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<裏野部>強襲キーラ・メレツコフ ~人魚の泪攻防戦~

●call me! call! call!
 ――ある電話の録音記録である。
 もしもーし、っと。アタシだよ、分かるか? サリーちゃんだよ、大切断鎖。
 プリティーでエキサイティングでアウトラバイオレンスの大切断鎖だよ。
 わっかんねえかな。ああ? 誰だお前?
 なんだよ、電話番号暗記したと思ったのに。これだから電話ってやつは嫌いなんだよ。もう二度としねえ……。
 まあいいや、どうせアークのなんたらってシステムが引っかけんだろ。お前には関係ない電波バナシかもしれねーが、もうちょい通話状態にしておけよ。
 ……さてと。
 この情報を掴んだ奴が知らなかったいけねえから、アタシの知ってる限りの現状を話しておいてやる。
 ある海域でアーティファクト『人魚の泪』を狙って海賊団SHARKJACKとかいうチマい連中が海賊行為に及んでたんだな。そいつは派手にやり過ぎてアークに見つかり、船ごとぶっ潰された。
 そこからどう辿ったのかは知らんけど、身内の陸鮫歯軋が港町に身をひそめてた『人魚』の居所を突き止めた。
 この人魚ってのが曲者で、所有権を持った人間を殺して死肉を食らうっつー手段で所有権を移行できる『人魚の泪』……その現在の所有者がソイツなんだな。まあ、人魚っつーだけに所有権を持ってれば不老になれるんだが、代償として下半身が魚みたいになるんだよ。自分が人魚になっちまうんだな。
 その女はまあ、人魚ながらにその辺の男とくっついて平和に暮らしてたんだが……まあ、不老ってのはいろんなモンを呼ぶからな、陸鮫に嗅ぎつけられて襲撃されたんだ。アークがそれを阻止して、人魚に『元に戻す方法を必ず探す』とか一方的に約束して連れ帰ったと。
 ……とまあ、ここまでがアークの連中が知ってる情報な。ちゃんとついてこれてるか? いや、お前は黙ってろ。録音されてりゃそれでいいんだよ。
 とにかく、とにかくだ……。
 その人魚をキーラが狙ってる。
 アンタらも顔くらいは知ってるだろ。
 『ちびっこヘビーアームズ団』の高射砲姉妹、その残骸だ。

●Mermaid Girl
 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)が次々と資料を並べて行く。
 これまでの状況を報告書ごとにまとめたものだが、あくまで参考資料ということになっていた。この資料を読まなくても、今回の説明だけで事足りる筈だという考えである。
「以前リベリスタの皆さんが保護した『人魚』は、事情を知る人間によって適切な施設に保護されています。しかし現在、その施設を狙ってフィクサードの襲撃が予知されました」
 顔写真付きの資料がボードに張り付けられる。
 キーラ・メレツコフ。
 グリーンのワンピースを着た十歳前後の少女。
 白髪のボブカット。
 体格に見合わぬ大型の高射砲を装備しており、愛用している武器は52-K・85ミリ高射砲。ワンピースと同じグリーン。
 彼女は突撃銃使いのフィクサード10名を雇って襲撃を企んでいます。
 駆けつけられるタイミングは、施設直前の所になるでしょう。敗北すれば確実に人魚は連れ去られます。
 皆さんにはこのポイントに向かい、彼女達を迎撃して頂きます。

 和泉は口早に説明を終えた。しかしリベリスタの中には、『まだ聞き足りないことがある』という顔の者がちらほら混じっていた。
 小さく息を吐く和泉。
「ある電話の録音記録という形で、アークに情報提供がなされました。人魚は十数年前に『殺されかけ』ており、その時の弊害として未だに年を取ることができない者達が居ます。それが現在の『ちびっこヘビーアームズ団』です。所有権の移行方法を誤ってメンバー全員で血を啜ってしまったのが原因だと思われますが、詳細は分かりません。ですが、これだけははっきりしています」
 瞬きをひとつ。
「キーラ・メレツコフは、何らかの理由で人魚を殺すつもりです」

