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肉食人魚姫襲来

●夏を待ちきれなくて
 今年は春が遅かった。
 いつまでも凍える様な寒さが空と大地を覆い、春の花もなかなか咲かなかったのはまだ記憶に新しい。
「梅っていつ咲いたんだっけ?」
 木村洋子はつまらなさそうに風景に目を向けながら言った。新緑のオープンカフェは大盛況でほぼ満席、食事もデザートもコーヒーも飲み終わった客達はすぐに席を立っていくが洋子達は随分と長尻だ。
「ねーそれより海行こうよ。せっかく鎌倉来たんだから由比ヶ浜と稲村ヶ崎ぃ~」
 洋子の向かいに座る山田緑がこれを言うのは3度目だ。
「海なんて何にもないじゃん」
 洋子の答えも2度目までと変わらない。鎌倉在住の洋子からすれば面白みのある場所ではない。ただの浜辺とただの海だ。けれど緑は首を振って携帯電話の画面を洋子に向ける。
「龍神様が奇跡を起こして潮が引いたんだって。ググッたら出てきたよ。これ、見たい見た見たい見たい見たい!」
「もう、はいはい。わかったってば。でも、行っても奇跡なんて起きないからね」
 根負けしたのか洋子は溜息混じりに席を立った。


「何にもないね」
 海風が2人の髪を乱していく。アスファルトを15分、砂浜を10分歩いてやっと着いてみたけれど、広がる光景は時折テレビに映る普通の海岸だ。
「だから言ったじゃん」
 洋子は途中で拾った小石を何気なく海へとサイドスローで投げたけれど、小石は跳ねることなく海中へと吸い込まれる。
――ちゃぷん――
 けれど、小石が消えた海面付近にタイミングをずらして水しぶきがあがる。太陽の光を反射して輝くのは白い小さな波と……鱗?
「緑!」
「……え?」
 砂に下手な相合い傘を描く緑はうつむいたままだ。洋子は手早く靴を脱ぎ捨てると泳ぐにはまだ冷たい海へと駆けだした。
「洋子?」
「人魚だよ、緑! 人魚! 電話、写メ、じゃなくて動画撮って!」
 顔を上げた緑が見たものは……振り返って笑う洋子とその背後に不自然に盛り上がる水柱と、その向こうで揺れる人のようなシルエットだった。

●幻のトリガーアイテム
「誰か黄金の太刀を持っていたら難易度は易しいになる」
 ブリーフィングルームに佇む『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は平坦な口調で言った。勿論、名乗りを上げる者がいるなど期待していない顔だ。
「稲村ヶ崎の海岸近くの海中に人魚がいる。本当は凶暴なアザーバイド。でも擬態しているから想像通りの人魚」
 長い金髪と美しい歌声を持つ人魚は上半身は裸の女。そして下半身はびっしりと鱗が並び優美なヒレへと続く。
「外見が綺麗だから惑わされるかもしれないけど、好物は新鮮な生の肉を生きたまま食べる事。女よりも男、子供よりも大人が狙われるのは歯ごたえ? 交渉に応じるだけの知能はないけど危険すぎるから対処して」
 季節が巡り夏が来てからでは遅い。今でさえ、夏を待ちきれないのか海岸にやってきて捕らえられ、想像もしていなかった壮絶で恐ろしい最期を迎えた犠牲者が発生している。
「今のところ周囲は立ち入り禁止にしているけど、だからこそ近寄ってみたくなる人もいる。急がないとまた犠牲者が出る。自業自得かもしれないけど」
 冷たく言い放つイヴ。事実『万華鏡』越しに視る未来は若者の血で染まっている。大学に進学したばかりの木村洋子と山田緑だ。
「あ、アザーバイドの擬態はすぐには解除できないから、黄金の太刀でいきなり潮が引いたら有利になるかもしれない」
 だから誰か持っていないかとイヴは尋ね、それからすぐに無ければ良いと首を振る。有利に戦う方法は他にもあると言うのだろう。
「でも探している時間はないから、普通に戦って。でも、相手は食いしん坊だから食べられないようにね」
 と、有り難くない激励を送り出してくれたのだった。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:深紅蒼  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年05月29日(火)23:18
 こんにちは、深紅蒼です。
今回は新緑の鎌倉にお出掛けです。場所は新田義貞の伝承が残る稲村ヶ崎です。被害が拡大する前に人魚っぽいアザーバイドを排除して下さい。

