●けも耳はお好きですか? 「ビーストハーフこそ正義! 我らの神!! 崇め奉ろう!!!」 怪しげな事を恍惚とした表情で叫ぶのは作り物のけも耳をつけた四人の男性。 「さぁ、世界中のビーストハーフにお越しいただこうじゃないか、われらが宮殿に!」 宮殿……いやいや普通の部屋です。 玉座……じゃなくて牢獄では? 恐らく覚醒したばかりなのであろうビーストハーフたちはなすすべもなくうな垂れるのだった。 ●人に迷惑をかけてはいけません 「ビーストハーフの連続失踪事件が起きるのが見えたわ。 犯人は四人組の男性。 いわゆる猫耳とか犬耳に悶えるタイプね。 ビーストハーフを正義、神だといって攫うのだけれど……実質は監禁よ。 フィクサードだけど一般人より少し強い程度のレベルみたいね。 然るべきところに引き渡すか、説得でやめさせるかは任せるわ。 優先すべきはビーストハーフの保護よ」 応戦してくる男達の武器はナイフや自身の拳。 「捕らわれる可能性があるからビーストハーフの人は気をつけて。 ……わざと捕まるのも、ありかもしれないけれど」 場所は住宅街から少し離れた一軒家。 よっぽど大きな音を出さなければ覗きに来られる心配はないだろう。 「日がな一日ビーストハーフを眺めて過ごしてるから留守にしてることはないと思うけれど……扉には陶然、鍵がかかってるから留意しておいてね」 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:秋月雅哉 | ||||
■難易度:EASY | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年04月29日(日)23:24 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●けも耳は正義!!!! 「ビーストハーフこそ正義! 我らの神!! 崇め奉ろう!!!」 それは一種の新興宗教――しかもカルト的なもの――を想像させる光景だった。 一段高いところに設けられた檻にビーストハーフたちが閉じ込められている。 その檻……正確には檻の中のビーストハーフたちを四人の男がひれ伏して拝んでいる。 異様としかいい様がない光景だ。 「ビーストハーフ様。ビーストハーフ様。あぁ、いとおしいビーストハーフ様! 我らの愛をお受け取りください!!」 そんなきっと誰も愛は多分いらない、欲しくない。 崇め奉るならせめて檻から出して欲しいものである。 ビーストハーフたちは恐らく覚醒したばかりのところを拉致され、訳の分からないままこの四人のフィクサードに連れ去られたのだろう。 猫耳。犬耳。狐耳。狼耳。牛や羊や鹿や豹やライオン、ヤギ。 さまざまなビーストハーフが檻の中で縮こまっている。 「笑ってください、ビーストハーフ様! あぁ、でも嘆きにくれているところもイイっ!!」 ようするにこの人たち変態です。 「何故お泣きになっていらっしゃるのですか、ビーストハーフ様。 あぁ、でも泣いているところもそそる!!」 訂正。重度の変態です。 「我らの誠意が通じないのか……?ではより盛大に崇め奉ろう、みんな!」 それははた迷惑というものです。 あいにく突っ込む人がいない。 「私たちどうなっちゃうの……?」 「誰か助けて……」 涙にくれるビーストハーフたちの本当の願いは届きそうにない。 「そうだ! 新しいビーストハーフの方にお越しいただけば今この場にいらっしゃる方々もお話し相手が増えて嬉しいのではないか!?」 「名案だ! 早速お探ししようではないか!!」 誰かこの四人に『拉致監禁は犯罪です』という常識を思い出させてあげてください。 「けも耳は正義! ビーストハーフは神!! 我らが神を探しに行こう!!! そしてこの宮殿へお連れしよう」 宮殿ではなく一軒家ですが。 神様は檻に入れるものではないのですが。 自分たちがけも耳カチューシャをつけて満足してればまだ可愛いものなのだが……四人ともむさ苦しいので周りから見たら地獄絵図だったかもしれない。 彼らはけも耳を愛するあまりフィクサードになった。 そして拉致監禁は『神をお出迎えする厳粛な儀式。我らは神の代弁者』と妄想を膨らませてしまったのだ。 「ビーストハーフ様方、暫しお待ちを。今新しい神を探してまいります!!」 ビーストハーフたちは新しい犠牲者を思って涙する。 「おぉ、泣くほど喜んでくださるとは!」 「これは気合を入れて探さねば!!」 だがこれは結果的にビーストハーフたちを救うことになるのだと、今はまだこの場のメンバーは知らない。 ●拉致監禁は悪 「拉致監禁とか……絶対に許しては、いけないのですよっ!」 『名乗る名はない』七篠・祢子(BNE003736)は小さな体に怒りのオーラをまとわせてギュッと拳を握る。 「全く、ふざけた事をする者も居たものだ。 好きでこの耳を得た訳ではないのだがな」 『八咫烏』雑賀 龍治(BNE002797)はため息をついて壁にもたれかかる。 「囮役の皆さん……大丈夫でしょうか?」 