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行かないでは届かない

●二足百手で寂しがり
「さよなら」の四文字を口にされた時、笑えない冗談だ、と女は思った。けれど彼女自身の口元は、笑みを象ってはくれなかった。
 冗談ではない事など、分かっていた。エイプリルフールは、もうとっくに終わってしまっている。
 笑みの代わりにこぼれたのは、「どうして?」という疑問。それすらも掠れてしまい正しい声にはならなかった事に、女は気付かない。
 遠くなっていく愛しき人の背中。追いかけたくて仕方がないのに、足は思うように動いてはくれなかった。
 嗚呼、そうだ。自分はいつだって、こうやって誰かに置いていかれてしまう。
 ある日は両親、ある日は友人。そして、今日は、恋人。
 もう慣れた事のはずだった。今まで口にしてきた「さよなら」の数は、男より自分のほうが恐らく多いだろう。
 いつだって、こうやって、諦めてきたじゃないか。
 女は、必死に自分にそう言い聞かせ、涙を隠すように顔を両手で覆う。
 けれど、それでも――行かないで。
 嘘を吐いたのは女のほうだ。自分に「もう慣れた」と嘯いたけれど、孤独というものに女は何度経験しても慣れる事が出来なかった。
 だからお願いだから、行かないで。行かないで。いかないで。

 行かない手。

 不意に、男の背中に向かい腕が伸びる。しかし、女自身の腕は、彼女の顔を未だ切なげに覆ったままだ。
 男の背中を捉えたのは、女の周囲の地面からはえてきた、細く長い異形の腕だった。
 それも、一本、二本どころではない。数十、否、百に届く程の数の腕が、そこには蠢いていた。
 男の体はその腕の波にもまれ、たちまちに見えなくなってしまう。悲鳴すらも、その腕に飲み込まれてしまった。
 代わりとばかりに響くは、ゴリゴリとした鈍い音。腕が男を掴み、男にすがり、男を握りつぶす音。
 まるで捕食しているかのような、音。
 しばらくしてようやくその音は鳴り止み、辺りは静寂に包み込まれる。大人しくなった腕の指の隙間から、かつて男だったものがこぼれ落ちた。
「どこに行ったの? ねぇ、いかないで……」
 先の惨劇になどまるで気付かなかったかのような素振りで、女は呟く。きょろきょろと辺りを見渡し、愛しき人の背を探す。
「ひとりにしないで」
 返事は無論、返ってはこない。
 百本の腕とたった一人の女だけが、ただ、寂しげにそこには佇んでいた。

●足掻きに手掻けば、独りきり
 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)の、華奢な腕が彼女自身の髪をかきあげる。
「ノーフェイスが現れたわ。フェーズは2。そこまで強力な個体ではないよ」
 ただ――、と一拍置いてから、イヴは続ける。
「周囲の地面から、無数の紛い物の腕をはやしてくる。こっちが少し厄介。その腕で対象を絞め上げたり引っ掻いたり、周囲の者に殴りかかったり、遠くにいる者達を惑わしたりする」
 その上、その『腕』達は常に彼女を守ろうとするのだという。
 彼女自身に危害を加えるには、先に周りの『腕』を排除する必要があるだろう。
「彼女はこれから、道行く人に見境なく襲い掛かるようになる。今から急げば、犠牲は最初の彼だけにおさえられるはずだよ」
 襲いかかる、と言っても、当人はただ独りになりたくなくて手を伸ばしているだけであるのだろうけれども。
「正気は、もうあまり残っていない。泣いて寂しがるだけ。……周りの邪魔な手を排除して、辿り着いて」
 無数の『腕』に囲まれながら、一人泣いている彼女の元へ。


■シナリオの詳細■
■ストーリーテラー:シマダ。  
■難易度:NORMAL ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ
■参加人数制限: 8人 ■サポーター参加人数制限: 0人 ■シナリオ終了日時
 2012年05月14日(月)22:49
 お目を通していただきありがとうございます。
 『シマダ。』と申します。宜しくお願いいたします。

●任務達成条件
 敵エリューションの撃破です。

●場所
 夜の田舎道です。
 十分な広さがあり、戦闘の支障になるようなものもありません。明かりは少し心許ないです。
 あまり賑わっている場所ではありませんが、人が通りかかる可能性はゼロとは言い切れません。

