● 苦しい。 大気が喉を通る其の度に。 全身を紅蓮の炎が灼き尽くす様な痛みが奔る。 『この世界』では、どうやら僕は呼吸も儘ならないらしい。 痛い、痛い、苦しいよ。 身体中を毒素が這いずりまわって胸を締め付ける。 あの世界だけじゃない。 この世界にも、僕の居場所は……無い。 ● 「迅速に処理して欲しいアザーバイドがいるの」 『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)が司令室のモニターに一つの映像を映し出す。 其処に映し出されていたのは。 三平高市の商業地区で殺人を繰り返し跋扈するアザーバイドの姿。 狂気の叫びを彷彿とさせる顔に。 2mはあろうかという異常に伸びた、奇妙な両腕。 アザーバイドが、逃げ惑う人々の一人の手を掴む。 刹那、モニターの映像を見ていたリベリスタ達が思わず言葉を失った。 グニャリ、と。 掴まれた人の身体が骨を圧し折り、捻れていくのだ。 其れも、力任せに捻じ曲げるのではなく。 触れただけで、次々に人々が捩じれ、殺されていく。 其れは、余りに異常過ぎる光景であった。 「彼の名は『捩切(ねじきり)』」 触れた相手の身体を捩じり切る超能力『ネジリ』を持ったアザーバイド。 「とある世界で生まれた彼は、手に入れたその力で大量殺人を犯したの」 年寄りも。 若者も。 赤ん坊すらも。 老若男女全てを問わず捩切は殺し続けたのだという。 「大量殺人を犯した彼に其の世界は、『世界からの追放』という刑罰を科したの」 死刑すら、捩切には生ぬるいと。 魂の一切を、生まれ落ちた母なる世界に残す事すら許すまいと。 世界は捩切を永久追放した。 「世界を追放された彼は、そのまま最下層のこの世界まで落ちてきた」 傍迷惑な話よね、とイヴ。 要は大層な理由をつけた所で。 自分の世界でどうにも出来ない犯罪者を別の世界に押し付けようという事。 押し付けられた世界からしたらたまったものではない。 「さて、此処からは彼を処理する上で、聞いても聞かなくても良い事だけど……」 折角だから話すわね、とイヴが話を続ける。 「彼――捩切は、『ネジリ』の超能力をONOFF切り替える事が出来ないの」 発現したその瞬間から現在まで。 彼の手は触れたモノ全てを彼の意思に関わらず捻ってしまう。 「……誰にも、決して触れる事が出来ない」 触れようとすれば、触れようとした其処からたちまち捻れていく。 イヴがモニターの中の捩切に目を移す。 人々を襲う大量殺人犯の顔は、何処か寂しさが満ちている様な。 「もう一つ、彼にとってこの世界の大気は猛毒そのものなの。 私達に例えて言うなら、生身で火星に放り出された感じかしら。 ともかく、そのせいで呼吸も儘ならない彼は現在、とっても錯乱中だし」 放っておいても、その内死ぬとイヴは言う。 但し、其れは多くの罪なき人々が犠牲になった後でと付け加えながら。 リベリスタ達の表情が、曇る。 「今から行けば此れ以上被害が拡大する前に、彼を止められるわ」 だから、お願いとイヴがリベリスタ達に言う。 地獄絵図と化しつつある商業地区では、既にアークによって避難が開始されている。 その為、リベリスタ達の戦いの邪魔をする者達はいないと言えるだろう。 敵は捩切ただ一人。 ただ、錯乱しているせいか『ネジリ』の力が暴走を始めているとイヴは言う。 「絶対に、不用意に近づいちゃ駄目」 細心の注意を払って戦って、と。 最後にそう言ってイヴはリベリスタ達を送り出したのだった。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:ゆうきひろ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年05月02日(水)00:48 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 只、触れてみたかった。 他の人と同じ様に、誰かの温もりを感じてみたかった。 「世界を追われた存在、『捩切』ですか」 三高平市の商業地区に急行しながら『戦奏者』ミリィ・トムソン(BNE003772)が呟いた。 