●杞憂 結局の所、自分にどんな何があってどうすべきでどうあるべきかは分からなかった。 異常も危険も無ければ不可思議も神秘も無い。 俺の知った世界は俺の相容れる事の無い世界だったのだ。 彼らが興味を持った俺は彼らの望む存在ではなかったのだろう。 それは好都合だったのか、不都合だったのか。 こう言っては何だが、俺には関係のない事だ。 アパートで死んだ親友も、黒板に押し潰された教授も、スクリーンからキャラクターが飛び出したのも、俺のせいではなかったと結論が出たのだから。 ストレスで押し潰されそうだったから、それがわかっただけでも多少なり気は楽になった。 やっとのことで自由外出の許可も出た。 みんな首をひねっていたけれど、何も無かったのだから仕方が無い。 今日は久々に彼女とデートだ。 あれから関係はこじれそうにもなったけれども、俺が持っているとされた性質ではなく、僕自身に興味を持ってくれたみたいだから、これからの関係も良好に進む事だろう。 そう願うばかりだけれども。 さあ今日はどこに行こう。久々だからいきたい所は沢山ある。とりあえずは宛も無くフラフラと行こう。 太陽に雲がかかる。若干暗い雰囲気が出てきたのは気のせいだ。 ● マネキンが動いている。 腕を振り下ろし、足で蹴り上げ、頭でヘッドバッドをかまして周囲のものを壊す。 壊していく。 壊していくのを、男と女は見ていた。 ああ、どうしようこれ。 ●杞憂ならさっき出掛けていったよ 「先日アークでは一人の男性を保護しました。非革醒者でありながら、周囲に影響を与えて革醒を促す性質を持っている可能性のある方です」 しかし、結局アークの最新鋭の技術をもってしても、それを解明する事は叶わず、『そのような性質など無い』という結論に至った。彼が三度、それぞれが無関係の場所でエリューション事件に遭遇しているのは事実であるのだけれど、それは偶然であったと言う他無かった。 で、どうしてそんな話が出てくるのかというと。 「……彼の外出先でエリューション事件が発生します。対処をお願いします」 二度ある事は三度ある。三度あれば何度でもある。考えるな、そういうことだ。 「彼は恋人……現在は一応ご友人でしたか、女性と一緒にいます」 考えるな、考えたら負けなのだ。 「女性は扱い上リベリスタですので彼女と協力する事を推奨します」 それにしても、と溜め息を吐く。 「彼も災難ですね。リベリスタやフィクサードでもなければ、或いは局所的にそういう事件でも起こっていなければ、そう何度も何度もエリューションに遭遇する事も無いでしょうに。 しかも件の性質まで否定されましたからね。これはもうきっとあれですね」 『不幸体質』 『運命オペレーター』天原和泉(nBNE000024)は哀れむように告げた。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:天夜 薄 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年05月07日(月)23:45 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 彼の性質を追究するために、それはそれは多くの時間や労力が費やされたことだろう。あれを調べてこれを調べて、結局何も答えは出ずに野に放たれた彼はまたしても神秘の事件に遭遇し、ついには『不幸体質』と揶揄された。彼にとっては何とも残念な結果だと、『宵闇に紛れる狩人』仁科 孝平(BNE000933)は思う。知らぬが仏、それを彼に伝えるかどうかは別にして、巻き込まれているなら助けてやらねばならないだろう。それがリベリスタとしての勤めなのだから。 世の中にはいろんな人がいる。その中に不幸体質なんて不憫な方もいらっしゃるのですね、とスペード・オジェ・ルダノワ(BNE003654)は思わず哀れむ。けれどもものは捉えよう。それがきっかけとなったかはさておき、恋人と思しき人とも出会えたのだから、ある意味では福をなしたということだろう。この事件を終えてもポジティブになれるようにと、スペードは願っている。 退屈な毎日を過ごしていただけだった。