アザーバイド『人魚』:3体。人魚姫のイメージ通りの外見だが、血もしたたるレアがお好みの肉食女子です。草食系ではなくても成年男子は狙われやすいのでご用心を。擬態を解いて陸上で動きやすい形状に変化するのに1ターン必要です。
テイルスプラッシュ:前方範囲攻撃。ダメージとともにとても不快になる。
魅惑の歌声:ぼーっとしてしまって戦う気力が沸かなくなる。


稲村ヶ崎周囲:立ち入り禁止となっているが警備員などはなし。

木村洋子と山田緑:大学一年生。退屈気味。2人が海岸に立ち寄るには平日の午後1時半頃で初夏を思わせる気持ちの良い快晴。干潮ではない。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
覇界闘士
テテロ ミーノ(BNE000011)
覇界闘士
大御堂 彩花(BNE000609)
マグメイガス
シルフィア・イアリティッケ・カレード(BNE001082)
ソードミラージュ
神城・涼(BNE001343)
インヤンマスター
東雲・まこと(BNE001895)
ホーリーメイガス
★MVP
綿谷 光介(BNE003658)
スターサジタリー
ドーラ・F・ハルトマン(BNE003704)
レイザータクト
リオン・リーベン(BNE003779)

●イケメン禁漁区域?
「龍神様が奇跡を起こして潮が引いたんだって。もう、聞いてる?」
 夏を予感させる既に強い紫外線混じりだろう陽光に目をキラキラさせながら山田緑が言った。灰色を通り越して真っ暗だった去年までとは違って、世界は何もかも輝いて見える。
「聞いてるってば。でもね、滅多にないから奇跡なんじゃないの?」
 緑ほど単純ではないのだとばかりに木村洋子は気取って言う。学力ではさして差のない2人だが、どちらかといえば緑は子供っぽい性格で、一緒にいると洋子は自分が大人になったのだなぁという心地がする。だが、傍目から見れば2人は同じように朗らかで同じようにまだまだ考えの浅いところがある少女達であった。その証拠に立ち入り禁止の注意書きを無視し、ひとけのない海岸を進みドンドンと波打ち際へ近づいていく。
「どちらに行くつもりかしら?」
 背後で張りのある声が響いた。振り返ると、立っていたのは同じ年格好のスタイルの良い女性だった。どこか驕慢さを感じさせる強気の雰囲気があるが、それはそれで彼女の魅力となっている。隣には可愛らしい男の子が立っているが、2人とも観光や行楽ではなさそうだ。
「わたくしたちはこの先の調査にやって来ましたの。ですから部外者は立入禁止区域とさせていただいたんですけれど、目に入りませんでしたかしら?」
 立ち入り禁止の表示へとちらりと視線を流しながら女性は言う。用いている言葉は丁寧かもしれないが、棘のある言い方で語調も強く威圧的だ。洋子も緑もすくんでしまったかのように何も言い返す言葉が浮かばない。それでも洋子も緑も引き返そうとせず、苦い表情で互いの顔を見合わせている。
「ですから……」
「あの、鎌倉は海以外にもいいところ、いっぱいありますよ」
 更に強く何か言いかけた女性の言葉を遮り、まだ子供こどもしている可愛らしい男の子が言った。なんとなく、のんびりとほんわかとするような優しく暖かい雰囲気の子供の言葉には反応せざるを得ないところがある。
「そうだね。海ばっかりが鎌倉じゃないね」
 最初に言ったのは洋子だった。すると緑も肩をすくめる。
「しょうがない。龍神様の奇跡はまた今度にするか。じゃ、八幡宮に戻る?」
「頼朝公のお墓参りして鎌倉宮に行った後ならいいよ」
「いってらっしゃい、お姉さん達。気を付けてね」
 男の子がバイバイと手を振ると、仕方なく緑と洋子も手を振り立ち入り禁止外へと引き返していく。
「あーよかった。助かりましたわ」
「行ってくれて助かりましたね。じゃあ行きましょう」
 豊かな胸元へと乱れかかる長い黒髪を背へ送った『ライトニング・フェミニーヌ』大御堂 彩花(BNE000609)と女子大生達には見えない曲線を描く角を持つ『羊系男子』綿谷 光介(BNE003658)は波打ち際の方へと移動する。その方向に数人の男女がいる。彩花や光介の様子から排除するつもりはなさそうだが、その中の1人が2人へと大きく手を振った。
「2人ともお疲れさま。もう手は打っておいたから、これ以上面倒な一般人は近寄ってこないと思うわ。すぐに始めてしまいましょう」
 強く激しく力なき者達を排除するフィールドを展開した『虚実の車輪』シルフィア・イアリティッケ・カレード(BNE001082)が屈託無く言う。この中でなら、シルフィアが背の羽根を広げていても、光介が唯の人達とは違う身体的特徴を晒していても問題はない。もし偶発的な目撃者がいたとしても記憶には残らない。