ミリィの胸中にあるのは、相反する二つの想い。 捩切の、触れるモノ皆捩じ切らんとするその力に感じる恐怖と、其の存在の悲しさ。 彼の力は誰も寄せ付ける事はない。 其れはつまり、人の……誰かの温もりを感じる事が出来ないという事だ。 「もし、もしも彼が誰かの温もりを得る為に手を伸ばしているのだとしたら」 なんて、悲運。 運命はかくも残酷な仕打ちを何故もたらすのか。 だが、例え得た能力が本意で無かったとしても彼を此れ以上放置する事は出来ないとミリィは思う。 其れが、自分達――リベリスタの任務なのだからと。 「きっと、元の世界でもただ触れ合いたかっただけなんだろう」 ミリィの言葉に頷きながら、『糾える縄』禍原 福松(BNE003517)はそう言った。 能力が強すぎる故に世界から拒絶され、落とされたこの世界での空気は毒。 もがき、苦しみ、助けを求めた其の手はまた殺戮を繰り返す。 「彼自身には制御出来ないが故に、自分の意思とは無関係に周囲に被害を及ぼした」 捩切が望んでそうした訳でもなく。 ただあるだけで罪と言うなら其れは悲しい事だと小鳥遊・茉莉(BNE002647)は思う。 「ですが、私達も彼自身に罪が無い事を知りつつも、倒す以外の手段が無い」 戦わざるを得ないのだ。 そして、この世界に居ること自体が彼に苦しみを齎すのならせめて其の苦しみを速く終わらせてやりたいと茉莉は思う。 偽善と言われたって構わないのだ。 自分に出来る事はこれくらいしかないのだから。 「何とも難儀な人? なのですね~……何とかなるのでしたらいくらでも頑張るのですが」 何ともならない以上、やはり倒すしかないと来栖 奏音(BNE002598)が茉莉に頷く。 「とりあえず捩切さんはともかく」 彼をこの世界に放り出した無責任な世界の人達とは仲良くなれなさそうだと。 むしろ、此方がお断りだと奏音が言う。 手に負えないからと他の世界に押し付けるなんて、奏音には到底理解し難い事なのだ。 「理由がどうあれ殺される側にとって殺した相手は赦せるものじゃないんだろうけど」 其れでも、世界そのものからの永久追放とは惨いものだと櫻木・珠姫(BNE003776)が言う。 甘い考えかも知れないが、彼の境遇を考えるととても胸が苦しくなるのだ。 「自分も革醒してから暫く居場所なかったからなぁ……」 重ねずにはいられないと言うのは『弓引く者』桐月院・七海(BNE001250)だ。 だが、息も出来ないというのは流石にどうかと七海は思う。 介錯を務めるのは、なるべく早い方が良いだろう。 「俺様ちゃんと、同じ『せかい』からはみ出した『殺人鬼』」 未だ見ぬ捩切を思いながら、『殺人鬼』熾喜多 葬識(BNE003492)が嬉しそうに呟いた。 自分達が向かうは地獄。 こんなに愉快な事はないのだ。 「ふん、この世界に追われた挙句、同じ事を繰り返すとはな」 世界に絶望したのならば。 其の力を自らに使い捩じ切ってしまえば良い物をとリオン・リーベン(BNE003779)が言う。 例え世界に絶望したとしても、其の力が自らの望んだものでなかったとしても。 其れはこの世界で殺人を繰り広げる免罪符にはならないとリオンは思うのだ。 「そろそろ彼がいるエリアに到着するはずです」 ミリィが仲間を見回しながら言う。 戦場に着けば、一瞬の迷いが命取りになってしまう。 気持ちを押し殺す様に、ミリィは戦う自分を呼び覚ましていく。 「任務開始。さぁ、戦場を奏でましょう」 ● 普段はビジネスマンが行き交うオフィス街の一角はしかし。 今はアークの避難誘導によって、人っ子一人存在しないゴーストタウンと化していた。 其処に存在するのは屍の山と、稀代の殺人鬼――捩切。 「此れはまた派手にやっちゃったもんだねぇ」 駆けつけたリベリスタ達がむせ返る様な血の匂いに思わず顔を歪めた。 其の声が、自らに対して掛けられたものだと気づいた捩切がリベリスタ達の方へ向き直る。 叫びを模したかの様な、おおよそこの世界の人間とは似ても似つかない歪な顔。 口と思しき器官からは絶え間なく、苦しげな白い吐息が溢れ。 だらりと伸び垂らされた長い長い両腕は、今は犠牲者の血に塗れ赤く赤く染まっている。 捩切の口が何かを訴える様に開かれ、震える両腕がリベリスタ達へ向けられる。 