●決意 「おーい、杏子、入るよー」 気の抜けた声で呼びかけながら、男は部屋に入る。杏子と呼ばれた女は彼を見ず、声も掛けず、心をしまい込んでしまっている。男はその様子をジロジロと観察しつつ、杏子がただ何かを見ているだけだと察すると、素早く後ろに回り込み、抱きついた。 「きゃあ!?」 甲高い声で驚きを示したが、杏子は力なく抵抗するだけで、男の手を抜けられない。 「集中しているのはいいこった。だけども挨拶もしないってのは失礼じゃないのかな〜」 「ごめんなさい、ごめんなさい! お願いだから放してぇ!」 弱々しい抵抗だったが、男もそこまで鬼ではなかった。胸に伸ばしかかっていた手を引っ込めて、彼女を解放する。息を上げて疲労を見せる彼女を見つつ、男は無表情でいた。 「研究室に籠ってばっかいるから、こんなんで体力なくなるんだよ」 「返す言葉もありません……」 「まあそれはそれとして、出来たの?」 「あ、あと少し」 男は溜め息を吐いて、落胆の意を示す。そのはっきりとした感情の表明に、杏子は慌てた。 「あのね、前回もあんたそう言ったでしょ。そのときこう言ったよね、『今回はなんとかしてあげるから、次回は完成度の高いものをよろしく』って。ちゃんと前回のデータもあげたのに、できてないってどういうことよ」 「面目ない……」 しゅんとして俯く杏子を横目に、男は彼女の『研究成果』を眺める。彼女を叱りはしたが、決して彼女の能力に心配があるわけではない。彼女の作ったそれは、ずっと洗練を続けたことでかなり完成度の高いものになりつつある。他の研究員が平行してやっている研究に比べてもかなりレベルの高い方だとも思う。けれども彼女はそれを知らないし、研究員としての気質が、不完全なまま戦場に送り出すのを許さないのだろう。むしろどちらかと言えば、彼女は芸術家の方が向いているのかもしれない。 「こだわるのもいいと思うけど、ね。ちゃんと指示には従った方がいいと思うよ? 自分の研究のためにもね」 「……わかりました。じゃあ、これで行きましょう」 杏子は『研究成果』の一つを指差した。ああ、それか、と男はニヤリと笑う。 「うん、いいね」 ●できそこない 「言葉はわかる?」 「……あ?」 「うーん、どうなのかな……まあいいや」 杏子はゆっくりとその形を眺める。素体はちょっと大きめの人型だ。目も鼻も口も手も足も、潰れてそこが黒ずんでいることを無視すればちゃんとある。けれども全身が緑色の半透明な粘膜に覆われ、その中心にいるそれに他の誰かが放つ某かが届いているとは思えない。遠目に見たら人型よりスライムに見える。しかし所々に現れる特徴が、スライムとは全く別のものを想起させる。蜥蜴のような口。鷲を真似た翼。鋭く尖った爪。それらは緑色で、完全な形をしていない。 「君たちが向かうのはね、ほら、あそこ」 杏子の指差した方向を、それらはゆっくりと見る。闇に溶けたエリューション数体が、街中を徘徊している。 「簡単だよ。殺してくればいい。そこにいるものを全部、ね。できるなら君たちと同質なものがいい。さらに言えば、そこに来るだろう異物の方がいい。もちろん、普通の人でも構わない──が、殺しても大したものは得られないから、勝手にしていいよ」 ほら、行って。杏子がそう言うと、それらはズルズルと這うように歩き出した。 「きっとできそこないでも、役には立つんだろうね」 ●打倒 「エリューションを打倒して欲しい」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は開口一番にそう言った。ありがちな事件かとリベリスタは思ったが、どうもそうではないらしい。 「エリューションとエリューションが戦ってる。もっと正確に言うなら、エリューションと思しき何かが、エリューションを襲ってる。よくわからない何かが、ね。勘のいい人なら、どんな要因が絡んでいるか、もうわかるかもしれない」 六道のフィクサードが、その事件現場を遠巻きに観察しているようだ。それは一種の研究なのだろう。 「さっき言ったように、その『何か』が具体的にはわからない。