●姉妹の残骸
 見た目十歳前後の少女がジープを走らせている。
 その後ろには三台のジープが列を作り独特のエンジン音を響かせていた。
 少女の車には彼女以外誰も乗っていない。ビニールシートで覆われた高射砲の所為で乗るスペースが無いのだ。
「姉さん……もうすぐよ。もうすぐ私達は一緒になれる。一緒になれるのよ、ずっとずっと、ずっとずっと、誰にも邪魔されずに私達だけの世界へ行けるのよ。ああ、素敵……素敵、素敵……」
 片手を助手席へ伸ばす。
 そこには、既に腐りかけた少女の生首が転がっていた。
 白髪のロングヘア。姉、クラーラの死体である。
 キーラは恍惚に微笑んだ。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:八重紅友禅  
■難易度:HARD ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年05月16日(水)23:51
八重紅友禅でございます
先に述べておきます。
このシナリオの成功条件は『キーラ・メレツコフの撃破』です。生死不問。状況不問。
任務をただ成功させるだけなら簡単ですが、各々の思惑を絡めていくとかなり色々な所が難しくなります。
一応今回は、戦場の地形を説明しておきます。

街からやや離れたサイコロ状の建造物。その周辺が戦場になります。
入り口になりそうな場所は表の大扉と裏の大型シャッターの二つ。
駆けつけるまでに自己強化や準備などで手間取っているとジープごと突っ込まれます。どのみちジープごと突っ込んでくるつもりのようですが、割り込めるか否かで随分違うはずです。
建物内に侵入されてもすぐには危険になりません。広いフロア内を抜けていく必要があるので、そこで追いついて食い止めればなんとかなります。
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
覇界闘士
御厨・夏栖斗(BNE000004)
デュランダル
結城 ”Dragon” 竜一(BNE000210)
ホーリーメイガス
七布施・三千(BNE000346)
デュランダル
楠神 風斗(BNE001434)
覇界闘士
宮部乃宮 火車(BNE001845)
ソードミラージュ
安西 郷(BNE002360)
プロアデプト
アーリィ・フラン・ベルジュ(BNE003082)
インヤンマスター
華娑原 甚之助(BNE003734)

●君の死で泣く者がいれば、君が生きることで泣く者がいる。
 景色が前から後ろへと流れていく。
 とはいえ風景は木と土ばかりで、かろうじてつくられた山沿いの道路は所々に事故を起こしそうな急カーブが並んでいた。
 『合縁奇縁』結城 竜一(BNE000210)は四輪駆動車独特のどかどかとした振動に破顔しつつ、ハンドルをリズミカルにぶっ叩いた。
「俺は特攻野郎ARKチーム! 奇人変人だから何!? 素敵な人魚さんだって守って見せるぜ、だけど病んだ子だけは勘弁な!」
「おぉい……もうちっと安全運転してくれてもいいんだぜ?」
 助手席でげっそりとする『華娑原組』華娑原 甚之助(BNE003734)。
 カーブだらけの山沿いである。スピードを出そうと思えば出せるが、見慣れない自分たちがやったら変な急カーブでガードレールを突き破って天然ジェットコースターを味わいかねない。基本、他人に物を任せたがらない甚之助にとってこういう道でかっ飛ばす奴の助手席というのは肝が冷えるのだ。
「そう言うな、少しでも早く到着したいんだよ。あ、後ろの座席にあるやつ持っといてくれ、準備したら飛ばす感じで」
「はいはいっと……」
 夏休みが五割カットされた会社員のような顔をして、甚之助は座席の後ろに手を伸ばす。
 そこには発射式発煙筒と呼ばれる簡易照明弾が積まれていた。
 甚之助は休暇の無くなった会社員の顔になった。

 竜一たちの四駆に一足遅れる形で一台のダンプカーが走っている。
 凄まじく走りにくい。並のトラック運転手なら泣いて逃げる道だったが、『愛の宅急便』安西 郷(BNE002360)は口笛混じりに走破していく。
 意外と横幅の広い助手席には『ゲーマー人生』アーリィ・フラン・ベルジュ(BNE003082)と七布施・三千(BNE000346)が座っていた。
 携帯の通話を切るアーリィ。
「駄目だ、何度かけても『ツーツー』しか言わないよ」
「電話線を切られているとか?」
「まさか、俺たちより先手を打ってるわけじゃねえんだから」
「だとしたら電子妖精で介入してますね。今頃電子機器は片っ端から潰されてますよ」
「念入りに退路を断ってるわけだ……」
 都市部のセキュリティが絶対視される現代だが、ことフィクサード対策となれば人里ほど危ない場所はない。原始的に山と川と細路で防御するのが一番なのだ。
 特に例の施設(別にアーク直営というわけではないらしい)は、こうした山道に囲まれている。
 旧軍事研究施設の廃墟を利用したものと言われているが、攻め難さと同時に『逃げ難さ』も兼ね備えていると言うわけだ。
「きな臭いな……」
 ハンドルを握りしめ、郷はある人物を想った。

