●三高平のファミリーレストランにて。 その時、仲島は、何か、凄い、怒っていた。 とか、全然どうでも良かったので、芝池はとりあえず、ハンバーグのセット的な物を黙々と食し、夕食を早く終わらせる事に専念した。 早く終われば早くこの店を出れて、そしたらこの、アーク所属のどう考えても変人フォーチュナ仲島とも別れられるのだろうから、とっとと夕食を食べ終わるべきだ、と、早食いとか全然得意ではなかったけれど、自らを叱咤する。 「本当、信じられないよね。可愛いーはいいけどさ、誰が餌やっていいって言ったよ。言ってないよね、俺一回も言ってないもん。何それ勝手にやってんの、びっくりよ。全然意味わかんない。餌食べ過ぎて死んじゃったらどうしてくれんの。あの女が弁償とかしてくれんの」 テーブル席なのに、どういうわけか、隣とかに座って来た仲島は、怒ってても、あんまり表情とか変わんないらしく、相変わらずの覇気のない感じで言い、人の水を勝手に飲み、それからじーとかこちらを見て来た。 「ねえ、聞いてる、芝池君」 「大丈夫です、聞いてません」 「うん頑張って食べてくれてるとこ悪いけどさ、食べ終わったからってここ、出さないからね。絶対出さない。話聞くまで出さないから。どうしても出たいなら、テーブルの上とか乗っかって出て行きなよ。俺、絶対どかないから。むしろ、近づいちゃうから」 って言い終わらない内にもう、じりじりと、備え付けのソファの上を滑ってくる。 とか、美形の男に近づかれるのは、というか無駄に美形の変人の男に近づかれるのは薄気味悪かったので、芝池は、もー負けた。 「分かりましたすいません。熱帯魚、殺されそうになったんですよね、部屋に連れ込んだ女性に」 ライスの入った容器ごと、壁側へと同じように移動しながら、これまでの話を要約する。 「そう。勝手に餌やろうとし」 「はい勝手に餌やろうとしたんですよね、聞いてました」 「会って間もない男の家で、熱帯魚に餌やろうとするとか、もー全然意味分かんないよね」 「その前に、会って間もない男の人の家に、どんどんついてっちゃう女性とか、あんまり、分かりたくないですよね」 「それは、意外と居るのよ」 「っていうか触られたくないなら、そもそも女性とか部屋に入れなきゃいいんじゃないんですか。だいたい、調子こいてナンパとかしちゃうからそう言う事になるんですよね。っていうか、ついて行く女性の神経が全く分からないし、こんな頭おかしい人についてく方もついてく方っていうか」 「あれー?」 「何ですか」 「あれあれー」 「いや、何ですか」 「妬いてるんだ?」 「違います」 「やきもちだ。餅妬いちゃったんだ」 「違います」 「そうかー。やっぱりそうよね。絶対芝池君が好きとか言ってるフォーチュナーの男より、絶対俺の方が」 「違いま」 「ねえねえ」 「はい」 「何かこのくだり飽きちゃったから、仕事の話していい?」 って言った顔を何か、二秒くらい、眺める。それから思わず、絶叫した。「えー!」 「なに」 「いえ、あんまりの事にちょっと取り乱してしまいましたすいません」 「本当は明日でもいいんだけどさ、また資料作っといて貰って欲しい依頼案件があるのよね」 「明日でいいなら、明日にしませんか」 「今回もまた、ざっくり討伐依頼なんだけど。敵は、フェーズ2のE・アンデッドで、出現数は3ね」 「アンデットですかー」 と、芝池は目の前にあるハンバーグを見つめる。「あんまり今、聞きたくないなあ」 「そう思ってね。今話してるのよ」 「ですよね」 「場所は、某所にある洞窟でね。そんなに複雑に広がってるものでもないんだけど、途中に分岐が一か所だけあって、左右に分かれてる。どちらの先にも、数人の人間が入って戦えるくらいの広さの空間が広がっててね。ただ8人全員が入れるかっていうと、それは微妙。戦うのは、ちょっとしんどいかも知れない。通路は、大人二人が余裕を持って並んで歩けるくらいの広さだね。