●『万華鏡』 「みんなは、ヒーローになりたい?」 もしかしたら『なりたかった』かもしれないね、という『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)の声に、皮肉の響きは感じられなかった。けれど、その場の何人かには、あるいは酷く重い問いだったのかもしれない。 そう夢見るのは自由だけど、と彼女が続けたならば、なおさら。 「アークに所属しないリベリスタのチーム、『アンディスカレッジド』が、たちの悪いアーティファクトに囚われたの。その効果は、ヒーローになりたいって願望を叶えること――もちろん、歪んだ形でね」 その名を『英雄幻想』という走馬灯のアーティファクトは、灯の届く範囲に立ち入った神秘世界の存在を、自らの内部世界に引きずり込む。そして、犠牲者が『ヒーローとして倒すべき敵』と考えるものを、次々とカタチにして襲い掛からせるのだ。 そして、アーティファクトの力によりヒーロー願望をかき立てられた犠牲者は、むしろ望んで敵と対峙するだろう。 「彼らにとって、倒すべき敵は強力なエリューションだったみたい。現れる獣やアンデッドのエリューションを、ずっと倒し続けてる」 説明を聞いていた者の一人が、彼らはそんなに強いのか、と問う。たとえ自分より格下の敵であっても、無制限に現れるエリューションを相手に戦い続けるなど、想像の埒外だからだ。 だが、その答えは、否。 「そんなことはないよ。みんなと同じくらいか、少し下――だと思う。ただ、『英雄幻想』は、単に戦いを強いるだけのアーティファクトじゃないの」 それは、ヒーローがヒーローであるための、悪辣なる趣向。 「走馬灯が作り出した世界では、ヒーローは『奇跡』を起こすことができる。何度でも、どんなことでも。もちろん、その世界が許す限り、だけれど」 彼らが望んだ奇跡は、伝説級の武器防具、そして疲労を忘れ戦い続ける事が出来る身体。世界が望むまま、英雄となった彼らは戦うのだ――運命の加護を糧にして。 「そう、運命の加護を糧にして。奇跡は代償を必要とするの。遠からず彼らは、運命の吸い尽くされて破滅に至るよ」 運命の加護を効率的に抽出する。 そう、それこそが、このアーティファクトの真の能力。 「その結果、何が起こるか判らない。だから、みんなには、まだ彼らが力尽きていないうちに、助けに行って欲しいの」 次々と湧くエリューションを撃退し、ヒロイズムに浸され戦いに酔ったリベリスタを現実へと引き戻す。それは考えるまでもなく困難な任務だったが――。 「だめだよ」 幾人かが至った思考の果て。予想していたのだろう、イヴは淡々と釘を刺す。 「確かに、みんなも『奇跡』を起こすことはできる。けれど、駄目。『どれだけ』代償を吸われてしまうかわからないし、結果どうなるかも予想がつかないから」 自分一人が力尽きるならまだ良い。けど、運命の力を蓄えたこのアーティファクトが次に何をするのか、そこまではアシュレイも知らなかったの――。 「アシュレイ?」 突然会話に現れた人名。不吉の象徴たるその名を鸚鵡返しにした声に、少女は頷いた。 「そう、今のは全部アシュレイの情報。見たことがあるんだって――昔、ロシアで」 ●『英雄幻想』 ヒーローになりたかった。 アークや、その他のリベリスタ組織に属さなかったのも、それが理由だ。 兵隊のままで終わりたくなかった。 人々に感謝される、ヒーローになりたかった。 でもそれは、自分ではない誰かのことだと思っていた。 「とりゃあっ!」 輝く剣を振るうたび、魔獣を包む硬質の皮膚が紙を破るように裂けていく。 体液をだらだらと流し、ついに力尽きようとしているその魔獣は、昨日までの自分達では負けないにせよ苦戦を免れなかっただろう。 だが、今は違う。 「かかって来いよ、バケモノども――」 危ないシーンもあった。 だがその度に、まるで世界が自分達を守るかのように、すべてが上手く運んで難を逃れたのだ。 つい今しがた、幼馴染の齎した癒しが、深い傷を痕すら残さずに消し去ったように。 「へっ、へへっ――なあ、来いよ」 そうさ。俺達がこの世界の主役だってことを教えてやるよ――! |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:弓月可染 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ EXタイプ | |||
■参加人数制限: 10人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年05月13日(日)22:46 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 10人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|