● 幼い頃からずっと住まっていた洋館だった。外の様子は知らない。 でも、何処かの一室であることしかわからない。 もう逃げ出す気力もなかった。逃げ出す度胸もなかった。 「薬指って心臓から一直線に続いてるらしいよ」 笑う男。 「所詮は夢物語さ」 同じ顔の男が笑う。 口元に浮かべた笑みの意味は嘲り。 名前を呼ぶ、彼の青い空の様な目が此方を見て、つまらなそうに言う。 使えないおもちゃって壊すしかないよね、と。 アーティファクトの収集癖。彼はアーティファクトが好きだ。其れ故に彼はフィクサードだ。 「やっと君がフェイトを得て幸せだよ、月鍵嬢」 「君がその翼を手に入れて幸せだよ、月鍵嬢」 これでようやっと君で試していい。 一般人なら死んでしまうリスクが高いけれど、君ならきっと少しは堪えれるはずだろう? ● 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)が見つめていた資料は彼女が最近担当したうちの一つだった。 「好きな人を殺してしまったフィクサードと彼女の使ったアーティファクトの事件の資料よ」 『爪先立ちの恋』と呼ばれたアーティファクト。その効果は愛しい人に愛してもらえる代わりに殺意溢れたE・フォースを生み出すというもの。 結果そのアーティファクトを使用したフィクサードは愛しい人をE.フォースの手で殺され戦意を喪失している所をリベリスタ達に保護された。 「愛世って一人のフィクサードがそれを使っていたでしょう?彼女、今はアークに来ているのだけど」 ちらり、と背後を見たイヴは後ろに立っている桃色の瞳をした少女を見やる。 「こんにちは、元フィクサードで今はアークに居ます、愛世です」 助けてもらった手前に何なのだけど今回は依頼があってきたの、と少女は言う。 モニターに映し出されたのは愛世とよく似た小さな少女――いや女性だ。 「……これでも23歳らしいけど。彼女は愛世の姉。二人のフィクサードに監禁されてるの」 「監禁場所は森の奥の寂れた洋館。 私はあの時『爪先立ちの恋』の実験の為にその洋館から外に出されてた」 ――そこであなた達の仲間に助けられたの。 実験?そう聞いたリベリスタに彼女は何処か困ったように笑う。 「そう、人にアーティファクトを使わせてその効能を見てるんだって。私は良い実験対象だった」 フィクサードのアーティファクト収集癖。収集したアーティファクトを彼女達で試している。 何の為かは分からないけれど、『誰か』に頼まれたのかもしれない。 その真相は闇のままだ。 「姉さんの監禁されていた部屋の近くに『絡める指先』ってアーティファクトがあったはず」 効果は知らないが、嫌な予感がすると愛世は呟く。 女は最近フェイトを得た。愛世が居なくなった今実験に使われるのは勿論彼女の姉だろう。 このままでは彼女の姉がそのアーティファクトを使用することになるだろう。 何かが起こってからでは遅いのだ。 「姉を――『月鍵』とアーティファクトの確保、お願いしていいですか?」 ● 愛世は一息ついてから洋館の間取りを説明し始める。 大広間から見えるだけで扉は9つ。横に3つずつ、縦に3列に並んでいる。 バラバラに1~9のラベルが扉には張ってある。 洋館の何処に居るかは彼女もよく分からないという。 だが、フィクサードらに聞かされ続けていたヒントを愛世は知っていた。 その1 『1』の上には『3』の部屋があり、『3』の右には『8』の部屋があります。 その2 『1』の部屋は『7』の部屋とも接しています。 その3 『6』の部屋は『3』の部屋と『8』の部屋と同じ階にあります。 その4 『2』の部屋は、『5』の部屋と『8』の部屋とのみ接しています。 姉は『2』の部屋に。 アーティファクトは『5』の部屋に。 「簡単だと思うの。でも、あいつら――フィクサードの美月と観月はとても強いよ」 平気で人の事、玩具にするんだ。 