●三高平の軽食店にて。 それは、口に入れた瞬間にもう、不味かった。 あんまりにもびっくりする程の不味さだったので、脳が一瞬、あ、むしろ新しくて美味しいかも、と錯覚してあげようかしら、みたいな思いやりを見せ、と思ったけどでもやっぱり無理です!! みたいに、じわじわ、不味さが来た。 で、じわじわの内は良かったけれど、次第にガツンと、どーんと来た。 う、と芝池は、顔を顰めかけ。 「ねえ、どう美味しいでしょ?」 と、微笑みかけてくる前方の人の顔に、 「そ、そうですね」 と、必死に表情を取り繕った。 でももう心はすっかりギブアップしていて、でもまだ食べ出したばかりで、眼前には、これを上手いと信じ切っているわりと強面の店員さんの顔とかがあって、ああどうしてカウンター席になど座ってしまったのか、ああどうしてお任せで、なんて頼んでしまったのか、とかいろいろ後悔しても、もー遅い。 泣きそうになりながら、必死に堪えて、スプーンを動かす。カレーのような、スープのような、謎の液体をとにかく、口に運ぶ。 必死の必死で、一体何に必死になっているのか、そうまでして自分は一体何を守ろうとしているのかすら分からなくなりかけた頃、隣にどか、と誰かが座った。 何かもう何でもいいけどとりあえず食べる作業から抜け出せる! と思って、顔をそちらに向けると。 「うんそれ不味いんだよね」 目があった途端に、アーク所属のフォーチュナ仲島が、もー言う。 とかいきなり言われてもどうしていいか分からず、何より、はい、って頷いてしまったら、思いっきり今、ハッとこっちをガン見した、坊主頭の強面の店主さんに何をされるか分からない、と予感し、あーこれどーしよーとか、ちょっとぼーっとした。 それから、「あ、どうもこんにちは」と、かなり当たり障りない所から言葉を発した。 「うん、それもう嫌なんでしょ、食べたくないんだよね、絶対」 と、仲島は全然負けない。 空気を読まないというか、人の嫌がる事をするのが好きというか、芝池に嫌がらせをすることに、覇気なーく快感を感じているらしい彼が、話を合わせてくれるはずが絶対ないと、今更気付いた芝池は、「いや、全然そんな事ないです、上手いです」と、思わず、心にもない事を、それはもう、これぞ心にないということだ! というくらい心にない事を、言った。 「ふうん」 と、美形の覇気のないーい無表情は、さほど、変わらない。 「じゃあ、待ってるから。遠慮なく、続きを、どうぞ」 そして同じ表情のままそんな事を言い、「あ、俺、えーっと、紅茶一つ。この、可哀想な青年が、明らかに不味そうに食べてる奴だけは、絶対出さないでね」と、言わなくていい事を付け加えつつ、自らの注文をする。 それから、思いっきり気分害しました、みたいに踵を返した店主に構わず、カウンターの端に積み上げてあった雑誌などを取り、ぱらぱら、とめくった。 「あの」 ひそひそ声で呼びかけながら、芝池は、仲島に顔を寄せる。 「うん」 「いえ、僕、そんなに不味そうに食べてましたか」 「誰が見ても、明らかにああ、この人不味いのに食ってんだろうな、確実あれ、不味さにやられちゃってるんだろうな、って分かるくらいには、不味そうだったよ」 「でも、店主の人は気付いてないんですよね」 「んー自分に都合の悪い事とかは、見なかった事に出来る人種とか、わりと居るしね」 「あー仲島さんもそういうとこ、ありますもんね」 「でも、そんなけ不味い顔出来るって、どんなに不味いのかってちょっと興味あるよね」 「あ、食べてみます?」 「んー。じゃあ間接キスだわウフフとか、心の中でむっつりと妄想して喜ぶけど、いいかな」 「仲島さん」 「うん何だろう芝池君」 「とりあえず抑揚なく真顔でさらっとそういう事言うのだけは、やめて貰っていいですかね」 「うん努力してみる」 って雑誌に目を落としながら言ってる時点で、絶対やる気ないですよね、と思った。 「だいたい、待ってるって何なんですか、何を待つんですか」 「うん君がそのクッソ不味いの食べ終えるのを、待つんだよ」 「いや、待たなくていいですし、待つ意味が分からないですし」 「仕事の話があるんだけど、君が何か途方に暮れながらもご飯を食べてる可哀想な姿を眺めるのもいいかな、と思っ」 「聞きます」 何時になく真剣な態度で姿勢を正す。 