●満開の桜の下に 桜の下には、死体が眠っているという。 その公園では、今年の桜がいつもよりも長く、そして鮮やかに色づいていた。 夜でもなお、輝いているかのように見えると評判になっている。 普段は近所の住人が通りすがりに足を止める程度。花見客が集まるようなスポットではないのだが、今年は少しだけ話題を集めていた。 果たして、本当に死体が眠っているなどと、誰が想像していただろう。 1人の男が、物陰から桜を眺めていた。 見るからに挙動不審の男。 そして、その男をさらにながめる1人の女性がいる。 滑るようにして、彼女は男に近づいていく。 「……ねえ」 「ひっ……!」 男がびくりと跳ね上がる。 恐る恐る、彼は振り返った。 「あ……あぁぁぁぁ!」 悲鳴を上げる。 それは驚きではなく、恐怖の悲鳴。 「ねえ、どうして私を裏切ったの?」 「香……奈子……」 彼は逃げ出した。 逃げた先にあるのは桜の木。 かつて、恋人だった香奈子を埋めた場所。 桜の花びらが降り注ぐ。まるで羽虫かなにかのように舞い踊る花びら。 香奈子は歪んだ笑みを浮かべて、近づいてくる。 「でも、いいの。許してあげる。その代わり、1つだけお願いを聞いて欲しいの。私の代わりに、この木の下に埋まって欲しいのよ」 香奈子の指先に輝きが宿る。男は身動きができなくなった。 桜の木が動き出した。 根が足を捕らえ、枝が首を締め上げる。 「死神が教えてくれたの。あなたをここに埋めれば、私はここから出られるって」 恐怖に顔をひきつらせたまま、男は足元から大地に埋まっていった。 ●ブリーフィング アークのブリーフィングルームにリベリスタたちが集まっていた。 「美しいものは常に危険をはらんでいる。それは、誰にも変えることのできないカルマってやつさ」 集まったリベリスタたちに、『駆ける黒猫』将門伸暁(nBNE000006)が説明を始める。 「だから、薔薇には棘があり、桜の木の下には死体が埋まっているんだ」 しかしそれは、あくまで慣用句の話。実際に桜の木の下に死体を埋めていい法はない。 今回の犠牲者はそれをやったのだ。恋人だった女性を殺し、木の下に埋めた。 背景にあるのは別れ話のもつれ。しかも今どき三流の脚本家でも書かないようなチープな筋書らしい。 「埋められた死体はエリューション・アンデッドになった。そして、待っていたのさ。初めてのデートみたいに心を震わせて」 犯人は現場に戻ってくるものだ。小悪党の男が死体を埋めた現場に戻ってくるのを彼女は待っていた。 どうやら彼女は、犯人を殺せば自分が生き返ることができると思っているらしいのだ。 「もちろん、誰を殺そうが死んだ人間は生き返らない。命は決して取り戻せないからこそ尊いのさ」 彼女が望みを叶えるかどうかはアークにとっては問題ではない。 ただ、エリューションと化した彼女を放置するわけには行かない。生き返ることができなかった彼女はさらなる凶行に及ぶかもしれない。犯人が死ぬ分には自業自得だが、他の者を殺させるわけにはいかなかった。 「今回の敵はエリューション・アンデッドが1体。須加香奈子という20代前半の女性と、その配下だ」 エリューションとなって身についた能力をいくつか持っているらしい。まずは他者を呪縛し、徐々に体力を奪う魔光。また、殺意の視線は心身にダメージを与えた挙句に呪いをかけてくるという。 さらに、配下がいる間は使ってこないが、地獄の炎で周囲一帯を焼き払うこともできるという。 それから、香奈子が操るエリューション・ビーストたち。桜の木と、舞い踊る花びらだ。花びらは4つほどの群れとなって襲ってくるらしい。 舞い踊る花びらの群れは、対象を取り込むことでダメージを与えるほか、その動きで対象を惑わして混乱させてくることもある。 桜の木は根と枝を使って攻撃してくる。根は対象を地面に引きずり込んで動けなくすることができる。また、枝は周囲全体にいる者たちを締め上げて攻防を弱めてくるらしい。 