「立候補が随分多かったからな。……むしろ俺たち突入班が二人しかいないのが気がかりだが」 「……そ、そうですね……」 一軒家の窓にはカーテンが閉められていて中は覗けない。 突入班のメンバーは少し離れた場所で固まっている。 「上手くいきますように……」 「ああ、まためんどくさい依頼が……。 めんどくさいがやるか…めんどくさいが……。 めんどくさいのになんでここに居るかって? そんなの俺が一番聞きたい……」 『日常の中の非日常』杉原・友哉(BNE002761)はしきりとめんどくさいを繰り返す。 「友哉ちゃん、めんどくさがっちゃ、めっ、なの!」 『おかしけいさぽーとじょし!』テテロ ミ-ノ(BNE000011)が友哉を可愛らしく叱る。 「お姉ちゃんを…じゃない人攫いなんて許せない!」 『合法』御厨・九兵衛(BNE001153)はフード付きパーカーとハーフパンツの出で立ち。 外見は十歳くらいの可愛らしい少年だが実年齢が八十二歳という現実を知った人は恐らく何を信じればいいか分からなくなるだろう。 「誘拐から監禁までしちゃうのはいただけないけど、そこまで悪い人達じゃなさそう? 穏便にいきたいかなー」 神代 凪(BNE001401)はおっとり呟く。 「けも耳が魅力的なのは認めるぜ。 俺様も龍治のぴこぴこ動く耳に何度癒されたことか……。 けど本体が居てこそだろ! ただ単に動いているだけの耳を見るより、耳の持ち主が喜んで嬉しそうに動かしてるのを見るのが良いんじゃんか…! 拉致監禁なんて耳の持ち主は幸せになんかならないぞ。 ……俺様があいつらにお仕置きしてやる!」 恋人の耳を思い出したのだろうか、熱く燃えているのは『アルブ・フロアレ』草臥 木蓮(BNE002229)だ。 「好き嫌いの趣味に文句を言う気はないけれど、監禁というのは捨ておくわけにはいかないわね。 正義だ神だというそうだけど、監禁してる自覚はないのか、それとも分かっていて相手に抵抗されにくいよう敢えて崇めるような言動をしてるのか……多分前者でしょうけど」 冷静に四人の男の思考をトレースするのは『エーデルワイス』エルフリーデ・ヴォルフ(BNE002334)だ。 彼女は普段はかないスカートをはき、ポニーテールを下ろしている。 潜入組六人がそれぞれ感想を漏らしたところで扉が開き、二人の男が出てくる。 残り二人はどうやら中に残ったようだ。 各々がさりげなくAFが通信状態になっていることを確認してスタンバイ。 「おぉ、これも神のお導きか……新たなる神が六人もいらっしゃるとは…!」 「我らが宮殿にお越しいただけませんか、神よ!」 早速見つかる囮組。 「なぁ、三食昼寝付き?」 友哉が真っ先に尋ねる。 三食昼寝付きならしばらく捕まっててもいいかもしれない……と彼が本気で思ったかどうかは謎だが。 「勿論でございますとも! さぁさぁ、我々と一緒にお越しください!!」 「何人くらいの神様をお迎えになったんですか?」 凪が興味を持った振りを装って尋ねる。 「現在三十人の神と共に過ごさせて頂いております」 意外と多い、と全員が顔に出さないよう気をつけながら逃がす算段を立てる。 「ついていったらお兄ちゃんたち遊んでくれる……?」 九兵衛が目を潤ませて男二人を見上げた。 どうやらクリティカルヒットだった模様。 しばらく悶絶する男たち。 「御心のままに……」 そうして八人に増えた一行は一軒家にとんぼ返りしたのだった。 「なんだ、随分早かった……うぉう!?」 「神は見つかったのか……のぅあ!?」 誤解のないように言っておくが潜入組が攻撃したわけではない。 単に六人のビーストハーフ(彼らにとっては神)の姿に驚いただけだ。 「さ、祭壇にお連れ致します……っ。此方へどうぞ!」 祭壇とは名ばかりの大きな檻。 こんな騒ぎにも慣れてしまったのか、捕らえられた三十人のビーストハーフたちは泣き伏すばかりで顔を上げる様子もない。 手足は拘束されていないようだが檻の中に閉じ込められた期間の長さがビーストハーフたちから立ち上がる気力を奪っているのだ。 「……この中に……入るんですか?」 気が進まない、と言いたげに後ずさるエルフリーデ。 「とじこめるの……?」 「遊んでくれるって言ったのに……」 泣き出しそうな表情を作るミーノと九兵衛。 「し、正直、鹿の耳ってお前ら的にどうなんだ?」 ふざけんな、と切れそうなのを抑え込んで尋ねる木蓮。 「三食昼寝付きでも檻の中はなぁ……」 他にもっといい場所はないのかと言いたげな友哉。 檻の中に入れられる前に作戦決行。 凪が日常会話を装って尋ねる……振りをした。 男達の手によって檻の鍵が開けられる。 「けも耳、好きですか?」 「「「「大好きです!!!!」」」」 ガチャン!! うっかり者の四人が鍵をかけ忘れたドアが些か乱暴に開かれる。 「な、なんだ!?」 「新たな神……と偽者が!!」 新たな神とは龍治で、偽者とは恐らく作り物の猫耳をつけた祢子の事だろう。 「仲良くしたいんだったら、こんな事をしちゃダメですよっ!」 