だいたい仕事と言っても、厳密には芝池がやるべき仕事ではないし、ただの嫌がらせの押しつけなのだけれど、仕事の話を聞いてる内にさりげなーくこの、クッソ不味い物体からフェイドアウト出来るなら、今日はその方が有難いのではないか、と判断した。 「あら何時になく真剣」 「はい、真剣です。どういう依頼の話ですか」 「うん、敵エリューション討伐とアーティファクトの破壊の依頼なんだけどね」 「なるほど。良くある普遍的な感じの奴ですね」 「敵は、赤色のE・エレメントが2匹と、橙色のE・エレメントが4匹で、赤色がフェーズ2、橙色がフェーズ1でね」 「ええ、ええ、なるほどなるほど」 と、真剣に聞いてるフリでカウンターに肘を突き、さりげなーく、容器を肘で押す。 「見た目は、ねばねばふよふよした、何か良く分からないアメーバみたいなやつなんだけど。とりあえず浮いて出現するのね。で、場所なんだけど、某所にある民家の、離れを改造して作られた、ちゃっちい科学館でね。四つくらい部屋があって。昆虫標本の部屋とか実験室とか、植物栽培室とか、人体模型やらホルマリン漬けが展示されてる部屋とかがある。家の持ち主は一か月程、海外へ出張中で不在だし、監視カメラとか監視セキュリティもないから、その辺りは大丈夫だよ。電気も通ってるし、自由に点灯して貰って構わない。戦闘後の後片付けは軽くやっておいてくれたら、後はアークの方で処理しておくしね」 「ええ、ええ、なるほどなるほど、それはいいですね」 って頷きながら、更に容器をささっと端へ追いやり、追いやった手ですぐさま唇とか撫でながら、いや追いやってなんかないよ絶対、むしろ僕は話聞いてたんだよ絶対、みたいに、真剣な顔で仲島をガン見し、うんうん、と、密かに全然聞いてなかったけど、頷いた。 「うん完全に全然聞いてないよね、芝池君」 とか、わりと頑張ってやったのだけれど、どうやら完全にばれていたようだった。 「え?」 「あと、それ、絶対食べないと駄目だよ」 「な、なんでですか」 「だって、あの店主、思いっきり、こっち見てる」 「え?」 って目線を移した瞬間、本当に思いっきりこっちを見てる店主と目が合い、「あ」と、小さく仰け反る。 「はい……すいません食べます」 「で。アーティファクトなんだけどね」 「はー」 どうせ食べないといけないなら話を聞く気とか全くなくて、途端にやる気のない声で返事を返した。 「小瓶入りの液体でね。どんな食べ物もたちどころに不味くなる液体っていうのを見つけて、破壊して欲しいわけ」 「え」 「だから、どんな食べ物もたちどころに不味くなる液体を見つけだして、破壊して処分して欲しいわけ」 「どんな食べ物も……たちどころに不味くなる液体?」 繰り返し呟いて、芝池はまた目の前に持って来た容器の中身を見下ろす。 「まさか。この中に入ってんじゃないですか」 「ここに? まさか。それはないでしょ」 「ですよね」 「でも、それくらい不味いなんて、ある意味凄いよね。頑張って食べた方がいいよ。きっと何かの記念になるから」 とか、他人事だと思っていい加減な事を言った端整な横顔を、途方に暮れたように、見つめた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:しもだ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年05月12日(土)23:02 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「何最近、続いてる気がするんだよなあ。探し物のしつつな依頼」 敵の姿を警戒しつつ歩く『仁狼』武蔵・吾郎(BNE002461)が、廊下を歩いている最中に、ふと、言った。 「今回も何だ、どんな食べ物もたちどころに不味くなる液体だっけか。それを探すんだよな」 そして仲間達の方を確認するように振り返る。 そしたら何か、ショートカットのころんころんした笑顔を浮かべた少女と目が合って、 「あ、日野宮ななせです、よろしくお願いします!」 