●ある晴れた日に 「どういうことだ、こりゃぁ……」 男は、思わずそう呟いた。 ある晴れた日の事だ。風は気落ちよく、海の波も穏やかだった。今日は絶好の漁日和だと、男は意気揚々と家を出たのだ。 しかし、いざ海辺の船着き場に到着すると、男は思わずそう呟いていた。 それ以外の言葉が見つからなかった。 男が目にしたのは、大きく傾きガソリンを漏らす船の大群だった。 船着き場に停泊させていた魚漁船が十数隻。 それら全ての船体にはいくつもの穴が空いていた。きっと船底にも同じように、穴が空いているのだろう。そこから水が浸入したせいで、傾いているのだ。 穴の大きさは拳大。 鋭い針や槍で突き刺したような穴だと、男は思った。 長さ30メートル、幅3メートル程度の船着き場を男は駆ける。 一番奥に停泊させていた自分の船が心配になったのだ。 しかし、なんとなく結果は分かっていた。ここに来るまで、一隻たりとも無事だった船はない。 それなのに、自分の船だけが無事だと言う保証があるだろうか? 否、ないだろう。 「あ……あぁ」 男は呻く。 穴が空いて、ガソリンを垂れ流し、傾いた自分の船を目にして、男はその場で泣き崩れた。 思えば、長い付き合いだ。彼が猟師をはじめて以来20年の付き合いになる。とっくの昔にガタがきて、あちこち不調だらけだったが、今日まで騙し騙しやってきた。 愛情さえ感じていた。それもそうだろう。過酷な海での漁を共に乗り越えて来たパートナーだ。波に飲まれそうになった事や、遭難しそうになったことも一度や二度じゃない。 そろそろ買い替え時かもな、なんていいながらも、なかなか手放せずにいた。 一応、替えの船もすでに準備していたのだ。 それでも、中々この船を廃棄することは出来ないでいた。 それなのに……。 「だれが、こんな酷い事を……」 と、男が船に視線を向ける。 その時、男の視線の先で何かが海中から飛び出した。 水しぶきが上がる。太陽の光が反射し、キラキラと眩しい。 朝日を背に、水上に現れたそいつは巨大なカジキマグロだった。 その大きさ、実に5メートルはあろうか。カジキに追随するようにダツの群れも跳ねる。 そのダヅですら、1メートルを超える大きさ。 「あ……あいつらが、あいつらがこんなことを……?」 今まで何度も釣りあげた事があるカジキマグロ。 そのカジキマグロに、今度は自分達の船が壊された。 男は、海中に潜っていくカジキマグロを見送って、力なくその場に蹲った……。 ●ソードフィッシュ討伐指令。 「カジキマグロ。英名ソードフィッシュ。それと、ダツ。英名ニードルフィッシュ。それらの魚がエリューション化したので、退治してくること。それが今回のミッション」 そう言って『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)は、モニターに2枚の写真を映し出す。 「カジキもダツも、鋭い嘴を持っているのが特徴。英名はそこから来たものね。ちなみにカジキマグロって名前だけど、マグロの仲間じゃない」 ちょっとした豆知識。画面に映っているのは、槍のような嘴を持つ魚の写真だった。 「カジキがフェーズ2。ダツはフェーズ1のよう。素早い動きで海中を進み、船や人に襲い掛かるみたい。現在、危険ということでこの船着き場は封鎖されているわ」 キープアウトよ、とイヴは言う。 「それから、2体のE・エレメントも確認されている。どうやら、海に流れ出したガソリンがエリューション化したみたい」 こっちも倒してきて、なんてイヴは言ってモニターを切り替えた。 映し出されたのは、船着き場の写真だろう。船は全部沈んでしまったらしく、映っているのは足場のみ。 海に向かって伸びる、長さ30メートル、幅3メートルの足場だ。昔は多くの船が停められていた筈なのだが……。 足場周辺の海は、油で赤く濁っている。 「鋭い嘴による攻撃と、ガソリンの遠距離攻撃に気をつけて欲しい」 それから、とイヴが指を一本立てた。 「小さいけれど、漁船(海神丸)が貸し出される。