で、アンデットはそのどちらかにいて、もちろん、二手に分かれてる場合もあるかも知れないっていう状況なわけ。あと、この左右の穴なんだけど、岩でふさがれてるだけだから、最悪、壊して繋げちゃう、っていう手も、ないことも、ない。だいぶ、面倒臭いし、成功するかどうかは分からないけどね」 「もー何か、わざわざそんな場所まで行って討伐とか、しなきゃ駄目なんですかね。別にすぐ近所に一般人の人が暮らしてるとか、そういうわけでもないんですよね?」 「植物をね、育ててるのよ」 「え?」 「だから、植物をね、育ててるのよ」 「いやはい、聞こえてます」 「つまりね、このE・アンデットは、異世界から来た植物を育てて、この植物がちょっと厄介なんだよね。この世界には元々ないものだから、この世界の人間がそれに触ったりすると、最悪死に至ったりしたりしてね」 「はー、毒キノコみたいな」 「見た目は、オジギソウの葉っぱみたいで、どぎつい赤と緑の混じった何か、グロテスクな外見なんだけどね。人のこと、噛むのよね。可愛いでしょ」 「可愛いでしょ、は、同意しかねるんで、とりあえず話進めて下さい」 「リベリストの人達なら、噛まれても死んだりはしないけど、こー軽くテンション上がっちゃったりとか、逆に落ちたりとか、幻覚見たりとか、まーよーするに軽く混乱しちゃったりするみたいだから、気をつけて。あと、こいつ、何か、根っ子の部分で走ったりとか出来ちゃうみたいだから、つまり、移動出来るって事なんだけど。なので、捕縛してまあ、息の根を止めるっていうか、破壊っていうか、して貰わないといけない」 「なるほど」 「じゃあエリューション化した死体、つまり、腐った肉の話について、詳しく、説明するね」 と、今まさに、若干赤さの残っている肉の塊、つまりハンバーグを前に仲島は、無表情に、言う。 熱帯魚に向ける繊細さを、ほんの少しでいいから、人に対しても向けてくれればいいのに、と、芝池は、切実に、思った。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:しもだ | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年05月04日(金)00:14 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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● 「E・アンデッドが植物を育てる、なァ」 とか何か、唐突に思い付いちゃったんで言っちゃいます、みたいに、『チェインドカラー』ユート・ノーマン(BNE000829)が、いきなり、言った。 洞窟の茶色いごつごつとした石の壁に、声が跳ね返り、響く。 「脳まで腐っても植物育ててるって、どんだけ草好きなんだよって話だよな」 って誰に言うでもない感想だったのだけれど、それに答えたのは、『黒姫』レイチェル・ブラッドストーン(BNE003442)と共に先頭を歩く雪白 桐(BNE000185) で、 「っていうかあれですよね。それで自分が倒れたら養分になって循環サイクルですよね」 とか何か、さっぱりと、それはもう、ああこれがさっぱりってことですよね、の代表みたいに、若干切なめな現象について、さっぱりと、言った。 「あ、じゃあさ、じゃあさ、むしろあれじゃね? 植物の方が元のエリューションつーか。エリューションの元っていうか、な?」 で、な? って言われたからには、はーみたいに、桐は無表情にユートをじーとか見つめて。 見つめて。 見つめて。 え、これ何凄い俺、見られてないか、とか薄っすら危機感的な物を感じ始めた頃、やっと。 「確かに。ゾンビが自分から育ててるのか植物に操られて育ててるのかちょっと気にはなりますが。どうせ全部倒してしまうんですから関係ないですかね?」 と、凄い冷静に、言った。 