ってすかさず挨拶され、え、あれこのタイミングで? ってちょっと、「お、おう」とか吾郎は若干引き気味で受け止め。 たのだけれど、もう全然自分の挨拶のくだりは忘れましたーみたいに、『シトラス・ヴァンピール』日野宮 ななせ(BNE001084)は、「喫茶店の店長見習いとしましては、悪夢のようなアーティファクトですね。こんなものは、ぜひとも滅殺しなければいけないですっ!」 って拳とか握りしめ、すっかり憤っている。 「それにしても……不味くなる液体とはまた怪しいですわね」 『Knight of Dawn』ブリジット・プレオベール(BNE003434)が、縦巻きロールの金髪を、ブワァサとか、わりと無駄にかきあげながら、言った。瞬間、古臭い室内にぷん、と香るのは、高級な薔薇のような瑞々しく甘い香り。 「普段から不味い物を食べることのない、割と貴族的な、ええそう、貴族的なわたくしには少々荷が重い仕事ですが。逃げたとあらば、名門騎士一家プレオベール家の名が泣きますわ。……仕方ありません、やりましょう」 そして貴族的プライド全面押しで、また縦巻きロールの金髪を、無駄にかきあげた。 とかいってる隣では、逆に完全に尻ごみ感満開の、『羊系男子』綿谷 光介(BNE003658)が「やだなぁ、やだなぁ」とかぶつぶつ呟いていて、 「だいたい、ダメージを受けるほど不味い食べ物なんて、意味が分からないんですよね」 とか、わりといいとこ育ちな上に、まだまだ人生経験も浅い彼は、本当に不味いがどういう事なのか、うまく想像出来ずにいる。 のは良いのだけれど、上手く想像できないくせに、まだまだ想像しようとして、 「そもそもこの世に存在しないですよね。ダメージを受ける程不味い食べ物なんて。どんなけ不味いんですか。いくらアーティファクトの効果っていっても、そんな不味さは存在しませんって」 って、文句みたいに言って、言ってから、自分の言った言葉にハッとしたように顔を上げ、 「あれ? 存在しない、んですよね? じゃあ、存在しないんですよね!」 って、もーどんどん意味不明なループにハマりかけている若干危ない光介を、丁度近くに居た雪白 桐(BNE000185)は、ガラスにバンバンぶつかる蠅を見てる人、みたいに、無の表情で眺めていた。 そして徐に。「あ」と、小さく呟く。 「そうだった、忘れていました。お邪魔します」 え? このタイミングで? って、全然どうしていいか分からなくなってる光介の目の前で、桐は科学館の壁に向け、一礼。 「住人は誰もいませんが、礼儀として言わないと駄目ですよね」 従容とそんな事を言われたら、「あはい」以外に言える言葉が思い付かない。 そんな彼らの後ろでは、『ライトニング・フェミニーヌ』大御堂 彩花(BNE000609)が、 「よく『料理は愛情』と言いますよね? これは相手の好みを考慮したり、反応を察したり、そういった思いやりの気持ちが形となる事だと思うのです。料理は愛情と謳いつつもまずい食事しか出せない人は、基本的に、自分がこうした方が良いに決まっているという独善でしか料理を作っていない人だと思いますよ。まあ、中には意図的にまずくする人もいますけどね……罰ゲームとか悪戯とか。そういう方々にとってはこれは、垂涎物のアイテムでしょうね」 と、日系企業・大御堂重機械工業株式会社の社長令嬢然とした口調で、厳しい意見を述べて、 「……世に出て痛い目に遭わされる前に破壊してしまいましょう」と、自分の会社の利益を損失させる敵会社を潰そうとするかのような、物々しい表情で、呟く。 そして、ね? と、自らの会社で産業保健師の仕事をして貰っている『節制なる癒し手』シエル・ハルモニア・若月(BNE000650)を振り返り、話を振ってみたのだけれど、物凄い熱心に彩花が喋ってたくだりを、実はわりとシエルは聞いてなくて、何をしていたかと言えば、ほわーんとした癒しの雰囲気を放出しながら、辺りの様子を眺めたりしていた。 なので、ね? って彩花が振り返った時も、やっぱり辺りを眺めていたりして、「あ、はい。科学館だなんて……何だか童心に返りますね」って全然答えになってないけど、でも、何か、シエルだから許す、って社長令嬢は意外と姐御なのだった。 