ただ前回と今回の行動、そしてエリューションの形態の変質を見るに、恐らくそれは研究に研究を重ねた結果なんだと思う。言うならば合成獣、キマイラ」 六道の放ったエリューションの数は4体。すべて同じ形をしているという。人型を素体にして、蜥蜴や鷲を掛け合わせたような外見をしているが、未だ未完成なそれの形を、正確にどんなものであるかと言うのは難しい。 対するエリューションは6体。すべてノーフェイスであるという。 「六道の彼らが単にエリューションを倒すために自分たちのエリューションを放ったのなら別段問題はないのだけど、エリューションをすべて倒しきったとき、次に彼らがどんな行動を起こすかは想像がつかない。多少なり、一般の人を襲う素振りも見せてるし。出来るなら後の心配のないように、すべて倒してきて欲しい」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:天夜 薄 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2012年05月19日(土)00:04 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 2人■ | |||||
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● 六道の兇姫。その噂はちらほらと、リベリスタの耳にも届いている。六道の一部による何らかの計画。完成度が向上していく彼らのキマイラと呼ばれるもの。その計画を主導する彼女の思惑は、いったいどこにあるのだろう。 『K2』小雪・綺沙羅(BNE003284)は彼らの研究というものに興味を持っている。彼女は生物系統に関しては専門ではない。けれども、これだけ良い『講師』がわざわざ出向いてくださっているのだ。折角だからご教授願おうか、と綺沙羅は皮肉まじりにクスリと笑う。 フィクサードはこの戦いを遠くから観察しているという。きっと作り出したものの性能テストなんだろうと、雪白 桐(BNE000185)は考える。ならば、何を目指し、どこに達すれば『完成』と言えるのだろうかとも。彼らがどこへと向かっているのか、いつか見えてくるのだろうか。 また六道ですか、と『朔ノ月』風宮 紫月(BNE003411)は思う。エリューション・キマイラ。他の任務を垣間見ると、彼らはそれに関するデータを、集めている。その完成度を高めるための、データを。前回のものだけでは、きっと足りなかったのだろう。だがまずは目の前の敵を倒して体と、紫月は士気を挙げる。 『飛刀三幻色』桜場・モレノ(BNE001915)は先日現れた『キマイラ』を思い出す。あまりにグロテスクなそれを作っている研究者に対して、彼女はウザい、キモいなどで形容される嫌悪を感じている。ああいうものを研究しなければ気の済まない連中なのだろうか。その神経は全く理解しがたい。 「……なんだこりゃ、の一言だな」 『逆襲者』カルラ・シュトロゼック(BNE003655)は彼らの研究結果に呆れている。人、獣、スライム。ブレまくりのそれを作った連中はきっと、骨なしの腰抜けなのだろうとカルラは考える。遠巻きに見てるだろうその仲間を含めて、きっと六道はそういう連中の集まりなのだろう。派手にぶちかまして、とっとと終わらせてやろう。 エリーゼ・イルミス(BNE003713)の感じるのは嫌悪。周囲の迷惑を一切考えない身勝手さ。ひたすら自分の趣味趣向だけを押し付ける悪辣さ。そんな連中に生み出されたものが、たとえエリューションであれど、哀れに思えてくるほどだ。せめて無関係な人間に被害が出る前に、役目を果たすことにしようと、エリーゼは思った。 ● つい先日も、彼らはデータを集めていた。何か、嫌な感じだなと、『仁狼』武蔵・吾郎(BNE002461)は顔をしかめる。ただし今回はフィクサードは無視だ。データばかり取られているのも気に食わなかったが、仕方ない。けれども隙があれば顔を覚えておくくらいはしておこう。