●敵エリューション
 二十代前半くらいの、女性のノーフェイスです。フェーズは2です。
 もうあまりまともな思考回路は残っていないのか、周囲で起こっている事を把握する事も出来ず、ただ泣いてばかりいます。
 誰かが田舎道にいると、誘われるように姿を現します。相手が自分の傍にいてはくれないと分かったり、自分に危害を加えようとすると、百本程の『腕』を自分の周囲の地面から繰り出し、以下のような攻撃を仕掛けてきます。

 行かない手:近くにいる者を掴み、その体をぎりぎりと絞め上げます。呪縛の効果を持ちます。
 こっちにき手:遠くにいる者達を、誘うように手招きます。神秘的なダメージを与えると共に、対象を魅了しようとします。
 嫌わない手:まるで駄々をこねるかのように腕を振り回し、周囲の者達を攻撃します。
 いじめない手:抵抗するかのごとく爪で相手を引っかき、対象を出血させます。また、ブレイクの効果も持ちます。

 『腕』一本一本の攻撃力はそんなに強くはなく、素早さも程々です。しかし案外しぶとく、とにかく数が多いです。うじゃうじゃ蠢いています。
 ノーフェイス自身はそこまで強力ではありませんが、無数の『腕』に守られているので、まず先に『腕』を撃破しなければ彼女自身に危害を加える事は出来ません。


 以上です。皆様のプレイング、お待ちしております!
参加NPC
 


■メイン参加者 8人■
デュランダル
日野宮 ななせ(BNE001084)
ソードミラージュ
神城・涼(BNE001343)
クリミナルスタア
晦 烏(BNE002858)
マグメイガス
羽柴・美鳥(BNE003191)
ホーリーメイガス
雪待 辜月(BNE003382)
クリミナルスタア
遠野 結唯(BNE003604)
クリミナルスタア
式乃谷・バッドコック・雅(BNE003754)
レイザータクト
ミリィ・トムソン(BNE003772)

●伸ばした腕が掴むモノ
 いかないで。ひとりにしないで。去りゆく男に、そう嘆く女。
 何とも男泣かせな話ではあるが、熱烈過ぎるのは恐ろしい。
「ボタンのかけ違いで失った幸せなんだろうがな。人生とは毎度ながらままらなねぇものだ。だからこそ面白いわけだが、人ってのは中々そうも割り切れねぇと」
 結界を張り終えた『足らずの』晦 烏(BNE002858) が、夜の闇に仄かな火を灯す。
「因果なもんだ」
 彼の口元で、今しがた火をつけられたばかりの煙草が揺れた。
 『シトラス・ヴァンピール』日野宮 ななせ(BNE001084)も、強力な結界を張り神秘の秘匿と一般人の安全に備える。
 羽柴・美鳥(BNE003191)が無関係な者を巻き込まぬように深く注意した甲斐もあり、辺りにリベリスタ達以外の人影はなかった。
「一人になりたくない思いは、誰にでもあります。ただ、それが悪い方向に行っただけで、その気持ちを憎むことは出来ません」
 雪待 辜月(BNE003382)の横顔が、悲しげな色を纏う。
「女性がこれまでどれくらいの別れを経験してきたのか、それは解りません。ちょっと考えるところもありますけど、誰かを犠牲にしてしまうなら、倒さないといけないですよね」
 呟くななせに、辜月は寂しげな笑みを返しながらも頷く。「もう救えないのが、悲しいですね」
「人は出会い、別れるものだ。それがたとえ、望まぬ形だとしても」
 『アヴァルナ』遠野 結唯(BNE003604)の呟きが、闇に溶けた。
「なんつーか、うん。寂しいっつーのはわからんでもないけども。……いやあ、俺も割りと! こう! 声かけても、何言ってんの! で終わるぜ。って、いや、そういうのとは違うかもしれないけれども。アレだ」
 『冥滅騎』神城・涼(BNE001343) は言葉を探し出し、続ける。
「傍にいてくれる奴は、きっと何処かにいたんじゃないかなあ」
 静かな夜だった。暗い田舎道を、リベリスタ達が持ち寄った懐中電灯と月明かりが照らしている。
 人の気配に誘われ、件の女が顔を出したのはそれから数分も立たぬ内であった。
 ふらりと表れた、二十代程の女性。『彼女』はじっとリベリスタ達の方を見つめ、あのセリフを呟く。
「ねぇ、いかないで。ひとりにしないで」
 ひどく寂しげな声音。『女』の手が、リベリスタ達に伸ばされる。
 しかし、『女』に向かいこちらが手を差し出すわけにはいかない。一度近づいたら最後、『女』はほんの僅かだとしても離れる事を許さなくなるだろう。
「わりーけど、ずっと一緒に『居る』なんてのは不可能なのよ」
 『下剋嬢』式乃谷・バッドコック・雅(BNE003754) の言葉が、合図となった。
 手。
 地面から湧き出てくる、手、手、手。無数の手。
 『女』を守るように、そしてリベリスタ達を逃さぬようにと、夜道にて百の『腕』は踊り始める。
「さっさと始めるわよ」
 雅が武器を構え、仲間達も作戦通りの位置で地面から湧きだしてきた『腕』を迎え討たんと構える。
 幻想纏いから出したトラックの荷台の上に立った『戦奏者』ミリィ・トムソン(BNE003772) は、百の『腕』……否、その中央に守られるように佇む『女』を暗視ゴーグル越しに見下ろしながら、呟いた。
「任務開始。今からその手を、掴みに行きますから」

