●怖い話。 どこにだって、怪談の一つや二つあるだろう。 昔から、或いは最近の話だったりするわけだ……。 そのほとんどは、「友達から聞いた話なんだけど」なんて、語り出しから始まる。怪談の大半は、口伝によって伝わり、広がって、その途中で形を変えてしまうものなのだ。 だから、全国に似たような噂が数多く伝わる。 曰く 「夜、2人一組で町はずれの廃校舎に入ると、誰かに見られている気がしてくる。だけど、自分達を見ている相手の姿は見当たらない。それでも見られているのは分かる。そのまま、2人揃って鏡やガラスに姿を映す。すると、いつのまにか後ろに自分達とまったく同じ姿をした何かが立っていて、殺されてしまう。その自分達の姿をした何物かは、自分達になり変って校舎を出て行く」 なんて、噂。 自分達の存在を、霊に奪われる、とそういう話。 ただの噂話、だったはずなのに……。 「この噂の学校、見つけちゃったんだ。今度行ってみようよ!」 少女は、親友にそう声をかけた。 単なる噂だと、そう思って。 ●怪談についての会談。 「そして少女2人は戻ってこなかったそうよ。ただ、件の廃校舎で少女2名の姿を見たと言う報告は多数。噂の正体は、E・フォース。フェーズは1、または2。E・フォースの存在が先だったのか、それとも噂によって発生したのかは不明だけど。通称(ドッペルゲンガー)と呼ぶことにする」 そう言ったのは、『リンク・カレイド』真白イヴ(nBNE000001)だ。真白い髪を揺らして、集まったリベリスタ達を見回す。 「校舎の外に人がおらず、また同じ階に2名以上の人数がいない場合にドッペルゲンガーは姿を現すみたい。校舎は4階建てで、皆には2人一組に分かれて校舎に入って貰う」 と、校舎の地図をモニターに映す。東西にのびた直線の通路と、各階7つずつある教室。廊下の両端に階段。階段脇にトイレ。4階は特別教室となっている。 「手順は、2人一組で校舎を歩いて、視線を感じたら2人一緒に鏡かガラスを見る。そうすると、あなた達と同じ姿、能力の敵が現れるわ」 ドッペルゲンガーが現れた時点で、その階には結界が張られ出入りが不可能となる、とイヴは続けた。 ただし、と指を一本立てる。 「どこかの階に、少女2人のドッペルゲンガーが現れる。彼女達だけは、こちらの姿を真似ることはない」 少女のドッペルゲンガーを倒せば、元になった少女2人は解放される筈。 「記憶を完全にコピーするまでは、殺されることはないだろうから……。最も、あなたたちは相手にとっても危険な存在だから、その限りではないけれど……」 それじゃあ廃墟を探検してきて、とイヴは言う。 怖いもの見たさでトラブルに巻き込まれるのは、割とよくある話なのだ……。 |
■シナリオの詳細■ | ||||
■ストーリーテラー:病み月 | ||||
■難易度:NORMAL | ■ ノーマルシナリオ 通常タイプ | |||
■参加人数制限: 8人 | ■サポーター参加人数制限: 0人 |
■シナリオ終了日時 2012年05月04日(金)00:10 |
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■メイン参加者 8人■ | |||||
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●廃墟探索 どこにだってある廃墟。 どこにだってある、ちょっと不気味な噂話。 或いは、都市伝説とでも言おうか……。 根も葉もない噂、ガセネタ。 面白半分に行われる、肝試し。 それが、本当に安全だと誰が保証しただろう? それが、嘘だと誰が保証しただろう? これは、そんな話。本当の自分と、偽物の自分が入れ換わる、そういう話。 そして、偽物にとって代わられた少女を助けに行く8人の男女の話。 「学校の怪談!! 義務教育を受けてこなかったあたしには一生無縁だと思っていたが!! 張りきって探検じゃー!」 声を張り上げ、夜の廃校舎に突き進むのは式乃谷・バッドコック・雅(BNE003754)だ。妙にテンションが高く、意気揚々としている。