花びらの群れをさらに増やすこともできるそうだ。 事件が起こるまであまり時間はないが、香奈子が男を襲う直前には現場にたどり着けるだろう。 伸暁は説明を終えた。 「どうしたって彼女は報われない。だから、せめて安らかに眠らせてやってくれ」 そう言って、彼は物憂げにため息をついた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:青葉桂都 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年05月22日(火)23:11 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
●死者が踊る夜 5月に咲くならば、桜もまだ狂い咲きと呼ぶほどではない。 とは言え、この辺りではもうほとんど桜は散ってしまっているようだ。 リベリスタたちは現場である公園へ急いでいた。 事件が起こるまでさして時間はないはずだ。 「桜の木の下には死体が眠っているってよく聞く言葉だけど、なんでそんな風に言われるようになったのかな」 ピンク色の髪をした櫻木・珠姫(BNE003776)は、先日アークに参加したばかりの新米リベリスタだ。 移動しながら、散らない桜に思いをはせる。 もっとも、一番の新米は彼女ではない。 両手にパペットを身に着けた幼い少女は彼女以上の新米だった。 「之ほどの桜、肴に出来ぬのが勿体無い」 「俺ら呑めねーけどなァ」 右手の豚と左手の兎が会話する。もちろんただの腹話術に過ぎないが、仲間の誰もこの少女が直接しゃべったところを見たことがなかった。 それどころか、本当の名前さえ知らない。『ゴロツキパペット』錦衛門とロブスター(BNE003801)と名乗っている。いずれもパペットの名前らしい。 「死体の埋まってる桜は綺麗なんだっけか?」 「そう言うみたいだけど、綺麗な花の下に得体のしれないものが眠っているなんて想像するとぞっとするよね」 パペットの言葉に、珠姫が身を震わせた。 しかし、今回の行き先にある桜の下には実際に死体が眠っている。 「男に殺されて桜の木の下に埋められた、ですか。何とも救われない話、としか言いようが無いですね……」 スタイルのいい女性が小走りに移動すると、胸が軽く上下する。『戦士』水無瀬・佳恋(BNE003740)がなびかせる紺の髪は、革醒した際に変化したものだ。 「ましてや、それでエリューション化、とは。どうやっても命は戻らないことを考えると、二重に残酷としか言いようが無いように思えます」 「殺され、身が滅びようとしてなお執着するとは……。同情の余地はあるが、捨て置けぬからな」 応じた彼女は、佳恋とは対照的に、背は低めで胸も小さい。『小さく大きな雷鳴』鳴神・冬織(BNE003709)は、少なくとも一見しただけで同い年とは思わないだろう。 「――それでも、戦って滅ぼすしか無い、ですね。この世を崩界から守る防人の仕事、と言ってしまえばそれまでですが、何ともやるせないものです」 「そうだな。やるせない話だ」 公園と桜が見えてきた。 男を襲う女性のアンデッドの姿も見える。 銃声がアンデッドの手を止めた。 「……同情の余地のある身の上の相手であっても。崩壊の要因になるのなら容赦するわけにはいかないわね」 狙撃銃で威嚇射撃をくわえたのは『愛煙家』アシュリー・アディ(BNE002834)だ。 「誰!?」 とっさに男が逃れた。 リベリスタたちからも離れていこうとするのを、『境界の戦女医』氷河・凛子(BNE003330)が追いかける。 「何があって殺して埋めたのか分からないし分かろうとも思わないけど。一応、助けないとね」 まるで人形のような少女だが、『ティファレト』羽月・奏依(BNE003683)の男を見る目は冷たい。おじさまと呼ぶにはまだ若いし。いや、仮にもっと年上でも奏依が懐くことはなかろうが。 