●唇持たぬ腕が笑う
「今は、何を言っても詮なきことか。俺ができる事は、コレ以上寂しさを感じないように還してやることだけ、だな」
 一刻も早く『彼女』の元へ辿り着くため、涼がギアを大きく高める。そのまま、流れるような速さで『腕』の波を斬魔刀・紅魔で薙ぎ払う。
 残影を纏った鋭い一撃を受け、涼の手近の『腕』達が悶えた。
(いかないで、一人にしないで。……その言葉は今より幼いかつての自分の姿と、何処か重なって)
 ――だから、その手を掴みに行こう。
 自分は『彼女』の愛した人や、家族ではない。それでも、『彼女』のその手を掴むことは出来ると思うから。
 決意を胸に、ミリィは身を守るべき動作の感覚を仲間と共有する。これで、『彼女』の元に攻め入るのがだいぶ楽になった。
「……なんですか……この腕の群れ……普通にホラーなんですが……。はぁ……愚痴を言っててもしょうがありませんね……纏めて……叩いていきましょう……!」
 蠢く『腕』の数に少々驚いたものの、すぐに凛とした態度を取り戻し、美鳥が体内の魔力を活性化させる。
 『腕』は手近にいた涼の体を掴み捻り上げようとするが、涼の速さには届かずにその手は空を切った。
「『これ』が件の標的か。……成程、まるで海坊主だな」
 その隙を、黒装束の女性は逃さない。
「あちらは杓子を求めていたが、こちらは心の器か。ならば、その器を使う、その手を、その肉体を、滅ぼそう」
 呟かれる言葉と共に、結唯のキレのある一撃が叩き込まれる。
「元々寂しがりだったのか、別れを積み重ねて心が摩耗したのか。どっちかは知らねーけど、何とも手のかかる人だこと」
 トラックの上で独りごちりながらも、雅は戦闘に集中する。
 辺りの明かりは十分とは言えないが、暗視ゴーグルをかけた彼女にとってさしてそれは大きな障害にはなりえない。
「行かないでというならば、その手を掻い潜り辿り着いて見せようかね」
 同じく暗視ゴーグルをつけた烏の二四式・改から、何発もの光弾が放たれ『腕』達を貫いていく。
 ふわり、とその時リベリスタ達に柔らかな翼がはえた。
「守られる分は、支援することでお返しします」
 辜月による、翼の加護だ。
 戦闘は、ただ相手を殴るだけのものではない。彼らの支援も、仲間達にとって大きな力となる。
 続け様にマナサイクルを使用しながらも、辜月は『腕』の動きに規則性や隙がないかどうか注視する。
 後衛の彼らを守る壁であり、敵陣に攻め入る槌。それが、ななせだ。
「こちらの『腕』はわたしに任せてくださいっ」
 仲間と声を掛け合いながら、僅かな輝きを放つ彼女は『腕』に連続で攻撃をくわえていく。
「阻まれていてやるわけにもいかんし、時間をかけたくはないんだ。邪魔な腕は斬り払って行くぜ……!」
 涼の速さは落ちる事を知らず、残影を纏った剣戟が再び『腕』達に襲いかかった。
 ミリィは視野を広げ、戦場全体の動きを把握。金色の瞳に真剣な色を滲ませながら、彼女は次の攻撃へと備える。
「……ホントうじゃうじゃですね……纏めていきますね……!」
 美鳥の言葉と共に、辺りを轟音と閃光が支配する。多くの『腕』達が、その落雷に貫かれた。
 『腕』達も黙ってはいない。
「いかないで、どこにも、いかないで」
 小さく囁くノーフェイスの『女』のためにと、リベリスタ達を誘うように『彼ら』は手を招く。
 幸運にもリベリスタ達がその誘いに惑わされる事はなかったが、彼らに襲い掛かる精神的な衝撃は相当なものだ。 
(人としての己からも愛想を尽かされ、その現実にも気付かぬままいつのまにか己を見失ったその心の器にあるのは、偽りの痛み――。偽物の涙を湛えるだけ。生きる事は痛みを、己を確立する事。『これ』は既に死んでいる)
 果たして、己を見失い、現実に気付かぬままこの世から消える事と、全てを知り消える事、どちらが幸せだろうか。
 攻撃の手を止める事もなく、結唯は思案する。
「……ヘッドってどこよ。まあ良いけど」
 弱っている『腕』へと狙いを定めた雅の、ヘッドショットキルが炸裂する。頭部……とは言えないが、その弾丸は確実に『腕』の急所を撃ち抜いた。
 烏の光弾も、それへと続く。リベリスタ達は着実に敵を撃破し、『彼女』へと向かうための道を作り上げていく。
 辜月の清らかな歌声が響き渡り、仲間達の傷を癒した。後方から戦場を見渡している彼は、仲間達に『腕』の隙が多い部分を伝える。
 それに応えるかのように、『腕』達に眩しい閃光が放たれる。ミリィのフラッシュバンだ。
 続けて放たれる、ななせの強力な一撃。弱っていた『腕』に的確に叩きこまれたそれが、『腕』の仮初の命を刈り取る。
「……にしても数が多い。それだけ寂しさが強かったってことなのかしらね」
 呟く雅の視線の先では、減ってはいるもののまだ多くの数の『腕』が蠢き続けている。
 すでに倒した『腕』も、まだ残っている『腕』も、全てはノーフェイスの『女』が創りだしたもの。寂しがり屋な『女』の、代弁者。
「馬鹿じゃないの。人間いつか死ぬんだからどうやったって別れなんてくるじゃない。そんな事気付いてるでしょう?」
 女は答えない。返ってくるのは、ただ一言。
 ――いかないで。