ソレで良かったし、ソレが良かった。しかし世界はいつでも平和なわけではないし、そんな日常は気付けば隣に存在するものでもなかった。『三高平の狂拳』宮部乃宮 火車(BNE001845)の手にはそんな世界を手に入れる為、わかりやすく戦う力があった。だから戦って、退屈な日常を手に入れる。 結城蓮は革醒もしていないしフェイトも得ていない一般人だ。エリューションとは本来かけ離れた世界の人間だ。だがその人間は、神秘の世界を知っている。そして付き纏われている。彼が望まないとしても。その上で尚無関係であろうとするなら、それはそれで良い覚悟だ。自分以外の何かのせいにして、結果死んだとしても、その覚悟に対する後悔は出来るのだから。 「婦人服売り場は何処かな? 急がないとね」 『正義の味方を目指す者』祭雅・疾風(BNE001656)は千里眼を駆使して、辺りの状況を確認する。他のリベリスタもデパート内の構造を把握しつつ、現場へと向かう。安全かつ円滑に避難が行える経路の確認や、敵にどこに移動されたら困るか等を確認し、やがてデパート三階婦人服売り場へと到達する。 十四体のプラスチックの人形が、売り場を占拠していた。逃遅れた一般の人間が、あちらこちらで腰を抜かしている。今宮圭はその中にあって、出来る限り彼らに手を出させぬよう努めていた。しかし、彼女の本職は回復役で別段腕力が強いわけでもなく、さらに神秘の使用もはばかられ、数でも劣勢なこの状況では、彼女の体力が無惨に奪い取られているだけだった。蓮にもなんとかしてマネキンの暴虐を食い止めようとする努力は見受けられたが、大した戦力にもなっていない様子だった。 「機械仕掛けのマネキンが暴走しました! 危ないから近づかないで!直ぐ避難して下さい!」 『節制なる癒し手』シエル・ハルモニア・若月(BNE000650 )が叫び、リベリスタが突入する。服装は平時のままだったが、それでも救援の到着は、そこで恐れ戦いていたすべての人間を安堵させた。 「全部ぶっ壊れるまでぶん殴ってやるからなぁ!」 「怖いお人形さんは壊しちゃおう」 火車と『初めてのダークナイト』シャルロッテ・ニーチェ・アルバート(BNE003405)が真っ先に前線へと出た。シャルロッテはただ暴れるマネキンだけを見据え、行動する。蓮についてはどうでもよかった。運命から目を逸らして、自分のことすら弄くれない人間に、関心を向ける必要などないと考えていた。 シャルロッテは漆黒の闇を身に纏い、火車は強結界を張った。 「やめて! 目の前で、一般人さん殺させないんだから!」 『愛に生きる乙女』御厨・忌避(BNE003590)はマネキンに向けて叫びながら、一般人の方に向かう。 疾風は到着と同時に幻想纏いを起動し、装備を纏う。ヒーローのような戦闘服で身を包み、敵と退治する。 「14体か。結構いるな」 フェーズ1とはいえ、流石に多いエリューションを前に、疾風は思わず呟いた。流水の構えを取りつつ、疾風は戦闘へと赴く。孝平も体のギアを上げ、準備を整える。 「ご無沙汰しております。……お変わり無い様で……その、何と言うか」 『Trapezohedron』蘭堂・かるた(BNE001675)はお互い付かず離れずの距離にいた蓮と圭に声をかける。かるたが蓮に関わるのは、直接会っていない件を含めると、これで三度目になる。浅からぬ、しかし喜ばれぬ縁であろう。尤も喜ばれたいという望みなど、彼女にはなかったのだけれど。彼女はただ為すべきことを為しに来ただけだ。 かるたは現在の状況を説明し、一般人の護衛および避難の援助をするよう伝えた。 「俺、別に慣れてないんだけど」 蓮は息をあげつつ言った。事件を経験しているとはいえ、彼はいつだって被害者の側だ。攻撃することも、守ることもなかった。 「……ま、何度も助けられたんだから、俺も誰かを助けなきゃ、駄目だよな」 「そうだね。行くよ、蓮」 圭が先導し、一般人の保護に向かう。蓮はマネキンの動きに注意しながら、その後を追った。 ● マネキンは自分の周囲にいる人間を壊そうと暴れている。自分に向かってこようと、自分から離れていこうと、構わず近くにいる者に一撃を加えようとしている。 