「不味い……距離を取れッ!」 いち早く其の行動の意味に気づいたリオンが、仲間達に指示を出す。 其の言葉にリベリスタ達が素早く距離を開けようとした、次の瞬間。 リオンは眼前の世界が捩れるのを見た。 オフィス街のビルの窓や、コンクリートの地面に亀裂が走り、捩じれる。 勿論捩れて行くのはモノだけではない。 不可視の衝撃『ネジリ』が、大気を伝いリベリスタ達をも捩じっていく。 腕が、脚が、まるでゴムの様に捩じれ。 捩られた先から鮮血が吹き出し、ショックに顔を歪める。 「っち、確かにこいつは厄介だ……」 問答無用だなとリオンは思う。 視界に捉えた先から捩じ切って行く能力『ネジリ』。 其れを実際に目の当たりにしたリベリスタ達が構えを取り、散開する。 どうやら能力のONOFFが効かない上に、更に暴走しているというのは本当らしい。 実際に触れられた訳じゃないのが、唯一の救いか。 映像で見た犠牲者達の様に捩じれ、肉塊と化した者は一人も居ない。 「ふん、貴様にはこの世界にも居場所はない。さっさと死にたまえ」 リオンが冷たく捩切に言い放つと共に、自身の持つ防御の為の効率動作。 其の全てを超常の力を以ってして仲間達全てに共有し、その力を高めて行く。 実際に剣を取り戦う事こそ苦手なリオンではあるが、こと仲間を叱咤激励し指揮を取り、戦わせる事に関しては天賦の才を持つ。 その様は他者を率い、戦いを勝利へと導く軍神の様にも見える。 「サポートは任せて攻撃に集中してくれて構わん」 「そんじゃま、思いっきり戦えるみたいだし、行こうか」 一歩前に出た葬識が、歪で禍々しい大きな鋏『逸脱者のススメ』を手に闇を纏っていく。 今日だけは、クソッタレな運命の女神にも感謝しなくてはなるまい。 「楽にしてあげるよ。君が此処に辿り着いた奇跡に、そして同じ『モノ』としての敬意を示して」 魔閃光――捩切をしっかりと眼前に見据え、鋏に収束した漆黒の閃光が放たれる。 点と点を結ぶ戦の様に放たれた暗黒のオーラが捩切に命中せんとした瞬間。 グニャリ、と魔閃光が捩じれその威力が大幅に減退していく。 視界に入り込んだ魔閃光そのものが『ネジリ』によって、掻き消されかけたのだ。 結果、漆黒の閃光は命中したものの致命傷には至らず、僅かに身体を傷つけるのみ。 攻防一体の無茶苦茶な能力に葬識の顔が嬉しそうに歪む。 「苦しいんですね……。なるべく速く、終わらせてあげますから」 あえて一歩前に出た葬識の後ろで茉莉が目を閉じ、詠唱を紡ぐ。 紡がれた詠唱は茉莉の体内に宿る魔力の全てを活性化させ、全身に魔力が満ちてゆく。 「本当、同情だけでどうにかなるものじゃないけど」 珠姫の目が戦場全体を見渡せる様に、視野を拡大させて行く。 其の驚異的な視野は即座に戦場全てを認識し自分自身の力へと変わる。 「ふにぃ‥‥またまた回復役なのです。いい加減、この展開には慣れてきましたが最近マグメイガスらしくなくなってきている気が致しますのですよ」 呟きながらも仲間達をカバー出来る様に、中心に位置取った奏音が『Tarot Cards』を手に 魔陣を素早く展開し、その上で天使の歌を詠唱する。 清らかな其の詠唱は、大いなる福音を響かせ仲間達の傷を癒していく。 「しかし、名前というよりは能力からの称号みたいなのが」 捩切の能力の範囲内に入らぬ様、距離を取りながら実に皮肉めいているなと七海は思う。 彼自身は其の捩切という名を、一体どう思っているのだろうか。 その胸中は彼自身にしか分らないものだが。 「皆さんのためにも……捩切のためにも早く終わらなさないと」 七海の動体視力が加速する。 加速した世界の中に映る光景は、まるでコマ送りの様。 加速世界の中で完全なる狙撃を可能とした七海が黒白の剛弓『正鵠鳴弦』を構える。 破魔矢よりも何よりも、射るべきものを射抜く為に。 七海の魔力と意思が矢の先端に呪いとなって凝固、収束されていく。 「カースブリット……」 名はその存在を示すもの。 捩切が全てを『ネジリ』によって、捩る様に。 呪いの弾丸が捩切に向け、放たれる。 『ネジリ』によって、勢いを削がれながらも飛来した矢が呪いと共に、捩切に突き刺さる。 