「あ、ですよね。科学館っていうより、学校の理科室みたいだなあってわたしも思ってたんですよー」 ななせが、にこにこ、とシエルの言葉に相槌を打つ。 「でも、エリューションがいらっしゃるとの由……しっかり解決しないとですね」 「あー確か、カラフルでゼリーっぽいエリューションだっけー」 そこでセレア・アレイン(BNE003170)が、わりと面倒臭そうに、敵の情報を口にした。 「何か……同じ色のを4つくっつけたら消えちゃったり……はしないわよね、流石に」 って別に軽い冗談のつもりで口にしたのだけれど、 「え、同じ色をくっつける? 消える? どういうことですか?」 思いのほか、シエルが真面目に食いついてきて、え、食い付いてきちゃうの、と、ちょっと何か、焦った。 「いやうん、ごめん、何でもないから、忘れて」 「とにもかくにも、今回は一般人の方がいないようですし、余裕を持って戦えますわね」 ブリジットが軽快に言い、場の意識を敵討伐へ向けた、まさにその瞬間。 「どうやらここ、居ますね」 集音装置を発動する桐が、一つの部屋の前で足を止める。 「こっちにも、居るようだわ」 超直観を発動する彩花が、向かい合った部屋を指さした。 同じように、超直観を持つななせや、集音装置を持つ光介も、その二つの部屋に反応している。 「では、名状しがたい冒涜的なゼリーのようなモノをやっつけちゃいましょー」 セレアの言葉を合図に、皆が、一斉に戦闘態勢に、入った。 ドアが、ゆっくりと、開かれる。 ● その途端、赤いねばねばふよふよした物体、略して赤ネバが、飛び出て来た。 それに向かい、リミットオフで肉体の制限を外した桐が、 「貴方は私の後ろを離れないようにして下さいね?」 とか何か、光介に向かい言っておいて、さっさともー突進して行く。 分厚い魔導書「迷える羊の冒険」を抱え、一生懸命着いて行こうとする光介の後ろから、今度は追い立てるみたいな凄い勢いで、失礼しまーす! と、巨大な鋼のハンマー「Feldwebel des Stahles」を振り回しながら、ななせが続いた。 とかもう凄い勢いの二人に挟まれ、光介はテンぱる。てんぱるけども、迷える羊の冒険を開けば、今日も群れからはぐれた羊が、羊飼いのもとに戻ろうと四苦八苦するお噺に勇気づけられ。 てる場合でも、なかった。 戦闘はどんどん進んでいる。 ななせが赤ネバに向かい、オーララッシュを放った。巨大な鋼のハンマーを細腕でぶおんぶおん振り回しながら、ガッツガッツ敵を殴って行く。 とかわりと凄い光景だったけれど、桐の方も、マンボウをそのまま薄くしたような巨大な剣「まんぼう君」を、扇みたいな勢いで振り抜き、わー! みたいに寄って来た橙色の物体を、ぶったたき、ぶったたき、ギガクラッシュ! ガッシャーン、バリバリー! みたいな、激しい電撃攻撃に、なすすべもなく橙色の物体は消え去り、消え去ったはいいけど、逆にバッチーンって自分もダメージ受けて、でも全然「無」の表情の桐、とか、格好良いを通り越して、若干恐ろしい。 「あ、あの回復を」 って、一応、攻撃が自分の所に来ないように注意してくれていた桐に、感謝の気持ちを込めて申し出ると。 「ダメージ? 自己回復で相殺ですけどね」 「い、いえ、せめて回復させて下さい」 っていうかむしろ怖いので、回復させて下さい。と、別の意味で祈りながら、そっと彼の手を取り、「言ノ式、迷える羊の博愛」と、天使の息を発動する。 その間にも、オーララッシュのラッシュのあーとーの 「メガクラーッシュ!」 を発動したななせが、全身のエネルギーを集中させた、Feldwebel des Stahlesで、赤ネバを上からドーン! って殴り付け。 球状と化したエネルギーの留まる巨大なハンマーで殴り付けられた敵は、ベチャッて嫌な広がりを見せ、やがて、消滅した。 一方、向かいの部屋から出現した敵の対応には、彩花とシエルが向かっていた。 赤ネバのふよふよした掴みどころのない動きにも、即座に対応する彩花は、後衛に流れそうな瞬間を狙い、 「業炎撃!」 と思ったけど、やめて、「魔氷撃!」を繰りだす。 