 ダンプの荷台にて。
「おい白黒」
「なんだエロ高校生」
 『イケメン覇界闘士』御厨・夏栖斗(BNE000004)と『折れぬ剣《デュランダル》』楠神 風斗(BNE001434)が向き合い、互いの足を蹴り合っていた。
「あの人魚、お前が守った人魚なんだろ」
「そう、言えるのかもな……」
「何しょげてんだよ楠神」
 身を乗り出し、胸に拳を押し当てる。
「もう一度守り抜け。僕も手伝う」
「……『オレ達』でな」
 目を反らす風斗。
 その様子を横目に見ていた『三高平の狂拳』宮部乃宮 火車(BNE001845)が、寝そべったまま笑い出す。
「オーケィ、お前らってそうだよな」
 両足を振り上げ、勢いを付けて起き上がる。
「ケツは持ってやらあ。やりたいようにやれや」
 目的地は近い。
 各々からの連絡をAFに受けて、彼等はぎゅっと携帯を握りしめた。

●キーラ・メレツコフの襲来と激突
 施設到着から『バリケード』建設までの流れは迅速だった。
 元『ちびっこヘビーアムズ団』キーラ・メレツコフとその傭兵部隊が到着する時刻は不明である。しかし遠くからぶつけられてくる言いようのない殺気じみたものを感じ、彼らはゆっくりしている暇などないと直感したのだった。
 だからこそ悠長に施設内に入るなどということはせず、正面扉前に数台のトラックを配置。ついでにダンプも横付けして徹底したバリケードを組んだのだった。
 遠くからエンジン音が近づいてくる。
 同時に裏口シャッター前から通話が入ってきた。
『敵襲です、裏口に1台!』
「そっちか! 今俺が――」
 毒気づく火車。彼は余らせたトラックに飛び込んだ。
 その直後、扉前に並べて置いたトラックが爆発。滅茶苦茶に拉げて吹き飛んだ。
「なっ……!?」
「アーリースナイプ! 主力はこっちだ!」
 正面大扉側より30m。三台のジープが全速力で突っ込んでくるのが見えた。
 目を凝らせば運転席から高射砲を構えるキーラの姿が見えた筈だ。
 アクセルを目いっぱいに踏み込む竜一。凄まじいGを感じながらも甚之助は紙袋をひっつかんだ。
 猛スピードで相手ジープへ突っ込む竜一たちの4WD。
「俺がお前に救いをやる、お前の姉へ魂を手向けてやる! 甚之助ェ!」
「なあ、ホントにこんなん効くのか? フィクサード相手に」
「効くわけねえだろ気分と演出と陽動だ!」
 甚之助が照明弾に着火。四輪駆動車のスピードに押しやられるように相手ジープ群に突っ込むと、マグネシウムによる瞬間的な発光を見せる。
 途端、前方タイヤに被弾。僅かに運転が狂う。すれ違うキーラのジープ。
「ぐううおっ、ナメんな!」
 ハンドルを強引に回し、運転席から飛び出す竜一。車が後続のジープに激突した。
 しかし相手も大したもので、ジープを潔く破棄してライフル(AK-47だった)の安全装置を解除。竜一たち目がけてスターライトシュートを乱射してくる。
 竜一は跳んで来る弾丸を刀で弾き飛ばし、返す刀で斬りかかる。
「俺の二刀綱、掻い潜れると思うなよ!」
「ちっ、構うな突っ切れ!」
 銃に装剣して受け止める傭兵。その後ろにいたジープが通り抜けようとハンドルを切る。
「どこ行くんだタァコ」
 甚之助は首をコキコキと鳴らしながら、袖の間から護符を滑り出させた。
 途端、打ち出された鴉の小群が運転席の頭をぶち抜く。
 ブレーキ音もさせずにジープは横転。タイヤを空回りさせながら傭兵たちを転がり落とした。
 顔を上げる。
 甚之助は指の間に何枚もの護符を握ると、世にも気だるい顔で言い放った。
「ま、ゆっくりしてけや」