とてもこれから廃校舎に乗り込むとは思えない。 「怖くないのダ。怖くないのダ」 そう自分に言い聞かせる『夢に見る鳥』カイ・ル・リース(BNE002059)が後に続く。インコのような声、しゃべり方、そして顔である。誰かに見られたら、新しい都市伝説にでも鳴ってしまいそうだ。 「拾った噂話が本物だったとは、運のない話ですね。ですが、まだ助けられる命。頑張りましょうか」 廃校舎の床に『蛇巫の血統』三輪 大和(BNE002273)が懐中電灯を向ける。今回の彼女達の仕事は、この廃校舎から出られなくなっている女子2名の救出である。 それから、女子2名を捕らえ、成り代わろうとしているE・フォースの討伐。 人によっては、自分達のコピーと戦う可能性もあるだろう。今回の相手は、そういった能力を持っている敵なのだ。 三輪が懐中電灯で、女子達の足跡を探す。足跡は昇降口を通り真っすぐ2階に向かっている。 「ドッペルゲンガー……。確か、都市伝説だな。出会ってしまうとこちらが死んでしまうと言う話だった。丁度いい、真実かどうか試させて貰おうか」 スーツに付いた埃を払い『糾える縄』禍原 福松(BNE003517)が、目を輝かせる。しかし、自身のスキルを活かし、周囲に警戒を払うことも忘れない。 「ふむ。偽物事件か。偽物など、見る人が見ればすぐそれと分かるだろうに。まぁよい。なれば噂の元を断つまでだ。……ん? 足跡は3階に続いているな」 アルトリア・ロード・バルトロメイ(BNE003425)が、少女達の足跡を発見する。 「敵はこちらの姿と能力をコピーしてくるそうで……。自分と戦う可能性もあるですか。非常に面倒臭そうですね」 はぁ、と重いため息を吐いたのは『絶対鉄壁のへクス』へクス・ピヨン(BNE002689)だ。守備の固さには定評がある。 「都市伝説は、ホラーテイストでなければまだ我慢できるのに……。なのに! 今回は紛れもなく怪談!」 青い顔をしてそうぼやく『蜥蜴の嫁』アナスタシア・カシミィル(BNE000102)の視線が、ふと埃の積もった階段の前で止まる。 「あれ……? 4階に上がる階段には、足跡が残ってないよぅ?」 「と言うことは、少女達はこの階で偽物に襲われた、ということでしょうか?」 『第21話:偽物現る!』宮部・香夏子(BNE003035)が、そう呟いて闇に覆われた廊下の先を見つめる。足跡はまっすぐ廊下に続いている。 「少女達のドッペルゲンガーは、ここに出そうな感じですか? だったら、この階はへクスとアナスタシアの担当ですね」 「うぅ、怪我に対するものとは違う覚悟もしていかなきゃいけないようだねぃ」 アナスタシアの大きなため息が、夜の校舎に零れて、消えた……。 ●遭遇、そして自分との闘い。 「は、はふぁ。怪談が確実に存在している校舎に2人だけで入るだなんて、ふらふらして倒れそう……」 ただでさえタレ気味の目尻をさらに下げ、アナスタシアが恐る恐るといった風に廊下を歩く。 「自分自身とはあまり戦いたくないのが正直な所です。とりあえず、少女たちのドッペルゲンガーを探しましょう」 アナスタシアの横を歩くのは、へクスだ。月明かり以外の光源が無いため、探索はアナスタシアの付けている暗視ゴーグルに頼る形となっている。 少女達がいると思われる3階には、アナスタシアとへクスのペア。 4階には、宮部とアルトリアのペアが向かった。 2階には、式乃谷と三輪。 1階へ降りたのは、禍原とカイだ。 「し、視線とか感じない?」 「んん? 気のせいじゃないですか? へクスは感じないです」 「そっか……。なるべく落ち着かなくちゃ」 非常にゆっくりとしたペースで進む2人。窓から入る月明かりでは明りが足りず、どうしても視界が悪くなる。 その時、2人の耳に「くすくす」という小さな笑い声が届いた。 声のした方に顔を向ける。そこにあったのは、なんの変哲もない教室だった。軽く頷きあって、2人は教室の扉に手をかけ、開く。 「あら、いらっしゃい」 髪の長い少女が静かに笑う。 「ここは中学校だよ? お嬢さんとお姉さんは、何しに来たの?」 キャスケットを被った少女がそう問いかける。 