提供してくれたのは、港の猟師たち。これで、ある程度沖に出ることも可能」 白い船体の、小さな船だ。旗には日の丸と、海神丸の文字。 「じゃあ、港に平和を取り戻してきてね」 小さな日の丸の旗を振って、イヴはリベリスタ達を見送るのだった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:病み月 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年05月11日(金)23:01 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●漁の時間 船着き場に一隻の漁船を浮かべ、その周辺に8人の男女が集まる。明かりは最小限に抑え、船に持ち込む道具を確認していた。 彼らは、これよりこの小さな港町を騒がせる危険な魚を討伐に向かうのだ。 魚の種類は2種類。カジキマグロとダツである。 それから、ガソリンのE・エレメントが2体。 「操舵の方法はオレが教わったから、問題ない。よろしく頼むぜ、海神丸」 海神丸、と力強く書かれた船体に触れ『てるてる坊主』燥焦院 フツ(BNE001054)が頷いた。 空気を入れたゴムボートを甲板に投げ込み、続いて彼自身も飛び乗る。 「……海に落ちたら洒落にならんな。水温的にはアレかもしんないけども」 ブロンドの髪を潮風に揺らしながら『冥滅騎』神城・涼(BNE001343)が船に乗る。波に揺れる船上でも、バランスを崩すことなく彼は船の先頭に陣取った。 「海なんてもんはいつでも危険でさぁな。釣りも危険と隣合わせやってなもんやぁ。それがエリューション関係ならなおやのぉ、おい」 くけけ、と怪しい笑い声をあげるのは『√3』一条・玄弥(BNE003422)である。ウェットスーツを着込み、浮輪と釣り竿を両手に下げている。 「水棲生物とやりあうのも二度目。さぁ、シビレさせてあげるわ!」 「少しでも皆さんのお力になれるといいのですが」 自信満々にそう宣言する『神を宿す』鳴神・暁穂(BNE003659)と、少々不安そうな顔をしている『空泳ぐ金魚』水無瀬 流(BNE003780)の2人が船に乗り込み、それぞれ出港の用意を進める。 出港の用意が整った所で、最後に……。 『事前準備は抜かりなく。超直感でのフォローはお任せください』 先ほどまで、港で住民たちの話を聞いていた『水底乃蒼石』汐崎・沙希(BNE001579)が乗り込み、ハイテレパスでそう告げた。 それを受け、燥焦院が海神丸を発進させる。ゴウン、とエンジンのかかる音。それから、少しづつスクリューの回転速度が上がり、船が進み始めた。 水面に浮かぶ油を掻きわけ、夜の海へと船は行く。 ●海からの強襲 「皆、行っちゃいましたねぇ」 小鳥遊・茉莉(BNE002647)が、船を見送ってそう呟く。自前の翼で、船着き場を飛び回っている。 「いつもおいしい魚を届けてくれる漁師さんたちのためにも、早く解決したいです!」 意気込みと共に、消火器を地面に置いたのは『羊系男子』綿谷 光介(BNE003658)だった。水面に視線を落とし、E・エレメント(ガソリン)の出現に備える。 船が遠ざかるのを確認しながら、小鳥遊が言う。 「向こうを追って行かれると大変だし、ガソリンをおびき出しましょうかぁ? あの辺ですかねぇ?」 と、小鳥遊が水面を指さす。 「ですね」 そう答えて、綿谷は水面に向けてマジックアローを放った。鋭く水面に突き刺さった光の矢によって、跳ねた水滴は一瞬で蒸発する。 暫し、沈黙。 水面を見つめる2人の視線の先で、浮いていたガソリンが一か所に集まり始めていた。 水面から船着き場に向かって、ガソリンが跳ねる。黒々とした油の塊が、べちゃりという不快な音をたててコンクリートに着地した。 綿谷が、ガソリンから距離をとるため後ろに下がる。と、入れ違いに小鳥遊が前に飛び出した。翼を羽ばたかせ、ボウガンを構える。 自身に付与したマナバーストの効果だろうか。