は、別にいいけど、何で見つめられてたのかは、もう全然分からない。 しかも彼は、まだじーとかこっちを見ている。 一見すれば女子、だけど、実は男子、っていう美形の人とかに、じーとか見つめられる事は、日常生活の中ではあんまりなくて、若干どうしていいか分からなくなったので、とりあえずこれ、何か後ろとか見とこーとか思って後ろを見たら、そこでやっと、後方の方をだらだら歩く『働きたくない』日暮 小路(BNE003778)の背中の大荷物に気付き、ユートは思わず、え、と、二度見した。 間にも、 「そもそも、その植物は異世界の物だったわよね。出所が気になるわ」とか、桐の隣のレイチェルが言ってて、 「洞窟の奥に穴でもあいてるのかしら? その辺も調査しておきたい所よね」 とか、わりと真面目な話を彼女は続けているのだけれど、ユートはもう、その小路の背中の大荷物から俄然目を離せない。 寝袋的な物のようにも見えたけれど、今回はそんなに時間のかかる探索でもないはずで、けれど、例え、山登りと間違えてんじゃねーか? とか思ったとしても、むしろ思ったからこそ、そこはあえて触れてはいけない予感がしたというか、迂闊に聞けない感じで、えーでもあれなんだろーとかわりと気になってたら。 「でもまあまずは、邪魔者の排除と行きましょうか、あとその荷物、何なの」 と、レイチェルがもーさくっと聞いていた。 あ、そんなあっさりと聞いちゃうのね、と、ユートは思わず、二人を見比べる。 暫くぼーっと、レイチェルの顔を見ていた小路は、 「あ布団です」 シンプルに、言った。 え? なに布団? 布団って言った? 間違いなく布団って言った? とか、もー何か、驚き過ぎて何言っていいか、分からなくなってるユートに対し、 「ふーん」と、レイチェルは、凄い恬淡とした反応を見せ、 「なるほど」と、桐に至っては若干、ありですね、みたいな返事を返した。 「いや、なるほど、は、ねえだろ」 と、ユートは思わず、指摘する。 「いやもうあれなんですよ。面倒臭いんですよ」 小路は、よっこらしょ、と背中に下げた荷物を提げ直しながら、まさしく面倒臭いとはこういう感じです、の代表みたいに面倒臭そうな口調で、言った。「正直、家で寝てたかったんですが、アークも働かないと食べさせてくれないみたいなんで、一応仕事しに来たんですよね。だから、もし待機するような事があれば、この布団で、寝ます」 「え、そのために持って来たの」 「はい」 「え、待機のために、布団持って来たの」 むしろその方が面倒臭いんじゃねえのか、と、ユートは思わず、愕然とする。 「6点セットです」 得意げに、小路が言った。何で得意げなのか、全然分からなかった。 「あたしは寝る事に対しては妥協したくないんです」 って立派な事を言ってる雰囲気満開だったので、うっかり流されて、へーとか、感心しそうになったけれど、この状況では全然立派じゃないよ! と気付き、ハッとする。 「なるほど」 またありですね、みたいに桐が頷いていた。 「いやなるほどじゃねえって」 「……全く。同胞がこれでは、レイザータクトの名が下がるだろう。お前、もっと気合いを入れないか、気合いを」 リオン・リーベン(BNE003779)が、軽蔑ーみたいに細めた眼で、自分よりだいぶ背の低い小路を見下ろした。 とかいうのを見やりながら『人生博徒』坂東・仁太(BNE002354)は、でもそうぜよ! 働きたくない気持ちは分かるぜよ! とか何か、思いっきり心の中で同意していて、っていうか、むしろここぞって時以外はサボればいいぜよ! 意外と働かんでもイケるぜよ! とか、この後輩に言っておいてあげるべきなんじゃないか、こういう生き方もあるって、そんな先輩面してみるいい機会なんじゃないか、わし! とかテンション上がって、よし、言おうとか思った矢先。 「でも、私、これがアークでの初任務なんですよね……緊張して、上手く皆さんについて行けるかどうか」 と、『戦奏者』ミリィ・トムソン(BNE003772)が先に言葉を発し、 「怖くないか…と、言われたら、嘘になります。