ニヤリと、耳まで裂けるような笑みを浮かべ、少女達はクスクスと笑った。 厚い雲が月を覆い隠し、教室が闇に包まれる。 月が隠れてしまう寸前に、少女が握るナイフに月明かりが反射し、キラリと不気味に輝いた。 同時刻、2階。 準備を整え、窓ガラスを覗きこんだ三輪と式乃谷。先ほどから、絡みつくような視線を感じていたのだ。 2人がガラスを覗く。映っているのは、自分達だけだ。 そう思った。しかし……。 「え!? あ、逃げて!」 突然、三輪が悲鳴に近い叫び声をあげる。その声に反応して、式乃谷が床を転がった。 金の髪が数本、宙を舞う。切断された式乃谷の髪だ。先ほどまで三輪がいた場所には、数発の弾丸が当たる。 廊下に膝立ちになった2人が目にしたのは、にやりと気味の悪い笑みを浮かべる、自分達の姿だった。 ドッペルゲンガー、である。 「先にあたしから狙って!」 頬から一筋、血を流しながら式乃谷が言う。それを受けて、式乃谷の偽物が式乃谷に銃口を向けた。 「先に弱っちいあたしのコピーから排除、ってわけね? 悲しくなるわ」 「うっさい! あたしという人間は天上天下にあたし一人よ! 出来の悪い偽物なんてお呼びじゃねぇっての!」 怒鳴って、式乃谷が銃弾を発射する。と、同時に偽式乃谷も同じ行動。暗い廊下に破裂音が響く。地面を蹴って、偽式乃谷の前に、偽物の三輪が移動した。偽式乃谷を庇うつもりなのだ。 それを防ぐために、本物の三輪が偽三輪に斬りかかる。 「邪魔をしないでもらいたいですね。大丈夫、あなたの代わりは私が務めますので」 「そうはいきません。私という存在をそう簡単に明け渡すわけにはまいりません」 弾丸と弾丸、刃と刃がぶつかって暗い廊下に火花が飛び散った。 「三輪の名は、そんなに軽いモノではないのですから」 三輪と偽三輪が鍔競り合いを始める。能力的には全く同じ存在が斬り結んでいるのだ。力は拮抗し、ジリジリと時間だけが過ぎて行く。 式乃谷と、偽式乃谷はにらみ合ったまま動けない。三輪達の中に割って入れば、今度は自分が狙われるからだ。お互いの銃口がお互いをその場に縫いとめる。 銃口を向けあい、刃を鳴らし……時間だけが過ぎる。 どれくらいの間そうしていただろうか。 パンという渇いた音と僅かな衝撃が彼女達の足元に伝わった。 「芽生える友情! そして愛! みたいなっ!」 渇いた音によって生まれた一瞬の隙をついて、銃声と共に式乃谷が叫ぶ。ほんの僅かな隙をついての射撃。偽三輪も瞬時に反応し、弾を撃ち出した。 先に放たれた式乃谷の銃弾は、偽三輪に向かって宙を駆ける。 偽三輪が、銃弾を避けて後方へ飛ぶ。偽式乃谷の放った弾は、式乃谷の肩を撃ち抜いた。 「感謝します。速攻撃破して、治療していただきましょう!」 対戦相手が後ろへ下がり、自由になった三輪の背後に不吉な紅い月が浮かび上がる。三輪が廊下を駆け、偽式乃谷に接近する。 「あ……。しま……」 偽式乃谷の声が、キンという刃鳴と共に途切れた……。 時刻は少し遡る。 禍原とカイは、廊下を疾走していた。 闇の中、懐中電灯の明かりが上に下にと乱れる。カイの手にした、唯一の光源。時折、光に照らし出されるのは、偽禍原と偽カイの姿だ。 狭い廊下と教室を、4人分の影が動きまわる。牽制として放たれる弾丸は、時折誰かを掠める物の、直撃はしない。飛び散る血と火薬の匂いが、鼻を突く。埃とカビの匂いもだ。この数分で、夜の校舎は激しい戦場と化した。 「ここまでなのダ!」 偽カイを追いかけて教室に飛び込んだ本物のカイの目前に、大上段に武器を構えた偽カイの姿があった。 「ッギャー! フォッペルデター!」 甲高い悲鳴。地面を転がるカイ。カイの後ろから教室に滑り込んできた禍原の銃弾が、偽カイを襲う。偽カイは、素早い動きでそれを避ける。本物同様、反射神経に優れているらしい。 そのせいで、先ほどから戦闘は一進一退を繰り返している。 「最大火力だ!」 偽カイの頭部目がけて、銃弾を撃ち込む。偽カイは、後ろに跳んで距離をとることでそれを避ける。 しかし……。 「コピーの仕方が甘いのダ。我輩のがイケメンなのダ!」 偽カイを、机の上に立って見降ろしながら本物のカイがそう言った。