愛世は掌に爪を喰いこませ、何かに耐える様な表情で俯く。 「逃げ出してきた私はまだいい。でも、掴まったままの姉は……」 絞り出した声は懇願。 「ごめんね、どうか、助けて」 少女は祈るように小さくつぶやいた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:椿しいな | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年05月10日(木)00:14 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 澄み切った、どこまでも続く空をもう随分とみていない気がする。 翼をもった妹と、何もなかった私。 空を得た妹と、何もなかった私。 「フライエンジェへの覚醒は」 自由を夢見たが故なのか。『リベリスタ見習い』高橋 禅次郎(BNE003527)は寂れた洋館を仰ぎ見た。 まるで御伽噺。囚われの姫君――だなんて、言えば聞こえはいいのだろうか。 自由に空を飛びまわる事を夢見たであろう一人のおんなを思い浮かべて彼は拳を固めた。 「足枷は俺達が叩き潰す」 何より自由を与えて遣ろう、そう彼は思う。 「まるで籠の鳥」 『Star Raven』ヴィンセント・T・ウィンチェスター(BNE002546)はその背の黒き翼を揺らす。 ワタリガラスの翼は何処へでも飛んでいくことができる。其れ故に、彼は囚われた月鍵という女の事を思うと放っておけなかった。 「彼女にも空を飛ぶ自由を感じて欲しいのです」 何より自由を愛する鴉は翼をもつ同胞を救出する事を胸に誓った。 月鍵――愛世という少女が助けてと願った女。 「……姉と妹、か」 『誰が為の力』新城・拓真(BNE000644)は目を伏せる。 彼の記憶の中に新しい妹を思いやる優しい姉の姿。今回もまた姉妹の物語だ。 彼の望む優しい世界を掴む為にはこの姉妹を救い上げ笑顔を与えて遣る他にはない。 「――……己のすべきことは定まっている」 彼は剣を抜き一閃。 彼の剣は彼の望む未来を切り拓く為に振るわれる。 『子煩悩パパ』高木・京一(BNE003179)は任務を確認するかのように一度仲間たちを振りかえる。 彼は今回大切な役目を得ているのだ。 翼を与える。それはまるで自由を与えるかのように――月鍵の救出と同等の意味を持つ。 戦闘ではあまり役に立てないという京一の左の薬指でキラリと光った指輪に『番拳』伊呂波 壱和(BNE003773)は首をかしげる。 「エンゲージリングって」 「婚約指輪ですね」 頷いた京一に壱和はもう一度指輪を見つめてから俯いた。 前回――月鍵の妹である愛世が使った『爪先立ちの恋』は想い人の意識に作用するもの。 壱和の予想では指輪の拘束性を考えるに支配力の強いものとなった。 アーティファクトの効果は様々。それが気になるのも人間の性故に仕方がない事なのだろう。 だが―― 「女の子はモルモットじゃないんです。監禁して、自分たちのために働かせるなんて、」 我慢できません、と優しい赤茶色の瞳に涙を浮かべて呟く。 壱和の言葉に頷いたのは『下剋嬢』式乃谷・バッドコック・雅(BNE003754)であった。 「実験すんなら自分の身でやりなって話しだわ」 洋館をにらみつけた雅は足を踏み出す。彼女のふんわりとした金の髪が風に揺れる。 黒い瞳は爛々と輝いた。 彼女は、強い意志をその眸に宿している。 その隣で打って変ってのんびりとした態度の『働きたくない』日暮 小路(BNE003778)は小さく欠伸を漏らす。 幼い頃から拉致監禁。それだけでも怒る人間は怒るし十分な事件であるというのに小路は欠伸で浮かんだ涙を拭きとる様に目を擦る。 「ご飯くれて寝てていいならアリかもしれないですけど」 「ないわよ」 やんわりと雅が言う。其れに小路もうむ、と小さく頷いた。 「なんかやらされてるんですよね?