●a wedding march. 豪邸と呼べる規模の家の、象が飼えるような居間の、豪華と形容詞がつくテーブルに、男達が合わせて4人。 厳格な表情の壮年の男性。それ以外は年若く、理知的な眼鏡の青年。鍛えぬかれた肉体の青年。ぎらぎらと目を光らせる危なげな青年。3人はどうやら兄弟のようだ。 皆、難しい顔をして円卓のテーブルを囲んでいる。 もうおわかりであろうか。そう、KAZOKUKAIGIである。 壮年の男性――夜渡礼門は、重々しく口を開く。 「……明日が、瑠香とあの小僧の結婚式だ」 その瞬間いくつものガラスが砕ける音。見ると言った本人である礼門と三男房雄が手にしたグラスを握りつぶしていた。 「お、おお……おおおおお……」 房雄が耐え切れないというように涙に濡れる自身の顔を掌で覆い、抑え、もみくちゃにする。どうでもいいけどグラスの破片で顔中が血まみれである。 「明日が過ぎれば、我らに未来はない」 歯ぎしりの音と共に何かがテーブルに転がった。 ……人の歯であった。歯ぎしりする度に、礼門の歯が砕け転がっていく。 とりあえず、こいつら怖い。 ――だが、だ。礼門は小さく呟き、テーブルにつく面々を見渡した。明日が終わるまでは、大切な愛娘瑠香はまだ夜渡家の一員なのだ。 礼門は立ち上がる。その瞳はぎらぎらと輝いて。 「これより瑠香奪還の軍議を開く。全軍、意見を述べよ」 ……軍議? 何する気だこいつら。 「父上、私に提案が」 「なんだ利史……言ってみろ!」 挙手したのは長男利史。彼はゆっくりと、さも自信ありげに口を開く。 「結婚式の最中に……」 「結婚式の、最中に?」 夜渡家一の頭脳派を自負する男は、十分にもったいぶってから残りを告げた。 「家継を殺す」 そのままであった。どこが頭脳派だ。 「おお……見事だ」 なんでだ。 「房雄。今の意見どう思う」 「山分けしようぜ!」 意味すらなしてねぇ。 「……よし!」 なんで今の意見で決意を固めた。 「だが問題があります。いつぞやのように、アークのリベリスタが邪魔しに来るのではないでしょうか」 かつて、娘をかどわかした家継というおぞましい悪人(夜渡家主観)と戦った時、アークの連中は邪魔しに来たのだ。 だがそれは問題ないと礼門は不敵に笑う。 前回は自分達3人に対し、家継側に2人ついていた。 そのうちの次男玖也は今回はこちらにいる。正直全く興味なさそうにさっきからピザ食ってるが、戦えるとあらば喜んで戦うだろう。脳筋だから。 そして瑠香は――そもそもいない時を狙う。じゃないとこちらが死ぬから。 「昔の偉人も言っている――」 とびきりの悪い顔をして礼門は笑い、言う。 「戦は数だよ兄貴――」 ●a wedding march.(戦場で会おうぜ) ……沈黙。 『廃テンション↑↑Girl』ロイヤー・東谷山(nBNE000227)も沈黙。 なぜかデジャブを感じさせる、長い長い、間。 「……え? 終わり?」 耐え切れずリベリスタの一人が声を出すと、ロイヤーは頷き口を開いた。 「Have a nice day.」 いやいやいやいや。ここまでだいたいコピペだぞ! 「oh. デハそろそろお仕事しマースかネー」 二重の意味で言ってロイヤーは説明を始める。 「以前に夜渡家を中心にした事件があったのデースが」 元フィクサードという経歴を持つ瀬戸家継。彼はリベリスタである夜渡家の一人娘瑠香と出会い、改心し、結婚を約束した。 アーク未所属のリベリスタ一家である夜渡家に挨拶に向かい、そして殺されそうになったところをアークのリベリスタが仲裁したという顛末である。ちなみに別にフィクサードだリベリスタだは殺し合いには関係なかったのだけどね、うん。 「いよいよ二人は結婚式を挙げマース」 「結構急な話だな」 前回が2月だったことを考えると、なかなかのスピード婚だ。 「ソコはソレ、目立つ前にとか色々ありマーシてネー」 唇に指を当て。それはいいとしてーと状況説明。 「結婚式は夜渡家側しか招待されていまセーン」 家継が元フィクサードであり、天涯孤独の身である為それは仕方ないだろう。 「デ、花嫁がお色直しで席を離れたところを夜渡家に襲われ、Mr.