● それは、走っていた。 さかさか動く、四本の足。 化け物。それ以外に形容の言葉が見つからぬ姿のそれは、何かを求める様に、駆け回っている。 惚けた表情。その口が、ぶつぶつと何かを呟いている。 一心不乱に走り続けていたそれが、ふと。何かに気付いた様に、視線を此方に向ける。 ┌(┌^o^)┐ あれなんだろうこれは夢? いやって言うか夢じゃないなら何だと言うんだ。 頭は動かない。表情も動かない。ただただ、足だけがさかさか、動き続けるそれの呟きが、明確に、届く。 ┌(┌^o^)┐<ユリィ…… ああ、どうか。 これを見なかった事には、出来ないのだろうか。 ● 「……私は知らない。何も知らない。って言うか何にも見てないから、いや本当に。そう、これは夢。夢だったのよ」 寝ていないのだろうか。常日頃から不健康そうな面差しに深い隈を作って。 『導唄』月隠・響希(nBNE000225)は一人、呟き続けていた。 「って言うか、こう言うの視る事になるのって他に適役居るでしょ。睦蔵サンとかさぁ。なんであたしとか……筝子ちゃんが……。 ……ん、嗚呼……あんたら来てるんだもんね。これ、夢じゃないのよね……」 そもそもその2人はフォーチュナじゃないんですが。 酷く虚ろな瞳でリベリスタを捉えた響希は、恐らくは同系統の依頼の説明をしているであろう男女に目を向け深く、溜息を漏らした。 「依頼の内容は、アザーバイドの処理。討伐、帰還、どちらでも構わない。敵は一体だけね。 ……識別名『ユリクレー』。女の子大好き、ってか、女の子同士が大好き。 女の子同士が仲良く歩いてれば寄ってくる。……こんな感じの奴」 長い爪が握ったペンが、さらさら、ホワイトボードに描いたのは、 ┌(┌^o^)┐<ユリィ…… これだった。 ブリーフィングルームの空気が凍る。 少しばかりの沈黙の後、再び深い溜息と共に、フォーチュナの言葉は再開された。 「……害はあんまりない。あたし的には夢に出るくらい精神的被害甚大だけど。 こいつの詳細、いくわね。まず、そいつが現れると、そいつを中心に半径20m以内に居る女の子はこう……まぁ、百合百合な気分になる。 因みに此れ、ブレイクフィアーとか無理だから。無駄だから。諦めてね。 で、自分の能力でいちゃいちゃする女の子を見ると、興奮の余り暴れながら涎を垂らす。 ……その涎、信じたくないけど物をじわじわ溶かす上に虚弱と猛毒の呪い持ってるんで。気をつけてね。 後何言えばいいかな……嗚呼」 一番大事なこと言い忘れるところだったわ。 言葉を重ねるほどに疲労感と目の虚ろさを増すフォーチュナが、引きつった笑みを浮かべる。 「こいつ、其処にいるのが男ばっかりなら怒り狂って攻撃的になる。 逆に、女の子の方が多いと……興奮しすぎてやっぱりこう、危ないというか。 あんたらなら大丈夫だろうけど、一般人なんか直ぐ攫われていろんな意味で餌にされちゃうからさ。 攻撃詳細とか、一応こっちに書いてあるから。確認しといて。 ……あ、一応あたしもついていくわよ。戦闘参加は無理だけど、まぁ、女手不足の時は……手、貸す……と思う」 半ば諦めたように。告げねばならぬ事を全て告げてから、フォーチュナは席を立つ。 夢に出てきませんように。切実な呟きが聞こえた気がした。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:麻子 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 2人 |
■シナリオ終了日時 2012年05月11日(金)00:46 |
||
|
||||
|
■メイン参加者 8人■ | |||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
||||
|
|
■サポート参加者 2人■ | |||||
|
|