一般人でしかない男に、凛子は簡単に追いついた。 「しばらくは寝ていてください」 スタンガンを当てて彼を気絶させる。 「やれやれ、この男に同情はしないがこいつにとっては悪夢だろうな」 リベリスタたちの中で唯一の男性である『侠気の盾』祭義弘(BNE000763)が男を見下ろす。 だが、悪夢なのは、殺されてアンデッドとして蘇ってしまった女にとってもだ。 「ならばこの悪夢、俺たちが終わらせてやろう」 メイスを肩に担いで義弘は須加香奈子名のアンデッドの前に立った。 「……まあこういうシチュエーションで男1人ってのも、あれだ。悪い事してないのに肩身が狭い気がするな」 エリューションとはいえ、男に裏切られた香奈子にはやはり同情的な者が多い。 「なんなの、あんたたち……邪魔しないでよ!」 香奈子が叫んだ。桜の木がゆっくりと枝を揺らし始める。 気絶した男は縛り上げられ、戦場の外に放り出された。 「それにしても、自分の代わりに殺した人を埋めたら生き返れるだなんて、そんな馬鹿な考え誰に教え込まれたのかな?」 奏依がヘビースピアを構えながら首をかしげた。 「わかりませんが、誰かが教えたのだとすれば残酷なことをします」 凛子がため息混じりに言った。 「死者の未練、生者の後悔。生者を屠ろうとも。死者が生き返る道理はありません。死者を増やしても、増えるのは悲しみばかりです」 舞い落ちる花びらが、羽虫のようにうごめき始める。 「速やかな処置を行いましょう」 凛子の魔術が、仲間たちに小さな翼を与える。そして、戦いが始まった。 ●舞い散る桜 動き出した木の枝が、リベリスタを捕らえようと動き出す。 珠姫はその枝に捕らえられた。 まったく身動きできないほどではない。だが、防ぐも攻めるも不利となる状態だ。 次いで香奈子が殺意の視線を佳恋に向けて痛打を与える。 だが、ここは新米とはいえレイザータクトのいる戦場だった。かつて自分を救ってくれたリベリスタたちを、今度は自分が助けねばならない。 「雷神の槌だ……痛いでは済まさんぞ? 痛いと感じぬだろうがな!」 冬織の雷が黄金色のレイピアから放たれ、敵の間を駆け回った。 その隙に、珠姫は仲間に声をかける。 「みんな、私が言う通りに防御をお願い! それと……」 「ええ、大丈夫、わかっています」 凜子が生み出す福音が仲間たちを捕らえた枝を消し去っていく。 盾を構え、鉄壁の守りを固める義弘。彼の動きと、先の攻撃を観察した結果から珠姫は仲間たちへ攻撃を防ぐための助言をしていく。 花びらの群れが動き出すまでには、リベリスタたちはすでに守りの態勢を整えていた。 凛子は仲間たちを支援しながら香奈子へ視線を向ける。 エリューションの視線は精神どころか体力さえも削る意思がこもっている。 「貴女の埋葬を行い静かな眠りを与えます」 静かに告げる。 軍医であった凛子にとって、死は身近なものだった。だからこそ、彼女は死に対して真摯に接する。 「死者は何を行おうと生き返ることはなく、ただ土に還る以外はない。裏切りも悲しみも過去のものです」 「馬鹿なことを言わないで。私は知ってるんだから。私はちゃんと帰れるって、死神が言っていたもの!」 アンデッドの指先が、輝いた。それは凛子を縛り上げ、猛毒で冒してくる。 まるで、事実を告げる彼女の口を閉ざそうというように。 香奈子の殺意を反映したのか、苛烈な攻撃がリベリスタたちを襲った。 佳恋が太い根によって大地に引きずり込まれる。 花びらたちが舞い、踊る。 奏依の放つ暗黒の気が、敵も味方もアトランダムに巻き込む。 さらに錦絵門の弾丸が珠姫を撃った。膝を突きかけた彼女が気力を振り絞って立ち上がる。 「私の邪魔をするからそうなるのよ! あはははは!」 香奈子が笑う。 「悪いな、姉さん。お前さんに好きにさせないのが俺の仕事でね」 義弘が放つ輝きが、凛子の呪縛を解いてくれた。 「ありがとうございます、祭さん。