 竜一たちを突破したキーラ。
 眼前にはトラックのバリケードがあったが、彼女は停止するどころか更にアクセルを踏み込んだ。
 限界速度へと伸び上るジープ。
 夏栖斗は必死に虚空を発射。キーラは紙一重で回避し、髪の毛を大きく斬り散らかした。
「突っ込む気か!」
「突っ込む気よ!」
 ハンドルをその辺のスパナで固定すると、キーラは運転席から身を乗り出した。
「邪魔なのよどいつもこいつも、毎回毎回毎回毎回毎回毎回毎回毎回――目に入ったヤツ皆死ねえええええええ!!」
 52-K・85ミリ高射砲を両腕で担ぐと、トラック群にハニーコムガトリングを叩き込んだ。最近頑丈になってきたと言われる合金製の車体が紙細工のように次々破砕、爆発。かろうじて爆発しなかったトラックに直接ジープを突っ込ませる。
 大爆発。
 ジープに爆発物でも積んでいたのかという炎上ぶりに郷と夏栖斗は目を向いた。助手席に置いてあるという姉の生首は今頃灰になっていることだろう。
 アーリィが咄嗟に天使の歌で回復にかかるが、その間にキーラは正面扉を高射砲の射撃で破壊。真っ直ぐ突っ込んで行く。
 ダンプの運転席から転げ落ちつつ、猛スピードでキーラを追いかける郷。
 風斗もそれを追って走り出す。
「お前は人魚の所へ行け、ここは持たせる!」
「……分かった!」
 頷く風斗。
 郷はサムズアップして大きく跳躍。キーラの後頭部目がけて回し蹴りを繰り出した。
「ソニックキィィィィィィィックァ!!」

 一方裏口。
 三千は必死でマジックアローをジープへと発射するが、相手の運転技術が高いのか自分の命中精度が低いのか全く当たらない。
「こ、ここ一人でどうすれば……」
「待ッッッたせたなあ!」
 建物を回り込んで突っ込んでくる一台のトラック。
 運転技術などあったものではないが、とにかく執念と根性で相手ジープにぶつかりに行った。
 直後、フロントガラスを突き破って飛出してくる火車。ノーベルトである。
「ドッガァァあ!」
 傭兵たちに文字通り単騎特攻した火車は、ジープの後部座席にパンチ一発。危険を察して傭兵たちが転がり出た次の瞬間、ジープは爆発炎上した。
「か、火車さん!? 免許は」
「左の踏んだら走ったぜ!」
「…………」
 頭から盛大に血を流している。フロントガラスが刺さったのか、服が滅茶苦茶に避けていた。
 三千は慄きつつ、まずは回復だと自分に言い聞かせる。
「とにかく、ここを護りましょう!」

●戦争が蔓延れば戦死者が増え、平和が蔓延れば自殺者が増える。死は減らない。
 風斗は建物の二階へ駆けあがる。
 途中でちらちらと視線を巡らせてはいるが、スタッフらしき人間が全くいない。もしかしたら事前連絡が行っていたのかもしれないが……だとしたら『危険になる』と知っていつつ逃げなかった人魚はどうなる。
 もしかしたら救われることを望まないかもしれない。
 生きることを望まないかもしれない。
「だとしても、だ!」
 蹴破る勢いでドアを開ける。さほど広くない部屋だ。部屋の隅にはオレンジ色の培養水槽があり、体の八割を液体に浸した人魚の姿があった。
 目を閉じていた彼女がこちらを見て、やや眉を上げ、そして再び目を瞑った。
「どうして来たんです」
「施設が襲撃されてる。死にたくないなら俺の傍を離れるな」
 風斗は水槽を叩き壊すと、人魚の手を引っ張った。
 まるで自由意志が無いかのように、引かれるがまま簡易飛行する人魚。
 風斗は黙って階段を駆け下りていく。部屋に篭るよりは、自分たちの身を盾にしていた方が確実だからだ。
「この施設は」
「職員なら逃がしました。『あなたは要らないからどこかへ行って』と」
「自分の騒動に巻き込まないためか」
 口をつぐむ人魚。
「信頼しろとは言わない。これはオレの我儘だ。絶対に死なせない」
「知ってますか、人魚を食べれば不老不死になれるんですよ?」
「それでもあんたは死ぬんだろ」
 人魚は今度こそ沈黙した。
 階段を駆け下りる音と銃声だけが聞こえてくる。