ひどい話ですよね」 寝る場所があって、食べさせてくれて、動かなくても生活できる。それってとっても天国。 小路は伸びをする。 ――ああ、仕事しなくてもいいならいいのになあ ● 洋館の扉に触れた『鏡花水月』晴峰 志乃(BNE003612)は一人の少女を思い出す。 愛する人を失った愛世。 「これ以上、失う想いをさせたくありません」 彼女は誓う、想い人を自らの手で失った一人の少女の為。空を掴めずにただ一人囚われた一人の女の為に。 ギィ、と鈍い音と共に大きな扉が開かれる。 ずらりと並んだ九つの扉。正面に立っているのは二人の男。青い青い晴天を埋め込んだような瞳が4つ笑った。 「これはこれは」 「お客様だ、お客様だ」 にこりと笑った双子のフィクサードを見つめて拓真はその身に闘志を漲らせる。 瞳を伏せて集中力を強くしたヴィンセントの背中で揺れるはずの鴉の双翼は彼の超幻影で隠されてしまっている。 「あんたら?人で実験してるってやつは」 実験をするなら自分の身を以て行えばいい――死んだら運がなかった、それだけである。 雅の胸に燃え上がる炎は戦闘への期待と、ある種の怒りか。 人に押し付ける愚かな行為を行う二人の男を見つめ、雅は笑った。 震えていた小さな犬はキッと前を見つめる。子犬の瞳はすべてを見通す様に広い視野を得る。 大広間で震えた子犬の目が射るのはやはり二人の男。 「君たちは何の用事かな?」 「ああ、アークの人なのかな?」 さあ、どうでしょうね、とけだるげに答えた小路は仲間たちへと守りを与える。 ひゅん、と音を立て椅子がリベリスタ達へと襲いかかる――だが、遅い。 雅のバウンティショットは的確に椅子へとブチ当たり、其れを弾き飛ばす。 前衛へと躍り出た拓真は目の前で再度襲いかかろうとした家具たちへと無数の穴を開け、背後の仲間たちを守るかのように前で舞う。 背後で戦闘指揮を以て仲間たちを支援する京一から翼を与えられる。 空を舞うことのできる小さな翼を背に得た禅次郎は京一を守る様に前に立ち、攻撃を伺う無機物へと暗闇を放った。 すべてを覆い隠す様な暗闇。彼のダークナイトとして得た能力。 瞳を伏せ、集中を重ねる壱和の目は的確にゴーレムを追う。広い視野を得た小路は壱和と二人、死角から襲いかかるゴーレムに気付き頷きあう。 いらっしゃいませ、と言わんばかりに口元に笑みを浮かべたヴィンセントが椅子を打ち抜く。 二人のレイザータクトの声を聞いて京一は背後で仲間たちへと指示を繰り出した。 確実に一体ずつ落とすべきだ、と雅は宙を舞っていたカーテンと思わしき物体を撃ち抜く。 他のものに隠れて其の身を隠していたゴーレムを一体たりとも逃さない。 リベリスタ達の全体攻撃により、ゴーレムたちは疲弊していっていた。 目の前で突進してくる机に志乃が黒き気配をぶち当てる。其の背後で双子が動く。 まるで彼の心を映し出す様な黒きオーラは前衛でゴーレムを相手にしていたヴィンセントの腕を掠る。彼の腕から少しばかり力が抜けた様にも見受けられた。 背後、まったく同じ顔をした片割れも動く。前衛へと飛び出した片割れ――美月であろう。彼の装備は赤く染まり、拓真目掛けてその剣を振りおろす。 「狙いは何だい?俺かな?観月かな?それとも、アソコかな?」 彼が指さしたのは九つの扉。 口元に笑みを浮かべた拓真はその足を壁に付いて、剣を振るい全身を奮い立たせる戦闘への気迫を美月へとぶつける。 その攻撃はまるで狙いはお前だ、と応えるかのように鋭いそれであった。 瞳を伏せる。壱和の集中は深まる。 宙をふらふらと飛んでいた椅子へと真空刃がぶち当たり、埃を散らしゴトリと落ちる。 小路はその攻撃を与えてもなお、何処か眠たげな眼差しを敵へと向けていた。 ゴーレムの数はおおよそ7。 暗闇で包み込んで、後衛を守るダークナイトの禅次郎の目は目の前のダークナイト二人へと向けられていた。 彼は同じダークナイトで有るがゆえにダークナイトの能力の高さを知っている。 