それでも皆の為に戦うと決めたこの想いに、嘘はつきたくないから。だから、私は戦います。微力ながら、頑張ります……!」 って、気付いた時にはもう、震える手を握り締めて、心の中で決意を固めましたみたいな感じで、健気かつ真剣な目で見られていた。 これは、言えないな、と仁太は何かもう、負けた気がした。 そこで。 「とかとかやってる間に、皆さん。分岐が見えてきましたよ」 と、前方を歩く桐が、指で通路を指し示し、言った。 皆の足が止まる。桐が、ゆっくりと分岐の方へ、極力足音を潜めながら、近づいた。 耳を突きだすようにして、左右の音を探っている。遠くに聞こえる些細な音さえ漏らさないよう、集音装置を発動し、集中する。 「こちらから、微かに音が聞こえるような気がするのですが」 暫くして彼は、左側の路を指さしながら、言った。「こちらを先に探ってみましょうか?」 「しかし、全員で行く、というのも危険でしょうね」 むしろ、狙いはそれです! みたいに、すかさず、小路が言った。「待機班、というのも作った方がいいでしょう」 「んーじゃあ俺は暗視みてェな器用なまねとか出来ねえしさ。待つ方の班にしとくわ。流石に全部手探りで動くなんてなァ辛いしな」 壁に寄りかかりながら、ユートが言った。 「私も待機しておきますね」 小鳥遊・茉莉(BNE002647)がにこにこ、と頷き、「私も集音装置の能力があるから、万が一敵が反対側から近づいて来たら分かるでしょうし、ここに待機しておくわ」と、レイチェルも頷いた。 「私もここで待機し、連絡を待ちますね」 ミリィが緊張した面持ちで同意する。 「かといって、桐ちゃん一人で行くのも辛いぜよ」 そこで、ふと思った事を口にしてしまったら。 瞬間、桐がじーっと、仁太の方をもう見た。 「では、坂東さんは私と一緒に行くということで」 「え」 「え、とは、え?」 「い、いや。わしは、あれかな。うん、それはちょっと、ええかな」 「ええかな?」 「いやだからほら、アンデッドとか植物とか見た目やばそうやん。あんまり相手しとぅないなぁ~って。グロいし、こう44歳のピュアなおっちゃんにはちょっと刺激が強すぎるっていうか」 ってまだ全然仁太が言い訳喋ってる最中なのに、リオンが、「では、俺も共に行こう」と名乗り出て、何か勝手にそういう事になってしまった空気だった。 「い、いや、ちょっと待って。な、待ってって。いやいや、あれやん、わしはええて。あ! そうか、暗さでせめて見えんように……って暗視持やし、思いっきりはっきり見えてまうやんか! ヤダー!!」 桐に首根っこを引き摺られながら、仁太が絶叫する。 「しー!!!!!」 全員が、口に指を当てて、窘めた。 ● 数分歩いた所で、ぽっかりと開いた空間が見えてきた。 「……いますね」 入口の手前の岩の突起に身を隠し、桐が、呟く。 いつでもリミットオフを発動出来る体制で、そこに見える敵の数を確認する。 E・アンデットが一匹。そして、謎の植物が、二匹。 ちょろちょろ走り回る植物をどったどた、と完全にどっからどう見ても死体にしか見えない物体が、追いかけている。 遊んでいるのかもしれない。 でも、残念な事に全く微笑ましくない。 「そもそも歩けるのに育ててもらう必要はないような?」 「そんな事より応援や、応援や!」 はよせな、はよせな、と、仁太が、AFの眼鏡に手をかける。 瞬間。ゆーっくりと死体が、こっちを向いた。植物も足っていうか、根っ子っていうかを止めて、こっちを向いた。 みーたーなー。 みたいな雰囲気に、仁太は、ぎょえー! と叫び声を上げる。 「うわーこっち見てる見てる、歩く植物とかマジ怖いぜよ! 来んな来んな! ぎょえー!」 リオンがすかさずAFに繋いだヘッドセットに向け、声を上げる。 「敵発見! E・アンデット一匹と、植物二匹だ。