 一回フロア。
「かわいこちゃん、人魚を殺してどうするつもり? お姉ちゃんを元に戻すの? 死んだ者は戻らないよ」
 夏栖斗の棍がキーラの頭上を掠める。棍を中段で折って柄を付けたもので、正確には『拐』という。
 それを左右二本、旋風のように振り回している。
「五月蠅いのよ」
 キーラは大きく飛び退き、受付らしき台に飛び乗ると高射砲を乱射した。
 ジグザグにステップして回避する夏栖斗。
「君が元に戻りたいなら、アークがどうにかできるかもしれないよ」
「ご親切にどうも。心配してくれちゃって、お兄ちゃんやさしぃーい」
 足元に唾を吐き捨てるキーラ。こめかみに指を押し当て、ごりごりと歯切りした。
「心配しなくても姉さんは此処にいるわ――どうせ、どっちでもいいんだよ俺らなんざ」
 声色が途中で変わった。左目だけがぎょろりと別方向を向く。『ダブルキャスト』持ちか。
「そうかいそうかい、お嬢ちゃんお名前は? つって――ソニックネリチャギャアアアッ!!」
 夏栖斗を飛び越えて郷が突撃。空中踵落としを繰り出した。
「クラーラ・メレツコフだよお兄ちゃん野郎!」
 高射砲を鈍器のようにぶん回して郷に叩きつける。郷は思わず吹き飛び反対側の壁に激突した。
「俺に見覚えは?」
「あるわよ、だから死ね!」
 左目がぎょろぎょろと動き、郷に狙いを定める。
「そして私達は、『死なない存在』になるのよ」
 高射砲が乱射される。
 夏栖斗は身を低くして弾丸の雨に飛び込んだ。

 同刻。火車が傭兵の顔面を鷲掴みにしてジープの残骸へ叩きつけた。
 炎が燃え上がり、スイカを無理やり踏み潰したような音が鳴る。衛生兵のマークがついていた兵士だ。だがもう動かない。
 火車の側頭部にの小銃が突きつけられ、フルオートでぶっ放される。飛び散る血肉。
 殴られたサンドバックのように跳ねる火車。
「火車さん!」
「――死ぬかァ!」
 スニーカーで地を踏みしめる。
 慌てて回復にあたる三千。
「可愛い後輩がよぉ、やるつって聞かねえのよ……」
 相手の銃身を掴み取る。酷い熱があったが無視。引っ張り込んで相手の顔面をぶん殴った。
「雑魚風情が、行く道塞いでんじゃねええええええええええああああああ!」
 トラックとジープの残骸が、二度目の爆発を起こした。

 更に同刻。四方八方から飛んでくる銃弾を前に甚之助は護符をまき散らした。
 何処からともなく顕現する子鬼が銃弾の盾になって血煙に消える。
 かろうじて残った子鬼の頭を踏み潰し、甚之助は兵士の首にナイフを走らせた。ひゅるりと奇妙な笛音が鳴る。ついでに右目に子鬼の骨を突っ込むと、そのまま兵士を蹴り飛ばす。
 後ろにいた兵士がタタラを踏むが、逃さず突っ込んでまとめて足蹴にしてやった。
 拉げたジープから飛び出した棒状のフレームが背中から突き刺さる。兵士は蛙のように呻いて絶命した。
「ほれ、どうした。七人がかりで情けねえな。泣けてくるぜ」
「小僧……!」
 しっかりと狙いを付けて銃を連射してくる。手元の子鬼を盛大に粉砕し、何発かが甚之助の身体を貫通した。
「痛え、嬢ちゃん回復」
「う、うん!」
 アーリィが脚を震えさせながらも天使の歌を発動。甚之助の回復にあたる。
 その一方では竜一が敵に突撃し、コンバットナイフを装着したAKを跳ね除けていた。
 相手の胸に剣を突き刺して180度反転。銃撃の盾にしてから振り落として全力で斬りかかる。
 兵士の上下を二分割した所で背中に強烈な弾を食らった。
 普通なら人体が千切れて飛んでいるような衝撃である。振り向くと、兵士が残骸ジープから引っ張り出したドラグノフ狙撃銃を構えていた。
「今を必死に生きてるやつは誰だってな……死にたくなんてねえんだよ!」
 剣をぶん投げる。兵士の腕を貫通。竜一は雄叫びと共に突撃し、兵士の首をかっ飛ばした。

