●『土俵合わせ』の復活 館山秘密軍事基地。 名前とは裏腹に、軍とは一切の関係が無い小規模リベリスタ組織の拠点である。 一件ただの大型ガレージだが、基地と言うだけあって第二次世界大戦中に使われた銃器や重火器、刀剣などがレプリカを含め大量に保管されていた。だが趣味の道具である。リベリスタが武器として使うものではない。 今日も彼らは己の自己満足と地域の平和を守るため、迷彩服に身を包んで出撃準備にかかっていた。 そんな時である。 鳴り響くブザー音。 縦開きの電動ガレージがゆっくりと上昇していく。 AFライフルを手に何事かと振り向いたリベリスタ達は、光景に唖然とした。 昼の逆光を浴び、ガレージの外で仁王立ちする者がいた。 「だ、誰だ!」 「フィクサードと断定……数、一!」 「一人で乗り込んできただと!? 馬鹿を言うな!」 司令官らしき男が口角泡を飛ばした。小規模とは言え10人で活動するチームである。いくら腕が立つからと言って単騎特攻などあり得ない。 そう思った途端、人影が激しく跳躍。両手に持った奇妙な武器を振りかざした。 一見トンファーの棍を二つ重ねにしたような形状をしていて、持ち方もトンファーそのものだ。彼はそれをぐるりと回し、複雑に変形させた。 するとどうか。彼の手には二丁のロングライフルが握られているではないか。 「――!」 叫び声がしたと思った矢先、頭上からのハニーコムガトリングが浴びせられる。 弱い隊員達が悲鳴をあげて倒れた。 「応戦だ! 所詮相手は一人……我等の誇りにかけて!」 一斉に頭上へライフルを向ける。すると相手は武器を再びトンファー持ちして落下。暴れ大蛇を繰り出した。 まさか格闘技に切り替えられると思わなかったリベリスタ達は防御もろくにできずに血を吹いて転がった。 「無茶苦茶だ、どんな武器を」 「――」 司令官の後ろにするりと立つ男。 彼は武器の先端から折りたたみブレードを展開させると、流れる動きで喉をかき切った。 膝から崩れ落ち、顔を血の海に沈める。 その様子を、男は静かに見下ろしていた。 彼の名は『土俵合わせ』路六剣八。 既に死んだ筈の男である。 ●『裏土俵合わせ』 六道に所属する謎の男『ホワイトマン』。 彼の仕掛けた『魔剣化のアーティファクト』により、これまで二つの事件が起きていた。 対鉄拳戦。対白田剣山・富船士郎戦。一進一退の攻防となっており、当初送られてきたビデオレターの言葉通りこれがゲームでであるならば、同点の引き分け状態と言えた。 そして今――。 「死んだはずの路六剣八がリベリスタ組織を襲撃しました。恐らく魔剣化したものと思われます」 魔剣化。ネジ状のアーティファクトを死体の脳に寄生させることにより、身体能力を大幅に強化した上、元の戦闘能力を活かして稼働させられるというものである。 これまでの戦いから分かっていることは三つ。 稼働中はただの人型殺戮兵器であり、慈悲や感情が存在しないこと。 もともと達人級の戦闘能力を有していないと強化がされず、弱いフィクサード程度の戦闘能力しか発揮できないこと。 ある条件においてのみ、自我の復活が確認されていること。 「現在路六は壊滅させたリベリスタの拠点である大型ガレージで停止。殺害した十人のリベリスタ達を魔剣化し手駒に加えています。今が、人目につかずに攻撃するチャンスです」 デスクに手早く資料が並べられていく。 これまでの戦闘記録。 新たに装備されている新兵器の情報。 そして路六剣八が殺戮兵器となってしまったことで生まれた『裏土俵合わせ』の情報である。 「詳細は資料に記述してあります。くれぐれも……注意して下さい」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:八重紅友禅 | ||||
■難易度:HARD | ■ ノーマルシナリオ EXタイプ | |||
■参加人数制限: 10人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年05月11日(金)00:40 |
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■メイン参加者 10人■ | |||||