いつかそのくだらない野望を、叩き潰すことになるのだろうから。 エリューション・キマイラは、不完全さの垣間見える若干辿々しい足取りで、ノーフェイスに近付いていく。ノーフェイスはそれらに気付くと、不思議な、奇怪なものを見ているように、反応を鈍らせた。彼らは同類でありながら、異種であった。自然発生と人口生成の遭遇。戦うために多少の最適化されている分、後者に軍配は上がるだろう。それが出来損ないであったとしても、だ。 キマイラがノーフェイスを敵性として認識すると、そのうちの一体が威嚇するように咆哮を上げた。その音圧に気圧されながらも、ノーフェイスはその脅威に抗おうとする。 咆哮が鳴り止むと同時、リベリスタは戦場へと突入した。突如現れる異物に、キマイラは警戒心を露にする。ノーフェイスは少しも気にかけない様子で、キマイラに対して攻撃の機会をうかがっていた。 「行くぞ、変身!」 『正義の味方を目指す者』祭雅・疾風(BNE001656)がアクセス・ファンタズムを振りかざし、装備をまとう。その言葉を合図に、前衛陣は各々自分の抑えるべきキマイラへと向かっていった。『戦姫』戦場ヶ原・ブリュンヒルデ・舞姫(BNE000932)とエリーゼは単独でキマイラを抑えに向かう。エリーゼは防御のオーラで自らを覆い、そして攻撃の射線を遮るべくキマイラに立ちはだかった。 「色々と気にはなりますが人に迷惑を掛ける前に倒してしまいましょう」 桐とカルラは二人がかりでキマイラの行動を阻害しにかかる。そして疾風は、吾郎と組んでキマイラへと立ち向かう。 「ただデータ取らせるのも何だ、一気に片づけて収集の時間も与えない様にしようぜ」 吾郎が大剣を構えながら威勢良く言う。 「そいつはいい考えだ」 疾風は快く応じ、流水の構えを取った。 「先ずは準備を整えましょう…無駄な傷は極力避けたいですからね」 紫月は味方が自分の側から離れるより先に防御結界を作り出し、味方を守る盾を成した。 「#778899。灰白の戟陣」 道力で操るダガーがモレノの周囲を浮遊し、刀儀陣を形成する。まずは様子を見る必要があるだろうと、彼女は考える。神秘と物理。よりダメージの大きい方を選択して、効率よくダメージを与えよう。 エリス・トワイニング(BNE002382)から魔力の矢が飛ぶ。それを追いかけるように、ノーフェイスが動いた。ノーフェイスは今、キマイラに対し敵意を持っている。リベリスタたちはそれをよく理解していた。ノーフェイスを攻撃しないように気をつけながら、キマイラを叩いた。 桐が闘気を高ぶらせ、一撃を加えると、続いてカルラが暗黒の魔力を獲物に込めて、キマイラを切り裂いた。キマイラは苦しそうな声を上げて、後退する。 しかし。その体に出来た傷は浅く、またそれはたちどころに塞がっていった。六道がそれらに組み込んだ肉体の再構成組織が、その生命力を引き上げている。次の攻撃のために体勢を立て直しつつ、カルラが叫ぶ。 「後がつかえてるんだ、一瞬でも速く潰してやる!」 キマイラは鋭く尖った爪で、桐を切り裂こうとする。桐は剣でそれを受け止めたが、衝撃のあまりよろめいた。カルラが彼らの間に割り込んで、一撃に力を込める。 「再生なんぞさせるかよ!」 赤く染まった死翼がキマイラの命の源泉へと突き立てられる。苦しそうなうめき声を上げながらもなお、その凶暴性は失われていなかった。 舞姫の連続攻撃がキマイラを刻む。このキマイラには舞姫がついていたが、他に一体のノーフェイスがそれを狙っていた。そのために、キマイラは自由な動きを阻まれていた。できるだけ仲間から離れるよう、キマイラを誘導する。 エリーゼは後衛の盾となるべく動いている。ただ一体、誰もブロックについていないそのキマイラは、リベリスタの他に二体いるノーフェイスのことも一切気に留めず、ただ殺戮の衝動だけを持ってその拳を振るい、炎を吐いていた。その攻撃はかなりの強力さを持っていたが、彼女とて盾を志す者。そう簡単に倒れるつもりはなかった。 盾としての彼女を援護するように、矛が飛ぶ。 「全てを凍らせてしまいなさい……氷雨招来!」 