●参ったね、首がない! Mike, Mike, where's your head? Even without it, you're not dead! (マイク、マイク、お前の頭はどこだい? それがなくても、お前は死なない!) ――1940年代のアメリカ・コロラド州の童謡 ●首を持たず首を奪うモノ 恋三郎は農家の長男だった。三郎なのに。 田舎の農家の例に漏れず、彼の家には数羽の鶏が飼われており、当然のようにそれらは何れその首を落とされ、食料として恋三郎達の胃袋を満たす役割を果たすはずだった。 「何だべ、こりゃぁ……」 故に、ナタを構えて鳥小屋に足を向けた彼が見たその光景は異常だった。 彼の飼っていた鶏は都合五羽。そのどれもに首が無く、しかし当たり前のように歩きまわっていたのだ。 あまつさえ、首がないのにさもあるような仕草を続けて。 もう一つ、驚くべくは落とされたはずの首が――どこにもないこと。 余りに多くのことが同時に起き過ぎたがために、恋三郎の思考はそこでパンクした。 尤も、彼の死角から飛びかかった影が親切に彼の首を落としてくれたので、彼はそれ異常考える必要がなかったのだが。 ●断頭台ラヴァーズ 「実際のところ、首を落とされても生きていた鶏は存在します。 ギネス記録で十八ヶ月……まあ、エリューションでもなんでもなく、獣医学的に説明つくんですけどね。 でも今回のケースは、アザーバイドとそのアーティファクトに因るものです。識別名『レッドキャップス』。 古来より存在する悪魔の一種としてその名が知られる個体で、事実何度もこちらに流入しています」 ちょっと、いやかなり目に悪い映像を途中で切ると、『無貌の予見士』月ヶ瀬 夜倉(nBNE000201)はリベリスタたちに向き直る。 「で、装備しているのはアーティファクト『ロイドの手斧』。まあ、随分と奇特な名前だと思いますが……それはさておき。『レッドキャップス』に関しては、高い瞬発力と身の丈に似合わない筋力を持っています。少なくとも、成人男性の首を一撃で落とす程度には。端的に言えば致命傷を与えやすいような一撃、ということでしょう。無論、それだけではありませんが。片や、この『ロイドの手斧』は、革醒前の生物の首を落としてもその生命を存続させる――寧ろ、E・アンデッドにしてしまう能力があります。性能に関して殊更秀でているという感じではありませんね。何しろ、首を落としたら考える頭も無いんです。片手落ちって話じゃありませんよ?」 「ところで、この映像は『後』か、『前』か?」 「……ああ、はい。『後』です。なので、今から向かえば恋三郎さんの命は保証されます。ですが、既に鶏達は革醒してますね。個体性能は高くありませんし、そもそも首が無いだろうと言われればそれまでですが、神秘系統の攻撃が目立つようですね。そちらも、対処だけはお願いします」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:風見鶏 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年05月08日(火)23:53 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●首刈りにして首狩り 猿のような、と云えばその醜さを表現するに足るだろうか。 血を浸したような朱に染め上げられた帽子を目深にかぶったその魔物は、ギィギィと耳障りな鳴き声を立てて小屋の中を駆けまわる。地と言わず壁と言わずを駆け抜けて、殺した鶏が動く様の何が楽しいのか叫んでいる。だが、その音階は神秘のそれか、はたまた別の何かか―― 「念の為とは思いましたが、結果オーライですね」 「もの凄くフリーダムね☆ 楽しそうだわ……」 レッドキャップスの声を聞き、僅かに背筋を縮こまらせた『空中楼閣』緋桐 芙蓉(BNE003782)の横で、『白詰草の花冠』月杜・とら(BNE002285)は「結局は殺すのだけど」、と言わんばかりの雰囲気を噛み殺し、努めて明るく周囲に声をかけている。 