「そろそろか」 ぼそりと零した言葉は翼を得た仲間たちが動きだす予兆。 彼は、口元に笑みを浮かべて美月を見つめた。 背後で京一は邪気を寄せ抜けぬ其の光で仲間たちの体を苛むモノを取り払う。 ふと、目を開いた壱和はしっかりと敵を見据えて宣言する。 「こんな場所でいっぱい変なゴーレム作って、お山の大将決め込んで何様のつもりですか!」 言葉は、まだ甘いものであった。 だが、敵は壱和へと注目する。お可哀想に、まるでそう紡ぐかのような言葉に観月は目を見開いた。 すべての攻撃が壱和の方へと向く。飛んできたゴーレムから壱和を守るかのように雅は滑り込み、バウンティショットで応戦した。 「あんたら、それなりに強いんでしょう?」 にやり、と笑った雅。 じゃあ、あんたらを倒したら、『ちょっと』は足しになるかしら、そう笑った彼女はゴーレムの攻撃を受ける。 襲い来るゴーレムがぶわわ、と広がった暗闇へと囚われる。 放ったのは禅次郎だ。彼は笑って美月を見つめる。 「お前らって六道派だよな?曲がりなりにも組織に所属しているのに配下が無機物だけとか」 可哀想だとでも罵るかのような彼の言葉に青い空を映したかのような瞳がぎろり、と向く。 「友達いないだろ?」 その言葉に美月は禅次郎へと向き直った。 「お前、喧嘩打ってんの?」 禅次郎はやった、とばかりに笑う。背後に立っていた京一は仲間たちに頷き、もう一度小さな翼を彼らに与えた。 残っていたゴーレムは4体。数は少ないがすべて上空にふわふわと浮かんでいた。 「一気に行くぞ、元より時間を掛ける心算は毛頭ない…!」 ふわり、翼を得た拓真は目の前に居た椅子へと斬りかかった。 翼をもたないと空を飛ぶことに憧れる――志乃はふわり、と体を浮かせる。 力離れた足元に、何処か不安を覚えるも、彼女はそのまま目指すべき部屋へと飛行した。 彼女の背を追う様にゴーレムが踊り舞う。 ふわり、と鴉の翼を羽ばたかせたヴィンセントはハニーコムガトリングでゴーレム達を彼女から引き離す。 広間では怒りを付与された観月が小さな子犬を庇う雅へと攻撃を繰り出していた。 同じく、頭に血が上りやすいとされていた美月が禅次郎へと向いていた。 その様子を確認してから京一は指示を飛ばす。攻撃を繰り出している美月をせせら笑うように――いや、引きつけ話さない様に京一は言う。 「敵の背を見せるほど貴方達はひ弱なのでしょうか?」 肩が揺れる――ああ、禅次郎に向かっているのは美月だ。 アーティファクトに固執している観月ではない。 「六道のフィクサードとは思ったほど強くないのですね」 やろう、と美月が唇をかんだ。その直線上に禅次郎も京一もいる。 彼は其のまま飛び出し、漆黒の光をその手に溜め、放つ。光に呑まれる前に禅次郎は貫かれるその身を其のままに、京一を庇い、笑う。 「ハッ、其の程度かよ!」 彼の挑発はまだ続く。勢いに任せた挑発。 美月の体は向き直った禅次郎は自身の負った痛みを美月へと繰り出した。 ぎい、と扉を開く。 机の上で輝いているアーティファクトを握りしめた小路は頷く。 「さあ、早く帰って寝ますよ」 彼女の目標は早期解決早期撃破。まだ追手は来ていない。 扉の所へと立っていた拓真はその身を一気に大広間へと投げだす。 下に居たゴーレムをオーララッシュで切り裂き口元に笑みを浮かべた。 残るゴーレムは3体だ。 翼をもった観月が怒りを取り除き、引こうしようとした所に黒き鴉が舞う。 その動きを阻止し、行く手を阻んだ黒い鴉は開けられた扉の方を仰ぎ見て笑った。 開かれた扉の奥では志乃はつい最近彼女が相対した少女とそっくりな外見を――いや、彼女より幼い外見をしたフライエンジェと向き合っていた。 「初めまして、リベリスタ組織アークに所属する晴峰志乃と申します」 彼女は静かに笑う。大きな桃色の瞳を泣きそうなほどに歪めた月鍵という名前の女は「しのさん」と呟いた。 