● うららかな春の午後。現場に集まったリベリスタの表情は、様々だった。 「出来れば生き物じゃし無傷で基の世界に帰してあげたいんじゃがのぅ……」 流石に無理か。そう、大人しげな面差しを曇らせるのは『不誉れの弓』那須野・与市(BNE002759)。 文学も嗜む彼女は一応、百合の意味は知っていた。でもそれでも、出来れば無事に帰してやりたい。 控え目ながら頑張ろう、と頷く彼女の前では。 「女の子同士なんてイケナイと思います。非生産的です」 意味は良く分からないけど。『おこたから出ると死んじゃう』ティセ・パルミエ(BNE000151)は、もっともらしく頷いてみせる。 そう、女の子同士なんてイケナイのだ。だって女の子同士だもん。非生産的だもん。 あ、でも。 「……何をどうやって生産するんだろ?」 その辺はちょっと聞かないで置いて下さいお願いします。その横では『ネガデレ少女』音更 鬱穂(BNE001949)が諦め切った目で現実を見詰めて居た。 その瞳が語る言葉はただ一つ。 ――なんでこうなった。 そんなのは誰にも分からない。言うなれば運命とやらの気紛れだ。恐らくは他の討伐部隊も等しく死んだ魚の目をしている事だろう。 けれど。これはきっと必然なのだ。そう、鬱穂は思う。 現れるべきところにアザーバイドが出現し、集まるべきところに人が集まった。 「遥か遠い昔から決まっていたことなのです。逃れられない運命なのです」 何が言いたいか? 現実逃避だよ言わせんな。意味なんて無い。 そんな彼女達に対して、百合、を良く理解していない組は非常に気楽な様子だった。 百合? 何それ良くわからない。 でも、取り敢えずは仲良くしていればいいのだ、と誰かが言っていた気がする。 「……がんばり、ます……」 ぐっと手を握る烏丸 兎子(BNE002165)の横では、色とりどりの百合の花を抱えた『エターナル・ノービス』メイ・リィ・ルゥ(BNE003539)が首を傾けていた。 百合ってその百合じゃないよ。教えてやりたくとも教えにくい空気に目を逸らす仲間達の態度。 もしかして自分がまだ新人だから、妙な空気になったのだろうか。そう考えているが、思いっ切り勘違いである。 求められているのは勿論生花ではなく。女子と言う純情可憐な花達だ。 そして。 一部色んな意味で『本物』のお姉様方にとっては、この状況はまさに天国以外の何物でも無いようだった。 クイーン・オブ・┌(┌^o^)┐とでも呼べばいいだろうか。3体全ての討伐に関わるセレア・アレイン(BNE003170)は、漸く回って来た当事者の立場に大興奮だった。 「百合は観賞より実践じゃないですか! 女の子といちゃつくの最高!」 お姉様目がマジです怖いです。その傍らでは、『理想狂』宵咲 刹姫(BNE003089)が何やら妄想を膨らませる様に笑い声を漏らしていた。 自分自身にそのケは無いけれど。男の娘の掛け算だと思えば正直完璧である。 「例えば響希ちゃん(♂)はこんな感じとか!」 言葉と共に、地面に写し出されるのは、精密過ぎるイケメンのイラスト。 そのモデルである『導唄』月隠・響希(nBNE000225)は、日差しと凄まじい疲労感に眩暈を覚えながら深く、溜息を漏らした。 「いやちょっと待って、ね、あんたらなんで……そんな元気なのよ……」 味方少なすぎ。段々とその瞳のハイライトが消え掛けている様な気さえする彼女へと、不意に落ちかかる、日傘の影。 「はい、これ。日光に弱いのよね?」 その時の響希の瞳に彼女は天使に見えただろう。 傘を差し掛ける『雷を宿す』鳴神・暁穂(BNE003659)は、礼を受けながらこれから現れるであろう宿敵に想いを馳せていた。 そもそもまずユリクレーってなんだよ。命名誰だよ。 百合の意味は知っているからこそ、断言する。自分は百合ではない。でも、あれ。 「……無いはず……無いわよね?」 このメンバーを見ていると、ちょっとだけ、自信がなくなってきた気がした。 そんなこんなで。 世の女の子の平和(?)の為に、┌(┌^o^)┐をおびき出そう大作戦は、始まろうとしていた。 ● まあ要するにいちゃいちゃらぶらぶすればいいのです。 「ね、ねぇティセ、」 ちゅ、と。白く滑らかな頬に唇を寄せたのは『フェアリーライト』レイチェル・ウィン・スノウフィールド(BNE002411)。 幾ら見知った顔とは言え、やっぱり恥ずかしい。驚いた表情のティセが指を絡めるように手を繋いでくれば、その頬は一気に紅く染まった。 「うぅー…恥ずかしいっ」 初々しい反応が非常に可愛らしい。その横では、兎子がメイと手を絡め、ぴとっと寄り添って見せる。 まさにきゃっきゃうふふ。花弁舞い散りそうな雰囲気の中で、与市は控え目に、手作りの菓子の入った籠を抱き締めた。 あーん、としてあげればいいのか。