「こっちこっちなのっ!」
 立派な狐の耳を持つ少女が大きく手を振る。ピンク色の長いツインテールも新緑の瞳もこの人の来ない場所ならば隠す必要もない。『おかしけいさぽーとじょし!』テテロ ミ-ノ(BNE000011)は気負うでもなく自然体で立っていた。
「やれやれ、流行ってるのかしらんが、よく人魚に出くわすな。それもこれも夏が近いからか? それぞれに因果関係などはなさそうだが……」
 シルフィアが強固な結界を張り巡らせたのを確認すると、スレッシャー・ガール』東雲・まこと(BNE001895)は身体のすぐ近くに力で武器を浮遊させると、刀儀陣を展開させる。真冬でも薄着で過ごす事の多いまことにとっては、道行く人に奇異に見られる事が少なくなる季節だ。こうして間近で海を見ていると心の奥底に淡い郷愁めいたものを感じる様な気がしなくもない。だが、それは今回の事件や任務に関わる事ではないのだから、まことにとってはどうでもいい事だ。
「人魚かー。人魚姫とかあるし、こう、あれだよな。美人さんって相場が決まってるよな。
こう、伝説になるくらいだしな。で、更に肉食系女子か! アレだな。草食系?男子の俺とか美味しく食べられかねんな」
 妄想に語彙がついていかないのか『冥滅騎』神城・涼(BNE001343)の台詞はやや重複が多い。指示語を多用するのは常日頃からの涼の癖ではあるのだが、それにしても……おそらくは誰の目にも触れない想像上のステージでちょいエロなお約束的展開が繰り広げられているのだろう。
 だが、まだその場にいるリベリスタ達は7人だ。
「俺が最後か? 思ったよりも時間を使ってしまったか」
 その時、ようかく8人目の男が姿を現した。当然ながら強固な結界も彼を阻むものではない。短い黒髪とミリタリー風の服装、どこもかしこも無駄のないスッキリとした様子のリオン・リーベン(BNE003779)は、心の余裕やゆとりまでそぎ落としたかのような印象の若い男だ。
「小動神社だけで事足りると思っていたが、浄泉寺にも行ってみた。だが、結論から言えば無駄足だった」
 リオンは素っ気なく言う。かつて新田義貞が奉納したという黄金の雌太刀の行方だが、今となってはわからなくなっていたのだ。
「どうせ最初から期待していなかったものだもん、仕方がないわ。それよりこっちに来て頂戴。餌が無くっちゃ敵を誘き寄せられないわ」
「その通り」
「そ、そんな……でも、陸で戦った方が有利みたいですから、リオンさん、お願いします」
 シルフィアとまこと、そして光介が口々に言う間もリオンは歩調を変えず機械の様な精密さで砂浜を歩いて来る。

