留まり、お返しにとばかりに剣を振るった。自分が受けた場所と同じ場所を裂き、満足感に浸る。 「二度目の魔賢までに決着をつけたかったけど……!」 悠里が悔しそうに言葉を吐きながら、もう数十秒後に来るであろう『キマイラ』の一撃にたいして、ガントレッドを十字に交差して防御の構えを取る。この手甲は仲間の為。この手が掴むのは『勇気』と『仲間』。希望を繋げる為に、十字の構えで『キマイラ』を抑える。 リベリスタの猛攻が『キマイラ』を攻めるが、を倒すには至らない。 ――そして、二度目の魔賢召還が放たれた。その一撃で悠里の意識が飛ばされる。その結果を運命を燃やすことで打ち消した。だが、それまでだ。 「退こう」 それを口にしたのは誰だろうか? 反論はなかった。このまま攻め続ければ『キマイラ』を止めることは可能だろう。だがそれは、リベリスタに死者がでる可能性がある。 倒れている要と瞳を抱え、リベリスタ達は撤退を開始した。 去り際に、船を睨む。六道のフィクサードの方へと。五十メートル離れて、互いの視線が交差した。 そして互いの道へと視界が戻る。リベリスタはアークへの道へ。フィクサードは『キマイラ』の方へ。 砂浜に、魔術師の呪文が響く。作られし魔術師の歪んだ魔術が荒れ狂った。 ● 「データ収拾完了。リベリスタの撤退を確認」 「『キマイラ』の停止も確認。これより回収に向かう」 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|