●ある日、ブリーフィングルームにて 「私は今、人魚がいるという洞窟の前に来ています」 とある日、ブリーフィングルームに集まったリベリスタ達の前で玩具のマイクを握った『リンク・カレイド』真白イヴ(ID:nBNE000001)は、きょとんとしている彼らに構わずまくし立てる。 「中は真っ暗、しかしここで人魚がいるという情報をカレイド・システムで見た訳であります。 果たして本当に、この洞窟の奥に人魚はいるのか……。そこで探検隊の見たものは!?」 無表情に、しかしやや強い声音でそう言った後、唖然とした様子のリベリスタ達に気付いたのだろう。イヴはマイクを下ろし、こほんと小さく咳をした。 「と言う訳で、とある海辺の洞窟の中に人魚のアザーバイドが現れたの」 そして、いつもと同じように――何事も無かったかのように――依頼の詳細について説明し始めた。 「三高平から車で六時間くらいかな。ちょっと遠いけど、そこはまあ、我慢して。 海辺にある洞窟の中にアザーバイドの人魚が現れて、今は魚とか捕まえて食べてる。けど数日以内に、洞窟を探検に来た子供二人を捕食する様子がカレイド・システムで見えたの。 どっちにしろ、アザーバイドは崩壊を加速させる存在。早めに退治する必要があるから、今日のうちに現地に向かって」 そこまで一息に言ったイヴは、思い出したように付け加えた。 「あと、言うまでもなく洞窟の中は真っ暗だから、ヘッドライトと懐中電灯は用意させとくね。それから地底湖もあるみたいだから、携帯用のボートも持って行って」 ●Moon Mermaid 地底湖の湖畔に腰掛けた人魚は、捕まえた魚をむしゃむしゃと食らっていた。 頭から尻尾の先まで食べ終わると、ふうとため息を吐き出す。ボトム・チャンネルに下りて来たはいいものの、食事と言えば、この地底湖の中にいる魚ばかり。それもあと少し食らえば全滅させてしまうだろう。 「タベタイ」 そんな台詞を口にした。口にしてしまえば空腹を否が応でも実感させられて、人魚はもう一度ため息を吐く。 この地底湖を出るという方法もあるが、ここはなかなか水温などが快適なので、あまり離れようとは思えない。第一外がどんな風になっているのか人魚には分からない。 「タベタイ」 たまらず人魚はもう一度、その単語を口にした。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:水境 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 4人 |
■シナリオ終了日時 2011年05月20日(金)22:40 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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■サポート参加者 4人■ | |||||
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●探 「こちらアイシアです。現在、人魚が出ると噂の洞窟に来ておりますわ~」 洞窟の岩肌を踏みしめながら、『特異点』アイシア・レヴィナス(BNE002307)がおもちゃのマイクを片手にカメラ目線で――ただしエアカメラ――言うと、同じくスイッチを切ったマイクを片手に持った焦燥院 フツ(BNE001054)がエアカメラ目線で続けた。 「何と言っても幻のUMA、人魚! オカルト研究会のメンバーとして、これは見逃せないシチュエーション!」 「フツさん、私達は本当に人魚さんに会えるんでしょうか?」 「分からないが……とにかく今は進むだけだ!」 「そうですよね、楽しみです~。とりあえず一旦スタジオにお返ししますわ~」 と言った寸劇を交わしている仲間の傍らで、地下水の流れる岩肌を慎重にまたぎ進むのは『ソリッドガール』アンナ・クロストン(BNE001816)。 「水場で滑らない靴、それからロープ、浮き輪……うん、準備万端ね」 浮き輪にブーツ、鋭い鋲付きのブーツ、明かり。とにかく洞窟に入るための準備を怠らなかった彼女の背には、他のリベリスタ達よりもやや大きい一抱えほどのリュックサックが背負われていた。ヘッドライトに照らし出されたメモを見つつ歩いていると、すぐ眼前を歩く『無謀な洞窟探検者』今尾 依季瑠(BNE002391)がほぼ丸腰状態で歩いているのを発見し、ほんの少しだけ慌てて声をかける。 