 だが、リオンを囮に使うまでもなく、事態は急速に変化していた。平穏だった雰囲気が一変し、波の音が急に激しく響き渡る。
「誰かが被害にあうのは見たくありませんが、敵の姿ならもう見えていますね」
 遠目の効く『Fuchsschwanz』ドーラ・F・ハルトマン(BNE003704)が海を指さす。荒く岩に打ちつけられて白い飛沫を散らす波。そのくすんだ薄緑色のうねりの向こうに影がある。
 猫が威嚇をするようなシャーという音と共に人魚達が襲ってきた。淡い色の長い髪、象牙色の肌が輝く裸の胸、そして腰から下は鱗の並ぶ群青の魚の身体。まろやかな肩から伸びる腕はすんなりとこちらに向けられている。だが、華奢な指先には鋭い爪が伸び、珊瑚色の唇を開けばそこに鮫の様な尖った2列の牙が並ぶ。
 彼女たち3体は最も水際に立っていた涼へと襲いかかってきた。一瞬、美しい人魚達の顔や身体に見とれていたのか、危険からの高い回避能力を持つ涼が腕や脇腹、肩を激しく噛みつかれていく。ザックリと歯が突き立てられあわてて全力で振りほどいた。
「って……アレ? 肉食系女子って、こう、アレ? 物理的に齧られて頂いちゃう系?!」
 想像とは真逆な現実に思わず涼が後に飛び退く。あと少し遅ければ首を噛まれた瀕死の傷を負っていたかもしれない大怪我に足下がよろける。
「ちょっと! 流石に! こう! 物理的な意味で! 食べられちゃうのは! 勘弁していただきたい」
 紅の刃を持つ武器を杖代わりに旋回し、なんとか砂浜に沈むのだけは踏みとどまるが、それでも全身を伝う血が灰色の砂を赤く染める。
「呼びもしないうちからしゃしゃり出てくるなんて食事の作法もわきまえてはいない野蛮な存在みたいね。見かけはそこそこ見られても、やっぱり生まれや育ちが卑しいのかしら?」
 侮蔑のこもる視線を投げつつも彩花は流れるような防御の所作を形づくる。
「はやりのにくしょくけいじょしでも、ほんとにたべちゃうのはだめー! なのっ!!」
 仲間全員に加護の力が働くようにとミーノは微妙に立ち位置を変え、両手の拳をギュッと握り気合いを入れている……らしい。
「大人しく海に沈んでいればいいものをこんなところまで出しゃばってくるなんて……纏めて倒れるがいい!」
 シルフィアから放たれる一筋の稲妻は荒れ狂いながら広がってパッと見の外見だけは美しい人魚達を焼いていく。扇情的なミニスカの裾がはためいて、足の付け根あたりのきわどい辺りまで染みひとつない白い肌が晒される。
「ふーっ!」
「ぎゃああ!」
「がああぁ!」
 人魚達は獣めいたうなり声を揃って唱和する。それにどの様な意味があるのかはわからないが、怒りや憎しみ怨嗟の想いがこもっているのだけはハッキリとわかる。人魚達は今攻撃を仕掛けてきたシルフィアを恨めしそうに睨め付けた後、尖った舌で桜色の唇を舐めてやや後退していた涼へと近寄っていく。移動しつつ人魚達の下半身は少しずつ中央に亀裂が入り、歩行し易い形へと変わっていく。
 敵の力は変化に集中しているらしく、攻撃を仕掛けてこない。好機だとリベリスタ達は思った。
「なんだ? 撃ってくれと言わんばかりに、隙だらけだな」
 まことの狙いは一番手前、最も薄いプラチナブロンドの髪を無造作に胸元に降ろして露わな乳房を揺すって接近してくる人魚だった。その白い胸めがけて鴉の式神を飛ばし攻撃させる。
「がうっ!」
 人魚はうるさげに飛来した鴉を追い払う。人間ならば急所だろう場所が無防備にさらされている。
「更に隙が! 皆さん、いまのうちに!」
 光介は低く高く音程をつけて詠唱し、展開した魔方陣から魔法の矢を人魚目がけて射出する。矢は見事に命中し、傷ついた人魚は見た目とは裏腹に獰猛なうなり声をあげ牙を剥く。
「この地に残る伝説には興味が尽きませんが、今は目の前の敵との戦闘に集中してまず終わらせましょう」
 楽しい事はそれからゆっくりやればいい。敵発見時に感覚を研ぎ澄ませていたドーラは後方にさがった位置から重火器を構える。人が単独で使用するには巨砲すぎる武器ではあるが、ドーラはあっさりと構え連続射撃を敢行する。
「……ふっ。攻撃を集中させ1体ずつ落としていくなどという定石通りの攻撃法など、今更俺が言うべきことでもなかったか」
 リオンは自身の防御動作を皆と共有させ、その効果を増大させつつ呟く。何も言わなくても戦いはその様に進行し、攻撃はプラチナブロンドの髪の人魚へと集中している。
 しかしそれは敵側にしても同じ事。人魚達は彼女たちの基準で最も攻撃したいと思える対象へ……おそらくは『美味しい』獲物である涼しか眼中にない。それは無傷か手傷を負っているかは関係ないらしく、色は同じながらも下肢を2足歩行型に変形させ迫ってくる。
「こう、ちょっと、アレだな。真面目にやるしかないな!」
 囲まれて逃げ場を失い食われるなんて状況に陥らない為の手段……涼にとってのソレはスピードだった。敵のどれよりも速く決して止まらずによどみなく動き続け、紅の刃を振るい攻撃し続ける。人魚の白い皮膚が切り刻まれ、血の様な体液が撒き散らかされる。それでも人魚は倒れない。
「しぶといわね、さすが人魚。食べれば不老不死でしたっけ? その仕返しだとしても返り討ちよ!」
 彩花の動きは疾風よりもなお速い。雷神のごとく舞い『白い牙』の銘を持つガントレットを駆使し次々と3体の人魚達に稲妻の神威を発揮していく。悲鳴もあげずに先頭の人魚が倒れ、後続の2体も稲妻に撃たれたかのように痙攣し動けなくなる。
 それがミーノには観念し戦意を喪失したかのように見えても不思議はない。
「はい、これ。とくせいちょうぜつおいしいかぼちゃのたると。にんげんよりもこっちのほうがおいしいよ?」
 倒れた人魚はもう食べられないかもしれないと回避して、残る2体へと両手に1つずつタルトを乗せて口元へとずずぃ~と差し出した。