けれど、自分じゃ誰も受取ってくれないのでは。 中々言い出せない彼女に視線を投げたのは響希だった。 「へぇ、あんた料理上手いのね。……一個くれる?」 「そ、そんな事はないのじゃよ、え、あ、……あーん」 甘いもの欲しい。籠を覗きながら告げる彼女に、遠慮がちに差し出された菓子は、一口で口内に消える。 ん、美味しい。少し表情を緩めた響希は、空いた手で軽く与市の頭を撫でてやる。 「ほら、仲良くするんでしょ? 笑う笑う」 「……女の子同士で仲良く出来るのは嬉しいです」 その横では、セレアが鬱穂の手を握り、服を整えてやりながら妄想を膨らませていっていた。 転びそうになったら抱き締める様に受け止めて。パジャマパーティしたり、告白したり、キスしたり……。 段々欲求が即物的になっているのは気のせいでしょうか。 「まぁ、なんというか……基本的にタt……もとい、お姉様ポジションになると思うの、あたし!」 正直ユリクレーよりお姉様が怖いです。 何はともあれきゃっきゃうふふ。もう兎に角お花ときらきらで満ちた空間を作る、リベリスタの元へと。 奴は、迫り来ていた。 最初に聞こえたのは、かさかさと言う足音。 次いで。 ┌(┌^o^)┐ユリィ…… 飛び出してきた姿に、一瞬リベリスタの表情が引き攣る。 正直殺虫剤かけたくなるよね。似てる。あの、真夏を駆ける漆黒の悪魔に。 メイがそっと溜息を漏らす。あの足音からして何とかならないのだろうか。 「出たわね! さあ、ちゃっちゃと倒すわ……よ?」 突如現れのたうつ化け物を、暁穂の鋭い眼光が睨み据える。大丈夫、この程度なら。そう、武器に手をかけようとした、その時。 ふわり。漂ったのは百合の、香りだろうか。 あれ、何だか、意識が―― ● さぁ此処からが本番。Let's show time! みたいな。いろんな意味で。 自分ノンケ。つーか男×男好きの女。ホモより美味しいもの? あるよ! 「お姉様ハァハァ、お姉様ペロペロ……はっ、あたいは一体何を――!?」 はっと我に返れば、目の前に居るのはとろん、と目を閉じ掛けた響希。 ノンケの自分を堕としかけるとは、ユリクレー……恐ろしい子! ふるふる、首を振る刹姫はしかし、次の瞬間にはフォーチュナに力一杯抱き締められていた。 「やだもう、刹姫ちゃん可愛い……」 よしよし、髪を撫でて、頬をすり寄せてくる相手を見詰めて。 ああもういいや、折角だし新境地を開拓しようじゃないか。ユリクレーには勝てなかったよ! 「理想とは違うっすけど、百合も悪くないっすね……」 さわさわ、蝙蝠の象徴の爪の境目を弄る。ぴくり、跳ねた眉から判断すれば、擽ったそうだ。おっと涎が。 「あ、お姉様、抱き締めてもいいですか?」 「ええ、遠慮しないで、ほら!」 きらきら、その澄んだ青色の瞳を輝かせたティセの願いを、セレアは勿論と受け止める。 じっと見詰め合って、そう、此処がきっと2人だけの世界。寧ろ楽園。 暖かいし、柔らかい。女の子の身体って良くマシュマロみたいって言われるけど、それが凄く素敵なことに思えてきたかも。 ティセの頬が染まる。お姉様、ずっとこのままでいたいです。 このまま溶け合って1つになれてしまいそう。ほら、心臓の音も近いし。何だか溶けてる気もするし。 こうやってぎゅうってしてれば何の問題も無いのです。絵的にも。全年齢って辺り的にも。一応。 あ、でも。 「ティセさん、一緒に行くわよ?」 「はい、お姉様!」 かさかさかさ、大興奮でリベリスタの周りを駆け回るこいつは、ちょっとどころかかなり邪魔だ。 魔力の弾丸が、しなやかな脚から生まれた鎌鼬が、涎ごと化け物を弾き飛ばす。 よし、後は放置だ、放置。 「さ、ティセさん、続きをしましょう?」 此処だけ女学院的なのは何故なのでしょうか。 「ふふっ、ほら、恥ずかしがらずに……大丈夫ですよ」 優しく、笑顔で。鬱穂の頬に手を添えんとするのは小鳥遊・茉莉(BNE002647)。 服とかぼろぼろなんですが。どう考えても素面です。本当に有難う御座います。 「そんな私なんて……お姉様方に比べたらちんちくりんで……」 だから恥ずかしい。でも構ってほしい。自分からいけないし。そんなの恥ずかしい。 上目遣いにもじもじと言葉を紡ぐねk……基、鬱穂を、茉莉のほぼ晒された腕がそっと抱き寄せ頬に口付ける。 こんな機会滅多に無いんだから、楽しまないと損ですよね! 