だが、彼女の真意はその口ぶりからはまるで悟られない。それほどには快活な少女然とした姿や形振りを続けているということに他ならないが、傍らの芙蓉を安心させる程度にはその有り様に救いはある。 「確かに首を落とした鶏がととーっと駆け出すような事はありますが。流石にこうなるとやりすぎですねえ」 「やはり面妖な気はしますね」 その有様に僅かながらも嫌悪感を見せたのは、ユーキ・R・ブランド(BNE003416)である。事実、そのような現象は割と一般的なものとして存在はするものの、こうも生き長らえた例はほんの一件知られているのみだ。模倣的な殺戮があった一時期でさえ、一晩を超えて生き延びた個体など存在しなかった――神秘界隈を除いては。 応じる『戦士』水無瀬・佳恋(BNE003740)にしても、エリューションである以上は理解できこそすれ、頭のない存在が自由に歩きまわっているという事象は、やはり目に見えて怪奇であることに変わりはない。 「妖魔レッドキャップ、いや怪異?」 ペトラ・D・ココット(BNE003544)がラージシールドの影から小屋に視線を飛ばすが、しかし中の様子は視えはしない。それでも、中で暴れまわるそれが確実に世界の敵であること、自分たちの殲滅すべき対象であることに変わりはない。怪異は、当たり前のようにそこにある。 「確かそんな名前の妖精がイギリスの伝承にありましたね」 応じる『宵闇に紛れる狩人』仁科 孝平(BNE000933)にとっては、小柄でありながら怪力で、人を襲う凶暴な個体が容易に想像できただろう。尤も、その細部まで知っている人間は少なかろうが。 「だいたい伝わっているものと同じ性質だと思っていいのかしら」 ヴァンパイアに十字架は通じない。幽霊に塩は効果がない。『鉄鎖』ティセラ・イーリアス(BNE003564)が述べるところの「性質」とは、その生まれ持っての性分、暴力的な側面を指しているのだろう。 血まみれの帽子を被る悪鬼。それは正しく、凶暴性をそのままにそこにある。周囲を固める屍の鶏がその不気味さをいや増して見えるのは、その凶暴性が顕になってこそだろう。 「レッドキャップ、ね」 ぽつり、とユーキがその名を反芻する。血を吐き血を浴びた嘗ての戦友の二つ名を冠するそれに向ける感情が如何なるものかは彼女しか知りえない。だからこそ、彼女にしか出来ないことも、あるのではないだろうか。 慣れている。戦友がそうでなくなることなど、今まで数限りなくあった、はずだ。 だから、慣れている。そう、言い聞かせるほかはない。 「被害者が出る前にしっかり終わらせないとね」 周囲の布陣に改めて指示を飛ばし、守りの体勢を堅固なものとする櫻木・珠姫(BNE003776)にはただ、目的意識のみがある。裏を返せば、目的意識さえあれば戦うに遜色ないということでもあるだろう。 覚悟を決めている人間に、多少の例外など通用すまい。 決して、時間は無限ではない。 僅かな猶予を稼ぎ作った戦いの準備と覚悟は既に終わっている。 残されたのは、ただ、戦いの空気。 ●数珠繋ぎの死 「ィィィィィイイイ!」 一気に突入したリベリスタ達を狙い、壁を蹴ってレッドキャップスが迫る。全身に撥条と回転力を加えた一撃に先んじて得物を抜いたのは、孝平だった。 バスタードソードの速度は、確実にレッドキャップスを上回った。しかし、敵もさるもの。振りぬかれた刃の腹を斧で打ち据え、ぐらついた彼の首筋を正確に切り裂いて行く。 頸動脈を何とか避けたとは言え、傷は深い。警戒した以上の事象が一瞬のうちに起き、それだけでリベリスタ達に僅かな混乱を来すに足る状況であったことは想像に難くないだろう。 すかさず、とらの息吹が彼を癒そうとするが、回復を受け付けない呪いは明確にその破魔の波長を拒み、十全な回復を許さない。 (……ちと、反動がきついですねぇ) 首のない鶏がこちらに駆けてくるのを視界に収め、ユーキは身にまとった闇をそれらへと叩きつける。