家継は死亡しマース」 またかよ。 「Mr.家継には事前にお話しましたが、式を中止にはできないそうデース」 曰く、元フィクサードの家継はこの界隈で立場が低い。中身は残念だがリベリスタ業界で名を馳せる夜渡家とは立場が違う。中止にすればそれこそ別れさせられるかもしれない。式さえ上げれば瑠香と一緒に暮らせるので、簡単に手を出せなくなるだろうと。 「何よりも、彼らの計画がMiss.瑠香に知れれば皆殺しにしちゃいそうなんで、瑠香が家族を殺すのを阻止したいというのが一番だそうデースよ?」 瑠香さんまぢ最強。 「というわけデー、皆さんには家継側の招待客として式場に行ってもらいマース」 状況は孤立無援。さすがに家継を狙うのは夜渡家の人間だけだが、他の招待客は見てみぬ振りをするとのこと。 「夜渡家は代々リベリスタを産出してきた家系。アーク所属ではナイけれどリベリスタ業界ではとても有名な一族デース。睨まれたら怖いんでショー」 残念さはともかく実力は一人一人が折り紙つき。アークのランカー達とためをはる実力者揃い。 一方の家継は、一切手を出さず防御態勢を通すという。 「お色直しが終わるまでの数分。Mr.家継を守りぬいてくだサーイね」 瑠香が戻ってきたら戦闘終了。色々壊れてもそこは式場スタッフに混ざっているアークと家継でなんとか誤魔化すそうだ。 ここでロイヤーが式場のテーブルの位置が書かれた紙を差し出した。 最前列にテーブルは4つ。それぞれのテーブルは5mずつ離れ、左半分がリベリスタ達の席。右半分が夜渡家。4人ずつで座るようだ。 「Miss.瑠香に気づかれないヨウ、彼女が会場を出るまでは席を立たないでくだサーイね」 自分達側は好きに別れるとして。夜渡家側は―― 「おい」 「ワッツ?」 「これはどういうことだ」 リベリスタの問いにアーと呟き。 「こちら側から見て奥のテーブルに座ってるのが礼門、利史、玖也、房雄。手前に座ってるのが礼門、礼門、礼門、礼門デースね」 「ホントにどういうこと!?」 それに対しては資料をぽいっと投げ。 「影人デースね。ちゃんとタキシード姿デース」 インヤンマスターである礼門が生み出した影人のようである。 だが、たかが影人、されど影人。実力者の礼門の影は、下手をすると利史あたりよりも相手をしづらいだろう。本人がヴァンパイアであることも忘れてはならない。 「一応こんなでも優秀なリベリスタデース。殺し合いは阻止しなくてはいけまセーン」 前回同様、夜渡家は力こそパワーが信条の脳筋一家。戦って倒して大人しくさせるのだ。 「誰も死なせないのが目的ネ。Did you understand?」 リベリスタ達を送り出そうとするロイヤーに。 「ところで、さっきから英語が付け足し程度じゃないか?」 「ああ、面倒くさいし」 さらっと言って送り出した。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:BRN-D | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年05月15日(火)23:39 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●a wedding march.(人生の墓場なら直行してもOK) 「二人ともおめでと! 瑠香、すごくキレイだよ」 本日の表の主役である夜渡瑠香は、声に笑みで答え、隣に座るもう一人の主役瀬戸家継を見た。 「可愛い子だな家継。お前の親戚か?」 瑠香の問いに、家継は世話になった人の娘と誤魔化した。 目線を戻した瑠香の横で、家継は正面に座るリベリスタ達に視線を向ける。 (瑠香の為に、なんとか被害を食い止めて欲しい) この場合の被害とは自分の命ではあるが、天涯孤独の家継にとっては、瑠香が自分の家族を殺すという未来こそ避けたいことだから。 今日は結婚式。当人達にとって一生忘れ得ない一日だ。 「そんな娘の大事な日に……信じらんない!」 ピンクの可愛いミニドレス姿で出席し、結婚式に思いを馳せる姿は普通の女の子。