「暁穂様、わしのこと褒めて下さるのかのぅ?」 「ええ、可愛い、与市ちゃん可愛いわ……!」 最初の宣言は何処へやら。誰彼構わず抱き付き始めた暁穂が次の相手に選んだのは与市。 触れ合う身体が暖かい。気恥ずかしげに、けれど嬉しそうに甘えてくる与市の頭を撫でる暁穂。何と仲睦まじい。 しかし。それを微笑ましく見守れないのがユリクレーなのだ。 「ユッユリィユリィ! ユリユリィ!!」 大興奮。大量に分泌されたよだれが、2人へと振りかかる。 少しの沈黙。直後、聞こえたのはばちり、という放電音。 「イチャイチャしてるの! 邪魔しないでよ、バカ!」 その言葉の直後に。その身が、武器が帯びるのは爆ぜる紫電。 人の恋路を邪魔する奴は馬に蹴られて死んでしまえ。 力一杯叩きつけられた拳に、化け物の身体がべこりと凹む。 正気を失おうと攻撃に手加減の無いリベリスタ。流石です。 「わーん!お気に入りのお洋服がー!」 よだれの被害を被ったのだろう、メイの悲鳴が聞こえてくる。 性別不詳? でも見た目が可愛いんだからいいのです。見た目が百合に見えるなら問題ない。可愛いは正義。 何とか正気を保っていた兎子が、よだれ被害の酷そうなメイへと癒しの息吹を吹かせる。 何にも知らないっていうのは時に一番幸せですが、今回はちょっと辛いかもしれません。 繰り広げられる光景から目を背けつつ。彼女の瞳が、かさかさ動くそれを捕らえる。 ┌(┌^o^)┐<ユリユリ! ユリィ!! 倒してしまうのも可哀想かもしれない、なんて考えを持っていた数時間前の自分をちょっと、問いただしてやりたい位には。 どうしようもない敵だった。 レイチェルと茉莉が、見詰め合い、口付けを交し合う。恥ずかしい? それもきっとご褒美です。っていうかノーカン、この2人にとってなら。 でもそれ以上は駄目です。続きはwebで! 刹姫が、暁穂の機械化部分を探る様に身体をまさぐれば、セレアが混ぜてと言わんばかりに抱きついて来る。 3人以上での百合が邪道ですって? だれが決めたんですか、そんなこと。 女の子がいちゃいちゃしていれば百合なのです。そして、当人が幸せならもうそれは百合なのです。 色んな意味で濃厚な戦闘(?)が、続いていく。 ● ボコされすぎt……満足したのだろうか。 ユリクレーが不意に、公園の隅へと動いていく。 其処に存在するのは、異界への扉。リベリスタが事前に探しておいたそれへと、化物は自ら戻っていく。 ┌(┌^q^)┐<ユリユリィ♪ ご機嫌らしい。かなりうざい。 未だ、甘い香りの効果でいちゃつき続けるリベリスタの横で。 敵は、酷く満足げに自身の世界へと、戻っていった。 ふ、と香りが消える。 「ノリノリだったなんてそんなこと無い、そんなこと無いわ……」 はっと我に返ったのは暁穂。あれ、でも、百合も悪くなかったかもしれない。 思わず漏れた台詞に慌てて首を振る。いやそんな筈、……ないよね? その横では、疲れ切った顔をしたフォーチュナが、死んだ瞳で何処か遠くを見詰めている。 嗚呼もうお嫁にいけない。そんな呟きが聞こえたのはきっと、気のせいだろう。 「そ、その、着物で着替えるのが大変でのぅ。……抱き付いてもいいじゃろうか?」 裾や肩口が溶けた着物を押さえて。控え目に声を上げたのは与市。 はい喜んで! 香りが消えようとぶれないお姉様方に可愛がられるのはある意味、幸せかもしれない。 流石にこのままで帰る訳にも行かない。そう、着替えを始めたリベリスタの中で。 「……えっと、こーゆー場合はタイが曲がっていてよ? とか言うんでした、っけ……?」 兎子が呟けば、また、ユリィ、と鳴き声が聞こえた気がする。 そうです合ってます。それを制服で言ってくれるともう言う事無しです。 手早く着替えを終えたティセが、ゲートを塞ぎに歩き出す。 「でも、女の子同士も、悪くはない、かな?」 ぼそり、無意識に漏れた台詞に、慌てて首を振る。 いやいやまさか。もしかしてまだ、奴は近くに居るんじゃないか。きょろきょろ、見回してから、丁寧に穴を閉じていく。 気付けば、もう夕方。 色んな意味でやり切ってしまったリベリスタ達は来た時と同じく、親しげに帰って行く。 ┌(┌^q^)┐<ユリィ…… そんな幻聴に、見送られながら。 |
■シナリオ結果■ | |||
|
|||
■あとがき■ | |||
|