「愛世さんに貴女について『どうか助けて』と頼まれました」 だから、私を信じて―― そう手を伸ばした志乃に月鍵はゆっくりと手を伸ばし、頷いた。 ああ、私を助けて。 雅の放った攻撃は観月の翼の付け根へとあたる。 少したりとも、彼らをあの部屋には近づけやしない、と口元で笑む。 「弱い者虐めて実験する事しかできないよーなヤツらに負けるはずがねー!」 にたり、と笑った雅は美月と観月に向き直り叫ぶ。 傷を負っている事も気にせず少女は笑う、笑う。 「違うってんならかかってこいよ!」 思いっきり殴り返してやるからさ! 彼女の言葉に頷く様に、泣き出しそうなほどに瞳を歪めた壱和は残っていたゴーレムへと其の身を踊り出し攻撃を繰り出す。 ガタ、ガタンッ―― 大げさな音を立てて落ちた家具類を見つめ、禅次郎は笑う。 「友達、いないだろ?」 再度その言葉を告げられた美月は彼が脅威だと思っていた技――苦痛と共に箱の中へと隠してしまうもの――を繰り出そうとする。 京一の癒しを受けて、身構えた禅次郎は微笑み、自らの痛みを美月へと繰り出した。 美月が技を繰り出すすきをついて、自らの闘志すべてを拓真はぶつける。 舞った小さな鴉が美月の体を蝕んだ。 その様子を遠目から見つめていた男は小さく舌打ちをした。 ――ああ、これでは。 ――負けてしまう! 暗闇が、美月を取り囲む。 笑ったヴィンセントが美月へと攻撃を繰り出し、観月を見つめた。 「自分の翼をもがれぬうちに失せる事です」 その言葉にまるで頷くかのように観月は後退する。 手にしたのは四角い箱。 ルービックキューブの様な其れをかちかちと組み合わせると観月の体は其のまま其れと共に何処かへと溶けた。 ――その様子をじっと見つめていたのはアーティファクトを保護した小路であった。 ● しん、と静まりかえったその洋館の一室。 震える足で立ち上がった月鍵にヴィンセントは微笑みかける。 「飛ぶのは怖いですか?」 大丈夫、貴女の翼は貴女を決して裏切りません。 その言葉に頷いた月鍵がゆっくりと翼を動かす。 ――誰かの所有物ではなく自分自身になるために。 「自由、自由か」 「そう、自由になるために飛んでください」 貴女が翼を得たのはきっとそのためだと僕は思います。 その言葉にゆっくりと羽ばたいた月鍵は地面へと足をつく。其のまま膝をついた彼女を京一が支えた。 大丈夫か、と問うた拓真に深呼吸をして月鍵は頷いた。 「これからどうするかは、君が決めれば良い」 ただ、妹には会ってやってくれ、と付け加えた言葉に月鍵が「愛世?」と聞いた。 「愛世さん、心配してましたよ」 隣にしゃがみ、心配そうな眼差しで月鍵を見つめた志乃。 彼女の身に降りかかった不幸が口を衝いて出そうになり、言い淀み視線をそらす。 「あの子に何か、あったのね」 「どうか、彼女の為にも傍に居てあげて欲しい」 お願いします、と笑った志乃に月鍵は笑った。勿論、という様に。 家族、決して解けやしない絆。素晴らしく時に束縛にも変わってしまうソレ。 彼女らの心の傷を想い、志乃は瞳を伏せる。 「じゃあ月鍵は良かったらアークに来なよ」 にこり、と微笑んだ雅は強制はしないと慌てて付け加える。 可愛らしい少女のそれに月鍵は思わず笑みを漏らした。 「少なくともあの部屋よりは自由な場所よ」 「それに三高平の空を見せてあげたいです」 雅とヴィンセントの言葉に月鍵は頷く。 アーク。アーク。妹と自分を救った心優しい人たちがいる場所。 「今後は妹さんと相談して決めるといいです」 ね?と笑った小路にほっと息をついた月鍵は頷いた。 「アーク」 「そう、アーク」 もう一度、繰り返す。 「アーク……」 彼女の目の前で――どこか、誰かの微笑む未来がちらついた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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