「どけ、ミーノ! その腐れアマどもが耳障りな雑音を出す前に元から消し去ってやる!」
 高笑いと共に再度シルフィアの得物から放たれた稲妻が拡散しながら残る2体へと襲いかかる。駆け巡る雷光同様、人魚達の身体を怒りが駆け抜け呪縛から解き放たれる。殺気を帯びた恐るべき眼光がタルトを差し出していたミーノを射抜く。
「にんぎょさんたちっこっちにもぴっちぴちのだんしがいるの~」
 あわててタルトを口に入れ、ミーノの両手が涼とリオンをそれぞれ指さす。そのジェスチャーや言葉を理解したのかどうか……示された通りに2体の人魚は涼とリオンへと飛びかかる。鋭い爪が両腕を掴み、ガチガチとセラミックが打ち鳴らされるような音と共に牙を鳴らし食いついてくる。深く楔の様な歯が食い込み、離れてた口には食いちぎった鮮血まみれの肉片がくわえられている。よほど腹をすかせているのか、丸飲みする勢いでたいらげて……リベリスタの血に濡れた裸身だけみれば、そのままの意味で肉食女子だとは認めたくないほどに愛らしい。
「だがこれ以上の飯は永遠におあずけだ!」
 まことはより蓄積されたダメージの激しい涼を襲った人魚へと呪印を使って拘束する。今は激しくもがく人魚を完璧に封じているけれど、それほど長い時間効果が続かないかもしれない。力を使う瞬間、傷ついた涼とリオンを見比べた光介は涼を選ぶ。まこと同様に涼の方がより傷が深いと判断したのだ。
「涼さんへ届いてください」
 清らかなる存在へと祈る言葉が癒しの風を呼び、その優しい微風が歯跡から脈動するように全身へと響く痛みを劇的に軽減していく。
「助かったぜ、光介」
「……よかったです」
 礼を言う涼よりも光介は嬉しそうに呟く。誰かの役に立っているという実感が生き続けるには必要だった。
「その敵に狙いを定めます!」
 コツがあるのかドーラはそれほど大変そうではなく軽々と武器を扱い、まことが動きを封じた敵へと銃口を向け、躊躇なく攻撃する。
「さて、どこまで耐えられるか……だが、先ずは皆の戦闘能力を底上げしておこうか」
 その間に出来るだけ敵との距離をとったリオンが今度は攻撃動作を皆と同調させ高めていく。