彼女の身体から、光の粒子が溢れているように見える。粒子の線を空中に残し、小鳥遊はガソリンに向かってボウガンを向けた。 しかし、放つのは矢ではない。彼女の頭上に、黒い色をした不吉な鎌が現れる。鎌は宙を斬り裂きながら、ガソリンに向かって一直線に飛んだ。 ガソリンが斬り裂かれ、周囲に油を散らす。突然、その油が発火した。 「港で不審火はダメですよ!」 消火器を手に、綿谷が火に近寄る。 綿谷が消火器をガソリンに向けた、その時。 べちゃり、と粘着質な音をたてて彼の足首を黒い手が掴んだ。 「うわわ!」 綿谷が悲鳴をあげる。と、同時にガソリンは発火し、綿谷の足を焦がす。背後から、ガソリン目がけて小鳥遊が矢を射った。ガソリンが綿谷の足から手を離し、海中に潜る。 いつの間にか、最初に現れたガソリンも姿を消していた。 「中央に寄っていた方がよさそうですね」 綿谷が言う。2人は船着き場の中央で背中合わせになり、周囲に警戒を払う。チラと海に視線を向けると、船の方が騒がしいのが見てとれる。向こうも戦闘中のようだ。 「左右から飛び出しますよぅ」 小鳥遊が告げた。と、同時に船着き場の左右から黒い塊が飛び出してきた。 それは、人の形をとり、自身の身体に火を付けた。 「届いてぇ~!」 魔導書を手に、綿谷が叫ぶ。魔導書から、光の矢が放たれた。夜闇に光の軌跡を描き、綿谷に飛びつこうとしていたガソリンの胴を貫いた。 ガソリンは空中で爆ぜ、火の子を散らす。 「こっちは、終わりみたいです」 消火器で火の子を消しながら、綿谷が言う。「うん、分かった」と小鳥遊が答え、宙に舞い上がる。上空から、残った一体のガソリンに向かってボウガンを放つ。 ガソリンを、綿谷に近づけないためだ。 「燃やしてみますぅ」 綿谷とガソリンの距離が十分離れているのを確認し、ガソリンの足元に魔炎を召喚した。地面に一瞬、魔方陣が「浮かび上がる。そこから伸びた炎がガソリンに絡みつき、燃え上がる。 身体を構成する油が燃えているためだろうか、ガソリンが苦しげに身をよじった。 効いている、と見てとった小鳥遊はホッと胸を撫で下ろす。 その時。 地面でのたうっていたはずのガソリンが、突然宙に飛び上がった。今まで以上の火力。そのまま、火の玉と化したガソリンが小鳥遊を弾き飛ばす。 火の子を撒き散らしながら、小鳥遊が海中に落ちた。ガソリンは、綿谷の目の前に落下し、消えた。 綿谷は、小鳥遊に向けて浮輪を放る。 綿谷の投げた浮輪につかまって、小鳥遊は苦笑いを浮かべた。 「ガソリン2体、撃破ですねぇ」 沖に出ている漁船の方を眺めながら、小鳥遊はそう呟くのだった。 時間は少し遡る。 初めに異変に気がついたのは、釣り竿を構えた一条だった。 いつの間にか、船の周りを高速で何かが泳いでいるのだ。そいつらが、時折糸の先に付けた光餌を突いているのだ。 「ほな、いきまひょか」 竿を固定し、一条は後ろに下がる。船着き場の方に視線をやると、そこでは陸に残してきた2人とガソリンのE・エレメントが交戦中なのが見てとれた。それを確認し、一条は頷く。 「船内うろちょろされたらこまるからのぉ、おぃ」 自身の武器である爪を構え、一条は戦闘に備えた。 「来た来た。沙希ちゃんをガードするのよ」 すぅ、と流れるような動きで武道の型をとり、鳴神がそう宣言する。残りの仲間たちも、それに従って汐崎を囲むよう甲板を移動する。 『船の先端付近、ダツが固まっています』 ハイテレパスを使って、汐崎が告げる。それを受けて、水無瀬が先端へ向かって行った。 「眩しいので気を付けてください!」 と、仲間に注意を促し、水無瀬は手の平を海へかざす。直後、閃光弾のような強い光が海面を包む。数匹のダツが驚いたように跳ねあがった。 『ダツ、来ます。避けて』 再びハイテレパスによる交信。直後、水面からダツが勢いよく飛び出してきた。ダツは真っすぐ水無瀬へ向かって飛ぶ。どうやら彼女の使用したフラッシュバンによる光に反応したらしい。ダツとはそういう習性をもった魚なのだ。 「そうはさせねぇ。