「変な液体入り小瓶はともかく、建物や植物を全焼させてしまったらいけませんものね」 White Fangの、まさしく「白い牙」と謳われる突起部分から飛び出た鋭い冷気に、赤ネバは、カチン、と凍りつき、動きを止める。 「何だか……幻想的な眺めでもありますね」 ってやっぱり何処か、のんびりほわわん、な癒し系のシエルは、こんな状況でもやっぱり、のんびりほわわんな癒し系シエルで、そんなシエルは私が守る! って何か凄い決意を新たにした彩花の後で。 「甘いですわ! わたくしに止められぬものなし!」 とか何か、プレオベール家が誇る、能動防御の剣「プレオベールディフェンダー」を振り回したブリジットが叫び声を上げている。 どうやら、橙色の物体が、背後から不意打ちを狙い接近していたらしい。 一生懸命大ぶりの剣を振り回し、ついでに縦巻きロールの金髪をバッサバッサ振り乱し、敵と応戦する彼女は、次の瞬間、びゅっと体の何処かから、得体の知れない体の一部っぽい何かを飛ばしてきた敵の攻撃を「プレオベールディフェンダー(盾)」で受け止めようとしたけど、巨大な盾が間に合わず、ちょっと出遅れてしまって、攻撃を受けてしまい。 「く、……名門騎士一家プレオベール家のわたくしがこんな所で倒れるわけには」 ってそこまでじゃないだろうけど、わりとド派手に膝をつき。 とかいう彼女のメロドラマチックな動きの数々で、ハッと我に返った彩花は、カチンと凍っている赤ネバ及び、橙色の物体が射程に入っているのを確認し、壱式迅雷を発動する。 White Fangに内臓された液体金属を、標的を切り裂く金属刃への変形させると、疾風にも負けぬ圧倒的な速力で、雷撃を纏った武舞を次々と敵にお見舞いしていく。黒い艶やかな髪をなびかせながら、その姿はまるで踊るように鮮やかに。 そうして敵が消滅して行く中、 「これも彩花様が守って下さる由……感謝しつつ癒させて頂きます」 シエルが、蹲ってもー立てないわたくしーみたいになっているブリジットにそっと、歩み寄った。そして、優しく彼女の手を取ると。 「少しでも皆様のお役に立てますように……」 天使の息を発動する。 その頃、廊下では。 何となーく外へとふらふら出て来てしまった橙色の物体2匹の対応を、吾郎とセレアが行っていた。 「悪いが探し物があるし手早く済ませるぜ」 ぶよぶよとした体の一部を放出してきた敵に対し、振り上げたバスタードソードでそれを叩き落としながら、積極的に前へと押し出て行く吾郎は、次の瞬間、多重残幻剣を発動し、敵を撹乱する。幾重にも重なる、むっちり筋肉の吾郎の幻影。っていうか、吾郎。吾郎。吾郎。 わー暑苦しー! って、例え思ったとしても言ってはいけない予感がするので、セレアは彼の攻撃の隙を見て、お約束の吸血を。 ちゅっとやって、むしろ敵の攻撃が怖いというよりは、凄まじい連続攻撃を繰りだしている吾郎の剣が怖いので、すかさず、アウェイ。 「んー、オレンジゼリー味?」 「なにー!」 って、軽い冗談を口にしただけだったのに、ガッて幻影皆が振り返って叫んで、えーわーどーしよー! 「こわ、怖いから。冗談だから。ほんの、冗談だから、すいません!」 ん、ならよし。 みたいに、吾郎が無言で、バスタードソードを振り抜く。橙色の物体は、ムチッと潰れた。 ● そして、今。リベリスタの前には、皆がそれぞれ見つけだして来た、謎の液体達が並んでいた。 かと思いきや、最後のはどう見ても明らかに液体ではなくて、順番に液体をチェックしていた光介は、えってなった。 え、植物? 「ええ、これは植物栽培室で見つけて来たのよ、面白いでしょう」 すかさず嬉々とした表情の彩花が説明した。 でもその植物は、ビジュアル的に完全に悪い奴で、どう見ても悪い奴で、どうしてそんな物を彼女は持って来てしまったのか、と不思議でならない。 って何か若干違う物も混じっているけれど。 「さてと。味見の会といくか」 「ですね」 吾郎の言葉に、AFから何やらごそごそと荷物を取り出している桐が頷く。 「それは、何だ?」 「ああ、お弁当です。一応必要かと思って作って来たんです。お口直しやふりかけるのにどうぞ」 「俺はペットボトルに水をつめて持って来たぜ。食品にかけて試すなんて勿体ねえ。