突き刺さった其の先から、青いこの世界ならざる者の血が噴出した。 「……お前は殺人鬼なのだろうが」 出来る限り安らかに眠らせてやると、福松が物心ついた頃からの相棒『サタスペ』の銃口を捩切の、其の頭部と思しき部分へと向ける。 全長18cmのダブルアクションリボルバーから発射されたのは、執拗なる不可視の殺意。 目には決して映らぬ殺意の弾丸が、捩切を撃ち貫いていく。 次々に飛来する衝撃に、捩切が呻き苦しむ。 「何、アフターケアさ。仕事だからな」 銃口にマグナム弾を詰め直しながら、福松が言う。 「視界を通して捩じ切るなら、一時的でも眩ませれば行動を制限出来る筈……、です」 ミリィが、神秘の力で生み出した閃光弾を捩切に対し投擲する。 放り投げられた閃光弾に捩切が目を奪われた瞬間。 辺り一面を眩ませる程の強烈な光が放たれ、捩切の視界を奪い去る。 「注意してください。例え一時的に封じたとしても、彼の力は強力です」 視界を閉ざしたからと迂闊に近寄れば、『ネジリ』の力の餌食になる事は必至だろう。 警戒は絶対に解かない様、ミリィが仲間達に言う。 ● 視界を奪われ、身体を麻痺させられた捩切。 だが、其れも長くは続かないだろう……攻勢に出るのならば、今をおいて他にはない。 「条件はクリアした。この機に奴を畳み掛けるぞ!」 リオンが、前に立つ葬識と意識を共有し自身の力を分け与えながら言う。 「オッケーだよ~助かるね」 冷静に、集中力を高めながら魔閃光を葬識が放つ。 「君もさ、もう少しグルメだったら世界からはみ出すことはなかったのかもだね」 攻撃を続けながら、葬識はそんな事を思うのだ。 「私達には彼との意思を疎通させる事ができません」 ただ、倒してしまうだけと茉莉が言う。 故郷より『遠く離れた』この地で死ぬ事に彼が何かを思う事があったとしても。 其れに対し、許しは請いはしない。 「……ただ、心はやはり痛むものです」 茉莉の頭上から、収穫の呪いが刻まれた黒い魔力の塊である大鎌が現れる。 漆黒に染まる柄をしっかりと手に掴むと、茉莉は勢い良く其の黒い刃を横薙ぎに振るう。 大鎌から黒い衝撃波が生まれ、収穫の呪いと共に捩切を斬り裂いた。 「ミリィさんのフラッシュバンで行動不能に陥ってる間に……此処で止めるよ」 ミリィの放った閃光弾のお陰で、未だ捩切は行動不能に陥っている。 出来る事が似通っている分、互いを補い合う事が出来るのは幸いだ。 珠姫がショートボウを捩切に向け、広げた視野を最大限に生かし、放っていく。 一発、二発、放たれた矢が致命傷とはいかないまでも捩切へ次々に命中していった。 「広く浅く、癒すのです~」 先程の回復で全ての傷が癒えた訳ではない。 今でこそ捩切は動く事が出来なくなっているが、何時まで持つか分らない以上。 念には念を押して傷を癒しておくべきだろうと奏音が天使の歌を再度詠唱する。 大小合せて78枚からなるアルカナが舞い、仲間達の残っていた傷を完璧に癒していく。 幸い、メタルフレームである自分には無限機関が備わっている。 魔力の消費に関しては他の仲間達程、気にせずに戦う事が可能だろう。 「私は貴方の事を理解する事も、余裕もありません」 出来るのはただ、倒すのみと。 ミリィは珠姫と同じ様に認識を高め、視野を拡げ力に変えると素早く愛用のスローイングダガーを投擲していく。 放たれたダガーが、次々と捩切の身体へと刺さっていく。 「恨むのなら恨んでくれて構いません。苦しめる事しか出来ない私の事を」 眼前で痛みに苦しむ捩切を見据えながら、ミリィが言う。 「いい加減、楽にしてあげたいですね」 先程同様に、呪いを込めた矢を七海が放つ。 更に、続く様に福松が凄まじいまでの早撃ちで捩切の頭を、手を、脚を撃ちぬいていく。 ● 「――――」 捩切の口が、何か言葉の様なものを発した気がした。 異なる世界の存在である彼の言葉自体を聞き取る事は出来なかったが。 発せられた其れが、何であるかをリベリスタ達の誰もが直感的に理解する。 触リタイ。 温モリガホシイ。 捩切の目から青い血を伴う涙が流れ落ちる。 麻痺が解けたばかりの身体を息も絶え絶えに動かし、フラフラとした足取りで。 「やっぱり、誰かの温もりが欲しかっただけなんですね」 只、その為に、温もりを得る為に捩切は手を伸ばしていただけ。 