『ビタースイート ビースト』五十嵐 真独楽(BNE000967)は二人に祝福を投げかけると、横目に新婦の家族達を睨みつけた。 ――愛してるなら祝福してあげるのが家族でしょ? こんな酷いコト、絶対阻止しなきゃ! 女の子にとって今日は人生で最高の一日でなくてはならないから。 「あ……御祝儀出してなかったな……どうしよう?」 どこかズレた事を考えつつ、『弓引く者』桐月院・七海(BNE001250) は量の多い髪で隠れた顔を新婦側の親族席に向けた。 血走った目の彼らを見つめる。『あい』というものを学びに来た七海だが、言っとくけどここで学べるのは殺し『あい』だけである。 一方、夜渡家一同もまた射殺さんばかりに殺気立ち家継に向けていた目を新郎の主賓席に移した。 「フン……大した連中を集めおったなアークめ」 家継を守る為に来たのだろう連中は、その半数がアークで100本の指に入る名声の持ち主。当然その名はリベリスタの一員である夜渡家の耳に入っていた。 「前に見かけた連中の姿も見えますね……『あほ毛ロリ』に『トンデモ兵器』、『ぼっち』もいます」 名前で呼んでやれ。 「無駄なことよ。数の有利がない以上、わしらに勝てるものか」 不敵に笑う礼門はすでに勝利を確信する。 その視線の先には、タキシード姿の自身の影人達―― 「この人達は……全く、往生際が悪すぎます」 一目でわかる企み顔に、『騎士の末裔』ユーディス・エーレンフェルト(BNE003247)はため息をついた。 「この結婚式、何としてでも成功させましょう」 人は生まれ、出会い、命を育む。今日はその大切な儀。夜渡家に現実を認めさせるのだ。 決意の瞳は自身の誇りの為に。 受け継いだものを――護り、育て、受け継がせて往く為に。 「お食事時間は、まだでしょうか? まだ食べちゃいけないのでしょうか?」 『第24話:潜入…隣の拾う円』宮部・香夏子(BNE003035) は目の前に並べられたご馳走をガンミ中。和洋折衷の豪華なお料理が香夏子のお腹をくぅくぅ鳴らした。 「美味しそうなお料理いっぱいでウハウハですね! まだ始まらないのでしょうか……」 そわそわ待ちつつ、食べるために殺し合いよ早く始まれ、そして終われと願う香夏子。 そんな彼女の視線が隣のテーブルにずれれば…… 黒ダブルスーツで礼節という名の武装をした、『終極粉砕機構』富永・喜平(BNE000939)がすでに大いに飲んで喰らっていた。 (脳筋だからは暴れる言い訳にならんと思うのよ。家継さんの今後が心底から心配です) そんなことを考えつつビールをあおる。思考と行動が全く噛み合っていない。 「タダ飯オイシイデス!」 正直だ。 「も、もう食べてるじゃないですか! 香夏子も、香夏子も食べるです」 慌てて香夏子が箸を掴んだその時、式場に拍手が巻き起こった。 「今日はお招きありがとう御座います。家継さん、瑠香さん、結婚おめでとう!」 精悍な肉体をスーツで包んだツァイン・ウォーレス(BNE001520)が近くを通った瑠香に声をかければ、花嫁は笑んで頭を下げた。 そのまま彼女はお色直しの為、控え室へと繋がる扉に向かう。 すがるような目を向ける香夏子に、ツァインはゆっくりと首を振った。お料理はおあずけである。 会場の一部で緊張が走る。 開いた扉からドレスの裾が消え、今音を立て扉が――閉まった。 瞬間、音。音。音。 17の椅子がひっくり返る。多数のグラスが砕け散り、各所で剣、盾、重火器が音を立てる。 すでにスーツ姿はいつもの鎧姿へと変わっている。ツァインは準備万端、戦闘モード。本日の裏の主役達の出番だ! 「さぁ! もう一つのパーティの始まりだぜッ!」 ●a wedding march.(リア充はリア充なんて言わない) 真っ先に3人のリベリスタがそれぞれに得物を構え飛び出した。 「君みたいな小さい子が――」 「大丈夫! 女の子は強いんだよ」 小さな女の子が自分をかばおうと動くのに気づき慌てる家継に、真独楽は笑って答える。 本命の庇い役が来るまでの間それを果たすのが真独楽の最初の役目だ。 「容赦せんぞ小娘ー!」 迫る礼門に対し一歩も引くつもりはない。その小さな体を精一杯広げ迎え撃つ! 