これは是非置いとこうぜ、口直しによ」 「では、口直しに、ということで」 と桐が端に寄せた瞬間には、シエルがもー手を伸ばして、そっと口へと運び、お上品に着物の袖で口元を隠しながら、もぐもぐ。 「まあ」 と感嘆の声を上げた彼女に、皆の視線が向いた。 「……美味しゅうございます」 ばれてしまいましたね、みたいにぽッと、頬を赤らめた彼女が、呟いた。 「というわけで、気を取り直して」 桐がすかさず言って、小瓶の内の一つを手に取った。まんぼう君の刃に自らの腕をさっと滑らせ傷を作ると、そこに滴る血に、ぺっぺ、と2滴程振りかけ。 「どうぞ?」 セレアに向け、差し出す。 「え、あたし?」 「はい、貴女です」 「え、あた」 とかやってる間にも、ブリジットが意を決したように、前へと歩み出て、コップにとくとく、と何かを注いだ。緑色の液体は、見るからに不味そうだ。 「な、なんですか、それ」 思わず、光介が問うと。 「アオジールという飲み物ですわ。日本で不味いと有名な飲料のようですから、多少不味くなる液体を混ぜた所で、味が大きく変わることはないでしょう。これでトラウマ回避ですわ! アオジールは普段飲まないですし!」 とすっかり、青汁を外国語にして発音してくれた。 そして手に取った液体をコップに一滴。 けれど。 「まずい……!」と、飲んだ瞬間、弾かれたようにコップを投げ捨て、だーんと崩れ落ちてしまった。 「調べる度にこんなものを飲むなんて、失敗しましたわ……! 許されるなら、今すぐ逃げ出したい、わたくし、わたくし、こんな不味いものは初めてですわ!」 とか、ドラマチックな悲壮感を漂わせたブリジットの横から、吾郎が、ふーんどれどれ、みたいにコップを取る。 「ゲェーまっず! むせる」 飲んだ瞬間、コップを若干遠ざけた。「でもこれはだだの青汁だ」 「というわけなので、これをどうぞ」 そこで桐がすかさず、セレアの口に自分の腕をぐい、と押しつけた。 とかもう、一瞬ドSなのか、ドMなのか分からない感じだったけれど、実は、こっそり今の騒動の内に、彼が、大量に液体を振りかけていたのを知っている光介としては、ドSとしか……。 と思ってる矢先、ドーン、と突然、セレアが思いっきり真後ろに、倒れた。 そしてそのまま、ダダをこねる子供みたいに、バッタバタ床を叩きだし、のたうち周り始めた。得体の知れない悲鳴が彼女の喉から迸る。 「あらまー、当たりでしたか」 って思いっきり無表情に、凄いほのぼのとした口調で言ってる桐の姿は、まさしく。 「おにー! 鬼、鬼、鬼ー!」 「大丈夫ですか? お茶、飲みます? 多分この中にはまだ、入ってないと思うんですけど」 「おにー!」 ってやってる隣では、水筒に入れた紅茶を持参していたらしいななせが、新たな挑戦をしようとしていた。 「残るアーティファクトは恐らく一つ。ななせ、いきます!」 ってガッツンガッツン小瓶を振って、勢い良くカップに3滴。 そしてガッと口に含んだ。 瞬間、「だばー」と、飲み込めなかった分を口から溢れさせ、乙女にあるまじき表情で泣き出した。 「あぎゅ……ま、じゅ……」 「だ、大丈夫ですか?」 って、絶対大丈夫じゃないだろうけどシエルがかけよってよしよし、と彼女の背を撫でて。 「しっかし、迷惑なアーティファクトだぜ」 吾郎が気の毒そうにななせやセレアを見ながら、呟く。 「とりあえずそんなもんはさっさと処分して、口直しに美味い飯でも食うしかねえよ」 「でもまずは、空気の良い場所へ皆さんを運んだ方が良さそうですけどね……」 ただでさえ不味い物を食べた仲間達の姿に衝撃を受けている光介は、何せここは人体模型のある部屋だし、偶然とはいえソーセージのぷるんとした質感は、人体模型の臓物を連想させてしまうかも知れないし。とか、すっかり想像を逞しくし、泣きだしそうになる。 「だな、よし」 吾郎はそんな華奢な背中をポン、と叩くと。 哀れな被害者達を運び出す事にした。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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