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● 路六剣八という老人がただの人間であったことを、今は語っておくべきだと思う。 リベリスタ達が闘志を燃やしたのも、怒りに震えたのも、彼があくまで人間であり、そんな人間を文字通り物理利用する男が許せなかったからである。 この物語は怒りと悲しみの戦憚であり、一人の男が既に死んだのだと言う事実を、命がけで照明する探話なのだ。 風と海の音が混じる。 『T-34』ウラジミール・ヴォロシロフ(BNE000680)は皺の多くなった目尻を下げ、遠くのさざ波を眺めた。 幾多の泥や血を吸ってきたであろうコートが重々しく風に靡き、音もなく彼の足を叩いた。 「死して尚遺体を利用され、生前の生き様すら否定されるか」 心が凍えるとされる北国で突撃銃を担いでいた人間なら、その言葉の重さが分かる筈だ。 国の為、もしくは家族、同胞の為に、肉塊の一片になろうとも役に立とうとする精神が、彼には少なからずあった。 しかしコレはどうか。 他者の悪意であり、憎むべき尊厳への侵略である。 ウラジミールは軍人であると同時に戦士であり、それ以前に人間だった。 尊厳の殺害を、許すことはできない。 『光狐』リュミエール・ノルティア・ユーティライネン(BNE000659)が目を反らして首を鳴らした。 「『土俵合わせ』……」 路六剣八が死んだのはそれほど昔の話ではない。 あの日、その場に居合わせた……否、その場で殺したリュミエール達は彼がどんな人間なのかを知っていた。 二つ名の由来が万能性にではなく、如何なる状況であっても相手と同じ目線で戦うと言う心意気にあることも知っていた。 だからこその激戦であり、だからこその苦戦だった。 「二度とは逢えぬと思うておったぞ」 『紫煙白影』四辻 迷子(BNE003063)は独り言ち、薄く目を開いた。 長い細道の先に大きなガレージがある。 自らの影は長く伸び、後ろ路を引いていた。 過去を知らず、自分を知らず、創れぬならば壊すほかあるまいと生きてきた迷子である。 この道の先にあるのが死か生かは分からない。過去は勿論、未来も分からぬのだ。今すら、迷子にとっては曖昧なものでしかない。 だがこれだけは分かっている。 「決着を、つけような」 『土俵合わせ』というのは単純なものだ。剣には剣、大砲には大砲、小刀には小刀でと目まぐるしく武器を持ちかえるスタイルであり、はっきり言えば無駄な動きだった。 そんな彼を指して、『自称・雷音の夫』鬼蔭 虎鐵(BNE000034) はこう述べた。 「素晴らしい武人だったでござる」 彼の剣を剣で受け、剣が折れても鉄パイプで、それが折れても鉄骨で受けた。威力も強度も虎鐵の刀の1割にも満たないだろうに、それでも彼と渡り合ったのだ。 だからこそ、剣八がこのまま人型兵器として運用され続けることを許すわけには行かなかった。 「私も……一剣士として、見るに忍びないですね」 『蒼銀』リセリア・フォルン(BNE002511)が背筋をぴんと伸ばして言った。 小さく頷く『フェアリーライト』レイチェル・ウィン・スノウフィールド(BNE002411)。 「報告は読んだよ。武器の達人で、戦の達人なんだよね」 この結末じゃ浮かばれないとは思う。 けれどそれ以上に、自分自身が見ていられないのだ。 たとえ死人でも、救うことはできる筈だ。 そう思う。 「辿りついた先がこれでは何とも無念。最後に自分を取り戻して頂くためにも」 『超守る空飛ぶ不沈艦』姫宮・心(BNE002595)はガレージの前に立って、アクセスファンタズムから鎧を呼び出した。 「守るデス」 巨大シャッターの脇には、開閉スイッチがついていた。 防犯カバーは既に破壊されている。 『終極粉砕機構』富永・喜平(BNE000939)はスイッチごと破壊するつもりでボタンを殴りつけた。 けたたましいブザー音と共にシャッターが開いていく。 こきりこきりと拳を鳴らす『人間魚雷』神守 零六(BNE002500)。 「二階級特進後に帰ってくるのは感心しないぜ。文字通りの天下りってか……そのまま地獄まで落としてやるよ」 「意見が合うわね。黄泉の世界へ送り返してあげましょ。それが」 『ヴァイオレット・クラウン』烏頭森・ハガル・エーデルワイス(BNE002939)が目深に帽子をかぶり直す。 「私達にできる救済よ」 開かれたシャッターの向こう。 背後からの日差しが地面に乱反射し、座して待つ兵隊達を照らし出した。 ガレージの両端には銃器や刀剣をストックする棚が並んでおり、奇妙な厳つさを醸し出している。 だがそれ以上に――。 「…………」 兵隊の前に立ち、仁王立ちする一人の老人。 魔剣・路六剣八。 彼は閉じていた両目をカッと開いた。 待っていたぞと、言うかのように。 ● 『ホワイトマン』はマックスコーヒーを噴出した。 「ネジが無くなっただと?」 「ええ、きっちり10個。安置所から消えていました。監視カメラには態々顔を見せるようにして魔剣路六剣八が」 「あの野郎……」 缶コーヒーを脇に置いて、『ホワイトマン』は額に手を当てる。 