華麗に仕留めてカッコイイところを見せてやるぜ!」 タン、と軽快な音をたてて神城が甲板を駆ける。日本刀に似た形状の長刀を伸ばし、水無瀬に向かって飛んでいたダツを切り裂いた。 「船、出すぜ!」 ダツをおびき寄せるためのライトを付け、燥焦院が叫ぶ。船が急発進し、船体が大きく揺れた。ダツを切り裂いたまま不安定な格好だった神城だが、上手くバランスをとり、甲板に着地する。 「ま、見てな……? 船上でも華麗なソードミラージュの戦いってもんをな!」 と、格好付けて水無瀬に笑いかけた。 『ダツ、まだまだ来ますよ』 三度、仲間達の頭のなかに汐崎の声が響き渡った。 「漁船に穴開けたら、漁に出られなくなって、美味しい魚が食べられなくなっちゃうじゃない! この魚ども、きっちり懲らしめなきゃね」 ライト目がけ水中から飛び上がってくるダツを、気迫の籠った拳で殴りつけながら鳴神が叫ぶ。しかし、勢いよく飛ぶダツ相手では、攻撃を外すことも多いようだ。 敵との距離を縮めようと、鳴神は甲板の端に寄っていく。 丁度、一条の竿が固定してある辺りだ。 飛び出してきたダツを、殴って海に叩き落す。 「糸、巻き取りぃ。纏めて倒そうや」 一条が近寄ってきて、そう言う。言いながら、彼は両手で闇を集め、固めていた。夜の闇より、さらに暗い暗黒。 それを、海に向ける。 糸の先についていた光餌目がけ、数匹のダツが飛び出してきた。その内、エリューション化しているものは僅かだろう。どうやら、普通のダツも混じっているようだ。 一条の放った暗黒が、ダツの群れを包み込み、消し去る。 「おお、やった!?」 と、鳴神が歓声を上げた。 その時。 『避けて!!』 意識を海中に集中させていた汐崎の叫び声が脳裏に響く。 と、同時に鳴神と一条の眼下で、海面が渦を巻いた。 「ぬぉぉ!?」 「きゃあぁ!?」 驚きとも、悲鳴ともつかぬ叫び声。2人を襲ったのは、錐揉み回転しながら飛び出してきたカジキマグロだった。 隙を付かれ、2人はカジキの攻撃を受けてしまう。2人を巻き込んだまま、カジキは甲板の上を飛び、船の反対側へと姿を消した。 「おい! 2人が落ちた! 船を止めてくれ!」 船の操作をしていた燥焦院に、神城が声をかける。燥焦院が船を停止させると、ここぞとばかりにダツの群れが襲いかかって来た。それを神城は、受け流す。或いは、回避する。ダツのほとんどは、ただのダツでE化したものではない。 警戒すべきは、E化したダツと、カジキマグロだ。 「おい! 大丈夫か?」 燥焦院が水面に向かって声をかける。するとすぐに2人分の返事が返って来た。燥焦院が浮輪を放る。陸地まであと十数メートル、といった場所での出来事だった。 「うちが行きます。今のうちにできる精一杯のことを……!」 白い髪をなびかせて、水無瀬が2人を助けに向かう。いつまでも海にいたままでは、またいつカジキに襲われるか分かったものではないからだ。 「気をつけろよ! 2人は船着き場に上げろ!」 燥焦院が叫んだ。操舵輪から手を離し、鳴神がつかまっている浮輪を引く。 そんな彼目がけ、再び水中からカジキが飛び出してきた。 「う、ぉぉぉお!」 槍のように尖ったカジキの嘴を受け止める。しかし、勢いを殺しきれずに、燥焦院は操舵席から落下し、甲板の上を転がった。 甲板の上に立っている人影は、神城と汐崎の2人だけとなる。汐崎が燥焦院の治療をするため、彼に駆け寄った。しかし、そんな彼女目がけ、ダツが襲いかかる。 合計4体のダツ。4体とも、大きさが1メートルは超えているところを見ると、どうやらE化したダツのようだ。 汐崎は治療を諦め、防御態勢をとる。神城が2人を守る為に長刀を振るうが、いかんせん単体用の技しか持っていないため、手数が足りない。 「死ぬなら、腹上死がええやろ!」 そう叫びながら、一条が船に這い上がって来たのはその時だった。手の平に集めた、黒い閃光を放ち、汐崎に飛びかかっていたダツを弾く。 「おお、ナイスタイミング!」 神城が、目にも止まらぬ速さで長刀を振り抜き、一瞬でダツを真っ二つに斬り裂いた。 