「まこが教えてやる……娘に愛されるパパってやつを!」 「さぁ始めようかぁ房雄!」 テーブルを蹴り、天井を蹴って影人達を一気に飛び越える。喜平の目的はその奥にいる房雄だ。 「きぃーへぇーいぃーくぅーん!」 房雄も楽しげな金切り声を上げて迎え撃つ。かつてやりあった勝者と敗者が再び互いの得物をかち合わせた。 大型散弾銃スーサイダルエコーが狙いをつければ、房雄の二振りの剣が弾き照準をずらしながら詰め寄る。 斬る。受ける。撃つ。弾く。実力者同士の激しい攻防は…… 「あっ!?」 「格闘戦ではこういう手もある!」 剣を踏みつけ、止まった脚を狙ったもう一振りの剣を銃で受け止め。喜平は空いた武器……拳で房雄を殴りつける。 ふらつく房雄――その身体に手痛い散弾がお見舞いされた。 「しょっぱなから会場は熱いのです」 香夏子も喜平のすぐ後につき、落ち着いて自身の精神を研ぎ澄ます。螺子を巻くように、そのたびに、周囲の時間を我が物として。 「者共出会えぃ!」 礼門の声に影人達が飛び出していく。向かう先は高砂に近いテーブル。 すでに飛び出した者を除いた残る二人に殺到し―― その片方、ユーディスは落ち着いて槍を構える。 慌てることはない。初めから彼女の役目は影人を仕留めることであるならば。 「ご息女の結婚式にこんな……全く」 槍の一振りは牽制。その隙間を縫う影人の動きを読み取り、かわす。その後ろから一気に突っ込むもう一人の突きに―― 「それも、見えています」 正面から迎え撃つ。影人の突きがユーディスの髪を揺らし――護りの体勢から放たれたユーディスの破邪の力の一撃が、影の身体を穿った。 「――っ、ヘクスを邪魔しに来ましたか」 もう一人、家継をかばいに行くのを阻害された、『絶対鉄壁のヘクス』ヘクス・ピヨン(BNE002689)のその表情はビン底メガネで遮られ見えない。 けれど、決して弱くはない影人達の鋭い突きを盾扉で受け止め、ヘクスは目線を背後の二人の男性に巡らせた。 視線の交差は一瞬。それを受け二人の男が同時に飛び出す。 ヘクスの代わりを務めるように『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)は家継の前に立ち叫んだ。 「夜渡家? もう一回ぶっ倒してやるよ!」 家継から目を逸らさせるように叫び、視線をかき集めた快は満足気に笑み―― 「おお、ぼっち! またやり合おうじゃないか!」 「だからそれはやめてくれ!」 近づく玖也を迎え撃った。 影人がヘクスに飛びかかり――横からの衝撃で阻止される。 「よし、ヘクスさん行ってくれ!」 盾で押し切り道を空けると、ツァインが影人を抑え叫ぶ。 頷き家継の元へ駆け出すヘクスをちらりと見やれば、突如迫る影人とは違う攻撃に反応し剣を突き出す。 刃が多数の気糸を切り裂き、その先で利史が小さく唸った。 「やるじゃないか……さすがはツァイン・ウォーレス。『ナイト・オブ・ナイト』の名は伊達ではないようだな」 「だから誰がそういう名前広めてるんだよ!?」 真っ赤な顔の抗議は無視され、再度廻る無数の気糸がツァインとユーディスの身体を取り巻いていく。 その中心で放つツァインの意思の輝き。叫びが立ち向かう勇気となって、気糸の力を弱まらせた。 「負けねぇよ。さぁ、おっ始めようぜ!」 世界がコマ送りになっていく。世界を見通して。世界に弓引いて。 七海が黒白の剛弓『正鵠鳴弦』を構える。 まだ放たない。引き絞る。 その隠された目が……捉えた! 剛弓が輝く。光が、ついで音が飛来し影を切り裂く。 影の3体の身体を捉え傷つけた。勢いは収まらず奥にいた利史の身体をも巻き込んで。 「やるじゃないか」 小さく息を吐く七海に余裕を崩さず利史が投げかければ、七海は微笑んで受け答える。 「折角の妹さんの晴れ舞台なのにそんな衣装でいいんですか? 瑠香さんが戻ってくる前に着替えたほうがいいんじゃないですか?」 びくっとする利史。矢を受け穴の開いた服では戦闘したことがすぐにバレてしまう。 言葉で不安を掻き立てながら、七海は再び矢をつがえる。 (家継さん。