「魔剣化は事前承諾ってルールを一人で無視しやがって」 「路六剣八から引き出した能力は『極現地調達の最大利用』ですからね。旧現地(ここ)のネジと現地(あそこ)の兵隊を最も利用できる道具だと判断したんでしょう」 「しがらみを取り払った人間ってのは怖ぇなあ……となると、リベリスタ連中に対してイーブンじゃなくなるんじゃねえのか?」 「はあ、まあ。今からでも遅くないですから、自分の頭ショットガンで飛ばしてみるのは如何です?」 「どこのロックスターだよ。しかし剣八が今の所一番ネジの性能を引き出してるからな、このままナシにすんのもな……よし、バックレるか」 「何がよしですか。この程度の会話はどうせ筒抜けですよ、連中」 「だよな。あーあ、金や命で解決できる世界が羨ましいぜ」 「実際の所はどうなんです。剣八はアークの精鋭陣に勝てそうですか?」 「さあな。どっちでも長介との約束は果たせるからいいんだが……何せ剣八だからな……」 ● サブマシンガンの弾が横一文字に走る。 エーデルワイスは身をギリギリまで低くして弾をかわすと、胸の前で十字を切った。 帽子についたルーン文字の飾りがちらちらと揺れる。 このちぐはぐさ。文化に阿らないのがエーデルワイスという女である。 兵隊の一人は弾を回避されたと見るや、狙いを付け直してエーデルワイスにサイトイン。 だが頭上から飛び込んできた喜平の姿には気づかなかった。 なんと言ってもトラック数台は格納できる大型ガレージである。 天井の高さは数十メートルはある。その高さから人体が落下してきただけでも相当なダメージだと言うのに、彼は手にした鈍器を相手の頭部に叩きつけた。 トマトのように弾ける兵隊の頭。 「中身のネジだけ壊せなかった。ま、しょうがないか……さようならご同業」 両手で引っこ抜くようにして鈍器を担ぎ上げる。 運用方法はまんま鈍器だが、カテゴリーとしては散弾銃に入る。更に言えば、先ほどの『高い所から落ちてきて叩き潰す』がアルシャンパーニュだと言うのだから、彼のちぐはぐさは大したものだった。 そんな喜平に銃の狙いを定める兵隊。だがそれをエーデルワイスのB-SSが邪魔をした。 奇妙なダンスをひとしきり踊って、最後は鼻から上だけを消失させて倒れた。 なんとまあ脆いことだ。 胸を反らすようにして立つエーデルワイス。 「ねえ、一つ気になることがあるんだけど」 「奇遇だね、俺もだよ」 自分たちに攻撃した兵隊は、先刻喜平が叩き潰した一人だけだった。 後の九人は狙いこそ定めるものの攻撃に移らず、じっとこちらの様子を伺っているのだ。 最初は自己強化にでも時間を費やしているのだろうと捨て置いたが、どうにも様子がおかしい。自己強化をするなら全員でやれば効率が良い筈だ。なのに何故一人だけ攻撃に参加させているのか。 まるで『こいつから先に倒してください』と言っているようなものだ。 「別にいいんじゃない? 楽に倒せるってものだよ」 愉快そうに肩をすくめる喜平。その言葉を聞いて、エーデルワイスはぴくりと眉を上げた。 「喜平さん、力の限り避けられますかしら」 「は?」 会話をしながらも喜平は目まぐるしく動いている。 攻撃を引きつける意図があったからだが、そもそも広いガレージ内ではいくらでも動くことができた。 そんな彼の背後に、兵隊が一人回りこむ。 コンバットナイフを首の動脈にぴたりとあて、一息に切り裂いた。 「ァッ……!」 声はろくに出ない。代わりにひゅるうという気の抜けた風音が出ただけだ。 続けざま、およそ7発のヘッドショットキルが喜平の頭部に集中した。どうなるかなど、語るべくもない。 次の兵隊に斬りかかろうとしていた虎鐵が反射的に叫んだ。 「喜平!」 「生き……てるよ」 如何なる手段によるものか、フェイトを燃やして喜平は元通りに復活した。 「今、正確に俺の弱い部分だけを狙って」 「まず最初にスキャンをかけてきたのね。九人も割いて入念なこと……」 魔剣化した彼等を『効率的な殺戮兵器』と聞いて、真っ先に考えたのが『回復担当を潰すこと』だったが、この時剣八率いる彼等が行ったことは、正確な戦力分析と、『戦闘力が高くかつ短時間で倒せる人間から順に潰すこと』だった。 弱点が大きい反面命中率や攻撃力に秀でる喜平から狙われたのは、そう言う理屈だった……と、よほど冷静になっていたとしても、そこまでは気づけなかったかもしれない。セオリーに慣れ過ぎていたとも言う。 「邪魔でござる!」 虎鐵は歯を食いしばって兵隊の腕を両断した。返す刀で首を跳ねる。 「用があるのは剣八でござる!」 仰向けに倒れる兵隊。その後ろから別の兵隊が現れた。