●伸ばした腕を掴む者
 長期に及んだ『腕』とリベリスタ達の戦いに、ようやく終わりが見え始めた。
 体力が高く数が多かろうと、攻撃にも回復にも抜かりがなく、何より仲間と協力し合うリベリスタ達の猛攻に『腕』達は劣勢を強いられていた。
 美鳥の放った雷光が、その残った『腕』達に襲いかかる。鳴り響く轟音。閃光。それらが終わった後、辺りを一瞬だけ静けさが支配した。
 リベリスタ達の前には、一人の『女』が立っている。邪魔な腕の姿は、もうそこにはない。
 『腕』のない『彼女』は、もはやまともな攻撃手段を持たない。ただそこで、寂しげに顔を覆い泣いているだけだ。
 ようやく何者にも邪魔されずに対峙する事になった『女』を、結唯は見据える。
「同情などせぬ。『これ』は死んだのだから。それが寿命だったのだから」
 ――それが、『別れ』だ。
 闇夜の中、黒を纏った彼女は舞う。結唯の一撃が『女』へと放たれる。
「さ、道も空いたし、狙っていきましょーか」
 『腕』の危険がなくなった事もあり、雅も前へと出て拳を構えた。お嬢の拳は、時に銃器の威力すらをも超える。甘く見てはいけないものだ。
 雅の強力な一撃が、『女』へと繰り出される。
「今晩和だな、お嬢さん。そしてすまないが、さようならだ」
 烏も、『女』に向かい星明りのごとき弾丸を撃ち出した。
 ななせに光で出来た鎧を付与した辜月が、ノーフェイスの『彼女』の方を見やる。
「大丈夫です。貴女の傍にいますよ。……一人では、ありません」
 一人のまま消えてしまうのは、寂しい事だ。故に、辜月は手を伸ばす。
 せめて、『行かないで』という女の思いを叶えてあげるために。僅かでも、彼女に救いがあるように、と。
「偽善で欺瞞かもしれないが、コレしかできないんだ。寂しい想いはこれで終わりにさせてやるぜ……!」
 叩き込まれるは、涼による神速の刃。怒涛の連続攻撃が、『彼女』の命を削り取る。
「大丈夫、一人じゃないよ。此処に居るよ」
 奏でるように紡がれた、ミリィの声。「さよなら」は言わない、代わりに「またね」の言葉を送りたいとミリィは思う。
 少女の手により繰り出された一撃は、鋭いものではあるけれども優しさを孕んでいた。
「……大分手こずりましたが……ようやくご対面ですね……。このまま一気にいきましょう!」
 美鳥の周囲に魔方陣が展開。魔力で作られた弾丸が放たれた。結唯の攻撃もそれに続く。
「ま、どうしてもないでって言うなら、あたしが心に刻んでおいてやるわよ。あんたって人間がいた事を」
 攻撃の合間にそう呟いたのは、雅だ。
「だから名前くらい教えな。そんで満足したら、逝きなよ」
 『女』は何も答えない。答える術を、もう持ってはいない。
 その口からこぼれるのは、相変わらずの一言。
「いかないで」
 そして、伸ばされる、手。百の腕ではなく、『女』自身の腕。
 誰に伸ばしても、届かなかった『女』の手。
 その手を、烏は確かに引き寄せた。まるで踊りにでも誘うかのように。
 両の手で隠されていた『女』の顔が、あらわになる。涙に濡れたその額に、烏の銃口が当てられる。
「泣き続けるのもこれで終わりだ」
 響き渡る銃声。倒れ行く『女』。
 短くも長いダンスパーティは今、終焉を告げたのである。