自分はフィクサードの女性を好きになっただけに、あなたを応援せずにはいられない) 「でもまあこっちはもう会えませんが」 生きて掴めるものは掴むといい。矢の輝きが祝福の鐘を鳴らして―― 飛びかかる礼門の腕を盾で強く弾き、ヘクスが吠える。 「あなた達の目標は叶うことはありません。叶えたければ……砕いて見せて下さい。ねじ伏せて見せて下さい。この絶対鉄壁を!」 一歩ずつ。一歩ずつ下がりながら、ヘクスは家継に向かう攻撃を弾き落としていった。 「房雄さんは香夏子と遊びませんか? 遊んでくれませんか……? 遊んでくれないなら仕方ないですね……」 房雄の側に駆け寄り言葉を遊ばせる香夏子は、眠そうな目のまま口元だけを歪ませて。 「変わりに瑠香さんと遊びますね……房雄さんが羨むくらい萌え萌えしますよ?」 「キャアァァァァヤァァァァウエェェェェイ!」 房雄が壊れた。 がむしゃらな振り回しを難なくかわし、集中し高めたエネルギーを振りまいていく。 呪力を形どりながら避ける。避けながら造る。 刻まれたステップの道は赤き月。呪力が完成した時、不吉の象徴は爆発のごとく輝いた。 「……へイヤー!」 放たれた力が影人を包み溶かしていった。 「……ふん、いくら影人を消そうといくらでも生み出せるわ」 礼門が新たな影を生み出すと、まだ余裕だと言わんばかりに息子達が笑って剣を振るう。 リベリスタ達は強力だ。そして同様に、夜渡家もまた強敵である。 「……あのさ、非モテがいくら雁首揃えたって、愛しの姉さんは戻ってこないぜ」 突然の言葉は快のもの。 一斉に向けられた(リベリスタ含む)眼差しに、快は得意げな顔で写真を取り出した。言わずと知れた女子大生フォーチュナの写真である。 「可愛いだろ? 大学の子。去年サプライズで花火に誘ってから仲良くなって、チョコも貰ったし、パーティーも一緒だったんだ」 嘘は言ってない。 「今じゃあ、ま、そういう事さ。俺に比べて、君等終わってるね!」 ドヤ顔の快。挑発であり、心折る言葉は彼らに届き…… 「リア充おめでとう」 「……ありがとう」 祝福された。 「そもそも、姉さん以外の女なんて、こけしだろうがあぁぁぁ!」 それが全てであった。 ●a wedding march.(だからダメなんだってダメ前提なのすごい) ユーディスが鉄壁の防御で影人を抑え、足を止めさせた所を香夏子が赤き月の力で飲み込む。 今のところは対応できていたが、それが延々と続くなら話は別だ。 無限に繰り返される増援に、さしものリベリスタ達に疲労が見える。 「早く終わらせてご馳走が食べたいです……」 見えたのは空腹だった。 「夜渡家の人達に告げます」 そんな中、突如マイクボイスが式場に響いた。 式場中の視線がマイクスタンドへと集まる。家継を伴いジリジリと下がったヘクスが目当ての場所に到着したのだ。 「ここでもし家継をぶっ殺せたとしましょう。瑠香さんは戻ってこないどころか、あなた達を皆殺しです」 利史の身体が揺れる。 「戻ったとしてもそれは殺す為に戻ってくるわけで……」 その事実に気づき夜渡家NO.1の頭脳を持つ男が卒倒しそうな表情になっていた。本気でアホである。 「笑顔? 見れるんじゃないですか、獲物を前にした獰猛な笑顔が」 ここまで言葉にした時、頭脳派(笑)の男利史が速やかに降伏の意思を示した。 「利史! 貴様ぁ!」 「命あっての物種ですよ! ええいこんな危険な場所にいられるか! 私は帰らせてもらう!」 それは死亡フラグ。 「ここにいる能力者に告げます」 ヘクスの演説はまだ終わってはいない。視線は式場の奥にいる招待客へと向けられる。 「見ていたあなた達も同罪になりますよ? レモン達が恐れる花嫁があなたに向かい蹂躙するわけです。自己責任でお願いしますね」 沈黙。『フルメタルデストロイヤー』だの『タイラントオーバーブレイク』だのの異名を持つ女がどれほど危険な存在か、招待客が知らぬはずもなかった。 脳内で天秤が揺れ動く。脳筋一家夜渡家を敵に回すか、瑠香に一生恨まれるか。 ――結論はすぐに出た。 式場中のリベリスタ達が、一斉に影人達へと飛びかかっていった―― 「おのれ、おのれぃ!」 