 ――そして。

 何発もの銃声があがった。
 何リットルもの血液が飛び散った。
 最後に残ったのは恐ろしいまでの破壊と、ごうごうと燃える施設である。
 炎に巻かれはじめ、フロア内にいた風斗たちは人魚を連れて裏口シャッターへと走った。
 郷が振り返る。
 頭から血を流し、壁によりかかるキーラの姿がある。
 左目だけがぎょろりと動いてへらへらと笑い始めた。
「姉さん姉さん炎よ、ほら、こんなに近い――いやだ死にたく無い死にたくない死にたくない――素敵だわ、熱くて痛くて、何でも消して――嫌だ嫌だ嫌だ嫌――姉さん、姉さ――死にたく――おやすみなさい姉さ――嫌――だ」
 室内の何かに引火したのか、激しい爆音と共に天井が落下してくる。
 一回フロアが炎と瓦礫の中に沈んだ。
 ガレージを無理やりぶち破って逃げ出した風斗と夏栖斗は、人魚を抱えて土の上を転がった。
 そこには、折り重なる兵士の死体を前に煙草を加える火車がいた。何かのタイヤを椅子にして、だるそうにしている。
「よう……」
「そちらは、無事に済んだみたいですね」
 顔をちょとだけ汚して笑う三千。
 建物を回り込むようにして、アーリィ達が歩いてくる。
「うわあ、車も建物も滅茶苦茶……帰りどうしよう……」
「徒歩だろ徒歩。人間なんだから元気に歩こうぜ」
「嫌ー! タクシー呼ぼうよタクシーィ!」
 アーリィと竜一が口論している。
 そんな二人を無視して甚之助が人魚の目の前までやってきた。
 優しそうな顔を作って、穏やかな声で語りかける。
「高射砲のお嬢ちゃん見たよな。あいつに見覚えは?」
「……言いたくありません」
 『知らない』でも『知っている』でもなく、『言いたくない』だった。
 俯きがちに呟く人魚に、甚之助は首を振る。
 どこかで似たような答え方を聞いたな、と思いつつ夏栖斗は人魚の肩を叩いた。
「まあでも、無事で良かったじゃんお姫様」
「……ありがとうございました」
「いいって、あの白黒に大口叩いたしな。その分やっとかないと」
 表情の無い顔で、人魚は風斗の横顔を見た。
 彼は黙ったままだ。
 郷がフランクな雰囲気で手を振った。
「な、所で人魚ちゃんお名前は――」
 その時、郷の携帯電話が鳴った。
 コンマ一秒で取る。
「はいこちらアナタの愛の宅配便こと安西郷です!」
『……切ろうかな』
「お願いやめて!」
 声で察した。大切断鎖である。
 甚之助がよこからボタンを押して広範囲スピーカーに切り替えた。
 ハニーシロップのようなとろんとした声が聞こえてくる。
『うわスゲー音、そのテンションってこたあ人魚は守ったカンジ?』
「うんまあ……横取りしに来たりとかしないよね?」
『興味ないんで』
「そっスか」
 すぐに首をひっこめる夏栖斗。
 人魚は身を小さくしている。
『そこにいるんでしょ。久しぶりジャン、洞子』
「……」
『こうなったのも私があんたの味方をしちまったからだ。同情なんかしちまったからだ。いい加減そこの連中にバラしてやんよ――』
 一拍。
『ヘビーアームズ団とナコトを殺せば、あんたは人間に戻れるんだろ?』

 家屋の燃え崩れる音が、いつまでも響く。
 いつまでも、響く。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
sister drop

――ded end!