確実に射界に収めたのは三体。それだけでも十分すぎるが、体内から抜ける力の感覚はどうやったって慣れはしない。 手にしたばかりの力の優秀さに気を取られがちだが、暗黒騎士たる技能の多くはその代価を求めるものだ。決して、おいそれと放てるものではない。尤も、彼女の体力からすれば瑣末な問題ではあるのだが。 次いで、ティセラの持つ銃が広範を狙うように火を吹き、数体の鶏とレッドキャップスを貫いていく。手応えは、十分。戦友の加護か、それとも練度か。 油断なく次手を構え直す彼女に、一切の躊躇も油断も感じられはしない。 「頭が無いのにどうやって周囲を確認しているんだろうね?」 事前準備に費やせなかった分、珠姫が敵と戦場に視野を移し、分析を行いながら口にする。 そも、首のない死体というのが疑念のひとつ。 その首すらも消失している、などというのが論理思考の先には理解できない。……が、それは視野を広げた彼女が理解するには、余りに単純な理屈だった。 孝平と刃を交え、間合いを取って対峙したレッドキャップス――その、腰元に。数珠繋ぎにされた鶏の首がぶら下がり、わずかに血を散らしている。 少なくとも、見目好い状況ではないのは確か。疑念をもってそれを注視していたとらもまた、それに向けた視線は明確な嫌悪と敵意。 そして、それらの戦闘の合間を縫って迫るのは、大ぶりの刃を構えた芙蓉の姿。既に相応の痛手を負った鶏の一体の足元を蹴り、刃の柄で打ち上げ、叩き切る。 正中線から両断されたそれに、既に再びの生を得る理など、ない。 「初めて攻撃しましたが……やっぱり、生き物を傷つけるのは心苦しいわ……」 既に死んでいるのだったか、とおどけてみせる余裕を見せながらも、やはり心苦しさは変わらない。芙蓉にとって、その感触は決していいものではないのは確かだろうが。 残された鶏は四羽。何れもその手傷は決して浅くはなく、制するは難くない。が、ブロックに回った前衛を或いは爪で、或いはある筈のない嘴で責め立てる様は決して容易に倒されるような敵でないことを連想させる。 佳恋の刃が強かに鶏の一体を打ち据えたが、到底死に至るとは思えぬ動きで着地し、彼女へと飛びかかる様は異常とも言えた。 死んでいる、しかし死んでいない……ある意味では異常で、しかし世界からすれば当然の帰結。 「今回復するんだね!」 周囲の状況を判断し、天使の歌を行使するペトラは、しかし状況を確実に、正確に判断出来るかといえば正しくその通りではなかった、と言えるだろう。 負傷の度合いから歌を行使し、終始全員の体力を高次に保つ努力は認められて然るべきだが、数の多寡で述べられない事象は、幾つか存在する。 軽快に跳ねまわるレッドキャップスが、大きく腕を逸らし、構える。その指先を離れた斧が圧倒的速度で螺旋回転を繰り返し、ほぼ全員を掠め、或いは薙ぎ払い、再びその手に戻るまで、秒とかからぬその勢いは、圧倒的と呼ぶにふさわしかっただろう。 膂力というよりは、鋭さ。正確性と言うよりは、タイミングが生んだ幸運的な精度。経験の浅い者達にとって、明確にそれは脅威として刻み込まれるにふさわしい、悪意だった。 「ほら、頑張って! これが終わったらおいしい鶏料理が待ってるよ~☆」 しかし、その状況下ですら、とらの言葉に僅かな躊躇や錯乱といったものはない。 過信や盲目的な勝機があるわけではない。信頼があったればこそ、自らの役目を全うし、確実な勝利を手繰り寄せようとするのは当然の構えだ。 その証拠として、少女の眼光はレッドキャップスに対して明確な敵意と害意を向けて輝きをいや増している。 小屋の中で、黒き輝きが再び閃き、合間を縫って闘気が地を這う。 ユーキとティセラの攻撃がほぼ同時に鶏の群れを薙ぎ払い、その全てを二度と立ち上がれぬ骸へと変えた。ごくごく当たり前に、しかし圧倒的な勢いをもって。 ティセラのそれが決定的な一撃であったことは、その身を伝う鎖が放つ余剰光が明確な証拠であることは、明らか。 