ライフルを構え、今にも虎鐵の心臓を狙っている。 「伏せて下さい!」 「――ッ!」 反射的に身を屈める虎鐵。その頭上をリセリアが飛び越えて行った。 空中で華麗に回転。兵隊の額を片手剣で貫くと。肩を蹴ってムーンサルト飛びで後方へと舞い戻った。 次々と兵隊が倒れていく。 それが元リベリスタだと言うことを、彼らはあえて考えないようにしていた。 秒間五発のスラッシュが視界内外十八方向から仕掛けられるのを、魔剣・路六剣八は黙って受け止めていた。 右手の『複雑可変型機構刀・六八』をトンファー形態に、左手の機構刀を刀形態にして攻撃を捌いていく。 絶え間ない金属音が鳴り響き、まるで扇風機の前に風鈴を吊るしたかのようなけたたましさである。 そんな金音に混じって、奇妙な訛り言葉が剣八の耳に入ってきた。 「よぉ、その耳に届くか? イヤ届かせる。あの時の、テメェの言葉で返してヤルヨ」 顔面に向けて斜め下から繰り出されたナイフを、剣八は直立体勢のままトンファーで受け流した。 一際おおきな金属音が鳴る。 「私はリュミエール・ノルティア・ユーティライネン。最速に憧れ無敵を捨てた。命を賭して――」 天井クレーンのフックを蹴って反射。剣八の肩にナイフを走らせる。 「殺シテヤルヨ」 「……」 剣八は黙って機構刀を左右連結させ錫杖型にすると天使の息を発動。自らを回復した。 「何でもアリか」 ぐるぐると回転させつつブレードを展開。槍型にしてリュミエールへと突き出した。 咄嗟に間に割り込むウラジミール。 鉄板を仕込んだタクティクスグローブで槍を弾き落とす。 が、彼の目の前で機構刀がぽきりと折れ、銃形態からB-SSを連射してきた。 「ぐおっ!」 もう片方の手で持っていたコンバットナイフで弾を弾くが、ランダムに狙いをズラして打たれたせいで数発は食らってしまった。 思わず後方によろめくが、意地で踏みとどまった。が、それを見越していたかのように剣八はJ・エクスプロージョンを発動。爆発的な圧力によってウラジミールは備蓄棚に激突した。 何かの穀類が麻袋から大量に漏れ出し、床に転がったウラジミールへと降り注ぐ。 だが剣八は追撃しない。後方から脊髄をねらってナイフを繰り出したリュミエールに対し、背中へ孫の手でも回すように機構刀を翳す。リアクティブシールド展開。リュミエールのブレードが途中でばちりと弾かれた。 「チィッ――!」 強く舌打ちする。攻撃が届かなかったからではない。 素早く反転した剣八がリュミエールの額に機構刀の銃口を突きつけていたからである。 コンセントブレイク。 リュミエールは空中で派手に後方回転。 完全に態勢を崩され、床にごろごろと転がった。 「剣八……」 「まだまだ、これからだよ……」 震える手足を押さえつけ、ウラジミールとリュミエールは身体を起こす。 だがウラジミールは頭の片隅でこうも考えていたのだ。 二人で抑え切れるのも時間の問題だな、と。 「二人とも、大丈夫!?」 レイチェルがロッドで地面を叩く。生半可な回復量では意味が無いと考えてまずリュミエールに天使の息をかけた。耐久力の差を察してのことである。 ちらりと視線をレイチェルにやる剣八。 両手の機構刀を銃形態にすると、フルオート射撃にしたままぐるりと回転した。ハニーコムガトリングである。 「守デスッ!」 素早くレイチェルを庇う心。 「最終防衛機構、姫宮心! この先は通しません!」 弾丸を自らの鎧で受け止める心。 とにかくレイチェルさえ守り切ればリカバーができる。 回復役を庇うこと。弱い人を庇うこと。それが心の戦い方であり生き様であった。 今までいろんな人を庇ってきた心……だからこそ、今は焦ってもいた。レイチェルを庇ってくれる人間はメンバーの中で自分ひとりだ。例えば自分がノックバックされたら。麻痺や呪縛で固められたら。致命状態からBSを重ねて呪殺を食らわされたら。防御力に絶対の自信を持つ『超守る空飛ぶ浮沈艦』ですら庇い切れない状況は存在する。そして恐らく、剣八はその方法を熟知している筈だ。 「守る……デス! ひゃあ!」 速攻である。ブロックをかけているウラジミールの肩越しに剣八はピンポイント・スペシャリティを発射。さらにトラップネストを心に撃ちこんできたのだ。 無理矢理地面に引き倒され、ぺたんと床に頬をつける心。 「レイチェルさん!」 「わ、ど、どうしよう!?」 混乱するレイチェル。剣八とは別に兵隊達と交戦しているメンバーのことも考え、状況的には聖神の息吹でリカバーするべきだが、自分をカバーする心の為にブレイクフィアーをかけるべきかもしれない。少なくとも心が回復不能になっている以上浄化の鎧をかけてあげるのが恐らくは正しい。