「ちょっと、どうして探検用の道具と装備を用意していないのよ?」 すると依季瑠は肩越しに振り向きつつ、わずかに胸を張って、 「金銭的な理由等々で用意できなかったんですよ。――でも大丈夫」 言うのだ。 「わが身一つあれば充分です。問題ない! 恐怖などありません。己を信じ仲間を信じていればどんな難所でも乗り越えられますから!」 「そんな精神論、大自然の前には通用しないわ。とにかく靴を貸すから履きなさい」 と、無理やりアンナにブーツを押し付けられる依季瑠であった。その時、不意に前方を歩いていた『存在しない月』ウーニャ・タランテラ(BNE000010)が声を上げた。 「見て、鍾乳石よ!」 「えっ、どこ?」 ウーニャの言葉に『フェアリーライト』レイチェル・ウィン・スノウフィールド(BNE002411)が反応し、彼女の隣へと急ぎ足で歩いて行く。 「ほら、あそこの所。秘境探検って感じで気分出るわよね~」 ウーニャの指差す先には、確かにヘッドライトの頼りない光を浴びて、鈍く輝く鍾乳石がいくつも天井から下がっていた。乳白色のそれから雫が滴り落ちるのを見て、『炎獄の魔女』エリザ・レヴィナス(BNE002305)はほうと息を吐く。 「美しいわね。悠久の時間の流れと共に、私たちの小ささも実感させられるわ……」 「確かに綺麗……、でも、上ばかり見て足元もちゃんと見て進みましょうね。変な虫とかいるかもしれないしっ」 エリザの言葉に頷くレイチェルだが、すぐに気を取り直してヘッドライトの光を足元へと移動させる。確かにここで気持ちの悪い虫など踏んでしまったら、色々と人魚どころではなくなってしまう。 ただし、彼女とは別の理由で足元を気にしている少女――?――もいた。 「ロマンを探しになんて謳い文句に釣られてしまったけど……ドレスを汚すのはイヤよ」 『運命狂』宵咲 氷璃(BNE002401)だ。スカートの裾を気にし、覚束ない足取りで岩肌を乗り越えていっているが、危なっかしいことこの上無い。 「氷璃、大丈夫? 転んで虫とか踏まないようにね」 レイチェルの気遣いに頷く氷璃。 「大丈夫よ。折角だし楽しませて貰うわ。移動も退屈だった事だしね」 「むむむ!」 氷璃がそんな風に応じると、ひょいひょいと身軽に岩肌を乗り越えていた依季瑠が唐突に立ち止まり、声を上げる。皆は何があったのかと意識を彼女へと向ければ、依季瑠はヘッドライトの光を周囲にくるくると走らせつつ声を洞窟内に反響させた。 「進行困難な場所! これぞ洞窟探検の醍醐味!」 進行困難な場所、と聞いて一行は慌てて彼女の脇に駆け寄った。が、その眼前にあったものを目にして深く息を吐き出す。 「亀裂ね」 「落ちると残機が減りそうね」 氷璃がぼそりと言うと、アンナが軽口を叩く。そこにあったのは、深さこそ判別できないものの、約五十センチほどの洞窟の割れ目、亀裂であった。フツがマイクを握り締めて声を張り上げる。 「こ、この亀裂の奥には……もしや、地底人の住処が……!?」 「フツちゃん、ちょっとそっち持って」 「あ、分かったぜ」 ウーニャにロープの端を持つよう促され、フツはあっさりとマイクを下ろす。またげば越えられる程度の亀裂とは言え、深さが分からない分、万一落下した時にはどうなるか分からない。リベリスタ達の目的は人魚の討伐であり、そこに赴くまでには慎重を期すべきだ。 ウーニャが中心となってロープを全員の胴に巻きつけ、一人ずつ亀裂をまたいで渡る。胴に巻きつけたロープの結び目を確かめつつ、アイシアが呟く。 「そう言えば、昔穴に落ちてエリザちゃんに助けて貰った事がありましたけど、今回落ちた時はちょっと難しそうですわね……、えいっ」 姉がそんな台詞を口にしつつ、無事にひょいと亀裂を超えるのを確認し、そのすぐ後ろにいたエリザは胸を撫で下ろす。と、自分も亀裂を渡ろうと足を前に踏み出した所でぽつりと口から言葉が零れ出す。 「……昔はこうして、一緒にあちこち行きましたね。教育を受けるようになってからは、お姉さまと遊ぶ時間は無くなってしまいましたけれど」 優秀なリベリスタを排出する家に生まれたエリザとアイシア。しかし、姉はリベリスタとしての力を持たずに産まれた―― 「……私は、お姉さまになりたかった」 「え? 何か言いましたか、エリザちゃん?」 「いえ、何でもありません。行きましょう」 亀裂を渡り終えた所で、エリザは姉の言葉に首を振る。そしてロープの結び目をゆっくりと解き始めた。 