自慢の影人達も人海戦術で抑えこまれてしまっては手が出ない。 それでもまだ戦う意志を示す礼門を、手の空いたツァインが相手する。 「礼門のおっちゃんもいい加減素直になれよ。新しい車買ったんだろ? 孫と出かける気満々じゃねぇかよ」 「だ、黙れぃ!」 ちょっと顔を赤らめる礼門。その問答に七海も一言。 「だが考えてほしい。もし初孫が女の子だとしたら?」 礼門が真顔になった。つられて七海とツァインも真顔。 「そうでしょうそうでしょう。まあ瑠香さんみたいに綺麗な方の子、あわよくば光源j」 「待て七さん、それ以上いけない!」 「ギガァァァァ!」 壊れた。 「おーい房雄、さっきのスピーチ聞こえたろ」 未だ打ち合っていた喜平と房雄の手が止まる。 「式ぶち壊す場合なんだかんだあって死ぬ。式を守る場合あれだこれだあって姉さんフラグが立つ」 どんな超理論だ。 「結婚生活は苦渋の連続、正に人生の墓場! そうして生活に疲れた時に最後に帰る場所は家族、その中でもフラグの立った御前の胸に飛び込んで来るのは道理!」 「お前……天才だな!」 眼から鱗の表情の房雄に、喜平は手を差し出した。 「今日は其の第一歩。さぁ親父連中を共に止めるのだ!」 固く握手する二人の笑顔はギラギラであったという。 「奥様から何故逃げられたか解っていないのでしょう――貴方がこんな馬鹿な事ばかりしているからだと、いい加減気付きなさい!」 ユーディスの渾身の一撃が礼門を打ち。 「今回の件で娘は二度と夜渡家に戻らず、兄弟はバラバラ。礼門さん、後は孤独死確定だ!」 快の言葉が刺し穿つ。 救いを求めるように彷徨った目線が猫のような水色の瞳に重なり、真独楽は愛らしい笑顔で答えた。 「まこのパパはすっごく優しくて、いつもまこが喜ぶコトを一番にしてくれて……お嫁さんにして欲しいくらい! ね、パパのお嫁さんになる、とか言ってもらったコトないでしょ? あっても絶対瑠香の黒歴史になってるよ! 結局自分のキモチ押し付けてるだけじゃん? だからダメなんだよっ!」 『だからダメなんだよ』 言葉が響いた時、快は無言で懐に手をやる。そこには前回にも使用した人工呼吸用のマウスピースが入っている。2度目だ。だから予感していた。これが必要になると。 そして快は歩き出す。スローモーションで倒れていく、礼門へと。 ●a wedding march.(終わり良ければ全て良しってようは爆発オチ) 「そういえば、どうして一切抵抗しなかったのです?」 七海が気になっていたことを問えば、家継は家族に手は出せないだろと答えた。 なるほどと頷き、七海はこれなら良い家庭が築けるでしょうと微笑んだ。 「続いて、ブーケトスになりまーす! 女の子達は前に来てねー」 何故か司会を代わった喜平の明るい声に、真独楽がはしゃいで駆け寄っていった。なお、喜平はすでに酒を飲みつくし顔真っ赤である。 「女のコだもん。お嫁さんになるのは憧れだよね! 香夏子は行かないの?」 「香夏子は腹満たされずして、心もまた満たされずです」 ブーケを掴むべき手は、スプーンとフォークで埋まった香夏子であった。 ユーディスとヘクスが花嫁に祝福を投げかける。 その後ろで、快とツァインがお互いに肘でつつき合ってたり。ブロッコリーはないので男性の方はご遠慮ください。 「このタイミングで言うのもなんだが、報告させてくれ」 照れくさそうな瑠香の声、何事かと目線を向ければ添えられているのは自身のお腹だ。 フォーチュナの言葉が思い出される。 急な結婚に対し「ソコはソレ、目立つ前にとか色々ありマーシてネー」 つまりはそういうことなのだ。 「赤ちゃんがいるの!? 瑠香おめでとー!」 幸せそうな夫妻の顔を見て、真独楽も嬉しい気持ちいっぱいの祝福を叫ぶ。 式場を歓声が包む中、快は再び歩く。 「さすがに三度目は、想定してなかったかな……」 その手には幾度もの任務をこなした――マウスピースが握られていた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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