それらの攻勢を差し引いても、包囲を主体とした戦術から鶏達が逃れる道理がなかったのは明らかだ。 レッドキャップスは、しかしそれでも狼狽えない。自らの配下をいいようにされた事実に怒りこそすれ、敵が一人を行動不能に追い込んだ事実は、彼にとって十分な勝機だったといっていい。 「ここまできて逃すつもりは、無いからね」 珠姫のチェイスカッターが怜悧な軌道を描いて迫る。斧を操って受け流したそれを覆うのは、佳恋が構えた白の長剣。軌道をも白に染め上げた一閃は、斧を盾にしても尚その勢いを衰えさせず、叩きつけられる。 ぎィ、と吼える相手の動きに合わせ、ペトラがワンドを掲げ正面から対峙する。斧使いの常道を鑑みれば、大上段からの一閃を警戒するのは当然と言えただろうが、神秘に常識や常道の概念は通用しない。現に、その手合いは非常識ですらある斧捌きで自分たちを絶えず翻弄し、暴れまわっているのだ。 それでも、タイミングをあわせるのは難しいことではない。神秘に身をおいたのは自分とて同じ事。一瞬の躊躇の後に放たれた一矢は、レッドキャップスの聞き手の指を一本吹き飛ばし、後方に抜けていった。 「あなたに恨みはありませんが、これ以上被害を広めるわけにはいきませんから」 バランスを崩した相手を捉えることは、神経を研ぎ澄ませた芙蓉にとっては容易い――とまでは言わなくとも、十分に間合いに持ち込むことが可能だったことは間違いない。 打ち上げるような一撃が脚を切り裂き、縦回転から壁面に叩きつける。息が詰まった声を吐き出しながら、しかしそれでも、レッドキャップスは倒れない。 不気味に歪んだ表情は、確かに不利に対する脅威をまざまざと見せつけられている様子ではあれど、その戦意は些かも衰えた様子がない。 寧ろ、その状況すらも楽しんでみせる、という悪意の矜持が顔をのぞかせる。本能からの戦闘意欲は、一方的な殺戮に限らない。圧倒的な、悪意。 包囲網は確実に狭まり、剣戟が幾度となく躱され、然し斧の狂暴な軌道は不用意な接近を許さない。 膠着状態を生み出さんとした状況を断ち切ったのは、ユーキの放った黒い霧。函を象ったそれが四肢を縛り呪いを込め、一切の自由と感情を封殺する。 「逃がすわけにはいきません、から……!」 木偶同然となったそれに、佳恋の刃が上段から打ち掛かる。ただ一閃の刃のもとに、甲高い声だけが尾を引いて消えて行く。 何時しかレッドキャップスごと姿を消したバグホールから残されたのは、ただ血が斑に散った鶏小屋、それだけだった。 ●戦後処理、という名の食育 恋三郎は、俗に云うところの「ヌケサク」である。 男としての度量に欠け、肝心なところでドジをやらかし、あらゆる事態に対処する適応力が徹底的に欠けている。故に、目の前の惨状も彼の手抜かりが起こした事実だと考えれば合点が行ったに違いない。 「あれまァ……狐サ喰われちまったべかァ」 半開きの扉、室内に散らばる羽根、そして血と肉片。どうあっても野生動物の襲撃にあったようにしか見えない惨状に、然し彼は慌てる様子を感じさせなかった。それが普通、と言わんばかりだ。 家族に大目玉をくらうのだろう、と半ば諦めの境地にある彼は、ある意味不幸、なのかもしれず。 「……で、持って帰ってきちゃったんです?」 「羽根はお湯に漬けると毛穴開いてむしりやすいよ♪」 「いえ、そうじゃなく」 所変わって、アーク本部。エリューション化した鶏たちは残さず持ち帰られ、何故か絶賛調理中である。 何か無駄に豪華だ。丸焼きとか、リゾットとか、棒々鶏とか。 「え、食べるの?」 当然のごとく、ペトラも懐疑的だ。 「感謝を込めて、頂きましょう♪」 むしろ芙蓉はノリノリだ。なんだこの光景。なんだこれ。 「夜倉お兄さんは、全部食べるまで帰してあげないんだからぁ!☆」 「何で僕ですか」 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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