だが回復確率は自力での回復を計算に入れても七割前後と言った所だ。もしここで心に庇って貰えなければレイチェルは集中射撃によって瞬殺される恐れがある。ならブレイクフィアーだ、それしかない! いや、本当にそうか? これからずっと心の拘束と全体攻撃を交互に続けられたら、レイチェルは自己防御のために味方の回復を諦めねばならない。とは言え――! 「え、ええと、ええと……!」 「うろたえんな!」 ここぞとばかりにレイチェルを狙おうとした兵隊が回転した。 否、上半身と下半身が分断され、上半分だけくるくる回って落ちたのだ。 目をギラギラと光らせ、零六がレイチェルへと振り返る。 「いいから自分を護ってろ。暫くは持ち堪えてやらあ」 そもそも零六は防御や回避が苦手だ。先刻のハニーコムガトリングで随分と体力を削られてしまった。 だが彼には意地がある。 更に言うなら、勢いがある。 「邪魔すんなよなぁ、雑魚ども……」 背中に背負ったお祭り飾りのようなエンジンが唸りを上げる。 激しい熱を噴射して跳躍。零六は別の兵隊へと文字通り特攻した。 「お呼びじゃねえんだよ!」 周囲の棚や木材を粉砕し、兵隊が跳ね飛んでいく。 その先には一人飄々とした迷子の姿があった。 「どうしても危なければ庇い合って行けばよい。つまり……」 大煙管を振り、小さな脚を一閃した。生まれた鎌鼬が兵隊の身体を複雑に切り裂く。 ぼたぼたと落ちる人体パーツ。 迷子はカタカタと足を踏み鳴らし、煙管を甘く咥えて見せた。 「もう少しの辛抱じゃ」 ● ライフルの殺傷力が高いとされるのは、弾の大きさと速さがあるからであって、例えば相手を狙っている間に顔面を殴られてしまえば、ライフルなどただの細長い筒に過ぎない。 「……いい気持ちはしないね」 兵隊をまた一人殴り潰し、希平は吐き捨てるように言った。 戦い始めた時から感じていたことだが、彼等はわざわざ大きく散るような陣形を取ってくるのだ。一人一人潰していくスタイルの喜平(メインウェポンが銃器であるにもかかわらずだ)にとっては地味に戦い辛く、そして狙われやすかった。 纏めて攻撃できないし、逆にこちらはまとめて打撃を受ける。そして時には無駄な移動をせざるを得なかったりもする。 イライラするのだ。 だが一人でやらねばならない。 仲間の助けは期待できない。 なぜならば。 ウラジミールは逆手に持ったコンバットナイフを正面へと突出し、全速力で突撃した。 輝きを放ったナイフを剣八は魔導シールドでガード。 髭に血をつけたまま、ウラジミールはぎりりと歯ぎしりをした。 「削ぎ殺せ、デスペラードッ!」 同刻。真横からエンジン音を唸らせて零六が突っ込んできた。 狙いも適当にチェーンソーを叩き込む。 しかしそれはトンファー形態の機構刀に阻まれた。 背後からリセリアがソニックエッジを繰り出す。 素早く屈んだ剣八の頭上を剣が通過し、ウラジミールが咄嗟にバックステップ……しようとした途端剣八はトンファーで三人に暴れ大蛇と言う名の足払いをかけた。 一斉に転倒する三人。直後、剣八は駆け出す。レイチェルと其れを護る心の方向へだ。距離にして15m。途中で阻めば止められる。虎鐵と迷子は二人がかりで道を塞ぎ、右からは太刀、左からは大煙管を繰り出す。 が、そんな二人に剣八は二丁の銃をそれぞれ突きつけた。J・エクスプロージョン発動。思わず吹き飛ばされた二人は、地面に転がっている暇すら惜しいとばかりに立ち上がる。急いでブロックに戻ろうとするが、その時には既に剣発はハイスピードアタックを繰り出していた。 風を追い越して心の胸にトンファーを叩きつける。 衝撃に目を瞑りつつもレイチェルを庇い続ける心。 「う、うぅわっ!」 剣八は両方の機構刀を刀形態にする。小刀と言うより匕首に近い形状だったが、彼はそれを十年来の相棒のように器用に振り回しアルシャンパーニュを繰り出した。 避けるすべのない心はたちまち魅了される。そうなればレイチェルは無防備だ。咄嗟に浄化の鎧で心を回復させるレイチェル。 一方のエーデルワイスはB-SSを撃とうにも心たちを巻き込む危険があるのでバウンティショットで我慢するしかなかった。 だが剣八の攻撃は止まない。 「剣八、テメェ……」 リュミエールはハイスピードアタックで剣八へ斬りかかる。ナイフは背後に回したトンファーで止められた。 反撃は無い。心へバトラーズアバランチからのツインストライクという『痛い所だけをつく』攻撃で徹底的に沈めにかかってきた。 「あっ、うううっ……!」 これまで浮沈艦として数々の防衛線に携わってきた彼女だが、今回ばかりは分が悪かった。 「レイチェルさん、もう無理です……離れて下さい!」 「え、ちょっと!」 