地下水の流れる細い川を越え、狭い通路は屈んで通り、リベリスタ達は順調に洞窟内を進んで行った。そして亀裂を乗り越えて数十分程経過したころ、成り行きで先頭を歩いていたレイチェルが唐突に立ち止まる。 「あら……、ここから先はボートではないと行けないみたいね」 彼女の立つ足場から少し下った場所には、高さ七メートル程度の洞窟の岩肌――その半分ほどの高さにまで満ちる地下水。ヘッドライトのランプを前方へと向けると、どうやらこの状態はしばらく続いているらしい。少なくとも、彼女のライトが照らせる範囲には地下水の満ちた洞窟は途切れていないようだった。 「飛べる程の高さもないし……」 「よし、ボートの出番だな」 レイチェルの言葉に首肯し、フツはここまで持ち運んできた携帯用のゴムボートを取り出し組み立て始める。程なくして組みあがった三つのボートに、リベリスタ達は手分けして乗船する。 二番目のボートに乗り込んだウーニャは、ボートから身を乗り出し地下水に手を触れ、肩をぴくりと震わせた。 「冷たっ……! この中に引きずり込まれるのはヤダな~」 その後ろでは、今まさに着水せんとするボートの前に陣取った依季瑠が周囲に満ちる地下水を見、胸を高鳴らせるままに叫んでいる。 「行く手を阻むのは水路! しかしこの程度の難所、私にはどうってこと……」 「行くわよ」 「あっ、待って下さい、アンナさん!」 拳を振り上げる依季瑠を促したアンナは、彼女がボートに乗り込むのを確認しつつ、周囲を見渡す。 「……まだ人魚の元には到着しないのかしら……私、基本インドア派なのに……」 しかし、彼女の心配はほとんど杞憂に終わったようだった。 ボートで水路の曲がり角をいくつか折れ、十分ほど進むと、やがてボートが岩肌に乗り上げる。再度ボートを畳み、狭くなった岩肌を一列になって進み、やがてぽっかりと開けた場所へと辿り着いた。 「……着いたのね」 氷璃がぽつりと呟く。 その空間は、高さ数十メートルはあるだろうか。見上げるほどのその天井の中、けれど岩肌に満ちているのは円形の湖だった。そして、リベリスタ達のいる反対側の湖畔には―― 金髪の女性の上半身と魚の尾を持つ、人魚の姿があった。 ●戦 「……誰?」 高いソプラノの誰何が響く。人魚の声だ。仲間達よりも一歩前に出た依季瑠は両腕を広げ、声も高らかに響かせる。 「ここは地底湖! 私達はついに到達したのです! そこで待ち受けるのは人魚! 幻の存在として名高い――」 「いたわね、腹ペコ人魚さん! ここは貴方のいるべき世界じゃないのよ、消えて貰うわ」 依季瑠の台詞を最後まで言わせる事無くウーニャが叫ぶ。すると、ヘッドライトに照らされたままの人魚は眉根を寄せた。 「……私を倒しに来たの?」 「ここに貴方の居場所は無いのよ」 人魚の言葉に氷璃が冷たく言い放つ。人魚の青い瞳と氷璃の水色の瞳がしばしの間かち合い、やがてため息のような吐息をつきつつ人魚が視線を外した。 「確かに、ここは私の世界じゃないわね。けど、だからって殺されるのは御免。抵抗させて貰うわ」 言いながら―― 人魚は縁に身体を乗り出し、地底湖に飛び込んだ。 「来たわよ、下がって!」 『春招鬼』東雲 未明(BNE000340)が前に飛び出し得物を構え、フツ達後衛を背後に下がらせる。地底湖の周囲には、前衛後衛が分かれられるような通路の幅は無い。けれど彼らが今しがたやって来た通路の中であれば、下がる事は可能だ。 「気をつけろよ、前衛の奴ら……!」 フツは呟き、手早く印を結んだ。そして懐中電灯を揺らめく湖面に向ければ、そこには滑るように水中を泳ぎ、こちらに接近してくる人魚の姿が見て取れる。 「早く出てきなさい!」 フツの守護結界が味方を包むと同時、ライアークラウンの準備をしつつウーニャが叫ぶ。と、ここで唐突に反対側の湖面――リベリスタ達の手前までやって来た人魚が岸に乗り上がった。 「来ましたね!」 勇ましく呼応する依季瑠。しかし彼女は人魚の方には出向かず、じりじりと後退するばかりだ。 「……どうしたの?」 「人には得手不得手があります。前に出るのはこわ……いえ、危険なので、回復役として頑張ろうかと」 やや腰が引け気味な依季瑠に、アンナは肩をすくめる。 「まあ、適材適所って言う奴よね」 そして体内の魔力を活性化しつつ人魚を見据えた。 「行きますよ……不浄は烈火にて祓います」 こちらも後退しつつエリザが魔炎を召還した。こちらを見定めていた人魚の目の前で炎が爆裂し、アザーバイドはうめき声を上げてその場にくず折れる。 