大きく振りかぶったメイジスタッフが偽カイの頭部を叩く。 「う……ギィ!!」 偽カイの口から悲鳴が零れた。 「偽物はとっとと消えるのダ! ……っ!?」 パン、という破裂音。頬が熱い。 そう叫んだカイの頬を、銃弾が掠めていったのだ。 「いいや、消えるのは本物だ」 廊下から銃を向けるのは、偽禍原だ。本物の禍原が、偽物を睨んで銃を向ける。 「本物は一人で十分だ」 「あぁ、今日から本物は俺だけだ」 お互いに銃口を向けたまま、禍原と偽禍原が同時に駆けだす。時折銃弾を撃ち出すものの、走りながらでは当たる筈もない。ただの牽制。或いは、目くらまし、だろうか。 どちらが放ったものだろう。一発の銃弾が、天井に当たり蛍光灯を割った。パンという破裂音が廊下に響く。割れた蛍光灯が降り注ぐ。当たった場所が悪かったのか、天井が揺れた気がした。 禍原と、偽禍原の距離が詰まる。 禍原は、ブレていた銃口を偽禍原に向け……。 そのまま、銃を放り投げて偽禍原に殴りかかる。不意討ちで、一発叩き込もうと考えたのだ。 禍原の拳が、偽禍原の頬に突き刺さる。 と、同時に偽禍原の拳も本物の禍原の頬にめり込んでいた。コピーと本物、全く同じことを考え、行動した結果である。 時が止まったかのような数秒間。殴り合った体勢のまま固まる2人。すぐ傍では、カイと偽カイがメイジスタッフで殴り合っている。 やがて……。 偽禍原の身体が、床に倒れ込んだ。 「陳腐な物言いになるがな、中身がなけりゃダメなんだよ」 血混じりの唾を吐いて、禍原がそう言った。 「さぁ、残るはお前一人なのダ!」 気迫の込められた一撃が床を割る。埃と鼻血に塗れながら、カイは武器を振りあげる。 円らな瞳が、キラリと光った……。 タン、と軽い音をたてて宮部が天井を蹴って飛ぶ。と、一瞬前まで宮部がいた場所に、影でできたカードが突き刺さった。 「偽香夏子が鬱陶しいのですっ……。狙いはドッペルアルトリアさんなのに!」 長い髪と、ちょこんと飛び出たアホ毛をなびかせ、宮部が呻く。アルトリアのサポートに回りたいのに、偽の自分が追いすがってくるせいで、自由に動けないでいるのだ。 一方、アルトリアはと言うと……。 「ふん。わたしの偽物を語るなら、もう少しまともに化けるのだな!」 レイピアを突き出し、偽アルトリアと攻防を繰り広げている。アルトリアのレイピアが、盾に弾かれ火花が散った。キィン、と金属音が鳴り響く。 「寸分違わないさ! わたしとお前はまったく同じだ!」 偽アルトリアが突き出したレイピアを、今度は本物のアルトリアが盾で防ぐ。偽物と本物の立位置が移り代わり、レイピアが交差し、盾がぶつかり合う。 何度もそれを繰り返す。技を使う余裕もなく、ただ全く同じ調子で戦闘が続く。そんなアルトリアの助けに入りたい宮部だが、偽宮部がそれを許可しない。 「考えはお見通しなのです!」 「くっ、流石は香夏子です!」 宮部の身体から気糸が伸びる。偽宮部は、伸びてきた気糸をしゃがんで回避する。と、同時に偽宮部が影のカードを投げつける。 宮部は、屋上に続く階段に飛び込むことでそれを回避した。 「屋上には入れないのです。香夏子たちが戦闘中は、別の階に移動禁止なのです!」 と、偽宮部が本物を追って、階段に飛び込んだ。偽宮部の背後に、紅い月が浮かび上がる。 しかし……。 「ふふ、香夏子今日は超フィーバーしてしまいますよ?」 偽宮部の足元を、本物の宮部が滑り抜けた。宮部の目的は、一時的に偽物の視界から消えることだ。視界から外れたことにより生まれた隙を突いて、偽宮部の追跡を振り切る。すれ違い様に、偽宮部の足に気糸を絡ませた。 「アルトリアさん! こっちです!」 宮部の声に反応して、アルトリアが偽アルトリアを突き飛ばす。偽アルトリア目がけて、宮部の作りだした影のカードが飛んだ。埃臭い空気を切り裂き、アルトリアの背に突き刺さる。 「く、おぉ……!」 「隙が出来たな! 闇夜に朽ち果てろ」 一瞬の隙。アルトリアのレイピアに闇が纏わりつき、渦を巻く。突き出されたレイピアから放たれた闇は、偽アルトリアを包み込み、箱のような形に凝固した。 スケフィントンの娘、と呼ばれる業である。 