マネキンの一つが、近くにいる一般人を見つけ、殴打しようとする。その動きに気付いた孝平が素早く近付き、残像と共に突撃する。 「あなたの相手はそちらではありませんよ」 斬り付けられたマネキンは衝撃にたじろぎながら、体を孝平に向ける。そして覚束ない足取りで、孝平に向かっていった。 剣戟の間を抜けながら、圭と蓮は一般人に声をかけ、徐々に避難を始める。主に蓮が先導し、圭はマネキンの攻撃を庇いに走っていた。その横をすり抜けようとするマネキンがいたが、スペードが素早く駆け寄って、その移動を遮った。強力なヘッドバッドを受けて彼女は吹っ飛び、一人の一般人の側まで下がった。蓮がすぐ側まで来ているのを確認しつつ、スペードはその人に声をかける。 「安心してくださいね。下に降りれば、もう大丈夫ですから」 微笑を浮かべながら、彼女は再びマネキンと対峙する。その時、向かってくるマネキンの近くに、他のマネキンが倒れた。 「あんま動きまわんなよ! 全部相手してやっからさぁ!」 火車が叫びながら、一般人に近寄ろうとするマネキンに足払いをかけていた。それらの移動にそれほど影響はなかったが、火車へと攻撃の矛先を向ける目くらましにはなったようだ。 「誰にも御怪我はさせません。其れが私の存在意義ですから……」 シエルと忌避の呼び込んだ癒しが、戦況を有利にし、一般人を逃がす手助けをする。 疾風が鋭く蹴り込んでかまいたちで相手を刻む。彼らに引きつけられたマネキンの横を、一般人六人が蓮の先導と圭、スペード、かるたの護衛のもと、すり抜ける。 「もう少しです、皆さん、頑張って!」 かるたが声をかけ、鼓舞する。向かうは辛うじて動いているエスカレーター。下の階まで行けばマネキンも追ってこないし、追っていかせない。 走る。走る。後から追いかけてくるマネキンの移動を護衛する三人が手分けして遮る。前線に敵が寄っていったこともあり、追いかけてくる敵の数はそれほど多くなかった。空気をかき分けるように腕を振り、彼らはやがて、エスカレーターまでたどりつく。転ばぬように、慌てず、落ち着いて。蓮が声をかけ、彼らはゆっくりと、戦場から離れていく。 彼らを追おうと突撃した一つのマネキンの攻撃を、スペードがエスカレータの前に陣取って、断つ。 「ここから先へは、通せません……!」 ● 圭も引き続き一般人を護衛するため、階下へと向かう。スペードの横を抜ける時、圭は走りながら言った。 「あとは、よろしくね」 「お気をつけて」 圭がエスカレーターを駆け下りる。戦場には壊れかけのマネキンと、リベリスタだけが残る。 「お待たせしました…ここからが本番です」 シエルは宣言と共に、気合いを入れ直す。これで他に留意するものもない。あとは、目の前の敵を倒すだけだ。 シャルロッテは敵の位置と、自分との間合いをきちんと把握し、漆黒の瘴気を巻き起こす。這い寄る混沌は無慈悲にマネキンの体力を奪っていく。 「後片付けの手間もあります。有象無象には早々に沈黙願いましょう」 かるたは激しい烈風を周囲に吹かせ、攻撃する。孝平はそれの範囲内から身を避け、すかさず攻撃に転じる。 マネキン三体が前衛を突破し、後衛へと打撃を加える。忌避の回復を受けて余裕の生じたシエルは、攻勢に転じる。 「聖なる光よ……世の理外れし者に裁きを」 害悪を薙ぎ払う光線が、周囲の敵を焼尽す。その炎を払って、マネキンが頭を突き出して突進する。火車がそれに合わせて、自らの頭部を突き出した。 「はっはぁー! してぇ事があるなら大いにしろ! 全力で否定してやるからよぉ!」 強烈な衝撃に頭をヒリヒリとさせながらも、火車は余裕で挑発する。 不快な鼻を突く臭いが漂う。スペードの振りまいた暗黒が、殺気を伴ってそれを巻いていた。刃のごとく襲いかかったそれに、幾つかのマネキンは意識を奪われ、その場に倒れ伏した。 同胞の死に士気を上げたのか、マネキンの攻勢は一層激しさを増す。腕を振り下ろし、脚を蹴り上げ、数の暴力でリベリスタの体力を奪っていく。 火車は首の折れかかっているマネキンを見つけると、スッと近付き、瞬時に拳に炎を纏わせて振るった。頭部を思い切り殴打したそれは、マネキンの首を彼方へと吹っ飛ばした。