我々はこのまま下がる、待機組は向かってきてくれ!」 けれど。 「それが、こちらもちょっと取り込み中で!」 慌てたようなミリィの声が答えた。 「何だって?」 走り出そうとしていた三人は、え、と思わず顔を見合わせる。 その少し前。 「……しかし、なンだな。片方に全員行くのは大きさ的に無理なンだよな。左側が戻って来ても俺達やることねえんじゃねえの?」 壁にもたれたユートが、やっぱ俺行っときゃ良かったみたいに、言う。 それから、本気で荷物を下ろして布団を引き出しそうな気配の小路を見つめ、何とも言えないす、みたいな微妙な表情になった。 「でも、まだ、こちらから敵が現れる、という可能性もなくなったわけではないわ」 レイチェルは、腰に手を当てて、おー来るなら来いやーみたいに仁王立ちして、右側を凝視している。 そして次の瞬間、ん? と眉を潜めた。 「音が聞こえるわ。これは……足音?」 「え」 何だって、みたいにユートは壁から身を起こす。 「近づいてくる」 レイチェルの言葉に、 「まさか……」 ミリィが隣に並び、ごく、と唾を飲み込む。 やがて、通路の奥から、ゆっくりとE・アンデットが姿を現した。 のだけど、敵だ! 戦闘だ! とはあんまりならず、何故ならその登場があんまりにも静かで、むしろ静か過ぎ、しかも、若干、え。何すか、誰すか、みたいにぼーとか見つめられ、三人はすっかり戸惑った。 しかも、そのまま、E・アンデットは、あ、じゃあ失礼しました、みたいにまた洞窟の奥へと引き返して行く。 「え」 「え、ちょ」 「いや、今の確実に、E・アンデットだったよね」 「うん」 その時、AFから、「敵発見! E・アンデット一匹と、植物二匹だ。我々はこのまま下がる、待機組は向かってきてくれ!」というリオンの声が、聞こえた。 「ってことは、あと、二匹残ってるはずよね」 追いかける? みたいに、挑発的な眼差しでレイチェルがユートを見る。 「おう、行くか!」 その間にも、 「それが、こちらもちょっと取り込み中で!」 とか、慌てたような声で、ミリィがAFに答えている。「こちらもアンデットを発見してしまったようなんです! 見たのは、一匹なんですが!」 「そんなわけで、私達は右側に出現した敵を追ってみるから! そちらは、任せたわ!」 「よし、行くぜ!」 ユートとレイチェルが駆けだす。 「では、私が念のため、ここに残ります」 茉莉が、言った。 「はー。リベリスタになればまともに働かず稼げると思ったのになー」 これからしたくするはずだった寝床を見つめ、小路が名残惜しそうに呟いた。 「ではこちらも遠慮なく攻撃を開始していいようですね」 桐が、別班の連絡を聞くや否や、リミットオフを発動した。肉体の制限を外し、生命力をも戦闘力へと変化させるような猛撃を開始する。 「抵抗ならご自由に。こちらも手加減なんてしませんし?」 ぶわ、と振り上げたのは、特徴的な形の剣、まんぼう君。 その勢いのまま、そこにちょろちょろと動いていた植物へと、マンボウを薄くしたような巨大な刃を振り下ろす。有り余る重量が、厚みのある風を起こし、敵を叩き潰す! と思ったら、わずかに身をかわされ、けれどすかさず体制を立て直した桐へ、今度は、ガッとギザギザの歯のような物を付けた葉っぱが、噛みつこうと寄って来た。 「ちょろちょろ面倒臭いですね」 ガチン、とマンボウ君の刃を噛ませ、そのままグイッと力いっぱい押し込んだ。 ぐにゃ、と生ぬるい感触と共に、植物が潰れていく。 とかやってる間にも、残ったもう一匹が、今度は仁太に噛みつこうとしている。 ところへ、ディフェンサードクトリンで戦闘防御力を高めたリオンが、庇い出た。 「っ、危ない!」 「わー! リオンちゃーん!」 「く……俺が……混乱しても弊害はない、はずだ」 かく。と、膝をつく、リオン。 けれど次の瞬間、すく、と立ち上がり、リズムを取るようにメイジスタッフを上下させながら、歌い出す。「われら、レイザータクト、戦術戦闘、司令塔~。