私も、私の仕事をさせてもらいます」 色黒の手を覆う白く清潔な手袋が、マナを媒介し高位の意識体にアクセスする。 癒しの息吹が公園に吹き渡り、木々を揺らす。 仲間たちの傷がふさがり、惑わされた仲間に正気を取り戻す。地中に没しようとしていた佳恋が脱出し、飛び出してきた。 パペットを身に着けた少女は、なるべく目立たないようにこそこそ動く。 「ロブは根見てろ」 「地面に刺さってるもん見てろってかァ?」 両手のパペットが会話する。錦こと兎の錦衛門は桜の木に向けて何度も弾丸を吐き出している。 アシュリーも狙撃銃で桜の木を狙っていたが、改造銃は射線上にいる花びらの群れもまとめて貫いている。 奏依や佳恋は桜の木に突進し、それぞれの得物を振るっている。 雷が直撃し、焼け焦げた花びらの群れがふらふらと少女に近づいてきた。 「オイ危ねェぞォ!」 豚のロブスターが叫んだときには、少女は花びらに包み込まれている。 四囲を囲む敵からの攻撃は精鋭でもそうそうかわせはしないだろう。増してや少女ではなおさらだ。 「……立てるかロブ?」 「無理だァー死ぬゥー」 「よしいけるな」 倒れなかったのは運命の見えざる手のゆえか。 なんであれかまわなかった。長く生き延びれば、それだけでも最終的な打撃力は高くなる。 凛子の息吹が少女を癒す。 雷が再び敵を貫く。 「……ロブ!」 「しつけェんだよ!」 まだ動きを止めていなかった花びらへ石頭の豚を突き入れると、敵はようやく落下していった。 アシュリーは口の端に煙草をくわえたまま、煙を吐き出した。 桜の木が花びらを風に乗せ、倒されたのを補充する。 「さっさと片付けないと、きりがないね」 「綺麗な花だから少しもったいないけど、ごめんね邪魔なの」 奏依が放つ暗黒の気が花びらと共に木を包む。攻撃によって散った花びらまで敵となることはないようだ。 「桜の木までエリューション・ビーストになっている、とは……。よほど想いが強かったのか、はたまた……。とはいえ、私とて負けるわけにはいきませんから……!」 闘気をまとった佳恋の剣が、桜の木を幾度も切り裂いた。 珠姫が操る真空の刃も敵を切り刻む。 アシュリーは狙撃銃のハンドルを引いた。遊底が音を立てて動き、薬莢を排出する。 肩にストックを当てて構える。 スコープを覗き込み……踊る花びらが射線上に姿を現した瞬間に引き金を引く。 弾丸は花びらを散らせ、同時に桜の幹を貫いていた。 枝から力が抜ける。エリューションと化していた桜は、力を失っていた。 ●死者は死者に還る 残っている桜の花びらは、動きを止めることはなかった。 とはいえ、木が消えた以上、さらに増えることはもうない。 奏依は包み込んでくる花びらを、闇を纏った服のすそで散らせる。 「樹液とか吸うわけじゃないけど……ま、イタダキマス」 花びらの一枚に口付けると、エリューションからなにかを吸い上げる。花弁が散り、そして傷ついた奏依の肌がふさがっていった。 「香奈子さん、馬鹿な考えは捨ててもらうよ。死ぬなら死刑台にしてもらわなきゃいけないもの」 小柄な少女には不似合いな重い槍に闇を纏わせる。 仲間たちは今度は香奈子へと攻撃をしかけ始めている。 それに続いて、奏依は残った花びらを巻き込んで闇を放った。 動きの鈍っていた花びらは、闇の気に包まれて消えうせる。 義弘は香奈子の前で盾を構える。 隣に立っているのは佳恋。爆発的な気をまとった剣を構える彼女と違い、彼は攻撃を防ぐため前に出ていた。 侠気の鉄という名の金属盾は、義弘の愛用の品だ。小ぶりだが敵の眼前に立ちふさがるべき鍛えたそれは、盾役を自認する彼にとって大切な品だった。 木が消えたことで、戦場には少し余裕ができている。 珠姫が戦場の変化に対応し、再び皆へ守りを固める指揮を行っていた。 「恨む気持ちがわかるとは言えないがね。許せないなら、俺を代わりに狙ってもらうぜ」 メイスから放つ十字の光がエリューションを挑発する。 「そこをよけてよ!」 殺意の視線が義弘に向けられる。 