猫耳のついた帽子を見て同類扱いされるようだったら全力でのお仕置きを考えていたがその心配はなさそうだ。 「これはあくまで私の名前を覚えてもらいやすくする為に被ってるだけで、貴方達みたいな変態とは違いますからねっ!!」 「大丈夫か、木蓮」 「あぁ、今のうちに捕まってる奴らを逃がしてやろう」 「そうだな」 龍治と木蓮が目配せし、友哉が檻を大きく開け放つ。 「ほら、今のうちに逃げとけ……」 「もう大丈夫だよ。いったん外に出て?」 凪が優しく手を引いて立ち上がらせる。 「……ここから出られるの?」 「ミーノなのっ……じつはみんなをおたすけにきたの~」 「本当……?」 「ほんとだよっ。はやくにげて、にげて」 恐る恐る捕らえられていたビーストハーフたちが檻の中から出てくる。 三十人、ちょうど。 「あぁ、お待ちください、我らが神よ!!」 「何故我々を見捨てるのです!?」 「行かないでください!!」 「神よーっ!!!!」 その叫びを恐れ、三十人は弱った足で必死に出口へ向かう。 四人はそれぞれ身動きが取れないよう囲まれていた。 「何てことだ……神が、神がいなくなってしまった」 「我々はこれからどうしたらいいんだ……」 「光が見えない……」 「絶望だ……」 「神と崇めながら実際にしてるのは拉致監禁。絶望したのは捕らえられていたビーストハーフのみんなのほうよ!」 「とじこめたりとかだめだけどあそびたいならミーノがいつでもあそびくるよっ。 それじゃ…だめ?」 「何事にせよ無理強いは駄目だろ。 けど俺だったら捕まって世話してくれるならそれも良かったかもしれない。 なんて…冗談、多分」 「友哉。拉致監禁を許諾するようなことは言うな。紛らわしくなる」 「はいはい」 真面目な龍治の頭を木蓮が撫でる。 「そうそう、これこれ……やっぱりけも耳の良さっていうのはこういうのなんだよ、んむ。 す、好きな奴のだから余計にそう思うんだけどな?」 撫でられて無意識のうちにぴくぴくと心地よさそうに動く耳にご満悦の様子。 「ねぇ、反省してるならアークって組織に来ない? 貴方たちの大好きなビーストハーフもたくさんいるし……今ならまだ、やり直せると思うの」 凪が神を失った四人をアークに誘う。 「我らの神が……?」 「でもかんきんはめっ、なの!」 「ケモノ耳は人類の共有財産だっておばあちゃん言ってた」 「……我らの行為は……間違い、だったのか……」 「神を迎えるって行為が拉致監禁になってることに気づけよ……」 「木蓮」 「分かってる。反省してるのは、分かってるけどな!? 自分たちの都合で連れてきて檻に閉じ込めて崇めてるつもりだってのが許せねぇ」 「アークへの連絡、済んだぞ。ビーストハーフたちも希望する連中は保護するそうだ」 「ありがとう、友哉君。さぁ、行きましょう?」 「悪意がなかったとはいえ一応は更生施設から、だろうな……」 「神よ!! ありがとうございます!!」 「罪を償い、今度は正しい方法で崇めさせて頂きます!!」 「我らが神よ!」 「救世主よ!!」 この四人、根が単純で熱血なだけで本当の悪人ではないらしい……ができれば「神」を崇めるのはこれっきりにして欲しいものである。 「……濃い、ですね」 救出メンバーの中で唯一ビーストハーフでなかったため「偽者」と言われた祢子は疲れたようにため息をつく。 「ちょっと捕まってたビーストハーフの皆さんとお話してきます」 祢子が外に出るとまだ大半のビーストハーフたちが所在なげに家の近くに佇んでいた。 覚醒したばかりで突然世界が変わったところを拉致監禁されて今後どうしたらいいか分からずにいるのだろう。 「もし良かったら、私達と一緒に来ませんか?」 「貴方たちと……?」 ビーストハーフたちはどうしようか、と視線で問いかけあう。 やがて何人かが小さく頷いた。 「どうして自分がこうなったか、知りたいです」 「私も……」 「ボクも……」 「きっと、今後もたくさんの敵(変態)が現れるだろうけど……私は、頑張っていくよっ!」 祢子は若干斜め上を行く決意を力強く語るのだった。 ●アーク本部にて 「神が、神が、神がぁぁぁぁ!!」 「静かにしてください、神じゃなくて未来の仲間です!」 「うぉぉぉぉう!」 「感動だ!!」 「拝礼をぉぉ」 「やめんか!」 「……この人たちが……未来の、仲間……」 更生施設へ行く道すがらビーストハーフを見るたび拝礼しようとするフィクサード四人と。 依頼を完遂するために彼らと捕まっていたビーストハーフの中でアークに興味を示した者たちを連れてきた八人と。 これからの未来に不安を感じるビーストハーフ十数人の姿がアーク本部で話の種になったとかならなかったとか。 主に四人の男のせいでとても、視線が痛かったそうです。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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