紫月はその魔的な雨をキマイラだけを狙って放つ。キマイラは凍りかけた足を無理矢理動かし、腕を振り上げて彼女に接近すると、思い切り爪で切り裂いた。幸い直撃は免れたが、軽い傷とも言いがたかった。 咆哮が聞こえる。夜の公園に鳴り響くそれには、聞くだけで恐怖を覚える程の脅威があった。 ● 綺沙羅は戦闘の中ふと、自分と戦うキマイラについて、理解しようとしていた。なぜ出来損ないと呼ばれたのか。なぜ失敗作なのか。その原因は、果たしてどこにあるのか。素体には前例と同様に革醒者やエリューションを用いているのか。 それの中心にあるのは明らかな人型だ。革醒者か、或いはノーフェイスを基調としたものには違いない。けれどもそれの外側は、多種多様なものが綯い交ぜになって、完全に方向性が定まっていないような不確かさがあり、まだ定形を成している個体とは思えない。故にできそこないなのだろう。それほど学び取ることも多くないだろうと、綺沙羅は呪力を放つ。 モレノはキマイラに強襲を加え、手応えをつかみとる。攻撃の通る感覚のあったのは陰陽・星儀だった。ソードエアリアルも手応えがなかったわけではない。しかし、それは定形の定まっていない様子でありながら、爬虫類の鱗のような固さがあった。 それならば、と彼はかのキマイラの不運を占い、そこに不吉な影を落とす。 「#FD7F50、不吉の暮橙」 身に降り掛かる不幸は、キマイラの体力を奪っていく。抗うように、キマイラは吼える。そしてその口から灼熱を吐いた。 エリーゼは炎に包まれて、崩れそうになった足に必死で鞭を打った。倒れるわけにはいかないのだ。こんなところで。盾でありたいが故に。 ありったけの力を以て、それは拳を振るった。 その軌道が疾風を捉える。鋭い爪が彼を強襲し、付与した神秘ごと吹き飛ばしてしまった。疾風が体勢を立て直すよりも先に、吾郎が剣を振り上げて突撃する。 「てめえの相手はこっちだ!」 多数の幻影を作り出して繰り出される神速の連続攻撃が、キマイラに襲いかかる。攻撃は無数の傷をそれに与え、傷からは黒ずんだ赤色の血液が、ドロドロとした粘着性を醸しながら流れ出した。 苦しそうにキマイラは咆哮する。息を思い切り吸い込み、渾身の火炎を放射する。地お流れは徐々に収まっていく。 その火炎の中を駆け、地を蹴って疾風は飛んだ。握りしめた『響』に力を込め、圧倒的な速度を伴ったその雷撃で、キマイラを狙った。 刹那、瞬間的にキマイラは体中を電流が駆け巡る感覚を覚えた。しかしそれは、自らの命の消滅という形をとって、理解することなく終わった。体を構成していた緑膿がドロドロと崩れ、中の人型だけが、完全な形を保っていた。 キマイラの血は止まらない。桐とカルラの与えていた致命の一撃が、キマイラの回復能力を奪っていた。血が流れ出ていくごとに、その形は崩れていっているようにも見える。けれどもキマイラはなおも吼え、その身の消失も顧みず炎を吐いた。灼熱の火炎がカルラを包む。距離をとっていた桐は素早くキマイラの背後に回って、その隙をうかがう。カルラは素早くその炎を払って、獲物を構える。自分が後ろを心配なんておこがましい。ただ、眼前の敵を貫く事を考えろと心で叫びながら。 カルラの暗黒の魔力をまとった一撃が、桐の捨て身の電撃をまとった一撃と交差する。二つの決死の攻撃を受けたキマイラはもはや形も命も保つ術無く、動きを失った。 キマイラの成れの果てに目もくれず、桐とカルラは次なる敵へと矛先を向ける。二人は舞姫が抑えるキマイラを襲撃する。彼女には単身の抑えを頼んでいる。その苦労に報いなければならない。こんなヘンテコに、一人だって仲間をくれてやるわけには、行かないのだから。 ● 残り二体となったキマイラは、共に息絶え絶えで、十分な戦闘能力が残っているようには、到底見えなかった。その眼は未だに殺気を失ってはいなかったけれども、力が伴わなければそれはただの無謀であった。 キマイラを狙うのはリベリスタのみならず、彼らに攻撃を受けたノーフェイスも、彼らを倒すべく攻撃していた。