そして……。 「裏をかかれたのです!」 気糸を解いて、階段から飛び出してきた偽宮部に向かって、再び闇の渦が放たれた。 「集中攻撃! 各個撃破なのです!」 と、同時に紅い月が偽宮部を包み込む。 一瞬、廊下が紅く染まり、そしてすぐに闇に飲まれた。 「他の皆さんは無事でしょうか?」 「香夏子……。まだ、終わっていないよ」 闇から抜けだした偽アルトリアを見ながら、アルトリアがそう呟いた。 ●闇夜に溶けて……。 「くすくすくすくす……」 耳障りな笑い声。人を馬鹿にしたような声。時折闇の中から突き出され、或いは振られる切れ味鋭いカッターナイフ。 「超えて見せてください。ねじ伏せてください。この絶対鉄壁を!」 しかし、その攻撃全てをへクスは両手に持った盾で弾き、時には弾き返す。攻撃の手数は少女達の方が圧倒的に多い。しかし、廊下の真ん中に構えたへクスの絶対鉄壁を超えられず、致命的な攻撃は当てられていなかった。 「とはいえ……。流石にきついですね」 呻くへクス。彼女の背後では、アナスタシアが意識を集中させ、戦意を高めている。遭遇して早々、暗視ゴーグルを叩き落されてしまった為、うかつに攻めることができないでいるのだ。 ふと、少女達の攻撃が止まる。距離をとって、口を開いたのが見えた。 「離れて! アナスタシア!」 「え、う、うん」 廊下を後退するアナスタシア。と、同時に少女達の甲高い叫び声が響き渡る。ノイズ混じりの絶叫。耳を塞ぐ。 「く、うぅ」 へクスが顔をしかめた。見ると、彼女の足から順に、身体が石化を始めている。 「くすくす。お嬢ちゃんはこれで動けない」 「こんどはお姉さんの番だよ?」 そう言って駆けてくる2人の少女。動けないへクスの頭上を飛び越え、アナスタシアに迫る。 カッターがヒュンと音をたて振るわれた。空気を、そしてアナスタシアを斬り裂くためだ。 しかし……。 「え!?」 「いた……なんで?」 斬り裂かれたのは、少女達の腕だった。 「針鼠……。そして」 アナスタシアのスキルによって、少女達の攻撃は弾かれたのだ。驚愕に目を見開く少女達。伸ばされたアナスタシアの腕が、キャスケットの少女の首筋を掴む。 「これだけ近ければ、見えるよぉ」 ブン、とアナスタシアが少女を振り回す。そのまま、力任せに床に叩きつけた。髪の長い少女が、横から飛び込んでキャスケットの少女を助け出す。 逃げ出そうとした、キャスケットの少女だったが……。 「自分と当たらなくて本当によかったと思いますよ」 石化から回復したへクスに捕らえられ、その細い首に噛みつかれた。少女は暫くもがいていたが、やがて力尽き闇に溶けて消える。 「く、よくもっ!」 髪の長い少女が、再びアナスタシアから離れ、口を開けた。石化の能力を持つ絶叫。 「なんどもさせませんよ」 盾を前に突き出し、へクスが少女の口を塞ぐ。その隙に、アナスタシアが少女を掴んだ。 「ごめんねぇ」 アナスタシアの瞳が鋭く輝き、胸が大きく揺れた。少女の身体を持ち上げ、そのまま雪崩のような勢いで床に叩きつける。 「あ……が」 少女が呻き……、そして霧のように霞んで消えた。 「はふぅ……。これで終わりぃ?」 「ですね。お疲れ様でした」 後は、とへクスが呟く。 彼女の視線の先にあるのは、中途半端に開いたロッカー。少女の足が覗いている。 「家まで送り届けるのダ!」 いつのまにか上がって来ていたカイが、そう言って少女の元へ向かう。 少女が目を覚ましたら適当に誤魔化さないと、式乃谷が呟き、ため息を吐いた。 これは、噂話から始まった、危険な肝試しの話。 都市伝説を、都市伝説のままで終わらせるために戦った8人の話。 そして、無事家に帰ることができた、少女達の話。 「インコのような顔をした男が現れる」なんて、噂が流れ始めるのは、また別の話。 |
■シナリオ結果■ | |||
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■あとがき■ | |||
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