4体のダツの内、2匹は仕留められ、残る2匹は再び海中へと姿を消す。 「すまん、助かった」 汐崎による治療を終え、燥焦院が立ち上がる。操舵席に駆け上がり、操舵輪を握る。停止していた船は動きだし、船着き場へ。 船着き場には、海から回収された鳴神と、彼女を助けに行った水無瀬。それから、船着き場でガソリンの相手をしていた小鳥遊と綿谷がすでに待機していた。火傷を負ってはいるものの、船着き場組の2人に大事はないようだ。 それを見て、汐崎は安堵のため息を吐いた。 「フラッシュバン、お願いできる?」 「はい、任せてください!」 ダツの姿が確認できたと同時に、水無瀬が閃光を放つ。ビクンと、ダツの身体が痙攣し、動きを止めた。腹を見せ、水面に浮かぶ。 ダツに向かって、小鳥遊のボウガンと、綿谷の光の矢が突き刺さる。 「カジキマグロはともかく、ダツって食べられるのかしら?」 首を傾げ、鳴神が問う。しかし誰からも返事はなかった。 『後はカジキマグロだけのようですね。フツさん、船に向かって飛んできます』 カジキの接近を察知した汐崎が、警戒するよう皆に伝える。カジキマグロの狙いは、海神丸のようだ。海神丸の端に立ち、燥焦院と神城が海面を睨みつける。 『守られっぱなしじゃ借りが大きすぎるもの……。避けてください』 と、汐崎の声。燥焦院と神城の2人は咄嗟に左右に飛んで、距離をとる。2人が離れた直後、先ほどまで2人がいた場所に錐揉み回転しながらカジキマグロが飛び込んできた。 カジキが向かうのは、海神丸の操舵席。操舵席を壊すつもりらしい。 しかし……。 「受け流すのは、無理そうか」 と、カジキの嘴を刃で受け止め、神城が呟いた。 「海に落ちても、水中呼吸があるからオレは大丈夫だ」 と、具足に包まれた脚でカジキの身体を押し返しながら、燥焦院が言う。 カジキの勢いが弱まり、ドサっと大きな音をたてて甲板に転がった。 「わたしのコブシは、シビれるわよっ!」 そう叫んで、鳴神が飛び出した。 トドメとばかりに、鳴神がカジキ目がけ拳を振り下ろす。電撃と纏った一撃が、カジキマグロの頭部に命中する。 肉の焦げる匂いと、まばゆい光。 ビクン、と一度だけ大きく跳ねて、カジキマグロは動かなくなった。 「これにて一件落着ですねっ」 どこか安心したような水無瀬の声が、夜の港に響く……。 ●後処理 燥焦院が海神丸の船体を撫でる。出港前は新品同様だった船体も、昨夜の一戦で傷だらけになってしまっていた。 ダツやカジキによるものだろう。無数の穴が空いている。しかし、それでも致命的な傷は、奇跡的に負っていないようだ。 それを確認し、燥焦院は海神丸から離れ、仲間の所へ戻っていった。 「落ちなくてよかったぜ」 そう呟いたのは、神城だ。視線の先には、髪が濡れたまま焼いたダツを頬張る鳴神の姿があった。甲板に転がっていたものを回収してきて、調理しているのだ。 「ガソリン塗れになってそうだけど、洗えば食べれるわ、きっと」とは、鳴神の言葉である。 「お刺身にします? 炭火で焼きます?」 と、綿谷が小鳥遊に声をかけている。カジキマグロを調理できるのが嬉しいのか、綿谷の表情は笑顔に満ちていた。 そんな仲間たちを、汐崎は優しい笑顔を浮かべ、見つめている。 汐崎の隣では、水無瀬が嬉しそうにダツの焼き身を突いていた。 「喰えば大体問題ナッシングやなぁ」 ダツを摘まみに、酒を飲みながら一条がそう言った。 激しい戦いを終え、三高平の町に戻るまでの一幕である。 戦いと戦いの間に訪れた、わずかばかりの楽しい時間……。 なにはともあれ、港町を騒がせていたカジキとダツは無事殲滅された。 もうじき、夜が明ける。 朝日が昇ったら、アークに戻ろう。 なんて思いながら、燥焦院はカジキマグロの刺身に箸をのばした。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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