反論しようとするレイチェルを無視して突き飛ばす。 その直後、心は二重に連結した機構刀によって派手に吹き飛ばされ、ガレージの壁に叩きつけられたのだった。 完全に意識を失う心。 その隙にと迷子たちが飛び掛り、剣八に四方八方から殴りかかる。 対する剣八は天使の息で回復。更にJ・エクスプロージョンで周囲の全員を吹き飛ばした。 キラリとエーデルワイスの目が光る。 「カーテンコールの時間ね、偉大なる戦士よ」 両手十本指を突き出す。ほぼ同時に剣八は二丁の銃を向けていた。 「ハスタラビスタ」 B-SSが交差する。 エーデルワイスと剣八の周囲で大量の跳弾が起き、空中で何発もの弾頭が衝突。火花を起こして飛び散った。 その内数発が互いの身体にめり込む。貫通はしない。それが何より痛かった。 体勢が僅かに傾くエーデルワイス。 対する剣八はハニーコムガトリングを発動した。 大量の弾丸が全員へとばら撒かれる。 が、それを阻止したのはレイチェルだった。 「キュベレイッ!」 ずだん、と地面に杖を突き立てる。鉄板の敷かれた床がべっこりと凹み、全域に聖神の息吹を発動させた。 味方に弾が当たった傍から回復していく。 剣八の目がレイチェルへと向いた。 槍形態にして突撃してくる剣八。ウラジミールがその間に割り込んで槍を受けた。 ただ受けただけではない。自らの腹にブレードを埋め込ませ、腕でがっちりと固定したのだ。 「弱点であってもだ、それを認めて起き上がれなくなるほど……弱くは無いのだよ!」 槍が途中で分離。銃口が向けられる。ウラジミールはその銃口に指を突っ込んだ。 「若者の為に、未来の為に、一意専心を貫きこの身を盾にしようではないか!」 激しい破裂音が鳴った。機構刀こそ壊れなかったものの、剣八の態勢は大きくずれた。 ウラジミールはがくりと膝から崩れ落ちる。 だが攻撃の手は止まない。リセリアが側面から飛び掛り、幻影剣を繰り出したのだ。 幾重にも増えた剣の幻影が剣八を襲う。対する剣八はウラジミールから剣を引き抜き多重残幻剣を発動。幾多にも分裂した剣八が全ての剣を打ち弾き逆にリセリアへと剣を突き出してきた。 「――ッ!」 素早く半歩下がって回避。リセリアは相手の剣を鼻先で打ち払う。 だが絶え間なく全方向から剣が襲ってきた。 「止めて、差し上げます!」 剣をか。 それとも剣八そのものをか。 リセリアはその場で大きく回転すると、自らを襲う劍の全てを一時的に弾き返した。髪の結び紐が切れてぶわりと長髪が広がる。 背中や腰、脚や腕に幻の剣が突き刺さるが、リセリアは歯を食いしばって剣を突き出した。 それが剣八の腕を掠る。 ここまでだと判断してか飛び退く剣八。 追撃をしかけるだけの体力はリセリアに残ってはいない。 だが彼女の左右を通り越して虎鐵と迷子が突撃して行った。 「剣八、あれほどの武人だったお前がが、そんなチャチなアーティファクトのエサになっちまってるのかよ!」 怒りをあらわに剣を叩きつける虎鐵。トンファーに阻まれる。 「ああ、わしが知った土俵合わせとは違うな!」 迷子が炎をあげた大煙管を叩き込む。これもトンファーに阻まれる。 そこへ。 ジェットエンジンと光の翼で加速した零六が突っ込んできた。 「うおらあああああああああああああ!!」 剣八を巻き込んで大きな棚へと突っ込んで行く。 ストックされていた銃器や刀剣がばらばらと飛び散る。 「俺のデスペラードはテメェのほど器用じゃなくてな、だからこその猪突猛進ッ!」 チェーンソーを叩き込む。剣八は落下してきた消火斧を掴んでガード。片足で零六を蹴り飛ばすとその場に転がっていたM4カービン銃を片手で掴み上げて全力射撃。腕とチェーンソーでガードした零六は空中でブレーキ。紫電を纏って再突撃。 「俺もコイツも、一度決めたら突っ走るタチでなァ――ヒャッハハハ!」 今度は棚を突き破ってコンクリートの上をもつれ合いながらごろごろと転がった。 木箱が弾けM2破片手榴弾が雪崩のように転がってくる。その内幾つかを拾い上げて宙へ放る。だが一個だけは零六の口にねじ込まれた。 ピンが抜かれる。 「ガッ……!?」 爆発。 白目を剥いて仰け反る零六。 上がった煙を突き破って虎鐵が飛び込んできた。 剣八は素早く膝折後転。虎鐵の剣がコンクリートを滅茶苦茶に砕いた。 だが剣発はひるむことなく爪先でその辺の軍刀を跳ね上げ抜刀。そのままの勢いで虎鐵へと繰り出した。途中で大煙管が邪魔をする。迷子だ。 「ハ、ハハハ」 「くははははははは!」 笑ったのは虎鐵だったか、迷子だったか。 二人は目を大きく開くと、互いの間を縫うようにして剣と大煙管を振り回した。それを軍刀と鞘で弾く剣八。 その時、頭上から声がした。 