構えた盾と、けして砕けぬ侠気でもって、義弘はそれを受け止めた。 アシュリーや錦衛門の銃弾が香奈子へと着弾する。 佳恋は白い長剣を振り上げる。 白鳥の羽を思わせる優美なデザインの剣だ。 エリューションもあせっているらしい。立ちはだかる佳恋や義弘をなんとか突破しようとしている。 大地から香奈子が炎を生み出す。地獄のような業火が戦場を吹き荒れた。 髪の毛の先が焼けた気がする。 いや、より深刻なのは体力のある佳恋より仲間たちだ。珠姫の指示で守りを強化していてなお、その炎は一気に仲間たちに痛打を与えていた。 珠姫と、パペットから銃撃をくわえていた少女が炎に倒れる。 「エリューションによる被害を防ぐことが、こうも理不尽に思えることも滅多にないですね……」 輝くオーラを纏った長剣で、佳恋は切りかかった。爆発的な気を込めて振り下ろし、返す刀でもう一閃。 「あなたは悪くありません。ですが、世界のために……滅んでいただきます」 デュランダルの連撃を受けて、エリューションが焦りの表情を浮かべた。 冬織は炎に焼かれ、倒れそうになっていた。 「運命の輪よ……我に今再び力を寄越せ!」 体力の限界を迎えて、それでも意識をつないでいるのは雷神の末裔としての誇り。事実かどうかはわからないが、少なくとも彼女自身はそう信じている。 奏依が香奈子から血を吸っている。 「全てを忘れてお眠りなさい」 凛子が放ったのは魔法の矢だ。 よろめくアンデッドへリベリスタたちは手心を加えることはない。 黄金色のレイピアを振るうと4つの魔光が周囲に現れる。 「あえてなにも言うまい。救いにはならぬだろうからな。ただ、死者が動いているのを、我らアークが見過ごすわけにはいかんのだ」 光が吸い込まれるように香奈子を包み込む。 悲痛な断末魔から、冬織はけして目をそらさず、耳もふさがなかった。 ●報い エリューションは滅びた。 奏依は救急箱を開いて、周囲を警戒しながら自分や珠姫、パペットの少女を手当てし始める。 「己の身勝手が招いた惨事だ……忘れてしまうだろうが、きっちりと悔いて貰うぞ」 縛り上げたままの男を見下ろし、冬織が言い放った。 戦っている間に意識を取り戻していたらしい。涙目になったまま、逃げることもできずに彼は怯えた表情を浮かべている。おそらくは、気絶していたほうが幸せだっただろう。 「こんな事になったのは自業自得だ。反省して刑に服するまで、彼女は何度でもお前を狙うぞ」 義弘が凶眼で男を脅しつける。 記憶を失わせる予定なのはわかっているが、心に刻み込まれた恐怖は消えないはずだ。 それから、凛子が男の記憶を失わせる。 ……後悔の言葉は最後まで聞けなかった。 「全くもって理不尽、としか言い様が無いですね」 佳恋が深いため息をつく。 「一発ひっぱたいてやりたいね。あたしたちの仕事じゃないからやめとくけど」 仲間に支えられながら、珠姫も吐き捨てた。 「アークに連絡したら、次は警察よ。ま、犯罪者がのうのうと暮らしているのを見逃すのは性に合わないしね」 アシュリーは新しい煙草を取り出し、火をつける。 しばらくすれば警察が来る。 桜の木の下の死体を、彼らは見つけるだろう リベリスタたちも必要なら警察に協力するつもりでいた。 見苦しくわめいているのは全員が聞き流していた。 「……本当に、こいつのそばにいるだけで肩身が狭い気がするな」 「誰も祭さんがこの方の同類だとは思っていませんよ。……ただ、この方も後悔していたからここに来たと思いたいですね。誰も見て無くても自分は見ているものです」 凛子が十字を切った。 「後悔を背負って生きていけるものだと信じています」 エリューションでなくなった桜は、すでに散っていた。 「勿体無い事だ」 少女が木を見上げると、パペットの錦衛門が呟く。 花びらの1つも持ち帰ろうかと、彼女は考えていた。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|