 戦闘開始時は拮抗しているように見えた彼我の戦力であったが、すぐに1体減らされた人魚達の総力はリベリスタ達よりも明らかに見劣りがする。じりじりと力を削がれても、喰らう気満々の人魚達は逃げる様子もない。フラフラと餌へとにじり寄る人魚の姿はあまりにも無防備だ。その好機をミーノは逃さない。神業といえるほどの速さで繰り出された蹴りが真空の刃を放つ。体液をまき散らしてくるっと廻って砂に倒れる人魚はそれきり動かない。
「あとひとり。みんなっふぁいとっふぁいとぅっ」
 敵を倒したばかりのミーノが皆を励ます。
「フフフッ……ハハハハッ、ハァーッハッハッハッハッハッハ!」
 シルフィアは高笑いとともに魔方陣から魔力のこもった弾丸を放つ。すると最後に残った人魚は息を大きく吸い込んで、呪歌を紡ごうとする。だが、この動きは完全にまことの読み通りだった。狙い澄まして放ったまばゆい光が人魚の動きを強烈に阻害する。
「悪いが聞くに耐えん歌を聞ける心の余裕はない、悲鳴だけでお腹いっぱいだ」
「ここで……決めます」
 敵は瀕死で仲間から治癒の力は求められてはない。選択を間違えずに光介が魔法陣を編む。そこから放つ力ある弾丸が人魚の眉間を射抜いてゆく。ゆっくりと仰向けに倒れ、傷口から流れた体液が灰色の砂を染めていった。

 そして……海は普段通りの静けさを取り戻した。黄金の太刀の眠るかもしれないこの海で、異郷からの来訪者もまたひっそりと眠る事になった。何時の日にかこの戦いもまた伝承のひとつとなるのかもしれない。リベリスタ達は海に、或いは寺社へと心惹かれながら帰途へとついたのだった。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
 お待たせいたしました。鎌倉の海に襲来した危険な人魚達は無事に撃退されました。この依頼を引き受けてくださった皆様に感謝です。

 特に綿谷 光介さんは攻守に渡り無駄のない的確な行動をなさったと思います。ありがとうございました。