「さてお待ちかね」 鉄塊が落下してきた、と表現して差し支えない。 希平が鈍器を携えて天井から飛んできたのだ。 ばきゃんという破砕音と共に床のコンクリートが弾けて飛ぶ。 ぐるんと大型ショットガンを振りかざす喜平。 だがその時にはM18五七ミリ無反動砲が喜平たちに向けられていた。 にやりと笑う剣八。そして爆発。 迷子たちが一斉に吹き飛ぶ中、リュミエールが剣八へ急接近した。 腰に保持していた機構刀を抜き放つ剣八。ブレードを展開して短刀形態に変えるとリュミエールのナイフを受け止めた。もう一方の機構刀も展開して繰り出してくるが、それをリュミエールは短剣でガード。 じりり、と二人は足首を捻じった。 「後デ、貰ッテイイカ?」 「欲張りなヤツめ。自分ばかり欲しすぎるなよ?」 その直後、二人は誰にも追えない速度で併走し始めた。ハイスピードアタックで同時に壁際まで走りつつ目まぐるしく小刀を弾き合う。壁に足をついたかと思えば再び高速で壁を走ってナイフを弾き合った。 天井まで到達した所で同時に空中に飛び出し互いのナイフを激突させる。 ……と、思ったが。 リュミエールのナイフは正確に剣八の胸に刺さっていた。 機構刀の一本が手から離れ、天井へ突き刺さっていた。 剣八が笑った気がしたのは幻覚だろうか。 リュミエールはもつれ合いながら地面へ落下。頭部を強打して意識を失った。 そして路六剣八は。 「…………」 地面に大の字に寝転んだまま、ついに動かなくなったのだった。 ● 路六剣八の停止と共に、彼の持っていた機構刀は自壊、消滅した。 剣は破壊しておくつもりだったウラジミールは(破壊しようと思ってできるものではないが)軍帽を目深にかぶって沈黙する。 漸く意識を取り戻した心がふらふらと歩いてくる。 「勝ったん、ですか……」 すると、天井に刺さっていたであろう機構刀が自壊せずに落ちてきた。 気絶したリュミエールの、耳を僅かに切る形で地面に刺さる。 「……」 リュミエールは薄目を開けて、機構刀を見た。 「立派な方、だったんですね」 「ああ……」 瞑目する虎鐵。 迷子は仰向けに眠った剣八を見下ろして、かすれるような声で言った。 「なあ剣八よ……戦いは楽しいのう」 傷口を応急処置し、髪を結び直すリセリア。 彼女は妙な気配を感じて壁際を見やった。 そこには古いブラン管テレビがあるだけである。 だがしかし。 『よう、ご苦労さん』 テレビが起動し、いくらかのザッピングをした後に変な映像を流し始めた。 白いスーツ姿の男が、首から下だけ映っている。椅子に腰かけて足を組んでおり、手元には何故かワイングラスを持っていた。中身は無い。 『魔剣化した剣八にすら勝つとはな、恐れ入ったぜアーク。ゲームは1-2でアーク側のリードってトコか』 スピーカー越しに流れてきた声も機械で弄られた音声になっていて誰だか分からない。 だが、タイミング的に分かる。 「『ホワイトマン』」 「その通りだ」 バタン、と非常用の鉄扉が開かれた。 テレビが小爆発を起こして砕け散る。 エーデルワイスはゆっくりと振り向き、扉の方を見た。 白いスーツに赤いネクタイ。オールバックの髪に銀縁のサングラスと言う、往来を歩くだけで振り返られるような恰好をした男だった。だがなぜか顔の印象が残らない。どことなく幽霊じみていて、ニヤニヤとした挑発的な笑い方だけが印象に残る。 「『ホワイトマン』本人と見て、いいのね?」 「どうだかな。俺って臆病モンだから、超幻覚か何かでデコイ見せてるだけかもしれないぜ?」 「だとしても、こうして出てきたことには意味があるわ。そうよね?」 ちらりと喜平の方を見るエーデルワイス。 だが空気を読まないのか興味が無いのか、喜平は肩をすくめて首を鳴らした。 「知らないね。『謎の男』なんて名乗ってる小悪党だろ、どうせ」 「いつ名乗ったんだよそれ」 男は腕組みし、扉の淵に背を預ける。 「てめぇの命はベットしないくせに都合にだけは付き合え。ホント臆病者だよ。茶番をゲーム呼ばわりして何気取ってんだって」 「……お前、口悪いのな」 サングラスを中指で押し上げる。 「見下しプレイはよせよ。相手をフェイバリットしようぜ。負けた時格好悪いぞ」 「負けることは考えてない」 「言ってろよ。この世に人命ごときで払える責任なんかねえぜ。『駄目でした、死ぬんで許して下さい』はナシだ」 「滑稽だね」 「お互い様だ……いや、今日はこんな子供喧嘩しに来たんじゃねえよ。二敗したことだし、教えておこうと思ってな。そのネジのこと」 「ネジの事って……」 首をかしげるレイチェル。 「死体を勝手に動かすアイテムじゃ?」 「それじゃ死者蘇生だろうが。