捩切に釣られて流れそうになる涙を、しかし今はミリィは必至に堪える。 「触れ合いたかったのに拒絶され続け、殺人を繰り返してしまった」 其れでも、やはり倒すしかないと福松がサタスペを捩切へ向ける。 「例え彼自身に罪がなくても、其れ以外の方法を私達は知りません」 「人肌を知らないってのは悲しい、あるいは触れたとしても歪な温もりだけだったのかな」 茉莉や七海もまた、各々の武器を手に構え直す。 「本当に……難儀な人なのですよ、本当に」 「ごめんね、あたし達の世界も貴方を受け入れられないから」 境遇には同情する、其れでもこの世界に受け入れる余裕はないと奏音と珠姫が言う。 「ふん、環境には同情してやる。貴様をこの世界に落とした世界にも憤慨はする」 せめて、俺らの手で止めてやると。 其れを幸せと感じて死ねとリオンが言った。 「――――」 触リタイ。 苦シイ、タスケテ。 捩切が、満身創痍の身体を動かし恐るべきスピードでリベリスタ達の元へ迫る。 自ら流した青い血と、犠牲者達の赤い血が混ざり合った歪な色に染まった両腕を。 まるで溺れ藻掻く者が藁をも掴む様に、只々伸ばす。 伸ばした腕が、手が、一歩前に出ていた葬識が即座に距離を取ろうとするより速く。 一切の慈悲もなく、問答無用に捩じり切る。 全身の骨が砕け、鮮血がバケツをぶつけたように迸る。 世界が、廻る。 捩れて、廻る。 捩じれゆく世界の中で、葬識が感じたのは遠くなる仲間の悲鳴と。 眼の前で自分が捩じれた捩切の決して声にならない絶望。 ヤッパリ、触レナイ。 コノ世界デモ、僕ハ居場所ガナインダ。 まるで、泣いてる子供の様だと葬識は思う。 分不相応な能力を得てしまって、持て余す。 誰か、傍に居てくれる人が欲しかっただけ。 この世界に落とされて、呼吸すら儘ならない極限状態のその中で。 「ここは君のための世界だよ」 しっかりと、捩切の腕を掴んだままそう呟く葬識が其処には居た。 彼の為に、優しい嘘を紡ぎながら。 捩じれた世界が、逆に廻って捩れて戻っていく。 クソッタレな運命の女神にはやっぱり感謝しないと行けないらしい。 この、はみ出し者に最後の一時を与えるための力をくれたのだから。 「最後くらいさ、近くで看取ってくれる人、欲しいでしょ?」 まるで捩切の様に、息も絶え絶え満身創痍で葬識が一旦距離を取り、武器を手に構える。 「其れが殺人鬼同士であるなんて、僥倖じゃない? 最後の怨嗟くらいはうけとめてあげるよ」 そもそもが錯乱状態の捩切と会話が出来るなど、葬識は考えてはいなかったが。 ただ、其れでも構わないのだ。 「ちゃんと、俺様ちゃんが覚えててあげるよ」 愛する者に殺戮を。 葬識の『逸脱者のススメ』に暗黒の魔力が宿って行く。 もうこれ以上、苦しまなくていいように。 もう一度、同じ「モノ」としての敬意を払いながら葬識が駆ける。 ソウルバーン、其の精神ごと対象を裂く一撃が『ネジリ』等物ともせず捩切を切り裂いた。 技自体の恐ろしい反動と捩切に触れた事で発生した『ネジリ』が、切り掛かった葬識の身体をズタズタにしていく。 「バイバイ、殺人鬼」 力を使い果たしたのか、葬識が其の場に倒れ気絶する。 そして、ソウルバーンの直撃を受けた捩切もまた、静かに重なる様に崩れ落ち絶命した。 最後に、自分が触れて捩れても死ななかった葬識に触れる事が出来たからか。 あるいは、死によって其の能力から解放された為か。 捩切の最後の表情は、何処か安らかなものとなっていた。 「任務、終了です」 戦いを終えて安堵したのか、それともあるいは彼を思ってか。 ミリィの抑えていた涙が頬に溢れ、伝い捩切へ落ちる。 涙が触れたその先から、捩切の身体が光の粒子に変わり消滅していく。 其れはまるで、運命に翻弄された者が天に召される様。 願わくば、彼の魂だけでも。 せめてこの世界で安らかに眠れる様にと、そう最後にミリィは空を見上げながら呟いたのだった。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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