彼らはきっと攻撃された怒りに任せて、その矛先を向けているのだろう。今までリベリスタに攻撃をしていないのが、何よりの証拠だ。 二体のキマイラはほぼ同時に吼えた。闇を劈くその声が重なって、そこにいたすべてを圧倒した。気圧され、立ちすくみ、けれどもリベリスタの狙いは狂わない。 最後の抵抗とばかり、炎と拳が戦場に軌道を描く。吾郎の足がもつれるが、消費した運命と引き換えに、敵への最後の一太刀となる。 飛び交った攻撃に、二体のキマイラはほぼ時を同じくして崩れ落ちた。もう動かなくなった塊を見、満足したように生き残った四体のノーフェイスは戦場に背を向ける。同時、リベリスタはその無防備な背中を狙った。 「あ、終わったの?」 「あー、うん、終わっちゃった。まぁまぁじゃないですかね。あいつらってのを考えれば」 「そんなもんかいな。じゃあリベリスタがあいつら構ってるうちに、ずらかるぞ」 男が言う声を、杏子は追いかけようとする。その時、彼女は何かが瞬いているのを見た。それはリベリスタたちが戦っているその場所で光っていた。 「おい、どうした、行くって言ってんだろ」 「……わかってます、よ」 雰囲気が変わった杏子を不思議に思いつつも、男は帰路に着く。杏子は今度は大人しく、彼の後ろに着いた。 ある意味で被害者だ。それはエリューションとなったが、人にはまだ危害を加えることなく、彷徨っていただけなのだろう。それが世界にとってどんな影響があるのかはさておいて。けれども、助けられるわけでもないのだ。悩むだけ無駄なんだ。 「全力で攻撃を叩き込んですぐ楽にしてやるさ」 カルラの放つ暗黒の瘴気が、ノーフェイスの心さえも暗黒に染める。 「哀れには思うが同情はしねえからな」 エリューションに身を落としただけでなく、実験に使われ、データの糧とされ。 それでもやがてはこいつらは人を襲うのだろう。殺すのだろう。だからここで殺すのだと、吾郎は一気に剣を振り下ろす。 桐が、疾風が、舞姫が、強力な一撃を彼らに加える。 モレノの占う不吉や紫月、綺沙羅の降らす魔の雨が、彼らの体力を奪う。 危険な攻撃はエリーゼがブロックし、エリスが彼らの身を癒した。 多少の疲弊や損害はあったが、なだれ込む攻撃に、キマイラの攻撃を受けて既に弱っていたノーフェイスは為す術無く、その身を地に倒れ伏す。ただ利用されるだけだった彼らは、きっと紛れもなく、不幸だったろう。 六道のフィクサードは果たして面白いデータがとれたのだろうか、と紫月は気にかける。間違いなく、事態は悪い方向へと加速している。決してこの懸念は、嫌な予感は、気のせいではないだろう。 もしも彼らの実験が実ったなら。その成果ごとに潰してやろうと紫月は思った。 綺沙羅は六道フィクサードの観察していた場所に目をやった。技術は盗むものというが、今回はそんなことをするほどのものはなく、拍子抜けだった。 メッセージが届いたかはわからない。けれど、届いたとしたなら。 「次回の講義はもっと期待していいよね?」 ● 「データはどうだ、うまくとれたか?」 「大丈夫です。これだけあれば、十分すぎるくらいです」 「そいつは良かった。……完成させろよ?」 「わかってますって」 ならいいけど、と言って男は出て行く。扉がゆっくりと閉まり、部屋には数分の沈黙が現れる。その後突如、杏子は両手で机を思い切り叩いた。 「どうかしてるのかな、あんな些末に心を乱されるなんて」 信じている。自分の力を。だからこそ、すべての言葉はその存在すらも否定しなければならない。 『ヘタクソ』 今回のあれを見て言ったのなら、お門違いだ。けれども、あんな言葉を吐かせた自分の責任も重い。あの不良品を戦場に送り込んだ、自分の不始末は、否定できない。身に降り掛かる不快はすべて、圧倒的な優越を以て叩き潰さねばなるまい。 彼女は言葉もなく、彼女のすべきことを再開した。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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