マネキンは、力なく膝をついた。 「弱ってるヤツから順々に粉砕してってやるよ……!」 威嚇するように呟くと、他のリベリスタも続いた。 シャルロッテは自らの傷を呪いに変えて弓に纏い、射撃する。スペードによって再び振りまかれた瘴気が、マネキンの体力を奪い、疾風のかまいたちがその命を絶った。マネキンの数が減ってきたのを見た孝平は、ラストスパートとばかりに高速で連続攻撃を放ち、マネキンたちを追いつめる。 マネキンの一つが忌避に頭突きを食らわし、彼女はその衝撃に意識を飛ばされそうになる。体の節々が痛み、心は途切れそうだった。けれども懸命にそれを振り払って、つなぎ止めて、彼女は戦場に立った。シエルがすぐさま癒しの風を呼び起こし、彼女を癒した。 かるたが闘気を烈風に変えて、その場に巻き起こす。風に当てられ、動きを失くしたマネキンに、疾風が圧倒的な速さで接近し、雷を伴った攻撃で、敵を焦がしていく。 「これで終わりだ!」 容赦のなく体力を奪った雷が弾け、マネキンの全身を貫く。既に意識のなくなったマネキンは仰向けに倒れ込み、空の見えない天井を見上げてその生を終えた。 残り二体となったマネキンに孝平と火車が攻撃し、同時に膝を折った。一方は高速の連撃に身を切られ、一方は業炎を伴う重い一撃に身を砕かれた。 戦場に静けさが訪れる。辺りに散らばるのは壊された売り場と壊したマネキン。後に残ったのは休日を壊された人間と、不幸に苛まれた人間。 「皆様、それぞれに災難でございますね」 シエルは苦笑して言った。 ● 「本当にいいの?」 圭は心配そうに訊くが、かるたは首を振った。事後処理も大分片付き、周囲も徐々に平穏を取り戻してきた。彼らだって、本来の休日に戻ってもいい頃だろう。 「災難な『デート』でしたが、次回は?」 孝平の問いに、蓮は思わず溜め息を吐く。 「……不吉なこと、言わないでくれよ。多分偶然だって」 「とはいえ、今回の事件も偶然だと決めつけるのは早計な気もします」 スペードが今宮のアーティファクトに目をやりつつ、言う。 「よろしければ今宮さんの『宵闇の鞭』を、アークで検査してみませんか?」 「ううん……違うと思うけど」 圭は少し暗い顔をしたが、やがて鞭を手にしながら、呟く。 「可能性は、追究してみるべきだよね。私らしくもない」 その鞭に隠れた特性があるとしたら。もしそれが蓮に関する『きっかけ』となっていたら。 それを調べることで、幸せが訪れるかもしれない。 「おい、結城。一つだけ教えておいてやる……」 火車が蓮へと声をかける。 「オレ等の上司はお前と同じ、元々特別な能力の一つも無い、無関係の一般人だぜ?」 それは一種の忠告であった。蓮はその言葉を、神妙な顔で聞いている。 「知っちまった、関わっちまった、だから戦ってるみてーだがよ。……さて? お前はどうする?」 「俺が、どうするか、ね」 蓮は自分はあの手の怪物に対して無力であることを、知っている。この身一つではやっていけないことを。対峙した時、圭がいなければどうにもならないことを。だからこそ、自分がどうするのかを、どうできるのかを、考えなければいけない。 「蓮、行こうよ」 圭が蓮の手を引く。彼を追うように、火車が言葉を投げる。 「今更どう思ってるかは知らねーが、今宮ってのを間接的に助ける戦いってのも出来るかもなぁ」 彼が何を選択するかは、彼次第だろう。けれども、やがてどうするとして、今はただ、残り少なくなった休日を、彼らは楽しむのだろう。 シエルは彼らを微笑ましく見ている。いろいろ大変だけれども、二人であれば喜びは2倍、悲しみは半分。彼女はただ、二人に祝福あれと願うばかりだ。 さてと、とかるたは二人を見つつ考える。これまでの事例を思い返してみても、短期間で連続して事件に巻き込まれるようなことは、なかったはずだ。ましてや、その日中にまた巻き込まれるなんて。 「もう安心です。……よね?」 その心配こそが杞憂であることを祈って。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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