そもそも、既に死んだヤツに使っても意味ねえんだよ。そのネジ自体が意思のあるアーティファクトって言えば通じるんかな。寄生した相手の情報をサイレントメモリーみたいに読み取って再現してるだけだ。『身体が覚えてる技能』をまんま、本人が望む限りしがらみ抜きで使えるようにする。いわば武の達人永久保存版だな。戦うこと以外は要らなくなる」 「ん、んん……?」 とりあえず話について行こうとしていた零六はそこで90度くらい首を傾げた。 「それが、俺達の知ってる情報とどう違うんだ? 再確認させただけか?」 「あ、いや……分かった」 レイチェルは僅かに眉を上げる。 「本来以上の戦闘力を発揮するには『本人が望む』必要があるんだ!」 「……ああ、だから兵隊達が剣八の手足みたいに使われてたのね。傀儡扱いされてたのは彼等だけだったと」 「だから何だよ。人の尊厳ぶち壊してんのは一緒じゃねえか」 ギリリと歯を軋ませる零六。 男は両手を上げた。 「おい誰にモノ言ってんだよ。こちとら人体実験大賛成のフィクサード研究者と、強くなりたくて仕方がないフィクサード戦士だぜ。もっとも、そこに火ぃつけたのはお前らだけどな」 「それは、どういう意味でござるか」 目を鋭くする虎鐵。 迷子も無言で腕組みをした。 「大体おかしいだろ。完全に現役離れて、シルバー人材やってた剣八たちがどうやって達人時代の戦闘力取り戻したんだよ。生きてるうちにネジ埋め込んで、身体を『最強だった頃』に無理矢理改造したからじゃねえか。まあ、そんな改造に人体が耐えられるわけがねえから、一週間もしたら勝手に死ぬけどな。富船士郎はそれで死んだようなもんだし」 「……我らが、追い込んだと?」 ウラジミールが表情を変えずに呟く。 「他に手は無かったしな。あっぱらぱーのシアンが開発してるキマイラじゃあ、望んだように戦えもしねえ。あんなもん武人でも何でもねえよ、クソが。誰が手伝ってやるかってんだ」 「あの……内輪もめをこっちに持ち込まれても……」 「ああ、すまん」 心が対応に困って手を振った。 男は話を戻しにかかる。 「まあそういうワケだ。あいつらの我儘プラス俺の実験に付き合ってくれてありがとな。ネジはもう無いし、魔剣研究に戻るわ」 「はいどういたしまして……と言って逃がすと思う?」 フィンガーバレットを突きつけるエーデルワイス。 男はニヤニヤと笑うと、懐から銃を抜き出した。 身構える虎鐵。 だが彼は銃口を自分のこめかみにくっつけ。 「バーン」 トリガーを引いた瞬間、そこにあった『超幻覚』は終了した。 「…………本当に幻覚使ってたのね」 「……臆病過ぎる」 「しかもあれだけ動いてたってことは、何回も厳格切り替えてたってことでしょ? 入念と言うか、何て言うか」 彼らは一斉に上を見て、遠ざかるヘリコプターの音を聞いていた。 ● ヘリコプターの座席で『ホワイトマン』はニヤニヤと笑っていた。 「いやー、ひやひやした。バレるかと思った」 「ひやひやしたのは私の方ですよ。あなたが死んだら私ら他のチームに回収されるんですよ。キマイラ実験に使われるコースまっしぐらじゃないですか」 「分かってるって。置いていきゃしねえよ。俺が死ぬときはお前ら全員死んだ後だ。できるだけ望んだ生き様晒してから死なせてやるから安心しろ」 「そんなんでいいんですか? あなた、魔剣にしろ斬鉄にしろ鉄拳たちにしろ、部下の我儘叶えてばっかりじゃないですか」 「当然だろ、なんたってフィクサードだぜ。『わがまま』で暴力振るえないヤツは信用できねえ。そういう手合いはいつも暴力を誰かの所為にするからな。正義だの世界だの……」 「そう言うもんですか。じゃあ、私も我儘言っていいですか?」 「アァ?」 後ろの座席に腰掛けている男を、『ホワイトマン』は何気なく見た。 ぐにゃりと男の顔が変化する。同時に声も変わっていく。 一秒もしない間に男は老人になり、頬に走った十字創が露わになった。 「てめぇ、長介……!」 時既に遅し。座席を刀が貫いていた。『ホワイトマン』の腹から切っ先が飛び出し、ぽたぽたと血をしたたらせる。 「スマンが、裏切らせてもらう。連中の我儘を叶えて貰った恩は忘れんが……これも仕事じゃ、許されよ」 斬鉄のリーダー猪狩長介は刀を引き抜くと、ヘリの扉をあけ放った。 呻く『ホワイトマン』をパラシュートもなしに放り出す。 そして操縦手へと刀を突きつけた。 「同じようになりたくなければ指定した場所へ飛べ」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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