「エリザちゃん、やりましたわね。次はわたしですわ~」 言ってデスサイズを手に、軽やかに前に出たのはアイシア。彼女はぴたりとその刃を人魚の首筋に定め―― 「う、うう……」 人魚の悲しげな呻き声に手を止めた。人魚はぷすぷすと焼け焦げる髪をそのままに、近付いてきたアイシアに話しかける。 「わ、わたしって可哀想だと思わない……? 突然この世界に放り出されて、こうやって現地の人間に攻撃されて……」 「まあ……それは確かに可哀想ですわね」 アイシアは人魚の傍に屈み込み、持って来たクッキーを差し出す。 「ほら、これでもお食べになって」 「あ、ありがとう……貴方って優しいのね……」 「いえ、それほどでも……ところでこれってどちらが悪役かしら~? 混乱してきましたわ……」 「騙されちゃ駄目よ!」 氷璃が吼え、マジックミサイルを放つ。それは狙い違わず人魚に命中。 「ここは魚類には勿体無い場所……早く去りなさい」 「おい、大丈夫か?」 立ち上がっても尚混乱していたアイシアは、『星守』神音・武雷(BNE002221)のブレイクフィアーによって正気を取り戻す。その隙にレイチェルが両手をかざし、マジックアローを放った。 「あなたに同情くらいはするけどねっ」 叫び、現れた魔力の矢は、しかし人魚にするりとかわされた。あー、と残念そうに声を上げるレイチェルを後目に、フツが傷癒符を手にアイシアに駆け寄り、その状態を確認していた。 「これでも食らいなさいっ!」 その隙に、準備をしていたライアークラウンを放ったのはウーニャだ。現れた道化のカードは、吸い込まれるようにして人魚の胸に命中。きゃあっ、と悲鳴を上げて仰け反る人魚に、ウーニャは思わず拳を握った。――が。 「……あなた……」 どこか悲しげな瞳でこちらを見上げてくる人魚に気付き、ウーニャは手を止める。 人魚は続ける。 「あなたの、その目……これまでに悲しい事を経験してきた目だわ。そうでしょう……?」 今しがたまで己が攻撃していた人魚にそんな瞳で見つめられ、ウーニャは一瞬言葉に詰まる。しかし、まるで吸い寄せられるように彼女の近くまで歩くと、その場に座り込み、わずかに啜り泣きを始めた。 「実はね、そうなのよ……。放浪から帰ってきた時は道場が潰れてて……」 「そうなの……。ヘコんだでしょう?」 「とっても。自業自得なんだけどね……。ああ、なんだか貴方が他人に見えなくなって――」 「ですから騙されてはいけません!」 後方から依季瑠が声をかけるが、ウーニャに届いた様子は無い。アンナが苛立ちを抑えてブレイクフィアーを放ち、彼女の身体をやわらかい光で包む事で、 「全くもう、離れて、ウーニャ!」 「――はっ、私は何を……」 ウーニャはようやく我を取り戻すことが出来たのだった。 「人魚、食ベル!」 ウーニャが離れて行った事を残念がる人魚。その隙に、『精霊に導かれし者』ホワン・リン(BNE001978)が人魚の尾に噛み付きエリザが再度フレアバーストを放つ。 人魚は悲鳴をあげ、何とかリベリスタ達を味方につけようとするが、何せ後衛が八人もいるのだ。人魚にそそのかされてもバックアップは万全、後はリベリスタ達にタコ殴りにされる他無い人魚であった。 「よし、皆怪我は無いな?」 フツが仲間達を見回し、軽く息を吐く。彼の目の前には、これから水葬にされようとする人魚の遺体があった。 「俺が守っていたし、君にも怪我は無いよね、氷璃さん」 「ええ、大丈夫よ」 『デイアフタートゥモロー』新田・快(BNE000439)が、庇っていた氷璃に声をかけると、彼女は当然とばかりに頷く。そして、そのまま氷璃は背中の翼を広げ、湖上へと飛んで行く。 「え、ちょっ、氷璃さん!?」 快が声をかけると、彼女はするすると滑るように戻って来、そのまま快の顔面に乗り上げるような形で止まった。彼の呻き声を聞きつつ、戦闘が終わった余韻に浸る氷璃。 その様子を見、くすくすと笑ったウーニャは、しかし肩を竦めて仲間達を促す。 「さあ、そろそろ帰りましょ。冒険は楽しかったけど、湿っぽいのはもうたくさん」 「そうね。暗くて狭いし、インドア派の私は疲れちゃったわ。早く帰りましょ」 アンナが言うのに、ウーニャは笑って頷いた。 「本当、早く日光に当たりたいわ」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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