我らの力で敵を翻弄、勝利を目指す」 「わー! リオンちゃーん!」 あかんあかんかん! メイジスタッフの使い方間違ってる! って、シューティングスター発動中の仁太が、大慌てで、バウンティショットを発動した。 パンツァーテュランを構えた直後の、凄まじいまでの早撃ちで、植物を撃ち抜く。 ドーンと破裂するように植物は木端微塵になった。 けれど、リオンはまだ、軍歌臭い歌を歌っている。 「危なかったぜよ。わしがあれになっとったら、混乱して味方に全体攻撃8ヒットー! で、マジで戦犯になるとこだったぜよ」 「でもまだ、終わっていませんが?」 マンボウ君片手に横を通り抜けていく桐が呟く。そのまま、残ったE・アンデットへと、ギガクラッシュを発動した。体中のオーラが、雷気へと変換され、激しく放電していく。雷気を帯びた攻撃に、敵が弾き飛ばされ、びりびりと震える。 「せやね。今こそ心を研ぎ澄ませて……いくでっ!」 禍々しい巨銃から、鋭く弾丸が飛び出して行く。敵が破裂し、腐った肉が、辺りに飛び散った。 一方その頃、別班の方もまた、戦いの中にあった。 「闇の衣よ!」 声を上げたレイチェルが、闇纏を発動する。黒装束に包まれた美しい体に、敵の攻撃を無力化する闇のオーラを纏い、グレートソード片手にE・アンデットへと突っ込んで行く。 一方のユートも、表面に星型の意匠が刻まれた、大型の丸盾をがっちり構え、もう一匹の敵へと突進した。 「状況開始。さぁ、戦場を奏でましょう」 ミリィが、自らを叱咤するように呟き、フラッシュバンを発動する。神秘の閃光弾を投擲し、敵をひるませ、二人を援護した。 その隙に、小路が、背後からチェイスカッターを発動。誘導性の真空刃を生じさせ、すっかりショック状態の敵を、高い精度で切り裂いていく。 「さあ、トドメは貰ったわよ!」 レイチェルが、ソウルバーンを発動した。振りかぶったグレードソードに宿る暗黒の魔力は、激しく、禍々しく。 ぐさ、と刃が、腐った肉を潰しながら食い込んで行く。その精神ごと破壊するかのように、切り裂いた。 飛び散る肉片の向こう側では、 「こンなナリだが一応クロスイージスでな」 軽快に言ったユートが、魔落の鉄槌を発動し、大上段から放たれる神聖な力を秘めた一撃で敵を叩き潰している。 「戦闘終了、私達の勝利です。やりましたね!」 タクティクスアイの影響で、驚異的な視野の広さを確保したミリィが、すかさず勝利をアナウンスした。 ● そして。 ばっちーん、と小路の放ったビンタは、リオンの頬に炸裂していた。 「気合ですよ、リオンさん。気合いです。気合いがあればこのビンタで混乱を直して下さい」 合流してリオンが混乱していると知るや否や、小路がリオンにビンタを炸裂させたのだ。 「ちょ、そんな小路っちゃん、無茶な」 仁太は思わず、おろおろする。 「そういえば気合い気合い言われてたもんな……」 ユートが、うわーみたいな目で二人を見ながら、呟いた。 一方、桐、レイチェル、ミリィの三人は、植物の出所を調査している。 「なるほど、この不自然な穴ですね。確かにD・ホールっぽいです。ここから現れたんでしょうかね。あの植物」 洞窟の一部を指さし、桐が言った。 「私はそう見たんだけど」 オジギソウモドキのサンプルを採取したレイチェルが、頷いた。 「では、この穴は塞がないといけませんね」 ミリィが顎を摘みながら言って、「ブレイクゲートをお持ちの方は」と、仲間を振り返る。 「日暮さんですね」 桐が、小路を見た。 「え? いや気のせいじゃあ」 「では、日暮さん、お願いします」 その凛とした無表情に、取りつく島もなく、もちろん働きたくない、とも言えず、小路はすごすごと負けた。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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