●寂しがり屋はもういない
 田舎道は、元の静けさを取り戻した。もうすすり泣く声は聴こえない。
「あの世でもメーワクかけるんじゃないわよ」
 雅の声が、動かなくなった『女』に向かい放たれる。相変わらずの強気な態度ではあるが、その声音はどこか柔らかく感じられた。
「……ま、なんだ。アレだ。来世は寂しい思いをしないと良いよな」
 祈るくらいはするぜ、と涼は言う。
「神統記にゃコットス、アイガイオン、ギュエスとヘカトンケイレスが出てきたものだが……、同じ百の手でも神代の巨人と比べるにゃぁ酷かね」
 今回は神話の話と言うよりは、悲しい恋物語って所だものなぁ、と。煙と共に、烏から言葉が吐き出される。
「心弱きゆえに、己を見失った存在、か」
 『彼女』はこの世からいなくなり、そしてそれが本当の別れとなった。結唯の胸を、僅かにやるせない気持ちが覆った。
 結唯は、あの世などは信じていない。けれど、そこで仲良くやれれば良いと思う。
「事は成した。さっさと帰ろう」
 結唯の言葉に、リベリスタ達は帰路を歩き始めた。
「さすがに、数が多かったですね」
 疲れの色を滲ませた溜息を吐き、肩から力を抜く美鳥。
「ホ、ホラーにしては時期が早かったですねっ……ちょっと怖かった~」
 ななせの言葉にようやく張り詰めていた緊張の糸はゆるみ、リベリスタ達の間に笑みがもれる。
 ミリィは最後に一度だけ振り返り、『女』を見やった。もう、『彼女』のその手がこちらに伸びる事はない。
 リベリスタ達の今日の仕事は、これで終わったのだ。
「任務終了。私はその手を、掴むことが出来ましたか?」
 返事はない。
 しかれども、昇り始めた朝日が照らす『女』の顔は、どこか微笑んでいるかのように見えた。

■シナリオ結果■
成功
■あとがき■
シマダ。です。『行かないでは届かない』、ご閲覧いただきありがとうございます。少しでも楽しんでいただけたのなら幸いです。
参加者の皆様も、お疲れ様でした。攻撃も回復も支援も抜かりがなく、見事腕をなぎ払い彼女の元に辿り着く事が出来ました。
皆様のお手伝いが出来た事を、光栄に思います。ご参加、ありがとうございました!
またご縁が御座いましたら、宜しくお願いいたします!